ある日のトレセン学園。その生徒会室では、7冠ウマ娘であり、生徒会長として圧倒的なカリスマを誇るシンボリルドルフが執務に勤しんでいる。
今日もいつものようにたくさん積み上げられた書類の山を捌いていた。次々と書類を捌いていく様は最早芸術のようである。一切の無駄のない行動は書類の山をあっという間に崩していき、気がついたら、山のようにあった書類はいつの間にか消えていた。
「ふう。大分片付いたようだな。」
書類仕事を終えたルドルフが背中を伸ばす。パキパキと背骨が立てる軽やかな音が、長時間のデスクワークの時間を物語っていた。
しかし、長時間のデスクワークは、流石の生徒課長でも疲労が溜まってしまったようである。瞼が重くなり、うとうとと船をこぎ始めてしまっていた。
(たまには少しくらい、寝ても問題だろう・・・)
ルドルフは、椅子の中で意識を手放し、眠りについた。
「・・・う・・・ちょ・・・会長!」
「・・・んにゃ?」
「会長!いつまで寝ているんですか!!!起きて下さい!!!!!」
数時間後、ルドルフは副会長であるエアグルーヴによって叩き起こされた。
「どうしたんだい?エアグルーヴ。やけに慌てているようだが。何かあったのか?」
「事件です!事件なのです!!!アグネスタキオンが倒れた状態で発見されたんです!!!!!」
エアグルーヴによる突然の事件の報告。その声を聞いた瞬間、ルドルフの目つきが1ウマ娘の寝ぼけ眼から一気に皇帝の目つきへと変わった。学園内で事件が発生したのだ。ゆっくりしてはいられない。ルドルフの頭は一気に仕事モードへとシフトさせ、事件を解決すべく現場へと向かっていった。
まずルドルフが向かったのは保健室である。事件の被害者であるタキオンはここに収容されていた。
タキオンはベッドに横たわり、すやすやと寝息を立てて眠っている。エアグルーヴの説明によれば、床に倒れた状態で発見されたらしい。命に別状はないとのことだ。
「タキオン君、安心してくれ。必ず、犯人を見つけるからな。ここは私に任せてくれ。」
ルドルフはそう言い、タキオンの髪を優しく撫でた。一瞬、苦しそうだった表情が、少しだけ、和らいだように見えた。
次に向かったのは事件現場である。多数の野次ウマ娘を生徒会のメンバーが制止する中、ルドルフはエアグルーヴと共に事件現場に足を踏み入れた。
事件現場は学園の一番外れにある実験室。アグネスタキオンが根城にしている実験室として有名である。
タキオンが倒れた場所には、白いテープでウマ娘型の印がつけられていた。印がつけられている場所は、タキオンがいつも使っている実験机のすぐ近く。椅子から立ち上がってすぐか、椅子に座るときに襲われたようにも見える。
タキオンの体自体は至って健康そのものであり、既往歴もない。そのため、何者かがタキオンに手をかけた、とルドルフは結論づけた。
実際、タキオンの性格故、気味悪がって研究室に近づかない生徒やトレーナーは多い。また、研究を不気味がり、よく思っていない生徒も多い。だから、タキオンに恨みを持つ者が手を下したとしてもおかしくはなかったのだ。
何か手がかりはないか。ルドルフは実験室をくまなく調べて回ったが、部屋には荒らされた形跡は全くなく、かといってタキオンが残したメッセージの類も一切なかった。
「手がかりは、全くないか・・・」
ルドルフは、落胆していた。犯人に繋がるメッセージは一切ない。一体誰がタキオンを襲ったのか。果たして何が目的なのか。そこで、次はタキオンの目撃証言や親しい人物から証言を集め、事件の真相を探ることにした。
まず話を聞いたのは、タキオンの親友の一人、ダイワスカーレット。タキオンの研究室に出入りする数少ないウマ娘である。
「タキオン先輩には、今日は会っていません。一番最後にあったのは、3日前です。今日タキオン先輩が事件に遭ったときは、ちょうどグラウンドでトレーニング中でした。たくさんのウマ娘が私のことを見ていたはずなので、アリバイは取れると思います。」
次に話を聞いたのは、同じくタキオンの親友の一人、マンハッタンカフェ。同じくタキオンの研究室に出入りするウマ娘の一人である。
「タキオンさんといつ会ったか・・・ですか?・・・今日ですよ。今日の昼にタキオンさんとカフェテリアで話していました。私とタキオンさんのことはたくさんのウマ娘が見ていますよ。」
最後に話を聞いたのは今日タキオンの研究室に出入りしている姿を目撃された桐生院トレーナーである。タキオンとの仲は普通である。
「何故私がタキオンさんの研究室に出入りしていたか・・・ですか?一度、タキオンさんと話をしてみたかったからです。研究室に引きこもったまま走らずに研究しかしないウマ娘は珍しいです。何故研究に熱中するのか、その話を聞きたかったので、研究室に入りました。しかし、全く話に取り合ってもらうことはありませんでしたけどね。
アリバイは、今日の所はミークしか私を見ていないので、立証は難しいです。」
証言や目撃情報を全て集め終わった。しかし、ルドルフは生徒会室で頭を抱えていた。
(どうすればいいんだ。事情聴取をしたのはいいものの、みんな当たり障りのない発言ばかり。唯一タキオンの研究室に今日出入りしていた桐生院トレーナーが犯人に近い可能性があるが、どうも根拠に欠ける。一体誰が犯人なんだ・・・・・)
完全にドン詰まりに陥り、誰が犯人なのか全く分からなくなっていた。亡名探偵のように急にアイデアが頭に降ってくることなどもなく、ただ時間だけが無駄に過ぎていく。このまま、この事件は迷宮入りしてしまうのだろうか。ルドルフは心の隅でそう考え始めていた。
その時、静寂を突き破って机の上にある黒電話が鳴った。
「はい、こちら生徒会室。シンボリルドルフだ。・・・うん、うん、うん。分かった、今すぐ行く。」
ルドルフは電話を切ると、すぐに保健室へと向かった。
所変わってここは保健室。既に日は傾き、夕日が部屋に差し込んでいた。ルドルフはタキオンと向かい合う形で座っていた。捜査に出る前には目を覚まさなかったタキオンだったが、つい先ほど意識が戻ったようだ。
「それで、生徒会長様がこの私に一体何の用かな?」
「タキオン君、単刀直入に聞こう。君が倒れた原因となったのは一体何だい?我々生徒会では、悪意を持った何者かによる犯行だと考えている。何か心当たりになることがあれば、教えてほしい。」
しかし、タキオンの反応は意外なものだった。
「いや、私に手をかけた犯人はいないよ。断言できる。」
なんと、犯人はいないというのだ。
「では、一体何が原因だというのだね?」
ルドルフは、聞き返していた。
「ああ、それはね、」
タキオンは、間を置いて話し始めた。
「何、不思議なものではない。単なる疲労さ。ここ1週間、何も食べることなく、一睡もしないで研究に没頭していたからね。流石に何も食べていないのはよくないとカフェにカフェテリアに引きずり出されたんだよ。その後少し話をして研究室に戻ったんだけど、寝ていないせいで全く頭が動かなくてね。椅子に座る前に倒れてしまったわけさ。」
「まったく、そんな理由だったとは。キミらしいと言えばキミらしいな。しかし、しばらくは安静にしていてくれ。研究室に戻って研究していいのは疲労と健康状態が完全に回復してからだ。でないと、よりよい研究結果は出ないだろうからね。」
「ははっ、生徒会長様にそう言われちゃ仕方ないね。しばらくは研究を休むとするよ。」
ルドルフは完全に面食らう形になった。誰かにやられたわけではなく、まさかの疲労だったとは。しかし、これで事件は迷宮入りすることなく解決されることになった。
「あ、そうだった。忘れていたことがあった。」
タキオンに静養を命じ、生徒会室に帰る直前に、ふと思い出したように言うと、
「キミが無事でよかった。よい研究結果を待っているよ。」
と言い、タキオンを抱きしめた。
今度はタキオンが面食らう番だった。まさか生徒会長がここまで親切に接してくれるなんて、考えてもみなかったからだった。
「それでは、私はここで失礼するよ。」
最後に、ルドルフはタキオンの髪を撫でて保健室を後にした。
「ルドルフさん、あんなことされちゃったら、私でも照れちゃいますよ。」
一人保健室に残されたタキオンは、赤面した顔でそう呟いたのだった。
生徒会室へと戻ってきたルドルフ。まさか事件が発生するとは全く思ってもみなかった。予想以上に時間がかかってしまい、もう日は沈んでしまっていた。
(色々思えば、今日は何かと忙しい一日だったな。)
椅子に座ったルドルフは改めた思案に耽っていた。今日一日の疲れからか、ふと、また眠くなってしまったルドルフ。また、眠りの世界へと潜っていった。
「・・・い・・・ちょ・・・会長!」
「・・・んにゃ?」
「会長!いつまで寝ているんですか!!!起きて下さい!!!!!」
ルドルフは再びエアグルーヴに揺すられて起きた。時計をふと見ると、最初に書類作業を終えて寝てから3時間しか経っていなかった。
(あれは、夢?)
「夢、だったのかな・・・」
「会長、夢とは一体?」
「いや、なんでもないよ、エアグルーヴ。さて、仕事に取りかかろう。まだまだやるべき仕事はたくさんあるからね。」
どうやら、夢を見ていたらしい。ルドルフは、頭を切り替えて、目の前にある書類の山に再び取りかかっていくのだった。
皆様はじめまして。BuddPioneerと申します。まずはこの作品を手に取ってくださり、ありがとうございます。今回初めてミステリーを執筆しました。シンボリルドルフが主人公のミステリーというかなり個性的な組み合わせには結構苦労しましたが、書いてて楽しかったです。自分があまり手がけないジャンルでしたので、かなり新鮮な経験になりました。最後に、この企画の主催者様、参加者様、そして、この作品を手に取って読んでくださった方々にこの場を借りて御礼申し上げます。