ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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4 補填

 ベルはミノタウロスとの激戦を果たした翌朝。治療してくれた金蘭がもう一度本拠を訪れてくれて、今日一日は絶対安静を言い渡された。ダンジョンはもちろんのこと、訓練も禁止された。元々休養日の予定で、しかも昨日のせいで装備が色々台無しになったので新しい物を拵えることにした。

 

 金蘭が悪戯でタマモノマエ・ファミリアで用立てしようかと聞いたが、魔導書のことを聞いていたのでベルもヘスティアもブンブンと音が鳴るほど首を横に振っていた。

 あら残念と呟いた金蘭は、心底本気だった。

 

「とはいえ、こちらにも面子があります。本拠の補修工事に私と明様の簡易式神の派遣を決定しました。教会の見た目通りになるように修復します。工事中も地下には影響を及ぼさないようにしますので、宿を取る必要はありません」

 

「いや、悪いね金蘭君」

 

「それと付与魔法と広域攻撃魔法を覚えたということで、制御が難しい部類の魔法なので制御用の呪符の提供も明様から。魔導書のことを黙っていたお詫びです。本当であれば私達の誰かが制御について指導できれば良かったのですが、私達が使う魔法は陰陽術という特殊な物で魔法とはちょっと異なるので指導ができないんです。申し訳ありません」

 

「いやいや、そこまで面倒を見てもらったら困るからいいよ。他派閥だし」

 

 そう言ったヘスティアだったが、受け取った呪符の値段をリリルカがボソリと呟いたことでまた発狂する。

 ロキ・ファミリアの魔法使いリヴェリアの御用達補助具のマイナーチェンジ版。オーダーメイドということもあって一枚20000ヴァリスとのこと。それを十枚もポンと渡されたら困ってしまうだろう。

 

「それとこれは役立てるかどうかはベル君次第です。吟と銀郎から、とある鍛治師の推薦状ですね。へファイストス・ファミリアの注目株ということで、これを見せればその鍛治師に会えます。その方の装備が気に入るかは君次第」

 

「えっと。レベル五とレベル四の方の推薦って、僕には雲の上というか……。予算的にも無理そうですし」

 

「だからそれくらいは用立てますよ?」

 

「結構です!」

 

 一応招待状だけは受け取るベル。使わないだろうなと思っていたが、金蘭の次の言葉でそれは覆る。

 

「その方、上級鍛治師じゃないんですよ。むしろ鍛治アビリティも持っていない、レベル一の鍛治師。ベル君が気後れする、かの鍛治ファミリアの最上位というわけではありません」

 

「え……?何でそんな方を上級冒険者の方が?接点あるんですか?」

 

「二人の刀に興味を持って、見せて欲しいって熱意に負けたそうよ」

 

 へファイストス・ファミリアのお店の、それこそ初心者向けの店舗に行けばその人の作品を見せてもらえるので行くよう勧められる。ヘスティアの神友ということだったので元から行く気満々だったからか、結局招待状を使うことにした。

 予算もせっかくだからとファミリア貯蓄を崩して多めに用意した。だからお金を払いますという金蘭の声は断固拒否。

 

 ロキからも貰えるはずだからとヘスティアは胸を張って予算は気にするなとベルに宣言してベルはそんな主神に感動して抱きしめていた。

 その二人の仲の良さを見て何故か良い気がしなかったリリルカは首を傾げていた。

 

「暫定的にこれがウチのファミリアからの補填になりますが、何か質問はありますか?」

 

「うん、過剰だよね?」

 

「人の命には代えられませんが?私と吟が遠征の帰り道はロキ・ファミリアに任せて初動が遅れたのは間違いなく私達のミス。団長たる明様が嘘を付いたのも事実。これは誠実な対応で、天秤は取れていると思いますが」

 

「天秤ねえ。アストレアみたいなことを言うね」

 

「かの正義の女神ですか。明様も天秤には一家言ありますが、かの女神とは相反するでしょうね。天秤の基準が異なりますので。──話は逸れましたが、ギルドを通したとしてもこれくらいの補填は適正ですよ?」

 

「わかったわかった。ありがたく受け取るよ」

 

 後でタマモにはお礼を言おう。そう思ったヘスティアだった。

 まだどういう補填がされるのか、ギルドも通しているからかロキ・ファミリアからヘスティアと玉藻の前へ報告はなかった。事態が初めてのことだったので対処に苦慮しているのだろうとは金蘭の言葉。

 

 渡せる物は全部渡したので、金蘭は帰る。

 ヘスティアは玉藻の前にお礼を言いたいとのことだったので、バイトが休みなことをいいことに金蘭についていった。

 ベルはリリルカと一緒に、バベルに行ってへファイストス・ファミリアの店舗に向かうことにする。

 

「リリは休みなのに良かったの?」

 

「いいんですよ。リリの仮所属はタマモノマエ・ファミリアですし、店番を頼まれなければすることもありません。いつもだったらダンジョンに潜る前に消耗品の補充とかしますけど、最近は上層でも上の階層にしか行ってなかったのでポーションも減っていませんし。今日は暇です」

 

「ああ、そうだ。ポーションも補充しないと。ミノタウロスに全部壊されたんだった……」

 

 買う物が増えたベル。思いっきり殴られて壁に激突した際に手持ちのポーションは全部入れ物が破裂。使い物にならなくなった。

 いつも良くしてもらっているミアハ・ファミリアでポーションを買っているので、そこにも寄ることにした。

 

「リリにも、償いをさせてください。ベル様を置いていったことを、結構悔やんでいますので」

 

「リリ……」

 

「──あの、冒険者様?こちら落としませんでしたか?」

 

 背後から。

 鈴の音のような可愛らしい声が聞こえた。突然のことにベルとリリは振り返ると、そこにいたのは給仕のようなエプロンをつけた可愛らしい人間の女性。まだ成人していない、それでも二人よりは歳上に見えた。

 

 そんな女性の手には、小さい紫色に光る魔石。その大きさは女性の小指よりも小さく、細い。

 その魔石を見て。二人は口を開けなかった。

 

「あの……?」

 

「客引きですか?残念ながらその魔石はリリ達の物ではありません。いくら駆け出しとはいえ、そんな強制的に小さく削ったような魔石なんて取得していませんので」

 

 女性の確認の声を、リリルカが拒絶する。

 リリルカはサポーターになって長い。魔石を見れば鑑定額のおおよそは予想できるし、それが自然な物か、魔道具などに使われるために加工された物か看破できる。

 目の前に出されたのは、加工しようとして出た欠片だとわかった。だから客引きだろうと判断した。

 

「客引き?」

 

「顧客を得るために様々な勧誘方法がこのオラリオでは産み出されているんです。タマモノマエ・ファミリアも最初は大通りで魔道具の効果の実演とかしたらしいですよ?」

 

「なるほど。じゃあこの人は冒険者の僕達ならあの魔石を拾ったことにすれば呼び込めると思われたんだ?」

 

「そうですね。あれくらいの魔石なら換金しても100ヴァリスにもならないので、お店の値段によっては全く痛手じゃないわけです。加工の際に出る端材ならツテで無償で渡されるかもしれませんし」

 

「リリは物知りだなあ」

 

「伊達にオラリオ歴は長くありませんから」

 

 ベルは目の前の女性の目論見を看破したりリルカを純粋に褒めた。リリルカが一緒じゃなければそういうこともあるだろうと納得してしまっていただろうと思ったために。

 ベルは田舎暮らしだったから純粋だ。そこがいいところとも、住民には言われていたが。

 

「わー!?すみません、その女の子の言う通りです!客引きです、もし冒険者様がお食事どころをお探しでしたら自信を持って私が働くお店を紹介しようと思って……。ダメ、ですかね?」

 

「あ、いえ。大丈夫ですよ。なら神様も連れて向かいます。何てお店ですか?」

 

「……いいんですか?ベル様」

 

「うん。多分酒場でしょ?そういう場所は冒険者にとって交流の場だから行った方がいいってお爺ちゃんが。お酒も冒険者の嗜みって言ってたし」

 

「間違ってませんけど。酒場だと場所によりけりですけど本当に高いですよ?」

 

「う。でもたまには神様にも豪勢なご飯食べてもらいたいし」

 

 と言うことで、今夜彼女──シルの働くお店『豊穣の女主人』に行くことになった。リリルカも誘い、できたらタマモノマエ・ファミリアの人も誘いたいと考えるベル。

 

 そんな出会いもあったが、本題であるへファイストス・ファミリアへ向かう。お目当の駆け出し向けのお店の前に一級冒険者向けのお店も見たが、そこに飾られているのはベルでは当分手が出せない代物ばかり。

 ウン千万ヴァリスと書かれた値札が平然と置かれているのだ。

 

「ベル様が使った魔導書はアレらの武器よりも高価ですからね?なにせタマモノマエ・ファミリア謹製のオーダーメイドですから。魔導書の根幹から逸脱してますよ……。更新しなくても魔法が発現するとか」

 

「本当にそんな物を無意識で使っちゃったなんてなあ」

 

「非はかなり明様にありますけどね。本当にあの人は規格外というか」

 

 そして目的のお店に着く。紹介の鍛治師の武器を見るのも良いが、本人がこれがいいという直感も大事にした方がいいと紹介状に明が書いていたため見回ると、良さそうな剣と胸当てを見付けた。

 剣と胸当てはこれで良いと決めて、後は紹介状の人の防具を見てみたいと思うベル。良いと思える防具がなかった。

 なのでカウンターにいた人に、購入とついでに紹介状を見せた。

 

「【剣帝】と【忠狼】の推薦?……ああ、魔剣が目当てか?」

 

「え?魔剣なんて要りません。普段使いの武器と防具が欲しいんです。それに魔剣なんて高価すぎて買えませんよ」

 

「見るからに駆け出しだもんな……。ああ、こいつを呼んでやるよ」

 

 店員が呼んできたのは赤髪で長身の男性。その人物は嬉しそうにカウンターへやってきて、そのカウンターに置いてある剣と胸当てを見て高らかに笑い始めた。

 

「アッハッハッハ!吟と銀郎の旦那達の紹介状だって聞いて来てみりゃあ、ちゃんとオレの顧客じゃねえか!」

 

「……あの?」

 

「お、ワリィワリィ。一人で盛り上がっちまって。オレが紹介状にあった駆け出し鍛治師、ヴェルフ・クロッゾだ」

 

 そう快活に笑う男性の名前を聞いて、リリルカだけが魔剣の話題が出た理由を把握した。

 




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