ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
ヴェルフを紹介されてヘスティアが武器作成の依頼をしなかったので。
【怪物祭】当日。
この日はベル達も、数多くの冒険者達に倣ってダンジョン攻略は休みにした。年に一回のお祭りなので、逃したら勿体無いということ。リリルカは人混みが苦手なのでタマモノマエ・ファミリアのお店を手伝うらしい。
ヴェルフもこの日は軽く祭を巡るのだとか。ベルはヘスティアに誘われて一緒に【怪物祭】を巡ることに。
この日はオラリオの外からも人がたくさん訪れたために、人の数が尋常ではなかった。道や広場には所狭しと屋台が出ていて、非常に活気がある。
ベルとヘスティアが祭に向かう途中、『豊穣の女主人』の前で従業員の猫人アーニャからシルが持っていくのを忘れたガマ口のお財布を渡される。見付けたら渡して欲しいということを聞いて善人のベルは了承。
二人は祭を楽しみつつ、シルを探すことになった。
・
所変わって、【怪物祭】のメイン興行である調教の実演が行われている闘技場のすぐそば。そこにフードを被った女性が近付いていたのだが。
目の前に手を繋いだ金髪カップルを見て、その仲睦まじさに女性は嘆息。
「タマモ、明。邪魔をするのかしら?」
「しないよフレイヤちゃん。まあ、街に被害が出ないように監視はするけど。こうなるってわかってたし。ウチで保護してる子が夢を見てね?」
『手を取り合いましょう、兎さん。あなたの手は、暖かい?
いつか『僕達』と話し合おう。大きな声で、お酒を片手に。
今日は意味を隠した友愛の宴。空を望む『僕達』へ歩み寄りの祭事。
でも、祭りはまたね。愛故の翳りは兎さんを追い立てる。
赤き竜、地を這い回り。一心不乱に大興奮。女神様への求愛は大変だ。
ピョンピョン跳ねない兎さん、
広場を超えて、兎は焔を抱えて迷いの森へ。
怨讐渦巻くそこなら、まだ人が少ないから。
決意を胸に、冒険しよう。初めの一歩は威勢だけ。今度はちゃんと向き合って。
ああ、晴天に突き刺す狼煙の遠雷。
それはきっと憧れに届き、『僕達』への歓喜を示す大鐘楼。
待ってた待ってた。光のような鐘の音。祝福の鐘、嬉しいな。
『僕達』も、女神様も、好々爺も。そして、天に昇った『静寂』と『暴食』と『必要悪』が。
あなたの鐘は、世界を覆う。音より先に、想いが届くよ。
おかえり、『始まりのあなた』。今度は両目を開いて、一緒に青空を見よう。
また皆の希望になる、『雷公』。二人の『雷公』の再会は奥底で。
今度は皆で笑い合おう。今日の話をして、唄い会おう』
「こんな夢を聞かせられたらね?」
「少し思い当たるフレーズがいくつかあるけど。……ふうん。そう。その子も欲しいわ」
「勘弁してください。彼女は主神にも信用されずに避難している。夢は確実として、あなたは黙って見過ごせる御仁ではないので。ガネーシャ様は善神ですし、これで来年から【怪物祭】がなくなるというのは忍びない」
「フゥ……。いいでしょう。じゃああの子の元へ被害が出ないように明が誘導してくれるかしら?陰陽術なら誰にもバレないものね?」
「ええ。ダイダロス通り辺りでいいでしょう。地上の迷いの森と言えばあそこだ。一応聞きますけど、どれを連れ出します?」
「レベル二への関門。インファント・ドラゴンを」
・
それは昼を過ぎた辺りのこと。オラリオの街は騒然となる。
怪物祭の目玉となるモンスターが、脱走したのだ。
「モンスターが脱走した!?ガネーシャ・ファミリアは何やってるんだよ!」
「
そういうことになった。もちろん真犯人はフレイヤと明である。
まず明がガネーシャ・ファミリアの護衛に幻術を仕掛けてそういう夢を見させた。その後は適当に斧などで檻を壊して、いくつかのモンスターにフレイヤが魅了をかけた。
幻術を破れるのはタマモノマエ・ファミリアの面々と、オラリオでも頂点の冒険者のみ。ここに完全犯罪が成立。
明と玉藻の前は心の中でガネーシャに超謝った。
実行犯三人は街でも目立たない高い場所へ行き、その周辺に陰陽術による認識阻害の方陣と監視用の簡易式神と視界を共有する術式でベルのことを追っていた。
「ああ。やっぱりあなたの術式いいわ。魔法のスロットに依存しないのでしょう?極東で同じことができる子供はいないようだし」
「若干残ってはいるものの、魔法と神の恩恵という利便性には敵いませんから。剣術などは技として引き継ごうとするのに、陰陽術は神の恩恵なしに学ぼうとする子供はいません。今や廃れた過去の遺物ですよ。目的を無くした技術に、居場所があるはずがなかった」
「──だから【英雄時代】にも陰陽術なんて聞きもしなかったのね?魔法のように、戦う道具ではなかったから」
「精霊も大半の神も知らない技術です。極東の神々が少し頭に引っかかる程度でしょう」
明の説明にフレイヤはその知識で明が語ることの真意を悟る。
陰陽術という、神の恩恵に現れない神すらも害する魔法の亜種。それが知られていない理由。
玉藻の前という天照という神の分霊。その神と家族の規格外達。
そして、その眷属の嘘を神々が見抜けないという事態。
魂の色が見えるフレイヤだからこそ至れる答え。最もオーディンやゼウスなど特級の神ならフレイヤのように見抜くかもしれないが。
陰陽術は応用が効きすぎる。フレイヤも眷属で使える人間ができないかと玉藻の前を通して講座を受けたことがある。だが、誰も理解できず、もちろん神の恩恵としても現れなかった。
それでも陰陽術の規格外さと、できることの幅広さから対策を勉強できたというだけで儲け物。
人手の代わりにできる式神に、防御魔法のような方陣。今も使ってもらっている認識阻害に、炎や水などを巻き起こす攻撃術式。
教えてもらったことが全てだとは思っていないが、参考にはできた。魔法の使い方に酷似していた部分もあり、戦術が増えたと喜ぶ魔導士達もいた。
「そういえば。あなた達はどうして彼に手を貸すのかしら?」
「フレイヤちゃんの言葉を借りるなら、魂の輝きが素晴らしいから、かな」
「やっぱりタマモはいいわ!あなたなら共感してくれると思ってたの!あの純真無垢な輝き、ずっと見ていたいくらい……!」
「ウンウン。そういう素直なフレイヤちゃんは好きだよ?でも次からは周りの被害を気にしてね?」
「ええ。オッタルとか眷属に警備を任せるわ」
違う。そうじゃない。
こういう騒動を起こすなと言っているのに通じない。だから玉藻の前は彼女をちゃん付けする。
身体だけ大きな女の子にしか見えないから。
眼下ではインファント・ドラゴン以外のモンスターが順調に狩られていく。インファント・ドラゴンは明の誘導通り、ベルとヘスティアを追い立ててダイダロス通りへ向かっていった。
その一方、フレイヤが用意した魔物以外の、植物型のモンスターも現れていた。
「あら?あれは何かしら?」
「あー、【
「そう?じゃあベルのこと見ていていいのね。……一応アレンを応援に送りましょうか。ガネーシャへの罪滅ぼしとして」
フレイヤが近くに控えていたオッタルを通して眷属に連絡を入れて、都市最速と呼ばれる猫人が植物型モンスターへ接敵する。フレイヤの命令を至上としている彼らは命令を絶対に聞く。
悪態はつかれるかもしれないが。
「さあ、ベル。魅せて。あなたの輝きを……!」
・
神様と一緒にお祭りを巡りながらシルさんを探していたら、突如としてモンスターが脱走したという騒ぎが聞こえてきた。
僕は神様と一緒に避難しようと思ったんだけど、逃げ出した内の一体インファイト・ドラゴンがまるで僕達を狙ったかのように他のものに一切構わず地面を這ってくる。神様を抱きかかえて逃げても、やっぱり僕達だけを狙ってくる。
だから人気のない場所へ逃げ込んだ。ダイダロス通り。迷宮のように入り組んだダンジョンのような場所。
その角で、神様を下ろす。
「ベル君……?」
「神様。あいつを倒してきます」
「なっ!あれって上層の階層主って呼ばれるインファント・ドラゴンなんだろ!?無茶が過ぎる!」
「大丈夫です。僕って成長期みたいですし。朝更新してもらったステータスはリリがお墨付きをくれるほど。装備もヴェルフのおかげで揃っています。……僕は冒険者です。神様を、守らせてください」
「ベル君……!」
「行ってきます!」
腰からヴェルフに拵えてもらった両刃剣を取り出し、朱色のドラゴンに挑む。
僕は今日、冒険をする。
「ミノタウロスから逃げたあの時とは違う!もう逃げるだけの僕じゃない!」
「グオオオオオ!」
啖呵を切って駆け出す。ドラゴンの名に偽りのない身体能力。吐き出される火球。刃の通りにくい強固な鱗。
それでも辺りを駆け回って狙いを絞らせないようにして、一撃離脱。ヴェルフの剣は強度も切れ味も十分だった。
足りないのは僕の技量と力。
斬り傷は与えられても、それは決定打にならない。自然治癒能力が凄い高いわけじゃなさそうだからダメージは与えられている。
そのダメージが小さすぎて、ジリ貧なだけ。
なら!
「【
全身に雷を纏う。剣にも纏わせて、更に加速して斬りつけた。
すれ違い間際の一撃だったけど、一番深手だったのか真っ赤な血が前足から噴出する。
「ギャアアア!?」
煩い悲鳴は無視する。そのまま側面を駆けて邪魔な尻尾へ兜落とし。尻尾による広範囲攻撃は煩わしいし、神様に攻撃の余波が行くかもしれない。そう考えて真っ先に斬り落とした。
ピシッ。
剣から悲鳴が聞こえる。ドラゴンの鱗に対応するために出力を上げすぎた!でもここで威力を落とすのは愚策だって僕でもわかる。
このまま一気呵成に畳み掛ける!
ヴェルフ、ごめん!この剣、
ドラゴンは理性を失ったのか、僕の姿も確認しないままその場で暴れ始める。地響きがする中、走る、走る。走る!魔法の出力を更に上げると、懐に入れておいた呪符が暖かさを持って消えていくのを感じる。
速度を保った跳躍でドラゴンの眼前へ飛び出す。そのままドラゴンの目を奪うために剣を横薙ぎ。
片目だけ斬り飛ばしたけど、そのまま火球を吐かれて空中へ投げ出された。
「ベル君!」
「負けるな!兎ぃ!」
神様の声が。知らない誰かの声がする。
全身が灼けるように熱いけど、ヴェルフの鎧のおかげで目は開ける。投げ出されて落下を待つだけなら、これが使える!
「【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての
ドラゴンの周囲に巻き込みそうな人はいない。ドラゴンも四肢を僕に斬られたからか、のたうち回るだけで大きく動いていない。だけど、顔だけは僕に向けて大きく息を吸い込んでいる。
空中で落ちているからか、並行詠唱にはならず魔力爆発も起きなかった。
地に居座る覇者たるドラゴンへ、視界をしっかりと開いて剣を向ける。
これはきっと、お爺ちゃんへの憧れ。
一度だけ見た、閃光のような雷撃。それが僕の初めて見た英雄の姿。
お爺ちゃん。僕はあなたに誇れる孫ですか?
「【
ドラゴンが迎撃に放った火球ごと、僕の黄色い憧れが全てを焼き尽くす。
オラリオに轟く一条の雷鳴。
世界のどこにいても、届いて欲しい。僕の証を。
身を任せるように、マインドゼロによってそのまま地上に向かった。あ、これ受け身が取れなくてまずい。神様が泣きそうな顔をしている。
けど、僕の予想に反して。どこからか来た風に包まれて僕は緩やかに地面に落下。全然痛くなかった。
響き渡る歓声。ドラゴンを倒した証である魔石を持ってくる人。僕の怪我を見て回復薬をくれる人。
僕が守りたかった神様が、泣きじゃくりながら抱きしめてくれる。その暖かさが、何よりの証拠だった。
僕は初めての冒険をして。
立派な眷属になれたと、誇らしげに思えた。
ベル・クラネル
Lv.1(ランクアップ可能)
力 :B788→S966
耐久:C686→S903
器用:B745 →S976
敏捷:A801→SS1032
魔力:D433 →B724
《魔法》
【
・付与魔法
・雷属性
・速攻魔法
・追加詠唱をすることで魔法変質
・詠唱文【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての
・【
・変質魔法
・追加詠唱により広域攻撃魔法へ変質
【】
【】
《スキル》
【
・早熟する
・想いが続く限り効果永続
・想われれば想われるほど上昇率増加
【
・能動的行動に対するチャージ実行権
・鼓舞されるほどに威力上昇
・共闘時、チャージ速度上昇