ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか   作:かぼちゃマスク

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あ、今更ながら原作最新刊までのネタバレあります。


6 未邂逅

「なーんか今日はすっごい活気あんなぁ。酒場が元気なのはええことやけど。んじゃあ皆酒は行き届いたな?遠征お疲れさん!乾杯っ!」

 

「「「乾杯っ!」」」

 

 ロキ・ファミリアはいつものように慰労会を始める。今回の遠征は最高到達階層を更新できなかったが、子供達が大きな怪我もせず死者も出なかったのでロキの気分は良い。武器や防具をいくらか溶かされてしまったのは痛手だが、命には変えられない。

 

 帰り道のイレギュラーにも、先程ギルドに寄ってきたことで煩雑なことは全て終了。ヘスティアへの賠償もギルドが渡してくれるので後顧の憂いなし。安心して大好きなお酒を飲めるというもの。

 

 『豊穣の女主人』はご飯も美味しく店員も美人揃いなのでとてもロキ好みなのだが、神酒(ソーマ)玉藻の前が作った御神酒(カオル)を置いていないのはいただけなかった。

 神酒は現在発売中止で、カオルについては非売品だ。『豊穣の女主人』で入手するのも困難な物を仕入れておけなんて悪魔のようなこと、ロキには言えない。神だから。

 

 ロキ・ファミリアでそこかしらが盛り上がっている中、遠征に参加していた吟の隣に座る少女がいた。ロキ・ファミリアのレベル五。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 アイズを慕う同じファミリアのエルフ、レフィーヤは憧れの人が自分の側から離れていったことにショックを隠せていなかった。

 

「吟、さん。手合わせして」

 

「【剣姫】殿。それは毎回断ってるんですけどねえ」

 

「ベートさんは、相手したって聞いた」

 

「いえ?銀郎が相手したことはありますけど、おれは相手していませんよ。なあ?金蘭」

 

「そうね。相手はしていないわね」

 

 正確には。一回だけ吟はベートをのしたことがある。その結果ベートがランクアップの原因に気付いたが、だからこそそれ以降吟には挑まなかった。

 しっかり勝てるようになってから。まずは銀郎を倒してからだとベートは決めていた。

 

 吟はレベル五、銀郎はレベル四ということになっている。その二人に負けてランクアップなど、負けた本人が一番納得いっていない。それでもそう申告している理由があるのだろうとベートは感じて口外していない。

 ロキにランクアップの原因を尋ねられても、強敵と戦ったとしか言わなかった。

 

「同じレベル五で研鑽するよりも、それこそベートやフィンと戦った方が良い経験になるのでは?」

 

「同じ剣を使う人として、何か盗みたい」

 

「おれは魔法が使えないから、戦闘スタイルは結構違うと思いますよ?それに剣と刀は似ているが、全く違う武器。包丁とナイフほど違う」

 

「えっと……?」

 

「このバカ弟は料理に使う包丁と、戦闘で使うほど二つの武器は扱いが異なるって言ってるのよ。教えられないって断ってるの」

 

「そう、なんだ。さすが、だね金蘭。お姉さんみたい」

 

「お姉さんだもの」

 

 本来金蘭による翻訳など必要としないのだが、アイズは天然なので例え話などを理解できていなかった。

 ベートと戦うこと以上に吟はアイズに剣を教えるということは不可能だ。

 刀は斬る技術に特化しすぎている。【剣帝】と呼ばれることには不釣り合いなほど吟は刀のみに特化した武士だ。

 

 剣をすぐに壊すような、扱いの悪いアイズには殊更教えられることはないだろう。刀は繊細で、変な力の入れ方をすれば容易に折れる。そんな刀の扱いしか知らないので、アイズが積み上げてきた剣の扱い方を崩しかねないので指導はできなかった。

 手合わせも、ベートの前例からランクアップでもされたら困るので断るしかない。アイズは天然なので吟と戦ってランクアップしたと、ポロっと言ってしまいそうな危うさがある。

 

 そうしたら吟に突撃してくる冒険者が急増するだろう。吟はそんなこと望まない。

 アイズは天然だから、断られるのだ。

 

「そんなに違う?」

 

「こっちの方が伝わりやすいか?剣と杖ほど違う。おれから何か技術を学ぼうとすれば、新しい武器を一から学ぶに等しい。魔法は専門外。おれほど【剣姫】殿の師匠として不適合な人間もいないでしょう」

 

「剣舞を見せてもらうのも、ダメ?」

 

「まあ、それくらいなら……。それならあの子にも見せるか。それを参考にするかどうかは本人次第だ」

 

 ここに、ベルの訓練が強制決定。

 

「吟さんは、どうしてそんなに強いの?」

 

「なんてことのない。ただ主人達を刀で守りたくて、この道を進んだらこうなってただけですよ」

 

「主人達?団長の【星見】さん?」

 

「それと玉藻の前様ですよ。あの二人はおれにとって同格なので」

 

「同格……。ププ」

 

「何か?金蘭」

 

「なんでも?そういうことにしておきましょう」

 

 金蘭は吟の言い分に思わず笑みを零してしまったが、核心については何も言わなかった。それを言い出すと金蘭にも飛び火するからだ。

 

「【呪術師(アイテムメーカー)】さんは?主人じゃないんですか?」

 

「あー、道満は。主人達の悪友?玉藻の前様からするとおれ達と同じ区分なので」

 

「レベル六で、タマモノマエ・ファミリアじゃ一番強い人、ですよね?」

 

「一番強い。それは事実ね。だけど、あなたはそれを聞きたいわけじゃないでしょう?アイズ、あなたはあの人があまりダンジョンに潜らない理由を知りたいの?」

 

 金蘭の問い返しに、アイズは果実水を飲みながら頷く。

 レベル六であまりダンジョンに潜らないのは、知っている限りだとフレイヤ・ファミリアの眷属だけ。そもそもフレイヤ・ファミリアは特殊すぎて、都市最強であるオッタルですらダンジョンに潜らないことが多い。

 

 蘆屋道満(あしやどうまん)も魔道具作成能力を主としているからか、あまりダンジョンに潜らない。アイズとしては自分より強い人がダンジョンに潜らないことが心底不思議で仕方がないのだ。

 

「あの人は戦う人ではないから。いいえ、戦い終わった人。それは明様もなのだけど。強さにも色々あるのだけど、もう強さを求めていないからダンジョンにはあまり潜らない。精々が未知を求めて、素材を集めに。それくらいかしら」

 

「強さを求めていない……?」

 

 それこそアイズからしたら驚天動地の発言だった。冒険者になる理由は様々だが、アイズはある使命のために強くなるために冒険者になった。神の恩恵が欲しいだけなど、冒険者の形態もいくつかあるだろうが、強い人が強さを求めないというのはどういうことか。

 

「もう強さに納得がいったから……?」

 

「それも一つあるわね。一番の理由は、もう使命を終えたからかしら?あの人にとって今の生活は余生をゆっくり過ごしているだけなのよ」

 

「余生?あの、【星見】さんは私と同い年くらいだよね?」

 

「そうね。でもやるべきことが終わっちゃったの。だからダンジョンには潜らないの。……あなたの暗い想いもわかるけど、それだけが強さじゃないのよ」

 

 大人の女性が子供に伝えるように、金蘭はアイズにゆっくりと言葉を重ねる。

 明の人生を、後ろで、横で見てきた一人の女性として。彼女はアイズと明は別の人物なのだと話していく。

 

「強さは色々ね。あなたのように剣を磨くもよし。明様やリヴェリアのように陰陽術や魔法を極めるのも一つの強さ。組織を纏めるためのカリスマや、運営のための事務処理能力だって一つの強さだわ」

 

「【星見】さんや【呪術師】さんも、戦闘だって強いんだよね?」

 

「それはもう。私や吟は封殺されるし、まともに戦える相手はどれだけいるか。やろうと思えば呪術でオラリオを全滅させられるわ」

 

「えっ」

 

「危ないからやらないわよ?陰陽術ってちょっと特殊で、神々にも作用するし、発展アビリティの【耐異常】とかも容易にすり抜けるわ。オラリオに呪いを蔓延させて死の都市にもできる。やる意味がないけど。それは強さになるのかしら?」

 

「……わからない」

 

 人を制圧する力、と考えれば強さかもしれない。

 だがそれを強さと言うには間違っているような気が、アイズはした。

 

「ダンジョンに潜るだけが強さじゃないの。それにあの人が作る魔道具には、お世話になっているでしょう?そういう生き方もあるの。強さを持っているからって、それを振るうことが絶対正しい訳でもない。あの人がダンジョンに行かない理由は納得がいったかしら?」

 

「うん……。強い人はいっぱいいる。それは使い方次第、だね」

 

「吟と銀郎の剣技を参考にしたいならいくらでも見せてもらえるから言いなさい。弟は暇してるもの」

 

「人をグータラみたいに言うのはやめていただけますかねえ?姉上?」

 

「私のように商品を作ってから暇じゃないって言ってくれる?」

 

「……刀の試し斬りならやってるのに」

 

「それ、銀郎でもいいじゃない」

 

 アイズは自分とは違う、他の家族の在り方に柔らかく笑う。その様子を見てしまったレフィーヤはきゅう、と倒れてしまい、ベートはさっと顔を背けていた。

 吟と金蘭はベル達の存在に気付いていたが、彼の誘いを断ってこちらに参加していたので声をかけなかった。酒場で話題になっている内容も聞き取れたので今無闇に突けば迷惑になるだろうと自重した。

 

 それから冒険者らしい騒がしさは続くものの、不快な喧騒ではなかった。

 ベル達がお店を出ることを確認して、金蘭はお店のカウンター側に仕掛けておいた認識阻害の術式を解除しておいた。その術式が張られていたことに気付いたのはたった一人。

 

 神でもなく、エルフの王族でもなく。薄鈍色の髪をした一人の店員。その女性は帰るベル達に頭を下げるのと同時に金蘭へ小さく目配せをした。金蘭はそれに応えることなく、指の先に霊気(れいき)を込めて空に【神聖文字(ヒエログリフ)】を彼女だけに見えるように描く。

 

 彼女は一段と花のような笑顔を振り撒きながら仕事に戻っていったが、金蘭としては彼女のために陰陽術を使ったわけではない。ベルのためにやったことがたまたま彼女の思惑と一致しただけ。

 

 彼女は追加の料理を席に持ってきたのと同時に、人間の身体のスペックながら吟以外に気付かれず金蘭の袖に『霊糸の手紙(シークレット・レター)』を忍ばせた。

 内容はお礼だとわかっているが、ここで広げるわけにはいかなかったので本拠に戻ってから見ることになるだろう。

 そこには相談内容が記載されていたが、明に確認を取って依頼の品を提供。

 彼女には大層喜ばれ、タマモノマエ・ファミリアは貸し一を得ることになる。

 

 




ベートキャンセル。

アイズとベル君はニアミスばっかですね。
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