ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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43 タマモノマエ・ファミリアの告白

「ベル、正座」

 

「はい……」

 

 ベル達が本拠に帰って開口一番にリリルカが言ったことはそれだった。

 ベルも理由がわかっているのでリリルカの前で正座をしていた。

 明と玉藻の前、それに金蘭というお客様がいても御構い無しだった。ヘスティアもその様子に納得しながらお客様にお茶を淹れて、自分も胃薬を流し込んでいた。

 

 ヴィーヴルの少女の幻術はもう解かれている。

 リリルカの説教を粛々と聞き入れるベル。その様子を見ながら玉藻の前がヘスティアに尋ねる。

 

「ヘスティアちゃん、始めていい?」

 

「いや、あの説教が終わってからにしてくれタマモ。二度手間になるだろうし、あれでもボクの派閥の団長と副団長なんだ」

 

 リリルカが説教をしている間にヴィーヴルの服を用意したりお風呂に入れたりして、時間を潰す。ベルが解放されたのは一時間後。すっかり足が痺れていた。

 全員が椅子に座ったことを確認して、お茶と摘むものも用意されて話が始まる。

 

「じゃあ始めるね?その子のようなモンスターなのに人語が話せて知能があって、一般的なモンスターに嫌われる種族を仮称として異端児(ゼノス)と呼んでいます。この異端児のことを知っている神は表向きウラノスとガネーシャだけ。闇派閥でも知ってる神はいるので総数はもう少しいますが、そのくらいしか知らないダンジョンの秘密でもあります」

 

「突然変異種ってわけかい?」

 

「そうだね。冒険者を襲ったら自分達も襲われるってわかってるから、基本は隠れています。同族を探すためにうろついていますが、ダンジョンではかなり慎重に行動していますよ」

 

「だから目撃例が少ないのか」

 

 ヘスティアがいくら下界に疎いからといって、こんなにも神々が好きそうなことが知られていないことに玉藻の前の説明で一応納得する。

 それにダンジョンは神々を嫌っている。それ故にダンジョンに神々は潜らない。となるとダンジョン内で起きたことについては疎くなってしまっても仕方がない。しかもウラノスというダンジョンからモンスターが出ないようにしている神が把握しているのだ。確実に何かしらの方法をもってして異端児が出ないように防いでいるのだろう。

 そんな考えに行き着いて、ヘスティアは顔を蒼褪めさせた。

 

「た、タマモ?ウラノスに何も言わずにこの子を連れ出したのって、相当マズイんじゃ……?」

 

「ああ、大丈夫ですよ。ウラノスから許可は貰っていますから」

 

「そっか、許可をもらってるのか。良かった〜……。いや待って!?ウラノスにバレてるってことだよね!?」

 

「はい。それはもう。異端児のことは特級機密事項なので。わたし達の誰かが彼女に幻術をかけてる時以外は外に出したりしないでくださいね?こんなことを知った神々がどんな酔狂な行動に出るか、予想はできても食い止めるのは困難ですから」

 

「き、肝に命じるよ。ボクでも簡単に想像が付く。絶対面白がってダンジョンに潜る神が増える……。で、ダンジョンが怒り狂ってヤバイモンスターが乱造されてオラリオが終わる……」

 

「ということで、皆さん秘匿してくださいね?」

 

 ヘスティアの予測と玉藻の前の脅しを受けて、全員がガクガクと首を縦に振るう。

 神々の存在を知ってダンジョンが送り出すモンスターの脅威を知っている者ばかりだったのでそれはもう必死に。

 あの黒いゴライアスのような存在がダンジョンに溢れかえったら、冒険者は一網打尽にされて終わる。その未来予想図を描いて、ヴィーヴルを無闇に連れ回さないことを決めた。

 

「あの……異端児は沢山いるんですか?」

 

「ああ、いるよ。ダンジョン内で小さなコミニュティを作ってる。総数は六十ちょっと。戦力としてはフレイヤ・ファミリアに一歩劣るくらいかな?」

 

「……はい?あの、フレイヤ・ファミリアに匹敵するって、マジ?」

 

「マジだとも。ダフネさん」

 

 ダフネが手を挙げて質問すると、明はとんでもない返しをしてきた。

 フレイヤ・ファミリアは既にこのオラリオで最強の存在として名を馳せていた。唯一のレベル七以上が複数所属しているファミリアだ。そのファミリアに一歩劣るくらいで、一大勢力を築いていることに驚いてしまう面々。

 

「えー……。もしロキ・ファミリアと戦ったら?」

 

「『戦争遊戯』で一対一なら、異端児が勝つだろうね。異端児にはレベル六以上の実力者が揃っているし、最近レベル八相応の新人が入ったから」

 

「……さすが、元はモンスターと言うべきですね」

 

「そこのヴィーヴルだって、本来の姿に戻ればレベル三上位クラスの実力がある。上層から下層までの様々なモンスターが変異した彼らは、独自に強くなっている。あまり戦えない子もいるが、そういう戦力だということを知っていてほしい」

 

 テーブルの上に置いてあるお菓子とお茶に、目を輝かせてパクパクと口に運んでいる幼女。あまり脅威には見えないが、見た目で判断してはいけないのがモンスターや冒険者だ。

 それでも、オラリオで二番目に強い派閥には勝てると言われたら驚くしかない。

 

「で?その戦力を君達やウラノスは認知した上でどうしてるんだい?地上に出すのは危険だから監視しているのはわかるけど、君達は保護もしてるんだろう?」

 

 ヘスティアが本題に踏み込む。

 異端児という存在を知った。それをどうするのか、実質的ギルドの王と呼ばれるウラノスと規格外ファミリアがわざわざ手塩にかけてしたいことはなんなのか。

 それを知るべきだろう。

 

「うん、保護もしてるよ。後は彼らの支援もしてる。食料だったり、武器だったり。彼らが死なないようなことをできる限りやっている」

 

「ギルドも?」

 

「そうだよ。ガネーシャ・ファミリアと共同して彼らに食料を送り届けたり。人間らしい生活を送れるように、これからの予行演習も兼ねて」

 

「人間らしい生活……。つまり君達の目的は」

 

「人間とモンスターの共存だよ。ダンジョン最奥の突破と、黒龍退治のために」

 

 彼らの大目標を聞いて。

 冒険者の悲願達成のための行動だと知って、明達が彼らを保護する理由を知った。

 戦力として申し分ない異端児がいれば、その二つも容易に進むだろう。

 問題は、これまで狩ってきたモンスターと同じ容姿で人の心を持っていることだろうか。

 

「ウラノスが本気になる理由はわかった。ダンジョン攻略も黒龍退治も、いつかはしなければならない命題だ。そのために彼らと協力する必要があると」

 

「そうだね。もう時間も残ってないし」

 

「時間がない?どういうことだい?」

 

「そのままの意味。あと八年と九ヶ月で黒龍が動き出すから。その間にみんなには異端児と仲良くなってもらいたくて」

 

「「「……は???」」」

 

 ヘスティア・ファミリアは全員がそんな声を出しながら首を傾げた。ヴィーヴルは話の内容がわかっていなかったが、全員がそうしていたのでお煎餅を齧りながら同じように笑顔で首を傾げていた。

 異端児であるヴィーヴルを拾ったので、仲良くすることはいい。問題はその後だ。

 

「ほ、星見ってそんな未来のこともわかるのかい……?」

 

「やろうと思えば一千年先のこともわかりますよ。神ヘスティア」

 

「……黒龍の話なんてとんと聞かなかったけど、その時に動き出すっていうのはどうして?」

 

「だってその時にわたしが施した封印が切れるから。タイムリミットってものですね」

 

「……ハァ!?タマモ、下界に降りてきて力が制限されてるのにそんなことができるのかい!?下界の英雄達が誰も敵わなかった怪物なんだろ!?」

 

「まあ、そうですけど。黒龍を封印することだけなら慣れてるから。……それにヘスティアちゃんは気付いてなさそうだから言っちゃうけど。わたし、()()()()()()()()()()()()()()()よ?」

 

 その決定的な一言に。

 今度こそ全員が絶句した。

 聞こえるのはヴィーヴルの咀嚼音だけ。

 今日だけでどれだけの常識が壊されたことか。神々は『神時代』になって天界から降りてきた。ウラノスなんてその最初期に降りてきたことで有名な神だ。

 

 それ以前は信仰こそあれ、神の実在は確認されていなかった。誰も下界に降りたことなんてなかったはずだ。

 精々神の遺物(アーティファクト)を落としたり、精霊として自分の分身を送り込んだ程度。それまでは全員天界に引き篭もっていたはずだ。

 だが、それ以前から地上に神はいたらしい。

 

「……じゃあ、なんだい?タマモは今もフルスペック……?」

 

「うん。本体がここにいるから。天界に送還はされないよ」

 

「ってことは、ゴン君もだよねえ」

 

「そうなるね。だから天照大神(わたしの大本)には会ったことがあっても、わたしには天界で会った覚えがないでしょ?」

 

「……極東の神が君を知っているのは」

 

「彼らが天界に昇る前に会ってるから。でも、結構ぼんやりとだけどね」

 

 結構な爆弾だったが、ヘスティアは胃に耐性ができていたので何とか耐えることができた。

 ベルがやらかすことに比べれば、まだ考えられる範囲の話だ。

 だが、そこでヘスティアは明を視てしまう。そんな太古から地上にいる玉藻の前の彼氏である人間とはどういう存在なのかと。

 明の内面を視てしまったヘスティアは、その事実には耐えられず狼狽し始める。そして金蘭も視て、更に動揺は増していく。

 

「……っ!?そ、そういうこと!?え、えええええええぇぇぇ!?いや、待て待て待て!そうなると君達の派閥は……!」

 

「神様?」

 

 いきなり大声を出して立ち上がったヘスティアに、ベルが声を掛ける。

 衝撃的な内容だったが、あまりの慌てぶりに何かおかしいと気付くベル達。対する明達は笑っているだけだ。

 

「やっぱりヘスティアちゃんの眼は凄いね。しっかり視ようと思ったらわかっちゃうんだもの」

 

「バレたのは神フレイヤ以来だな」

 

「フレイヤも知ってるのかい!?あ、いや……。それならフレイヤがあんなにもタマモに懐いている理由も納得できる。え、えぇ〜〜〜〜……。君達、人が悪いって言われない?」

 

「面と向かって言われることはないかな。ちゃんと色々なことで貢献してるから」

 

「……色々なことで、味方って考えていいんだよね?」

 

「わたしの派閥の絶対目標は黒龍討伐だけ。ダンジョンの最奥については、()()()()()()()()()だから、お好きにどうぞとしか言えないかな」

 

 ヘスティアはそう言われて、腕を組んでうーんと考え込んだあと、自分の中で整理が付いたのか頷いた。

 

「……わかった。ボクも君達にはたくさんの恩義がある。協力できることはできるだけ協力するよ。ベル君達も、彼女達には絶対逆らわないように。神罰が下る」

 

「そんなことしませんよ。でも協力してくれるのは嬉しいです」

 

「僕達はタマモ様達に逆らうつもりはありませんが……。色々とお世話になってますし」

 

「良かった。それじゃあベルくん、数日中に彼女を連れて二十階層のとある場所に向かってくれる?そこで異端児と仲良くなって、闇派閥を壊滅させよっか」

 

「……え?」

 

 今日の玉藻の前から出てくる言葉は、彼らを驚かせることしかさせない文字の羅列のようだった。

 言った本人はニコニコと笑うだけ。

 やはりヘスティアの胃は限界を超えて、胃薬へ手を伸ばした。

 

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