ウマ娘、チョクセンバンチョー!   作:狐の行商人

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第十三走:ピッチ走法とマブの教え

チョクセンバンチョー視点

 

日本ダービーが迫る皐月の頃、晴天に恵まれたグラウンドに併設された観覧席には多くのウマ娘が集まりタイキシャトル先輩とスぺ姉ちゃんの模擬レースの開始を今か今かと待ち構えている

私等カノープスメンバーも前側の位置を確保して見学準備を万端整えて始まるのを待つ

あ、それとこの模擬レースに参加する当の本人達は既にジャージ服を着てウッドチップレース場にて準備運動を行ってるが、こうして見ても結構緊張してるスぺ姉ちゃんと慣れた感じのタイキシャトル先輩の雰囲気から既にスぺ姉ちゃんの負けが濃厚と見る面々も多いみたいに感じる

そりゃあ今回のレースの距離が短距離で、しかもレース経験値や今まで積み重ねてきた練習時間の差等があるしまぁ勝ち目は薄いだろうが・・・それでもやるからには理由は当然ある訳なんだろうな

 

「ねえトレーナー?スぺシャルウィーク先輩、タイキシャトル先輩に勝てると思う?」

「正直に言わせて貰えば勝ち目は薄いでしょうね、中距離や長距離を得手としているスペシャルウィークさんが短距離に強いタイキシャトルに挑んで行く訳ですし・・・それにレース経験の差、今まで積み重ねてきた練習量、それによって鍛え上げられてきた身体能力、どれを取っても厳しいかと」

「やっぱりそうだよねぇ~」

「ん?じゃあ何でスピカのトレーナーは勝負を挑ませたんだトレーナー?」

「強くなる為、だろうな」

「バンチョー、どういう事なんだ~?」

「ん~、そうだなぁ・・・ターボは私と一緒に練習してる時と一人で練習してる時どっちが楽しい?」

「それはバンチョーと一緒の時だな!だって後ろから追い掛けて来るバンチョーから逃げるの楽しいもん!」

「そうだな、私もターボと練習する時は楽しいぞ?スピードに乗って逃げに逃げるお前を追い掛けるのは楽しいし燃えるモンがある。それと同じでな、誰かと練習する時ってのは大体一人でやる時よりか楽しいし競う相手が居る分負けるかー!って思えて気合入るだろ?」

「うんうん、それは凄く分かるぞ!ネイチャがじりじり追い掛けて来るのから逃げるのも負けないぞー!って思って速く走れる気がするし!」

「チーム内でそれなんだ、重賞レースでも勝ちまくる格上のタイキシャトル先輩とのレース、ターボだってやってみたいし何処まで速く走れるか・・・競ってみたくないか?」

「何それ凄く楽しそう!ねえねえトレーナー、ターボも模擬レースに混ざって来てもいい?」

「駄目ですよ。それとバンチョーさん、貴女もターボさんを煽らないでくださいね」

「ちぇ~」

「なはは、スマンスマン・・・でだ、勝ち目が薄かろうと相手は重賞でも勝ち続ける最強チームリギルの主力の1人だ、例え負けたとしても学ぶ事や得られるモンも多いだろうからやらせるって感じなんだろトレーナー?」

「ええ、恐らくそういった所だと思います。沖野さんもスペシャルウィークさんに学ばせたい何かがこのレース中にあるんでしょう。ですので、ターボさん達もしっかり見て学んでおいてくださいね?こうして先輩方の技術を盗んで自分のものにするのも練習ですから」

「うん!」

「了解ですよ~」

「ああ」

 

南坂トレーナーの言葉にそう頷きながらレース場に視線を向ける

数多く居るリギルの精強な諸先輩方の中からわざわざタイキシャトル先輩を指名して模擬レースを持ちかけたんだ、その理由が何かある筈なんだよな

それが何なのかをしっかり見極めねぇとな・・・お、スぺ姉ちゃんもタイキシャトル先輩もエアグルーヴ先輩の前に並んだしそろそろ開始か

 

そして始まったレースの序盤、やはりタイキシャトル先輩の方が立ち上がりが上手い

1バ身程度の差を付けスぺ姉ちゃんの前を先行しているが・・・お、後ろにピッタリついたか、いい位置取れたな

 

「スリップストリームを使ってるな、スぺ姉ちゃんが意識してかしてないのかは流石に分かんねーけど」

「すりっぷすとりぃむ?」

「ああ、逃げ策のターボにはあんま印象にねえし使わんモンだわな。ネイチャや私は使える時は使うが」

「そうだね・・・スリップストリームはね、前を走るウマ娘の背中にぴったりつけて空気抵抗を受けないようにして体力を温存したりするテクニックだよターボ」

「へー、そんなのがあるんだ」

「ただ、今回のようにタイキシャトルさんがスペシャルウィークさんより体格が良いから出来る事であって、バンチョーさんがターボさんの後ろにああして寄せた場合は障害になってしまうものですね」

「顔に普段よか強めに風が当たったりするようになっちまうんだよな」

 

しかしこれだけじゃあ勝てる確率が少し上がった程度だ

こんだけで勝てる訳じゃあ無いし、もうじき上り坂だからここでまた引き離されるだろう

現に坂に入った瞬間、タイキシャトル先輩は加速してスぺ姉ちゃんが置いてかれている

軽快なリズムでぐんぐん引き離しにかかって・・・ん?あれ・・・?

 

「トレーナー、タイキシャトル先輩の走り方、っつーか足踏むタイミングが変わってねえか・・・?」

「はいバンチョーさん、その通りです。あれはピッチ走法と言われるもので、歩幅を狭く小さく走る事で坂でも推進力を得られる走法ですね」

「んー?・・・あ、ホントださっきよりも踏み締めるタイミングが速くなってる」

「そうなのか?ターボにはよく分かんないぞ?」

「しかし成程、そういう事でしたか・・・これを沖野さんはスペシャルウィークさんに教えたかったんですね、坂を上る際にこの走法が出来るか否かで大分変りますし」

「そうみたい・・・あ、スペシャルウィーク先輩も同じ走法で追い上げ始めたみたいですし距離が縮まってる」

 

それを模倣し始めたスぺ姉ちゃんがタイキシャトル先輩にまた迫って接戦を繰り広げていくが、それよりも今私は2人の走りに注目していた

 

(あの走り方、何かどっかで誰かに教わったような気がするんだよなぁ・・・誰だ?何時だっけ?んー、分かんねぇからもうちっと良く見ねぇとな)

 

私が少し考え事をしてる間にもレースは進み既に終盤に迫っていた

坂を上り切る直前、スぺ姉ちゃんが並びかけており登り切る頃には半馬身或いはそれよりも差が縮まり、そしてそのまま2人はゴール役のヒシアマの姉さんの後ろを通り抜けていく

勝ったのは僅差でタイキシャトル先輩の様に見えたが、殆ど差が無い程の接戦で幕を閉じた為、観客から大歓声が上がる

ネイチャやターボの奴も観客席の前をウイニングランしているタイキシャトル先輩に歓声をあげていやがらぁ

 

「いい勝負、でしたねバンチョーさん」

「ああ、G1でも勝ってるタイキシャトル先輩相手にあそこまで大接戦出来たんだ。スぺ姉ちゃんは元より私達が学べる事もあったし、スぺ姉ちゃんも今後の自信に繋がるだろうな」

「バンチョーさんは何か得る物はありましたか?」

「あった、と思う。上手く言葉に出来ねぇから申し訳ねぇんだけど、何かが掴めそうだわ」

「そうですか・・・僕に手伝える事なら何時でも相談に乗りますよ?バンチョーさんがそれを形にしたいと言うなら全力で協力しますし、指導させて貰います。それが、僕の仕事ですから」

「・・・トレーナー、ここでその台詞はズルくねぇか?」

「さて、何の事でしょう?僕は嘘は言っていませんから」

「そういうトコだよ、ホント」

「アハハ・・・」

 

私のジト目での抗議ににすっとぼけるような微笑みで返してきやがったわこのトレーナー、そういうのはズルくねぇか?

確かにそういう口説き文句をスカウトん時に言われたが、ここでそれもういっぺん言うとか狙ってやっただろ全く・・・ま、有難く頼らせて貰いますか

 

「ピッチ走法のやり方、もうちっと詳しく教えてくれねぇか?何か見出せそうなんだわ」

「はい、僕で良ければお教えしますね」

「何言ってんだよ、アンタ以外にこういう事で頼れそうな人なんて中々居ねぇからな?・・・スマンけどよろしく頼むわ」

「勿論ですよ」

 

 

 

「・・・以上がピッチ走法に関する基本的な注意事項と習得方法になりますが、どうですか?モノになりそうでしょうか?」

「どぉだろうな、後は走ってみねぇと分らんからな、トレーナーちいと見ててくれるか?」

「分かりました、何かあれば助言を入れますから難しく考えずに少しずつこなしてみてください。此処で見ていますので」

「おうよ」

 

スぺ姉ちゃんとタイキシャトル先輩の模擬レースから数日後、うちのチームがグラウンドを使える時にトレーナーにピッチ走法について更に具体的な説明と習得の為のポイントを聞き出した

この前の模擬レースの後、ピッチ走法に関してどうにも喉に小魚の骨が引っかかったような感覚が残り続けていた為だ

ただ、南坂トレーナーに諸々深く聞いてみても私を納得させてくれる様な明確な情報は得られず仕舞いになったままである

仕方ないので実際に走ってみれば何かきっと掴めるだろ、うん!という如何にも脳筋的な思考でグラウンドに立ち、タイミングを見てスタートを切る

膝と後ろ脚、股関節の動きを意識して短い間隔で、だったな。こういう感じか?という意識で暫く走ってみたが、んー何か足りねぇ気がするなぁ?

 

「んあー、何だろなぁなぁーんか足りねぇ気がするぜ」

「はぁはぁ、はぁ~・・・んあ?バンチョー何してるんだ?」

 

途中で減速して立ち止まり、頭を掻いたまま少し歩いていたらスタートダッシュの練習をしていたターボが声を掛けて来た

丁度良い、普段走り方とかにあんま気ぃ使ってなかったのを試行錯誤してるから割と小難しく考え過ぎてるのかもしれんし、物事を素直に捉えるターボにも意見聞いてみるか?案外何か私にも分らん事に気付けるかもしれんし・・・

 

「ターボか、いやなピッチ走法の練習だよ」

「ピッチ走法、ってこの前のスペちゃんとタイキシャトルがやってたレースの奴での走り方か!」

「そうそう、アレを私も使える様になりてぇな、って思って練習してんだがなぁんか足りねぇ気がしてな~・・・あ、そうだターボは何が足りねぇと思う?」

「ん~?ターボにはそういう難しい事は良く分かんないぞ?」

「そうかぁ・・・まぁ、そんな簡単にヒントなんて無いわな」

「あ、でもさ。あの走り方何かに似てるよな!えーと、何だろ、こう~・・・あ、そうだ!自転車だ!」

「自転車?」

「そう!自転車!ターボね、あの走り方見てたら何かこう、動き方が自転車のペダルを踏んでる時みたいな感じに見えたぞ!マウンテンバイクとかそういうのに乗ってる人みたいな動き!」

「バイク・・・あっ」

 

 

 

『いいかバンチョー!回転だ!関節部分を中心にバイクのタイヤと同じようにブン回すんだ!タイヤの部分は一定の間隔で地面に付いて走ってる!オメーの膝と脚の動きも、股関節を中心に同じ間隔で地面を足裏で掴む様に走れ!そうすりゃお前はギンシャリにも負けねぇパワーと根性でタイマン張れる!俺が考えたこの走り方を覚えてテッペン、掴みに行くぞぉ!!』

 

 

 

ターボの言葉を受けて思い出したのは紫色の特攻服を着たかつてのマブ、反町キメジにタッグを組んだ時教え込まれたアイツなりの走りの神髄、その最初の教えであった

はは・・・お前と最後に別れて十数年、このインストラクションを受けたのなんて三十年以上も前の話だからすっかり忘れてたぜ

こんな事お前の前で言ったらまぁたあの拳で殴られちまうな、アイツの拳効くんだよなぁ体重差数倍あるのにメッチャ痛かったしよ

 

「サンキューターボ!お前に聞いて良かったぜ、お蔭でしっくり来そうだ!」

「そうか!バンチョーの助けになれたみたいでターボも嬉しいぞ!」

「ホント助かったぜ、今度美味いデザート作ってやるから楽しみにしてな!」

 

ホントに!?やったー!と喜びの余り飛び跳ねているターボから南坂トレーナーへと視線を向ける

 

「トレーナー!ちぃとタイム計測してくれ、こっからアンタの前まで走る!で、距離はどんぐらいありそうだ!?」

「待ってくださいね・・・おおよそ1400m程度です!スタートの合図は僕がしますから思いっきりどうぞ!」

「ありがとよ!んじゃ頼む!」

「では・・・スタート!」

 

 

 

 

 

その日、私は漸く自分の走り方を開眼させる事が出来た

馬として走り続けた俺から、ウマ娘として走り続ける私へと

4本脚の直線番長から、2本脚のチョクセンバンチョーへとやっと全てのバトンが繋がったのだ

『1:24.6』・・・これが、その日南坂トレーナーのストップウォッチに記録された、現時点での私のベストタイムである

―――――――――

チョクセンバンチョー

 

実はスぺちゃんと同じく今まで地に足が付いた様なしっかりとした走り方が出来ていなかった(お母ちゃんズが教えていたのはあくまでも基礎のみ)

スぺちゃんとタイキシャトルの戦いを見て、そして南坂トレーナーに教えを請い、キメジの言葉を思い出す事で基本の形が出来上がった

中々思い出せなかったのは元が馬であり、4足歩行と2足歩行が別物過ぎた為である(体の構造が全然違うし現役時代が相当昔であったのもある)

 

 

 

スペシャルウィーク&タイキシャトル

 

この二人のレースがバンチョーにとっては割と重要だった

ピッチ走法の走り方の重要なポイントとして『股関節を中心にペダルを漕ぐような動きをする』というものがあったので採用

実に楽しそうに走るスぺちゃんが印象的、バンチョーもあんな感じの笑顔が出る時が多々ある模様

 

 

 

反川キメジ

 

ご存知元暴走族総長にしてチョクセンバンチョー騎手

自身が公道から学んだ走りの神髄をバンチョーに全て叩き込んだ張本人で、JWC第1回レースにおけるローリング走法も彼の考案であると思われる

毎年バンチョーの命日には墓参りを欠かしていない

1期軸終了後に多少幕間を挟む予定です、あるとすればどれが見たいですか?

  • チームスピカの話
  • チームリギルの話
  • チームカノープスの話
  • チームコールサックの話
  • 生徒会の話
  • 親や他のウマ娘との話
  • JWCの面々の話
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