ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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46 暴走

 ベル達は一気に十八階層まで駆け抜けた。立ち塞がるモンスターは全てベルが斬り伏せて、一行は速度を維持したまま十八階層に辿り着く。

 リヴィラの街に着いて、玉藻の前の誘導で森を目指す。森はまだモンスターが現れるゾーンだったが、最早中層のモンスターはベルにとって敵ではない。ベルを先頭にした集団はすぐに大きな扉に辿り着く。

 

 異端児達もフードを被って姿を隠していたためにリヴィラの住人には気付かれなかった。森に向かうことも珍しい集団だったが、その辺りは玉藻の前が幻術でどうにかしていた。

 辿り着いた扉にはなんと希少金属であり『アダマンタイト』を超え、不壊武器(デュランダル)の材料にもなる世界最硬金属『オリハルコン』がふんだんに使われていた。これでは見付けられたとしても強引に突破できないだろう。

 

 全員が扉の開け方に困惑していると、玉藻の前が持ってきていたポーチからある物を取り出す。それはミスリルという金属で覆われた眼球のようなもの。その目にはDと浮き上がっていて、正直よろしくない見た目をしていた。

 

「玉藻の前様、それは?」

 

「この扉を開くための鍵です。これがあるから下層組も『クノックス』に入ることができるんです。……使いますね」

 

 玉藻の前がそれを掲げると、扉は上へと動いて開かれた。

 ダンジョンに更に別の迷宮が広がっているなど、事前に聞かされていなければ困惑していただろう。その迷宮の内部に『アダマンタイト』も使われていて、どれだけ金がかかっているのだとヴェルフは鍛治師の視点で驚いていた。

 

 先へ進むと、そこには檻が複数あった。その中には多くの異端児が入れられており、誰も彼も動けなくなるように痛めつけられて鎖で繋げられていた。

 ベル達と同行していた異端児が檻と鎖を壊して同胞を解放する。それを見計らったようにイケロス・ファミリアの構成員がベル達を囲んでいた。

 

「いや、まあ。追いかけてくるとは思ってたがよお。玉藻の前様、アンタがそれを持ってるとは思わなかったぜ」

 

「彼が、この迷宮に訪れるなら必須だと。義眼を提供した代わりにくれましたよ」

 

「ああ、脱走者サマね。この呪いを加速させたのはムカつくが、その分俺らを強くした。ヘスティア・ファミリアのことは調べたが、俺らには敵わねえ。さっきは俺一人だったが、ここにはお前らを十分潰せる人間が揃ってるからな」

 

 イケロス・ファミリアの人間は十人ほど。その構えから誰もが実力者だというのが見て取れる。

 ベル達も武器を構えるが、その前にベルが叫ぶ。

 

「ウィーネはどこにやった!」

 

「ん?あのヴィーヴルか?今は大人しくさせてる。お前らをズタボロにした後、とっておきのショーを見せてやるよ」

 

 そう言ったディックスは、即座にベルに斬りかかれた。槍で防いだが、それは紙一重で間に合っただけ。レベル四というのは聞いていたが、それにしては速すぎた。

 

「このクソウサギ!テメエ何者だ!?レベル四にしちゃ、その敏捷(あし)はどうなってやがる!」

 

「お前達が心を持った彼らにこんな酷いことができる外道なら……!僕がお前達を潰す!」

 

 そこから団長同士による一騎討ちが始まる。イケロス・ファミリアもディックスがベルと互角だという事実に動揺していた。ディックスはイケロス・ファミリアで一番の実力者であり、彼がいるからヘスティア・ファミリアなんて目じゃないと思っていたのだ。

 ベルが強くても、ディックスなら倒せる。そう思って余裕の態度をとっていたのにその前提が覆っていた。

 

 彼らはこの前ベルがレベル五にランクアップしたことを知らない。しかもかなりのステータスの貯金があったなんて、ヘスティア・ファミリアとタマモノマエ・ファミリアの面々しか知らないのだ。

 

「バカな!?ディックスは()()()()だぞ!あのガキはレベル四の筈だろう!」

 

「ディックスの奴、呪詛は使ってねえよな!?」

 

 他の面々も困惑しながらもヘスティア・ファミリアと異端児と戦い始める。彼らもレベル四の精鋭なのだが、異端児でもかなりの実力者である者も混ざっていたために、戦況はイケロス・ファミリア不利で進む。

 そして、この場にいるもう一人も動き出す。

 

「ここで時間をかけてはいられません。SIN」

 

「な!?うがあああああああああああ!?」

 

 玉藻の前が短縮詠唱をした瞬間、ドワーフの男が燃えていた。

 そして、この場にいた人間が思わず見てしまうほどのプレッシャーを玉藻の前が放っていた。それは神威ではなく、玉藻の前が人間の頃から持つ霊気という力を解放した結果だった。

 

「オイオイオイ!?何で下界で神が力の行使をできる!?いくらここがダンジョンとは違うグレーゾーンだからって、そんなことをしたら神々が下界を滅茶苦茶にするぞ!?」

 

「いいえ。これは極東に伝わる陰陽術という技術ですよ。神の力ではありません。ですから、これを使うことは神々のルールにも反していませんよ」

 

「ホントデタラメだな!?」

 

 超級の魔導師が参戦したようなものだ。一つの魔法でレベル四を再起不能にした。それだけで実力は伺える。

 圧倒的に戦力で劣っていた。

 それを知った一人の団員が奥へ行き、ウィーネを連れてくる。人質かとベル達も警戒したが、それ以上の効果があることにベル達は気付かない。

 

「ディックス、やるぞ!」

 

「ちくしょうめ!ああ、やれよ!」

 

「やめっ、それだけは!」

 

 ウィーネが懇願するものの、男はウィーネの額の赤い宝玉を引き抜く。

 ヴィーヴルはその宝石を抜かれると、本来の竜種の姿を取り戻す。

 悲痛の叫びと共に人間の身体を失い、既にあった片翼に呼応するようにもう一つの巨大な翼が産まれる。身体も膨張をはじめ、七Mを超える体躯に変貌する。

 顔も全身も。何もかも。

 少女の輪郭など残っておらず、ただ一匹の竜へと変貌した。

 

『ヴああああああああああ!』

 

「お、お前ぇ!」

 

 ベルは即座に宝石を剥がした男に肉薄して蹴り飛ばし、宝石を奪還していた。この宝石をまた額に戻せばウィーネはまた人間態に戻せる。だからベルは青い竜へ変貌したウィーネに向き合う。

 だが、フリーになったディックスがそれを許さない。

 

「おっと、これだけじゃねえ。【迷い込め、果てなき悪夢(げんそう)】【フォベートール・ダイダロス】」

 

 呪詛が放たれた途端、ウィーネはどこを向くのか。

 ベル達など見えないかのように一つの階段を登っていった。登っていくということは、地上に近付くということ。そして彼らは地上へ秘密裏に異端児を密輸していた狩人だ。

 それだけの情報が揃っていれば、ウィーネが向かった先なんて分かり切っている。

 

「ハハハハハ!あの先はオラリオのダイダロス通りに直通だ!あの化け物が地上で冒険者様に殺されないようにするには、どうすればいいかわかるよな!」

 

 ディックスはそれだけ言うと、無事な団員と一緒に逆方向の下へ進む階段を降りていった。ウィーネを囮にして逃げ出したのだ。

 ベルは歯ぎしりをするものの、ディックスを追えない。このままいけばウィーネは地上で人を襲って冒険者に討伐される。

 

「ベル、お前だけでも先にいけ!オレ達は後から追いつく!」

 

「ごめんヴェルフ、みんな!先に行く!」

 

 レベル五を超える速力でウィーネを追いかけるベル。

 ヴェルフ達は今の戦闘で負った傷を玉藻の前とカサンドラに治してもらってから地上へ向かう。

 玉藻の前は衰弱していた異端児達の治療をするためにヴェルフ達と一緒に地上へ向かわなかった。その代わり下層から『クノックス』を攻略して途中で行き合ったイケロス・ファミリアの全員を捕縛した明達と合流して、状況を説明。

 

 ベル達だけに任せられないと、異端児達も地上を目指す。

 同胞を取り戻すため。そして彼らが憧れた青い地上の空を見るために。

 人間と異端児の関係に終止符を打つ進軍が始まった。

 

 

 その頃地上では。

 ウラノスが玉藻の前から情報を受け取ってこの日一日を、ダンジョンへの進入禁止としていた。ウラノスだけが感じ取ったダンジョンの異変という扱いで、ギルドを通して全ての住民に外出禁止令を出していた。

 冒険者はもしもの時を想定して都市の外壁及びバベル近くでの待機、もしくは他の住民のように本拠での待機を命じられていた。

 

 フレイヤ・ファミリアは同じように玉藻の前からこの先のことを聞かされていたので戦力をダイダロス通りに展開。

 ガネーシャ・ファミリアも異端児のことは知っていたのでオラリオ中に満遍なく眷属を配置。

 ロキ・ファミリアはこの異常事態に対してフィンの親指が疼いたためにフィンの指示でやはりダイダロス通りへ。

 

 一方ヘスティア・ファミリアは本拠で待機していた。ここにいるのはヘスティアとリリルカ、それに玉藻の前とゴンだけ。リリルカは戦闘を禁止されているので動くに動けない状態だ。

 

「で?タマモ、これって大丈夫なんだよね?」

 

『うん。ハルからの連絡で闇派閥は壊滅したよ。少し前からロキに情報を流して闇派閥の主要部隊がいる隠れ家を教えてあげたからそっちも倒してくれたみたいだし。良かったね。これでオラリオは平和になるよ』

 

「異端児の問題は何も解決してないぜ?」

 

『むしろこれから明達が公表するぞ。良かったな、これからもその胃痛は続きそうだ』

 

「ウガー!?タマモ、君達に胃薬代を請求するぞ!?」

 

『それくらい良いですよ?お金なら余ってますし』

 

 ゴンの言葉にツインテールを振り回して暴れるヘスティア。それをこともなげに抑える玉藻の前。

 リリルカはこれらの話でこの騒動の意味を察する。

 

「地上に異端児が進出して、その存在を公にするのですか?なんとも博打な……」

 

『まあ、最悪認知されなくても問題ないですよ?ロキのところに試金石にでもなってもらって、その強さを知ってもらえば。第二プランでは異端児の力に恐怖してこのオラリオから人を追い出すことですから』

 

「ご、強引だね……。共存できなかったらこのオラリオを君達が支配するのかい?」

 

『似たようなものかな?最悪フレイヤちゃんとヘスティアちゃん、それに異端児で黒龍を倒してもらうから』

 

「おっとぉ。ボクの派閥はそこに組み込まれるのか。ロキに勝ってやったぜ!……おかしいなぁ、総力も最大戦力もロキの方が上じゃないか……」

 

 ヘスティアはやっぱり胃が痛くなって薬を飲んでいた。今はまだロキ・ファミリアに勝てないはずなのに、未来を視た玉藻の前が断言するのだから将来的にはそうなるのだろうと理解した。

 フレイヤ・ファミリアが頭抜けているのはわかる。だがそれでも、そこに並ぶのが自分達だというのは信じられない。

 なにせファミリアを結成してまだ一年経っていないのだから。

 

『今回の闇派閥討伐で、ロキ・ファミリアはラウルくんしかランクアップしなかったからね。頭打ちなんだよ』

 

「それって強敵がいなかっただけじゃない?」

 

『これ以降は更にダンジョンを攻略してもらわないといけないんだけど、深層に行ったからってランクアップするとは限らないし。ゼウスとヘラの後を追ってるだけじゃ偉業にならないよ?』

 

「じゃあレベル七なんてすぐには産まれないのかい?」

 

『うん。吟を派遣すれば上がれる子が四人いるけど、できたらレフィーヤちゃんが置いていかれない速度でランクアップしてほしいし。その子達もランクアップしたばかりで、ステータスが足りてないからね』

 

 玉藻の前の言葉でリリルカはその四人がアイズ、ベート、ティオナにティオネだとわかった。その四人が最近レベル六に上がったばかりだからだ。

 レフィーヤも最近レベル四にランクアップしたとギルドで公表されていた。その五人の関係性は若い以外にあるのだろうかとリリルカは考えるが、そういえばと思い浮かぶことがあった。

 だから聞いてみる。

 

「タマモ様。それは『アルゴノゥト』に関係しているのですか?」

 

「え?リリルカ君、何でそこで童話が出てくるんだい?」

 

『リリルカちゃん大正解。魂は循環するんだよ。英雄の憧憬を宿す子は強いの。そんな魂の結び付きがなくても強い子はいるんだけどね。リリルカちゃんみたいに』

 

「……どうせリリは英雄の器なんてありませんよ」

 

『拗ねないの。それはそれ、これはこれ。ベルくんが選んだのはリリルカちゃんなんだから。ベルくんにとっての道標(アリアドネ)はあなたなの。前世と同じ道を選んだのがハル。選ばなかったのがベルくん』

 

「前世、ねえ」

 

 ヘスティアは前世というものを信じられるかと言われれば、信じられる。神がそういうもので、循環を司る神がいるのだから人間が魂を循環させるくらいあるだろうと思える。

 ヘスティアは本当の『アルゴノゥト』については詳しくないと言える。その時代のことを見ていた神がまず少ないし、原典を読んだことがないからだ。

 だが、玉藻の前の言葉で、そしてベルのステータスから行き着くことがある。

 

「ベル君は、アルゴノゥトなのかい?」

 

『うん。他にも関係者はいるよ。ヴェルフくんも、初代クロッゾだから』

 

「初代クロッゾもあの英雄譚に関わっていたのかい?原典、読みたいなぁ」

 

『じゃあ映像付きで教えてあげますね?』

 

 玉藻の前が星見の力で当時の映像をヘスティアに送り込む。

 その映像を見ていた時間は一分ほど。それだけの時間で過去の英雄譚の全てを叩き込まれていた。

 

「ええ……。めっちゃ見覚えのある子が多かったんだけど……。というかアルゴノォト、仮面を被りすぎじゃない?……それで、ジュピターはねえ。うん、ゼウスだねえ……。というかウルスって、ヘファイストスぅ……」

 

 色々知り合いもいたようで、ヘスティアは色々な感情がごちゃ混ぜになっているようだった。

 リリルカも同じように情報を受け取っていたので、ヘスティアの困惑はすごくわかる。

 そしてベルは前世から女誑しだったようだと知って溜息をついていた。

 

「だから君達は、ボクを優遇してくれるのかい?」

 

『理由の一つだね。そしてベルくんはそういうことに関係なく世界を廻す人だから。異端児もフレイヤちゃんも魅了しちゃうってよっぽどだよ?』

 

「じゃあベル君が他のファミリアに入ってたら……」

 

『あ、それは大丈夫。わたしかハルくんが絶対にヘスティアちゃんに押し付けたから』

 

「それは嬉しいのやら悲しいのやら。あれ?明君もベル君のように前世があるのかい?」

 

 ヘスティアはそのことに気付くが、『アルゴノゥト』の関係者ではなさそうだ。

 だから答えを知っている玉藻の前に聞く。

 

『ハルくんは安倍晴明。狐と人間の半妖で、のちに人々からの信仰で極東の神になった存在です』

 

「え。ってことは彼って土地神なの……」

 

「神様でしたか。ならあの強さも納得です」

 

 ヘスティアが人間から神に昇華した存在だと知り、幼少期から強かった理由を知ったリリルカは頷いていた。

 神になってしまえば零落しない限り産まれ変わっても神のままだ。

 

『さてと。時間だね。ダイダロス通りに向かおうか。リリルカちゃん、これで守ってね?』

 

 玉藻の前は立ち上がり、どこからか出した布で包まれた細い物を渡す。守れということは武器だろう。

 そして危険ということだ。

 

「危ないのかい?」

 

『わたし達は別に。でも丸腰は危ないかな』

 

「いざという時はゴン様もいるのでは?」

 

『オレもやることがあるからな。お前も必要なら動けばいい』

 

 彼女達も騒動の中心へ向かう。

 そこで玉藻の前の予測通り、リリルカはその武器を使うことになる。

 

 

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