ダンジョンに陰陽師一派がいるのは間違っているだろうか 作:かぼちゃマスク
9 ランクアップ
「ほげええええええええええ!?」
そんな小さな女の子にしか見えない、容姿にそぐわない悲鳴が『教会の隠し部屋』で響いた。
それは【怪物祭】の翌日の朝。ハプニングから帰って来てゆっくり休んで、今日はまた一日休みを入れる予定だった。なにせインファント・ドラゴンとの戦いで鎧も剣もズタボロ。またヴェルフに装備をお願いしないとダンジョンにも潜れないのだ。
そのお願いをするために休養日にして、ついでだし上層の階層主とも呼ばれるモンスターを倒したのだからステータスが上がってるかも、ということで更新をご飯を食べ終わった後の朝一で行うことにしたのだ。
更新する前からステイタスがD以上あったのでベルが気楽な感じで「ランクアップできちゃったりしないかなー。ここ最近のステータスの上がり方良かったですもんねー」と言っていたのが悪かった。
上半身を裸にして背中に美幼女を乗せていたら奇声を上げられたのだ。ベルも驚く。
「か、神様……?」
「…………ら、ランクアップできるぅーーーーーーー!?」
「ホントですか!?やったーーー!!」
(上昇アビリティ合計1200オーバーって何!?この【
ヘスティアの心の叫びだが。残念ながら想われるだけで、応援されるだけでステータスが上がるというバグのようなことは事実だ。
そして応援する神々はバベルの頂上にいて試練を出したり、世界中をうろついていたり、世界の端っこの方で隠居してたり、天界でニコニコと眺めていたり。
文句を言えそうな相手はバベルの頂上の女神だけだが、残念。派閥の力が違いすぎて文句も言えそうにない。
「こ、これが君の今のステータスだよ……。新しいスキルも発現してるね」
ヘスティアは胃を抑えながら羊皮紙を渡す。ヘスティアが背中から降りずにお腹を抑えているのでベルは寝っ転がったまま紙を受け取る。
まさか二十日足らずでレベルアップするなんて、思いもしないだろう。最速が年がら年中ダンジョンに潜って成し遂げた一年というアイズの記録。
それを十二倍以上の速度でぶっちぎったのだ。しかも力のない、後ろ盾もない零細ファミリア。
どうやってベルを守ろうか。それしか考えられなかった。
────
ベル・クラネル
Lv.1(ランクアップ可能)
力 :B788→S966
耐久:C686→S903
器用:B745 →S976
敏捷:A801→SS1032
魔力:D433 →B724
《魔法》
【
・付与魔法
・雷属性
・速攻魔法
・追加詠唱をすることで魔法変質
・詠唱文【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての
・【
・変質魔法
・追加詠唱により広域攻撃魔法へ変質
【】
【】
《スキル》
【 】
【
・能動的行動に対するチャージ実行権
・鼓舞されるほどに威力上昇
・共闘時、チャージ速度上昇
────
「【
「ん?喜劇の英雄の名前だろう?」
「あー、神様って英雄譚の『アルゴノゥト』って読んでらっしゃらないんですか?原典の英雄譚とも呼ばれる叙述詩、なのかな?お爺ちゃんはラブレターとか、ファンレターとか言ってたけど。担い手が変わったって言ってたけど、どういう意味かはぐらかされたな……」
ベルの言葉にヘスティアは首を傾げる。馴染みの本屋があるほど、ヘスティアは読書好きだ。下界に降りて来てヘファイストスの所で引き篭もりをしていた頃、それこそ下界の本を読み漁っていたほどに。
「童話と、ちょっと肉付けしたくらいの喜劇は読んだぜ?下界の古語は詳しくないけど、喜劇の英雄じゃなくてアルゴノゥトは始まりの英雄なのかい?」
「はい。『英雄時代』を切り拓いた者。皆を笑顔にする英雄。僕の一番好きな英雄です」
「んー……?そんな話だったっけ?そもそもあの喜劇が叙述詩なんて初耳だけど?」
「お爺ちゃんが『これは儂の特権じゃー!本物の原典っちゅーヤツとは違うじゃろうが、これこそあいつの想いじゃ!』とか言ってました。僕も原典を読んだわけじゃないんですけど、お爺ちゃん曰く『甘ったるい気持ちがダダ漏れで胃がもたれる。これくらいでいい』とも言ってたので、相当な恋物語なのかなって。古代三大詩人の一人、オルナの執筆みたいですけど」
ベルも育ての祖父からの又聞きなので歯切れが悪い。ベルが読んだ物はあくまで祖父が書き起こした物なので信憑性からはっきりと言えないのかもしれない。
「ま、スキルは君の可能性、想いの発露だ。憧れから現れるのは何もおかしなことじゃない。ダンジョンに潜れるようになったら試してごらん」
「はーい」
「で、これが本題だけど。ランクアップ、する?」
「します!!」
「だよねえ。じゃあちょっと待っててね」
神の恩恵に触れて
初めての眷属で、初めてのランクアップ。
神の直感で作業を進めていく。
「んーと。発展アビリティだけど、一つしか選択肢がないね。【幸運】だって」
「【幸運】?【狩人】とか【耐異常】とかじゃなくてですか?」
「うん。これだけ。有名どころじゃないけど、多分レアなんじゃない?スキルもレアだし」
「それしかないなら【幸運】で。運が良くなるんですかね?」
「運なんて神でもわからない気紛れだからね。それが良くなるならいいんじゃない?」
というわけでランクアップ完了。
新しいステータスを別の羊皮紙に書き出す。
「はい。これが君の新しいステータス」
────
ベル・クラネル
Lv.2
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
幸運:I
《魔法》
【
・付与魔法
・雷属性
・速攻魔法
・追加詠唱をすることで魔法変質
・詠唱文【天空より更に彼方へ、黄金の雨となり、聖獣たる御牛をも震わせ、最果ての
・【
・変質魔法
・追加詠唱により広域攻撃魔法へ変質
【】
【】
《スキル》
【
・能動的行動に対するチャージ実行権
・鼓舞されるほどに威力上昇
・共闘時、チャージ速度上昇
────
「うわー、本当にレベル二だー!」
「おめでとうベル君」
「あ、やっぱりさっきのスキル欄は何か間違いだったんですね。変な空白がありましたけど」
「ごめんごめん。ランクアップ可能ってことで余所見しながら写しちゃったからさ」
ヘスティア渾身の言い訳。【
「いいかい、ベル君。アドバイザー君にはランクアップのことをちゃんと正直に報告するんだ。でも、相談室とかいう他の人に聞かれない場所で。君がいくら強敵に遭遇してきたからってこの速度は異常だ。人のいるところだったら絶対に大騒ぎになる。いつかはランクアップが公表されるだろうけど、それまではサポーター君や鍛治師君のような極少数に伝えること」
「やっぱり早すぎですよね……」
「うん。『
「わかりました!」
ギリシャの神の良心、唯一の眷属を心配する。神々の面倒さを知っているからこその対応だった。
あとは冒険者の問題を居候の時にへファイストスから、教会に追い出されてからは玉藻の前やミアハ、タケミカヅチなどに聞いたのでなんとか対策案を出せた。
ステータスだけだったらレベルアップ可能と前日にリリルカに言われていたので、怪物祭を楽しむ前に対処法を考えていたのだ。
こんな速攻で使う羽目になるとは思っていなかったが。
「ボクもバレたらズルしたとか言われそうだけど、一緒に乗り越えて行こうぜ!ベル君!」
「はい、神様!だって僕達は『
二人してフヘヘーと笑い合う。
そんな時上の教会の扉がノックされて、その後地下室に向かってくる足音が聞こえた。
不用心ではない。ちゃんと鍵はかけていて、親しい人には合鍵を渡しているだけである。教会を買ってくれたへファイストスとか、教会の改修をしてくれたタマモノマエ・ファミリアとか。
「ベル様ー?ヘスティア様ー?起きてらっしゃいます?昨日の怪我が響いているかもとタマモ様から伺って塗り薬を持ってきましたけど……」
「リリー!僕、レベル二になったよ!」
「キャー!?ベル様、服を羽織ってください!!」
やってきたリリルカにそのままの姿で羊皮紙を持って突っ込んだベル。ステータスの更新をしたままだったため、上半身は裸だ。ステータスが反映されているために腹筋も割れて細マッチョになっているが、とにかく異性の上半身裸なんて生娘には刺激が強すぎる。
ヘスティアはステータスを更新するたびに見ているのでベルの裸は慣れているが、リリルカは違う。ヘスティアがアチャーと言いたげな顔で服を渡してあげた。
ベルも照れながらシャツを着た後に、リリルカにステータスが書かれた羊皮紙を二枚渡す。
「ハァ?なんですかこのステータス……。アビリティSSなんて初耳ですし、いくらインファント・ドラゴンを単独討伐したからってこんなに伸びます?スキルも発現してますし」
「やっぱりおかしいんだね……。リリは【幸運】って発展アビリティ聞いたことある?」
「それも聞いたことありませんね。……えぇ……。冒険者になって二十日経ってないんですよ……?」
リリルカは混乱しまくりだ。明と玉藻の前からベルがインファント・ドラゴンに襲われて単独討伐したとは聞いていたが、ランクアップなんて寝耳に水だ。
最短記録の更新どころではない。アイズの記録ですらトチ狂っていると言われているのに、それを超える異常さ。
(明様が言っていた英雄になるという話はこういうことですか?スキルにも出ていますし。……この成長速度に、このスキル。確かに英雄の条件は優に満たしているでしょう。リリの目も衰えましたねー)
初対面で思った冒険者として大成しないだろうという考えは吹っ飛んでいた。
この大躍進を見れば嫌でも納得する。
それと同時に、未来視って酷いなと。これがわかっていたから色々と支援していたのだろうと思うと、カジノとかで大儲けでは?という黒いリリルカが出てきてしまう。
今はお金にそこまで執着する理由がないので、黒い部分は抑えた。
「ギルドへの報告はわかりました。なるべくギリギリまで秘匿するのも良い判断だと思います。そうしたら今日の探索は取り止めですかね?」
「そうだね。リリには悪いんだけど、ヴェルフに連絡してくれる?防具も剣も壊しちゃったから、まともな装備が手持ちにないんだよね」
「ヴェルフ様が泣きますよ?新調して三日経ってないじゃないですか……」
「い、インファント・ドラゴンから生き残るためだったんだから仕方がないでしょ」
防具は役割を果たしたし、剣も戦いの中で折れることはなかった。むしろドラゴンの皮膚にも通用したというのは鍛治アビリティがない鍛治師としては優秀としか言えない。
ヘスティアはバイトに。ベルはリリルカと一緒にギルドへ向かった。ギルドの前の噴水でヴェルフがいたのでベルは昨日のことを伝えながら申し訳なさそうに武具一式を見せると、ヴェルフは笑いながらベルの背中を叩いていた。
「アッハッハ。オレの防具のおかげで無事だった、その一言で十分だ。武器はまあ、魔法を使われたら壊れるかもって思ってたしな。今度はぶっ壊れない奴を作ってやる。後で昨日の武勇伝聞かせろよ?」
ヴェルフは自分の工房に行って防具などの状態を確認しておくとのこと。リリルカもそちらについていき、ベルはエイナに一対一で事情を説明した。
ベル達の予想通り、とても驚かれたが。
「……ミノタウロスに襲われて、昨日はインファント・ドラゴンだもんね。しかも単独撃破でランクアップかぁ」
「あれ?いつもみたいに『冒険者は冒険するな』って怒られると思ったんですけど」
「ミノタウロスはロキ・ファミリアの失態で、今回の事件は闇派閥のせいだから。逃げる暇もなく巻き込まれたなら説教はしないよ。逃げられそうだったら逃げて欲しいけど。他のモンスターはロキ・フレイヤ・ガネーシャの三ファミリアが早急に討伐してくれたから被害も少なかったし。
でもそうかぁ。報告書で白髪紅目のヒューマンの冒険者がダイダロス通りでインファント・ドラゴンを倒したっていうのは見てたけど、ベル君だったかぁ。しかもランクアップかぁ……」
「あの、公表は待ってもらうことってできます?」
ベルの質問にエイナは首肯。一年以上レベルを詐称していたら問題だが、『神会』までの間待つくらいはやる人も多いので承諾。
ただし『神会』が近いと申請者が多いのでいつもギルド職員がてんやわんやになるのでちょっと余裕があると嬉しいとはエイナ談。
発表して良い時期になったら主神のサインと一緒に必要書類があるのでそれを描いて欲しいと言われてギルドでの用事は終わり。
ヴェルフの工房に向かって予備の武器を借りることになったこと。防具はしばらく待って欲しいということが告げられた。レベル二になったことも含めて中層で通用する防具を用意するのは時間がかかること。だから当分一緒に潜らずに制作に時間を割くとヴェルフが言う。
武具はそういう方向性で決まって、一日の終わりに『星見の館』に顔を出す。今日もらった塗り薬のお礼のためだ。
お店に入ると、銀色の狼人と藍色の猫人がいた。
というか、カウンターにいる二人は幾ら何でも獣の方に寄り過ぎている。本来狼人と猫人は耳と尻尾こそその象徴たる獣の物が付いているが、目の前の二人はむしろ狼と猫が二足歩行をしているように見える。
だからこそ、ベルはちょっと物怖じしてしまった。
「あ、あの?」
『おー、良いところに来たのニャ。吟様と銀郎っちがベルっちに用事があるのニャ』
「はい?」
『ベル殿。明日の朝から北西寄りの市壁に来てください。あっしと吟様があなた方に剣を教えますので』
「……えーっと?」
いきなりの話で理解が追いつかないベル。レベル五とレベル四が、剣を教えてくれるという。
そんな幸運あるだろうかと、発展アビリティに思いを馳せていた。
『あなたの成長は急すぎる。ステータスと技術、体捌きが脳とイメージで噛み合わなくなる頃だと思いまして。明様からよく計らうように申しつけられました』
「えっと。以前の補填の続き、ということですか?」
『そう捉えてもらって構いません。冒険者はステータスと身体の資本、技術に武具。全てを揃えてからダンジョンに潜るべきだ。まあ、あっしは手伝いくらいで主に吟様が教えると思います』
「ありがとうございます!」
望外の申し出に、二もなく返事をするベル。
レベル差と、直感からサポートできるように明日から早起きしようと決めるリリルカ。
『では夜明けと共に始めましょうか。もちろん朝だけです。ダンジョンに潜ることを邪魔しませんよ』
そういう話になった。