荒野の国のアリス   作:玲理 星光

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S0-3 〈理想郷〉にて

──どのぐらい経ったのだろう。

 

僕はまるで監獄……というか独房と言えるだろうか。

そんなところに居た。

簡易ベットに穴しかないトイレ、生暖かい水が出る洗面所…

そう思うだろうが実は違う。

簡易ベットだがふかふか、トイレは洋式、洗面所は温度自在………

 

おかしい。

何故降伏した僕が意外と恵まれているのだろうか?

いや待って本当になんで!?

 

──興奮してしまった。

お願いだ、今のことは忘れて欲しい。恥ずかしいっ……

 

そんなことはさておき本当に何故だろう。マークスさんに怒られそう。

 

その理由はすぐに分かることとなった。

ここに閉じ込められて……表現が正しいのか分からないけど……多分

1日も経っていないのではなかろうか。

扉の外から靴の音が聞こえてきた。

コツ、コツ……

僕は身構えた。そのあまり顔は下に向いた。

音が消えたと思ったら、扉が空いた。

目の前には……眼鏡をかけた灰色の長髪の男が居た。紫色のマフラーをつけているように見える。顔を下げているため恐らくだが。

 

「…こいつが例の奴か。」

 

目の前の男は言った。

僕は聞き覚えのあるように感じたが、気のせいだろう……

 

「……誰?」

 

顔を上げつつ僕は言う。再度確認し……やはり灰色長髪だ。

しかし相手は冷たい。

 

「人間風情に名乗る必要があるか?」

 

つまり相手は人間では無い………そういうことだろう。

しかし想定外のことを言った。

 

「ただ…そうだな、ひとつ言うとすれば…計画が成功すればお前の兄に慨することになる存在とだけ伝えておこうか。」

「……計画…?」

 

僕はアリシア兄さんの事を思い浮かべた。

そして思った。声は、アリシア兄さんそのものだと。

気のせいだと思っていた。見た目は兄さんじゃないから…でも、本当に兄さんなら……

そう思った。無意識に声が出てしまう。

 

「まさか……アリシア兄さん…じゃないよね」

 

僕は本気でそう思った。

しかし相手は冷たい。僕の事を蔑んだ目で見つつ言った。

 

「ここに連れられる際に頭でも打ったか?それとも元からイカれてるのか…。俺はアリシアという名前ではないしお前の兄でもない、成功すれば話は違うがな。」

 

相手は手に持っていた資料を見る。その資料には僕の……アリスの記録が書いてあるのだろう。

どんな仕組みかは知らないけど…

 

「お前の兄の情報はここにはない。恐らく荒野で野垂れ死にしているか、既に死んだかのどれかだろうな。ご愁傷さま。」

 

瞬間、僕の中で何かが弾けた。

 

「っ……兄さんは、絶対に死んでない!!」

 

泣きそうな声になりつつも、相手を掴もうとした。

けども、少ない食料で命を繋ぎ、更に戦った僕に体力はもうなかった。

相手の前に…倒れてしまった。

でも……

兄さんは、死んでない。

死んでないんだ。

 

「死んで……ないんだ……っ……!」

 

倒れつつも僕は必死にそう叫んだ。

しかし相手は、蔑んだ目で見る。

 

「夢を見るのは結構、だがここは現実。お前の兄に関する情報はここにはない。諦めろ、お前の兄はもうこの世界にはいない。」

 

相手は少し考え、言う。

 

「…まぁいい、ここで死なれても困るからな。」

 

そう言い、何かを投げてきた。

それは……クッキーだった。

 

「感謝しろよ人間、お前が研究材料として選ばれてなければこんな優遇は受けないことを頭に入れておけ。」

 

相手は今、研究材料と言った。

 

「……研究材料?…そっか…ここが理想郷って情報は嘘だったんだ……全てこのために………」

 

そう。このために僕達は進んできた。

いつか笑いあい、幸せに暮らせる所を見つけるために。

兄さんを、見つけるために。

しかしその結果がこれである。

それでも、僕は諦めない。

 

「僕は…兄さんを見つけてみせる……」

 

僕は決意の目で相手を見た。

相手は動じない。

だが……腹が減っては戦ができぬという言葉がある。

目の前にはクッキー。

食べざるを得ない。

僕は言った後にクッキーを食べてみた。

瞬間、口の中に香ばしい…懐かしい味が広がる。

 

「…おいしい…なんで、これを僕に」

 

本気でそう思った。研究材料のはずなのに。そういったのは相手だ。

これには相手も正論を言う。それとも冗談なのか。

 

「…ほんと単純だな、そのクッキーに毒が仕込まれてるかもしれないと言うのに。」

「…お腹空いてたから………」

 

それしか言えない。

毒が含まれてたら今頃僕はあの世行きだった。そう思い目を背けた。餓死寸前だったのだ仕方ない!そう思った。……ただの文句と言われればそれまでだ。

相手は続ける。

 

「言っただろう、研究材料としてここで餓死されても困るんだよ。…ただそれだけだ。」

 

確かにそうだろう。

正論だ。だが少し考える様な仕草をした。その後こう言った。

 

「希望は持つな。絶望もするな、ここでは感情を持つものは殺される。思慮は大罪に値する。…死にたくなければ、兄に会うという無駄な夢を果たしたければ全てを捨てろ。いいな?」

 

少し落ち着いた後、僕は相手の言った事を頭の中で反復した。

〈無駄な夢〉、そんな訳はない。

 

「兄さんに会うのは無駄な夢じゃないよ……僕にとって…」

 

相手にもう一度決意の目を向ける。そして叫ぶように、相手を睨むように言う。

 

「僕は抗うよ…アリシア兄さんに会って、謝らないといけないから。その為にここまで来たんだから。マークスさんと二度と会えなくなったとしても、僕は兄さんに会ってみせる……!」

 

兄さんに会うためにここまで来たんだ。

後戻りは……しない。

 

だがやはり相手は一言、

 

「…あぁそう。」

 

としか言わなかった。そして、

 

「せいぜい無駄な足掻きはするんじゃねぇぞ、人間。」

 

と言い残し、こちらを見ずに部屋を出ていった。

同時に鍵がかかったようだ。

 

「…なら、僕はその無駄な足掻きをしてみせる……」

 

小さく呟いた。

無駄と言われても、足掻く。それが人間なのだから……




あと少しで前置き(では無い)終わりですねぇ(??)
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