無限の成層圏と煉獄騎士   作:ZZZ777

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前回の続き。
爪痕感は正直無いかもしれませんが、許してください。

今回もお楽しみください!


事件の爪痕

三人称side

 

 

全壊したIS学園での一夏とのやり取りから、十数時間。

千冬たち一行の姿は、生徒達が避難しているホテルにあった。

 

 

一夏とのやり取りの後、暫く呆然としていたが、ずっとこうしている訳にはいかないと無理矢理切り替え、スコールや真耶達を全員で手分けしながら本土へと運び、十蔵が派遣してくれた救急隊員に託した。

病院に運び込まれ、いろいろと検査をした結果、骨折などの重たい怪我は誰もしていないとの事だった。

今現在、全員大事を取って入院しているが、意識などもハッキリしており、数日したら退院できるとの事だった。

 

 

だが、本来ならば安堵する内容の連絡を聞いても、一行の気持ちは晴れなかった。

原因は、言わなくても察せられる。

一夏だ。

 

 

あの場から、逃げるように姿を消した一夏。

誰が連絡しようとしても繋がらず、メッセージに既読もつかない。

そしてラボに居た束でも追跡は出来ておらず、休憩を挟んで血眼になって世界中を探しても、一夏は一向に見つからなかった。

 

 

ここまで来ると、向こうの世界について知っている人間は、一夏はもうこっちの世界には居ないという事を否が応でも理解する事になる。

向こうの世界に行く手段は一夏達しか持っておらず、流石の束でも世界を超えて一夏にコネクトを取るのは不可能。

これで、一夏と連絡を取るには、一夏からの連絡を待つしかなくなった。

 

 

その事に全員がショックを受けていたが、特に重症なのがクラリッサとチェルシーの恋人2人と、千冬とマドカの(ブラコン)姉妹2人だ。

この4人にとって、一夏はこの上ない程大切な存在だ。

もともと夏休み前からの尋常じゃない程の仕事量から始まり、学園祭での吐血、2度の発熱、京都での作戦中の急な気絶などなど、一夏がどれだけ気を使っても、どうしても心配してしまう要素は沢山あった。

それでも、一夏本人が気絶していても周囲の人間が応対する為、今まで音信不通になる事は無かった。

 

 

だが、今回は以前までの体調不良とは明らかに様子が違う。

一夏本人はかなりフラフラではあったが自分で動けていた。

だけれども、髪や肌、目の色などがこの時間ではあり得ない程変わっていたし、言動も今までの一夏とは違い過ぎた。

 

 

いったいどうしたのか。

今元気なのか。

どうして、あの時自分達から逃げたのか。

いろいろと考え込んでしまい、体調にまで影響が出ていた。

そろそろ本当に如何にかしないといけない。

 

 

一般生徒にこの事を説明し、変に不安にさせるのもいけないと判断したため、一夏も真耶達と同じように検査入院しているという事になっている。

その為、事情を知っているのは十蔵とエクスカリバー討伐組だけといった状態だ。

全員そこそこにショックを受けているが、体調に影響を及ぼすレベルでは無い為、4人の事を励ましていた。

 

 

特にクラリッサにはラウラが、チェルシーにはセシリアがほぼ付きっ切りといった状態だった。

何時も自分を支えてくれる頼もしい存在が、ここまで弱っているのを見て、放っておけるはずが無かったのだ。

 

 

マドカも励ましを受けていたが、千冬は自力で復活した。

教員として、何時までも私情で落ち込んでる訳にはいかないと、気力だけで立ち直ったのだ。

 

 

その後、一般生徒の心のケアもしたり、国際IS委員会に報告したりなどをしながら過ごしていると、真耶達が無事に退院。

これで、IS学園が襲撃した時に何が起こったのかをより把握している人物と会話が出来る事になった。

 

 

教員寮は当然のようにもう存在しない為、ホテルにやって来た真耶達。

その翌日、ホテルの大きな部屋に集まって職員会議をする事になった。

この部屋に居るのは、十蔵とエクスカリバー討伐組全員と、真耶達襲撃時に戦闘をした教員全員と、オータム、そして束だ。

本当だったらスコールにも話を聞きたかったのだが、スコールには『PurgatoryKnights』社長としての仕事がある。

 

 

ただでさここ数日業務から離れていたのに、世界で2人しか確認されていない男性IS操縦者と音信不通になったのだ。

やる事は山積みだ。

IS学園側もやる事が大量にあるので、こっちの会議にも参加していたら過労死ラインに到達してしまうので、会社の方を優先してもらう事にしたのだ。

 

 

「みなさん、急な招集にも関わらず、集まってくれてありがとうございます」

 

 

「いえいえ、これはやらねばならない事ですので」

 

 

「そう言っていただけて嬉しいです。それでは、緊急会議を開始します」

 

 

IS学園の会議室は最高レベルの防音状態の為、外に情報が漏れること等考えずに会議が出来るのだが、此処はホテルの一室、。

プライバシーを保てる範囲の防音はされているが、それでもIS学園の会議室よりかはレベルが低い。

その為、出来る限り声のボリュームを絞って話をする事になる。

 

 

「まず最初に。改めまして、エクスカリバー破壊作戦、お疲れ様でした。みなさんのおかげで、地球の危機は去りました。本当に、ありがとうございます」

 

 

『ありがとうございました』

 

 

議題に入る前に、十蔵の言葉を切っ掛けに真耶達が千冬達に頭を下げる。

だが、当の千冬達はその参事は不要だといった表情を浮かべる。

千冬達がこの会議で何が聞きたいのか、会議前に集まって確認してある。

代表して、千冬が一度深呼吸をしてから口を開く。

 

 

「いえ、当然の事でしたから。それよりも、学園長から軽くは聞いていますが、説明してください。私達が宇宙に行っている間に、IS学園に…一夏に何があったのかを」

 

 

千冬の、そしてマドカ達の表情は全員が固いもので、一刻も早く説明をしろと視線が訴えていた。

特に織斑姉妹と一夏の恋人2人の眼力は凄まじい。

説明を催促しているのに、その圧力で逆に話ずらくなっている。

 

 

だが、その質問が来ることは予想がついていた。

軽く息を吐いてから、言葉を発する。

 

 

「分かりました。ですが、それは私が説明するよりも現場に居た人が説明した方が良いでしょう。山田先生、お願いしても良いですか?」

 

 

「はい、問題ありません」

 

 

十蔵の言葉に真耶が返答すると、十蔵に向けられていた視線が一斉に真耶に向けられる。

その視線の圧に、十蔵と同じように若干話しずらさを感じるも、頭を数度振ってから口を開く。

 

 

「私も、改めて振り返りながら喋るので、言葉に詰まるかもしれませんが」

 

 

真耶はそう前置きしてから、話し始める。

 

 

「イギリスに向かった織斑君が帰って来てからも、大きな問題は生じていませんでした。強いて言うなら、移動の疲れと時差ボケで織斑君がそこそこダウンしてたくらいでしょうか」

 

 

『……?』

 

 

真耶のその言葉に、エクスカリバー討伐組は同時に首を捻った。

普通に考えれば全然ダウンしても問題無い状況なのだが、行きの時は移動疲れも時差ボケも感じさせない程元気だった。

それなのにも関わらず、帰りでそんな傍から見てもダウンしていると分かるほど疲弊するだろうか?といった疑問が浮かんだのだ。

 

 

(まぁ、あのまま休まずにすぐに帰国したら流石に疲れるのか…?いや、今それを考えている暇はないか)

 

 

だが、素早く切り替えると、視線で続きを催促する。

 

 

「ダウンしていた織斑君も、翌日には復活して授業に参加していました。みなさんがIS学園を出発してから、そう言った授業の間ずっと授業の無い教員や警備員、そして『PurgatoryKnights』のミューゼル社長で手分けして安全確認の監視をしていたりしましたが、微塵も異常は無かったんです……あの時までは」

 

 

その言葉と同時に、真耶の表情が少し重たいものになる。

十蔵を含めた他の教員とオータムの表情も、同じようなものだ。

 

 

「その時は、昼休みの時間でした。急に学園を囲むように襲撃者が襲来しました。今までの襲撃とは明らかに物力が違いました。空に隙間が無いほどに集まったIS……いくら亡国企業でも、流石にあそこまでのISを集める事は難しいと思えるくらいに」

 

 

「そ、そんなになんですか?」

 

 

今までの襲撃で、アクワルタ・グワルナフ・レプリカは一夏と千冬にしか対処が出来なかったのは事実だ。

だが、それ以外の襲撃の構成員の数や練度などに関しては、正直学園にある訓練機を使用したとしても、IS学園の教員が束になれば対処できる範囲のものだった。

それに、襲撃者が身に纏っていたISはきっちりと回収している。

脅威と感じるほどの物量があるとは到底思えなかった。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

マドカが零した疑問の声に、苦虫を嚙み潰したような顔をしたオータムが答える。

腕が震えるほど右手に力を入れながら。

 

 

「本当に数が多かった。正確に数える余裕が無かったから大体だが……300は超えてたような気が……」

 

 

『300!?』

 

 

オータムの言葉に、千冬達は思わず両目を見開きながら驚きの声を発する。

世界各国や企業が使えるISの上限は467個だ。

束がマドカに与えた銃騎士や、バディワールドに実験の為に提供したものはその数に含まれないが、それは各国や企業が自由に使えない為結局上限が変わる事が無い。

そして、一夏の煉獄騎士の鎧を含めた専用機や学園の訓練機は、その467個の中に含まれている。

 

 

いくら亡国企業が巨大な組織でも、IS全体の約64%を持っている筈が無い。

しかも、その数は余裕が無い状態のオータムがザッと数えただけなので、それよりも多い可能性がある。

流石にあり得ない。

 

 

「……そのISのコアが正規品なのかどうか調べない事には、束さんも何も言えないから、次に行こう」

 

 

いろいろと考察をしたいところだが、そんな余裕は無い。

ISの開発者が何も言えないと言っているのだから、それ以外の人間がうじうじ考えても時間の無駄だ。

オータムや束に向けられていた視線が、真耶へと戻る。

 

 

「はい、今までより明らかに多い襲撃者の数に直ぐに生徒への避難、そして戦闘員への戦闘開始が呼びかけられました。当初の予定では今までの襲撃と同じ場所に避難しましたが、織斑君が『今までの事件で、避難先は恐らくバレているし、あの数だったら避難所でも耐えきれるか怪しい。移動にはリスクがある事は分かっているが、避難後の事を考えるんだったら本土の方が安全だ』と」

 

 

「なるほど、それで本土に……このホテルへの避難だったんですか」

 

 

「はい。避難誘導の生徒、そして生徒の護衛の為の教員を除き全員で戦闘する事になりました。ですが、専用機持ちのみなさんが出払っていて、流石に専用機3人と訓練機だけでは、この数は流石に厳しい。だから、誰がどう動くかを決めようとしました。でも、その時織斑君が『時間が無い。俺が本土じゃない側半分を引き受けますので、残り半分任せました』と言って、私達が止める暇もなく、廊下の窓からそのまま飛び降りて戦闘しに行っちゃたんです」

 

 

『っ……』

 

 

戦闘直後の満身創痍のスコールから、一夏が敵の半分を引き受けたというのは聞かされていた。

だけれども、詳しい状況を聞いてから改めて言われると、前に聞いた時よりも心に来る。

特にクラリッサとチェルシーとマドカの3人ははぁはぁはぁと過呼吸気味になっている。

ラウラ達が背中をさする。

 

 

明らかに調子の悪くなった3人を見て、真耶は続きを話すかどうか躊躇ったが、その3人が視線で続きを催促してきたので、一度千冬とアイコンタクトを取ってから続きを話す。

 

 

「織斑君を連れ戻そうかと思いましたが、直ぐに戦闘音が鳴り響きそれは無理だと判断し、織斑君の言う通りに半分を担当分けする事になりました。ミューゼル社長とオータムさんは専用機を展開し、そのまま戦闘を開始し、私達は訓練機を取りに行ってから、1歩遅れる形で戦闘に参加しました」

 

 

ここまで来て、真耶の表情が少し重たいものになる。

否、真耶だけではない。

この戦闘に参加した全員が、同じような表情になっている。

 

 

「この時点で、織斑君と連絡が取れなくなりました。これ以降、織斑君に何があったのかは誰も把握してません」

 

 

「連絡が…取れなくなった?オープンチャネルも、プライベートチャネルもですか?」

 

 

「はい、どっちでも取れなくなりました。織斑君が応対できる余裕が無かったのか、わざとしなかったのかは定かではありませんが…」

 

 

困惑したような表情を浮かべながら聞き返したマドカに、真耶が重たい表情のまま返答する。

いくら何でも、連絡に返せる状況で、一夏が返事をしないとは流石に思えない。

ならば、一夏は返事をする事もままならない程、余裕が無かったという事だろう。

 

 

「半分を織斑君が引き受けてくれているとはいえ、それでも私達より数が圧倒的に多く、恥ずかしいんですが最初の方はかなり苦戦しまして……」

 

 

「まぁ、それはそうでしょうね……」

 

 

約300の半分は、約150。

それを1人で引き受けている一夏が異常なだけで、この人数で対峙するにはあまりにも多すぎる。

 

 

「だからといって、本土の方に避難している生徒達に攻撃をさせる訳にはいかないので、積極的に戦闘するしかありませんでした。幸いにも、1人1人の練度は今までの襲撃に比べても低く、織斑君か織斑先生でないと対応が出来ないあの武装も使用される事は無く、時間の経過と共に1機、また1機と戦闘不能へとする事が出来ました」

 

 

ここまでは、一夏が単独行動をしている事、連絡が取れない事以外は至って順調だ。

だが、全員知っている。

IS学園の敷地である島の上に立っている建物全てが崩壊し、面積も小さくなっている事を。

 

 

そして、気が付いた。

戦闘した全員が先程から重たい表情を浮かべていたが、真耶が一区切りしたその瞬間に、更に深刻なものに変わった事を。

 

 

「避難していた生徒の護衛をしていた先生も、避難完了と同時にこっちに戻ってくれて、戦闘効率が上昇しました。ですが、約30程にまで数を減らした時に、それは起こりました。突如として背後から……織斑君が戦闘している方向から、叫び声のようなものが聞こえ、衝撃波と共にアリーナが全て倒壊しました」

 

 

『っ!?』

 

 

中でIS同士が戦闘を行うアリーナの耐久度は、シールドを起動していなくてもかなり高い。

余程の事が無ければ、その全てが同時に倒壊する事なんて考えられない。

しかも、倒壊した要因は爆発や武器による攻撃などではなく、衝撃波ときたものだ。

千冬達が驚きで両目を見開くのも無理は無い。

 

 

「私達の誰もが、直接的な攻撃では無いもので、全てのアリーナが同時に倒壊するだなんて考えもしませんでした。だから、思わず全員が動きを止め、そっちの方向に視線を向けてしまいました。ハイパーセンサーとかがあるって理解してるのに…ははは、私達もまだまだですね……」

 

 

自虐気味に笑みを浮かべる真耶に、誰も言葉を掛けられなかった。

オータムたちは自分達の事だから当然として、千冬達と十蔵までも黙ってしまったのは、自分がそこにいたとしたら、同じような行動をしてしまうだろうと思ったからだ。

 

緊急時こそ冷静に。

言葉にするのは簡単だし、第三者目線からすると「なんでそこで冷静にならない?」などいくらでも言える。

だけれども、やはり当事者になるとそう簡単に冷静になれない。

しかも、大量の敵と戦闘し、精神も疲弊してきた頃だ。

冷静になどとてもなれない。

 

 

「まぁ、一先ずおいておいて。全員がそっちの方向を見たその瞬間、IS学園の校舎の向こう側から、光が見えたんです」

 

 

「光……?」

 

 

「はい、光です。その光は校舎の向こう側からドンドンと放射状に広がっていき、IS学園の敷地全てを、私達も含めて飲み込みました。その瞬間、今まで感じたことも無いような衝撃がありました。具体的に言うと……どんな感じでしたっけ?」

 

 

『……』

 

 

座っているのに物理的にズッコケたくなった。

 

 

「すみません、何だか衝撃が強すぎてよく覚えてなくて……」

 

 

「確かにそうですけど……だったら具体的に言わなきゃいいじゃないですか」

 

 

「ハッ!?」

 

 

普段は親しみやすい雰囲気を出しながらも、かなり優秀な教師である真耶だが、時たまとんでもないポンコツ行動をする。

まぁ、普段だったらそれも真耶の魅力の1つなのだが、流石にこの場面でそれはただただポンコツなだけである。

 

 

「なんとなく覚えてる範囲で具体的に言うとだな……」

 

 

半目になりながら真耶の事を見ていたオータムが、発言を引き継ぐ。

真耶が申し訳なさそうに両手を合わせているのを横目に見ながら、オータムは言葉を発する。

 

 

「腕と足が引きちぎれるんじゃないかっていうくらいの衝撃波。ISを纏っているのに感じるほどの熱。これを認識した直後、視界が暗転して、気が付いたら地面に叩きつけられていて、ISがボロボロになっていた」

 

 

『……』

 

 

あくまでも簡潔に話したオータム。

だが、それだけでもどれだけのものだったのかが簡単に想像できる。

 

 

「はい、その一瞬で私達はほぼ戦闘不能になったと言っても過言ではない状態になりました。みなさんに助け出されたあの時の状態です」

 

 

説明に戻った真耶のその言葉と同時に、千冬達は思い出した。

真耶とスコールとオータム以外全員が気絶しており、意識があった3人も動けない状態だった。

どれだけ激しい戦闘をしたらあれだけボロボロになるのかと思っていたが、まさか一撃で、しかも余波(だと思われるもの)だったとは。

全員が驚きの表情を浮かべる。

 

 

だが、直ぐにその表情は焦りのものに変わる。

真耶の話では、その謎の光の攻撃?は校舎の向こう側からだった。

そして、一夏が戦闘をしている場所も、同じ校舎の向こう側だ。

 

 

余波(だと思われるもの)だけで、真耶達全員が戦闘不能になったのだから、より近くにいた一夏への影響がどれだけあったのか。

いろいろと聞きたかったが、もう既に一夏との連絡が取れなくなったという説明は受けていたので、グッと堪えた。

 

 

「暫くの間、遠くの方で戦闘音だったり、叫び声が聞こえたりしてきました。それに同調するかのように、学園の校舎などが音と土煙を発しながら崩れていきました。十数分後、私達の上に巨大な何かがやって来ました」

 

 

「何か……?」

 

 

「ああ、何かとしか言いようが無い。ギリギリ生きてたハイパーセンサーで確認しても何も無くて、顔も動かなかったから視認も出来なかった。だが、気絶していた奴も含め、地面に横たわっていた全員が入るくらいの巨大な影は、確認できた」

 

 

「なるほど、だから『何か』なんですね」

 

 

「まぁ、そうなるな」

 

 

「そして、その何かが私達と同じように倒れ伏していたであろうボロボロのISを纏っていた襲撃者を回収し、何処かへ去って行きました。そしてそれから暫くした後、織斑先生たちが駆け付けて来てくれました……これが、私達が話せる事全てです」

 

 

真耶はその言葉の後に、ふぅと短く息を吐いた。

 

 

『……』

 

 

その説明を聞き、千冬達は何も言葉を言えなかった。

いろいろ聞きたい事は聞けたが、結局真耶達も詳しい事は分からず、結果として謎や疑問が増えてしまった。

 

 

「…この戦闘で、何が起こったのかは、一夏に聞くしかないようだな……」

 

 

眉間に皺を寄せながら、千冬が言葉を捻る出した。

光の発生源も、巨大な何かがやって来たのも。

全ては校舎の向こう側……一夏が戦闘をしていた場所だ。

一夏ならば、より詳しい情報を持っているかもしれない。

 

 

だがしかし、此処でその話に戻っては意味が無い。

音信不通の一夏に確認を取るなど不可能だ。

だから、一先ずこの話を終わりにして、次の話題に……

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ

 

 

空気が変わろうとした瞬間に、誰かのスマホが着信音を鳴らした。

 

 

「すまない、私だ」

 

 

千冬が申し訳なさそうな表情を浮かべながら言い、周囲は珍しいものを見るような表情で千冬を見ている。

特に操作せずとも、もう着信音が鳴っていないので、真耶達にも電話ではなく、メッセージアプリかメールの通知だと分かった。

 

電話では無いのなら、会議中である今確認する必要は無い。

だけれども、千冬の勘がガンガンと訴えかけていた。

今此処でこのメッセージを確認しなければ、後々絶対に後悔する。

それ程までに、重要な事であると。

 

 

思案は一瞬。

千冬は流れるような動作でポケットからスマホを取り出すと、メッセージの送信相手を確認する。

 

 

「っ!一夏!?」

 

 

『っ!!』

 

 

その名を呼んだ瞬間、会議室の全員の視線が千冬に向けられる。

そんな視線は気にならないように、千冬は自分の頬に汗が流れるのを感じながら緊張で震える指でスマホをタップし、メッセージを確認する。

 

 

「…『説明をする。3日後の現地時間20時、始まりの場所で待ってる』……」

 

 

「ちーちゃん、それだけ?」

 

 

「ああ、これ以外何も」

 

 

千冬はスマホの画面を全員が見えるようにする。

確かに、千冬が音読したのと同じ内容だけが記されてあった。

 

 

「…いっくんの話を聞かない限り、詳しい状況は分からない。今後の為にも、そしていっくんに何があったのかを確認する為にも、絶対に行かないといけない」

 

 

「でも、何処に?書いてあるのは、『始まりの場所』だけ…どこかさっぱり分からないよ」

 

 

マドカのその言葉を切っ掛けとして、全員で『始まりの場所』について考える。

でも、何処なのかさっぱり分からない。

IS学園の敷地なのか、織斑家なのか。

なんの始まりなのかが不明なので、いろいろと選択肢があるのだ。

 

 

千冬は考える。

なんでわざわざ自分にこのメッセージを送って来たのかを。

 

 

(私に送って来たという事は…私が確実に分かる場所…もっと言うのなら、私しか知らない場所…そして、何かが始まったと言えば……)

 

 

考えて、考えて。

 

 

「っ!」

 

 

ガタッ!!

 

 

千冬は勢いよく立ち上がった。

全員の視線が再び千冬に向けられる。

 

 

「ちーちゃん?どうかしたの?」

 

 

「…直ぐに行く準備をするぞ!」

 

 

「え、何処に!?この場所が分かったの!?」

 

 

「……ああ、恐らく」

 

 

「っ!?何処、何処なんですか!?」

 

 

「早く教えてください!」

 

 

泣きそうな表情のクラリッサとチェルシーを見た千冬は、一度息を吐いてから、言葉を発する。

 

 

「……ドイツ」

 

 

『ドイツ!?』

 

 


 

 

会議をしてから時間は流れ、一夏が指定してきた日。

時刻は19:20。

千冬達一行はドイツの地に降り立ち、予想した場所へと向かっていた。

 

 

あの後。

一夏にメッセージの返信をしたが、それに反応があるどころか既読すらつかなかった。

これ以上は直接会って話すこと以外何もない、という事なのだろう。

 

 

一夏の元へ向かおうと結論が出てからは、本来の会議の目的である今後の対応について話し合った。

 

 

IS学園の校舎やアリーナが丸々なくなるほどの大戦闘。

そしてIS学園の生徒達が日本本土へ避難しているこの状態で、隠し通すのは不可能。

その為国際IS委員会を通じ、今回の襲撃事件で起こった分かっている事全てを説明する事になったのだ。

一夏の事に関しては、詳しい事が何も分かっていないので発表出来なかったのだが。

 

 

IS学園は何故今回の襲撃事件が起こったのかを説明しろと言われているが、一夏に会わない事には何も分からない。

だからこそ、校舎の修復や生徒の心のケアなど山積みの仕事を放り出してまで此処にやって来たのだ。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

数時間前、フライトが終わるまで待っていたかのようなタイミングで振り始めた雨は、時間の経過と共にドンドンと強くなってくる。

それはもう、大粒過ぎて、雨粒以外のものが見えにくくなるほどである。

そして、目的地に進めば進む度に街から外れていき、それに伴って灯りがだんだんと無くなっていき、ただでさえ雨粒で視界が占領されているのに、より一層視界が不鮮明になっていく。

 

 

今日のメンバーは、千冬、束、クラリッサ、チェルシー、マドカ、シャルロット、セシリア、ラウラ、鈴、簪、楯無、サラ、フォルテ、ダリル、スコール、オータム、真耶、十蔵の18人。

そこそこ多い人数が故、最後尾にいる十蔵から先頭にいる千冬の姿が全く見えない程には視界が悪いのだ。

しかも、街から外れ道路の舗装がされてない場所にまでやって来た。

ただでさえ舗装道路に比べれば歩きにくい場所なのに、この大雨で既にぐっちょぐちょになっている。

 

 

「わきゃ!?」

 

 

「マドカ!?」

 

 

その証拠に、マドカがぬかるみに足を滑らせズッコケそうになった。

咄嗟にクラリッサが支える事で事なきを得たが、持っていた傘が遠くの方に飛んでいってしまった。

 

 

「クラ姉さん、ありがとうございます…」

 

 

「気にしなくていい。だけど、もう傘が何処に行ったのか分からないな…」

 

 

「……全員、足元に気を付けて進むんだ。傘とか飛んでいってしまったら、もう回収が出来ないくらいに視界が悪いぞ」

 

 

『は、はい!』

 

 

千冬の指示に、全員が返事をしてから更に慎重に進んで行く。

もはや灯りは持ってきた懐中電灯やスマホくらいしか無いので、慎重にならざるを得ないのだ。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

大粒の雨が未だに降り注ぐ中、かなり見にくいが、進行方向に何かがあるという事が分かる距離までやって来た。

 

 

「織斑先生、この場所が目的地ですか?」

 

 

「ああ、もう殆ど視界が無いに等しいから確信が持てないが、此処だ」

 

 

「此処って…いったいどんな場所なんですか?もう街から外れすぎてて見当もつかないんですけど……」

 

 

シャルロットの言葉に同調する様に、マドカ達がうんうんと頷く。

 

 

「此処は…廃倉庫だ」

 

 

「廃倉庫?廃倉庫って、あの廃倉庫ですか?」

 

 

「ああ、使われなくなって手入れもされず放置されて、朽ち果てた倉庫の事だ」

 

 

「いや、廃倉庫が何か分からない訳じゃ無いんですが……何で此処に?」

 

 

当然の疑問だ。

一夏が指定した場所は『始まりの場所』。

事情を知らなかったら、廃倉庫と結びつかない単語だ。

 

 

だが、一夏の場合この廃倉庫も『始まりの場所』になりえる。

何故ならこの倉庫は……

 

 

「……中学1年生の時、一夏が誘拐され囚われていた場所なんだ」

 

 

『っ!?』

 

 

一夏が誘拐されていた事すら知らなかったシャルロット達が驚きの表情を浮かべる。

 

 

そう、一夏はこの場所に誘拐された。

そして、この場所で向こうの世界のディミオスに発見され、チカラを得た。

一夏にとって…煉獄騎士にとって。

この廃倉庫は間違いなく始まりの場所なのだ。

 

 

そもそも雨のせいで廃倉庫の全体が見えないのだ。

パッと見で一夏の姿など見つける事が出来ない。

千冬が一夏の名を叫ぼうとスゥ、と息を吸った瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、来たんだ。良かった」

 

 

『っ!?』

 

 

大きい雨音の中でも、ハッキリと聞き取れる一夏の声が聞こえてきた。

 

 

「っ!上!」

 

 

チェルシーのその言葉に、全員が反応し視線を少し上げる。

すると、廃倉庫の天井部分に腰を掛け、傘もささず大量の雨で身体を濡らしながら両足をブラブラさせている一夏の姿を発見した。

 

 

視界が悪いのに、チェルシーが直ぐにその姿を見つけられたのには勿論理由がある。

白かったのだ、あまりにも。

 

 

今の一夏の格好はIS学園の制服や、普段着用しているジャージではなく、ボロボロの黒い外套。

だけれども、露出している手首から先の肌と、その顔と髪。

見えている肌の全てが、視界の悪いなかでもハッキリと分かるほど白かったのだ。

 

 

一夏は足をブラブラさせるのを止め、廃倉庫の天井に立ち上がると、そのまま事前動作無しで千冬達のいる場所の近くへと跳躍する。

空中で綺麗に一回転した一夏は、同じく綺麗に先頭に立つ千冬の前に着地する。

 

 

「……全員、怪我は無さそうだな。安心したよ」

 

 

白の中で唯一浮いている黄金の両目を、千冬達全員に向けてから、一夏はそうポツリと呟いた。

 

 

一夏に会ったら、いろいろと聞きたい事だらけだった。

だけれども、いざこうして目の前に一夏が現れると、何から話していいのか分からなくなってくる。

 

 

「一夏!説明してくれ!」

 

 

そんな中で、クラリッサが絞り出すような声で一夏にそう訴えかける。

一夏はゆっくりと視線をクラリッサに向けてから、口を開く。

 

 

「……何を?」

 

 

「全部を!私達が宇宙にいるときのIS学園での戦闘で、何があったのか!何で、髪や肌の色が変わってるのか!」

 

 

「…戦闘に関しては元々説明する気だったが……そんなに、俺の髪と肌も気になるか?」

 

 

一夏はまるで睨むような表情でクラリッサの事を見ている。

何時もの一夏なら、絶対に向けない表情を、何よりも大切な存在にしている。

 

 

「……気にならないと思ってるの!?」

 

 

それに反論したのは、同じく恋人であるチェルシーだ。

 

 

「私達は、一夏の恋人!恋人の変化を、気にしない訳が無い!」

 

 

「そうか……」

 

 

その訴えに、一夏は一度俯いてから、その顔を全員に向ける。

 

 

「分かった。全部を話そう……その前に」

 

 

一夏はその言葉と同時に、ギロっと目線を千冬に向ける。

 

 

「千冬姉、マドカ、社長、オータムさん。過去を話すぞ」

 

 

「「「「っ……」」」」

 

 

その言葉に、4人は息を詰まらせる。

だが、誰も止めはしない。

事情を知らない楯無達が首を捻る中、一夏は語った。

 

 

自分と千冬が、織斑計画で生み出された存在である事。

マドカは千冬のクローンである事。

スコール、オータム、マドカは元々亡国企業所属であった事。

 

 

そして、ディミオスやオルコス達がロボットなどではなく、異世界に生きるモンスターである事。

 

 

今まで隠してきた、一夏を取り巻く本当の状況を。

包み隠さず、その全てを説明した。

 

 

「え、な、え…?」

 

 

「は、え…?」

 

 

「まぁ、気持ちは理解できる。だが、今は受け入れろ。本番は此処からだぞ」

 

 

困惑を隠せない楯無達に向かって、冷たい声色でそう言う。

 

 

ザ――――――――――――――

 

 

 

ゴロゴロゴロゴロ……ドカァアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 

雨は一層強くなり、雷も落ちだした。

そんな中で、雨を全身に受けながら一夏は笑みを浮かべる。

 

 

何時もの優しい笑みじゃない。

恐怖を感じる笑みだ。

 

 

「さぁ、話すとしよう。あの時、何があったのかを」

 

 

 

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