最近前書きでこれしか言っていないのは気のせいではない…
本当にすいません…執筆スピードが確実に落ちていて、中々更新が出来ません……
頑張りまぁす!!
三人称side
はかせとのやり取りの後。
一夏の姿はドラゴンWの旧煉獄騎士団本部にあった。
ボロボロの黒い外套をたなびかせながら見つめるその先には、ディミオスの墓がある。
だが、墓の様子は以前までと少し様子が異なっていた。
墓石替わりに突き刺さっているディミオスソード。
その隣に、よく似た剣が同じく突き刺さっていた。
『贖罪の煉獄騎士団団長 オルコスソード・ドラゴン』が使用していた剣、オルコスソードである。
オルコスソードがディミオスソードと同様に地面に突き刺さっているという事は。
そう、これはオルコスの墓だ。
この下には、学園での戦闘で穴が開いてしまったオルコスのバディカードが埋められている。
一夏は外套の中から花束を2つ取り出す。
どちらも菊の花束だ。
現在無国籍とはいえ、長らく日本人として生活していた一夏。
お墓参りの花と言って最初に思い付くのが菊の花だったので、それを2つ購入したという訳だ。
だがしかし、此処でミスに気が付いた。
昨今はローカー墓といった変わった形の墓も増えてきたが、日本人が思い描く墓は寺などで管理されているもの。
そうした墓石には、基本的に花を供える場所を確保してある。
それに反し、ディミオスとオルコスの墓は地面に埋めたバディカードの上に各々の剣を刺しただけの、言ってしまえばとても簡素なものだ。
花を供える為の設計など何もされていない。
「別の花の方が良かったな……」
一夏は頭痛を抑えるように左手で顔を覆ったが、今更買ってきた花を返品など出来る筈も無いので、もうこのまま供える事にした。
花束の状態のまま、ディミオスソードとオルコスソードの前に菊を置き、腰を屈めたまま目を伏せ、両の手を合わせる。
少々強い風が吹き抜ける。
外套がバタバタと音を立てながらはためき、白い髪が乱れる。
だが、一夏は一切身動きを取らなかった。
暫くの間そうしていた一夏だが、やがて目を開き黄金の瞳が露わになる。
「はぁ……」
一夏はため息をつきながら立ち上がる。
「っと、お前らの前でため息なんてつくべきじゃ無かったな…」
一夏は悲しそうな表情を浮かべながら、ディミオスソードとオルコスソードを順番に見る。
「でも、許してくれ…こうもしないと、やってられないんだ……」
身体の向きを変えて脱力し、ディミオスソードとオルコスソードの間に倒れ込み、横になる。
何時もいるダークネスドラゴンWや、最近行く事が多くなったヒーローWとは違う、ドラゴンW特有の少し穏やかな空気が優しく包み込んでくれる。
その感覚が心地よくて……でも、何処か「お前は1人だ」と語り掛けられているような気がして。
ただの気候に対してそんな事を思うようになってしまったという事実に、一夏は苦笑を浮かべる。
「なぁ、ディミオス…オルコス…俺、何か間違えたかな……?」
その問いに答える者はいない。
語り掛けている相手がもう既に死んでいるのだから当然だ。
でも、心の何処かで返事が返って来る事を期待してしまっていて……
あり得ないと自分が1番良く分かってしまうはずの妄想に逃げてしまっている自分に嫌気がさしてくる。
単独行動を取り始めてから、一夏はずっと同じような事をグルグルと考えている。
ISコアを強奪し学園に送り届けたのも、半憂さ晴らしの面があるのは否定できない。
幼少期から今に至るまで、一夏は常に心理的に追い込まれていたと言っても過言ではない。
無論、心休まる時間や居場所はあった。
だがそれは、他人が……自分に寄り添ってくれる存在が居てこそだった。
幼少期からは千冬が。
小学高学年から中学にかけては鈴や弾たちが。
ISを動かせる事が分かってからは、クラリッサやチェルシーを始めとした人々……そして、バディがいた。
それを一気に失った。
いや、半分は自ら捨てた。
支えが無くなった。
傷口を塞ぐものが無くなった。
寄り添ってくれる存在を捨てたという事は、一夏の心のまだ塞がり切っていない傷をこじ開け、塩を塗りたくる行為そのものだ。
「まぁ、自分から捨てておいて、何考えてるんだって感じだよな……」
一夏は痛々しい、自嘲の笑みを浮かべると懐からダークコアデッキケースを取り出し顔の前に持ってくる。
常日頃から手入れを欠かさなかった、大切なもの。
だが、今はその中心の眼を模した紫色のコア部分に、縦に大きな亀裂が走っていた。
度重なる連戦。
手入れは欠かさなかったとはいえ、もとよりバディファイト用で戦闘用で無かった煉獄騎士の鎧は、限界を迎えてしまったのだ。
まだ起動は可能だが、恐らくあと1回か2回使用すれば破損するだろう。
この非正規品は、今の一夏には作れない。
バディが死亡し、団員達が全員ダウンしている状態では、そもそもの作成の仕方が分からないのだ。
作れるわけが無い。
「まぁ、今の俺には必要ないか……」
一夏は一度目を閉じて大きく深呼吸をすると、ダークコアデッキケースを懐に仕舞いながら立ち上がる。
「ディミオス、オルコス、また来るね」
そう優しく呟き、一夏は歩き始める。
数歩進んだ時、ふと立ち止まり振り返る。
「今度来るときは…3本目になってるかもな」
一夏はあまりにも痛々しい笑顔を浮かべると、エクスピアの姿になり空高く飛翔していった。
後に残った2本の剣は、手入れをしていないとは思えないくらい刃が輝いている。
だが、エクスピアが去った後。
感情など無い筈の剣が、何故だか寂しそうだった。
~~~~~
「ふぅ……取り敢えずこんなもんで良いかな……」
未だに校舎が復旧していないIS学園。
関係者が宿泊しているホテルの一室で、束が珍しくため息をつく。
疲れたように思いっ切り身体を背もたれに預ける。
「束様、お疲れ様です。珈琲を淹れて来ましたので、よろしければどうぞ」
「おお、ありがとクーちゃん…」
クロエから差し出された珈琲を受け取り、グイッと一気に飲み干す。
「それでは束様、私は社の方に戻りますので」
「えええっ!?もうちょっと居てよぉ~~!!」
3歳児のようにクロエの腰に抱きつき引き留める束。
『PurgatroyKnights』の開発主任である束だが、今は一夏や千冬の事を優先している為、会社の方に居れない事が多い。
社内でも開発主任が篠ノ之束であるという事は極秘中の極秘、一部しか知らない事だったため、元々他人とのやり取りはほぼほぼオンライン書類上だ。
その為仕事に特に影響がある訳では無い。
だが、ただでさえ私生活が破綻していたのに、ちょこちょこ説教をしてくれていた一夏が居なくなってしまい、自分の目の届かない場所で生活するようになった束が心配で心配でたまらなくなったクロエ。
その為わざわざ有給を使ってまで束の様子を見に来たのだ。
この後会社に戻る必要は無い。
それなのにも関わらず、クロエが「社に戻る」と言うのは
「ねぇ~クーちゃんってばぁ~~」
束が面倒くさいからである。
クロエの事が大好きな束は、クロエを拾った当初から溺愛してきた。
だが、最近互いに別の場所で多忙を極めており、中々顔を合わせる機会が無かった。
その為、束のクロエに対する感情が爆発したらしい。
クロエとしても、束の事は大好きだが流石に限度がある。
こうまでベッタリさせるとシンプルにウザい。
だが、それを面と向かって束に言える胆力はクロエにはない。
その為、結局ダラダラと残らざるを得なくなってしまった。
「はぁ……仕方ありません。少し残る事にします」
「やったぁー!クーちゃん大好き!!」
精神年齢と実年齢が完全に逆転している。
だが悲しいかな、これに突っ込める人間は存在していなかった。
暫くの間束が騒いでいると、
「う、くぅ…うる、さい…」
一夏との戦いで意識を失って以降、眠ったままだった千冬が目を覚ました。
そう、束がクロエとのやり取りを開始する前にしていたのは、千冬の治療、並びに一夏の捜索だったのだ。
「千冬様、おはようございます。お身体に障りますので、無理に起こさないで下さい」
苦悶の表情を浮かべている千冬に、すぐさまかけよるクロエ。
普段どう考えても身体フィジカルは千冬の方が上だが、長い間意識を失っていて、起きた直後では流石に敵わない。
素早くベッドに寝かされた。
「プークスクス。ちーちゃんがクーちゃんに負けてる~!」
「束ぇ…!覚えていろ……!!」
「ヒィ!?」
腹の底から冷えるような声。
束は思わず上ずったような悲鳴を上げた。
「…まぁ、いい。あれから、どうなった…一夏と私が戦ってから、今の間、何があった……?」
そんな馬鹿馬鹿しい、何時でも出来るようなやり取りよりも大事な事があった。
そう、一夏の動向である。
そもそもにして、一夏に戦いを挑んだ理由は、一夏を止める為だったのだ。
結果として敗北し、それが叶わなかった。
気にならない方がおかしい。
先まで何処か温かい雰囲気だった部屋の中が、一気に重たいものになる。
「まぁ、気になるよね……」
「束様、包み隠さずに伝えるべきだと」
「うん、そうだね」
クロエに言われ、束は決心をつける。
部屋に持ち込んでいたPCを操作してから、寝ている千冬に画面が見える場所に持っていく。
「まず、いっくんの居場所は特定できていない。多分…いや、ほぼ確実にあっちの世界を拠点として生活してるみたい。そうなると、流石の束さんもお手上げ。違う世界の事なんか、分かる訳がない」
チートレベルの頭脳と技術を持つ束でも、異世界の事は分からない。
もとより交わる筈が無かったはずの、IS世界のバディ世界である事も、それに拍車をかけている。
「だけど、ずっと向こうの世界に居る訳じゃ無い。ちょこちょここっちの世界に来てる。これがその証拠」
束はPCを操作し、映像を見せる。
以前、一夏と千冬が戦ったのと同じような、確実に人目につかない研究施設の映像が流れる。
巧妙にカモフラージュされている筈の施設を、直ぐに施設だと理解できたのには理由がある。
施設が、半壊しているのだ。
壁や天井が崩れ、黒煙が噴出している施設。
この光景には見覚えがあった。
いや、見覚えがあるどころではない。
ついこの間、実際に見たことがる。
暫くの間映像に変化はない。
黒煙がもくもくと流れ、周囲への延焼が少々心配になって来たあたりで、変化が訪れた。
施設のまだ無事だった部分が大きく爆発した。
黒煙の勢いが増す。
千冬の表情が少し険しくなると同時、束が映像を早送りにする。
数秒後、映像を戻すと同時、崩落している壁がら1人の人物が姿を見せた。
白い髪に白い肌。
ボロボロの黒い外套を風にたなびかせ、黄金の瞳が何処か遠くを見ている。
「一夏……」
千冬が呆然と呟く。
無意識で出て来たものなのか、それとも訴えが届かなかった事の悔しさ等を籠めたものだったのか、束とクロエには判別がつかなかった。
映像の中の一夏は暫くの間空を見上げていたが、ふと手元に視線を落とす。
束が映像を一時停止し、一夏の手元をズームする。
その手に握られていたのは、2人がよく知るもの。
「ISコア……」
それを認識した瞬間、千冬はこの映像がなんかのか完全に理解した。
一夏の行動は、何も変わっていないのだ。
「その時のコアが、こちらになります」
クロエが部屋の隅に置かれているケースを1つ手に取り、千冬に中身が見えるように開ける。
そこには確かに、ISコアが入っていた。
以前ホテルに届けられたものと同じように、装甲から無理矢理引きはがされたようだが、それ以外はかなり丁重に扱われている。
千冬は首を動かし、クロエがケースを取って来た方に視線を向ける。
するとそこには、同じようなケースが何個も積み重なっていた。
その側には、見覚えがあるダンボールが。
「あれは、全部ISコアか?」
「うん、そう。全部がISコア」
「これほどの量が……」
「はい、かなり大量です。この送られてきたコアだけで、何処かの国を余裕で侵攻できるだけの戦力になりますね」
「ISコアの登録番号とか、全部調べてみたんだけどさ。結構色んな国とか企業のが混じってたんだけど、その中でも圧倒的に女権に振り分けられてたのが多いね」
「それと…このコアはホテルのフロントだったり、会社の方に届けられたり、いつの間にか部屋の中にあったりと届けられ方はまちまちですが、どれも関係各所に直接届けられいるようです」
「うんうん。それに、黒いボロボロの外套の目撃情報がまちまちだったり、後を追ってもまるで瞬間移動でも使えるかのように直ぐに見失っちゃんだってさ」
「……」
2人の説明を聞き、千冬はしばし無言になる。
束とクロエも何も言わない。
話し始める前よりも、はるかに重たい空気が部屋を支配する。
「随分と、こちらの聞きたい事を分かっていたな」
「分かるよ。だってちーちゃんはいっくんの事が大大大好きなブラコンだもんね」
「微妙に理由になってない気がするな……」
束のおどけたような言葉に、苦笑で返す千冬。
「なっ!?ちーちゃんが素直に認めた、だと!?」
「し、信じられません…私は何時の間にか寝ていたとでも言うのでしょうか……」
「おい」
本気で驚いたような表情を浮かべる束。
珍しく束のノリに従うクロエ。
半眼で2人を睨む千冬。
緊張した空気が、軽くなった。
気がする。
「すまないな、気を利かせてしまって」
「えっ!?いや、全然そんな気はしなかったんだけど」
「束様、言わなければ良い話で終わりましたよ」
「はっ!?」
「お前は天才なのか馬鹿なのか良く分からないな」
「まぁ、馬鹿と天才は紙一重って言いますからね」
「クーちゃん!?」
娘に裏切られ、ショックを受ける束。
如何やらこのままでは、話が逸れに逸れて進まなさそうだ。
千冬はあまりにもわざとらしすぎる咳払いをする。
一夏の事がどうしても気になってしまうが、もう1つ気がかりな事が千冬にはあるのだ。
「あいつらは…今、どうしている?」
あいつら。
具体的ではない4文字。
それだけで、なにを指しているのかは簡単に分かる。
「そうだね…みんな、自分に出来る事をやろうとしているみたい」
「みたい…というのは?」
「ふふふ、何でもかんでも束さんが口出しちゃったら、みんなが自分達でって必死に頑張ってる意味が無くなっちゃうじゃん」
「お前らしい理由だな…そもそも邪魔になるのか?」
「束様がそう思っていますので、確かにと、賛同して頂けると」
「……タシカニタシカニ」
「クーちゃん!?何時の間にそんないっくんみたいな成長をしたのかな!?」
「そうですかね?」
「お前と関わるまともな奴は、みんなそうなっていくんじゃないか?」
「そんな訳無いじゃん!っていういか、その理論で言ったらこうなってないちーちゃんはまともじゃないって事になるよ!?それで良いの!?」
「なっ…!?束ぇ!!訂正しろ!!」
「なら先にちーちゃんが訂正する事だね!」
「なんだとぉ!!」
折角真面目な雰囲気になったのに、またおふざけモードになってしまった。
可笑しい。
以前だったら、2人の会話は絶対にシリアスな雰囲気にしかならなかった筈。
「一夏様が、お2人からシリアス成分を奪ってしまったのかもしれませんね…」
クロエが何処か遠い目をしながらつぶやいた事は、束には届いていなかった。
ギャーギャーと小学生のように言い合う2人。
だがまぁ、これも良いかもしれない。
暗い雰囲気で、誰も信じられなくなってしまうより。
だからこそ、クロエは一夏に伝えたかった。
あなたの居場所は、間違いなくここにありますよと。
コンコンコン
唐突に部屋の扉がノックされた。
言い合いをしていた2人も急速に黙り、扉の方を見る。
「どうぞ」
ガチャ……
クロエの返事と共に扉が開き、中に人が入って来る。
「おお、クラちゃんにチェルちゃん、いらっしゃーい」
入って来たのは、クラリッサとチェルシーだ。
数日前までとても暗かった顔をしていたとは思えない程に、覚悟の決まった表情を浮かべていた。
その表情を見て、束と千冬は口元にニヤリと笑みを浮かべる。
どうやら自分達の期待以上に、もう仕上がっているようだ。
「それで、束さん達に何か用?」
尋ねて来た理由を、束は把握しているのかもしれない。
それでも、先程千冬に語ったスタンスを崩さないため、束は尋ねる。
もしかしたら、束は達観しているのかもしれない。
姉である千冬でも駄目だったのだ。
昔から同じような立場で接してきた自分では、何も変わらないと。
もしくは。
一夏の恋人として選ばれた2人がやらなきゃ、意味が無いと。
「一夏が居なくなってから、お恥ずかしながらかなり落ち込んでしまいまして」
「それでも、お嬢様方のお陰で気付けたのです。私達に出来る事を、するしかないって」
「うんうん、良い心掛けだねぇ♪」
束が嬉しそうに肯定する。
声には出さないが、千冬とクロエも同じ様な表情を浮かべている。
「ですが、私達は無力です。ISが無ければ戦う事も出来ないし、主人が居なければ前を向く事すら出来なかった」
「一夏もよく言ってました。『仲間がいるから強くなれる』って。だから、お願いします」
「「私達に、力を貸してください」」
クラリッサとチェルシーは頭を下げる。
束と千冬とクロエは、なんとなく1度視線を合わせる。
だが、そんな事をせずとも3人の答えはとっくのとうに1つだった。
「もちのろん!束さんに出来る事だったらなんでも手伝うよ!!」
「微力ながら、私もお手伝いさせていただきます」
「こんななりだが、無論私も協力は惜しまない。お前達2人も、近い将来私の家族になりそうだしな……」
「「ふぇっ!?」」
すぐさま肯定的な返事を聞けた喜びよりも、ボソッと呟いた千冬の一言の方が気になった。
クラリッサとチェルシーは赤面しながら素っ頓狂な声を漏らす。
そんな反応を見て、3人は首を捻ろうとして、一拍遅れて気が付いた。
「しまっ……!?」
「うわぉ、まさかの義姉から……」
「これはこれは…よりいっそう一夏様には戻ってきていただかないといけませんね」
暫くアワアワしていた3人を、束とクロエが落ち着かせる。
この時のクロエの内心は
(束様が此方側とは珍しい……)
だったとかなんとか。
その後、なんとか落ち着いた3人。
5人以外の関係者も巻き込んで話し合いを開始。
何度も何度も議論を重ねた。
全員の想いは、そして行動目標はたった1つ。
救え、騎士の心を
~~~~~
ドガァアン!!
《はぁ……相も変わらず、至る所で同じような事を……》
破壊された施設の壁から、ため息をつきながらエクスピアが姿を見せた。
その手には、やはり装甲から引き抜かれたISコアが握られている。
束の予想通り、エクスピアは基本的にダークネスドラゴンWで生活をしており、IS世界での滞在時間は、徐々に徐々に減って来ていた。
こっちの世界でしている活動は、亡国企業と関係がありそうな施設や団体にゲートから直接侵入し、内部データを確認。
関係があると判断し次第、施設を攻撃。
施設の破壊をしつつ、他施設の情報を収集し、ISコアがあれば回収する。
その後、束の関係先でありかなり安全性が確保されている所へISコアを届け、誰にも捕まらないうちにゲートを再び潜りダークネスドラゴンWへと帰って行く。
そんな感じの生活を、あの時からずっと続けている。
黄金の瞳は、もう全てを諦めているんじゃないかという程に、濁っている。
エクスピアは一夏の姿に戻ると、黒い外套にISコアを仕舞う。
ふと、ある事を思い出した。
ISコアと入れ替える形で、コアと似た外観の、真っ黒の物体を取り出す。
この施設の中で見つけたこの物体。
外見がISコアに酷似していなかったら、気にも留めなかっただろう。
だがしかし、今こうしてわざわざ持ち出したのには理由がある。
IS学園校舎を全壊させてしまった戦い。
深夜が姿を現す前に、空一面を覆うくらいにビッシリと、黒いISが隊列をなして攻めてきた。
いくら亡国企業が大規模なテロリストで、女権のような組織からコアの提供を受けていたとしても、あの数は異常すぎる。
女権のトップを襲撃した時にも思ったが、黒いISのコアは流石に非正規品の可能性が高い。
その非正規コアも襲撃の際に探していたのだが、それらしいものはこれまで1つも無かった。
もしかして、実は非正規品など無いのか?
そう思っていた矢先、まるで子供のおもちゃ箱のような乱雑さで保管されていた、このISコアに酷似したものを見つけたのだ。
取り合ず3つほどを拝借し、残りは破壊した。
これが本当に非正規のISコアなのかを、束とはかせに調べてもらうとしたのだ。
「……声は微塵も聞こえないんだよな……」
一夏はそうぼそりと呟く。
暫くの間マジマジと観察してたが、こんな事をしている場合ではないと思い出す。
襲撃を開始してから、そこそこな時間が経過してしまった。
例にもれずこの施設は外部からの発見を遅らせる為に、相当カモフラージュされており、入り組んだところに立っている。
この施設の事を知っていたとしても、別の場所から辿り着くのには時間が掛かる。
そんな立地の場所しか攻撃していないからこそ、千冬という例外を除いて襲撃後に他者に遭遇した事が無い。
だが、時間が掛かってしまえば何者かが襲撃に気が付き、この場所までやってきてしまうかもしれない。
そうなるといろいろと面倒だ。
非正規(だと思われる)ISコアを仕舞い、ダークネスドラゴンWへのゲートを開こうとする。
その瞬間。
「―――っ!?!?」
唐突に、一夏は何かを感じ取った。
何故それを感じ取れたのかは、本人にも分からない。
モンスターになり、気配の察知や空気の流れに敏感になったからか、経験の積み重ねか。
それとも、攻撃者の雰囲気に、覚えがあったからか。
バチィ!!
直後、先程まで一夏が立っていた場所にエネルギー弾が着弾した。
「チッ……!」
一夏は強めに舌打ちすると、その手に剣を出現させる。
その次の瞬間、レーザーの発射地点とは別の方向に向かって剣を振りかぶる。
「わわわっ!?」
斬撃が飛んでいき、その方向から聞きなれた声がする。
一夏はそのまま着地すると同時、周囲の木々に向かって斬撃を数発放ち、切り倒す。
綺麗な切り口を見せ、丸太となった木々が周囲に積み重なると、周囲がよく見えるようになる。
見渡しをよくするという事は、それだけ自分の事を発見されやすいという事。
だが、射撃をされた時点でこちらの位置は筒抜けだと考えた方が良い。
だったら周囲の木々を切り倒してでも、相手の位置を認識できた方が良いと判断した。
これがもし、襲ってきた相手の正体に心当たりが無ければ、着地した時点でゲートを開き、ダークネスドラゴンWに帰るという選択をしていただろう。
見覚えがある。
このエネルギー弾は、自分のIS学園での初めての対戦相手が使用するものだ。
聞き覚えがある。
先程の慌てたような声は、自分が小学生のころからの幼馴染のものだ。
そして何より、先程の射撃以外の攻撃が一切ない。
普通相手への奇襲攻撃プランが1つな訳がない。
最初の攻撃が避けられた時のための、第2第3の攻撃プランがある筈だ。
だが、それが無い。
「何時までも見てないで出て来いよ……セシリア、鈴」
底冷えする様な低い声を出し、開けた空を見上げる一夏。
その声に素直に応じ、2機のISが姿を現す。
「良く躱しましたわね、一夏さん!」
「ちょっと!なんで位置が分かったのよ!」
姿を現した2人は、まるで訓練の後のような軽い雰囲気で一夏に話し掛ける。
だが、一夏は2人の事を睨みながら、変わらない声色で言葉を返す。
「はっ、良く言う……もともと当てる気も、隠れる気も無かったくせに……」
「っ!?」
「気付いてたのね……」
一夏の指摘に、セシリアが驚いたような表情を浮かべ、鈴は声を絞り出す。
そんな事どうでも良いと言わんばかりに態度を変えず、一夏は言葉を続ける。
「それで?なんの用だ?」
剣を肩に担ぎ、より一層視線を鋭くする。
その威圧感は雰囲気だけで人を殺せてしまうんじゃないかと思う程だった。
2人は若干気圧されてしまうものの、此処で引くわけには行かない。
2人にとっても、一夏は大切な友人だ。
放っておくなんて、出来るはずが無い。
その想いと共に脳裏に存在しているのは、専用機持ちで集まって、今後について話していた時に協力を頼みに来た、一夏の恋人2人の姿。
あの真摯な姿を見てしまったら、協力をしない訳にはいかないし、一夏を一発ぶん殴らないと気が済まない。
「もう、ごたごたと言う必要は無いわね……一夏ぁ!!アンタをぶん殴ってでも、連れて帰るわ!!」
「貴方には、色々言いたい事がありますの!!大人しく倒されていただきますわよ!!」
2人はそう言うな否や、各々の武装を構える。
だが、それでも一夏の態度は変わらない。
何処までも冷徹な雰囲気を纏わせたまま、肩に担いでいた剣をゆっくりと構える。
今からダークネスドラゴンWへのゲートを開いたとしても、潜るのを全力で阻止されるだろう。
それに、自分の元に向かってきたのが2人だけだとは到底思えない。
気配を察知されないくらい遠い距離で、準備をしている。
そんな状況で逃げたって、こっちの世界での活動はもうかなり制限されるだろう。
別にこっちの世界にいる義務はない。
だが、一夏の心に残ったほんの少しのこっちの世界への……大切な人への未練がその選択を奪う。
となると、取るべき行動は1つ。
「いいだろう…捻り潰してやる」
向かってくる相手を全員倒す。
そうでもしない限り、こいつらはきっと何度も自分に絡んでくると、一夏は確信していた。
一夏から発せられる威圧感は、より一層強くなる。
セシリアと鈴は思わずゴクリと唾をのむ。
その音が合図だった。
一夏は両足に思いっきり力を籠め、一夏の姿のまま跳躍する。
一夏が飛ばした斬撃と、セシリアの射撃、鈴の衝撃砲が入り乱れる。
騎士の心を救うための戦いが、始まった……