ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
ベル達は儀式を行う当日。夜になる前に分散して歓楽街を訪れていた。男女一緒に入ったら余計怪しまれるだろうという提案を受けて男同士や女性同士でいくつかのグループに別れて潜入。
ヘルメス・ファミリアは独自のルートで個別に。タケミカヅチ・ファミリアもヘスティア・ファミリアも適度にバラけて侵入していた。
全員の連絡手段は玉藻の前が用意した簡易式神だった。全員一つずつ渡されているので迷子になっても合流できる上に、玉藻の前の千里眼もあって慣れない土地での行動もスムーズに行えていた。
『儀式場を見付けたのニャ。やっぱり奴らの本拠である宮殿の別館、そこの空中庭園が儀式の行われる場所。ゴンが潜入して見付けた資料によると、午後八時に決行予定ニャ』
『こっちでも錯乱はしてやる。主戦力はベル達が、救出は桜花達がやれ。アスフィ達は適宜両派閥の援護。できるな?』
瑠姫とゴンの簡易式神を通した連絡に全員が声に出すことなく了承の意思を乗せて頷く。その様子は簡易式神を通して全員に伝えられた。
決行は日が落ちた六時ジャスト。本拠である宮殿の見張りだったアマゾネスをベルとリリルカが一気に肉薄して奇襲。即座に気絶させて中に入り込んだ。
「私達が本拠で陽動を仕掛けます!ヘスティア・タケミカヅチ・ファミリアは別館へ!」
「お願いします!」
アスフィ率いるヘルメス・ファミリアが本拠である宮殿内で大立ち回りを始める。ゴンも本来の姿である巨大な姿を見せて、好き勝手に暴れ始めた。宮殿を燃やさないように狐火は使わなかったが、陰陽術で火以外の術式は満遍なく使って暴れ始める。
その間に玉藻の前のナビゲートで別館へ入り込んでいったベル達。儀式と同時にフレイヤへ攻め入ろうと考えていたからか、本拠には最低限の見張りしかいなかった。
「な、なんダァ!?この巨大な狐!モンスターか!?」
「だから闇派閥と関わるのは嫌だったのにぃ!」
「これ、聞いてた『穢れた精霊』って奴なんじゃ!?もしそうなら敵いっこない!」
「きゃあああああああ!?」
突然ゴンに襲撃されたイシュタル・ファミリアの構成員は阿鼻叫喚の只中にいた。主戦力は襲撃部隊に組み込まれているので残っている団員はフレイヤ・ファミリアに殴り込みをかけてもすぐに溶ける、肉壁にもならないと判断された者達。
レベルにすれば大体二程度。それでは推定レベル四のゴンとアスフィ達を止められるわけがない。
ゴン達への対処によっぽどの人員が割かれたのか、ベル達はあっさりと別館に辿り着き、屋上である空中庭園までさっさと駆け上がれた。道中には何人かの戦闘娼婦もいたが、少数だったのでベル達が強行突破。
儀式の準備をしているイシュタルと春姫、そして何人かの戦闘娼婦の姿を視認した。
「あちこちで騒がしいと思ったらネズミに入り込まれるなんてねえ。でもベル・クラネルが来たのは幸運だ。なにせアレはフレイヤのお気に入りみたいだからねぇ……。お前達、全て蹴散らしなさい!」
「はいっ!」
ベルは相手の女神に自分のことを知られていたことに驚いたが、それでも春姫を救うということに変わりはない。
ベル達ヘスティア・ファミリアが正面切って戦闘娼婦達と戦闘を開始した。
だが、残念ながらここに戦力という戦力はいなかった。
もしベルが来ると事前にわかっていたならば、イシュタルとてレベル三のアイシャくらいは残しておいたかもしれない。彼女ではなくても、レベル三を数人か、レベル四でも手元に置いていただろう。
そうしなかったのはこの儀式の存在が筒抜になっていると知らなかったから。
殺生石を渡してきたヘルメスも中身を見ずに運搬するという仕事を全うしただけなのでそのまま魅了したり食べることなくそのまま返したし、フレイヤ・ファミリアも大きな動きはなかった。
それにこの本拠を調べていたり、侵入した他派閥の眷属もいなかったのだ。通常通りの警戒しかしてこなかったために今回の襲撃は後手に回っていた。
イシュタルは表面上は平静を保っているが、内心ではどこから自分達の動きが漏れたのかと内心ブチギレていた。
そして、心当たりがあるのは胡散臭い中立を名乗る神だけ。
ヘルメスへの八つ当たりが心を占めていた。
もっとも、ヘルメスの眷属が本拠を攻め込んでいるのでその怒りは間違ったものでもない。
イシュタルが動揺と怒りで我を忘れている頃、タケミカヅチ・ファミリアの面々はあるゴーグルを全員着けていた。これはアスフィの自信作である、神を見ないための暗視ゴーグルのような物。
神々の顔の部分だけを不鮮明にする、画期的な物だ。アスフィがヘルメスの顔を見たくなかった時期に作った物を量産した物。ヘルメス本神は「不遜だッ!?」と怒っていたが、それが今回役に立つのである。
美の女神の魅了対策。
ようは女神の顔を見ずに、視線を合わせなくなれば魅了されないだろうという発想だ。
ベル達が護衛を全部引き離した頃、桜花達はイシュタルと春姫しかいない儀式場へ突っ込んだ。
「下界の子供はバカばかりか!?美の女神の魅了というのを教えてやる!」
イシュタルはメソポタミアの神として。そして圧倒的な神格として近付く者全てを魅了させてやろうと力を発露させる。
それが、下界に降りてきた神々の限界。
「神々は自分の力を絶対と思っています。特に美の女神はその辺りが顕著です。頼れる者が自分しかいないと思ったら、まず魅了してくるでしょう。そうしたら縄か何かで縛って、目も塞いじゃってください。それだけで彼女は無力化できますよ」
玉藻の前が事前に伝えておいたイシュタル攻略法。それに則って千草がイシュタルに近付いて身体に縄を雁字搦めにして、顔にも麻袋をかけて首で縄を締めて顔をすっぽりと覆ってしまった。
とても美の女神が見せる姿ではない。土まみれになって顔が隠されているなど、美の女神としてのプライドが許さないであろう醜態だった。
一番厄介なイシュタルを無力化したことで、春姫に着けられていた捕縛用の鎖を砕いていくタケミカヅチ・ファミリア。鍵などを探す暇はなかったのでとりあえず鎖を断ち切っていた。
「助けに来たぞ!春姫!」
「桜花くん……!千草ちゃんに、命ちゃんも……!ダメ、すぐにここから離れて!」
「え?もう、敵はいないよ?ベルさん達が倒してくれたから……」
「違うの!わたしもさっきまで知らなかったけど、わたしの妖術も前座!もっと恐ろしい力が、ここにはあるの!」
困惑する千草へ、被せるように叫ぶ春姫。
戦闘が終わったベル達も何事だろうと近付いていくと、麻袋の中でイシュタルがその美貌を持ってして口角を三日月のように上げていた。
そして、その麗しい声を金切り声のように張り上げる。
「来い、『穢れた精霊』ッ!」
その声に呼応するように、宮殿の近くの地面が罅割れ、三階建ての建物に匹敵する巨大な生き物が姿を現す。
それは筋骨隆々な老人の身体を上部につけて、下半身は鷲の首から下が強制的にくっつけられているような、そんな歪な異形。
雷を全身に纏った、見るからに良くないものがそこにはいた。
・
同時刻。
バベルへ攻め入ろうとしていたイシュタル・ファミリアの団長。よくヒキガエルに形容される人間とは思われていないフリュネはバベルへ突撃する前に虎の子である『穢れた精霊』が本拠すぐ側に現れたことで襲撃を受けたことを悟った。
その事に慌てる周囲の戦闘娼婦もいたが、フリュネはここまで来たら隠密の意味はないと判断した。
「『穢れた精霊』を解き放て!イシュタル様が一体出しちまったら何体出そうが同じだ!」
イシュタル・ファミリアの構成員は唯一のレベル五であるフリュネの命令に逆らえない。逆らったら実力を持って顔をグチャグチャにされるからだ。
呼び出す役目を負っていたアマゾネス達が特殊な笛を使って『穢れた精霊』を呼び出す。完全に言い逃れのできない光景を見た一般人達は悲鳴を上げながら一目散に逃げていた。
馬鹿でかい異形が六体、地下から這い出てくればそうもなる。同じような光景を『怪物祭』でも見ているのでモンスターを見たことがない住民も危険性を察知して荷物も捨てて走り出していた。
そんな騒動の場に、逆に踏み込む集団があった。
都市最大派閥を唯一名乗れるフレイヤ・ファミリア。
そして商業系ファミリアなのに個人の実力がおかしいタマモノマエ・ファミリア。
その一部を除く総員が集まっていた。
「オッタルぅ……!?何でこうも勢揃いしてんだい!」
「黙れ、畜生以下の汚物が。貴様に名を呼ばれただけで身の毛もよだつ」
「そうやって見下すのが、気に食わないんだよぉ!」
フリュネが春姫の妖術も受けていないのに、戦斧を取り出して飛び出した。本来であればランクアップをしたフリュネがどうにかオッタル以外を倒して、その間に『穢れた精霊』複数体で確実にオッタルとアレンを潰す予定だった。
だが、その計画は崩れてしまった。素の状態のフリュネではオッタルとアレンという最上位はおろか、その下にいる幹部にもやられてしまう。
それがわからないほど逆上していたのか、フリュネは無計画で突っ込む。対するオッタルは抜いた大剣をそのまま横薙ぎで一閃。それだけでフリュネは腹部から大量に血を噴出させ、ドシャと地に横たわる。
「グフゥ……!?れ、レベル八に、なった、からって……!この数の『穢れた精霊』は倒せない!お前らは、ここまでだ!!」
「まだ生きているのか。その生命力はレベルにそぐわずゴキブリ並みだな。それに、その領域はとうに超えた。今の俺は、
「あ゛……!?」
オッタルの告白に、フリュネは頭の理解を超える。そのまま痛みによって気絶し、誰も治療することなく放置した。
そんな中、同行していた玉藻の前が宣言する。
「今からその『穢れた精霊』を倒します。巻き込まれたくなければ離れてください。手加減なんてできませんから」
フリュネという最大戦力を失った戦闘娼婦達は一部を除いて逃げ出していた。作戦が漏洩していた時点でもう不利なのに、想定していたフレイヤ・ファミリアに加え、頭のおかしいタマモノマエ・ファミリアまでいるのだ。
しかもオッタルが新たな領域に至ったとなれば、数でどうにかするのも無理だ。『穢れた精霊』に任せるしかないと考え、戦線を離脱していた。
そこに、街の警邏をしていたガネーシャ・ファミリアの団長シャクティがやってくる。
「オッタルに、タマモノマエ・ファミリア……?あのモンスターは何だ?」
「闇派閥を通してイシュタル・ファミリアが手にしたモンスターだ。こっちは俺達に任せろ。お前達はあちらと、歓楽街の住人を任せる。俺達はそういうのに向いていない」
「……わかった。神タマモノマエ。お願いします。お前達、住民の避難を優先しろ!レベル三以上は孤立したあのモンスターを倒しに行く!」
「「「ハッ!」」」
ガネーシャ・ファミリアも動き出す。そして予定通り、フレイヤ・ファミリアが三。タマモノマエ・ファミリアが三、『穢れた精霊』を受け持つ事になる。
「奴らを倒し、我らが女神に楯突いた逆賊イシュタルを捕獲する!行くぞ!」
オッタルの声で戦端が開かれた。
オラリオ最大規模の大激突が始まった。
「玉藻。アレ、今回は倒しちゃっていいのよね?」
「大丈夫だよ。精霊の関係者がいれば魂が共鳴して精霊としての自覚を思い出しただろうけど、この中に精霊の関係者はいないから。もうアレは闇派閥によって自我をすり潰されたただの暴威の集合体。倒すことで魂は解放されるし、元の精霊も生まれ変わったり神の元に力が戻るよ」
玉藻の前が展開した方陣の中で、フレイヤが質問をしていた。フレイヤはロキ・ファミリアへ課したタマモノマエ・ファミリアの試練を知っていたからこそ問うたのだが、今回はただ倒すだけで問題ないらしい。
「ロキの所で問題だったのは『剣姫』がいたことと、いた場所がダンジョンというのが大きいのかしら?」
「そうだね。まだあの精霊はダンジョンに囚われたまま。あの精霊を解放するにはできるだけ力を削って精霊の風を、攻撃以外の手段で与えることだった。誰もその答えに行き着かないまま暴力で解決してしまった。そのせいであの精霊は自分がダンジョンに捕まったままということを自覚して今も助けを待ってるよ」
「まさしく、『アリアドネ』のようね」
フレイヤは状況を整理して、玉藻の前がロキの援助をやめた理由を悟った。
その状況を目の前で見せられた道満が何を思ったのか、心中を察する。
「もし誰かに対処法を訊かれたら、答えていたの?」
「もちろん。自分達だけでわからないことを他人に訊く。それも大事なことだよ。特にあの時同行してたのは外でレベル六になった道満っていう規格外。モンスターだと断定して倒すことだけを決めたのは、生存本能としては正解だったけど、わたし達出題者からすれば落第。先入観を捨てる、常識を疑う。この辺りの柔軟性がなければオラリオや地上を代表する者になれない。この試練はオッタルくんとアレンくんが突破したね」
吟との決闘で、二人は玉藻の前の出題に見事正解した。その結果がオッタルの二段階ランクアップであり、アレンも同様にレベル七へランクアップした。
一方ロキ・ファミリアはティオナとティオネがレベル六に、レフィーヤがレベル四にランクアップしたが。逆に言えばそのくらいしか玉藻の前が偉業だと認めなかった。その三人は技量が劣りながらも気概を見せて立ち向かい、最後まで諦めなかったことを評価。
他のレベル六はランクアップしたばかりだったり、できて当然のことしかしなかったためにランクアップできなかった。
そんな会話をしている内に、先にタマモノマエ・ファミリアがノルマの三体を撃破。少し遅れながらもフレイヤ・ファミリアも三体を撃破していた。
負傷者は出ているが、死者はなし。巻き込まれた住民もいない。まあ、歓楽街の一画が完全に余波で崩壊したが。
負傷者の治療を玉藻の前と金蘭が行なっていると、フィンがロキを連れてファミリア総出でやってきていた。
「フレイヤにタマモ……!ここにおったモンスターはどうしたんや!?」
「あら。遅かったわねロキ。たまたま近くにいたから、ウチの子達と玉藻の子達が倒しちゃったわよ?」
「アホ抜かせ……!フィンの言葉が本当なら、ウチの精鋭が苦戦したモンスターが六体やぞ!?いくらタマモんところと、オッタルとアレンがいたからって……!」
「でもどこにもいないでしょう?それが事実よ」
ロキは本拠で爆発音が聞こえて、その上フィンが焦った表情を隠さなかったことで急いでやってきたら事態は収束していたというのだ。
しかも相手はファミリアのダンジョン攻略組を全滅一歩手前まで追い込んだモンスター。それが六体もいたはずなのだ。
それが跡形もいなくなってたら、都市最強派閥
「ロキ、事実だ。匂いが残ってねえ。それにタマモノマエ・ファミリアがやったっていうならオレは疑わねえ」
「ベート?」
「吟。お前も倒したんだろう?」
「ええ。残ってるのはアレだけです」
ベートに質問され、吟が指差したのはイシュタル・ファミリアの本拠の屋上付近。雷が断続的に落ち続けている場所に一体、『穢れた精霊』が残っていた。
「ロキ。邪魔しないで。これは私に売られた喧嘩なのよ」
「どういうことや?」
「イシュタルの暴走。このままイシュタルを捕まえに行くわ。詳しい話はそこの挽肉に聞いてくれる?」
フレイヤが瀕死寸前のフリュネを押し付けてさっさと進軍してしまう。これ以降は行かなくていいかと、タマモノマエ・ファミリアはついて行くことはなかった。
「ロキ。あとはフレイヤちゃんに任せて大丈夫。あの一体も、すぐに救われるよ」
「タマモ……。フレイヤんところは、そんなに強ぅなったんか?」
「今回の一件でまたたくさんランクアップするだろうから。ゼウスとヘラの再来。すぐにでもそう呼ばれるようになると思うよ?」
後日。ギルドから公表されたランクアップした冒険者の発表でロキは発狂しながら髪を掻き毟った。
それほどに差を付けられる結果が、そこに貼り出されたからだ。