今回もお楽しみください!
三人称side
「...心配だなぁ」
IS学園の食堂にて。
食後のオレンジジュースを飲みながらマドカがそう呟いた。
マドカの表情は如何見ても曇っている。
だが、表情が曇っているのはマドカだけではない。
シャルロット、セシリア、ラウラ、鈴、簪、楯無、ダリル、フォルテ、サラといった食堂にて共に昼食を食べていた専用機持ちメンバーもまた、同じような表情をしていた。
それはそうだろう。
だって、一夏が発熱をし学園外に...『PurgatoryKnights』に運び込まれた(という事になっている)のだから。
「心配だね...」
「心配ね...」
シャルロットと鈴もマドカの言葉に同調する様にそう呟く。
「ああ、一夏も心配だし、クラリッサも心配だ」
「ええ。チェルシーも最近顔色が良くありませんわ」
ラウラとセシリアは食堂の入り口の方を...いや、学園全体を見ながらそう呟いた。
クラリッサとチェルシーは一夏が発熱をしたその日からかなり表情はかなり曇っていた。
そして日に日に顔色もあまり良いものとは言えない感じになっていて、一夏が『PurgatoryKnights』に搬送されたという事を聞いた日からはもう覇気を感じられない程に気力が無くなっていた。
大切な恋人が発熱して倒れ、しかも学園にいないからお見舞いにもいけない。
その不安が、2人の心に重くのしかかっているのだ。
「確かにハルフォーフさんとブランケットさんも心配だけど......織斑先生も心配」
「今日は確か、会社の一夏君のお見舞いに行ってるのよね?」
簪と楯無は食堂の窓の外を見ながらそう呟いた。
そう、2人の言う通りこの学園に千冬はいない。
『PurgatoryKnights』にいるという一夏の見舞いという名目で学園から離れているのだ。
ダークネスドラゴンWの存在を知らない人達なら普通の事なのだが、知っている人からすると少しおかしいのだ。
ダークネスドラゴンWの存在を知っていればオルコスの遠回しな言い方を聞けば、そっちにいるとは察せられる。
特に千冬はオルコスの説明を直接聞いているのだから察していたはずだ。
だが、そんな疑問を口にするとダークネスドラゴンWの存在を説明しないといけなくなるので、マドカ達は説明できないので黙っているのだ。
「そうですね...お姉ちゃんは、姉で、担任の教師で、それに社長と開発主任の知り合いなので。お見舞いに行くなら適任ですよ」
「だが、お前らはやっぱりお見舞いに行きたいんじゃねえのか?」
マドカにダリルがそう言う。
「...確かに行きたいですけど......大人数で押しかけるとお兄ちゃんに迷惑になりそうですし」
(というより、私たちからは多分お兄ちゃんに会いに行けないけど......)
「私達よりも、ハルフォーフさんとブランケットさんを連れて行ってあげたいですし」
ダリルの言葉にマドカとシャルロットがそう返答する。
「...ねぇ、一夏の事で、ずっと気になってる事があるんだけど」
ここで、唐突に鈴がそう切り出した。
「どうかしましたの?」
「一夏のバディとかの、あのドラゴン達ってさ、本当にロボットなの?」
「「「!!!」」」
「確かに、ロボットとは思えない程生物的っスね」
鈴のその言葉を聞いたマドカ、ラウラ、セシリアは緊張の表情を浮かべ、それ以外の面々は鈴の言葉に頷く。
(ヤバいですよ!?)
(なんとか話題をそらすぞ!)
(誤魔化しましょう!)
マドカ、ラウラ、セシリアの3人はアイコンタクトだけで完璧な会話をするとそのまま誤魔化し始める。
「まぁ、ISがそもそもオーバーテクノロジーなんだ。あれくらい出来るだろう」
「ええ、私のビットやラウラさんのAICなども、ISが登場する前には絶対に実現しなかった技術なのですし」
「それに、『PurgatoryKnights』の開発主任は凄いですから!ね、シャルさん!」
「ええ!?」
急に話を振られたシャルロットは驚きの声を発する。
しかし、『PurgatoryKnights』の開発主任は束だと夏休みに知った為、シャルロットは漠然となんか納得していた。
「確かに、うちの開発主任だったらあれくらいは簡単だね...」
「...『PurgatoryKnights』の開発主任って、どれだけの人なの?」
シャルロットの呟いた言葉に、サラが頬に汗をたらしながらそう言った。
マドカとシャルロットは苦笑いを浮かべながら
「「凄く、凄いです」」
と、脳死返答をした。
そんな2人の様子に鈴たちも苦笑いを浮かべる。
「それにしても、タッグマッチってどうなるんですかね?」
「ああ、一夏君が不参加なら専用機持ちの数は奇数になっちゃうのか」
「奇数?寧ろ偶数じゃないのか?」
「橘深夜を忘れてますよ」
「......忘れてたっス」
空気がチョッと軽くなったタイミングを見計らいマドカが切り出した言葉で、なんとか話題は逸れた。
マドカ、ラウラ、セシリアは楯無達が話をしている隙にアイコンタクトを取り頷き合う。
そして、この間まで1年生専用機持ち達から忘れ去られていた深夜だったが、ダリルやフォルテからも忘れられていたようだ。
簪に言われ、フォルテが視線をそらしながらそう呟いた。
「私達で考えても何も分からないんだし、取り敢えず指示を待つしかないんじゃない?」
サラがそう言った事に、この場にいる全員が頷いた。
その瞬間に
キーンコーンカーンコーン
と、昼休み終了を知らせるチャイムが鳴り響く。
「ヤバ!早く戻らないと!」
鈴のその声と同時に全員がバタバタと後片付けをして自分の教室に帰って行く。
(お兄ちゃん...お兄ちゃんに何があっても、味方はいっぱいいるからね)
1年3組の教室に向かっている道中、マドカは優しそうな表情を浮かべながらそう考えるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「...束、来たぞ」
「やぁちーちゃん。いらっしゃい」
マドカ達が食堂で会話をしているのとほぼ同時刻、『PurgatoryKnights』開発主任用研究室にて。
千冬と束がそう会話していた。
「それにしても、かなり立派な研究室だな。こんな普通のオフィス街にいて此処に篠ノ之束がいるとバレないのか?」
「それは勿論!ここには私とスーちゃんが許可した人しか入れないし、万が一バレそうになったら束さんは消えるからさ!」
束はドヤ顔を浮かべながらそう言う。
そんな束の様子に千冬は思わず殴りたくなる衝動に駆られるも、なんとか抑え込み別の言葉を発する。
「...学園には一夏は此処で検査入院していると通達されているが...違うんだろう?」
千冬のその言葉に、束はさっきまでのあっけらかんとした表情から一気に真面目な表情になる。
「......なんでそう思ったの?」
「オルコスソードの説明がやけに遠回しだった。あっちの世界の事を知っていれば、そう思うのは当然だと思うが?オルコスソードの説明時点では、一夏はまだ学園にいるはずなんだからな」
「う~ん...束さんはその説明を聞いて無いんだけどなぁ~」
「そんな事どうでもいい。それで、如何なんだ?」
千冬が改めてそう尋ねると、束は1度息を吐いてから、言葉を発する。
「そうだよ。いっくんは今『PurgatoryKnights』にはいない。いっくんは、ダークネスドラゴンWにいる」
「そうか...」
束からしっかりとその事実を聞かされて、千冬はそう反応する。
万が一、此処にいたのなら顔を見ておきたいと思っていたのだろう。
その表情は少し曇っている。
「束さんもスーちゃんから話を聞いただけなんだけどねぇ~」
「なんだ、お前には説明が無かったのか?」
「多分、私にまで話してる余裕が無かったんじゃないかな?スーちゃんも慌てた様子だって言ってたし」
「なるほどな...」
バディであるオルコスが慌てる。
つまりは、それ程までに一夏の容態が深刻だという事だ。
それを聞いた千冬はあからさまに不安そうになっていた。
そんな千冬を見る束の表情も、暗いものに変わっていく。
「...いっくんは無理し過ぎなんだよ」
「そうだな...一夏は、無理をし過ぎだ」
束と千冬は同時にそう呟いた。
「...あらゆる国や企業が、一夏に書類を送っている。その中でも特に、日本政府、国際IS委員会、女性権利団体からはとびぬけているらしい...」
「いや、とびぬけてるんなんてレベルじゃない。もういっくんの処理してる仕事の8割はその3つからだよ。まぁ、最近は日本政府からの仕事は減ってるらしいんだけど、逆に残りの2つからは増えてるんだ」
「そうなのか...その3つが、一夏の負担の原因なのか...」
「いっくんの負担になるから止めさせたいんだけど...昔からいっくんに迷惑かけてる束さん達が言える事じゃないかもね」
束のその言葉に、千冬と束は同時に自虐的な笑みを浮かべた。
だが、何時までもそうしている訳にもいかないのでやがて表情を再び真面目なものにする。
「さて、いっくんに関する話はまた後でするとして...ちーちゃん、覚悟は良い?」
「無かったら今此処に来ていない」
「それもそっか」
束はそう言うと、そのまま研究室の奥の方に歩いて行く。
千冬も無言で束の後を付いて行くように研究室を進んで行く。
そうして、奥の奥の奥...『PurgatoryKnights』のビルの中でも最深部の壁の前に着いた。
束はカードキーを取り出すと、カードシリンダーやタッチパネルも何もない場所にカードキーを当てる。
ピ――――
そんな電子音が響くと同時に、壁が開き部屋が出て来る。
「手が込んでるな」
「これくらいはしないと!」
千冬が呆気に取られたかのように呟いた言葉に、束は嬉しそうな表情を浮かべながらそう返した。
やはり自分の作ったものを褒められるのが嬉しいんだろう。
特に相手は世界で1人だけの親友なのだから尚更だろう。
そして、束と千冬は並んでその部屋の中に入っていく。
「これが...」
部屋の中に入った瞬間、そこにあったものを見た千冬がそう声を漏らした。
そんな千冬の反応を見た束は満面の笑みを浮かべる。
「んっふっふ~凄いでしょちーちゃん!束さん的には最高傑作に近いよ~!」
「なんだ、言い切らないのか」
「それは当然!束さんはこれからも進化するからね!これ以上のものを作るのだ~~!!」
「これ以上ヤバいものを作ると私まで巻き込まれるから止めろ!!」
束の言葉に千冬が怒鳴るようにしてそう反応する。
千冬は疲れたようにため息をつき、束はニヤニヤしながら千冬の事を見ている。
「じゃあちーちゃん。早速始めようか」
「そうだな。時間は有限だからな」
そうして、千冬と束は作業を開始する。
とはいっても束が殆どの作業をしており、千冬は置いてあったものに乗り込み立っているだけである。
そうして作業をする事約10分。
「ちーちゃん、終わったよぉ!」
「流石、早いな......」
「当然!だって束さんだよ?寧ろこれくらいじゃないと束さんじゃ無いのさ!!」
作業が終了し、束と千冬はそう会話する。
束はおちゃらけた雰囲気を出しながらも爆速で作業の片付けをしていく。
そうして片付けが終わると千冬は軽く伸びをする。
「ふぅ...やはり暫くぶりだと違和感が凄いな」
「へぇ~、ちーちゃんでも違和感なんて感じるんだ」
「流石の私も感じるさ」
束の言葉に千冬は苦笑いを浮かべながらそう返す。
「......束、アリーナは使えるか?」
「そう言うと思って、事前に今日は誰も使えないようにしてもらったよ!」
「そうか...では、早速行くとしよう」
「そうだね!行こう行こう!」
そんな会話の後、2人は『PurgatoryKnights』のアリーナに向かって歩いて行く。
その道中で、束が千冬に声を掛ける。
「ねぇちーちゃん。その子でいっくんの事、守ってあげてね。束さんは、表立っていろいろ出来ないからさ」
少し悲しそうな表情を浮かべながら言う束に対して、千冬は
「当然だ!」
と覚悟を決めた表情を浮かべながらそう返すのだった。
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時刻は14:30。
IS学園教員寮、一夏の部屋。
「「......」」
此処ではクラリッサとチェルシーが不安そうな、悲しそうな、そんな感情がごちゃ混ぜになったような表情を浮かべながら座っていた。
一夏の容態が分からず不安な2人は、取り敢えず今は自分たちの心を落ち着かせるために一夏を感じたかった2人は、一夏から渡された合鍵を使用し一夏の部屋に来ていたのだ。
今現在は普通に授業の時間なので、教員寮は静かである。
そのシーンとした様子が、この部屋の空気を重苦しいものにしている要素の1つでもあった。
一夏の部屋は発熱し、オルコスによってヒーローWに運び込まれてから誰も入っていないので、発熱当時から何も変わっていないのである。
ベッドの近くの床には秋用の掛け布団が落ちているし、机の上には仕事を直ぐに再開する為かスリープモードのノートPCが放置されている。
キッチンにも朝ご飯の準備をするためなのか鍋等が出しっぱなしになっており、味噌汁が少し腐ったような匂いまでしてしまっている。
つまり、綺麗好きで家事が大得意な一夏の部屋とはあまり似つかない状態になってしまっているのである。
「...取り敢えず、何時一夏が戻って来ても良いように掃除をしましょうか?」
「......そうだな。一夏の為にも、綺麗にしておこう」
チェルシーの提案で、2人は一夏の部屋の掃除をする事になった。
いったん各々の部屋に戻って掃除の為の準備をし、道具を持って一夏の部屋に戻る。
そうして、一夏の部屋の掃除が始まった。
クラリッサはキッチン周りを、チェルシーがリビング部分を掃除し始める。
「...少し匂うが、やはりまだ1週間も経っていないからそこまででも無いな」
クラリッサはそう呟き、味噌汁が入った鍋を洗う。
鍋の後はコンロの周りの油汚れ等を掃除し始める。
「...埃は殆どないし、流石は一夏。普段から掃除もしっかりしてるのね.....」
リビングで掃除機掛けをしているチェルシーはそう呟いた。
そう、一夏は普段から仕事で忙しくても掃除はしっかりとしているので、少し散らかってはいるものの汚れている訳では無いのである。
折角なので普段の掃除ではスルーしがちな部分も掃除し、約1時間30分。
「ふぅ...もう大体終わったな」
「後は、枕と布団を少し干しましょう。天日干しは時間とスペース的に出来ないけど、少しくらいは......」
クラリッサとチェルシーはそう会話した後、ベッドからそれぞれ枕と掛け布団を手に取る。
その瞬間に、感じる一夏の匂いに思わず身体を止めてしまう。
「「一夏......」」
2人は同時に呟くと、そのまま枕と掛け布団を抱きしめながらベッドに座る。
「...今苦しいのは一夏のはずなのに、なんで私達がこんなに落ち込んでいるのかな?」
「ああ。私達は、一夏の事を支えないといけないのにな...」
2人は悔しそうな表情を浮かべながらそう言葉を零す。
恋人の発熱も人から聞いて初めて知ったし、看病も出来ない。
つまりは、一夏が大変な状況なのに、自分たちは何も出来ない。
それが、本当に、本当に悔しいのだ。
そして、本当だったら一夏をサポートしないといけないのに自分たちは一夏がいないというだけで落ち込んでいるのが、これまた嫌なのだ。
「教官にも、篠ノ之博士にも、一夏を支えるように言われているのに...不甲斐ないな...」
「一夏の為なら、なんでもしたいけど...一夏に何もしてあげられない...」
2人はそう呟くと、そのまま顔を俯かせてしまう。
2人の頭の中は一夏の事で埋め尽くされていた。
いろいろな不甲斐なさを感じた2人は、もう目元に少し涙を浮かべてしまっている。
ここで
♪~~♪~~
と、机の上に放置されていた一夏のスマホから着信音が鳴り響く。
その瞬間に思わず2人は顔を上げ、そのスマホに視線を向ける。
スマホの画面には、メールが来たことを伝えるもの、そしてその背後...ロック画面に設定されている一夏、クラリッサ、チェルシーが笑顔で映っている写真があった。
「「っ...!!」」
その写真を見た瞬間に、クラリッサとチェルシーは目を見開いて固まる。
そうして数秒後、2人の口元には微笑が浮かんでいた。
「...私達がするのは、こうやって落ち込んでいる事では無いな」
「ええ、分かっていた事ではあるのに......気持ちの面で忘れていた......」
2人はそう呟くと、そのまま視線を合わせる。
「私達がする事は」
「一夏がいつ帰って来ても良いように、私達も、一夏も笑顔でいられる空間を作る事」
2人はそう言い合うと、そのまましっかりとした笑みを浮かべる。
「取り敢えず、これを干しましょう」
「ああ。そうしたら、一夏が帰って来た時に何をするか考えるとしよう」
「そうしましょう♪」
2人は楽し気にそう会話をすると、改めて枕と掛け布団を干す。
((一夏。私達は、何時でも一夏の味方だから))
そう、心の中で覚悟を決めながら。
流石に隠し通せないのか...?
はてさて、如何なる事やら(自分で決めてる)。
次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!
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