チョクセンバンチョー視点
ゲートが開き、各バが一斉に走り出す
私も負けじと好スタートを切り前に出て来るであろうスズカ先輩の逃げを追う様に構えていたのだが、これに関しては肩透かしをされる形になってしまった
最初の100mを切るまでに縦長に伸びたバ群の中には彼女の姿は無く、出遅れたのか最後方にて全員の後を追ってくる追い込みに近い展開になっていたからだ
しかし
(・・・成程、そう来たか!)
実況はスズカ先輩が出遅れたか!?と放送してはいるし、大半のレース参加者もそういう認識の元走っている可能性は高い
だが、私から見れば今のスズカ先輩なら逃げ策の次位には打って来る手として序盤は後方からレースを展開していく所謂追込策というのは有り得る選択肢だ
これは以前キメジが私に叩き込んでくれた公道から学んだ走りの神髄にもあった話なのだが、複数人数によるバイクのツーリングを行う時に最も楽な位置は馬で言う追込の位置らしい
理由としては前方の列に付かず離れず追従する事に集中していれば置いて行かれる事は無い上、中段の差しの位置の様に左右に展開しているであろう他のバイカー達との位置関係をあまり考えずに済むからだそうな
しかしこの位置のデメリットとして先頭が見えにくく、徐々に前が加速し列が長く伸びきったり先頭が急に速度を上げたりした場合にどうしても一歩出遅れてしまったり、カーブで大回りをしたり前を走るバイカーを追い抜く際に迂回する距離が伸びたりというものが発生して来るというのがキメジの持論だ
しかし今回スズカ先輩の対抗バとして名前の挙がってた私とサンバイザーは共に逃げ策を打つタイプではないし、大逃げをする様なタイプのウマ娘も参加していないから大丈夫だろう
また、追込策はバ群に囲まれにくく一年以上のブランクによって勘の戻り切っていないであろう逃げをいきなり打つよりも序盤は後方で走って勘を取り戻してくのも悪くは無い、が・・・調子を整えるのは兎も角として問題となるのは『果たしてスズカ先輩に追込策が出来るのかどうか?』である
確かにスズカ先輩のスピカには追込を得意としているゴルシが居るから教われば良いのだが、多少教わったからと言って実際に実戦でやるのとは訳が違うし、追込を仕掛けるタイミングや感覚はそう簡単に掴めるものじゃあないのは私も知っている
けどそれをリスクを承知で勝負を仕掛けたのだから何らかの勝算があるって事だし、さてどっから仕掛けて来るのやら?大体ゴルシの奴を真似て来るならば中盤辺りから動きがある筈だけど
『チョクセンバンチョー、サンバイザー共に先行の位置でいい走りを続けています、今レース2番3番人気ではありますが両者共に実力は本物』
(ふふっ、当然よ)
(じきに中盤だが此処で仕掛けて来るか?スズカ先輩)
仕掛けて来る可能性に備え何時でも追走出来る様に身構えていた私の予想に反し、先頭が中間地点のコーナーへと入るものの未だに加速する気配も無くスズカ先輩は最後方のまま動かないままレースが進んでいく
中盤を過ぎても加速してこないスズカ先輩の様子を実況席でも解説しているが、前を走る私も少し困惑していた
(・・・可笑しい、ゴルシの奴ならこの辺りでスピードを上げて抜きに掛かる筈だ。なのに何故スズカ先輩は動いて来ねぇ?もう直ぐ大欅を越えるぞ、此処で仕掛けねぇなら何時―――ッ!)
中盤を超えても尚スズカ先輩が仕掛けて来ないまま大欅を越え、コーナーを曲がり続ける最中・・・後ろから静かに一陣の風が吹いたかの様な感覚を感じた
それと同時に、ぞわり・・・と背筋が震える
背後から吹いた風を感じた瞬間に想像したのは、日本刀を腰に携え身を僅かに屈め静かにそれを抜き放つ時を待つ居合斬りの名手の姿
手に持つのは、最後の長い直線で他のウマ娘を一刀に切り伏せようとする
(―――――ッ!
そして、そんなイメージを叩きつけられた今になって漸く気付いた
そうだ、後ろに居るのは『ただゴルシの奴から追込を教わったスズカ先輩』じゃねえ・・・!
(ゴールドシップの奴から学んで・・・スピカに行った時の
ぶるり、と体が震える
今の今までずっと脚を溜め、それを解き放つ機会を待ち続けている強敵が後ろに居る
東京競バ場の長い最終直線に入った瞬間に間違いなく仕掛けて来るのはかつて影すら踏めぬと言われた最速の逃げウマ娘
そんな相手が、追込でどれだけ末脚を伸ばしてくるか等というのは今の私じゃあ想像が出来ない
故に、それ対し
『今日は異次元の逃亡者と言われた貴女に挑むつもりでやらせて貰いますんで、どうぞヨロシクお願いします』
『・・・ええ。その挑戦、受けて立つわ』
位置関係は実況席が丁寧に教えてくれた、振り向く必要はない・・・ならばやる事は1つだけだ
勝ち負けなんざ捨てての、全力で当たって砕ける真っ向勝負しかねぇよなぁ!
最終コーナーから最終直線に入った瞬間、私は掛かっていた遠心力をそのままに大外へと斜め方向に流れる様に移動していく
対するサンバイザーの奴は以前埒寄りのまま加速し私との順位を入れ替えながら前へと走り続けていった
(模擬レースの時みたいに大外からあの末脚で一気に逃げ切るつもりね、そうはいかないわよ!)
(この走法はなサンバイザー、斜行すっから毎度毎度大外に居ねぇといけねぇんだ!それに、
大外の大外、斜行走法を走れる位置に収まり前を向いた瞬間に観客席からのどよめきが大きくなる
私が大外に移動したのが原因じゃないのは分かり切っていたし、そしてそのどよめきの直後に会場が大歓声に包まれたから嫌という程に後ろの状況を把握した
間違いなく彼女が、サイレンススズカが目を覚ましたのだ
今まで溜めていた想いも、今まで抱えていた焦りも、今まで思われていた不安や懸念も吹き飛ばすかの如く加速していく彼女の走りに誰もが魅了されながら1人また1人と追い抜かれているのを感じ・・・
(嘘、でしょ・・・速い!)
(凄ぇ!これが、スズカ先輩の本気の走りかよ!)
私もサンバイザーも彼女に並ばれる事無く、両者の間を一直線に通り抜けられた挙句悠然と追い抜かれてしまう
けど、まだだ!まだ
そう意気込み
”それ”を見た私の脚から追い掛けよう、と踏み込む力が僅かに抜ける
かつて日本最強の馬と戦った
かつて世界最高峰の馬達と戦った
かつてそんなヤバい連中とこの競馬場で幾度とも無く死闘を演じ戦ってきた私にとっても、”それ”は明らかに異状で、その異質ながらも綺麗な光景に視界を奪われた・・・そして
『奇跡の大復活を遂げました、サイレンススズカ!終わってみればチョクセンバンチョー、サンバイザー等を相手に圧倒的な勝利でした!タイレコードで完全勝利!!』
観客にスタンディングオベーションで出迎えられ、その歓声に手を振りながら笑顔で応えるスズカ先輩の後ろで・・・結局何とかサンバイザーとは1バ身差で競り勝ち、2着の位置で電光掲示板に表示された自分の名を私は見上げる事となった
「・・・勝てなかった。アンタにも、スズカ先輩にも」
地下バ道にて競バ場でのファンサービスを終えて此方に帰ってくるであろうスズカ先輩を壁に凭れ掛かりながら待ち続けていた私の隣に、荒い足取りでやって来て真似をするかの様に凭れ掛かったサンバイザーが少し間を置いた後にボソリと呟いた
「食堂でアンタに宣戦布告した上にあんだけ大勢の前でサイレンススズカ先輩に挑戦状を叩きつけておいて、結局どっちにも勝てなくて・・・大見得切っておいて、ホントバカみたいよね、私」
私が何も言わずにいれば聞きに徹していると思ったのか、サンバイザーの口からは自虐する様な言葉がぽろりと出て来た
同期の私と憧れの先輩にして強敵であったスズカ先輩に対する闘争心か、或いは自分への視線を奪われかねない事への反発心から来ていただろう敵意かは最早無く不遜な言い方も鳴りを潜めてしまっている様だが・・・やれやれ
「・・・負けた事があるってのは長い目で見れば良い事なんだよサンバイザー、勝ち続ければ自分の問題点や課題が自分にはまるで無い様に見えちまう。お互いスズカ先輩にこうも綺麗に負けちまった事は絶対忘れられねぇ様な出来事だ、これを糧にしてどんだけこれから伸ばせるか、デカくなれるかは私等次第だぜ?」
私は何度ともなくギンシャリに負けちまったが、その度に色々努力したっけなぁ
第一回の頃には差しだけだったのに第二回の頃には先行と差し、第三回にはアイツと同じ脚質自在に僅かな距離ではあるが自分なりのスシウォークまで覚えて挑んだりしたもんだ
たかが1敗されど1敗と馬鹿には出来ねぇもんなんだよな、寧ろここでスズカ先輩に負けたのはとんでもない収穫だったかもしれねぇ、『あんな光景』魅せられちまったしよ
「それに、このレースでスズカ先輩は完全復活したんだ。これからクラシック、シニアを経て今よかもっと成長してもう一度挑もうぜ?」
「・・・そう、ね」
ぐい、と腕でサンバイザーの奴は自分の目元を拭う
何故拭ったのか、なんてぇのは聞かない・・・そいつは野暮だろうしな
顔を拭い、視線を上げて私を見上げて来る彼女の目線はもう落ち込んだ様子ではなかった
「けど、その前にもう一度貴女に挑むわ。私はマイル路線で、貴女に挑むのは大分先になるだろうけど・・・きっと、次は勝ちに行くんだから」
「なはは、上等だ。またいい勝負をしようぜ、サンバイザー」
そろそろスズカ先輩も来るのか地下バ道にスピカやリギルを始めとする面々が集まり始める前で、レース前の様にお互い右拳を握り締め、コツンと合わせて私等は再戦の約束を誓った
其処から更に暫くしてやって来たスズカ先輩に再戦の約束を言い残して、サンバイザーの奴は一足先にウィニングライブの場へと向かって行った
そんなサンバイザーの背中を見ていたスズカ先輩に、今度は私が声を掛けに行く
「スズカ先輩」
「センちゃん?」
「まさか復帰レースを追込で来るなんて意外過ぎますよ、けどそれ以上に・・・お帰りなさい、スズカ先輩」
「うん、ありがとうセンちゃん。やっと、帰って来れた様な気がするわ」
「なはは、そらそうでしょうね。またターフを駆け抜けたい、って言ってましたっけ」
「ええ、これでまた思いっきりターフを走れる・・・そう思うと、凄く嬉しいわ」
「ふふ、その嬉しさと喜びを皆も祝いたいみたいであっちで待ち焦がれてましたよ?早く行ってあげて下さい、スタッフの人には私がスジ通しときますんで・・・ね?」
「えっ?」
私に指摘されるまで彼女の目にはまだ皆の姿は映っていなかったのか、少しだけキョトンとしていたが・・・やがてゆっくりと歩き出し、段々と早足に、そして軽快に走り出すスズカ先輩の背を見ながら私はボソリと呟いていた
「サイレンススズカ、やっと目的地に辿り着きました・・・てぇ、所かな?」
―――――――――
チョクセンバンチョー
UMAとしては何度目かの2着、ウマ娘としては初の2着になったバンチョー
ジュニアとシニアの格、ウマ娘世界でのレース経験の差等敗因は幾つもあったが最も大きかったのは自分の走りを間近で見られていた事だと本人は思っている
だが、その対価にウマ娘世界特有の”アレ”を見せつけられたのは、バンチョーにとっては僥倖となるだろう
尚最後のレースの台詞については『JAPAN WORLD CUP 3』にて実況の茂木淳一氏がとあるレースのゴール直後に言った一言である
サンバイザー
サイレンススズカ、そして本作ではチョクセンバンチョーに敗れる形となった
地下バ道では同じくサイレンススズカに敗れたバンチョーの言葉で再起を誓う事になり、先ずは打倒バンチョーを誓う
実はこっそり再登場の予定があったりする(しかもG1で)、彼女の再登場を気長にお待ちください
サイレンススズカ
本家同様、見事に最後の直線で全員を追い抜きタイレコードの1着で完全復帰を果たした
追込策はゴルシに習ったのかそれともヒシアマの姉さんに以前聞いたのかは分からないが、本作ではゴルシ+バンチョー(間接的)のお蔭もあり開眼
最終直線の二度目の加速はアレ固有発動してるんじゃないかな?からこのレースにバンチョーが加わってたりします
『サイレンススズカ、やっと目的地に辿り着きました』
JAPAN WORLD CUP 3 においてハリボテエレジー3.0が勝利した時に流れる実況の一言
これを見て『その時、ふと閃いた!このアイディアは、チョクセンバンチョーのストーリーに活かせるかもしれない!』が今話の作成のきっかけだったりします()
育成イベがあるとどうしても投稿が伸びてしまうのは許して下さい(虹の結晶片がどうしても欲しいのです・・・)
1期軸終了後に多少幕間を挟む予定です、あるとすればどれが見たいですか?
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チームスピカの話
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チームリギルの話
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チームカノープスの話
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チームコールサックの話
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生徒会の話
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親や他のウマ娘との話
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JWCの面々の話