無限の成層圏と煉獄騎士   作:ZZZ777

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サブタイそのままです。

今回もお楽しみください!


作戦後、旅館にて

三人称side

 

 

京都の亡国企業襲撃作戦終了後。

一夏達の拠点である霞荘。

 

 

一夏、クラリッサ、チェルシーが寝泊まりする部屋である青龍の間。

部屋の中央にポツンと1つだけ布団が敷いてあり、その上に未だ気絶したままで、頭や腕に包帯が巻かれた一夏が横になっていた。

枕の横には、ダークコアデッキケースがどこか寂しそうに置かれていた。

 

 

あの後、意識を保っていた千冬たち5人は抱えてる一夏とBチームに負担がかからない程度での最高速度で霞荘へと帰還した。

移動の途中で真耶に連絡を入れ、検査と治療の準備をしてもらった。

そして帰還して直ぐに全員の検査をした。

 

 

その結果として、全員身体に異常は発見されなかった。

高いところから落ち、頭を打ち付けた一夏も異常がない事を知ったとき、クラリッサとチェルシーが思わず泣きそうになったのは仕方があるまい。

 

 

そうして怪我の治療を全員に施し、一夏は青龍の間に、Bチーム全員が作戦会議室に別れて寝かされた。

今はBチームのメンバーが目を覚ましたとの事で、千冬たち全員が作戦会議室に向かったため、一夏が1人部屋で寝ているのである。

もしもの時はダークコアデッキケースの中のデッキにて休息をとっているオルコス達が知らせてくれる為、いったん全員で作戦会議室に行ったのだ。

 

 

「ん、んんぅ…?」

 

 

Bチームが目を覚ましたとの連絡があってから約20分後。

一夏が意識を取り戻した。

天井にある明かりの刺激から目を守るため咄嗟に枕に顔を埋める。

その時に、自分の頭や腕に包帯が巻かれているのに気が付いた。

 

 

(包帯…?なんで……?)

 

 

長時間気絶していて、起きた直後だからか頭が働いていないのか、自分に包帯が巻かれている理由を思い至っていない一夏。

疑問を抱いたまま再び天井を見上げた時、ここが旅館だという事を思い出した。

それをきっかけに、ジワジワと記憶が蘇ってきた。

 

 

「っ!そうだ、亡国企業襲撃作せっ!?痛たたた!!」

 

 

思い出した内容に思わず身体をガバッと起こした一夏だが、その瞬間に身体に走った激痛に思わず顔をしかめる。

 

 

「そうか…俺、症状が出て、深夜の攻撃で被弾して……そっから先の記憶がない。気絶してたか……」

 

 

思い出したはずなのに、記憶が欠けている事から、自分が気絶していたという事に気が付いた。

部屋をぐるりと見回すと、戦闘前に自分達が置いて行った荷物が視界に入った。

 

 

「俺達の部屋…それに治療がされてるって事は、ちゃんと帰ってこれたって事か……」

 

 

声に出すことで、頭の中での状況整理をよりしやすくする。

状況整理はバディファイターとしての必須スキルが故、一夏もスムーズに出来るのである。

 

 

「他の人は…クラリッサとチェルシーは大丈夫か……?」

 

 

自分の身体よりも心配になるのは自分の恋人の事。

一夏は今すぐにでも部屋から出て行きたかったが、さっき身体を動かした時に走った激痛を再び味わいたくは無い為布団からは出ない。

 

 

「よっと…」

 

 

一夏はなるべく身体を動かさないようにしながらダークコアデッキケースを手に取る。

中からデッキを取り出す。

 

 

「オルコス達も休憩中かな」

 

 

そう呟いた一夏はデッキのカードを確認する。

戦闘前と特にデッキレシピも変わらず、紛失も傷も無い。

安心したような表情を浮かべた一夏はそのままデッキを布団の上に置くと、そのままダークコアデッキケースをマジマジと確認する。

 

 

ダークコアデッキケース、もとい煉獄騎士の鎧は元々IS戦闘用ではなく、バディファイト用である。

つまり、激しい戦闘に耐えられる保証が何処にもないのだ。

臥炎財閥制の正規品ではなく、煉獄騎士団の魔力で再現した代物である点も考慮しないといけない。

再現品であるが故、ISコアが宿る事が出来ている。

だからといって、耐久力が上がっているとも限らない。

 

 

本来交わる事の無かった2つの世界。

それぞれの世界の発明品の融合品であるからこそ、一夏は当然束にもメンジョ―はかせにも未だ分からない事が多いのだ。

 

 

「破損は……無いっぽいな……」

 

 

一先ずの破損は無さそうでほっとした表情を浮かべる一夏。

置いていたデッキをダークコアデッキケースに戻し、枕の横に置く。

 

 

「喉が渇いたな…」

 

 

長らく気絶していて、起きてからも水分をとっていないので流石に喉が渇いてきた。

 

 

「歩けるかな…まぁ、究極の事態になったらエナドリあるし…」

 

 

ちらっと荷物を見ながらそう呟く一夏。

新幹線で恋人と妹に止められている為あまり飲みたくないし、そもそも寝起き一発目の水分がエナドリなのはあまりよろしくないので、普通に水が飲みたいのだ。

 

 

だが、激痛の事を懸念してなかなか行動に移せない。

 

 

「ふぅ…行くか!」

 

 

バディファイターは、時に相手の手札に対抗魔法がある可能性が高くても行動をしないといけない。

それと同じで、激痛が走ると分かっていても水分を取りに行かないといけない。

覚悟を決め、いざ立ち上がろうとした時

 

 

スゥーー

 

 

扉が開いた。

折角決めた覚悟が無駄になり何とも言えない感情を抱きながら、一夏は視線を扉の方に向ける。

 

 

「「……」」

 

 

「あ、クラリッサ!チェルシー!」

 

 

扉の向こうには、大切な恋人であるクラリッサとチェルシー。

一夏は一瞬にして笑顔になり右手を2人に向かって振ると同時に、心の中で安堵の息を漏らす。

自分以外の戦闘メンバーがどうなっているのかは全く分からなかったので、クラリッサとチェルシーの無事が分かったので安心したのだろう。

 

 

そんな一夏の様子を見て、クラリッサとチェルシーは動きを固める。

 

 

「ん?どうした?」

 

 

そんな2人の様子に一夏は首を捻る。

クラリッサとチェルシーは目元に涙をため、口元を震わせながら地面を蹴る。

 

 

「「一夏ぁああああああああ!!」」

 

 

「うおぉ!?」

 

 

そして、そのままの勢いで同時に一夏に抱き着く。

急な事で一夏は驚いた声を発するも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま2人の事を受け止める。

 

 

「一夏ぁ…!一夏ぁ……!!」

 

 

「良かった…良かったぁああああ……!!」

 

 

2人は一夏の胸に顔を埋め、身体を震わせながら泣き始める。

 

 

「っ……」

 

 

大事な恋人のこんな様子を見て、一夏も悲しそうな表情を浮かべ、奥歯を噛み締める。

 

 

(ああ、また俺は…恋人を悲しませてるのか……)

 

 

一夏はクラリッサとチェルシーの背中に手をまわし、思いっきり抱きしめる。

一夏に抱きしめられた事で、2人は強張っていた身体から少しだけ力を抜く。

それから暫くの間3人はそうして抱き合っていた。

 

 

「ん、一夏、そろそろ…」

 

 

「ああ、ずっとこうしていたいけど、そうもいかないからな」

 

 

名残惜しい感じを醸し出しながらもいったん離れる3人。

クラリッサとチェルシーの目元は若干赤くはなっているものの、さっきまでとは違い落ち着いていた。

 

 

「それでさ、俺被弾してからの記憶無いんだけど…あの後、どうなった?」

 

 

一夏は取り敢えず一番気になっている事を2人に聞いた。

クラリッサとチェルシーは頷き合うと、一夏に説明を開始した。

 

 

一夏が気絶した後、千冬と簪が駆け付けた事。

2人のお陰で態勢を立て直し、深夜を追い詰める事に成功した事。

そんな中、何処からともなく謎の声が聞こえてきた。

その謎の声は『化け物の創造主』と名乗り、深夜に帰還命令を出した事。

その際に、化け物とは深夜の事ではないとの事を伝え、驚きで千冬たちが固まっている間に深夜が何処かに飛んでいってしまった事。

 

 

その全てを。

 

 

「そっか…そんな事が…」

 

 

説明を聞き終えた一夏は、若干悔しそうな表情を浮かべる。

そんな大切な時に被弾して、戦力になれなかったのが悔しいんだろう。

 

 

「一夏」

 

 

「チェ、チェルシー?」

 

 

そんな一夏の様子を見て、チェルシーが一夏の名前を呼びながらその頬に両手を添える。

急にそんな行動をされて、一夏は少し動揺しながらチェルシーの名前を呼ぶ。

チェルシーはジッと目を見つめながら優しく言葉を発する。

 

 

「一夏、気にしなくて良いのよ。一夏は私達に言ってくれたでしょ?『みんなが必要だ』って。それは一緒。一夏が居たから、ダメージを与えてくれたから、あの後しっかり戦えた。だから、自身を持って?」

 

 

「チェルシー…」

 

 

チェルシーにそう言われ、一夏は身体から力を抜く。

そんな一夏に、後ろからクラリッサが抱き着いた。

 

 

「クラリッサ!?」

 

 

背中に感じる柔らかい2つの感触に驚きの声を発する一夏。

何時も一夏の方が自分達を慌てさせる側なので、珍しく慌てる様子を見てクラリッサは若干笑みを浮かべると、優しく話し始める。

 

 

「一夏、今は身体をしっかり休ませて。橘深夜の攻撃は、掠っただけで絶対防御が発動するものだったんだ。それをまともに受けたんだから、今は安静に。身体は、一番大事な資本だぞ?」

 

 

「クラリッサ…」

 

 

恋人2人に優しく諭され、一夏は少しの間呆けたような表情を浮かべていたが、やがて微笑を浮かべると降参を示すように両手を上げた。

 

 

「今日はなんか、2人に勝てないな」

 

 

「ふふふ、一夏、忘れているかもしれないが私達の方が年上なんだぞ?」

 

 

「そうよ、偶には私達が主導権を握っても良いじゃない」

 

 

チェルシーは一夏の頬に当てていた両手を離し、クラリッサと同様に一夏に抱き着き、2つの柔らかいものを押し付ける。

 

 

「っ!?////」

 

 

これまた珍しく顔を赤くする一夏。

何時も凛としていて、こっちが恥ずかしくなるような言動をしている一夏が、自分達の行動で動揺し顔を赤くしている。

その事実が、クラリッサとチェルシーの中に悪戯心を芽生えさせた。

視線を合わせ頷き合うともっと身体を密着させ、

 

 

「「ふぅ」」

 

 

同時に左右の耳に息を吹きかける。

 

 

「へぁっ!?」

 

 

一夏にしては間抜けな声を発し、顔を更に真っ赤にする。

 

 

「ちょ、ちょっと…」

 

 

拘束から逃れようとする一夏だが、前後からガッチリ抱き着かれているので動けない。

普段ならば簡単に逃げられる、というよりかはそもそも捕まらないのだが、寝起きであるという事、抱き着かれた際は避ける理由が無かった事、さっき動揺させられた事等々の理由が重なりこのような状況になっているのだ。

 

 

「え、あ、そ、え…」

 

 

一夏はアワアワしながら視線を泳がせる。

何時も通りの思考をしようとしても、動揺と羞恥心で上手く行かない。

そんな様子を見て、クラリッサとチェルシーは微笑ましいものを見る笑みを浮かべる。

キョロキョロしている一夏は、2人の笑顔が視界に入り、恥ずかしい思いが芽生えると同時、何処か安心を覚えた。

 

 

さっき自分のせいで泣いていた大切な恋人が、今は笑顔で自分の事をいじっている。

その事実が、一夏に安心感を与えているのだ。

だが、だからといってずっとこのままでいる訳にもいかない。

まだ正常に機能していない脳を必死に働かせ、この状況を突破する手段を考える。

その間もクラリッサとチェルシーはずっと一夏に抱き着いており、一夏の匂いや熱をしっかりと感じていた。

 

 

そうして大体十数分が経った時。

この状況は唐突に終わりを迎えた。

 

 

「お前たち、大丈夫か?そろそろ晩御飯…」

 

 

「「「へっ?」」」

 

 

一夏の様子を見に行ったクラリッサとチェルシーが帰ってこないのでやって来た千冬が、開けっ放しだった扉から顔を出した。

視線の先で自分の弟を両側から挟み、柔らかいものを押し付けている弟の恋人2人。

そんな光景が急に飛び込んで来て千冬は動きを固める。

そして、千冬に見られた事を知った3人も動きを固める。

暫くの間、この場の空気がガッキガキに凍った。

 

 

「ば、ばばば晩御飯か!クラリッサ、チェルシー、行こう!」

 

 

場の空気が凍った事で漸く脳のリセットがされ、持ち前の冷静さで一番最初に意識を取り戻した一夏が強引に空気を変える。

 

 

「そ、そうね!行きましょう!」

 

 

「きょ、教官!何処に向かえばいいのですか!」

 

 

「え、えええ宴会室だ!私についてこい!」

 

 

全員が慌てながら会話をする。

一夏が着替えるため千冬たち3人が部屋の外に出る。

暫くの間あわあわしていた一夏だが、自分の荷物からタオルを取り出し汗を拭き、『PurgatoryKnights』のジャージに着替える。

 

 

《全く、あんな戦闘の後なのに、なんというか、何時も通りだな》

 

 

《マスターと恋人さんの攻守が逆っていう違いはあるけど》

 

 

《まぁ、元気みたいで良かったです》

 

 

そんな光景を尻目に見ながら、ダークコアデッキケース内でオルコス、白式、白騎士の3人がそんな会話を行う。

3人は随分前から一夏達の会話を聞いていたが、とばっちりが来るのが嫌だったのでダークコアデッキケース内でジッとしていたのだ。

 

 

《元気…か。間違っては無いが…》

 

 

白騎士の言葉を聞いたオルコスは歯切れの悪い感想を漏らす。

そのまま少しの間黙った後、ボソッと言葉を発する。

 

 

《いささか元気過ぎるな…》

 

 

《はい、回復が異常なまでに早いです。掠っただけで絶対防御が発動する攻撃を、ただの鎧…いえ、鎧すらないドラゴンフォースで受け、そのまま地面に頭から落下したんです。もっとダメージが無いとおかしい》

 

 

《それなのにマスターがあれだけ元気って事は…やっぱり……》

 

 

白式のその言葉に、3人の間に重苦しい空気が流れる。

 

 

《かなり進行している事に間違いは無い。博士の見積もりよりもかなり早くな…》

 

 

《はい、もう既にマスターに残された時間は、かなり限られているでしょうね…》

 

 

《それでも、私達はマスターを支えるだけ!》

 

 

《…そうですね。マスターの判断が如何であろうと、私達は共に歩みます》

 

 

《ああ、相棒の事を放っておけるわけが無いからな。我らが共に歩める限り、共に歩み続けるさ》

 

 

一夏が準備を終わらせ、ダークコアデッキケースをポケットに入れたので会話はそこで終了した。

一夏はそのまま廊下に出て、千冬たちと夕食を食べる為に宴会室に向かうのであった。

 

 


 

 

全員で夕食を食べ終え、全員が温泉に入った後。

もう1度全員で宴会室に集まり会話をしていた。

 

 

「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」

 

 

「大丈夫だ。起きるのがお前たちより遅れただけだって。そっちこそ大丈夫か?」

 

 

「大丈夫だよ一夏。僕達はISが守ってくれたから」

 

 

「帰ったらオーバーホールが必須だろうがな」

 

 

温泉に入った後なので、全員が旅館備え付けの浴衣を着用している。

そして各々好きな飲み物を飲みながら気楽に話していた。

そう、好きな飲み物を飲みながら。

 

 

「一夏ぁ~~!つまみ~~!!」

 

 

「織斑くぅん!お願いしまぁ~す!!」

 

 

「黙れこの酔っ払い共が!!」

 

 

千冬と真耶がビール缶片手に一夏に絡んでいき、一夏は面倒くさそうに2人の事を押し返す。

千冬だけに対してならともかく、一夏が真耶にまでこんな態度を取るのは珍しい。

だが、マドカ達は特に驚いた様子もなくその光景を見ていた。

理由は単純明快、このやり取りが1回目では無いからだ。

 

 

遡る事数分前。

温泉に長く浸かっていて遅れて一夏がやって来た時には、もう千冬と真耶は出来上がっていた。

一夏がマドカ達に声を掛ける前に千冬達が絡んでいった。

当初は戦闘の後という事で優しく応対していた一夏だった。

だが、何度も何度も絡んで来るのでだんだん口調が荒くなっていき、さっきのように真耶に対しても少々雑に接するようになっているのだ。

 

 

「はぁ…全く面倒だな。いろいろあったってのに、よく酒を飲む気になるな」

 

 

一夏は面倒くさそうにそう呟くと、持っていた緑茶のペットボトルの蓋を開け、中身を飲む。

ペットボトルから口を離し、蓋を閉める。

 

 

「あ、すまない一夏、お茶をくれないか?」

 

 

「ん、分かった」

 

 

そんな一夏にクラリッサがそう声を掛け、一夏がそのまま飲みかけのお茶のペットボトルを渡した。

がっつりディープなキスだったり、それ以上の行為をしている恋人間で今更間接キスなど気にならないのである。

 

 

「き、気にしないのね」

 

 

「しないしない。直接した事もあるんだ、今更こんな事で恥ずかしくならん」

 

 

「へぇ~、進んでる…って言って良いのかしら」

 

 

鈴がそんな一夏に声を掛け、一夏が軽くそう返す。

 

 

「それに、さっきもっと恥ずかしい事されたし」

 

 

「「へぇっ!?」」

 

 

その流れで一夏が爆弾を投下し、クラリッサとチェルシーが思わず変な声を発する。

さっき自分でやっていた事なのだが、冷静になって改めて自分達の行動を振り返ると滅茶苦茶に恥ずかしいのだろう。

顔を真っ赤にしてアワアワしている。

 

 

1回ターンを返すと、次のターンが来る前に倒されてしまうというのはバディファイトではよくある事。

それと一緒で、1回主導権を放棄してしまうと一夏がまた攻めて来るのも当然である。

 

 

「まぁ、恥ずかしかったけど、それ以上に良いもの見れたし聞けたし感じれたりだから良いや」

 

 

「「//////」」

 

 

一夏がさらっと言った言葉にクラリッサとチェルシーが顔を真っ赤にする。

そんな3人の様子を見たマドカ達もなんとなく恥ずかしくなり、視線を逸らす。

 

 

「一夏ぁ、つーまーみー」

 

 

「うるっせぇなぁ!コンビニ歩いて5分くらいの所にあるんだから買ってこい!金ねぇなら奢るかよぉ!!」

 

 

そんな雰囲気を全く感じず、千冬がビール瓶片手に一夏の後ろから抱き着いたので、一夏がキレた。

思いっ切り力を籠め、千冬の身体を引っぺがす。

千冬はそのまま仰向けで倒れ、浴衣が少しはだける。

一瞬もしないうちに寝息が聞こえて来たので、酔いが回って寝たのだと一夏は察した。

 

 

「……しょうがねぇなぁ」

 

 

一夏はぶつくさ言いながら千冬の浴衣を直す。

今更姉の下着がチラ見えした程度では全く感情は動かされないのだ。

普段の千冬からは考えられないような醜態を見て、クラリッサ達は少し驚いたような表情を浮かべる。

 

 

「千冬さんはお酒入ると面倒なの、全く変わって無いわね~~」

 

 

「この駄目駄姉は一生変わらん。禁酒って言ってもコイツ飲むからな…」

 

 

一夏を除き、唯一この場で酒が入った千冬の面倒くささを知っている鈴も呆れたようなため息を発してからそう呟く。

一夏は脳内でどうやったら禁酒させることが出来るのかを考えながら千冬を壁際に引っ張っていく。

 

 

「な、慣れてるのですね…」

 

 

「この駄姉が酔って面倒くさくなるのはもはや織斑家名物だからな」

 

 

セシリアが呆然と呟いた言葉に、一夏が半眼を作りながらそう返す。

同じく織斑家ではあるマドカは苦笑いを浮かべている。

 

 

「あ、山田先生も寝てる…」

 

 

簪の言葉を聞き、全員が真耶がいたはずの方向に視線を向ける。

するとそこでは、真耶が酔いつぶれて眠っていた。

持っていたビール缶はそこらへんに転がっていて、中身が漏れてないあたりもう空なのだろう。

 

 

「山田先生もかよ…」

 

 

「あ、一夏、私がやるわ」

 

 

「良いのか?」

 

 

「良いのよ、メイドなんだから酔った人の介抱くらい出来るわ」

 

 

真耶の介抱をしようとした一夏を止め、チェルシーが変わりに真耶の介抱をする。

本人が言っていた通り、メイドであるチェルシーにとってはこれくらい朝飯前なのである。

そうして大体10分後、真耶の介抱を終え真耶を壁際に寝かせた。

本当ならば布団に寝かせてやりたいのだが、ここは宴会室。

そんなものは無い。

そして、今日は亡国企業襲撃作戦の為従業員もほぼいない為、運んでもらうのも何処か忍びない。

その為、いったん此処に寝かせるのである。

 

 

「マドカ、後はよろしくな」

 

 

「え、嫌だ…」

 

 

こんな酔っ払い2人の同室であるマドカに一夏が声を掛けるも、マドカは思わず素直な感想を漏らした。

まぁ、こんな面倒な様子を見たらそんな感想を抱いてしまうのも仕方が無い。

 

 

「あ、あぁぁ…い、一夏…」

 

 

「何だ酔っ払い駄姉。吐くならトイレいけ」

 

 

ここで、さっきまで気絶するように寝ていた千冬が目を覚ました。

一夏が半眼を向けながらそう言うと、首を振りながら伸びをする。

 

 

「いや、さっきの衝撃で酔いがさめた」

 

 

「衝撃…ああ、引っぺがした時か。駄姉、アンタの醜態はこの場にいる全員が見ているからな」

 

 

「えっ……」

 

 

一夏の言葉を聞いた千冬は珍しく呆けたような表情を浮かべる。

そして錆びたからくり人形のようにギギギと顔をマドカ達に向ける。

マドカ達はどう反応したら良いか分からず苦笑を浮かべる。

それだけで全てを察した千冬は膝から崩れ落ちた。

 

 

「これに懲りたら禁酒する事だな」

 

 

「…絶対に禁酒する!」

 

 

「おお、漸く誓ったか」

 

 

一夏に言われ、とうとう禁酒を決心した。

そんな千冬の様子に一夏が驚いたような表情を浮かべた後、感心したように頷いた。

 

 

「取り敢えず自販機で水買って来てやる。それ飲んで大人しくするんだな」

 

 

「ああ、分かった…」

 

 

なんだかんだいって、一夏にとって千冬が大事な姉である事に変わりはない。

一夏は水を買いに行き、千冬はマドカ達の会話に軽く加わる。

そうして数分もしないうちに水を買ってきた一夏が千冬に水を渡し、千冬がそれを一気に飲み干した。

 

 

「そう言えば、こうやってゆっくり全員で話すのって久しぶりだね」

 

 

「確かにそうね。全員が揃う事自体がそもそも久しぶりなのよね」

 

 

シャルロットと楯無がそう言った事で、全員がそう言えばそうだと思い出した。

最近…というよりも夏休みあたりから一夏が仕事の関係であまりこういうところに顔を出せなくなり、2学期になってからは色々と事件が起きすぎて忙しすぎて、中々集まれないし集まっても短時間なので記憶に残らないのである。

 

 

「そうだ一夏、この際だから1つ聞いておきたい事があるんだ」

 

 

「なんです織斑先生」

 

 

そんな中千冬が一夏にそう質問し、千冬の酔いがさめている事を確認したので一夏は一応生徒として接する。

 

 

「今はそれはいい」

 

 

「そうか。それで?聞きたい事ってなんだ?」

 

 

千冬がそれをやめさせた事で、プライベートの弟としての話し方に戻った一夏が改めて聞き直す。

 

 

「一夏、お前は将来何をやりたいんだ?」

 

 

「将来……」

 

 

「あ、それは気になる」

 

 

千冬に言われ、一夏は呆然と呟いた。

マドカ達も興味津々といった表情を浮かべ、一夏に視線を向ける。

 

 

「まぁ、IS学園卒業してもISからは離れられないだろ」

 

 

「それはそれだ。いつかはISを離れられる日が来る。そうなった場合、何をしたいのか聞きたいんだ」

 

 

「そうなってくるとなぁ……」

 

 

一夏は真剣に考えるように顎に手を置き目を伏せる。

何気ない質問でまさかここまで真剣に考えるとは思っていなかった千冬は、若干申し訳なさそうな表情を浮かべる。

そうして大体10分後、目を開けた一夏がボソッと呟いた。

 

 

「喫茶店…」

 

 

「え?」

 

 

シャルロットが聞き返すと、今度はハッキリと言葉を発する。

 

 

「喫茶店、経営したいな…」

 

 

一夏の言葉を聞いた全員がほう、といった感じの表情を浮かべた。

 

 

「一夏なら難なく営業できそうだな…でも、少し意外だった。理由を聞いても良いか?」」

 

 

「まぁ、今が高校生とは思えないくらい忙しいから、ISから離れたらゆっくりしたいっていうのがあるな」

 

 

クラリッサに理由を尋ねられた一夏は、自嘲気味に笑いながらそう言った。

全員から悲しそうな視線を向けられるが、一夏は気にするなと手をピラピラさせながら続きを語る。

 

 

「あとは、俺みたいな人生送ってる奴なんてなかなかいないだろうからな。色んな人と会話して、その人の悩みを聞けたらな…って」

 

 

さっきまでとは違い、優しく笑いながら一夏は言う。

 

 

「一夏…良い夢ね」

 

 

「ま、ISから離れられるのが果たして何十年後か」

 

 

チェルシーの言葉にそう返すが、何とも言えない内容なのでチェルシー達は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 

 

「あ、そうだ!もう1つ大事な事があった」

 

 

「それは何?」

 

 

ここで一夏がとあることを思い出したかのように両手を合わせた。

マドカが興味津々といった表情を浮かべ一夏に尋ねる。

 

 

「国籍の事なんだけど」

 

 

「あ、一夏まだ無国籍状態だったけ?」

 

 

「忘れんな。俺はそのせいで手続きで会社挟まないといろいろ面倒なんだよ」

 

 

「それで、その国籍がどうしたの?」

 

 

「何時か国籍決まるとき、重婚が出来る国にしないと」

 

 

「「……へぇっ!?//////」」

 

 

重婚。

その言葉を聞いたクラリッサとチェルシーが顔を真っ赤にする。

 

 

わざわざそのワードを出したという事は、一夏が結婚する事も考えているという事だ。

それを自覚したクラリッサとチェルシーは顔を真っ赤にしたという訳だ。

3人以外の全員はその甘ったるい空気に砂糖を吐きそうになる。

そんな空気になっている事に当然気が付いている一夏は、少し意地悪な笑みを浮かべると、

 

 

「まぁまぁ、詳しい事は数年後って事で。この場はこれで終わり終わり」

 

 

と、半場無理矢理この会話を終了させた。

そうして、一夏が主体となって新たに会話を生み出し、回転させることでこの場の空気をリセットさせた。

そこからとめどなく会話する事数分。

 

 

ピピピピピ

 

 

そんな電子音があたりに響いた。

 

 

「あ、すまん。俺だ」

 

 

「何処から?」

 

 

「会社から。多分結構無理矢理な日程でナターシャとイーリスこっちに連れて来たからそれ関係な気がする」

 

 

一夏は立ち上がりながらシャルロットと会話する。

 

 

「俺は行くわ。長引けば直帰で部屋行くから」

 

 

高校生のはずなのに、営業のサラリーマンが出先で電話で課長に言いそうなセリフを残し一夏は宴会室から出て行った。

 

 

「こちら織斑一夏です。はい…はい……あー、専務の方に話通ってればそっちに確認してもらった方が早いんだが……」

 

 

「…今専務って聞こえた気が…それに途中から話し方がため口になってたし…」

 

 

チラッと聞こえてきた一夏の言葉に、簪が若干圧倒されながらそう呟いた。

そんな簪にマドカとシャルロットが説明を開始する。

 

 

「あー、お兄ちゃん会社の中でかなり権力あるんだよね…」

 

 

「うん、多分社長の次くらいに社内への影響力ある。まぁ、一夏が権力にものを言わせる訳が無いから普段だとそんな印象抱かないんだけど」

 

 

身内以外で知る訳がない一夏の社内での立ち位置を聞き、以前一夏本人からそれとなく聞いていたクラリッサとチェルシー以外の全員が驚いたような表情を浮かべた。

千冬すらも同じ反応をした事に、マドカも首を傾げた。

 

 

「あれ、お姉ちゃん聞いてなかったの?」

 

 

「…一夏はあまり自分のプライベートの話をしてくれないんだ……」

 

 

「そうなんですか?私達には結構色んな事喋ってくれますが…」

 

 

「だから教官にもある程度は話しているものだと…」

 

 

落ち込んでいる千冬に、無自覚で一夏の恋人2人が傷口に塩を塗り込んだ。

 

 

「うっ!?」

 

 

千冬は胸を押さえ、その場に蹲った。

 

 

「ふん…どうせ私は弟に信頼されて無いんだ…」

 

 

そうしてブツブツと呟き始めた。

普段の様子からは全く想像が出来ない程落ち込んでいる様子を見て、

 

 

「まだお酒抜けてないのかしら?」

 

 

楯無が思わず口を滑らせた。

何時もだったらそんな態度をした生徒を叱る千冬だが、今はそんな余裕はない。

 

 

そんな千冬を放っておいて、マドカ達は暫くの間再び雑談をしたのだが、時間も時間なので解散する事になった。

手分けして真耶と千冬を部屋に戻し、その後各々が自分の部屋に帰って行った。

普段寝る時間からするとかなり早い時間なのだが、いざ布団に横になると今日の疲れがドッと出て来たのか、全員が暫くもしないうちに眠りに付いたのだった。

 

 


 

 

時刻は少し巻き戻り、マドカとシャルロットが社内での一夏の立ち位置を説明しているのと同時刻。

一夏の姿は男湯の更衣室にあった。

今この旅館に一夏以外の男性は居ないので、余程の事が無ければ他の誰かが来る事は無い。

だからこそ、一夏は此処にやって来た。

 

 

そして、今一夏が何をしているのかというと…

 

 

「あ、ぐ、ぅ…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

地面に仰向けで倒れ込み、虚ろな目で天井を見上げ、右手で心臓を押さえながら荒い呼吸をしていた。

顔中に汗を掻いており、とても辛そうな表情を浮かべていて、その側には『PurgatoryKnights』の通信機器が転がっていた。

 

 

「あ、や、ば、い……」

 

 

《一夏!大丈夫か!?》

 

 

《マスター!》

 

 

《しっかりしてください、マスター!》

 

 

そんな一夏の元に、慌ててオルコス、白式、白騎士が駆け付けた。

白式、白騎士は人間体の見た目は男性のものでは無いのだが今は緊急事態。

そんな事言ってられない。

 

 

白騎士はその手に一夏のスマホを握っていた。

さっきの会社からの連絡はフェイク。

水を購入した時に、そろそろ身体に症状が出る事を察した一夏は自販機の前で白騎士に自分のスマホを渡し、暫くしたら通信機器の方に電話を掛けるように頼んでおいたのだ。

その結果、一夏は千冬達に違和感を与えることも無く退出に成功した。

だが、更衣室にだどりついた時に限界が来てしまい、仰向けに倒れたのである。

 

 

《マスター!しっかりして!》

 

 

《大丈夫ですか!?呼吸は出来ますか!?》

 

 

一夏の身体を起こし、棚に体重を預けれるように態勢を変える。

 

 

《水飲めるか?》

 

 

「う、はぁ、はぁ……あ、ありがとう………」

 

 

オルコスが水の入ったペットボトルを一夏に手渡し、受け取った一夏は500㎖を一気に飲み干す。

口元を左の手の甲で拭い、身体から力を抜く。

一夏はオルコスからタオルを受け取り、顔に掻いた汗を拭いていく。

 

 

「はぁ、はぁ、ヤバい…もう、症状の出るスパンが……早すぎる……」

 

 

一夏は右手で心臓を押さえ、左手で顔を覆いながらそう呟く。

一夏の言う通り、一夏の身体に出る症状のスパンが以前に比べてかなり早くなっているのだ。

以前までだったら1回症状が出て落ち着けば、その日はもう症状が出なかった。

だが、今日は戦闘中に症状が出ているのに、今こうして再び症状が出ている。

1日に2回も症状が出ているのだ。

 

 

《マスター…》

 

 

《マスター、もう無理も無茶もしないで下さい。これ以上は身体だけじゃなく、心も限界になってしまいますよ?》

 

 

「…そういう訳にもいかないのは、分かってるだろ?」

 

 

心配そうな表情を浮かべ、一夏に声を掛ける白式と白騎士。

だが、一夏はそう返すと暫くの間顔を覆いながら俯いていた。

その手や僅かに見ている口元などは震えているが、それは発作で震えているようでは無かった。

 

 

「……怖い」

 

 

《 《 《っ!?》 》 》

 

 

一夏の呟いた言葉に、オルコス達が身体をビクっと震わせた。

だが、それに反応する余裕が無い一夏は続きを呟き始めた。

 

 

「怖い、嫌だ、なんで、俺は…俺は……」

 

 

辛そうな表情を浮かべながらそう呟く一夏。

 

 

《一夏》

 

 

そんな一夏に、オルコスがSDを解除してから話し掛けた。

急にSDを解除したオルコスを見て驚いた表情を浮かべる一夏に、オルコスは優しく話し掛ける。

 

 

《お前が辛いのは分かっている。そして、どうしても譲れないものがあるのもな。その上で言う、我らに頼れ。我らには弱音を吐け。我は、お前のバディだ。そして我ら新生煉獄騎士団は、お前の味方だ》

 

 

「オルコス…」

 

 

一夏がオルコスの事を見上げると、一夏の両側から白式と白騎士も優しく声を掛けていく。

 

 

《マスター、私達はこの先何があってもあなたに仕えるから》

 

 

《はい、マスターのモンスターとして、新生煉獄騎士団の一員として、支えていきますから》

 

 

白式と白騎士の言葉を聞き、一夏は息を大きく吸って、吐いた。

そして苦笑を浮かべると降参を示すように両手を上げた。

 

 

「分かった、頼れるときに頼らせてもらうよ」

 

 

そうして笑顔で立ち上がると、自分の部屋に向かって歩き出す。

だが、少し足取りがフラフラだったのでオルコスに支えられながら戻った。

そしてオルコス達はダークコアデッキケースに戻り、一夏は先に寝ていたクラリッサとチェルシーを起こさないように頬に口づけをしてから自分も眠りに付いた。

 

 

こうして、亡国企業襲撃作戦の日は、終わりを迎えたのだった…

 

 

 




さてさて、一夏はずっと大変だが更に大変な事になってきたなぁ。

次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!

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