ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
40 リリルカ・アーデへの求婚・上
「リリルカ・アーデさん。あなたは今後、ダンジョンに潜るのは禁止です。……知っていれば、先日の歓楽街での騒動も止めていたでしょう」
「……」
「もちろん武器を振るうことも禁止です。魔法も、極力使うことを禁止します。こういう状態なのでルールを破ってまであなたの魔法を聴き出しましたが、あの魔法はあなたの今の身体に害になりかねない」
「魔法も、ですか」
「ダンジョンに潜らずに使う予定があるのですか?こちらも医療ファミリアとして心を鬼にして言います。本当に身の危険がない限り、武器や魔法を使うことを禁じます」
「……はい」
「定期検診にも来てください。最低でも一ヶ月に一回。できれば二週間に一回のペースで。主神や団長にもその旨をお伝えください」
「……わかりました」
「いくつか同じ患者は見てきたので、こちらとしては問題ないと考えます。薬も、今は処方しません。本当に症状が重くなった際には処方いたします」
「……」
「ここから、長いですよ?では、お大事に」
診断書をアミッドから受け取ったリリルカは医院から立ち去る。
空を見上げて、深く溜息をついた。
「ヘスティア様にはいいとしても……。ベルにはどう伝えましょう?」
その答えを、空は教えてくれない。
・
オラリオでは、今一つの話題で埋め尽くされていた。
『第六次オラリオ侵攻』。ラキア王国による性懲りもないオラリオへ向けた戦争、もどきである。
どうやってもラキアの戦力はレベル三が限度。そこにロキ・ファミリアのような精鋭をぶっ込めば簡単に数をひっくり返せる。レベルが一つ違えば勝てないというほど壁が大きくなるのに、ロキ・ファミリアにはレベル六を含むオラリオでも上位の冒険者が多数在籍している。
他のファミリアも強者を送り込むことで三万の兵士が攻め込んだとしても容易に撃退できていた。
オラリオの住民も街の外で戦争が起きていたとしても、いつも通りオラリオの勝利だろうとわかっていたので話題にはなるものの、呑気なものだ。
精々商人達がオラリオにやってこないので貿易がストップするくらいで、それ以外に支障は出ていない。オラリオの外に出なくても娯楽は中にたくさんあるからだ。
戦争に参加しないファミリアは普段通りにダンジョンに潜ったり、もしもの時のために待機していたり様々だ。
今年は特に楽観視した空気が流れている。それもそのはず。今年はレベル七が二人も戦争に参加しているのだ。
フレイヤ・ファミリアの【
フレイヤ・ファミリアから派遣されているのはこの二人とレベル四以下の眷属だけだが、それでも十分ラキアには抵抗できた。
数々のランクアップでファミリアの等級がDになったヘスティア・ファミリア。等級が高いファミリアはギルドからの要請を受けやすく、今回のようなオラリオの危機などには率先して徴用されることになる。
だが、ギルドからの通達はオラリオで待機。
ラキア対策で実力のあるファミリア全てを投入するのは戦争として二流どころか三流。何かあった際にすぐに投入できるように予備戦力として待機を命じられていた。この待機とはオラリオでの待機になるため、ダンジョンに潜ることを禁止されていた。
だからヘスティア・ファミリアは各々休暇を楽しんでいた。オラリオから出られないが、オラリオは広い。遊ぶ場所はたくさんある。
なお、タマモノマエ・ファミリアも少人数ながらレベル六が四人もいることで等級がAになったが、商業系ファミリアなので戦争への参加は申しつけられなかった。ついでにギルドに頼まれて占ってもらい、今回のラキアの作戦は全て筒抜け。
潜入していた兵士をあえて泳がせて、とある魔剣鍛治師親子も入ってきたところでギルドの要請を受けたガネーシャ・ファミリアとタマモノマエ・ファミリアが捕縛。ラキアとの終戦時の取り引き材料が増えたことにギルドは喜んだ。
ここに『クロッゾの魔剣』を作れるヴェルフの誘拐、及び主神であるヘスティアの誘拐も事前に防がれた。レベルで劣ろうと戦局を一変できる『クロッゾの魔剣』があればオラリオにも勝てると考えた国家ファミリアラキアの主神アレスだったが、開戦当時は未来を視ることができる星見がいなかったために一度も暗躍が成功した試しがなかった。
ラキアの作戦が完璧に失敗し、あとは冒険者達が戦力を削るだけの作業になったのでギルドも穏やかな雰囲気で業務に当たっていた。
実のところ、ヘスティア・ファミリアなどが待機を続けさせられているのは闇派閥を警戒してのことだ。歓楽街が崩落し、それをなしたモンスターは闇派閥が管理していたという。極彩色の魔石を落とす新種のモンスターのこともあり、オラリオ次席の戦力を誇るロキ・ファミリアをラキアに当たらせ、主力たるフレイヤ・ファミリアや武闘派のタマモノマエ・ファミリアがもしもの事態のために残されていた。
ラキアとの戦場は、正直なところ散々な結果だった。レベル七を始めとする数々の有力冒険者が蹂躙しているのだ。いくら量で優っていても、質が違いすぎるためにどうにもならなかった。
戦局が決まりきっていたからか、戦場の動きを見てロキ・ファミリアのある男がオラリオに帰ってくる。最前線や艦隊による侵攻を危惧したことで港町メレンには戦力を残してきて、主神のロキとだけ帰ってきた。
ロキはかったるい戦争から帰ってこられたので本拠で酒を飲み。
男はギルドを通してとあるお願いをした。
そのお願いをギルド職員は受けることとなって、受け取った物をとあるファミリアへ届けることとなる。
ロキ・ファミリアの担当だったミーシャは受け取った物をそのまま送り先のファミリアと懇意にしているエレナへ預ける。
エレナは待機しているファミリアの本拠へ足を運んだ。
・
「アドバイザー君。誰から、何を受け取ったって?」
「ロキ・ファミリアの【勇者】フィン・ディムナ氏から、ヘスティア・ファミリアのリリルカ・アーデ氏宛の手紙です。神ヘスティア。内容までは存じ上げませんが」
エレナはバイトの帰りだったヘスティアを見付けて、そのまま本拠にお邪魔してフィンから受け取った手紙を渡していた。
ヘスティアは一応受け取ったものの、胡散臭い顔を隠そうともしない。
嫌いなロキのところの、団長からの手紙。そもそも今はラキアとの戦争に行っているはずの総まとめ役が何で今日オラリオに帰ってきたのか。その辺りがヘスティアには全くわからなかった。指揮官が戦場から離れるなんて前代未聞だ。
もっとも、フレイヤ・ファミリアが誇る軍師ヘディンがいるので問題なく蹂躙は続いている。
「ボクも会ったことがあるけど、あの小人族の子だろう?それが団長のベル君じゃなくて副団長のリリルカ君に手紙?何で?」
「わかりかねます。共通項は小人族ということしかないとは思いますが……」
「だよねぇ。ロキに聞こうにも、今は戦場か……」
フィンすらお忍びで帰ってきたので、神の中でもラキアとの戦闘で陣頭指揮を執っているはずのロキが帰ってきているなんて把握していなかったヘスティアとエレナ。
フィンがいることについては、それだけ順調にことが進んでいて何か用事があったのだろうとヘスティアは流すこととした。
とりあえず持ってきてくれたエレナにお礼を言うヘスティア。エレナはついでにヘスティアに渡すギルドへの申告書などを渡して帰っていった。
渡されたのはファミリアの等級が上がったことに関する変更点。オラリオへ払う税金の上昇に加えて、等級がDになったことによる数ヶ月先の合同遠征への強制参加を促す命令書など、様々だ。
それを見てうっへえと嫌な顔をしながら書類を処理していく。
そうして待っているとリリルカが帰ってきた。
「ただいま帰りました、ヘスティア様」
「おかえり、リリルカ君。他の皆はまだフリーマーケットと歓楽街の整地ボランティアから帰ってきてないよ」
「そうですか。それは良かったのやら悪かったのやら……」
ベル達は貿易がストップしたからこそ商人達が商魂逞しく開催しているフリーマーケットに掘り出し物がないかを物色しに行ったり、歓楽街での復興作業の手伝いに行っていた。
ベル達はあまり街へ被害を出さなかったが、『穢れた精霊』ユピテルの落とした落雷などから歓楽街は瓦礫と穴だらけの場所となってしまった。瓦礫の撤去作業は終わったのだが、道路の整備は何も終わっていなかった。
新しく建物を建てるにしても、道がボコボコではどうにもならない。だから様々な冒険者が力仕事をしに行っていた。待機を命じられて暇だったという冒険者もいるが、大半は歓楽街を復興させたい男性冒険者だ。
今まであった快楽の象徴がなくなってしまい、発散する代わりの場所がないのだ。なら復興させてしまえと躍起になっている者が多い。
ベル達は純粋に壊れてしまった一因が自分達にもあると考えているからだ。
「用事は無事に済んだのかい?」
「はい。一応は」
「それは良かった。で、新たな厄介ごとだ。ロキのところの団長君から、君宛だってさ」
「【勇者】様から……?」
リリルカは手紙を受け取ってすぐに中身を見る。
書かれていた内容を見て、首を傾げる。
「なんて書いてあったんだい?」
「いえ。ただ同族として食事をして話をしたいと書かれているだけです。……都市最大派閥の長の申し出を断ったとなったら風聞が悪いですね。特に同族の同性の目が……」
「ああ……。彼、女性に凄く人気なんだって?ロキが自慢してたなぁ。ベル君がいるのに行くのかい?」
「行かなければならない、というのが正しいですね。ベルにも言ってから行きます。まあ、大方話の内容も予想が付きます。【勇者】様は小人族の地位向上を志して冒険者になったそうですから。そのために協力して欲しいとか、そんな話じゃないですか?小人族でレベル三以上となると、【勇者】様と【
「確かに有名な小人族の冒険者ってあまり聞かないね」
リリルカの言葉にヘスティアも頷く。今挙げた五人以外の小人族はレベル三以上がほぼいない。その上【
となると、有力な小人族の冒険者に声を掛けて回っているとして、レベル三になったと知ったらアプローチの一つもあるだろうと納得する。
「リリも小人族のことなんてどうでもいいので、適当にご飯を食べて断ってきます」
「わかったよ。気を付けてね」
リリルカは面倒臭そうに息を吐きながらそう伝える。
これが波乱の展開を産むとは、露とも思わずに。