ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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45 呪詛

 ベル達は異端児の里で一泊してから、全員が集まってこれからのことについて話していた。中央にいるのは明と、いつの間にか来ていたのか玉藻の前だ。神がここにいるのはマズイのではないかとベル達は心配したが、リド達異端児で玉藻の前を知らない者はおらず、全員玉藻の前と親しく話していた。

 

 玉藻の前が何度もダンジョンに潜っているという証拠だった。無茶をするなあと呆れたが、神様としての力がフルで使えるために中層程度は全く問題がないのだとか。一応護衛でゴンが来ていてそのまま地上に帰って行ったが。

 その玉藻の前は特に狐人と変わらない耳と尻尾をしているために異端児からも慕われているようだ。特に小さい異端児が寄り添っている。

 

「さてと。じゃあこれからのことを話しますね。この中層は第二級冒険者にとっては探索なんて容易ですし、たくさんの冒険者が探索をしています。そんな場所を歩いていればいつか異端児の存在が発覚して壊滅しかねません。なので下層、もしくは深層へ住処を移したいと思います」

 

「あ、あのー。タマモ様?それってウチらも一緒に行くんですか……?」

 

「もちろんですよ、ダフネちゃん。皆さん経験こそありませんけど、実力だけなら下層でもやっていける力がありますから」

 

 ベル達はランクアップが急だったこともあり、最高到達階層はこの二十階層だ。リリルカだけは違うがこの場にはいない。

 ダフネとカサンドラは以前アポロン・ファミリアにいたが、それでも行ったことがあるのは中層が精々。下層には降りたことがない。

 まだ下層は団員のレベルを勘案すればおかしくはない。だが、深層は無理だ。ロキ・ファミリアのような超級派閥が事前準備をして潜る場所で、こんな準備を全然していない状況で潜れる場所ではない。

 

「まあ、そこまで心配しなくて大丈夫ですよ。本当に深層に行ったりはしませんから」

 

「じゃあ次の住処は下層なんですか?」

 

「いいえ、ベルくん。先日言ったことが本命ですので。異端児の大規模移動を餌として闇派閥を壊滅させます。これ以上異端児も有望な人間も減らされたくありませんから。闇派閥の一端は潰しましたけど、まだ狩人達が残っていますので。それを倒して本当の終わりですね」

 

「え……。タマモノマエ・ファミリアだけで闇派閥の一部を潰したのですか?」

 

「はい。邪魔だったので」

 

 命の質問に、なんでもないことかのように答える玉藻の前。

 その組織力の、実力の高さに戦慄していた。隣のヴェルフはさすが吟と銀郎の旦那達だと納得していたが。

 たった六人の眷属しかいない超級ファミリア。その実力はヘスティア・ファミリアの成長力で感覚が麻痺している命からしても驚きを隠せなかった。

 そんな命もこの半年ほどでレベル一からレベル三になった、オラリオからすれば規格外冒険者の一人なのだがその自覚はないようだ。

 

「『大抗争』の生き残りはロキ・ファミリアに任せちゃいましょうかね。ロキが功績を求めてまだ色々と嗅ぎ回っているようですし、全部に手を回していたら時間が勿体無いですから。ということでわたし達の目標はイケロス・ファミリアです。異端児を怪物趣味の外の者に売り飛ばす狩人で、異端児の仇敵ですね」

 

「オレっち達は武装してたりで目立つからな。それで囮になってオレっち達を捕まえようとした所にタマモっちやベルっちに捕まえてもらうって寸法よ」

 

「功績は異端児のものとしますけどね。そうしてオラリオや世界の人々に、異端児の存在を認知してもらいます」

 

「「「えっ!?」」」

 

 ベル達は驚きの声を上げる。

 ヘスティアと話し合って、異端児の存在を秘匿するためにダンジョンに入って来たはずだ。黒龍退治などのために友好を深める意図はあったとしても、公表自体はまだ先の話だと思っていた。

 だが、玉藻の前が話したタイムリミットもある。

 ここが節目の時期だということだ。

 

「あのー、【暗黒期】以上の混乱になるのでは?玉藻の前様」

 

「カサンドラちゃんは予知夢で視なかった?異端児との共存の未来」

 

「だいたいのことは、視ました。そしてタマモノマエ・ファミリアがどう動くつもりなのかも知っています」

 

 カサンドラはそう言いながらベルと、ベルの膝の上に乗っているウィーネのことを見る。ウィーネは視線に気付いたようだが、話の内容がわかっていないらしい。

 いくら竜種という高い知能を持っていても産まれたばかり。そして知識が圧倒的に足りていなかった。そのため視線の意味がわからない。

 

「多分同じ未来を視ていると思うけど、必要経費だよ。結末まで知っているんでしょう?」

 

「はい……。神の試練、ということですね?」

 

「それで納得してもらえると助かります。そろそろオラリオにも世界にも知らしめる必要があります。こんなただの塔の頂上を狙って奸計を繰り広げるのも、侵略戦争をすることも、自分の欲を優先させることも。そんな小さなことを楽しんでいる場合ではないのだと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「人類を、守った?」

 

「その自覚は、()()()にはないでしょうけど。最後の自我が残っている間に弔うことがわたし達にできる最後の手向けです」

 

 知りもしなかった情報が一気に流れてきて人間は困惑する。

 困惑していないのは知っていたタマモノマエ・ファミリアの面々や興味がない異端児だけだ。

 

「この話は全てが終わってから話しましょう。今は闇派閥を嵌めて捕まえる。それだけわかっていてもらえば結構です」

 

「……わかりました。それで、どうやって動くんですか?」

 

「わたし達はハルやわたしがかける幻術で姿を隠して異端児に隠れて付いていきます。異端児は先行部隊と後続部隊で別れて行動。下層を目指して進行します。罠にかかるのは後続部隊。先行部隊は既に先行させているアステリオスと合流後、下層から通じている闇派閥の本拠『ダイダロス迷宮』を攻略してもらいます。中層で仕掛けてくるならイケロス・ファミリアは撤退時に十八階層の扉を使うでしょうし、そちらをベルくん達後続部隊で攻略します」

 

 ベル達に渡されるダンジョンマップ。それには今言った『ダイダロス迷宮クノックス』なるものの入り口と中の詳細なマップが記されていた。

 

「下層のモンスターは強いので、こちらにハル達を配置します。後続部隊にはわたしとベルくん達で。異端児の班分けは終了しています。ウィーネちゃんは後続ですね」

 

「闇派閥は、仕掛けてくるでしょうか?」

 

「確実に。既におかしなヴィーヴルの話はダンジョンに出回っています。彼らなら異端児だと気付いているでしょうし、ヴィーヴルは希少種ですから」

 

「ウィーネが危険なんじゃ……?」

 

「守ってあげてくださいね?ベルくん」

 

「守ってね!ベル!」

 

 玉藻の前とウィーネに言われて、がっくりと肩を落としたベル。

 危ない目からは逃がれられない運命らしい。

 

「では、行動を開始しましょうか。ハル、そっちはよろしく」

 

「ああ。任せろ」

 

 

 そうして始まった異端児の拠点替え。先行部隊は異端児の八割ほどで構成されていて、強力な者が戦力として動き、荷物などを持った者を守りながら下層へ向かっていった。

 後続部隊は先行部隊が出発して二時間後に出発していた。

 ベル達は少数の異端児の後に付いていき、周りを警戒しながら進む。

 

 そこで。

 二十四階層に進んだところで、異端児達が足を止めた。小さな鳴き声のようなものが聞こえたが、人間にははっきりとわからない声だった。しかしそれは、同胞だからこそわかる悲痛な叫び。

 

「何が……?」

 

「……異端児を瀕死にさせて餌にしていますね。闇派閥の仕業です。待ち伏せしていますよ」

 

「助けなきゃ……!」

 

「酷なことを言いますが、囚われた子は諦めてください。ベルくん、手遅れなこともあるとわかってください」

 

「どうにかできないんですか……?」

 

「わたしも一応神の端くれですが。全ての命を救えるわけではありません。もしそんな絶対的な神であるならば冒険者は死なず、このようなダンジョンも産まれず。あなた達の生きる意味もなくなっていたかもしれません。闇派閥が許せないことと救えることは別です。……怒るのであればここで闇派閥を潰して、次の被害を出さないために最善を尽くしてください」

 

「……はい。無理を言ってすみませんでした」

 

 ベルは玉藻の前に説得されて、罠に引っかかったフリをして現場に向かうことになった。先行部隊は既に下層の『ダイダロス迷宮クノックス』を攻略し始めたらしい。

 なら今度はこちらの番だと。ベル達は戦闘準備を始める。

 

 特に異端児は同胞が殺されるとわかっていて、怒りを滲ませていた。それを簡易式神越しに鎮めようと声を掛ける玉藻の前。

 着いた先には百舌鳥の早贄のように磔にされた一匹の歌人鳥(セイレーン)。それを襲う毒蜂のモンスター。異端児は普通のモンスターにも襲われる習性があるため、先ほどの声を出したことで集まったのだろう。

 

 異端児でも戦力として高い者達がモンスターを排除する。ベル達は闇派閥の存在がわかっていたので、現れるのを待った。

 モンスターを殲滅し、磔にされていた歌人鳥を助けようと異端児が近付いたところで大人数の人間が近付いてくる。

 

「本当に泣けるじゃねえか。モンスターってやつ──」

 

「グハァ!?」

 

「何!?」

 

 イケロス・ファミリアの団長、ディックスが異端児を煽ろうとした瞬間、何人もの団員が吹っ飛ばされた。完全に後ろからの奇襲だったために反応が遅れた。

 そこには幻術を解いたベル達が武器を出して構えていた。

 前には異端児、後ろにはベル達。

 完全に包囲されていた。

 

「ヘスティア・ファミリア……!マジで異端児と仲良くお手手を繋ごうってか?あーあぁ、計画が全部おじゃんだ。まるで全てを見通されてたみたいな状況、アンタの仕業だな?神玉藻の前」

 

「はい。【暴蛮者(ヘイザー)】ディックス・ペルディクス。あなた方の呪いも虚しくは思いますが、何をしても許されるわけではありません」

 

「あーあぁ、我らの先祖にこの呪いを解きたいと願ったバカがアンタを訪れたんだったか。知ってるぜ、五百年前だったか?そいつは?」

 

「血も、目もどうしようもありませんでした。ですので、目を刳り貫いて義眼を与えましたよ。その後はただの建造物を作る大工になり、極東で天寿を全うしました」

 

「そういう人生もあったのかねえ」

 

 ディックスが玉藻の前と話している間にどんどんと団員が地に伏していく。拘束されている様子を見て時間は稼げそうだなと思案していた。

 ここで切り札を切るしかないと、人数比と戦力差から思っていた。イケロス・ファミリアもレベル四以上はいるが、ディックスという最大戦力(レベル五)が動くからと、強い者はクノックスに待機していた。

 明らかに戦力が足りていなかった。

 

「あの頃からかなぁ。すっかり変わっちまった奴がいると、血から逃れた奴がいると俺らの呪いが加速した。あれ以降逃れられた奴はいねえ。そのせいでだいぶ進歩しちまって下層まで迷宮は広がった。それでも五割なんだとよ」

 

「あら?クノックスのこと、話して良かったんですか?」

 

「やっぱり知ってるじゃねえか……。星見はやっぱりクソだ。イケロスも警戒してたぜ。……そんな星見も、ダンジョンの中じゃできることは限られてるだろ。黒いモンスターを呼ぶわけにはいかねえもんな?」

 

「そうですね。だから、あなたの暴虐を止められません。わたし達では」

 

「いいことを聞いた。【迷い込め、果てなき悪夢(げんそう)】【フォベートール・ダイダロス】」

 

 ディックスが右手の人差し指を異端児に向けて、魔法の詠唱らしきものを使った。

 すると異端児達は瞳を紅くさせて暴れだすではないか。

 

「え、フィーネ!?みんなも、どうしちゃったの!?」

 

「ああ!?確実に範囲には入ってたはずだ!何かやったのか、玉藻の前!」

 

「彼らのローブは特注品なので。この場にいる人間にその呪詛は効きません」

 

「本当に、全てが台無しだ!」

 

 ディックスが悪態をつきながらそのステータスを活かして唯一暴れず眠っていたフィーネを掴む。そして異端児達をベル達に仕向けて脱走を計った。

 団員の誰が死のうと構わない。血にも勝る自分の欲望を満たすために、ディックスはウィーネだけを掴んでこの場を去る。

 突然異端児に襲われるベル達は困惑したが、たった一つ。玉藻の前が一言呟いただけで状況は一変する。

 

「SIN」

 

 その可憐な少女の声が、異端児の紅い瞳を正常に戻す。襲おうとしていた手を止め、武器を降ろす。術者が切るか、術者を倒さなければ解呪されない呪詛を、神の力で押さえ込んだのだ。

 今まで自分達がどのような状態だったか理解して、全員が玉藻の前へ目線を向けた。

 

「……行きましょうか。ウィーネちゃんは十八階層に連れられていると思います」

 

「タマモ様……。ウィーネが連れ去られるって知ってましたね!?さっきの魔法を止められるのに、わざわざ見逃した……!なんでですか!?未来って、そんなに守らないといけないものなんですか!?」

 

 できたことをやらなかった。それに対してベルは神相手に不敬だとわかっていても言わずにいられなかった。

 掴みかからなかっただけ、まだ理性が働いている証拠だ。何かあったらヴェルフが止めようともしていたが、ヴェルフだって今回のことで玉藻の前を疑っている。

 リリルカがいれば違っただろうが、その彼女はいない。

 その代わりに、リリルカの次に彼女達を知るカサンドラが玉藻の前の側に立ち、両手を広げて玉藻の前を庇っていた。

 

「ま、待ってください!玉藻の前様も、明さんもこの手段しかなかったんです!闇派閥を殲滅したという功績がなければ、異端児の皆さんは地上の方々に受け入れられません……!これが最後のチャンスなんです!今回を見逃したら、都市は崩壊します……!」

 

「都市が、崩壊……?」

 

「人間と異端児の全面戦争、そして異端児に付いたフレイヤ・ファミリアとタマモノマエ・ファミリアによってオラリオはオラリオじゃなくなります!……ダンジョン攻略も、人々の営みもありません。二つのファミリアが黒龍退治とダンジョン制覇をするだけの拠点。一部の生産系ファミリアが残されるだけで、人間の歩みは止まってしまいます」

 

「あら。そこまで予知夢は視ていましたか。それは最終手段のつもりで、異端児さえ認められれば強硬手段には出ませんよ」

 

 カサンドラの言葉と、玉藻の前が認めたことでそんな可能性もあることを知る。

 ここでベル達が文句を言えば、オラリオが破壊される。そんな選択が突きつけられているのだと知った。

 

「な、なんでそんなことを……?」

 

「カサンドラちゃんは崩壊すると言いましたけど。数年の違いでしかないんです。異端児という戦力がいなければ黒龍によってオラリオが滅ぼされる。わたし達が能動的に滅ぼすか、黒龍がするか。その違いしかありません。……まあ、強硬手段と言っても、ここの住民を全員幻術にでもかけて追い出すくらいで、殺したりはしませんよ。人の営みは最低限守る側ですので。でも、異端児が認められないのであればオラリオは要りません。ダンジョンがある効率の良い場所なのでここを半れませんが、都市機能は必要ありません。人類の防人の邪魔をする人は追い出すだけです」

 

 異端児の戦力はよくわかる。全員がモンスターで言うところの強化種。しかも上澄みは全員レベル六以上でフレイヤ・ファミリアには一歩及ばないだけの大戦力。

 人間がこれからも生きていくために、黒龍退治は必須。

 その戦力を人間が捻出できないのであれば、異端児に頼るしかない。

 そんな簡単な構図だった。

 

「それと。わたしのような異形の神もいます。その神は認められても、心を持った異端児は認められないなんておかしな世界ではありませんか。神と異端児の差なんて些細なものですよ。ただ断言しますと、異端児がいないままだと黒龍には勝てませんよ?ダンジョン踏破という夢も叶いません。そういう意地悪な場所が、このダンジョンです」

 

「ベルさん、過程は確かに酷い事があるかもしれません!でも、最後はベルさんとウィーネちゃん、それに異端児の皆さんは笑っていました……!だから、どうか!玉藻の前様を責めないでください……!」

 

 二人の言葉に。

 ベルは奥歯を噛んで、拳を強く握りしめた後に上を向いた。

 

「ウィーネを奪還します!タマモ様、十八階層で良いんですね!?」

 

「はい。今は簡易式神と千里眼でウィーネちゃんを追っています」

 

「行きます!」

 

 ベル達は走り出す。その後を追って、玉藻の前は小さく溜息をついた。

 

「ごめんなさい、ベルくん。フレイヤちゃんを繋ぎ止めるには君が必要なの。戦力としても、人としても、黒龍退治には必須のあなたを成長させるためのこの騒動。……ハルや道満はいつもこんなことをしていたんですね。ホント、わたしって酷い女だなぁ」

 

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