荒野の国のアリス   作:玲理 星光

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S0-4 そして少年は機械となる

 

あいつが部屋を出ていって数分。

恐らく近くにはいないだろう。

そう思った僕はどうにか脱獄する事を決意した。これも兄さんを探すためだ。

 

周りを冷静に、細かく見てみる。

マークスさんは前にこう言っていた。〈どんな危機でも観察しよく見れば必ず突破口はある〉と。

すると、ただ1つ、突破口らしきものがあった。

この部屋のドアである。鍵はかかっている。しかし、長い間使われていたのか少しだけ朽ちている所があった。

そこが突破口になると思う。

アリスだって男だ、力はある。無駄かも知れない。しかしやらなかったら意味が無い。

 

「……っ!!」

 

無駄な足掻きと感じながらも部屋のドアの鍵穴近くを蹴り続ける。何回も何回も……すると

 

「…歪んできた?」

 

そう感じさらに蹴ると……さらに歪んだ。その状態で蹴ると見事に扉が開いた。

 

「…でも、このチャンスは逃さない…っ!!」

 

僕は部屋を飛び出した。幸いにも看守や警備は居なく、すぐに出る事が出来た。しかし、いつ来るか分からない。隠れつつ進む。

しかし、問題があった。

道が分からない。分からないんだ……

 

「…迷路?でも、進まなきゃ」

 

 

そう思ってしまう。しかし、がむしゃらに進む。

希望を諦めず。無論隠れながら。見つかったら終わるし…

しかし、そういう時に決まって見つかるのが運命だ。

 

「…何処へ向かってるんだ。」

 

そう後ろから問いかけたのはあの部屋でもあった白髪の男である。彼は続ける。

 

「そもそもここから出たとして行先でもあるのか?」

 

僕にそう問いかける。でも、行先はある。

 

「っ…僕は兄さんを、見つけるんだ!」

 

確証もないまま相手から逃げるように走る。

 

「行先なんて……知らない!」

 

どこにいるかは分からない。それでも進まないといけない気がした。

 

「この先向かったところで待つのは荒野、そして死だ。…そんなに死に急いでどうするんだ。」

 

そう相手は言ったが追いかける気は無いようだ。

そもそも僕は死と隣り合わせの世界に居た。どちらも同じだ。

 

「僕が向かうのは死じゃない!希望だ!死ぬために向かうんじゃない、兄さんを、希望を見つけるために走るんだ!」

 

違うのは死の中に希望がある事だ。

走り続ける。希望がある限り………と、相手は予想外の事を言う。

 

「そっちにアリシアがある、と言えば着いてくるか?」

「…えっ!?」

 

僕はそれを聞き、足を止めてしまった。

そういえば、と相手は言い、続ける。

 

「…あんたの兄、確かアリシアと言ったな?」

 

相手は去ろうとする。

兄さんの手がかりは逃したくない。そう思った僕は無意識に相手の方へ歩いた。

 

「それは…本当ですか!?アリシア兄さんについて知ってる…いや居るんですか!?」

 

相手の目を見る。無機質に見下しているように見える。

 

「近い。…そもそも俺はあんたの兄のことは知らない。…ただ、アリシアという名前なら兄弟に教えてもらった。来い。」

 

はっ…と思い少し離れ、相手についていく。興奮しすぎたか相手に近づきすぎたようだ。

行先はどこか。気になり、逃げることも忘れていた。

そして、アリシアが〈ある〉、居るではなくあると言ったことにも気づいていなかった。

 

着いたのは森らしきところだった。

荒野にこんな所があったのか。

 

「ここだ、確かこれが…アリシア。」

 

僕は周りを見る。兄さんの姿は無い。

……いや〈これ〉?相手は今これといったのか?

 

「あんたの兄…と関係があるかは知らないが、これはこの国の贄の末路。名誉と栄光を称えた木。…らしい」

「綺麗だけど…なんか…言葉に出来ない感じがする……」

 

木を見てそう思ったが、即座に相手の言った事に気づく。

 

「贄?どういうこと……?まさか兄さんを……っ!?」

 

僕は相手に近づく。

今思えばとても動揺していたと思う。

贄…つまり殺された、そう思ったから。

 

「俺は知らん。俺が生まれた時には既にこの木はあった。…だが、確かに兄弟はそう言っていた。この国の贄になった者を称えるためにこの木に名前をつけたと。」

 

相手は少し引き

 

「…ちかい。」

 

と呟いた。

 

相手は知らんと言った。それでも聞いた。

 

「……まさか…っ、贄って……兄さんになにをしたの!?」

 

相手が何も知らないと知りつつも、それでも聞こうとする。

兄さんに会いたいという一心で。

でも、その時僕は恐らく絶望を感じていたと思う。

今まで生きていた理由は兄さんを探すためでありもし死んでいたら……

そう思ってしまった。

 

「知るか。俺はそこまで物知りじゃないんだよ、そもそもこの木のことも兄弟から教えて貰って初めて知ったしな。」

 

相手は僕を見ず木を見上げている。

そして気づいた。

偶然同じ名前が付けられるなんて都合がいい物と。

 

「っ………アリシア兄さん………!!」

 

まさか……本当に兄さんは死んでしまったのか。

 

「兄……さんっ……」

 

最悪のパターンを考えてしまう。

目から…涙が落ちる。

 

「偶然同じ名前の奴が贄になった可能性はあるが…限りなく低いだろうな、諦めろ。

思慮は大罪にあたる。この世界では誰かを想い嘆く行為を行えば一生嘆いたままになるだろうからな。」

 

それを聞き僕は……泣いた。

 

「………もう嫌だ…兄さんに二度と会えない人生なんて……意味が無い……よ…」

 

そう言って崩れ落ちた。

 

「このまま消えたい………」

 

僕は今まで兄さんを探して…謝る為に生きてきた。

兄さんがいる世界が僕のいる世界。

なのに…

兄さんが死んでしまったら僕の生きる意味はなんだろうか。

全く無い。

意味なんて……無い。

 

「消える消えないを決めるのは俺でもないしあんたでもない。これ以上苦しみたくないなら考えること、感情を捨てろ。」

 

相手は見下しながら言う。

僕は相手の言った最後の言葉……出来ないと思っている事を聞き返す。

 

「感情を……捨てる?」

 

それが出来ればなんと素晴らしいことか。

兄さんが居ない世界に生きる意味なんてないのだから……

それならもう苦しまない、楽な道を選びたい。

 

「俺も昔、まだ作られたばかりの時は感情を持つなと言われていた。…正直持たずして生きてきて正解だった。人間は持つなと言われても直ぐに嘆く、直ぐに不快な顔をする。それほどこの世界は人間にとって嫌い、苦手なものなんだろ?」

「っ……」

 

そう、相手の言う通りだ。

この世界は僕達は嫌で、苦手で、言うなら死に場所を探していたのかも知れない。

これまで前を向き歩めたのは兄さんの存在であった。

それが脆く崩れた今、世界を好む理由は無い。

相手が言う通り、嫌いで苦手なもの。

それが兄さんの居ない世界である。

しかし、心の中ではそれを認めたくなく、素直に〈はい〉と言えなかった。

兄さんがいないことを認めなくなかった。しかし、認めざるを得なかった。

 

「…これがあんたの兄の末路、でもこれはまだマシな例。他の人間は殺されたら即ゴミへ、廃棄物として扱われる。兄がそんな物以下の扱いを受けなかっただけ良かったんじゃないか?」

 

……そうかもしれない。

もう兄さんは居ない。

そう思いつつ、ふと聞く。

 

「……僕も、兄さんと同じように生贄にされるの………?」

 

その時には既に放心状態だった。

もう兄さんは居ない、そう考えたら自分がどうでもよくなってきた。

願わくばせめてこの兄さん…がここに眠っているのかは分からないけどもこの近くで死にたい、そう思った。

だが相手はそれについてはこう答えた。

 

「それに関しては俺は管轄外だからな。ただ、順調に行けばあんたは俺の弟として生まれ変わることになる…としか聞いていない。アリシアと比べりゃあ俺は兄として見るべき存在じゃあないだろうけど。」

 

相手は木を見つめた。

 

「…順調に行けば弟、かぁ……」

 

僕はそう呟いた。

そして相手が見ていた木を見て思った。

自分は逃げていたのかもしれないと。兄さんが居なくなったことから。居なくなった世界から逃げていた。

もう逃げない。兄さんがここで生贄となったのであれば僕も同じになろう。

その結果がどんなものであったとしても。

その時には自暴自棄だったのかもしれない。

諦め、絶望もしていた…そう思う。

 

「…分かった、もう僕は逃げない。たとえ木になっても機械になっても……兄さんが生贄にされたなら僕もなる……どうなっても」

 

願わくば……兄さんと同じ運命を。

 

「ならあるべき場所に戻れ。俺から事情は伝えておくからそこまで言及はされないはずだ。」

 

相手はまだ気を見つめていたが、少し疑問に思ったのかは分からないがそんな気持ちが込められていた。

 

「……分かった…」

 

最後にもう一度木を見る。立派で、綺麗で………

やはり兄さんが遺したものなのだろうか。

元来た道を戻り始める。

もう兄さんは居ないという諦め、ここまで来たのに何も得られなかった絶望……

そして逃げられない運命。

もうどうなってもいい。

どうせ救われない。

兄さんはもう……居ない。

兄さんの居ない世界に僕の居場所なんて無い。

 

 

「…兄さん……」

 

部屋に戻った僕はそう呟き、横になる。

目覚めたら違う自分になっているのかもしれない。

しかしそれでもいい。どうせ後戻りは出来ない。

それならば運命を受け入れる。

運命には逆らえない。

どうせ、みんないなくなるんだ。

 

 

そして…次の日。運命の日。

部屋に昨日の男とは違う者が来た。

 

「時間だ。出ろ。」

 

僕は大人しく出る。

運命には逆らう事など出来ないから。

そして俯きながら通路を歩いている途中、ある人達と出会った。

マークスさん達だ。恐らく捕まってしまったのだろう。

横からマークスさんの声が聞こえる。

 

「アリス!無事だったか!?」

「黙れ!」

 

兵士がそう言うが、マークスさんは静かにしない。

 

「アリス……本当にすまなかった…!!」

 

でも僕にはマークスさんの方を向く資格も、まして話す資格も無い。

僕がここに行こうと言わなければ…こうならなかったのだから。

そのまま通り過ぎる。最後にマークスさんが何か言っていたが…僕はそれを覚えていない。

 

そして目的の部屋に着いた。

そこは無機質なベッド、そして色んな機械と物。

何に使うのか分からないが少なくとも僕はこのままでは居られないのだろう。

しかしそれでいい。

兄さんと同じになれるなら…それだけでいいのだから。

僕はベッドに横たわる。しばらくして薬が打たれ……

そして眠りに落ちた。

 

この先の運命をも知らずに…




何故か知らないけど4000文字ぐらいですお疲れ様でした(?)
次からは世界が変わりますねぇ(物理的に)

あとドア脆すぎない?
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