ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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歓楽街での一大決戦
33 新生ヘスティア・ファミリア


 『戦争遊戯』が終わって数週間。

 ゴブニュ・ファミリアと明達の協力でヘスティア・ファミリアの本拠の上層部、教会部分が完成した。ただ修復するだけではなく、周りの土地も少しだけ買い取って大きくした。ファミリアの人員が増えたからだ。

 個人の部屋をいくつかと、ヴェルフ用の炉を足して拡張。地下部分は拡張できなかったが周りでも一等大きな教会に生まれ変わっていた。

 

 更に、『戦争遊戯』の結果を見てファミリアへの入団希望者も訪れた。その人数は若干数だが、入団希望者には面接をした上で入団させるかどうかを判断することにした。

 これを言い出したのはリリルカだ。

 

「探索系であると伝えること、ヘスティア様の勧誘を一度も断っていないこと、ベルと戦ってもらうこと。これを最低条件でふるいに掛けましょう」

 

「僕が戦う理由は?」

 

「寄生目的……つまり甘い汁だけを吸おうという相手を判別するためです。ちょっと前まで零細ファミリアで、いきなり大人数を養えるわけではありません。それに働かない人間も抱え込んだらすぐ破産します」

 

「なるほど」

 

 というわけで寄生目的、または本気で考えていなかった者を除いた結果。

 残ったのはたったの二人だった。

 

「え、えっと。よろしくお願いします……」

 

「ウチらだけ、か」

 

「ようこそ!カサンドラくん、ダフネくん!」

 

 元アポロン・ファミリアの二人、カサンドラとダフネの二人だった。アポロンから自由になったとはいえアポロンが天界に送還されて神の恩恵を失い、途方に暮れていたところだった。

 そしてアポロン・ファミリアの名声は地に落ちており、被害者達であっても新しいファミリアを探すことも一苦労だった。

 そんな折、カサンドラがヘスティア・ファミリアを紹介して入団試験を受けにきたという経緯だ。自分達のファミリアを壊滅させた相手へ入団しようと考えるのはこの二人くらいで他に受けにきた者はいなかった。

 

「男女比が、アレだなベル……」

 

「そうだね……。ちょっと肩身が狭いよ」

 

 女性が一気に二人増えて、ただでさえ女性に人数が寄っていたファミリアが更に女性だらけになってしまった。男子がベルとヴェルフだけは寂しいものがある。

 他に受けてきた男もいるのだが、命やヘスティア狙いの下種な下心満載の者や、冷やかしでやりたいようなことがないような男、ヴェルフの魔剣目当てだったりどこから漏れたのかヘスティア・ファミリアに入ればタマモノマエ・ファミリアの商品を好きなだけ使えるという噂を本気で信じてやってきた者もいた。

 

 そういうのを除去していった結果、残ったのは二人だけになったのだ。

 二人なんて恩恵をなくした状態なのにベルと刃を交えさせたので、その心意気も含めて合格となった。

 

 ここ以外に入れそうなファミリアがないという退っ引きならない事情も含めた真剣さも合わさって気迫が凄かったとは、ベル談。

 カサンドラとダフネには早速恩恵を与えて、パーティーをやろうとしたらヘスティアだけがげっそりした顔でホームの大広間に戻ってきた。

 

「どうかしたんですか?神様」

 

「……また、なんだよ。タマモが言ってたことも、あながち冗談だって切り捨てられなくなってきたなぁ」

 

「と、いうと?」

 

「『改宗』ついでに二人とも、ランクアップ。二人は今から晴れてレベル三だ」

 

「なんと!おめでたいことが増えましたね!私も腕に寄りをかけて張り切った甲斐があるというもの!ささ。極東の料理をお召し上がりください」

 

 命は純粋に二人のことを褒めるが、他のベルに関わってきた期間が長い者からすればヘスティアと同じ感想のまたか、という感じだった。

 恩恵と神格の関係性という話も、信憑性が出てくるというもの。

 それはつまり、ヘスティアの神格もかなりのものだという証左にもなる。

 

 全員が大きな長机とセットの椅子に座り始めて、ヘスティアだけが机の上の料理にぶつからないように身体を机へ投げ出してぐでーとしていた。

 ファミリア結成から二ヶ月半ほど。ヘスティアのランクアップの儀式の回数もワールドレコードとなっていた。

 

「なんでだよぉ。アポロンだってボクとそんなに変わらない神格だろぉ……?アポロンから引き取ってすぐランクアップとか、もう言い訳の残弾は残ってないぞ……?」

 

「神アポロンもオリュンポス十二神の一柱ですよね?言われてみればそこまで差はないような……。神デメテルは農業を中心とした生産系ファミリアなので第一級冒険者がいなくても不思議はありませんが」

 

「アポロンってゼウスの息子だぜ?姉のボクとどう違うんだよ……」

 

 ヘスティアの呟きに、リリルカが考察を交えて頷く。ヘスティアは自分とアポロンの関係性を含めて、不思議が増える一方だ。

 

「あー。ウチらってファミリアの中で少ない女性だったから浮いていたというか……。アポロン様ってどちらかと言うと団長やヒュアキントスのような見目麗しい男の方が好きだったから、ステータスの更新もあまりしてもらえなくて」

 

「そ、そうです。私は年単位で更新していただいてなかったので……。リリルカちゃんと同じ経緯だと思います」

 

「えー?君達アポロンのファミリアじゃ中核だったはずだろ?『戦争遊戯』前に更新しないとか舐めすぎじゃない?ボクなんてたった四人しかいないけど、全員更新して挑ませたのに」

 

 ダフネとカサンドラの説明を受けて、アポロンがバカだっただけだと知る。

 もし二人がランクアップしていたら最後の最後で苦戦していたかもしれないと考えると、あの時だけで考えると助かったことになる。

 

 リリルカ一人で二人を抑えられず、ベルの元へ辿り着かせてしまっていたら、最後の一騎討ちはどうなっていたことか。

 話はそれまでに、今は歓迎会をすることにした。作った物だったり買った物だったり貰った物だったりで豪華な食事を楽しむ新生ヘスティア・ファミリア。

 歓迎会が終わった後には、明日の予定を全員で話し合っていた。

 

「折角人も増えたんだから、改めての確認も含めて皆でダンジョンに潜りたい。中層にひとまず行きませんか?」

 

「あ、ワリ。オレパス」

 

「ええええ⁉︎ヴェルフが来てくれなかったら男子が僕一人になっちゃう!」

 

「いやでもよ。新入りの分も含めて武具作りたいんだ。ぶっちゃけベルはトラブルメーカーだし、全員の安全性を考えると早速取り掛かった方が良いと思うぜ?時間もかかるし」

 

「うぐぅ。何も言い返せない……」

 

 ベルがダンジョンに潜りたいと提案して、即座に親友の裏切りに遭った。

 しかも断られた理由が真っ当すぎて断られたことにも納得がいった。

 ベルがトラブルメイカーなのは誰もが納得するところなので、安全性を優先するヴェルフの言い分は最もだった。

 

「全員分って。言っちゃなんだけど、そんなにこのファミリアに蓄えあるの?アポロン・ファミリアから貰ったお金なんて本拠の建て直しに使われちゃっただろうし、零細ファミリアだったんだからそこまでダンジョンに潜ってないわよね……?」

 

「ああ、素材ならオレ宛の冒険者依頼のおかげでわんさかある。現状できる最上級の物を用意してやるよ」

 

 そういうわけでヴェルフが全員の寸法と使いたい武器の特徴を聞き出す。カサンドラの杖だけは鍛治師のヴェルフには専門外だったが、なんと玉藻の前から餞別で新しい杖を貰ったとのことだったので必要なくなった。

 その杖はヒーラーであれば喉から手が出るほど欲しいと思わされる逸品で、ヴェルフでも値段がつけられないと断言する程の物だった。

 

 ヴェルフを除いたベル達は次の日、取り決め通り中層に行った。ベル達は十三階層から先はただ駆け抜けただけだったのでこの日は改めて十三階層を隈なく探索することにした。

 ゆっくり時間をかけたことで全員ができることの把握はできていた。

 

 そして二人の【幸運】持ちがいたことからドロップアイテムや良質の魔石がゴロゴロと入手。あまりの効率に【幸運】のことを知らなかった命、カサンドラ、ダフネは目を丸くしていた。

 

 なお【幸運】は効果が重複、倍増するようでこの日が一番の稼いだ日となった。

 ヘスティアは喜んでミアハの所へ行って胃薬をはじめとした常備薬を買い込んだ。

 あまりのヘスティアの居たたまれなさから、儲けが出ながらも哀愁を感じていたミアハ唯一の眷属のナァーザだった。

 

 

 オラリオの外壁で。本来ならガネーシャ・ファミリアによる検問を受けて通らなければならない場所を避けてオラリオに入ろうとする神がいた。

 神も神の眷属も、本来であれば滅多に外に出られない。どちらもギルドが厳しく管理をしているために自由に出られる存在はほぼいなかった。

 

 だがそんなこと、この神ヘルメスには関係のないこと。自分専用の抜け道を通って抜け出していたオラリオへ帰還していた。この抜け道はヘルメスしか知らないものだった。眷属にも教えていない、本当の秘密の抜け道。

 そのはず、だったのに。

 

「ヘルメス。良い月夜ですね。満月も近いようで」

 

 目の前にいた玉藻の前と明。この二人の千里眼なら仕方ないかと諦める──わけにはいかなかった。

 この二人にはバレて欲しくなかった物が、胸の中にあるからだ。

 

「た、玉藻……。デートかい?」

 

「今回は、いいえです。あなたを待っていました」

 

「お、オレを?」

 

「あなたが持っている()()()、渡してください」

 

 バレている。星見の規格外さに、ヘルメスは肩をがっくりと落とした。

 殺生石。玉藻の前と同じ種族と思われる狐人(ルナール)の魂が封じ込められた禁忌のアイテムだ。これを砕くことで欠片を持っている者は全員妖術を使うことができるとされるが、砕いた場合魂の元となった狐人は廃人になるか赤子同然になるという外道としか言えない魔道具。

 

 最もこのアイテムは月光が届かないと使うことができないので、ダンジョンでは使用できずオラリオに入ってこない物だが、ヘルメスなら入手できる。

 原料が原料なので、玉藻の前だけにはバレるわけにはいかなかったが。星見の前には無力だった。

 

「……いいや、これを渡すわけにはいかない」

 

「十八階層での貸し一つ」

 

「あの時から、ここまで読んでいたのか!?」

 

「たった数ヶ月なんて簡単に視られます。下界を憂いているのはわかりますけど、そのまま暗躍していてはエレボスの二の舞ですよ?あなたは誤解されたまま、英雄の大一番を眺められなくなる」

 

 星見である玉藻の前の言葉は、ある種の未来への示唆。未来視という力がどういうものかわかっていないヘルメスからすれば断定された未来だと思ってしまう。

 本当に確定されているのであれば、玉藻の前は直接動かなくても良いという事実に気が付けば、可能性の高い未来でしかないとわかるものだが。

 

 明と玉藻の前のタチの悪いところは、この星見の力を調停のための交渉のカードにブラフとしても平然と使うことだ。

 伊達に数度、虚偽の情報で日本を守ったわけではなかった。

 

「今回の分は譲ってもらいますけど、次からは殺生石を市場の価格よりも割高で買い取りますよ。こういう力に飲み込まれる境遇はわたし達の親友を彷彿とさせますし、殺生石って名前、嫌いなんです」

 

「ベル君への試練なら、そんな物必要ないですよ。神ヘルメス。そんな悲劇があるかもと匂わせるだけで彼は動いてくれます。彼はまさしく英雄の器だ。娼婦だなんてことは関係なく助けようとするでしょう」

 

「……ちなみに断ったら?」

 

「誰かにやられる前に、わたしが燃やしちゃうかも?」

 

「すみませんでした。その契約、受けさせていただきます」

 

 ヘルメスは天界に送還されるわけにはいかなかったので即座に掌を返して頭を下げた。自分の趣味もそうだが、オラリオの外を調べる旅の神として、黒龍以外にもオラリオに与えかねない危険を調べる者が居なくなってしまう。

 タマモノマエ・ファミリアでもできるのだろうが、千里眼や未来視を信じない層は絶対にいる。それに彼らは商業系ファミリアなので実際に外へ足を運ぶというのはあまりできないことだ。

 

 それを考えると、ヘルメスという自由な立場が居なくなるのはオラリオにとっても害になる。それがわからない者に排除されかねないと、玉藻の前は告げた。

 あと殺生石関係については、玉藻の前も自重しないで実力行使をするとも。それだけ嫌悪する物だと言葉が示していた。

 

「ヘルメスもイシュタルとの契約もあるでしょうから、わたしの魔力というか霊気(れいき)を込めたただの石を渡しておきますね。狐人のことを詳しくないイシュタルならある程度誤魔化せると思います」

 

「アフターフォローまで完璧とか、契約相手がバレてるとか、星見って理不尽だ……。これがエレボスの言ってた、敵に回すなってことか……」

 

「いや、神ヘルメス。神エレボスはそんなつもりで言ったんじゃないと思う」

 

 物々交換を済ませたヘルメスは、どこぞのツインテールボクっ子ロリ巨乳女神のように胃を摩り始めた。

 今回の一件でこの星見達に自分が見張られていると思って、密会など意味をなさなくなってしまったからだ。

 

「……良い案だと思ったんだけどなあ。闇派閥と繋がっているイシュタルを、目の敵にしているフレイヤ様にぶつける。ただそれだけじゃきっとあの方はぶつからないからイシュタルにでも魅了させようと思ったのに。イシュタル側も、フレイヤ・ファミリアのトップ二がランクアップしたせいで切り札でもないと攻め込まないと思って殺生石を用意したのに……」

 

「本当にあなたは神だな。俺としては尊敬しますよ。悪人を裁くために無関係の者も巻き込む。英雄譚を知らしめるためとはいえ、それほど大きな事態を解決してみせないとダンジョンに潜らない住民には認知されない……。調停者(俺達)とは思考が違う」

 

「オレだってなるべく被害は出したくないよ。けどベル君とフレイヤ・ファミリアなら被害を少なくできる」

 

 道満も昔はヒール役として無関係な人を巻き込んだりした。一千年放置もしたりした。だがそれは世界を誰もが理解していなかったから。

 オラリオとダンジョン、そして冒険者の三大クエストも闇派閥も、どれもを住民は知っている。そして三大クエストの達成とダンジョン踏破を目的とするならば暗躍などする必要はない。

 

 今や、エレボスのおかげで土台はできている。滅ぼされるだけの状態だった七年前のように発破をかけなければ終わってしまうという状況なら強引な手段も容認できたが、ただの権力闘争のために住民が巻き込まれるとなれば明達も眉を顰める。

 そういう話だ。

 

「じゃあヘルメス。イシュタルはエニュオが残した『穢れた精霊』を七体所有していますよ。それと眷属のランクアップ・ブースト。それによってフレイヤちゃんとバベルを潰すつもりです。殺生石なんて『穢れた精霊』に比べたら微々たるものですよ。ただ眷属がフレイヤちゃんの眷属を倒したという証拠が欲しいための悪あがき。殺生石なんてなくても大惨事になりますよ?」

 

「……そんなものが残っていて、オラリオに放つつもりなのか。フレイヤ・ファミリアとはいえ七体はマズイんじゃ……?確か一体だけでもロキ・ファミリアの大戦力がダンジョンで苦戦したって聞いたが……」

 

「俺達も出ます。俺達が三体。フレイヤ・ファミリアが三体。ベル君達とヘルメス・ファミリアで一体。それでどうです?歓楽街ならガネーシャ・ファミリアも警邏をしているでしょうし」

 

 この二神で動かせる最大戦力。ガネーシャ・ファミリアは巻き込むことになるが、これが今できる最大限だった。

 イシュタルがフレイヤに敵意を持っているのは周知の事実だとしても、それでオラリオを滅ぼそうとしたり闇派閥と繋がっていることまでは認識できないだろう。

 

 そしてヘルメスが事を他のファミリアやギルドに伝えようと、イシュタルに察知されたら計画が変更されて好き勝手に『穢れた精霊』を解き放ちかねない。ならばヘルメスにはこのまま殺生石を持ってきただけの存在だと認識させておいた方が良い。

 そして秘密裏に準備を整える。これが一番被害を減らせる方法だ。

 

 ヘルメスだってオラリオを滅ぼしたいと思っているわけではない。ただベルを巻き込むにはそういう手段も考えなくてはならないだけで。

 

「君達の規格外さには慣れてきたけど、三体も受け持って大丈夫なのかい?」

 

「吟や金蘭からダンジョンで遭遇した個体の強さは共有しています。三体ならどうにかできます」

 

「フレイヤちゃんにはイシュタルが何かやらかしそうって言っておけば動いてくれるから大丈夫ですよ」

 

「あとはベル君を巻き込む理由か……」

 

「例のランクアップさせる魔法を使う春姫さん。彼女は最近ヘスティア・ファミリアに入った命さんの幼馴染のようです。それも春姫さんを探しているようで。元々予定していた悲劇も伝えればもう十分な理由でしょう」

 

 ここまで理由が出揃えば実行に移すのは問題がなさそうだった。

 ヘルメスは今度ベルに三大クエストのことを話すという理由でベルを酒の席へ呼び出し、ついでに春姫の事情を噂で聞いたとして伝えて、そのまま歓楽街を捜索させることにした。

 

 玉藻の前はフレイヤに一連の情報を伝えて、眷属にも強敵が現れると伝えて吟達との訓練に充てさせた。

 歓楽街を中心とした騒動が、すぐそこに迫っていた。

 

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