チョクセンバンチョー視点
その視線を始めて感じたのは、カノープスで普段と同じく練習を終えた後の事だった
スズカ先輩とサンバイザーの奴とのレースが終わり、休養期間も開けてからの何時も通りの練習に打ち込んでいたんだが...その帰り道の途中で誰かに見られている様な気がしたのだ
「?...バンチョー?どうかした?」
「ん、いや......わりぃ、何でもない。気のせいだったみてぇだ」
「そう?なら、いいけど...」
「バンチョー、早く帰ろうよぉ。ターボお腹空いて来たー」
「ハハ、スマンスマン。今日の晩飯は何にするかねぇ?」
「んー...私は寒い時期だし温かい料理がいいかなぁ...ビーフシチューとか食べたい気分」
「あぁ~、いいねぇ。確かに腹から温まるモン食いてぇぜ、なぁターボ?」
「うん!ターボもシチューに賛成!」
「まぁ、今日の夕食のメニュー次第だけどね~。出れば御の字、って感じで」
「だな。んじゃあとっとと帰るとするか」
こん時の私は、まさか自分がマークされてるとは思わなかったから深く捜したりする様な事はしなかったんだが...もしこん時に探してればもっと早くその存在に気付けてたんだろうな...
私等3人が遠ざかった後、草むらから顔を覗かせ此方を見続ける黒鹿毛の小柄なウマ娘が居た事に
それから数日間、時折視線を感じる事が多々あった
図書室でネイチャに勉強を教わってる時、ターボと中庭を歩きながら談笑している時、トレーナーに練習メニューの相談をしている時等々...四六時中という訳でも無いし流石に相手も練習中に見に来る様な真似はしなかった上、視線には害意や悪意の様な感じもなかったから様子見をしてた訳だが...
(...うーん、悪意とか無さげなのは分かったが中々接触してこないな。このまま相手が声を掛けてくるまで待つか?いやでもなぁ、それも何だがムズムズっつーかモヤモヤすんなぁ。けど無理に問いただすのも何かなぁ...どうするかぁ...)
何故かその視線の相手は遠巻きに此方を見るばかりで、近付いて来たり声を掛けてきたりは全くしてこないときた
これには困った、何でそんな事をするのか聞こうにも視線こそ感じれど何処に潜んでるかまでは分からずじまいで唯々視線を感じ続ける日々になった訳だが...このままじゃあ流石に練習にも支障が出かねないんだよなぁ
そんな何もしてこない相手にモヤモヤと微妙な気持ちになり始めた私は、此処で少し行動を起こす事にした
視線を感じ始めてから暫く経ったある日の朝から、何時もの様に起床して最近ではほぼ毎日潜り込んできやがるシンコウウインディを起こさぬ様に引き剥がした後、ジャージに着替えて学園の近所にある川沿いの歩道のコースをほぼ毎日走り続けた
勿論他にも幾つか走るコースもある訳だが、こうして同じコースを走り続けていたら私を見続けている相手が気付いて追っかけて来るんじゃねぇかと考えたのだ
これで誘いに乗ってこないならネイチャやトレーナー達に協力して貰って相手を確認するしかなくなるから早めに乗って来て欲しいもんである
なんて事を考えつつ桜並木が続く川沿いを走ってたら、急に私の後ろ数バ身にピタリと誰かが付いて追走し始めたではないか
(...誰か私の後ろに付けて来たな、声もかけて来ねぇし件の相手が誘いに乗ってくれたか!?)
軽めに走っているとはいえ、こちとらウマ娘である
人間に追い付かれる程の速さで走っている訳じゃあ無いので追い付けるとしたらウマ娘なのだろうが、知り合いの誰かなら声を掛けて来る筈だ
しかしそういった様子も無く、相手はただただ私が走るのに合わせて一定の距離で右へ左へと付いて来るばかりでそれ以上のアクションは起こしてこない...これは視線の主かもしれないと思った私は相手と接触出来そうな場所へと誘導していく
市街地に入った後も相手が付いて来るのを耳で確かめながら目標のビルへと向かう
そのビルは1階の玄関部分が壁とナンバー式のセキュリティゲートに囲まれてっから入り口以外から此方の姿は見えねぇし、今の時刻なら人の出入りも無い筈だから身を隠すにゃあもってこいだ
今の位置なら道を曲がった直後に素早く入り口方向に駆け込めば視界から上手い事姿を消せるだろう、見失って立ち止まった瞬間に声を掛けるとするかな
まだ相手は付いて来てくれている、これならご対面といけるだろうと踏んだ私は右へと曲がった直後にビルの入り口方向へと入り姿を隠す
数秒後に玄関から見える位置に現れたのは予想通りにトレセン学園のジャージに銀色のパーカーを纏いフードの部分を深く被った小柄なウマ娘であり、何処となくおどおどした様子で視界から消えた私を探している様子だった
今見る限り、そのウマ娘には見覚えが無い...最も、2000人以上居ると言われる学園の全ての生徒を覚えている訳じゃあ無いのであくまで知り合いではないという事と最低限トレセン学園の生徒だと分かっただけでも十分だが、さてこの子はナニモンだろうかな
私が視界からいきなり消えて困惑しているウマ娘に、息を多少整えた後に優し目に声を掛ける
「おはようさん。朝間から中々いい練習になったぜ、ありがとうな」
「ふえっ!?あ、えと...お、おはようございます。それと...あの、ど、どういたしまして...?」
「うん、疑問視じゃなくてもいいからな?...さて、知ってる可能性もあるけど一応名乗るわ。私の名前はチョクセンバンチョーだ、お前さんの名前は?」
「...ら、ライスシャワー...です」
私の問いかけにパーカーのフード部分を下ろし、クセの付いた黒鹿毛の長い髪を外に跳ねる様に広げたウマ娘の少女は少し小声で答えてくれたんだが...あれ?この子見覚えあるぞ?確か...
「...ああ、そうか。この前ネイチャとターボとサンバイザーとで飯食ってた時向かいの席に座ってた子か?」
「は、はい!そ、そうです!あ、あの、物陰から様子を見たり追い掛けたりしてごめんなさい!」
「なはは、謝んなくても良いよ、別に怒ったりはしてねぇさ...ただ、何で私なのかなぁって疑問はあったんでな、こうしてドッキリみたいな事してでも聞いてみたかったのさ...ライスシャワーの方から声掛けにくそうだったってのも、まぁあるけどな。トレセン学園に帰りながらで良けりゃあ事情を話してくれるかい?」
「...学園の食堂でね...ネイチャさんやターボさん、サンバイザーさんとお話してるバンチョーさんの声が聞こえたの。レースに対しての取り組み方とか、順位を気にしない所とか...何より、勝てなくても良くて、思いっきり競い合えば観客の皆も楽しんでくれるっていう考え方がね、凄いなぁって...思ったんだ」
学園への帰り道の途中、ライスシャワーはここ暫く私を観察していた訳を全て話してくれた
どうやらあの日私が話してたレースのあれこれを聞いて興味を持ったらしいのだが、気弱なライスシャワーは面識の全くない私に対して声を掛けるタイミングを逃し続け、結果として観察している様な状況になってしまったらしい
確かUMAのジョッキーも大分人見知りで騎手控室では色々と大変だったってキメジが愚痴ってた事があったが、こんな感じで話をし難かったからなのかもしれんなぁ
「んまぁ、個人的なってのが付くがな...一着になれなかった時に、ああすれば良かったとかこうした方が良かったとかウダウダ悩むよか、順位なんて気にせずに自分の実力を出し切った方が後悔しないだろ?」
「...そういう心の強さが、羨ましいな。ライス、いつも駄目な子で...」
私よか大きな両耳をペタリと下げてしょんぼりした様子を見せるライスシャワー
んーむ、中々ネガティブ思考...いや、何もかんも自分のせいだと思い込みやすく背負い込みやすいタイプなのか?
...何か、ほっとけなくなってきたな
「...駄目なウマ娘なんていねぇよ、世の中にゃあよ」
「えっ?バンチョー、さん?」
「俺の昔の知り合いにな、どれだけ頑張ってもどれだけ必死になっても俺を含めた同じ世代の連中に全く全然追い付けねぇしカーブを曲がるのがド下手糞でよく派手にスッ転ぶ奴等が居たんだ。
最初はなんでこんな奴等がオレ達と一緒に走ってるのかてんで分からなかったし、何度も何度も転んでも這い上がって起き上がって俺達の後を追い掛け続けるのか意味が解んなかったモンだよ。
けどな...何度転んでも何度地面にキスしてもアイツと途中で混じってきた奴はずっと俺達を追い掛け続けた。自分達だってやれる、走れる、負け続けるのは嫌だ、勝ちたいんだ...そんな風に思ってたんだろうな。
そんで、ある時遂にソイツが俺等を抜いて一着でゴールしたんだ。...信じられるか?追い上げて来るアイツ等に最後に抜かれたのは俺だったんだぜ?まさか毎度毎度最下位争いしてる奴等にまんまと追い抜かれちまったんだよ、俺達はな!傑作だったよ、全く...
...あー、まぁ、だからアレだ。どんだけ出来ない、やれない、駄目な奴だなんて言われてる奴でもよ...物事を悲観し過ぎねぇで上向いて、少しずつでも一歩一歩歩き続けていきゃあきっとテッペンが掴める筈だ。
ライスシャワー、自分で自分を下に見るのは勧めないぜ?少なくとも今日、私はお前さんの走りに興味が湧いてんだ。加減してたとはいえ私に付かず離れずしっかりマークしながら付いて来たお前さんの走りはこれからもきっと今以上に伸びてくるのは間違いねぇ。
だからなライスシャワー、敢えて言わせて貰うぜ?...先にターフで待ってる、何時か...でいい。何時か同じレースで思いっきり勝負して見に来た客を盛り上げれる様な勝負をしよう。名勝負と言われる様なレースを挙げていった時に、名前が上がる様なレースを、何時か...な」
「......」
昔の苦い思い出話で例え話をしつつ、ライスシャワーを励ます様な事を言ってみたが果たしてどうだろうかなぁ?
俯いたまま動かなくなってしまった彼女を急かさぬ様に私も立ち止まって返事を待つ...それから多分少しだけ時間が経ってからだろうか、俯いたままのライスシャワーが、ゆっくりと顔を上げた
「ライス、バンチョーさんみたいに強いウマ娘じゃないから何時になるか分からないけど、いいの...?」
「...誰だって最初から速く走れる訳じゃあねえさ。トレーナーや仲間、ライバル達と競い合って協力し合って、練習したりレースしたりして強くなるんだ。私も、ライスシャワーもな...だから、待ってていいか?」
「...うん!ライス何時か、バンチョーさんと一緒なレースで走りたい!だから、待っててね!きっとライス、挑みに行くから!」
どうやら、また一人
彼女はどんなレースに出て、どんな走りをして、何時俺に挑んでくるのだろうか...これからのライスシャワーの頑張りが楽しみだぜ
「...ライスも見た目に反して結構食うんだな~...(トレイ一杯にパンが山積みになってらぁ...)」
「ふえっ!?...お、可笑しいかなぁ?」
「いや、知り合いの姉ちゃんもよく食べるタイプだし大丈夫だよ...朝はパン派なんだな?」
「う、うん...焼きたてのパンがモチモチしててフワフワしてて好きだよ?」
「なはは、私もだぜ」
「で、でもこれだけじゃあやっぱりちょっと足りないから、後でもう一回取りに行こうかなぁ...」
「...まだいけるのかぁ...」
...何かこれに似た流れ、昔やったなぁ
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チョクセンバンチョー
新しい好敵手、という名のアニメ2期での関わり合うウマ娘のダチを得たバンチョー
気弱なライスシャワーを見ていると放っておけない模様
バンチョーが話していた苦い経験談は第三回JWCでの出来事であるが、ハリボテエレジーが正真正銘自力で勝ったのは第一回~第三回の間ではここのみである
ライスシャワー
アニメ2期の中盤で大活躍するウマ娘、現在はジュニアクラスの大勢いるウマ娘の一人
レースで勝つとか栄光を得たい、他のウマ娘に勝ちたい等という目的が多い中で変わった考えを持つバンチョーに惹かれた模様
本作では既にトレーナーにスカウトされて練習に励んでいるがデビューはまだしていない設定であり今後ミホノブルボン、マチカネタンホイザと共にバンチョー達の1つ下の世代を盛り上げていく1人
尚朝はパン派らしい
バンチョーに関わったが為に、今後の運命が多少変化していく模様(ナニカが憑りつく訳では断じてない)
1期軸終了後に多少幕間を挟む予定です、あるとすればどれが見たいですか?
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チームスピカの話
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チームリギルの話
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チームカノープスの話
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チームコールサックの話
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生徒会の話
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親や他のウマ娘との話
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JWCの面々の話