ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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今回も短いです。


35 密約

 ベルとヘスティアがヘルメスの紹介状を持ってバベルの最上階に行くと、簡単に中へ通された。ヘルメスが凄いのか、相手がベルだったからか。全くわからない(絶対後者だ)

 ベルとヘスティアが通されたのは大きな広間。そこの最上段にフレイヤが座り、隣にはオッタルが控えていた。

 

「悪いね、フレイヤ。急に時間をとってもらって」

 

「いいのよ、ヘスティア。私とあなたの仲じゃない。それに私の派閥にも関係する話だとか。話して?ベル」

 

「はい。女神様」

 

 ベルは昨日聞いたことを全て洗いざらい話した。フレイヤはその内容を頷きながら聞いて、隣にいたオッタルに指示を出す。

 

「オッタル。今日から訓練は調整に入りなさい。四日後の夜に万全になるように。それとイシュタルのところはここ最近特にキナ臭いわ。バベルは最低限の防衛部隊を残して全戦力を運用できるように準備を」

 

「畏まりました」

 

「アイテム類の補充もしっかりね。イシュタルに勘付かれてもいいわ。……いえ、いつも通りの補充としか思われないかしら?」

 

「なんならギルドに遠征だと申告しておきましょうか?」

 

「あら、それはいいわね。イシュタルの騒動のせいで中止にしたとすればギルドも強く言えないでしょうし。あなた達がランクアップしてどこまで潜れるようになったか調べようとしていた、とでもしておけばギルドも納得するでしょう」

 

 フレイヤ・ファミリアはそういう方針で準備をするようだ。今や唯一の都市最大派閥となった彼女達がここまで警戒することにヘスティアは疑問を感じていた。イシュタルは強いとはいえ、都市最大派閥には敵わない。

 最大レベルの差がありすぎる。

 そしてこちらとしては何かの儀式で犠牲になりそうな春姫を救うつもりなので、予想外の出来事が起こる前になんとかするつもりだ。逆転の一手を潰すので想定外は起こり得ないはず。

 

 それにしては警戒をしすぎではないかと思ってしまう。

 イシュタルが警戒する理由はすでに玉藻の前から『穢れた精霊』について伺っているため。しかもその内の三体を任されるとなれば準備も万端にする。

 たった一体に都市最大派閥だったロキ・ファミリアが壊滅されかけたのだ。いくらオッタル達がランクアップしたからといって、慢心はできない。

 ヘスティアはフレイヤと玉藻の前の密約がわからないため、疑問は解消されない。

 

「ヘスティア。他に手伝ってくれる相手は?」

 

「ヘルメスとタマモくらいかな。ガネーシャのところは巻き込むかもね」

 

「あら、タマモがいるのね。なら百人力じゃない。……ベル、質問させて。あなたは娼婦を助けると言ったわね。それはどうして?娼婦は破滅の象徴よ?」

 

 協力者の確認をした後、フレイヤはベルへ確認する。

 破滅の道へ進むと知って、それでも進むのは何故か。

 彼が『道化』の魂を継いでいるからか。それとも──。

 

「あの人は、ただの女性です。娼婦ではなく、ただ物語が好きで、話が好きで、お酒に弱い……。『アリアドネ』に似た、権力者の思惑に囚われた女の子です」

 

「あら?そこで『アリアドネ』を例えに出しちゃうの?あなたにとってはあの小人族の子だと思っていたけど」

 

「そっ⁉︎それはそうなんですけど!境遇とかが春姫さんが似ているなと思って!」

 

「……やっぱりあなたは『アリアドネ』が生贄だったと知っているのね。祖父の英才教育の賜物かしら」

 

 ベルとフレイヤだけがわかる話をする。『アルゴノォト』の原典において、姫アリアドネは王によって攫われて閉じ込められるのであって、童話のように牛人に攫われるわけではない。

 権力者に囚われたということを知っているのは原典を知っているからこそだ。フレイヤも原典を知っているが、だからってフレイヤがベルの祖父について知っていそうな言葉をかけたことがベルは気になった。

 

「祖父を知っているんですか?」

 

「ええ。あなたのお爺さんには私も告白されたもの。断ったけど」

 

「あはは……。お爺ちゃんったら……」

 

 フレイヤが知っている理由がよくわかる説明だ。

 ヘスティアは下界に来たのが最近だからわからないのだろうと思っていたが、この辺りはフレイヤが気を利かせてゼウスの正体を隠していた。

 

「でも、そう。『アリアドネ』にそっくりなら、助けないとね。いいわ。全面的に協力してあげる。ヘスティア、あなた達の全戦力は?」

 

「えーっと。レベル三が四人。レベル二が二人だよ」

 

「ベルは、まだランクアップしない?」

 

「ま、まだです……。一応、この前ランクアップしたばかりですが」

 

「あなたならそろそろできると思っていたけれど。偉業が足りないのかしら?オッタル、一つ指南してみる?」

 

「それが命令とあらば」

 

「い、いえ!都市最強の指南なんて恐れ多くて!大丈夫です!」

 

 フレイヤの唐突な提案にベルは首を横に振って断る。

 都市唯一のレベル八に指導を賜るなんて、ベルには荷が重すぎた。

 オッタルやフレイヤからすれば、吟に指導を受けている時点で何を今更、なのだが。真実を知らない人間からするとオッタルが相手になる方が恐れ多いという。

 それが表向きの当たり前。

 

「じゃあ良いけど。他に準備することはあるかしら?」

 

「……春姫君の救出手立て、かな」

 

「それはこちらの管轄外よ。私達が動くと目立ってバレるでしょう?そういう救出についてはあなた達やヘルメスに任せるわ。あくまで私達は戦力担当。タマモとかの方が適任かしら?」

 

「その辺りは君以外と話し合って決めるよ。歓楽街のことは気にしても、直接潜入はあっちが動かないとできないだろう?」

 

「ええ。動く理由がないと私達は動けないわ」

 

 というわけでフレイヤとの面談は終わり。

 協力は結び付けられたので結果としては良好だろう。たとえそれが既定路線だとしても。

 ヘルメスが『星見の館』に収集をかけて、春姫救出作戦について詰めている頃、命から話を聞いたタケミカヅチ・ファミリアも参加することとなる。

 

 救出方法は至って簡単。

 儀式のために運び出されるところを狙って助けるだけ。上空からはヘルメス・ファミリアが。地上をタケミカヅチ・ファミリアが。助ける本命としてヘスティア・ファミリアが動くこととなる。

 

 儀式の終了と同時にフレイヤ・ファミリアへ攻め入るとのことだったので、主戦力は儀式の場にいないだろうというのがヘルメスの考え。

 タマモノマエ・ファミリアはゴンと瑠姫を救出部隊に入れて、後は何かあった時の予備戦力とすることとした。強力な戦力が予備戦力に回ることにヘスティアは異論を挟もうと思ったが、ヘルメスが快諾したことで誰も口を挟めなくなる。

 

 この場で戦力として眷属が優秀なのは、タマモノマエ・ファミリアの次はヘルメス・ファミリアだ。そのヘルメスがレベル四が二人いるなら大丈夫と太鼓判を押したので他の意見は封殺される。

 情報蒐集はヘルメスと玉藻の前、両ファミリアが担当。他の者は隠密行動に慣れていなくてバレるだろうからと明が却下した。

 

 事実前日までには儀式を行う場所と時間。完璧な見取り図と配置情報なども全て入手していて、やろうと張り切っていたタケミカヅチ・ファミリアが降参した。

 儀式の警護にいるのは多くがレベル三といえども、結局はレベル三でしかない。四以上の主戦力は全員バベルへ攻め込むための前線に配置されていた。

 

 この戦力の少なさは、『穢れた精霊』が一体儀式会場の側に控えているからこそだった。

 その情報を得ていても、自分のファミリアの眷属以外には伝えない玉藻の前とヘルメス。これこそがフレイヤを協力に結び付けた神の試練であるために。

 そして──満月の夜が来た。

 

 

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