ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
「オラァ!」
ヴェルフが身の丈もある大剣を振るう。その膂力と技が合わさった一撃は、周りにいたコボルトを容易に両断する。「戦う鍛治師」を自称しているだけあってレベル一としては技量が高い。
その脇で速度を活かしたベルが剣を振るい、ヴェルフの大剣の範囲外にいた一つ目の大きなカエル、フロッグシューターを狩る。
ベル、リリルカ、ヴェルフの三人はパーティーを組んで五階層を訪れていた。お互いの戦闘スタイルを把握するために好き勝手戦っていた。
「ベル!武器はやっぱり速度を活かしたナイフがいいか!?」
「これでも男だから、剣に憧れるんだよね!大剣とは言わないから、普通の剣!」
「オーライ!それは買おうとしてた剣を加工するなり打ち直せばいい!サブウェポンは?」
「取り回しが良い武器が良い!メインが剣なら威力と長さも両立してるでしょ?ならリーチか速度か威力か悩んじゃって」
「いくつか試作品があるから試してみて、それの中で気に入ったやつってのもアリだろ!」
「試して良いの!?」
「鍛治師舐めんな!在庫はある!」
二人して叫びながら、お互いの動きを見ながらモンスターを討伐していく。その余裕の有様を後ろにいたリリルカは一応周りを警戒しながらついていきながら、二人が余裕である理由も納得する。
装備こそ揃っていないが、ステータスだけを考えれば十階層辺りでも通用する強さが二人にはある。ミノタウロスの一件と装備の問題から大分楽な階層で安全マージンを確保しているに過ぎない。
(いや、それにしてもベル様の成長速度はおかしいですが。まだ冒険者になって二週間。それであのステータスは異常です。明様が何か弄った……?いや、それこそあり得ない。神の恩恵に干渉するなんて神じゃあるまいし。あの魔導書擬きが埒外であっても、魔導書とはそういうもの。唯一神の恩恵に干渉できる人造のアイテムですから、ただ単に明様と金蘭様の腕がおかしいだけですね……)
リリルカはそう思い直し、二人が辺りのモンスターを一掃した後、モンスターの死体から魔石を抜いていき、ドロップアイテムも回収していく。
ベルも解体作業を手伝い、ヴェルフはリリルカの手際を見てホウとか言いながら褒めていた。
「リリスケは仕事が早いな。いやいや、ベルと一緒に潜ってたって言ってたから腕は予想していたが、予想以上だぜ」
「ありがとうございます。冒険者様の迷惑にならないようと鍛えた技術ですが」
「あー、あり得ねえよなあ。自分と違うことやってもらってるのに見下すなんてよ。パーティーってそういうもんじゃねえだろ?剣士と魔法使い、回復役と同じで冒険者、鍛治師にサポーターって役目なだけだろ。オレはそんなに綺麗に魔石を取り出せねえ。半分くらい砕いちまうんじゃねえか?」
「ヴェルフ様は、変わっていますね」
「鍛治師なんてこんなもんだと思うが」
リリルカとヴェルフの仲も上々。鍛治師として専門職に思うところがあるのだろう。
結局その日は五階層より下には行かず、ベルだけで戦ったり、ヴェルフだけで戦ったりした。戦闘スタイルのの確認ができて、装備の希望も聞けてヴェルフは満足したらしい。
ベルも新しく覚えた魔法を試してみて、付与魔法である【
雷を身に纏った場合、敏捷がかなり上がる。そのまま体当たりをしたら相手が痺れる。ただの体当たりよりも威力が上がることがわかった。ベルの場合全力で付与すると、あまりの速さに身体を制御できなくて壁にぶつかるということもあった。
武器にだけ纏うと、マインドをあまり消費しないこともわかった。武器の切れ味と威力が上がることも確認できたが、武器の耐久性が落ちているとヴェルフが指摘。あまり武器には付与しない方が財布的に良いかもという話になった。
ポンポン折られたら、専属契約を交わしているヴェルフとしても造ることが間に合わなくなりそうだと言う。
そして追加詠唱である【
しかも限界が来たのか、ベルはマインド・ダウンで息を荒くした。ベルの魔力のステータスが低いことも関係しているが、追加詠唱は一日一回だけとすることを決める。
そんな帰り道で。大きな檻を運搬するガネーシャ・ファミリアの集団を見かける。
「モンスターを地上に運んでる?」
「ああ、もうすぐ【
ベルは【怪物祭】について知らなかったのでリリルカに説明してもらっていた。人々の前で調教師がモンスターを
実際に調教するのは当日なので、今は弱らせて檻に入れるだけなのだとか。
様々なモンスターが檻に入れられて運ばれているが、大体は上層から中層辺りのモンスターだ。
「いや、しかしかなりの数の護衛だな。ミノ騒ぎでギルドも相当警戒してると見た」
「駆り出されている冒険者が多いですね。護衛を【
「へー。僕は見たことないモンスターばかりだなあ。それにお祭りも初めてだから楽しみかも」
邪魔をしないように歩きながら、そんな感想を言い合う三人。
その三人の目に留まったのは、大きな赤い爬虫類のような四足歩行をしそうなモンスターを見付ける。顔だけはとても厳つくて爬虫類なんて呼べないが。
そのモンスターを見て、リリルカだけがウゲッという声を漏らした。
「リリ?」
「ああ、すみません。リリも見るのは二回目ですが……。アレ、インファント・ドラゴンです」
「インファント・ドラゴンって言うと、上層の階層主とまで言われるレアモンスターだな?十二階層にいるっていう」
「そうです。腐ってもドラゴン。中層へ行く前の最後の難関とまで言われるレベル一のパーティーを何度も屠ってきたとされるモンスター。かなりの強敵ですよ」
その数Mある体長から強固な鱗、鋭い牙を見てリリルカの言葉に納得するベル。ヴェルフは物珍しいと見るだけで、物怖じしていなかった。
「アレも調教しちゃうんだ?」
「調教師の方々はほとんどが上級冒険者ですから。中層のモンスターくらいはいつも調教してますよ。リリはお金がなかったので毎年タマモノマエ様の惚気で聞く限りですが」
「ああ、噂のバカップル……。へファイストス様から聞いてるけど、よっぽどだな?」
「よっぽどで済んだら世話ないですよ。ヴェルフ様」
リリルカはよっぽど惚気を聞かされているのか、げんなりした様子で歩く。
【怪物祭】までもう少し。
・
ガネーシャ・ファミリアが開く『神の宴』。怪物祭への協力要請ついでに開かれる神の息抜きだ。『
ガネーシャはオープンな性格からか、珍しく自分の本拠で『神の宴』を開くことで有名だ。そしてオラリオにいる神全員を招待することでも。
そういうわけで零細新興ファミリアの主神であるヘスティアも招待されていた。しかもその手には出される食事を持ち帰るためのタッパーを片手にして。
「ヘスティアちゃん。ファミリアの資金はそれなりにあるでしょう?なのに持ち帰りなんてしなくても……」
「止めてくれるな、タマモ!だってタダなんだぜ!?見過ごせるわけないだろ!」
「やっぱり慰謝料でお金を渡すべきだったかな……」
「それは拒否するって言ってるだろ!?それはそれ、これはこれ」
「うーん、やるせない」
神とは思えない振る舞いをするヘスティアに、表情が硬くなっていく玉藻の前。
ロキから補填のお金をもらって、ベルの装備が浮くように援助したはずなのに意地汚いことをするヘスティアにどうしたものかと頭を抱えたくなっていた。
「タマモ……。ヘスティアが奇行に走ってたら止めてよ」
「へファイストス。無理だよ。わたしじゃ止められないもん」
「あ、へファイストス!久しぶり!」
「これが神友で【狼印の子兎】の
「ん?ベル君そんな風に呼ばれてるのかい?」
やってきたヘスティアが苦言を称して、玉藻の前も呆れていると、ヘスティアはへファイストスの単語が気になったようだ。
冒険者が二つ名で呼ばれる場合、レベル二にランクアップしてからだ。神々が『神会』で名付ける以外で、しかも駆け出し冒険者に与えられるなんてほぼほぼあり得ないことだった。
噂好きな神々は面白いことがあるとすぐ吹聴するが、これは相当珍しいケースだった。
「駆け出しがミノタウロスを足止めしたのよ?噂にならない方がおかしいわ。バベルなんてずっと大騒ぎだったわよ」
「だよねえ。ヘスティアちゃんはベルくんの偉業をもっとわかってあげないと」
「いやいや、死にかけたのを褒めることなんてできないぞ!?」
「でも冒険者になったんだから、ベルくんはまた同じような目に遭うと思うよ?ダンジョンってそういう場所だもん」
「そ、それはそうだけど……」
今回ばっかりはすぐに受け入れられないヘスティア。ベルのせいではなく、他派閥のミスによって産まれた偉業なんてベルの主神だからこそ受け入れられないのだろう。
「今からでも商業系や生産系に変わる?」
「それは、無理……。ベル君も探索がしたいだろうし」
「なら偉業は偉業で褒めてあげないと。冒険者なんて怪我して当たり前なんだから」
「だよねえ。ロキのこと見返すために探索系ファミリアにしたんでしょ?なら主神としてどっしりと待ってないと」
「……そう言うタマモは眷属が傷付いて帰ってきたことはないのかい?」
「ないよ?あっても皆自分で治しちゃうし」
「この規格外ファミリアめ!」
眷属全員が上級冒険者で、滅多に深くまで潜らないタマモノマエ・ファミリアの面々は怪我して帰ってくるということがない。下層くらいなら口笛を吹いて帰ってこられて、深層に向かう時はだいたい総出で行く。
探索系ファミリアではないのに実績だけで言えば探索系ファミリアと変わらない実績を出している、少数精鋭ながら等級はBと上から数えた方が早い。その公式到達階層は四十二。人数があと少しでも増えれば余裕でAに上がれるという。
噂だが、ギルドへの上納金を減らすために玉藻の前は眷属を増やさないのではないかと言われている。事実としては、玉藻の前が狭量だから家族を増やさないだけである。
そんな風に三柱で姦しく話していると、男装をしているのかと疑うような女神がやって来た。
「ファイたん〜。タマモ〜。それとドチビ!」
「この前はちょっと見直したのにこれかい?!ロキ!」
「ドチビは放っておくとして。タマモ、金蘭にお礼言っといて〜な。ウチの子ら数人新種のモンスターに武器溶かされたらしいんやけど、金蘭が魔法で守ってくれたから被害少ないゆーててな。おおきに」
「いいのよ。金蘭ちゃんにはちゃんと伝えておくから」
「ロキ。新種のモンスターについて言って良かったの?」
「ええのええの。次の遠征にその溶かす相手対策でファイたんに協力要請しようと思ってたんやから。タマモのところは一緒に行くの確定やし、ドチビには深層のことなんて無関係やもんなあ?」
「クソー!到達階層でマウント取るなんて!だから胸が貧相なんだぞ!」
そこから始まる二神の取っ組み合い。これは神々の中でも名物になっていたので誰も止めない。玉藻の前も身体的特徴を揶揄するのは悪いことだと思っているために止めようと思わなかった。
過去にそういうことが何度もあったために。
「あら。やっぱりあなた達って仲が良いのね」
「フレイヤ!?」
美の女神登場。滅多に『神の宴』に現れない女神を見て男神達はヒートアップ。フレイヤを見ることができたら幸運とまで言われるほど。
バベルの頂上にいる女神は、出不精なのだ。
「フレイヤちゃん。また綺麗になった?」
「あら、そう?あなたにそう言われると嬉しいわ。タマモ」
「ええー……。タマモ、君フレイヤのことまでちゃん付けしてるのかい……?」
「だってフレイヤちゃんってフレイヤちゃんって感じしない?」
「「「それはない」」」
周りからの総ツッコミに首を傾げる玉藻の前。
彼女はフレイヤの内面である可愛らしい子供性を見抜いてちゃん付けしているが、神々はそう思わないらしい。男神は基本様付けで、女神は関わろうとしない。
玉藻の前の、こういうことをしてフレイヤに嫌われていない所を神々は尊敬してさえいる。
「ああ、タマモ。また今度オーダーメイドを頼んで良い?詳細はまた後で紙にするけど」
「良いですよ。魔道具でいいのかな?」
「ええ。武器だったらへファイストスに頼むもの」
「刀と防具ならへファイストスの所にも負けてない自負があるけど……」
「それはまた今度」
その会話で、鍛治専門ファミリアであるへファイストスの売り出す作品に並べる玉藻の前がおかしいと戦慄するヘスティア。何度か本拠にお邪魔しているので刀と防具も置いてあるのは知っていたが、そこまでの代物だとは思っていなかった。
「え、誰が作ってるんだい?」
「ハルと道満が作ってるよ?吟ちゃんと銀郎の刀の整備もあったからそれついでに覚えたみたい」
「整備のついでで作られたら
「本当に色々できて羨ましいわ。タマモ、道満だけでも頂戴?」
「ふふ、ダーメ」
へファイストスがあり得ないことを聞いたかのように嘆息し、フレイヤは駄目元でお願いしてみたが断られる。
フレイヤの魅了は男女問わず通用するのだが、玉藻の前には一切通じない。タマモノマエ・ファミリアの全員に通用しない。その事実も合わせてフレイヤは楽しく笑う。
「そう。断られちゃったし、帰るわね」
「えー……。君は君で何をしに来たんだい?」
「タマモに会いたかったの。ここなら確実に会えるもの」
「お店に手紙で届ければ良かったのに」
「だってロキのところばかり優遇してズルいんだもの。ロキの前で意趣返ししたかったの」
「あ、なるほど」
「ウチのせいかいな!?」
混乱をもたらしたフレイヤは主催であるガネーシャの挨拶を待たずに帰ってしまう。最大派閥同士のロキばかりに手助けする玉藻の前に嫉妬しただけだろう。
その嫉妬の感情がわかってしまうからこそ、玉藻の前は彼女をちゃん付けする。
「俺が、ガネーシャだ!」
混乱が広がっている会場で、いつも通りのガネーシャの挨拶。
これでいつもの空気に戻せてしまうガネーシャは、素晴らしい神だ。
ガネーシャ様大好き。