ウマ娘短編合作   作:マーベラスきのこ

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ドキュメンタリーとは? 調査隊はドキュメンタリーの真相を解き明かす為にアマゾンの奥地へと足を運んだ……


そう、彼女達はドキュメンタリー映像を作る事を強制されているんだ! 作:@飼い猫

 異次元の逃亡者、サイレンススズカ。

 その驚異的な速度は他者の追随を許さず、大逃げからの二の脚は他ウマ娘に絶望を振り撒いた。

 逃げ戦法の第一人者である彼女にも不遇な時期はあった。白い稲妻と呼ばれたタマモクロスがそうであったようにクラシック時代の彼女は圧倒的と呼べるほど強いウマ娘ではなかった。まだ芦毛のウマ娘は走らないと言われていた時期、苦渋を舐めて、泥水を啜り、真っ白な髪を真っ黒に汚して走り続けたからこそ今日まで語り継がれる彼女がある

 では彼女、サイレンススズカは如何なるウマ娘であったのか。

 今回は、まだ幼さが残る頃の一側面に触れていきたい。

 

 時は3月第1週目。中山レース場、弥生賞。

 メイクデビュー戦で2着と7バ身差を付ける大激走を披露した翌月、2戦目のレースの事である。2戦目で皐月賞トライアルレースに出走させる暴挙に対して、当時、彼女が所属していたチームリギルの人生は「すべて素質だけで克服できる」と自信に満ち溢れたコメントを残している。事実、当時からサイレンススズカの評判は高く、メイクデビュー戦しか走っていないにも関わらず、2番人気と指示されていた。

 当時、どのような心境で(ターフ)に立っていたのか。その答えを訊く為、当時者に脚を運んで貰った。

 

「……ねえスペちゃん、どうしてあえての弥生賞なの?」

 

 もっと訊くべきことがあるんじゃないかしら? とサイレンススズカは同席していたルームメイトのディレクターを半目で睨みつけたが、ディレクターはそそくさと舞台裏に逃げ隠れてしまった。そんなルームメイトの姿にサイレンススズカは溜息をひとつ零し、冷や汗を流すツインテイルのインタビュアーに告げる。

 

「あの時は、まだ私も若かった……初めての大舞台で舞い上がってしまったのでしょう……」

 

 そう語る彼女の横顔は、何処か虚空を眺めていた。

 

 控えていたウオッカが部屋の電気を落とす、松田優作のコスプレをしたトウカイテイオーがホームプロジェクターを起動する。

 真っ白の壁に映し出されるのは弥生賞。クラシック3冠のひとつ、皐月賞のトライアルレース。14名ものウマ娘が出走する中にサイレンススズカの顔もあった。胸につけたゼッケンは5枠8番とまずまずの位置に収まっている。

 ゲート前、ファンファーレが鳴り響いた。係員がゲートから離れる。それに続いて、サイレンススズカもゲート下を潜り抜けてしまった。ざわめく場内、慌ててゲートに駆け戻る係員。そして、まだ幼さが残る顔付きで、おどおどと周囲を窺うサイレンススズカの姿が鮮明に映し出された。

 この後、ゲートには収まるもスタートで10バ身以上も出遅れる大失態をやらかす事になった。

 

 そこで映像は止まる。

 ああっ、と名残惜しそうな声を零すスペDを無視して、ダイワスカーレットが足を組み直してサイレンススズカに向き直る。

 その横でゴールドシップが、そっとカツ丼をサイレンススズカの前に置いた。

 

「異次元の逃亡者と呼ばれて、孤高を自負し、高嶺の花と称される貴女が、どうして、このような失態をやらかしたのでしょうか?」

 

 問いかけるダイワスカーレット、興味津々に耳を立てるスペD。

 脚立付きの家庭用ビデオカメラに見守られる中、サイレンススズカは静かに割り箸を手に取り、何かから逃れるようにカツ丼をかっ喰らった。この行動にはチームスペカの面々も動揺を隠せず、「パクパクですわ!?」とメジロ家のお嬢様が声を上げる。

 そして、ドンと机に叩きつけられた丼には米一粒も残っていなかった。

 お粗末様でした、と告げるサイレンススズカ。その余りにも良い食いっぷりに一同が呆気に取られる中、サイレンススズカの前に新たに用意されるのは出来立ての天丼だった。捻り鉢巻を頭に巻いたゴールドシップが得意顔を見せる。

 サイレンススズカは、溜息をひとつ零した後、椅子を蹴飛ばしてチームスピカのプレハブ小屋から飛び出した。

 

 突然の事に、呆然とすること数秒、「逃げちゃったよ!?」というトウカイテイオーの言葉にチームスピカの面々はサイレンススズカの後を慌てて追いかけた。しかし、この時点で既に10バ身以上の差が付いている。コンセントレーションから急ぎ足に前途洋々、逃亡者。キュインキュインとスキルを発動して、先頭の景色は譲らない……! と更に後続との距離を二の脚で突き放した。

 

 これが異次元の逃亡者、これが日本ウマ娘史上最強の逃げウマ娘。まるでエルコンドルパサーの悲鳴が聞こえてくるかのようだ。

 完全に見失った。日本総大将は膝を崩して、四つん這いに項垂れる。もう駄目だ、おしまいだ。と世界に喧嘩を売った時の勇ましさは形を潜めてしまった。

 

 事の始まりは、我らがチームスピカのトレーナーがいつもの様にジャンケンに負けて、面倒な企画を請け負ってきた為だ。

 それはURAの収支を伸ばす為、もっとウマ娘の事を周知して貰う為、広報になるような映像を撮ってきて欲しいという話だった。なんと突発的な話なのだろうか、とスペシャルウィークは思った。しかし去年もまた似たような企画がチームリギルの手によって行なわれており、JWCという御題目で流された仮装レース大会は大人気を博している。そう、博してしまったのだ。ユーモアが足りない、と言われた東条ハナが酒を呷った勢いで決めた企画である。そのおかげで今年もまた同じ企画を続けることをURAの上層部が決定し、ジャンケンに負けたチームスピカが映像制作の担当となった。

 ディレクターに抜粋されたスペシャルウィークは、大いに頭を抱える事になる。

 

 いや、別に映像を作るだけならネタはあったのだ。

 夢の第11レースとか云って、サイレンススズカを筆頭に8枠18番まで有名なウマ娘の名前を並べて、実際にゲートインまでするとかやりようはあったのだ。

 しかし彼女達が作るジャンルはもう既に決められている。

 プレハブ小屋まで脚を運んだ理事長の秋川やよいは、近場にいたスペシャルウィークにクジを引かせたのだ。

 四つ折りに畳まれた紙には、達筆な文字でドキュメンタリーと書かれていた。

 

 そう、彼女達はドキュメンタリー映像を作る事を強制されているんだ!

 

 ディレクターに抜粋されたスペシャルウィークはサイレンススズカのドキュメンタリー映像を作る事を即決した。

 しかし彼女ほどのウマ娘ともなれば、ドキュメンタリーの一つや二つは既に作られている。宝塚記念や毎日王冠なんて、みんな親の顔よりも視聴しているに違いない。既にあるものを作っても意味はない、もっと私だからこそできる事があるはずだ。そんな傍迷惑なプロ意識を発揮したスペシャルウィークは、あの弥生賞を主題に置く事を思い付いた。それはもっとみんなにサイレンススズカの事を知って欲しい。レースで格好良いだけが全てじゃない、こんな可愛い一面もあるんだよ。と、そんな善意からの想いであった。

 その企画を聞いた時、サイレンスズスカは「嘘でしょ」と短く零したと云う。

 

 そして今に至る。

 サイレンススズカは逃げ出した。持てるスキルをフル活用して、全身全霊で逃げ出してしまったのだ。

 そんな容赦の欠片も見せない大先輩の鬼の逃げ足にスペシャルウィークは絶望する。

 そこまで嫌ですか、と項垂れる。

 このままではドキュメンタリー映像も作れないじゃないですか、と地面を叩いて嘆いた。

 

「いいや、まだだぜ。スペ」

 

 そんなスペシャルウィークの心境を察してか、もしくはただ単に面白がっているだけか。黙っていれば美人のゴールドシップが、スペシャルウィークを慰めるように口を開いた。

 

「ドキュメンタリー映像を制作するアタシ達のドキュメンタリーを作れば良いんだ!」

 

 アタシ達の戦いはこれからだ! と、そう宣言したのである。

 

 

 チームスピカ用プレハブ小屋、改め作戦本部。

 中央の机に広げられた校内地図をメジロマックイーンが紅茶を片手に睨みつける。

 校内に散らばったチームスピカをまとめるのが彼女の役割である。

 

 スマートフォンから目撃情報が入る度に、校内地図に押しピンで印を付ける。

 次の目撃情報があれば、押しピンと押しピンを紐で繋いだ。そうしてサイレンススズカの逃走の傾向を読み解き、逃走経路の割り出しに尽力する。此処にはサイレンススズカの捕獲に一日を無駄にする覚悟を決めた猛者が居た。安楽椅子探偵を気取り、優雅に紅茶を嗜んで、ジャムを塗ったスコーンを頬張る。

 ダイワスカーレットとウオッカは競い合うように校内を駆けずり回っている。

 スペシャルウィークもまた、私が一番スズカさんのことがわかっています! と意気揚々と駆け出しており、トウカイテイオーはなんだか面白くなってきた! という理由だけでチームスピカの茶番に付き合っている。ゴールドシップは、アイツも腹を空かせるだろうからな、と鰻の蒲焼きの修行に出向いてしまった。

 とはいえサイレンススズカの目撃情報はあっても捕まえるまでには至らない。

 

 鬼の逃げ脚を見せるサイレンススズカに誰も追いつけないのだ。

 一対一では、埒がない。そう考えたメジロマックイーンはチョコレートクッキーを齧り、スマートフォンに手を伸ばした。

 あの子なら必ず、捕まえる事もできる。と信じてのことだ。

 

 

 あれは食堂で大盛りの白米を食べている時でした。

 ブルボンさんと肩を並べて仲良く食べているとトレーナーに買って貰ったスマートフォンが鳴ったんです。

 慌てて手に取るとマックイーンさんからの電話でした。何時もなら新作のスイーツやケーキバイキングのお誘いだったりするのですが、その日は何時もに増して真剣味のある声でした。

 そうです、貴女の力が貸して欲しい。と確かに言われました。

 ライスはね。あんまり他人に頼られる事がないから……嬉しくて、私にできる事なら、と返したんだよ。

 それがまさか、サイレンススズカさんを捕獲する為とは思わなかったんです。

 

 

 昼飯時、サイレンススズカが食堂付近で発見される。

 その報告をメジロマックイーンが受け取った時、ミホノブルボンは駆け出していた。同じ逃げウマ娘、最初から最後まで均一のタイムで走りきる事を理想としたラップ走法を武器にサイレンススズカへと飛び掛かった。その異変に気付いたサイレンススズカも背を向けて、一目散に逃げ出す。

 歴代最高峰の逃げウマ娘同士の対決。しかしミホノブルボンはラップ走法によって、距離の壁を克服したウマ娘である。

 サイレンススズカの逃げ脚にペースの理念はない。行けるから行く、走れるから走る。そもそもだ、サイレンススズカにとって逃げは逃げに在らず、その圧倒的なスピードを抑え込む方が体力の消耗が激しい為に彼女はかっ飛ばすのだ。

 ミホノブルボンは、サイレンススズカの捕獲という任務を達成する為にペースを上げざる得ない状況に追い込まれて、そして体力の限界は彼女の予想以上に早い段階で訪れてしまった。

 息を切らすミホノブルボンの姿に、サイレンススズカは安堵の息を零す。

 しかし、まだ追跡は終わっていない事を直ぐに知る。

 

 失速するミホノブルボンの背後から黒い影、紫色の瞳に青色の炎を灯す。

 黒い刺客が追走する。ミホノブルボンを風除けに、じっと身を潜めて、懐に潜めたナイフで一差しする為に黒鹿毛の少女はサイレンススズカの背後にピッタリと付ける。

 追跡者ライスシャワーが、標的に狙いを定めた。

 トウカイテイオーの次世代クラシック最強の二人が手を取り合った懸命の追跡、しかし、それでも届かないのがサイレンススズカ。世界に羽ばたく怪鳥エルコンドルパサーが影を踏めなかった。その脚は他者の追随を許さない、それ故に彼女は異次元の逃亡者と呼ばれるのだ。

 先頭の景色は譲らない……! とスキル増し増しで後輩二人を突き放す。

 

 脚を止めるライスシャワー、その瞳は小さくなる背中を見つめていた。

 

「すみません、私がもう少し先まで貴女を送り出すことができれば良かったのですが……」

 

 少し遅れて肩で息をするミホノブルボンが追いついた。

 もう誰もいない廊下の先を、茫然と見つめ続けるライスシャワーの姿にミホノブルボンは首を傾げる。

 どうしたのだろうか、疑問を解消する為に声を掛けようとした時、ライスシャワーが言葉を発した。

 

「凄いね、スズカさん……私、絶対に追いつくよ……!」

 

 それを聞いたミホノブルボンは、しみじみと菊花賞の事を思い返すのだった。

 

 

 サイレンスズカ、その脅威の逃げっぷりにスペシャルウィークとトウカイテイオーのコンビは真正面から挑んで敗北した。

 悔しさに地団駄を踏んだトウカイテイオーは、スマートフォンを弄って師匠と敬愛するウマ娘に応援を要請した。スペシャルウィークもまた親友であり、好敵手のグラスワンダーに連絡を取る。青髪のツインテイルのウマ娘は、すぐ側にいたチームメイトと協力して事に当たることになった。グラスワンダーは隣にいたエルコンドルパサーが「毎日王冠のリベンジデース!」と妙に張り切ったせいで巻き込まれることになった。噂を聞きつけたヒシアマゾンがサイレンススズカにタイマンを挑むワンシーンがあり、マチカネフクキタルが持ち前の占いでサイレンススズカの大まかな位置を言い当てる。

 このトレセン学園全体を巻き込む騒動にサクラバクシンオーが鎮圧の為に騒ぎ立てた。

 

 最早、事ここに極まっては傍観による事態の鎮静は不可能である。

 生徒会室。生徒会の錚々たる面子が揃えられた室内にて、生徒会長のシンボリルドルフは重い腰を上げる。

 全員、とっ捕まえるぞ。と静かで重い言葉に全員が慌ただしく動き出した。

 

 副会長のエアグルーヴは、古豪達と連絡を取って事態鎮圧の為の特別チームを編成に動き出した。

 ナリタブライアンは、姉のビワハヤヒデと連絡を取り、人手を集めるように頼み込んだ。フジキセキは個人的繋がりからマルゼンスキーとテイエムオペラオーと連携を取って事に当たる。

 風紀委員のバンブーメモリーは、捕縛許可が出た事に獰猛な笑みを浮かべてみせた。

 

 余談になるが、この時、理事長の秋川やよいはURAとの打ち合わせの為に学園を留守にしていた。

 駿川たづなもまた理事長に付き従って、学園内には居なかった。こうしてチームスピカが発端となった騒動は、誰も制御する者が居ないまま規模を膨らませて、学園全体を巻き込んだ追って追われての壮大な鬼ごっこへと発展してしまった。

 程なくしてチームスピカのプレハブ小屋にて拘束されたメジロマックイーンは以下の供述を残している。

 

 まさか、こんな事になるなんて……、と。

 

 

 孤高の逃亡者、サイレンススズカは連戦連勝の戦績を残している。

 スペシャルウィークとトウカイテイオーを負かした後、サクラバクシンオーを距離1400メートルを超えた距離で千切る。「これが諦めないって事だ!」と叫ぶチームカノープスの先鋒ツインターボは早々にバテて敗北し、ナイスネイチャとイクノディクタスの追走からのマチカネタンホイザの待ち伏せ作戦には、廊下の窓から外に飛び出す事で回避した。三女神の彫像の上でサイレンススズカを待ち受けていたエルコンドルパサーはエアグルーヴによって御用となり、事のついでにとグラスワンダーもテイエムオペラオーの手に落ちる。

 そして、この騒動の鎮圧において、最も活躍をしたのはタマモクロス、オグリキャップ、スーパークリーク。の平成三強チームであった。タマモクロスが焼いたたこ焼きはスペシャルウィークを捉えて、オグリキャップはチームカノープスを相手に無双の活躍を見せた。トウカイテイオーはスーパークリークの拘束を受けており、現在、戦意喪失中だ。ついでに今回も平成三強の一人に加えて貰えなかったイナリワンも戦意喪失中だ。騒動後、タマモクロスにメンタルケアを受けた。

 本気を出した生徒会は最早、誰にも止めることはできなかった。

 

 しかし生徒会を持ってしても、チームスピカが総力を上げても止まらないウマ娘がいる。

 異次元の逃亡者サイレンススズカは、次々と脱落する中で一人、逃げ延びている。定期的に出没する黒き刺客を退け、ミホノブルボンの計算をも上回る。屋上でヒシアマゾンがBWT+ナリタブライアンに取り囲まれる窮地に陥っている中、遂にサイレンススズカは、皇帝シンボリルドルフと会偶する。

 校内の廊下にて、皇帝の両手には首根っこを掴まれたライスシャワーとミホノブルボンの姿があった。

 

「ごめんね、ブルボンちゃん。もうちょっと追いかけっこしたかったな…」

「異次元の逃亡者サイレンススズカのデータは充分に収集できました。この情報を次のレースに活かしたいと思います」

「……貴様ら、反省する素振りくらいは見せたらどうだ?」

 

 二人は風紀委員のバンブーメモリーへと引き渡され、無手になったシンボリルドルフは目の前の逃亡者を睨みつける。

 

「よくも好き勝手してくれたものだな、サイレンススズカ」

「……事情があって、止む終えずよ」

「話は拘束した後でゆっくりと聞いてやる」

 

 絶対に捕まる訳にはいかないサイレンススズカ、学校の秩序の為に鉄の意志を発揮するシンボリルドルフ。

 トレセン学園のウマ娘で最高峰に位置する二人が騒動に決着を付ける為に爆走する。ただの追いかけっこ、ただの鬼ごっこ。しかし勝負の根幹が走りである以上、ウマ娘である彼女達が燃え上がらないはずがなかった。

 それは屋上で取り囲まれているヒシアマゾンもそうだ。

 

「…………ぶっ倒してやる」

 

 タイマンに持ち込めなくなったヒシアマゾンは不本意ながら覚悟を決める。

 姿勢を低く保って、長い前髪で視線を隠す。右にも、左にも、前にも、咄嗟に動ける重心を意識する。彼女は戦う女戦士ヒシアマゾンだ。その気性故にタイマンを望む傾向にあるが、追い込みを得意とする脚質はバ群全てを相手にするのに適している。

 そうだ、彼女は何時だって、その末脚で並みいるウマ娘をぶっちぎってきた。

 横から飛び出すウイニングチケットに合わせた急加速、ナリタタイシンは反応に遅れて、咄嗟に伸ばしたビワハヤヒデの手は届かず、二人の間を潜り抜けた。これがティアラ路線において、最強の一角と謳われたヒシアマゾンの末脚である!

 しかし、彼女の潜り抜けた先に待ち構える一人のウマ娘。そう三冠ウマ娘の一人――――

 

「何時の間に……ッ!?」

「ふん、流石に4人が相手ともなれば、読みやすいな……!」

 

 ――ナリタブライアンが完全に進路を塞いだ。

 

 この時点で逃亡者は一人、サイレンススズカのみとなる。

 

 辛うじてシンボリルドルフの追撃を振り切ったサイレンスズカは校庭に赴いていた。

 やはり皇帝が相手とあっては、無事とはいかなかったようで息絶え絶えの満身創痍の姿となっていた。

 ベンチに腰を下ろして、呼吸を整える。

 どうして逃げているのか。酸欠では思考もまとまらず、記憶も定かではなくなってきていた。

 もはや本能だけで逃げ続けてる状況だ。

 

「あーれれー? スズカさん、どうしたの?」

 

 そんな孤高の逃亡者に話しかけるのは桃色の髪をした少女、元気爛漫娘のハルウララであった。

 ちょっと待ってて、と彼女は近場の自販機まで駆け寄った。サイレンススズカはその場から離れようとしなかった、彼女の逃亡者としての本能がハルウララを脅威を感じていなかった。

 少しでも体力を取り戻す為、回復に専念する。

 スポーツドリンクを片手に持ったハルウララがとたとたと戻って来て、サイレンススズカに差し出した。

 ありがとう。とサイレンススズカが受け取り、その手首をハルウララが掴み取る。

 

「ごめんね?」

 

 罰が悪そうにはにかむハルウララ、そして校庭に設置された花壇と噴水の中からキングヘイローを始めとしたウマ娘が飛び出した。

 

「最後に勝つのは、やはりキング! 讃えなさい、崇めなさい! そして、やっておしまいなさい!!」

 

 サイレンススズカは咄嗟に逃げ出そうとしたが、手首を握るハルウララの手を外せない。

 パワーなら少しだけ自信あるんだよ。と笑みを浮かべるハルウララ。満身創痍の体では振り切れず、そのままキングヘイローと取り巻き達の手に落ちた。

 最強を倒すのは最弱、ハルウララは見事、サイレンススズカを差し切ったのである。

 欺いた、とも云える。

 

 

 本騒動において、サイレンススズカと接触した者はみんな似たような言葉を残している。

 異次元の逃亡者という二つ名は、伊達ではなかった。と。

 しかし本騒動において、どうしてサイレンススズカは頑なに逃げ続けたのか。

 その答えはチームリギルのトレーナー東条ハナが持っていた。

 

「あの子、人見知りだけど、人一倍に寂しがり屋でもあるのよね。重賞の中でも特に注目を浴びたレースだったから孤独感に苛まれたんじゃないかしら?」

 

 以上を以て、本騒動にレポートの執筆を終える。

 著、ゴールドシップ。協力、トレセン学園に所属するたくさんのウマ娘。

 

「お待ちなさい!」

 

 ゴルシちゃん秘密のサボりスポットのひとつである空き教室にメジロ家のお嬢様が扉を開け放って入り込んできた。

 ゴルシちゃんの机の上にはハイスペックPCにデュアルモニターが接続されており、画面には動画編集ソフトが起動されている。撮影にはアグネスデジタルの他にエイシャガールといったウマ娘が協力してくれた。前者はウマ娘の映像を手に入れる口実の為、後者は走りの参考資料を手に入れる為、そしてゴールドシップはチームスピカに与えられた任務を達成する為の三国同盟である。

 

「どうして貴女だけ逃げおおせているのですか! 納得いきませんわ!」

「いや、それよりもおめえ今、折檻中じゃないのか?」

「貴女の姿が見えませんので逃げ出して来たんですよ!」

「……随分と刺激的なことをしてるじゃねえーか」

「さあ、貴女も生徒会に突き出してやりますから覚悟なさい!」

「いや、今、帰ったらお前も説教を受けるんだろ!? もう一緒に逃げようぜ!」

「死なば諸共ですわーっ!!」

 

 こうして悪は身内の裏切りによって根絶されることになった。

 しかし世の中にメジロ家がある限り、第二第三のゴールドシップが生まれることは確約されているのだ。

 ドリームジャーニーとか、オルフェーヴルとか。ナカヤマフェスタは許されました。

 

 

 

 後日談。

 ゴールドシップが編集した映像はチームスピカのトレーナーの手によって、理事長の秋川やよいに提出された。

 それを観た理事長は扇子を開いて、爽やかな笑顔でこう告げたと云う。

 

「却下ッ! 学園の恥を外部に晒すつもりかッ!!」

 

 こうしてドキュメンタリー映像の作製は頓挫し、次点であった夢の第11レースの撮影に入ることになった。

 これはそう第一期アニメ最終話の前日譚(ドキュメンタリー)だったのかも知れない。

 神の味噌汁。




普段とはまた違うものが書きたくなって参加させて貰いました。企画主様、参加者様。そして、これを読んでくださった読者の皆様方、ありがとうございました。
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