ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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異端児編
42 ヴィーヴルとの出会い


 ラキアとの戦争は恙なく終わった。オラリオの圧勝で終わり、今回捕虜にした人物を返す代わりに恩恵の封印を行わせた。今回の戦争で得た経験値をみすみす渡すわけもなく、ヴェルフを確保しようとして潜入してきたラキアの主神アレスを捕獲して、その交換条件を飲ませた。

 天界に送還されることとどっちが良いかを脅し、アレスは泣く泣く承諾。

 

 そんな勝って当たり前の戦争のことより、オラリオで起きた恋騒動の方が盛り上がっていた。

 ギルド職員のエイナが神々の悪戯に巻き込まれた冒険者二人から告白されるストーカー騒動になっていたり。

 

 命が恋い慕うタケミカヅチの余りの鈍感っぷりにキレて、顔面にケーキをぶちかました。その怒りのお返しがまたなんと言うかというエンゲージリングだったり。

 ヴェルフが元主神であるヘファイストスに告白し、それを聞きつけた神々が面白がってラキア戦後に行なった『神会』で【不冷(イグニス)】と名付けられたり。

 リリルカもベルとのことが大々的に知れ渡って、同じ『神会』で【栗鼠の花嫁(エキュルイユ・マリエ)】と命名されたり。

 

 ラキアとのことなんて忘却の彼方に弾き飛ばされるほど、その『神会』は盛り上がった。既に二つ名を持っている者は二つ名の変更はなかったものの、ランクアップした者も多かったので神々も存分に楽しんだようだった。

 ベルの二つ名は変えようかという話題にもなったが、どうせまたランクアップするだろうから次の楽しみに取っておこうぜという意見が多かったのでそのまま。

 

 そんなベル達だったが、今はリリルカを除いたファミリア全員でダンジョンに潜っていた。春姫が入団して一ヶ月。リリルカはダンジョンで実際にサポーターの仕事を教えられない代わりに本拠でみっちりと教えていた。

 ダンジョンではダフネとカサンドラがサポーターをやったこともあったので二人で教えていた。春姫はあまりダンジョンに潜ったことはなかったが、一ヶ月も潜れば慣れてきたのか、リヴィラの街までは問題なく潜れるようになっていた。

 

 小遠征としてリヴィラで一度泊まってから帰ろうとしたところに、リヴィラの住人から一つの冒険者依頼を要請された。

 十九階層でファイアーバードが大量発生しており、十八階層に進出してきて街を燃やされたら困るということで、上級冒険者達が駆り出されて討伐に向かった。

 

 そこでベルは集まった中で唯一のレベル四として、単独行動を言い渡されていた。雷撃の魔法で一網打尽にするため、他の者達がファイアーバードを牽引し、一気に討伐するという。ベルなら一人でもなんとかなると思われ、事実なんとかなっていた。

 ヘスティア・ファミリアは今やかなりの有名ファミリアで、実力もある。サポーターの春姫を除いて全員がレベル三以上の少数精鋭武闘派ファミリア。ダフネとカサンドラも歓楽街の出来事の後ダンジョンに潜ったことでレベル四へランクアップできるようになったが、保留している。

 

 二人がレベル四になるとファミリアの等級が更に上がって税金が増え、ヘスティアの胃が悪くなるのを防ぐためというのが建前。

 本音としてはステータスがギリギリランクアップ条件に達しただけなので、もう少し鍛えてからランクアップしたいというもの。ステータスの貯金は目に見えて差がある。あんまり早くランクアップしても、レベルに実力が見合わないと考えて二人はまだ見送っていた。

 

 そんなダフネが指揮官として他のヘスティア・ファミリアを率いたので作戦は順調に進んでいく。正直ベルの能力が高過ぎて、パーティー運用が厳しいところがある。中層だったら誰かが敵を倒す前にベルだけで殲滅できてしまうのだ。

 ベルの今の実力だったら下層に行ったり、他派閥と遠征に行くのが良いのだろうが、今はファミリアの方針として春姫をダンジョンに慣れさせることが優先で、下層に行くのは中層に十分慣れてからと決めていた。

 

 ベル一人だけが強くなっては意味がない。彼らはファミリアなのだから。

 最近はヴェルフも最下層の素材に慣れてきたのか、作成する武具の質が向上していた。そのため武装も一級ファミリアにも引けを取らなくなっていた。

 ベルははぐれであるファイアーバードを狩っていると、ファイアーバードに追いかけられている人影を確認した。冒険者の誰かだろうかと思っていたが、その人影は青白い肌に、額に赤い宝石を付けていた。

 

 その赤い宝石を付けている特徴から、見た目が完全に少女のそれだったモンスターを竜の一種であるヴィーヴルだと判断した。

 だが、おかしい。

 そのヴィーヴルが追われていることもそうだが、瞳に涙を浮かべているではないか。モンスター同士の縄張り争いなどあまり聞かない事案だが、事実ヴィーヴルは追われている。

 

 ベルは躊躇いながらも、まずは樹海で火を吐いてくる厄介なファイアーバードを殲滅することにした。

 ほぼ時間をかけずに剣だけで圧倒するベル。さあどうしようかとヴィーヴルを見ると、足を怪我していたのか尻餅をついて涙目でベルの剣を凝視する。その剣を見せてみると。

 

「ヒィ!」

 

(喋った……?やっぱり変だ。あの『穢れた精霊』とは違う。あれは精霊という存在が変質したものだってタマモ様が言ってた。彼女は精霊じゃない)

 

 剣をしまうと、明らかにホッとしていた。その人間らしさに、ベルは彼女がモンスターだと思えなかった。

 どうしようと考えていると、話し声が響いてくる。ファイアーバードを牽引してきたのかなと思って耳を傾けてみると、どうやら違うようだった。

 

「あのヴィーヴル、どこに行きやがった!?」

 

「クソウ!これで俺達も大金持ちだと思ったのに!」

 

 ヴィーヴルの爪などは高価で取引されている。特に額の宝石は格別だ。ヴィーヴルが死ぬと砕けてしまうという特性上、所持している者がほぼいない希少な宝石だった。しかも宝石を奪われると凶暴化するので、宝石を得るのは本当に苦労するという。

 

 ヴィーヴルそのものがレアモンスターなので発見例も少ない。だから見付けた冒険者は躍起になって探しているのだろう。ファイアーバード討伐よりもよっぽど実入りがいいのだから。

 ベルは今回の報酬として現物支給されていた、火を防ぐことができるサラマンダーウールをヴィーヴルに被せた。そしてポーションを取り出して、渡していた。

 

「これ飲んで。傷が治るから」

 

「これ、何……?」

 

「ポーションっていう物だよ。僕はまだ仕事があるからそこで待っていて」

 

 木と木の間に彼女を隠して、ベルははぐれ個体の討伐に戻る。ヴィーヴルを探していた冒険者も、牽引または討伐という依頼を受けていながらそれを放り出してヴィーヴル探しをしていることに罰が悪くなったのか、すごすごと去っていった。

 作戦の要であるベルが黙々と孤立しながらもファイアーバードを倒していたのだ。立場がないだろう。

 ファイアーバードを三十体ほど倒した頃。ようやく牽引してきたダフネ達がやってきた。

 

「団長!三十秒後、群体が到着するよ!」

 

「【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての宇宙(カナタ)へあなたの証を届けよう】!」

 

 ダフネの言葉と同時に詠唱開始。牽引してきた者達は巻き込まれないように避難していた。

 広範囲になりすぎるのでスキルによるチャージはしなかった。ランクアップして、魔力のステータスも相応に高くなったベルの魔法はそれだけで広大で強大だった。

 

「【世界の果てに、刻憧の雷霆(グレェヴン・ケラウノス)】!!」

 

 『穢れた精霊』ユピテルが使っていた雷に酷似した樹海を焼く白雷が百体を越すファイアーバードの大群を飲み込む。

 討伐完了。

 

 

 関係者にお礼を言われて解散になった後。

 ヘスティア・ファミリアしか残っていない場で、ベルは彼女に声を掛ける。

 

「もう大丈夫だよ」

 

「……うん」

 

 姿を見せたヴィーヴルに、そして人語を使ったことにヴェルフ達は呆気にとられる。

 そして、ベルとの関わりがこの中で最古参であるヴェルフが天を見上げた後、一番最初に聞いた。

 

「ベル。どういうことだ?」

 

「うん。ダンジョンの異常事態じゃないかな。モンスターに襲われていて、人語を話せる。他にこんな事例があったら有名になってるはずだし。神様にも聞いてみたいかなって」

 

「お前はまたヘスティア様の胃を破壊する気か……?あと、リリスケに怒られろ」

 

「それは、うん。覚悟しておく」

 

「……人目を避けて帰るなら夜になるまで待つか。ってことで全員、団長の我儘を聞いてくれ」

 

 ヴェルフが言うと、命と春姫は頷く。

 

「ベル殿には春姫殿の件で借りがありますので。自分は従います」

 

「わ、わたくしも。借りとは関係なく、その子のことが気になると言うか」

 

 残りのカサンドラとダフネに目を向けると、二人も頷いていた。

 

「予知夢で見ていたので……。こうなるかなぁと」

 

「団長の突拍子のなさには慣れたよ。ウチも了解。奥さんにこっ酷く絞られな」

 

 全員の了承が取れたことで夜まで時間を潰そうとする。

 だが、そんなベル達に近付く人影があった。ヴィーヴルの姿をサラマンダーウールで完全に隠し、背が高いヴェルフの後ろに下げる。

 そうやって警戒していると、彼らのよく知る人物がやってきた。

 

「ベル君、他の皆さんも。その子の保護ありがとう。一緒に地上に戻りましょうか?」

 

「……金蘭さん?」

 

 タマモノマエ・ファミリアのレベル六、金蘭だった。

 彼女のことは信用できるし、しかも保護と言うのだ。何かしらの事情は知っているようだった。

 

「金蘭さんは、彼女のような存在のことは知っているのですか?」

 

「知っているけど、ここでは話せないわ。詳しい説明は地上で玉藻の前様と明様から。まずはその姿を誤魔化しましょうか」

 

 金蘭は無詠唱で幻術を使う。

 肌にあった鱗や歪に尖った耳、青白い肌などはすっかり見えなくなり、そこにいるのはどこからどう見てもエルフの少女だった。

 

「魔法ってなんでもアリだな……」

 

「いえいえ、ヴェルフ殿。この場合極東に伝わる陰陽術が素晴らしいのです。今では使える者も限られていますが、タケミカヅチ様も称賛する技術の集大成でして。自然に干渉し、この星すらも把握する魔法とは異なる異能。その起源は『英雄時代』よりも古いという文献もあります」

 

「あら、命さんは詳しいわね。それだけタケミカヅチ様にお世話になった証拠かしら。……世間話は後ね。その幻術、人は誤魔化せるけどモンスターにはあまり効かないわ。だからさっさと帰りましょう」

 

 金蘭を加えたベル達はさっさと地上に戻る。

 本拠には鬼が待つとわかっていても、ベルはこの選択を後悔していなかった。

 

 

 ギルドに存在する祭壇。

 そこにはギルドを仕切る大神ウラノスとウラノスの部下フェルズ。そして明と玉藻の前がいた。

 今彼らは、人語を話すヴィーヴルがバベルから出て行く様子を見ていた。その様子にフェルズは呆れる。

 

「なんと堂々とした……。いくら幻術で姿を隠しているとはいえ」

 

「さて、ウラノス。彼らに異端児のことを話していいよね?あと、二十階層の隠れ家のことも」

 

「……まあ、いいだろう。下手に隠すよりはな。だが、これ以上の拡散は許されぬ」

 

「時間の問題ですよ?露見していないだけで、その存在は闇派閥も、一部の物好きも知っています。それに、異端児は黒龍討伐とダンジョン攻略の切り札になる」

 

 ウラノスと玉藻の前の話し合いに、ウラノスはしばし思案する。

 異端児という存在の重要性。そして黒龍を封じ込めている槍の効力がいつまで保つか。ウラノスだからこそ知っていることも多い。

 

「あくまで。私が蘆屋道満の存在を知っていることを忘れるな」

 

「それはもちろん。でも、わたし達としてはかなりそちらに歩み寄っていたと思いますよ?……もう様子見は終わらせてもらいます。選別に入りますよ?」

 

「……時間切れ、ということか」

 

「はい。異端児を受け入れられないのなら、人間は太古から歩みを止めたまま。乗り越えられた人だけを選抜し、黒龍退治に当たらせます。姿だけで判別するなら、異形の神も認めないのでしょう?そんな人は『神時代』に相応しくない。いえ……『英雄時代』の前も、精霊を迫害した人間がいたのですから、それこそが人間の本質なのだと言ってしまえばそれまでですが」

 

「だというのに、絶望はしていないのだな?」

 

「希望もありますから。ベルくんやオッタルくんのように。異端児に優しくできる子。どうでもいいと割り切れる子。黒龍についてはこの辺りをクリアしないと、本当に間に合わないので。あと十年でレベル七以上に到達できる子がどれだけいることか」

 

 レベル七が足切りライン。それ以下は邪魔になるだけだ。特殊な魔法やスキルが使えれば話は別だが、戦うとなればそこが妥協ライン。

 その妥協ラインを超えられるかを、この異端児に纏わる事件で見極めるだけ。

 

「正確には、何年残っている?」

 

「八年と九ヶ月。それで槍は抜けますよ」

 

「それがフレイヤを優先する理由か」

 

「ロキの所にも良い子はいるんだけどね。……トップ三人でマシなのはガレスくらい。でもガレスももう歳だし、他の二人がストッパーになっちゃってる。アルフィアとザルドの想いは、伝わらなかったみたい」

 

「雌伏の時間が終わりだと言うのなら、何もかも好きにすると良い。私はお前達を支援しよう」

 

「ありがとう。じゃあ、説明のためにも行くね」

 

 実質的にこのオラリオを守護している二柱の神々が約束を取り付けて別れる。

 片方はダンジョンを抑えるために。

 片方は次のステージへ導くための舞台作りに。

 

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