久しぶりの一週間後の投稿だぁ!!
何時もお待たせしてすいませぇぇぇん!!
三人称side
ドガァアアアアン!!ドガァアアアアアアアアアアアン!!!!
「ひ、ひぃ!?な、何が起こっているというのよ!?」
「わ、分かりません!ただ恐らく、何者かによる襲撃だと!!」
「使えないわね!このっ!」
女性権利団体の研究施設。
団体のトップが視察に来たタイミングで、急に爆発が起きた。
焦るトップは部下を殴りながら、必死に避難を試みるも、先の爆発で通路が塞がれてしまい脱出は非常に困難だ。
急いで別の脱出ルートに向かう。
「あ、IS、ISはどうなってるのよ!?」
女性権利団体は、ISの登場以降発足した団体で、ISを神格化しそれに乗れる女性が乗れない男性よりも上だと主張して今の女尊男卑を作り出した。
世の中の風潮のおおもとだという、よく分からない理由でIS学園に勝るとも劣らない程のISを所有しているのだ。
その為、トップがISを確認するのも当然だろう。
「それが…その…もう既に出撃しましたが……全部隊と連絡が取れなくなりまして……」
「は?」
部下の言った事が信じられず、思わず立ち止まってトップが聞き返す。
「どういう事!?」
「そ、そのままです!うちに残っている全ISが戦闘を開始しましたが、全部隊と連絡が取れません!」
その言葉を聞いたトップは、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた後、プルプルと怒りの表情を浮かべる。
「何を言ってるの!?神聖なISを使用して、負ける訳が無いじゃない!!」
女性権利団体にとって、ISは世界の中心でなくてはならず、現存する兵器のトップでなくてはならない。
何故なら、ISが世界の中心で全兵器トップであるからこそ、今自分達はこうして活動出来ていて、女尊男卑の世界を形成出来ているのだから
たった1度でも負けてしまえば、それは瓦解すると言って良い。
だからこそ、認められないのだ。
ISが負けるという事実を。
「そ、そうよ!襲撃者もISを使ってたんでしょう!?千冬様のような実力者がそう何人もいるとは思えないけれど、それなら納得がいくわ!!」
千冬本人が聞いたら、拒絶反応レベルで気分を害するであろう言葉を発する。
だが、その言葉は部下に向かって言ったというよりも、自分に言い聞かせているようだ。
「い、いえ、それが…その…ISの反応は、検知されませんでした……」
だがしかし、現実は無常だ。
「そ、そんなのありえないじゃない!」
部下の言葉に、トップが取り乱す。
何故なのだろうか、2人の立場が逆に感じるが、取り乱している方がトップなのは間違いない。
「ISがIS以外に負けるだなんてこと!!」
「わ、私も信じられないですよ!こんな事!!」
トップが取り乱しも取り乱しているからか、先程まである程度は冷静だった部下の方も取り乱し始めた。
だが今はとにかく逃げる事を最優先に必死に走る。
「此処も埋まってる……!?」
「まだよ!まだルートDがあるわ!そこから脱出を…」
《脱出?そんなもの、もう出来ないぞ》
「「っ!?」」
不意に聞こえてきたその声は、この場に存在しない筈の第三者のもの。
2人がバッと振り返ると、そこに立っていたのは人間じゃ無かった。
人間の血液のような暗赤色にくすんだ金の鎧と、漆黒のマントを装着した、ドラゴンが、右肩に剣を担ぎながら立っていた。
「「ヒィ!?」」
ただでさえパニックに陥っていた2人は、目の前に立つ存在の事を信じられず、もはや思考する能力が欠如したと言ってもいいぐらいには混乱に陥っていた。
背後には瓦礫で埋まった脱出ルート。
目の前には剣を持っている得体の知れないドラゴン。
もう何も出来なかった。
《フン…人身売買、自分達と同じ思想の政治家の汚職の揉み消し、テロリストへの資金や機材の提供…ここまで真っ黒な事をしておいて、自分達が追い込まれると簡単にパニックになるほどの精神力とは…哀れだな》
「っ!?アンタ、なんでそれを!?何年も指摘される事すらなかったのに!?」
《少し踏み込めばゴロゴロ出て来たぞ…なぁ、女性権利団体》
自分達が裏で行ってきた悪事を言い当てられ、トップは更に焦りだす。
その言動が、ドラゴンの指摘した事が事実であるという事を証明する発言なのだ、それにトップは気が付いていない。
《さぁ、年貢の納め時って奴だ……》
ドラゴンは肩に担いでいる剣を2人に向ける。
そのプレッシャーに、部下は耐えられず失禁し気絶した。
だが、トップにはもうその事を気にしている余裕は無い。
「あ、ISは、ISはどうなったのよ!?」
《ISはどうなった…だと?》
「うちに残ってた全部隊が出動したのよ!?ISがIS以外に負けるだなんてありえない!!」
《……パイロットの心配は無しか。とことんクズな人間だな》
ドラゴンはそう言いながら剣を持っていない左手で懐を探ると、とあるものを数個取り出す。
「なっ、それは……!!」
《襲って来た奴らから回収したISコアだ。パイロットの方も怪我はしてないし死んでもいない。まぁ、精神面までは分からんが》
「か、返しなさい!それはあなたのような汚らわしい存在が持っていいものではありません!!」
《汚らわしい?ハッ、汚職まみれで不正まみれの貴様らには言われたくないわ!》
ドラゴンは思わず憤り、バンッ!と左足で床を強く蹴る。
その衝撃でトップはバランスを崩し床に転倒する。
それでもなお、ドラゴンの持つISコアに手を伸ばす。
「私たちの…!篠ノ之束博士が私達に与えて下さった……!!」
《何処までも勘違いしている下衆だな……まぁ、良い。とことん下衆な方が、都合が良い》
ドラゴンがそう言うと、不意にドラゴンの周囲に紫色のエネルギードームが発生。
ドラゴンの事を包み込んだ。
「な、な、な……?」
一瞬後、エネルギーのドームが霧散すると、そこに立っていたのはドラゴンでは無かった。
ボロボロの黒い外套に身を包んだ、1人の少年。
露出しているあらゆる部分が白いなかで、唯一浮いている黄金の瞳が、冷たくトップを見下ろしていた。
「アンタらには、個人的な恨みがあるんでねぇ」
「なっ!?織斑一夏!?」
その顔を見て、声を聞いた時。
トップは心底信じられないと言った表情を浮かべる。
目の前の男は、神聖なISを汚す存在。
許してはいけない。
言葉にはしていないものの、態度と表情で考えている事はまるわかりだ。
だが、一夏は無表情で右手を握りこむと、顔の前に持ってくる。
「今まで散々意味のない仕事送って来やがって……」
「ヒィ!?」
ISコアを仕舞った左手でトップの胸ぐらを掴み無理矢理立たせると、
「歯ぁ食いしばれ!!」
バキィ!!
「ふべぇ!?」
今までのうっぷんを晴らすかのように、全力で殴り掛かった。
トップはその衝撃に耐えられず、気絶して倒れ込んだ。
一夏は暫くの間、自分の右手を見ていたが、やがてイマイチ気持ちが晴れなかったという表情を浮かべ、倒れ込んだトップから情報端末を取り出す。
指紋認証ロックを解除した後、トップの頭を失禁した部下の排泄物の所に乱雑に置いてから、端末の中を調べ始める。
「……ちっ、女権からテロ組織への資金横流しは分かってたが…やはりその中に亡国企業も入ってたか。いくら亡国企業が大きなテロ組織だとはいえ、流石にISコア持ちすぎだと思っていたら…まさかこんなところからとはな……」
ま、深夜の前座扱いだったISのコアは、流石に非正規品だとは思うが、と呟いてから一夏はいったんその場から離れる。
理由は単純、そろそろ排泄物の匂いに耐えられなくなったからだ。
移動をしながら端末を調べると、ゴロゴロと山のように悪事の証拠が出て来た。
「よくもまぁ、こんな事をやっておきながら、表でも大々的に活動できるもんだ」
一夏はそう呟きながら、様々なデータを集めて纏める。
そうして完成したファイルを……
「これで良し、と」
SNSに流出させた。
それも1つではなく、様々なSNSに、だ。
「俺はあの人と違って、完全に身分を隠すのも、逆にネームバリューを使って拡散する事も出来ないからな……これが一番確実で効率がいい」
女性権利団体のトップの端末を使い、女性権利団体のアカウントで、女性権利団体の悪事の証拠の拡散をする。
可能な限りの投稿を終える。
このネット社会、後は放っておくだけで更に拡散されるだろう。
一夏はそのまま端末を地面に捨て、踏み抜いて破壊すると、同じく壁も蹴り穴をあける。
「じゃあな、このままつぶれろ女性権利団体」
最後にそう呟いた一夏は、開けた穴から空へと消えていったのだった。
~~~~~
流石のIS学園でも、建物全てが瓦礫になり、島の一部が大きく削れるほどの損害を受けてしまってはそう簡単に再建出来ない。
その為、未だに関係者全員がホテル暮らしを余儀なくされている。
授業自体はなんとか再開できる環境は整っているものの、身一つで避難してきたため、教科書や教材などを学園に置いて来てしまったのだ。
そして寮も校舎も瓦礫に成り果てた事により、その教材の何もかもが吹き飛んでしまったのだ。
なにか使えるものは無いかと探したものの、本当に何も残っていなかった。
無論、発注はもう既にかけているが、数が数なだけにそう直ぐには発送されず。
結果として今は授業が出来ていないのだ。
まぁ、教材は発注すれば時間は掛かってしまうが揃えられる。
だが、生徒が自分でまとめて来たノートなどは、また各自で頑張るしかない。
そして1年間の間にしなければいけない授業というのは決まっているので、時間が経過すれば経過するだけ、1回の授業内容で色々と詰め込まないといけなくなってしまう。
学園の施設復旧よりも、教材の準備をどちらかというと優先しているのはこのためだ。
だがしかし、出来るだけ早い施設復旧が求められる。
ISの登場以降、施工完了まで格段に早くなったとはいえ、IS学園規模の大きさとなると、やはりかなりの時間を要さないといけない。
そして、教材が揃った時用に借りられる仮教室の手配もしておかないといけない。
それに、各国や各企業への説明や、生徒の心のケアもしないといけない。
やる事は山積みだ。
そんなこんなでホテルの一室。
借りれている部屋の中で一番大きなこの部屋では現在、教員達が集まり仕事をしていた。
一か所で仕事をした方が、他の教員との情報交換もしやすい為効率が良いと判断した。
「ねぇちーちゃん?ここはIS学園の職員室(仮)だよね?」
「ああ、そうだな。学園長を含めた全教員がいるだろ?」
「うんそうだね。さっき1人出て行った気がしないでもないけど」
「なにやらホテルにいる我々に荷物が届いたらしい」
「へぇ~、じゃなくて!何で束さんは此処にいて書類仕事をしてるのかな!?」
「五月蠅いぞ!私たちだけじゃないんだぞ!!」
「だってぇ!?」
そんな状況の中、職員室(仮)に何故か居て、何故か書類仕事をしている束が叫んだ。
何故束が此処に居るのかというと、処理しなければいけない書類が多すぎて発狂しそうになった千冬が、単純作業が滅茶苦茶早い束を捕まえたからだ。
いくら束でも身体能力面では千冬には勝てず、連行されたという訳だ。
宇宙に行く前に、束が『PurgatoryKnights』の開発主任だという事はバラしているし、なんなら今年束はちょこちょこ学園に顔を出していたので、もう良いだろうと千冬は判断したのかもしれない。
「今回に関しては束さん何もやってないよね!?」
「ああ、だからさっさと手を動かせ」
「言いたい事が伝わってない!?裏を読んで!?いや、裏という裏じゃ無かったけどね!?」
「良いから黙って手を動かせ」
「ひぃん!!」
さっき千冬が注意したというのに、2人で騒がしくしている。
周囲の教員からすれば、確かにうるさくてあまり集中できないのだが、2人の…否、束の処理速度が、ガンギマリ集中している自分よりも格段に早いので、文句を言いづらい状態だ。
まぁ、相手が『織斑千冬』と『篠ノ之束』の時点で文句は非常に言いづらいのだが。
「まったく……この天才に事務作業押し付けるのは、世界広しと言えどちーちゃんだけだよ」
「なんだ束、お前からすれば世界は小っちゃいんじゃなかったのか」
「言葉の綾だよ……それに、仕事が多い多い言ってるけど、臨海学校前後あたりから学園祭前までにかけてのいっくんが一日で処理してた仕事は、ここにいる全員分の仕事とほぼ同じくらいだよ?」
「っ……」
『え゛ぇ!?!?』
束の言葉に、千冬は苦しそうな表情を浮かべながら俯き、それ以外の教員は驚愕の声を同時に発する。
今自分達が手分けしてヒィヒィ言ってる量の仕事を、1人で、1日で、しかも学業や訓練と平行しながらやっていたという事実に、ただただ驚くしか出来なかったのだ。
そんな中、あの時ドイツで一夏の説明を聞いた組の表情は暗い。
それこそ、自分から話題を出した束でさえも、その話題を出した事を後悔するかのような表情を浮かべていた。
あの日。
ドイツで一夏から全てを聞いたあの後、暫くの間はクラリッサとチェルシーの泣き声と、強い雨音をBGMに、一夏が消えていった方向を見る事しか出来なかった。
かなり長い間そうしていたが、雨の中ずっと外に居ると身体に悪いとの事で後ろ髪を引かれながらもホテルに行き、しっかりと身体を温めチェックアウトギリギリまで休息を取り、日本に帰って来た。
だけれども、全員の顔は曇っていた。
与えられた情報量が多すぎて、中々受け入れにくかった。
だけど、一夏が流した青白い血が、話しが嘘偽りのないものであるという何よりの証拠だった。
返って来てから、クラリッサとチェルシー、ついでにマドカは生気を無くしたように塞ぎ込んでしまった。
他のメンツも、そこまでではないもののやはり何か思うものがあるようで、何処か元気がない。
一夏に関しての事は、あの時実際に聞いたメンバー以外に関しては知らせていない。
異世界だとか、モンスターだとか、流石に大々的に言えるわけが無い。
その為、一夏は未だに怪我から回復せず、会社の方で集中治療を受けているというふうな説明がされている。
因みに、一夏が説明をする際に織斑家の秘密や、スコール達の前職など今まで隠していた事も説明せざるを得なかったのだが、それは受け入れられていた。
というよりも、一夏に関する事が衝撃的過ぎてあまり考えられなかったという事が正しいだろうか。
先程まで騒がしかった束も静かになり、黙々と作業を開始する。
とはいっても、実を言うと束の発言からはまだ数秒しか経っていないので、他の教員達には雰囲気の変化などはあまり気付かれていない様だ。
まぁ、少々真耶は表情に出やすいところがあるが。
「えっ!?」
すると唐突に、真耶が驚きの声を発する。
正直に言って真耶が大声を急に上げる事はよくある事なので、無視して作業しようとすると……
「み、みなさん!大変です!」
『っ!?』
真耶が呼びかけて来た。
作業を直ちに中断、真耶がすぐに発するであろう言葉を聞き逃さないようにする。
まぁ、束は如何でもよさげだが。
「い、今漢字をド忘れしてしまって、それを検索しようとしたら出てきたんですけど……じょ、女性権利団体が!」
『?』
女性権利団体が、ISの登場以降立ち上がった今国連などの機関に次ぐ勢いのある団体だとは知っている。
だけれども、IS学園とは『ISに関連している』という一点以外関係性も何も無い筈。
何故真耶がそこまで驚いているのかが分からない。
すると、真耶の端末から全員に向けて、画面のスクリーンショットが送られる。
なんだなんだと全員が自分の端末を覗き込み……驚愕の表情を浮かべる。
何故ならば、
女性権利団体の悪事の証拠が、何故か女性権利団体トップのアカウントから流出しているからだ。
「え、な、え……?」
「これは、いったい……?」
正直に言って、IS学園側は女性権利団体に良い思いを持っていない。
だけれども、これは流石に困惑せざるを得ない。
各々が自分の端末を操作し、もっと情報を収集する。
如何やら色んなSNSでこのような事が起こっているらしい。
この話題で持ちきりだ。
「なんでこんな事が……」
誰かがそう呟いた時、またも事態が一変する。
「た、大変です!」
さっきの真耶と同じようなテンションで、先程荷物を受け取りに外に出た教員が戻ってきた。
その手には引っ越しに使うような大きいダンボールを抱えている。
「どうしました!?」
「それが、その……これが送られてきまして……」
もう既に中身を確認したため、空いている箱の中身を見やすいようにする。
そこにあったのは……
丁寧に梱包材にくるまれた、ISコアだ。
しかも1個ではなく、大量に。
『っ!?』
「えっ!?何で!?」
さっきはなんの反応もしなかった束も、これにはさすが反応した。
すぐさま手を伸ばして1つ取ると、マジマジと観察をする。
「…うん、間違いない。本物だね。結構無理矢理装甲から剝がされた感じだけど、それ以降はかなり丁寧に扱われてる」
ISに関して、束以上に詳しい人間などいない。
そんな束が間違いない断言するという事は、この大量のISコアは本物だということになる。
束は流れるような動きで何処からか検査機を取り出すと、ISコアをセットし解析を始める。
「……ねぇちーちゃん、この番号女権のだよね?」
「何っ!?……ああ、そうだな。この番号は、女性権利団体に振り分けられているもの……差出人は!?」
「書いて無いです……というよりも、如何やら宅配便を使わず、自分で持ってきたみたいで、聞いた話によると、黒いボロボロの外套を着てたとか……」
『……』
職員室(仮)の中の空気が一気に重たくなる。
何故か突然SNSで流出した女性権利団体の悪事の証拠。
IS学園に送り付けられた女性権利団体のISコア。
そして、それを持ってきたというボロボロの黒い外套を来た人物。
謎しかない。
だけれども、千冬達の脳裏にはとある人物が思い浮かんでいた。
ドイツでの説明の際に一夏が着用していたのも、ボロボロの黒い外套だった。
だが、仮にその人物が一夏だった場合でも、疑問は残る。
何故一夏が女権が持っている筈のISコアを持っていたのか。
今SNSで女権の悪事の証拠が出回っているのと、何か関係があるのか。
(正直言って、いっくんは異世界に自由に行き来できるっぽいから捜索が難しいけど…やるしかないね)
覚悟を決めた束は、他に誰にも聞こえないくらいの声量で千冬に話し掛ける。
「ねぇ、ちーちゃん」
「なんだ、束」
「いっくんの事でさ、お願いしたい事があるんだけ「問題ない、やるぞ」わぁお、食い気味ぃ」
普段だったら、内容も聞かずに束のお願いを了承するなど、普段の千冬だったら考えられない。
いや、内容をしかりと確認しても断る可能性の方が高い。
それでもなお、今千冬は内容を聞く前に即決した。
千冬にとって一夏は、かけがえのない大切な弟だ。
そして、こんな状況なのだから、一夏に関する事は引き受けよう決めていた。
なんだかんだいって束はクラリッサとチェルシーの事も気に入っているので、一夏に関して2人の方が適任だと思ったら迷わず2人にお願いをするだろう。
その上でわざわざ自分に頼んで来たのだから、自分にしか出来ない事なのだと、千冬が判断したのもある。
そうして、送り付けられたISコアの処理までしてたら死んでしまうので束に丸投げをし、各々の作業に戻った。
ただでさえ千冬に無理矢理仕事を手伝わされているのに、ISコアの後処理まで押し付けられた束はぶつくさ文句を言っていたが、誰よりも早く仕事を終わらせるとISコアを持って帰って行った。
束ならば、上手い事処理して、ISをいい感じに使ってくれる。
普段千冬の言動に関してはあまり信頼をしていない千冬でも、そこだけは信用出来た。
数日後。
漸く仕事が一段落ついたと思ったら、千冬に束から連絡が来た。
それを確認した千冬は十蔵に許可を取り、束が居る『PurgatoryKnights』に向かったのだった。
~~~~~
ドカァアアアアアアン!!ドガドガドガドガァアアアアアアアアアアアアン!!!!
女性権利団体悪事証拠流出事件から、約一週間後。
とある研究施設。
この施設の関係者じゃ無かったら、間違ってもたどり着けないであろう場所に、巧妙にカモフラージュされている。
カモフラージュが凄すぎて、どう工夫をしても施設内に太陽光が絶対に入らないであろう事が、外から見ただけで分かる程である。
そんな厳重なカモフラージュをわざわざしているという事は、外部に漏らしたらマズい内容の研究を行っているという訳で。
ここでは非合法的な研究を数多く行っており、人体実験からIS兵器開発などなど内容は多岐にわたる。
そんな研究施設では今、襲撃を受けてあちらこちらから爆発音が聞こえて来ていた。
研究データは消去され、非合法な研究をしていたという証拠はネット上に流出した。
「1個か…まぁ、いい。回収を続ける事が必要だ」
そんな研究施設の壁に開いた穴から、ボロボロの黒い外套を纏った白髪の人物…一夏が出て来た。
その手には一つISコアを握っている。
そう、以前女性権利団体相手にやったのと同じ事をしているのだ。
前回と違い、ISコア1個しか無かったものの、この1個が大事なのだ。
「さて、さっさと行こ」
一夏がISコアを見ながらつぶやいたその言葉は、途中で止まった。
「っ……」
誰かの気配を感じ取ったからだ。
直ぐにISコアを外套に仕舞い、気配の相手が此方に来ても対処できるように構える。
気配の相手は、真っ直ぐこっちに向かって来ている。
迷う素振りも無く、かなり堂々としている。
自らの進む先に何があるのか、しかりと把握しているようだ。
ここまで考えて、一夏には疑問を感じた。
この研究施設以外何もない場所に、何故こんなにも自信満々に歩いて来ている?
施設の職員かと一瞬考えたが、速攻でその考えを却下した。
確かに自分達の研究データがどうなったのか気になるだろうから、後で確認には来るだろう。
だがしかし、襲撃にあったその日に、しかも1時間も経っていないのに帰って来る馬鹿は流石にいない。
(これは直ぐに向こうに行った方が流石に良いか?…そうだな、良し)
一夏はこの場で迎え撃つよりも、ダークネスドラゴンWへの帰還を急いだほうが良いと判断。
右腕を前に突き出し、ゲートを開こうとする。
その瞬間、
「随分暴れたようだな、一夏」
声を掛けられた。
その声は、何度も何度も聞いた事がある声であり、今この場に居るはずの無い人物の声だった。
「私は、お前をそんな風に育てた覚えは無いぞ」
「……」
その人物……千冬は、一夏の前に姿を現す。
ISスーツ姿ではあるが、背中には小さ目のリュックを背負っている。
「…何の用だ。こんな場所、偶々通りかかったとは言わせないぞ」
鋭く冷たい目で千冬を見ながら、一夏はそう言葉を発する。
その声は普段の優しい声でも、千冬がだらしなくて怒っている時の声とも違う。
聞くだけで底冷えしてしまうような、恐怖を感じる低い声だった。
なんだかんだいって、一夏は千冬の事をしっかりと大切な家族として扱ってきた。
だから、怒る事はあっても、殺気だと錯覚するほどの威圧をぶつける事は無かった。
だけれども、今こうして威圧をぶつけて来ているという事実に。
そして、全身で浴びる威圧感そのものに。
千冬は若干怖気づいてしまうも、直ぐに切り替え細く息を吐く。
「なぁに、そんなにかっかするな。姉が弟に会いに来て何が悪い」
千冬は何時もの調子でフッと笑みを漏らす。
「……IS学園は抜けると伝えたはずだが?」
「ああ、聞いた。だがな一夏、口頭だけで退学を受理する筈が無いだろう。それにな、仮にお前がIS学園に関係が無くなったとしても…私とマドカがお前の家族だという事には変わりない」
千冬は一夏の黄金の眼を見ながら、そう宣言する。
「たとえ、お前が人間じゃ無かったとしても!!」
それは偽りの無い千冬の本心だった。
一夏がまだ幼い頃から、一夏はずっと自分を支えて来て来てくれた。
人間じゃなくなったからと言って、その心までも変わる訳じゃ無い。
一夏は一夏なのだか、家族なのだ。
「だから、一夏!帰ろう!まだ、まだ引き返せる!」
「……」
千冬の言葉に、一夏は反応しない。
左手で顔の半分を覆いながら、俯いている。
どれくらいの時が経っただろうか。
少なくとも、5分以上は経ったその時。
不意に一夏がボソッと呟いた。
「……れ」
「ん?」
あまりにも声量が小さすぎて、千冬は聞き取れなかった。
反射的に聞き返してしまう。
「黙れぇ!!」
「っ!?!?」
一夏は左手の指の隙間から眼を露わにし、千冬の事を睨みながら叫んだ。
その余りに気迫に、千冬は思わず1歩後ずさってしまう。
「何が、アンタに何が分かる!?」
「いち、か…?」
「身体が作り変えられていく経験も!拒絶反応で苦しんだ経験も!周囲の人間から蔑まれた経験も!何もない癖に!!」
「それ、は……」
一夏の主張もまた、正しかった。
千冬は今もなお、人間だ。
身体が人間以外に作り変えられる経験と、それに伴う拒絶反応の経験などある筈がない。
そして、周囲の人間に蔑まれた経験もまた、無かった。
だってそうだろう。
一夏は蔑まれる原因は、他でもない千冬だったのだから。
一夏は幼少期に、周囲と比べられ蔑まれてきた。
その時の視線が、言葉は。
一夏本人を含めた全員が知らない所で、未だに一夏の胸の奥に絡みついていたのだ。
仲の良い友人や、大切な恋人と関わった事で、奥深くへと仕舞われ、ガーゼに覆われていた心の傷は。
モンスターになった事、そしてあの時織斑に言われた言葉が突き刺さった事により、再び開いてしまった。
その結果として、あの時ぐるぐると考え込んでしまい、IS学園を離れるという発言に繋がったのだ。
「もう!放っておいてくれ!!」
「…それは出来ない」
それでも、千冬は譲る事が出来ない。
「お前がどれだけ傷ついてきたのか、私には想像する権利すらないのかもしれない…だが」
ここで千冬は深呼吸すると、カッと両目を見開く。
「私はお前の姉だ!!」
千冬はその発言と同時、背負っていたリュックを放り捨てると暮桜・明星を展開する。
「一夏!殴り合ってでも、お前を連れて帰る!」
それを見た一夏は顔を覆ったままだった左手で髪をぐしゃりと握る。
「受けて立ってやるよ…ブリュンヒルデぇ!!》
千冬の事を睨みながら叫ぶと、一夏の周囲にエネルギードームが発生。
それが晴れた時、一夏の身体は人間からドラゴンのものに変わっていた。
「お前と戦うのは、入学前以来だな……あの時つかなかった決着を、今つけてやる!」
《フン!世界最強に、負け星を付けてやる!!》
そう叫び合った後、千冬とエクスピアは同時に動き出すと、互いの得物をぶつけ合う。
ガァアアアアン!!
周囲に、得物がぶつかり合った音が響く。
こうして世界最強と煉獄の竜の戦いが始まったのだった。
エクスピアは知らなかった。
実は、周囲を視認も出来ないくらい小さい束特性のマイク付き浮遊カメラが囲んでいる事を。
そして、そのカメラで撮られた映像と音声は、束経由でクラリッサとチェルシーを始めとした専用機持ち達に届いている事を。