白銀少女の竜殺し 作:大きい武器を持った娘は可愛い
――舞い散る桜が華々しく世界を彩っていた。
その世界の中心で佇む少女は、血に濡れ呆然と空を見上げている。左の腕を半ばで失っている少女は、だがそれを嘆く様子すら見せない。
その光景を唖然と見ていた私達に、少女は欠片も興味を示そうともしなかった。
私達も、少女がここでのたれ死んでいるだけならここまで驚かなかった。粛々と死体の処理をしただろう。だが、生きているからといって、『保護』なんてことをいっている場合ではないことは明白だ。
――竜が、死んでいた。
口から血をドクドクと垂れ流し、体の至るところに裂傷を刻み、片方の瞳を失い、所々は切断され。だが、それでも死する筈がない、神に最も近しい生物が、死んでいた。
――そんな馬鹿な。
それが、私達の総意だった。殺される筈がないのだ。『竜』は、決して届きようのない絶対だ。
空を引き裂く咆哮も、世界を揺るがすその吐息も、万物を破壊するその鉤爪も。全てが、どれほど修練を積んだ人間であろうと届かぬもの――その筈だ。
後ろで怯えたように目を見開く者達も、何より私も。竜を讃え、賛美し、信仰することに変わりはない。
しかし、この地に生きるものなら少なからず持つ筈のその心得が、死んだように空のみを映す少女の瞳には欠片も見えなかった。
少女は、唐突にふらりと立ち上がると、地面に突き刺されていた太刀をゆっくりと握る。殺意のみで固められたかのように、装飾が一切ないその大太刀。少女の小柄な体躯を越え、これまで目にした如何なる業物よりも長い長いそれが、少女の右手に握られた。
――その瞬間、世界が震えた。
「――ッ」
全員が怯えを圧し殺せなかった。最後尾の供物を持つ者達は武装すらしていないから当然か、一番震えが大きいようだ。
『狩り』に特化した我々ですら、目の前の少女に気圧されている。その事実に体を震わせる。信じられる筈がない。威厳に満ち、世界を常に俯瞰し、荘厳さに充ちていたあの偉大なる銀竜が、殺されたなど。
しかし奇妙な事に。そんな状態のせいか、何故か上手く少女の実力を掴むことが出来ないでいた。本来なら『魔力』や『闘気』と言ったものが感知できる筈の少女の肉体からは、まるっきり生命と言う根幹が抜け落ちていた。
それ故に、感じる威圧感はどこか一時の夢を思わせる、現実味の無いもので――。
――そして、少女がこちらを見た。
息を飲む。ほとんどが血に濡れた白銀の髪が地面を掠り、そしてこちらをじっと見つめる右目のみが平坦な、のっぺりとした色を持って世界を俯瞰している。
何より驚いたのは、左手だけでなく、恐らく左目も失われていたことだ。それを示すように、一筋の血が閉じられた瞼から落ちる。
「――とう、」
思わず、といったように少女の桜色の唇から微かな言の葉が溢れ落ちる。ほとんどを聞き取れず、耳から抜け落ちていったが、そのほんの一部ですら頭に残って仕方がなかった。
そして少女はゆっくりと、滑らかな動作で、右手に握ったその太刀を――縦に、振り下ろした。