連載3つの内2つを実質ほぼ更新停止しておきながらこれかよ。
だらしねぇ。
頑張りまぁす!!
三人称side
「「……」」
IS学園の生徒や教師が宿泊しているホテルの一室。
昼だというのにカーテンを閉め切り、部屋の電気も付けられていないこの部屋には、2人の人物がいた。
クラリッサとチェルシーである。
何時もの2人は軍服とメイド服をかっちりと着用し、身だしなみにも気を使っているが、今現在の2人は普段の様子からは想像できない程に荒れていた。
碌に手入れされずボサボサでバサバサな髪。
何度も泣き、後が残り真っ赤に晴れた両目。
もうメンタルがボロボロなのが一目見て分かるほどだ。
部屋の中も中々に酷い状態で、衣服などが脱ぎ捨てられていたりする。
軍人やメイドとしての立場に一種の誇りを持っている2人は、普段から私生活でも衛生面などに気を配っているので、かなり異常な事だ。
2人がこうなってしまった原因はたった1つ。
そう、一夏だ。
あのドイツで会話した日。
最後まで2人は必死に一夏を説得した。
待って。行かないで。もっと話をして。
その訴えは確実に一夏に聞こえていたはずなのに、一夏は「ごめん」とだけ言い残し、去ってしまった。
明確に言葉にされた訳では無いのに。
その『拒絶』は2人に深々と突き刺さってしまったのだ。
無論、2人とてこんなに塞ぎ込んでいる場合じゃ無いのは理解している。
IS学園の教師陣が職員室(仮)に半ば缶詰め状態になりながら仕事をしていたり。
教材が無くなってしまった生徒達は、今ネットを使って出来る範囲の勉強を再開していたり。
各々がやれることをしているのだ。
そんな状況なのに、こんなメンタル状態になってしまっていると考えると、ますます自分が惨めに感じてしまうという、悪循環に陥っている。
その悪循環の中で2人が実感したのは、自分達の中で織斑一夏という存在がかなり大きなものになっていた事だ。
一夏と恋人になる前ならば。
一夏と触れ合う前ならば。
一夏と出会う前ならば。
自分がこんな事になるだなんて、想像すら出来なかった。
今日、朝起きてからどのくらいが経ったのだろうか。
どんな状態になっても、お腹は空いて来る。
という事は、一応まだ食欲が残っているという事で。
自分達がまだ生きているという事を知らせて来る。
起きてから水しか口にしていないし、そもそも前回食事を摂ったのが何時だったのかすらも覚えていない。
流石にこれ以上食べなかったら死んでしまう。
そろそろ食事を取りに行こうと、クラリッサが立ち上がった時。
ドタドタドタドタ!!
と、部屋の外から走る音が聞こえてきた。
何事だろうと2人が同時に首を傾げると。
ガチャ
バァン!!
「「たのもぉ!!」
「「うひゃあ!?」
何故か鍵が開き、勢いよく扉が開かれた。
それと同時、手に出来合い弁当を2個持ったラウラと、ペットボトルやタオルなどが入った籠を持ったセシリアが部屋の中に突入してきた。
しかも、何故か背中に赤で「祭」と書いてある青い法被を着用し、頭にはねじり鉢巻きを巻いている。
季節感とか、セリフとか、色々間違っている。
が、様にはなっている。
クラリッサとチェルシーは突如として2人が部屋にやって来たという事と、上記の事で驚き混乱し、動きを止めてしまう。
「確保ぉ!」
「わひゃ!?隊長、何を!?」
「ムム!如何やら碌にシャワーも浴びてないようですわよ!!」
「お嬢様!?確かに事実ですけど、そんな大きな声で言わないで下さい!!」
「それは一大事だ!すぐさま身体を洗うぞ!」
「了解ですわ!!」
「「ま、待ってぇ!!」」
ラウラとセシリアよりも、クラリッサとチェルシーの方が身長も上だし体格も上だ。
その為、普段ならクラリッサとチェルシーがラウラとセシリアに引きずられていくなんてことはありえない。
だが、今回メンタル面で参っていた事、あの日以来動いていなかった為鈍ってしまっていた事、あまりにも急すぎる行動だった事。
この3つの要因が重なった結果。
部屋備え付けのシャワーにズルズルと引きずられていった。
約1時間後。
久しぶりにシャワーを浴びてさっぱりした2人は、暫くぶりに開け放たれたカーテンから陽光が照らし、しっかりと掃除された室内で食事を摂り終えた。
「え、あの、その、隊長?どうなさいましたか?」
「お、お嬢様?何か言いたい事があったら、遠慮なく…」
その直後から、ラウラとセシリア2人して仁王立ちしながら無言でクラリッサとチェルシーの事を見ており。
雰囲気にのまれたクラリッサとチェルシーは無意識のうちに正座になり、2人の事を見上げる形になりながら表情を伺っていた。
「…クラリッサ」
「はい」
「チェルシー」
「はい」
どれくらいそうしていただろうか。
唐突にラウラがクラリッサを、セシリアがチェルシーの事を呼ぶ。
2人が反射的に返事をすると、語り始める。
「何時まで、こうしているつもりだ?」
「こんな事している場合じゃ無いのは、2人とも分かっているのでしょう?」
「「っ……」」
ついさっきまでぐるぐると考え込んでいた原因をズバリと言い当てられ、2人は言葉を詰まらせる。
どう返答して良いのか分からずにもごもごしていると、ラウラとセシリアは続きを話す。
「…やはり一夏さんの事ですよね?『一夏に拒絶された』とか、考えているのではありませんこと?」
「他には『自分達の中で一夏の存在がこれほどまでに大きい存在だったなんて』とかか?」
「「っ!?」」
「なんで、その事が…」
誰にも話したことが無かったのに、ズバリ心情を言い当てられ驚きで表情が固まる。
チェルシーがなんとか言葉を絞り出すと、ラウラとセシリアはフフッと笑みを漏らす。
「チェルシー、私が何年貴女と一緒に居ると思ってますの?流石に顔を見れば考えること等分かりますわ」
「良い上司というのは、部下の事を理解しているものだからな」
普段、ラウラとセシリアの方が年下なのにも関わらず、クラリッサはよき副隊長として、チェルシーはよき従者として支えてくれていた。
年齢的に経験が足りず、未熟な面も多い自分達の事をサポートしてくれた。
長い間、ずっと。
だから今、ラウラはシュヴァルツェ・ハーゼの隊長として、セシリアはオルコット家のお嬢様として。
堂々と胸を張って生きていけているのだ。
クラリッサやチェルシーが、サポートの為に常に自分達の近くでいろいろとしてくれて。
自分の考えている事を言わなくても大筋理解できるようになったのと同じように。
ラウラとセシリアも、それぞれの考えている事は大筋分かるようになったのだ。
メンタルがやられてしまったその瞬間に、ラウラとセシリアはその事をなんとなく察していた。
だが、最初の内はあまり干渉し過ぎると逆効果になると思いそっとしていたのだが、流石に長期化している為相談して部屋に突入する事にしたのだ。
因みに、法被などの準備をしたのは偶々話を聞いていた簪である。
というものの、会話を断片的にしか聞いておらず、『気分を上げられないか』という情報しかない状態での提案を、ラウラとセシリアは特に疑いもせず受け入れてしまった為、あのような何もかも間違えた突入になってしまったのだ。
「「「「……」」」」
数舜の間、部屋を静寂が包み込む。
「……まぁ、正直に言おう。私達に今まで恋人というのは出来た事が無い。だから、お前達の気持ちは分かる、と言える権利はない」
「しかも、多くの憶測を含んでしまう、私達の意見ですわ。でも、どうしても言いたい事があるんですの。聞いて下さいます?」
2人の真剣なまなざしを見て、クラリッサとチェルシーは反射的に頷きを返す。
「大切な存在に拒絶されたと言っても過言ではない行動をされたんだ。2人とも傷ついているだろう。でも、それはお前達だけでじゃない、一夏もまた、傷ついていると思う」
「「っ……!?」」
「自分の身体が人間からモンスターへと置き換わったんだ。一夏からすれば、未知の生物という訳では無いが、それでもかなりの恐怖だろう。見知ったからだが、変わってしまったのだから」
「それに、普段の様子から一夏さんは2人への愛が限界突破してしまっている状態なのは、見てるだけでうんざりするほど伝わってきますわ。それ程までに大事な存在を拒絶するだなんて、する方も辛い筈ですわ」
「それ、は……」
「それともなんだ?それを向けられていた本人なのに、それに気が付かなかったのか?」
「「それだけは絶対にありえません!!」」
それまでの言葉には、無言か一言二言しか返答出来なかったのだが、ラウラの煽るような発言だけにはすぐさま、そして力強く返答をした。
自分達が一夏の事を、これほどまでに想っているのと同じかそれ以上に。
一夏からの愛情は、然りと感じていた。
だからこそ、このラウラの問いに即答する以外の選択肢など存在しなかった。
その返答を聞いたラウラとセシリアは、あまりの勢いの良さに少しだけ驚いたが、直ぐにフッと微笑みを浮かべる。
「ならば、やる事はもう決まってますわね」
「はい。もう1度、一夏としっかり話す」
「そして、ひっぱたいてでも、私達の想いをしっかりと伝える!!」
クラリッサとチェルシーは、覚悟を決め立ち直った。
それと同時、自分達よりも年下なのに、自分達を導いてくれる上司/主に心の底から感謝をしていた。
ラウラとセシリアは、クラリッサとチェルシーが何時も通りの頼れる部下/従者にして、サポートしてくれる年上のお姉さんが帰って来てくれた事ので、笑みを濃くする。
ピピピ、ピピピ、ピピピ
ここで、まるでタイミングを見計らったかのように、4人の通信端末が同時に着信音を鳴らす。
如何やらメッセージの一斉送信の様だ。
「「「「っ!!」」」」
その内容を見た瞬間、4人の表情は一気に真面目なものになる。
送信者は束。
内容は『見せたいものがある。ホテルのちーちゃんの部屋に来て』だった。
4人は頷き合った後、すぐさま部屋を飛び出る。
千冬の部屋に辿り着くと、そこには千冬はおらず束しかいなかった。
一言二言会話した直後から、束が同じくメッセージを送信していた楯無達専用機持ちもやって来た。
息が上がっているのを見る限り、同じく慌てて駆け付けたようだ。
全員の息が整ってから、束は現状を説明する。
曰く、ずっと行方不明だった一夏の足取りを漸く掴み、現場に千冬が急行したとの事。
どうなったのか掴みかかってでも聞こうとしたその瞬間に、束がモニターとスピーカーを起動。
すると、目に見えない程に小さいマイク付き浮遊カメラからの映像と音声が流れ始めた。
それで、全員が知る事になる。
千冬の本音と、一夏の本音を。
~~~~~
「ハァア!」
《フン!!》
ガキィン!!
互いの得物同士がぶつかり合う。
ここがかなり森の奥の方で周囲を木々が覆っているからか、よく響く。
エクスピアと千冬がこの場所で戦い始めてから、どれくらいが経過しただろうか。
実は1分も経過してないぐらいかもしれないし、1時間は経過したのかもしれない。
それ程までに時間間隔が麻痺してしまう程、激しい戦いだ。
ガキィン!ガキィン!ガキィン!
ただただその場に突っ立って得物をぶつけ合っているのではない。
片やISを身に纏った世界最強。
片や人間の頃でさえ生身なら世界最強を超えていたドラゴン。
激しく、そして高速で移動をしながら攻撃をしあい、防ぎ合っている為周囲へと衝撃が伝わる。
その度に周囲の木々が、まるで驚いたかのようにざわめき、側にいる施設の壁に罅が入り崩壊する。
「一夏ぁああああ!!!」
千冬は叫ぶ。
戦いにおいて、デメリットがある行為だったとしても。
「お前が、たとえ!どんな存在だろうと!私はお前の姉であり続ける!!絶対に!!」
言い聞かせるように、そして自分を鼓舞するように。
絶対に、そこだけは譲れないから
《まだ言うか!黙れぇ!!》
だが、その想いはエクスピアには響かない。
今のエクスピアには、それだけじゃ駄目なのだ。
深く深く残っていたその傷は、そして新たに刻まれた心の傷は、千冬の想像よりもかなり酷い状態なのだ。
その傷の原因を受け入れる態度を見せるのは大事だ。
それをしないと始まらない。
だけれども、
この心理状態の一夏を受け入れるだけでは、いわば転んでしまって出来たすり傷を水流で流しておしまいの状態なのだ。
その一歩先が必要なのだ。
すり傷の適切な処置は、きれいな水で洗って汚れを取り、傷口をなるべく乾燥させないように異物が無く菌が繁殖しない状況で湿潤環境を保つ事だ。
千冬によって汚れは取れた。
あとは潤湿環境を作れれば、後は一夏の回復力次第だ。
ガキィン!!
もう何度目だろうか。
互いの得物がぶつかり合う。
もはや辺境の地と言っても過言ではないくらいには、森の奥の奥の奥だったとは思えない程、周囲が開けてきた。
周囲を開拓しようとしてこうなったのではなく、ただただ1人と1竜が戦い合っているだけなのが恐ろしい。
(くっ、不味いな……)
拮抗している状況の中で、千冬はそんな事を考えていた。
決め手が存在せず、ただただ体力などが削られているのが現状だからだ。
千冬にも、ISにも活動限界というものが存在している。
千冬は一般人をゆうに超える身体能力と体力を有し、使用している暮桜・明星もあの束が開発した最新式。
普通に戦う場合は、限界が来る前どころか、エネルギー切れを心配する前に戦闘が終了する。
それに加え、零落白夜という一撃必殺も有している為、仮に劣勢になりかけたとしてもたった1回攻撃を当てれば逆転出来てしまうため、長期戦というものにそもそも発展しないのだ。
だがしかし、今戦っている相手とは戦況は拮抗している。
そして、一番千冬に不利なのが、エクスピアが何のアシストも無く、純粋な身体能力で暮桜・明星と同等の機動力とパワーを有している点だ。
身体とISという体力ゲージが2本ある千冬に対して、エクスピアは自身の体力のみの一本。
単純に消耗の差が激しいのだ。
それに加え、エクスピアは生身だ。
零落白夜が通用しない。
暮桜・明星の武装の1つである暁星の光はSEを回復できるが、零落白夜と連動している為、使えない。
《ハァアア!!》
ドゴォ!!
「がぁっ!?」
ついに千冬の疲労が表に出た。
その瞬間にエクスピアが腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。
その衝撃で千冬は思わず苦悶の声を漏らす。
だが、只では終わる千冬ではない。
表情を歪めながらも、手に持つ雪片弐型の前後を入れ替え、最小限の動きで追撃をしてこようとするエクスピアに向かって反撃を行う。
《フン!》
「なっ!?」
だが、エクスピアはその更に一歩上だった。
完全に千冬の意識外だった尻尾を雪片を握る右腕に絡みつかせ、思いっきり千冬の意識していた方向とは反対の方向に思いっきり引っ張る。
無論、その程度で雪片を取り落としたり、ましてやバランスを崩す程千冬は弱くない。
それでも完全な意識外からの接触には、完全には対応できず。
結果として少しの間、動きを止めてしまった。
この少しは、どう考えても1秒も無いくらい短かった。
だけれども、この戦場においては…エクスピアには、それだけで十分だった。
ガァアアアアアン!!
「ぐぁああああ!?!?」
その開いた胴体を、剣で思いっ切り叩き斬る。
千冬は地面に勢いよく叩きつけられ、ゴロゴロと転がっていく。
もう、こうなってしまえばずっとエクスピアのターンだ。
格闘ゲームだったら復帰モーションの一瞬の無敵時間があるが、ここは現実。
そんなものは無い。
ドゴ!バキィ!
《ハァアアアアアア!!》
蓮撃に次ぐ連撃。
暮桜・明星のSEはガリガリと削れていく。
「ぬぁあああ!!」
もう、こうなったら敗北覚悟で反撃をするしかない。
倒れ伏している千冬に上から攻撃してこようとするエクスピアに対し、千冬はスラスターを使用し横移動をしながら身体を起こし、その際同時にエクスピアの脇腹を雪片で切り裂こうとする。
エクスピアはそれにも反応し、地面を蹴り離脱する。
だが、これで漸く体勢を立て直す事が出来る。
千冬は完全に立ち上がり、改めて構えを取る。
しかし、今の今まで連続して攻撃をくらってしまった為、かなりふらついている。
《老いたな、ブリュンヒルデ……》
それに反し、エクスピアはまだまだ余裕といった様子でそう吐き捨てる。
「確か、に、お前からすれ、ば、私はかなり年上かもしれんが……これでもまだ、24だぞ、一夏」
《一夏一夏うるさい!!我はエクスピアだと言っただろう!》
「違う!お前がどんな存在だろうと!お前は私の弟!織斑一夏だ!!」
千冬の言葉を聞いたエクスピアは、構えていた剣を下した。
言葉が届いたのか。
そう期待した千冬だったが、それは直ぐに崩れ去る事になる。
《いい加減しつこい……もう、アンタと喋る事は何もない……消えろ》
そう呟いたエクスピアは剣を地面に突き刺し、空中に浮遊すると、左腕を空中に掲げる。
《キャスト……》
そう呟いた瞬間、世界からエクスピア以外の色が消えモノクロになり、千冬や、風によってたなびいていた木々も動きを止める。
《歪め世界よ…時を巻き戻し、悲しみを消し去れ……》
エクスピアの掲げた左腕の先に紫色の巨大な魔法陣が出現。
立体的に回転し、銀色で紫の円盤が幾つもはめ込まれている巨大な片刃剣が姿を現す。
《絶無の剣》
《ディストーション・パニッシャー》
呟くと同時、左腕を振り下ろす。
その動作に連動して、片刃剣が千冬に向かって振り下ろされる。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
情けなのか、それともダークコアを経由させていないからか、振り下ろされた地点は千冬からほんの僅かだけズレていた。
だがそれでも、かなり近い位置にディストーション・パニッシャーのような巨大なものが勢いよく突き刺さって、何の影響もないはずなく。
世界がモノクロのまま、千冬は遠くに吹き飛んでいった。
ディストーション・パニッシャーが一瞬オレンジに発光してから弾け、消失する。
その瞬間に世界に色が戻る。
「ガハッ…!?」
暮桜・明星が強制解除され、千冬は肺の中の空気を絞り出し気絶した。
両者の実力は拮抗していた。
だが、零落白夜という最大の技が使えず、対話が主な目的だった千冬と、必殺技が使え千冬を倒す気満々だったエクスピア。
この状況の差が露骨に結果に出てしまった。
《呆気ない…」
そう呟きながら、エクスピアは人間の姿に戻った。
その後、ボロボロの外套からもう影も形も無くなった研究施設から強奪したISコアを取り出すと、戦闘前に千冬が放り捨てたリュックを探す。
周囲の研究施設や森林が粗方無くなったので、リュックも無くなってしまったのかと思ったが、千冬とは違う方向に大きく吹き飛ばされていて、奇跡的に残っていた。
まぁ、肩ベルトは切れてしまっているので、完全に無事という訳では無いが、十分だろう。
一夏はISコアをリュックに入れると、気絶している千冬の側に置く。
そして、千冬の体勢を整えてからダークネスドラゴンWへのゲートを開き、身を滑り込ませるとすぐさまゲートは閉じた。
数舜前まで激しい戦闘が嘘のようにあたりに静寂が訪れた。
戦闘が始まってから遠巻きに見ていた浮遊カメラは、超スピードで束の元に帰還していった。
その後、駆け付けた束によって千冬は回収され治療を受けると同時、暮桜・明星も修理が開始された。
そして、一夏の叫びを、千冬との戦闘を見守っていたクラリッサとチェルシーは。
覚悟を決めた表情を浮かべていたのだった。
~~~~~
「はかせ、みんなの容態は?」
「う~んとね…良い感じだよ、順調に回復に向かって行ってる」
ヒーローW。
メンジョ―はかせの研究室。
嘗て一夏が高熱を出した際に寝込んでいたこの部屋は今、ズラッとベットが並べられており、その上にはエクスピアを除く煉獄騎士団団員達が横になっていた。
IS学園での深夜との交戦で、煉獄騎士団たちは全員大きなダメージを受けてしまった。
戦闘終了後、エクスピア1竜によって此処に運び込まれ、はかせの手による治療を受けているのだ。
あの時から全員気絶をしてしまっており、一度も目を覚ましていない。
だが、はかせの言葉通りに順調に回復していっており、そう暫くしないうちに目を覚ますだろうというのがはかせの見解だ。
「そう、ですか」
一夏は心底安心したような表情を浮かべ、同じく安堵の息を吐く。
バディという訳では無いが、団員たちも共に生活し、共に戦ってきた大事な仲間だ。
安否はとても心配だった。
そんな一夏の動作を、はかせは無言で見つめていた。
非常に慌てた様子で団員達を担ぎこんで来て、治療をお願いする旨を伝えた後、碌な説明もないまま一夏はいったんIS学園に戻った。
追いかけたかったが、団員たちの怪我の状態を放っておけず、諦めて治療に専念した。
その後、何かに怯えているような雰囲気を漂わせながら帰って来た一夏から漸く何があったのかの説明を受けた。
そこで諸々の事情、そして話す様子から一夏のメンタル状態を理解したはかせ。
身体検査を行い、肉体が完全にモンスターになっている事を改めて確認した。
それと同時、一夏が半場自暴自棄になっているのをなんとかしようとしたが、碌な会話もせず一夏は研究室から出て行ってしまった。
もう既に団員達の治療を受け持ってしまった為、放っておく事も出来ず治療に専念。
その後、ドイツにて会話をしてきた一夏が帰還。
その時にはもう、はかせでは如何する事も出来ないくらいにメンタルがボロボロになっていた。
自分がどうのこうの言っても無駄だと判断し、一夏のメンタル面は向こうの世界の住人に任せる事にした。
その後、一夏は3日に1回くらいのペースで顔を出しつつ、向こうの世界で女性権利団体などからISコアを奪う準備をし、実行したのだ。
「そういえばはかせ、白式と白騎士の強化パーツは……白式のIS装甲はどうなりました?」
「……そっちも順調だね。2人が目を覚ましたら、直ぐにでも」
「そうですか……」
はかせの言葉に、一夏はそれだけ返すと、今一度寝ている煉獄騎士団を見ると、そのまま出入口の方に歩を向ける。
「ちょっと待って」
「……なんですか?」
そんな一夏の事を、はかせが呼び止める。
一夏は一瞬迷う素振りを見せた後、大人しく立ち止まりはかせの方に向き直る。
「一夏君、君は…何処に向かっている?」
「……煉獄の果てまで」
一夏はボソッとそう呟くと、はかせが二の句をつげる前に駆け出してしまった。
はかせは慌てて後を追い、施設の外に出るも、もう既に一夏の姿は無かった。
恐らく外に出た瞬間にモンスターの姿となり一気に離れたか、ゲートを開いたのだろう。
向かう先が幾つか候補があるし、その中に向こうの世界があるので、はかせにはもう追跡は不可能だ。
「やれやれ…ディミオス、君のバディは精神的に追い込まれなきゃいけないというルールでもあるのかい?」
はかせはヒーローWの空を見ながら、そう呟く。
その後、別の方向を向き
「不甲斐なくて申し訳ない…だけれども、こっちの世界からは、もう、どうしようもない。だから、救ってやってくれ、一夏君を」
あった事も話した事も無い、向こうの世界の住人に想いを託すと。
団員達の治療の為に施設に戻っていったのだった。