ウマ娘短編合作   作:マーベラスきのこ

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クリスマスのあのビデオレターとの2択でした。ポケ戦は良いぞ。


17年越しの約束 作:通りすがる傭兵

「ああ......なんと美しいボク......! やはりボクは美の化身アフロディーテと同じ神に遣わされた、いやそれ以上の美しさを持って生まれてしまったのだ! なんと罪な事か!」

「相変わらず騒がしいね、オペラオー」

「おお、トレーナー君じゃあないか!」

 

 両腕を広げてオーバーな仕草で自分を出迎えたのは、俺の担当ウマ娘『テイエムオペラオー』だ。

 芝居がかった仕草と歌劇めいた言い回しを常とする変わり者だが、その実はG1レース7勝と華麗な経歴の持ち主だ。

 尊大な態度と自称、さらに実力で圧倒するレース運びとシニア級で記録した『年間無敗、G16連勝』の名誉から、とある漫画になぞらえて『世紀末覇王』なんて呼ばれていた事もある。

 もうすでにトゥインクルレースを引退した彼女は、新しい道としてドリームトロフィーシリーズを選ぶか迷っていた。

 

『ボクの輝かしい美しさを世界に遍く届けるためにはああ、どうしたものだろう』

 

 才能を1番発揮できるであろう芸能界の道を選ぶか、学園に残って走り続けるか。彼女はその将来の分岐点にいて......立ち止まって、悩んでいた。

 だからこうして、彼女が大切に思う『ファンとの交流』の機会を欠かさないためにちょうど手紙を持ってきたところだ。塞ぎ込んしまっては気が重いだろうと、気分転換になるように。

 

「ファンレターが届いたよ」

「なんと! ボクの美しさを讃える讃美歌が届いたのかい?」

「そうかもしれないね」

「早速見なければ! いやあ、素晴らしい!」

 

 彼女はそう言うと日課のダンス練習(といって自分の美しさに見惚れる時間)を切り上げ、はやくトレーナー室へと向かおうと俺をせき立てた。

 

「それで、今日は何通ほど届いたんだいトレーナー君」

「一通だけど、珍しいものを。なんとビデオレターだ」

「ビデオレター? なんだいそれは」

「オペラオーは知らないのか。映像の応援メッセージって事なんだけど......オペラオーはビデオなんて知らないか」

「古い物は全ては良いものとは限らないのだよトレーナー君、古典を学ぶことは大事だがね」

「ハイハイ」

「トレーナー君、聞いているのかい?」

「聞いているとも、君の素晴らしい言葉を聞き逃すなんてありえないだろう?」

「ハーッハッハ! それは当然のことだった、失念していたな!」

 

トレーナー室に一台は備え付けの液晶テレビ。下にしまってあるAV機器を取り出して、届いた四角の封筒を封を開けようとして、目に入った宛名を見て少し困惑した。

 

「テイエムオペラオー『号』へ......?」

「どうしたんだいトレーナー君。早く見せてくれたまえよ」

「あ、おい」

 

 彼女は早く見たいのか、自分の手から封筒を掠め取ってしまった。彼女は封筒を上下に返してから、いつものようにハッハッハと高笑いした。

 

「なるほどなるほど、ボクの美しさにやられて書き損じてしまったということだな。それに宛名も見つからないという事は、少しシャイな観客ということだけだろう! では早速」

 

彼女が封筒を開ける。

 

「......ふむ、トレーナー君。これはこれは......」

 

彼女はそう言うと、黙り込んだ。

 

「これの宛先は、本当にボクのファンなのかい?」

 

 若干眉を顰めた表情を見せ、俺に差し出してきた透明なケースに入った白いCD。

 

「宝塚、記念」

 

マジックで走り書きされた文字は確かにそう書かれていた。

 

一般的には春競馬を締め括るグランプリレース。だが、2人にとっては少し別の意味合いを持つレースだ。年間無敗という皇帝すら成し遂げられなかった偉業、G1レース6連勝という輝かしい覇道、その終着点なのだから。

 

「あのレースではドトウ君がボクに勝利した。この事実は変わりようがない、ボクの覇道はあそこで途切れ、彼女が栄光を勝ち取ったのは紛れもない事実だ。

しかし、これが例え如何なる内容であれども、ボクを賛美するものであってはならない。そうであるならドトウ君に対して失礼極まりない!」

「......見ないでおくかい?」

「いや、見るとも。箱は開けてみなければわからない。ボクが考えた通りならこのDVDを処分すればいいだけの話だ。差出人のUNオーエン(名無しさん)には悪いけれどね」

「そうか」

 

 少し声を荒げたことを恥ずかしそうにしながらも、彼女は椅子を持ってきてテレビの前に座って準備万端といったところだ。

 

「じゃあ、流すぞ」

 

 トレーにディスクを乗せて、機械がそれを飲み込んだ。しばらくヴーンという機械音がしたのち、テレビに小さい文字が表示される。

 

[再生しますか? 決定/終了]

 

 いつものように決定ボタンを押す。

始まってから画面は黒いままだった。しかし時々ノイズを写しながら、切れ切れの音声が聞こえてくるという事は再生できているのだろう。

歓声と拍手の音、ファンファーレらしい金管楽器の音。

どうやら、これは本当にレース動画、それも宝塚記念のもので間違いないらしい。

 

『......あ、晴れ渡......天、馬場......や重』

 

「トレーナー君、そのCD壊れているんじゃないかい?」

「おかしいな、新品だったはずなんだが」

 

『昨......者、......トノクラウンが収まり、最後のゲートイン菊花賞......、全馬おさまりました』

 

バチ、と画面が弾けて、真っ黒の画面にノイズ混じりの青い芝が映った。見慣れた阪神レース場だが、あからさまに雰囲気が違う。何よりゲートに収まっているのはウマ娘ではない!

 

「うわぁ! びっくりした!」

「......どういうことだ?!」

 

 ゲートに収まっているのは、人間の倍はありそうな4足歩行の動物......でいいのだろうか。細長い顔と太い首、人が跨って有り余るほど長い胴体を持ち、アンバランスなくらいに細い脚と、ウマ娘のような美しい尻尾。

ウマ娘の要素を無理矢理に動物に落とし込んだようなキメラのような外見のソレだが、感覚的に嫌な感じはしなかった。むしろ親近感さえ覚えるような不思議な印象すら受けたのだ。

 

『スタートしました!』

 

 実況はまさにトゥインクルレースの実況そのものだった。淀みなく読み上げられる出場者の名前とレースの状況。まさしくレース場やラジオで流れているような、目を閉じて重い足音を聞き流せさえすればレース実況と聞き間違えてしまうほどだった。

 

 黒や栗色、白色など様々な毛色の4脚の動物。それにまたがるのはウマ娘の勝負服の様な様々な色と模様をつける帽子と服を着ている人間たち。それぞれが位置どりを巧みに操り、レースに勝とうと走っている。群れが一体となって2コーナーを抜け、向こう正面を突っ切り、3コーナーを抜け、4コーナーに差し掛かる。

 

「最終直線だ!」

「ああ」

 

 2200m、芝、右回り。バ場が重ければ2分10秒前後の決戦。

映像に乱れはなく、音声にもノイズはない。

 

はっきりと伝わる歓声とヒートアップする実況、蹄鉄が地を蹴る重い足音。

 

まるで観客席にいる様な気分で、勝負を見守った。

 

『4コーナーサトノダイヤモンドが先頭で直線! 内ミッキーロケットが突き抜ける! サトノダイヤモンドは伸びを欠いているぞ届かないか!』

 

最内にいたゼッケン4番が突き抜ける。

 

「......いけ」

「いけ、いけ、いけっ......!」

 

握る拳に力が籠る。理由はわからない。ただゼッケン4番。その上にまたがる男性の背中を、どうしても押したくなったのだ。

それ以上に、俺の隣に座る彼女が。熱烈に叫んでいた。

 

『香港のワーザー突っ込んで来る! ワーザーが来た、ワーザーが来た、ワーザーが来ている!』

 

「いけ、いけ、いけッ、行けーっ! 勝て、勝つんだ!

キミの力で! 勝利を! 栄光を! 掴んでくれ!」

 

『しかし4番ミッキーロケットだ!ミッキーロケット『ーーーー』だ! ワーザー追い詰めるが届かない! 振り切ってミッキーロケットゴールイン!』

 

「......勝った、勝ったぞトレーナーッ!?」

 

 オペラオーの歓喜と困惑が入り混じった声。だが、俺は次に飛び込んで来た実況の声により衝撃を受けた。

 

『遂に、遂に『ーーーー』がG1を制覇、テイエムオペラオーに捧げるG1勝利です! 17年ぶりの、G1勝利です!』

 

「テイエムオペラオー......」

「ボクの、名前......?」

 

人の名前をかき消すように走ったノイズなどどうでもいい。知らない場所で、知らない誰かが自分の名前を呼ぶ。普段ならそれを誇るだろう彼女が珍しく困惑していた。

 

「......知らない、けど、どうしてだろう。ボクは、ボクは、彼の勝利が嬉しいんだよ......」

 

ぽとり、と水滴が落ちる音がした。

 

「オペラオー、泣いてるのか?」

「っ......わからない、わからないんだ。悲しいのか嬉しいのか、けれどそれ以上に、喜びが込み上げてくる......!」

 

泣き笑いしながらジャージの袖で溢れる涙を拭うオペラオー。

 

 映像はいつの間にか勝利者インタビューに映っていた。4番ゼッケンの動物に乗っていたらしい壮年に差し掛かろうとという男性がインタビューに答えていた。

 

『勝因はズバリなんでしょう』

『......そうですね。テイエムオペラオーが後押ししてくれたんだと思います。本当なら勝って、生きているうちに報告したかったんですけどね......』

 

「遅い、遅すぎるよ......バカ。......けど、届いたよ。貴方の(レース)はボクに届いた」

「オペラオー......? あ、おい」

 

彼女は無言でテレビの電源を落として立ち上がった。涙はいつの間にか消えていて、いつもの様な不敵な笑みがこちらを見下ろしている。

 

「トレーナー君、練習の時間だ!」

「は、はぁ?」

「ハッハッハ、ここまで熱烈なメッセージをもらってしまっては、滾らずにはいられないとも、そうだろうトレーナー君!

ボク達の覇道は果てしなく続く! この身が果てるまで!

トレーナー君、ボクはドリームトロフィーに進むと決めたぞ!」

「はぁ?! ちょっと待て、一体どういう心変わりだ!」

「好敵手が走るのを辞めない以上、ボクが歩みを止めたら負けてしまうじゃないか! だから走るのさ、当然だとも!」

「あ、え、お、おう......?」

Nothing ventured, nothing gained.

(何もしなければ、何も起こらない)

さあ行こうトレーナー君、朝日昇る大海原へ、果てしなく続く荒野へ。ボク達の道行を栄光と勝利に彩られたものにするために!」

 

 

 

 

2018年 宝塚記念

1着 ミッキーロケット 騎手 和田竜二

 

 

 

 

 




オペラオーは引けませんでした。書いたら出るってのは嘘です。
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