ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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5 顔繫ぎ

 それからベルはヴェルフに希望の防具とサブウェポンについて伝える。足りないものは足の防具と籠手、それに取り回しの良い武器として短剣をベルが希望した。

 刃渡りなどは店にあったサンプルからどんな感じが良いなどと確認を取って、身体の採寸も終わってヴェルフはこう切り出した。

 

「お前の実際に戦ってる所を見せてくれ。そうすればより良いモンが作れる」

 

「でも僕、駆け出しですよ?」

 

「どこに駆け出しで、単独でミノタウロスを足止めできる奴がいるんだよ?オレの方がステータス上だろうけど、オレでも無理だ。その経験値もあるだろうし、今のお前がどれくらい動けるのか知っておきたい。現物がある奴だって調整しないとだしな」

 

「ベル様のことはもうそんなに有名になっているのですか?」

 

「ん?オレが知ったのはこいつのおかげだぜ」

 

 リリルカの質問に、ヴェルフはベルが持ってきた手紙を見せる。ベルもリリルカも手紙の中身を見ていなかったが、手紙の中身である便箋を見て、その正体をリリルカだけが看破した。

 

「まさか『霊糸の手紙(シークレット・レター)』?」

 

「その通り。これ便利だよなー。魔力が使える人間に限られるが、秘密のやり取りにはうってつけだ」

 

「魔道具なんですか?」

 

「おう。魔力で文字を作って、相手の魔力に反応しないと文字が浮かび上がってこないっていうシロモンでな。魔力が使えない旦那達じゃなくて金蘭の姉御が代筆してくれたんだろ。オレの魔力で文字が浮かぶってんで、オレだけへのメッセージがあったわけだ」

 

 『星見の館・芒野』は何かと冒険者にとって便利な魔道具を売っている。確かに便利な物が多いが、その製法も不明。模倣も困難で、必要だったらお店で直接買うしかない。

 独自性から唯一無二の商店となっていて、顧客はどことも被っていない。市場独占状態だった。競合はヘルメス・ファミリアの【万能者】くらい。

 

「あー、でもベルのことはウチの主神も知ってたし結構有名になってるかもな。ベルの容姿は目立つし、ミノタウロスの件は危険性から結構流布されてる。他に面白いことでもなければ噂は長引くかもな」

 

「それは嫌だなぁ。僕が倒したわけじゃないのに」

 

「諦めろって。とにかく、明日からでも一緒にダンジョン潜ろうぜ。上層の浅い階層でいい。ミノのことはそう何度も起きないはずだ。遠征に行ってるファミリアもないしな」

 

 そんな感じで話は纏まった。数日一緒にダンジョンに潜って、お互いのことを知っていきたいとのこと。それに顧客第一号ということで製作費用はタダでいいと言う。その代わりドロップアイテムがあれば優先的に流して欲しいとのこと。

 ベルとリリルカはギルドに行って魔石の換金を行なった。ミノタウロスの魔石は品質も状態も良く、これまでで一番の稼ぎになった。これで今夜の外食は余裕だとベルは喜ぶ。

 

 神々や冒険者の目線を受けながらもポーションの買い付けもしてベル達は本拠へ戻った。リリルカは夜に『豊穣の女主人』で集まることにして『星見の館・芒野』に戻り、ベルは本拠に帰ると既に簡易式神による改修作業は始まっていて内装はすっかり綺麗になっていた。

 

 小人族のような人型のペラペラな紙でできた簡易式神が何十人も一斉に動いて掃除や補修などをテキパキとこなしていく。

 その様子を楽しく眺めていたベルだったが、ヘスティアが一人で帰ってきた。

 ついでに、ロキ・ファミリアの団長フィンとロキ、仲介役か明と玉藻の前も連れて。

 

「うわー。こんな数の式神が動いてるの初めてやわ。明はん、これが今回の賠償の一部なん?」

 

「そうですよ。神ロキ。本拠の補修と商品の無償提供。後は彼の治療と彼の損失した武具の代わりを紹介。こんな所です」

 

「文句の付けようないアフターフォローや。タマモ、ホンマに今日はいるだけやん」

 

「ギルドに介入される前に手厚くやるのがコツですよ?」

 

「それはウチみたいな大派閥じゃできへん」

 

 それぞれの自己紹介をして、ロキ・ファミリアの補填の話に移る。ベルは集まっている面子の中で一番格の違いがわかっていて終始緊張していた。

 片や都市最大派閥の主神とレベル六の団長。片やお世話になっているファミリアとはいえ知れば知るほど規格外な集団である主神と、人の未来を見通していた才人。

 

 場違い感が半端なかった。

 ベルとヘスティアの視界には動き回る紙の人間が入り込んでいたことも一因になっている。

 

「まずは謝罪を。遠征の帰り道とはいえ同業の者を危険に晒したなんて先達としてあってはならないことだった。申し訳ない」

 

「いえいえいえ!結果的に僕達は無事でしたからっ!」

 

 小人族の憧れとも言うべき【勇者】フィン・ディムナに頭を下げられて、ベルは慌てて両手と首を振る。

 こんなことを都市の女性達に知られたらマズイからだ。たとえ相手に非があったとしても。

 

「……君は謝罪しないのかい?ロキ」

 

「うっさい、ドチビ。……いや、すまんかったヘスティア!この通りや!子供の不始末はウチの責任。そこを履き違えるつもりはない。何でもするで」

 

「君、本当にロキ?下界に来て変わったなあ」

 

「タマモとこの子らから話は聞いとんのや。ギルドに目を付けられるのも困る。それが考えられなかった異常だとしてもや。ウチは子供らを守るためならこの軽い頭、いくらでも下げる」

 

 ロキの本心と、実際に頭を下げる様子からいちゃもんをつけようとしたヘスティアは毒気を抜かれる。ロキとは下界に降りてから交流がなかったので天界の頃と同じように考えていたが、それは覆っていた。

 

「まあ、いいや。それで補填の話をしよう。再発防止してくれたらボク達は気にしないって決めたんだ」

 

「おおきに。んで、補填やけどほとんど実務的なことはタマモがやってもうたし。ウチは金銭と情報くらいしかあげられへんで?回復薬でも買ったろか?」

 

「情報って、ダンジョンについてかい?」

 

「そうやな。モンスター分布とか、ウチのファミリアで調べた内容をくれたる。深層まではまだ行けないやろうしそこまではファミリアの長年の財産やから渡せんけど、上層と中層、特にリヴィラの街までの内容はどこのファミリアよりも精密な自信がある。将来的にも、すぐにも使える情報や。いるか?」

 

「いる。ベル君の安全が第一だ」

 

 というわけで十八階層までの詳細なダンジョンマップに三十万ヴァリス。そして回復薬の箱詰めが補填内容になった。

 それを書面に纏めてギルドへ提出する書面を完成させて、雑談タイムとなった。

 

「そもそも発端は何だったんだい?」

 

「遠征帰りに十七階層で突如産まれたミノタウロスの十七匹の大量発生。一度に産まれるモンスターの数としても異常でした。後は帰るだけと考え、主戦力ではない二軍による戦闘経験をつけようと考えレベル三までの遠征について来た者に対処をさせました。危なくなったら僕達第一級冒険者も加勢する腹積もりでしたので」

 

「ふうん。最初からおかしかったのか」

 

 フィンの説明に、当時の状況がわかってくる。ベルは五階層でミノタウロスと遭遇したことしか知らなかったので、そんなイレギュラーもあるんだなと心に留めた。

 

「まともに戦ったのは一匹だけでした。それ以外は蜘蛛の巣を散らすように逃走。ありえない事態に少し放心した後に金蘭が簡易式神を飛ばして、吟が駆け出したのを見て全員が対処に走りました。討伐しつつもミノタウロスはどんどん階層を上がっていき、最終的には五階層に到達しました」

 

「それが僕達の会ったミノタウロス……」

 

「今回吟と金蘭にはだいぶ助けられました。神タマモノマエ、改めて感謝を」

 

「いえいえ。あの子達がしたいように動いているだけですから。ベルくんもごめんなさいね?ハルにとんでもない物押し付けられて」

 

「ハル……?」

 

 ハル、なんて名前の人が知り合いにいただろうかとベルは考えてしまったが、明がそれを説明する。

 

「ミクが俺を呼ぶ時のあだ名だよ。ミクって玉藻のことを呼ぶのも俺だけか」

 

「特別、なんですね?」

 

「あー、やーや。こうも人様の本拠でイチャつくってなんなん?年中発情期」

 

「失礼な、神ロキ。家だったらもっと甘やかしているよ」

 

「え?え?」

 

「あー、ベル君は知らなかったっけ。タマモと明君って恋人なんだよ。本当に稀にいる、神と人のカップル。オラリオベストカップルとまで言われるバカップルなのさ」

 

「やだヘスティアちゃん。照れる」

 

 頬を緩めて笑う玉藻の前の表情を見て、ベルはこのオラリオの凄さを知る。

 神様と人間が恋人になれるだなんて思いもしなかったために。

 それから少しの雑談をして、この日は解散。フィンからも何かあったら協力しようと言われて、明も何かあれば訪ねてくれと言われる。明にベルはタマモノマエ・ファミリアの夜の予定を聞いたが、全員予定があると聞いて肩を落とした。

 

 この後夜になって、ベルはヘスティアを夕食に誘って酒場に向かう。途中でリリルカと合流して三人で食事をすることに。

 『豊穣の女主人』は夜の街で一等輝いていた。

 

「うわあ。見るからに酒場って感じだね」

 

「吟さんと金蘭さんにもお世話になったから一緒にご飯食べたかったなあ」

 

「あのお二人も外でご飯を食べるのだとか。他の方々はギルドに報告があるとかで」

 

 ヘスティア、ベル、リリルカがそう言ってお店に入る。入ってすぐ、朝会ったシルが案内をしてくれてカウンター席を使うことになった。

 中はかなり活気があり、冒険者達で溢れかえっていた。従業員は全員女性で、エルフや猫人までいた。その全員が美人で、従業員目当てで来ていると丸わかりな客もいた。

 ベルも特に好みだと思っていたエルフの、とても綺麗な女性がいたが何故かベルの胸は高鳴らなかった。

 

「ベル君。あの店員君とは本当に朝会っただけかい?」

 

「え?はい。朝客引きされて。それ以前に会ったことはないはずです」

 

「それにしては距離の詰め方が……。ボクも何だか変な気がしてるし。……なんだろ」

 

「変な神様」

 

 ヘスティアがシルのことを見て首を傾げている。ベルはシルに変なところなんてあるのかわからず、渡されたメニュー表を開く。

 そのメニュー表に書かれている値段を見てベルとヘスティアは目を見開く。

 

 予想していたより高いのだ。その、三倍くらい。

 この値段をリリルカは納得していた。従業員のルックス、酒場の規模、大通りにある繁盛店という立地。これで安いわけがないと確信していた。

 

「りりり、リリ。今日は僕の奢りだからね。す、好きに注文して?」

 

「いえ、ベル様。リリは自分で払いますよ。このお値段も予想していましたし。そもそも迷惑をかけたとかでしたら昨日の件は責任を折半にすると決めたではありませんか。ベル様はヘスティア様に奢ってください」

 

「あ、ベル君!ロキにもらったお金があるじゃないか!それを考えたらこんなの端金だよ!!」

 

「あれはファミリア資金にするからよっぽどのことじゃない限り崩さないって決めたじゃないですか。あ、でも僕の装備更新代がヴェルフのおかげで浮いたから余裕はあるかも?」

 

 ヘスティアに言われて思い出したが、ヴェルフとの契約で購入費は丸々浮いている。ヴェルフは最高の武具を作りたいようで、費用もドロップアイテムがあれば十分お釣りが来るという。

 そのドロップアイテムがあるかどうかは、運になるわけだが。

 

 ベルは財布を確認するとそこそこの金額が入っていた。ちょっと豪華な食事をしても余裕があるほど。余った資金をファミリアの貯蓄に回せば良いと判断した。

 そういうわけで三人で大皿のパスタとサラダ、それに今後他派閥との宴会もあるかもしれないことと冒険者にはお酒は切っても切れない関係だからとお酒も注文。

 

「ベル様ってお酒飲んだことないんですか?」

 

「まあ、十四歳だから。村では飲ませてもらえなかったし、オラリオに来てからは生活費を稼ぐのに手一杯でお酒を飲みに行くのも買いに行くのもできなかったから」

 

「ならリリの配分を減らせばいいのに……」

 

「それはダメだよ。二人で潜ってるんだから、二人で等分に分けないと。危険は同じなんだから」

 

「そこのところはきちんと契約書を作らなかったサポーター君が悪いね。取り決めもなく配当が悪いことを文句言うのはご法度。それが君の譲歩だとしてもね」

 

 リリルカは本当にお手伝いの気分でサポーターをしていたので契約書を用意していなかった。それを後悔したのは初日。駆け出しなのだから報酬も少なかったのに、サポーターとしての仕事もほぼせずに手伝っただけなのに山分け。受講料だの何だのと理由をつけられて渡されてしまった。

 

 実のところ、それらの報酬より『星見の館』で店番をしてもらうお小遣いの方が多い。人気店の店番の方が実利が良いと知られると、お金目当ての冒険者に怒られそうなのでリリルカは一度も金額を口にしたりしないが。

 

 そういうお金にうるさい冒険者(ソーマ・ファミリアの走狗)を知っていたからこそ。

 そんなやりとりをしている間に料理が運ばれて来る。ついでに運び終わったシルがリリルカの隣の席に着く。彼女は本当はベルの隣に座りたかったようだが、ベルは二人の女性に挟まれて座っているのでカウンター席の構成上不可能。

 ヘスティアの脇は意図的に避けていた。

 

「シルさん?お仕事はいいんですか?」

 

「休憩です。予約の団体様が来られたら戻らないといけませんが、予約までもう少し時間がありますので。ささ、冷める前にお食べください。冷ましたり残したりしたらミア母さんはうるさいですよ?」

 

 二人は山盛りの食事に目を輝かせて、一人は食べられるだろうかと不安に思いながら取り分けてパスタを口に運ぶ。

 

「「うまい!!」

 

「美味しいです」

 

「そりゃあ良かった!どんどん食いな、これはサービスだ」

 

 カウンター越しからドワーフの恰幅の良い女性、ここの店主ミアが追加で肉が入った野菜炒めを置く。それをありがたく受け取ってお酒を飲み、楽しい時間は始まった。

 シルがせっかくだからとベルとリリルカの冒険のことを尋ねて、リリルカが話すのを面倒くさがりお酒が入っていたこともあってベルは上機嫌に話し始める。

 

 最初にコボルトを倒せて嬉しかったこと。あまりの嬉しさにヘスティアへ報告しようとダンジョンから帰ろうとしたらリリルカに止められたこと。リリルカにダンジョンのことを直に教えてもらい、ギルドの担当であるエイナに聞いた授業よりよっぽどためになったこと。

 

 リリルカの見る目は正しくて、どの階層に行くべきかの基準がよくわかっていたこと。そのおかげで大怪我をすることなく二週間を過ごせたこと。

 

 これを聞いていてリリルカは話の補填をするまでもなく外方を向き、シルは苦笑を、ヘスティアは酔いが若干醒めてマジかーと思っている始末。

 話している本人は酔っていることもあって気付いていないが、周りの人間からすると「リリはとってもすごいんですよ〜」と白兎が親に自慢しているようにしか聞こえない。

 

 惚気ている、とも言える。

 話がミノタウロスの一件になると、ベルはいきなり調子が狂う。ミノタウロスが怖かったとか、それでも女の子を囮にできなかっただとか、後でリリルカとヘスティアに怒られるんじゃないかと気が気じゃなかったと。

 

 そんな話し声が何故か酒場でよく通ってしまって、それを聞いた先輩冒険者達は拍手喝采を送った。

 その話し手が今話題の、【狼印の子兎】だったために。

 なおこのあだ名のようなものはベートがデレたことが原因で神々が広げた。

 

「おめえはすげえよ、【狼印の子兎】!ミノタウロスから逃げないで立ち向かったなんてな!」

 

「レベル二だって一人じゃやろうとしねえ。駆け出しでやるお前は莫迦だ!」

 

「だが、莫迦で蛮勇だとしても。テメエは女一人守った。止めを刺したのが【剣帝】だろうが、テメエのおかげで死人が出なかった。それは誉れだ」

 

「祝え!ここに新たな英雄が産まれたことを!」

 

「「「【狼印の子兎】に!!」」」

 

「「「乾杯っ!!」」」

 

「皆さん……!ありがとうございますっ!」

 

 冒険者達は勝手に褒めて勝手に乾杯をし始めた。それに何故か喜んでベルもお礼と共にジョッキの中身を飲んでいく。

 突然の酒のおかわりに、従業員達はバタバタし始めた。とはいえ埃が舞ったりお客の迷惑にならないように迅速に行動を完了させていたが。

 この女達、できる。

 

(あーあ。これ酔いが醒めたらベル様、恥ずかしくて寝込むんじゃ?初めてのお酒でブレーキ効いてないんでしょうし)

 

 リリルカはそんなことを思ったが、ここで声を上げたらベルが守った女だと露呈する可能性がある。ギルドにいた人間もいるかもしれないが、リリルカはバレたら色々面倒なので息を潜めながらジョッキに口を付ける。

 彼女もこんな騒ぎになってしまって恥ずかしいという感情が顔に出ているのを隠すために、他のことで気を逸らしているだけ。酒に逃げていると言ってもいい。

 そんなドンチャン騒ぎの中、シルの休憩時間を終わらせる宣告が、お店に響く。

 

「ご予約の団体様ご来店ニャ!」

 

 やって来たのはロキ・ファミリア。

 遠征を死者なく終えた慰労会として、遠征から帰ってきて数日の内に行われる飲み会。そこには遠征のメンバーと、事前に誘われていた吟と金蘭もいた。

 




おや、酒場の様子が…?
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