「ただいまー、いやぁ、今日もトレーニングきつかったー」
「おー!おかえりネイチャ!今日もとってもマーベラス☆な一日だったね!」
トレセン学園の寮内のある一室、具体的にはナイスネイチャとマーベラスサンデーの部屋。
少し疲れた様子のネイチャに対し、まだまだ元気が有り余っている様子のマーベラスが駆け寄ってくる。
「あ~…まあ、そうだねぇ、そうかもね」
適当にそう答えたつもりのネイチャだったが、マーベラスサンデーにはその反応が意外だったのか、オーバーリアクション気味にほえー!と声を上げた。
「そうなの⁉なになに、何があったのネイチャ!」
「えっ⁉えっあー、いや、別に何があったってわけでもないけどさ」
まあ何もなく過ごせてるのもある意味幸せなのかもね、とふと思っただけなのは、少し気恥ずかしくて言えそうもないな…
そんな風に考えて、ネイチャは少し考え込んだ後、話題をそらすように大きな声を出す。
「そ、それよりも!マーベラスさんは、なにか今日はいいことあったかね?」
「ん?アタシ?」
話題を振られたマーベラスサンデーは、目をひときわ輝かせて、語る体勢に入った。
「そう!今日はねー、マヤノと一緒に大人の勉強をしてきたんだー!まずね、寮の前で合流してから、それからエアグルーヴさんの花壇の手入れを手伝いに行って、そこでマヤノが「大人は花を愛でるもの」って言って、だから……」
ネイチャがしまった、と思ったときには時すでに遅し。朝からまるでマーベラスサンデーの視点でもう一度行動でもしているかのように、無駄に詳しい解説付きで、いかにマーベラス☆なことが起こったのかを聞かされ続けた。
しばらく右から左に聞き流していたが、ふとはなしが止まり、不思議に思ってネイチャがサンデーのほうを見ると、彼女にしては珍しく、少し苦い顔をしていた。
「急にどしたの、マーベラスらしくもない」
「うん、ちょっとその時怖い思いしちゃって」
その時がどの時か分からなかったが、それよりもサンデーに何があったのか気になったネイチャは、無言で続きを促すことにした。
「……えっとね、その中で人が倒れてて、近くにいたタキオンさんがなんでか笑ってて、ちょっと怖かったけど、どうして笑ってるのか聞いたんだ」
ああ、なるほどね。その時の前にどういった経緯があったのかは分からないが、少なくともタキオンの研究室の前を通った時だってことが分かって、話の流れがつかめそうだとネイチャはホッと…
……おいおいおい、ちょっと待て。
怖い話とは聞いたが、いきなりそんなヤバい物が来るとは思わず、口からは無意識に「ひぇ…」という声が漏れてしまった。
そんなものを見て平然と自分を出迎えたマーベラスの切り替えのよさにも驚きつつ、ネイチャは更に続きを促す。
「えっと、それで、どんな返事が返ってきたの?」
「確か、「…ああ、気にしないでくれよ。このくらいすぐ修正できるさ」って言ったきり、またすぐに笑い始めちゃって、なんだか怖くなって逃げちゃったんだー…」
「………」
「ねえネイチャ、頼みたいことがあるんだけど…」
hネイチャは無言で耳をぴったり伏せたまま、ベッドにもぐりこんだ。マーベラスサンデーもまた無言で掛け布団を掴んで、勢いよく引っ張る。
「ネイチャー!お願いだよ!アタシと一緒に見に行ってよー!」
「嫌だ!マーベラス一人で、いやマヤノと一緒にもう一回見に行けばいいじゃん!怖いものを恐れないのも大人っぽいよ!!」
「そんな言葉に乗せられるのはマヤノだけだよ!ネイチャに来てほしいの!」
何気にヒドイなオイ。
「……結局来てしまった」
なんだかんだ優しいネイチャ(異論は認めない)は、マーベラスに連れられてタキオンの研究室の前に来てしまっていた。せめて死なばもろともと呼びに言ったマヤノは、まだ夕方だというのに、遊び疲れたのか寝てしまっていたので、この場にはネイチャとマーベラス、それとテイオーの3人だけだ。そのはずである。
「…いやおかしいよね⁉なんで連れてこられたの⁉」
「よーし、じゃあマーベラス、テイオー!後は任せたよ!」
「えぇ⁉ネイチャも来てくれるんじゃなかったの⁉」
「なんで無視されてるのかなボク…」
もういいや、とテイオーはこっそり逃げようとしたが、ネイチャにがっちりと肩をつかまれ、「ニガサナイヨ?」と言われた時点であきらめたのか脱力して体を垂らした。怖い。
「…で、マーベラスさんや」
「気持ちは一つみたいだね、ネイチャ」
そこからネイチャがスッと真面目な顔でマーベラスに話しかけると、何を察したのかマーベラスもそれにこたえ、2人はほぼ同時に腕を前に出した。
「「じゃんけん……!」」
「ノットマーベラスですわこれは」
「マーベラス☆」
はぁ……と長いため息を吐いた後、もう一度空気を入れるようにしっかりと深呼吸をして、ネイチャは恐る恐る扉に近づく。
「…テイオー、なんかあったらお願いね」
「えっ何があるのここ⁉」
そうして覚悟を決めたネイチャがさあ行くぞ、と扉に手をかけた瞬間、バッと扉が開いて、中から何かが勢いよく飛び出した。
「うぉああああああ!?」
「いえーい!マーベラース!!どっきり大成功!」
飛び出したのはなんと、さっき寝ていたはずのマヤノだった。
どうどう、びっくりした?とぐるぐるネイチャの周りを回りながら、無駄にいい笑顔を見せてきた。
「……マーベラス?やったね?」
「マーベラス!☆マヤノもお疲れ様ー!」
いえーい、とハイタッチを決める2人にを見て、ネイチャは先ほどとは違った深いため息をついた。
「ねえ、ボクどうしてつれてこられたの?」
「……ああ、テイオー。まだいたんだ」
「ねえ今日ネイチャひどくない?」
テイオーはうなだれた様子のまま、ちらっと研究室の奥のほうをのぞいた。
「……ねえ、ネイチャ。あれ何?」
「えっ、まさかテイオーも仕掛け役なの?もうネイチャさん引っかかりませんからね?」
「違うよ!ねえマヤノ、ボク別に何もやってないよね?」
そうだよね、と問いかけるテイオーに対し、マヤノは少し考えるようなしぐさをとった後、ふむ、と一度うなずいた。
「テイオーちゃんも、いえーい!」
「マヤノ⁉」
まあわかってるよ、と振り向いて何かを訴えかけるような表情のテイオーの肩をポンと叩いて、ネイチャはさあ戻ろうと歩き始めた。それに続いて、テイオーもネイチャに駆け寄って一度抱き着き、振り払われたのちにネイチャと同じように歩き始めたのだった。
「そういえば、さっきテイオーちゃん、なにか研究室を気にしてたような…なにかあっ…た……」
「んー?どうしたの、マヤ、ノ……?」
「「……えっ?」」
研究室の奥のほうで、誰かが包丁のような刃物で刺された状態で倒れている。その人物の服は、刺された部分を中心に変色しており、血がにじんでいるのだろうと思えた。
「な、なんで、さっきまでは、あんなの」
その時、マヤノの肩がポンと軽く叩かれた。その拍子にマヤノは腰が抜けたようにスッと崩れ落ちてしまったが、何とか首を回してその人物を確認した。
「やあ、マヤノ君にマーベラス君。こんなところでどうしたんだい?私に何か要件でもあったのかな?」
「「ひっ……!」」
「「ぎゃああぁぁぁ!!」」
「た、助けてネイチャ!人が刺して死んで、それで…!」
「テイオーちゃん、あっちで事件が!」
「えっ何々、マジな感じなの?ちょ、怖いよもう…」
「何だったんだ?全く……おや、モルモット君。またそんなことやってたのかい?」
「いや、文化祭も近いからな…こういう練習も大事だろう?まだまだリアリティを追及できるしな、やって損はないってことだ」
「そういって楽しんでるだけだろうに…あの2人のリカバリーも、しっかりやっておきたまえよ?」
「はいよ、じゃあまあ行ってくるよ」
このトレーナーは、その後理事長から厳重注意を受けたとか受けてないとか。
「ネイチャー!一緒にお化け屋敷行こう!」
「あんたも懲りないねぇ…」
怪談とかいう意味不明なテーマを振った人、後で屋上へ来なさい。