チョクセンバンチョー視点
模擬レースはいよいよ第5レースとなり、私の出番である
この辺りから内ラチが前までの4レースでそこそこ成らされているので内側が有利とは言えなくなってくるだろうな、芝が荒れ始めてるだろうし
そう考えれば私の枠番はまぁ、悪くはないかな?良いとは断言出来んが
ゲート前に他の連中のように集まると、その内の1人でマゼンダのサンバイザーが似合うウマ娘がずかずかと私の方に近付いて来た
「アンタがチョクセンバンチョーね?」
「ん?そうだが・・・お前さんは?」
「私の名前はサンバイザー、此処でアンタを倒して私の方が凄いウマ娘だってレースを見ているトレーナー達にアピールさせて貰うから」
「お~、そりゃ私に対しての宣戦布告か?」
「そうよ?幾ら両親がトレセン学園のOBだからってアンタが強い訳じゃ無いんだし、ここでコテンパンにしてあげるから覚悟しなさい?」
「なっはっは、そりゃあ怖いね。けど、その挑発は受けて立つぜ?いいレースにしようや、サンバイザー」
「ふんっ」
ありゃ、レース開始前に軽く握手しようとしたら踵を返されちゃったぜ、しょんぼりだな
「チョクセンバンチョー」
「おう?今度はアンタか?」
「ええ。リオナタールよ、お互い学園最初のレースだけど全力でやらせて貰うから宜しくね?」
「いいねぇ、そういうストレートなのは好きだぜ?こっちこそ宜しくな?」
短めの髪で毛先がくるりと外に曲がっているウマ娘、リオナタールの奴は私の握手に応じてくれてしっかりと握り返してくれた
周囲を見る限りどうやらこのレースの強敵になりそうなのはこの2人だな、リオナタールも言ってたが学園最初のレースだ
今までターボやネイチャと一緒に練習してきた成果、今見ているトレーナー共に見せねぇとな!
そう思いながらゲートに向かいながらちらりと横目でトレーナー陣を見ていると、若くて温厚そうな男のトレーナーと目が合っちまった
んー?アイツ相当熱心に参加者を見ていやがった様子だが、理由があるのか?
まぁ、今は気にする事じゃあねえな
思考を切り替えてせまっ苦しいゲートに入るが馬の頃もウマ娘になってもこの狭さは馴染まんなぁ
他の連中もゲートの練習はしてきているだろうが、レースの手前もあるし狭さに慣れきっていないのか如何せん緊張した面持ちである
だがここでビビってちゃあバンチョーの名が廃る、スタートを決める為に少し身を屈めて何時でも疾走出来る様に低い姿勢で身構える
最後の1人が入った後にしん、とゲートの周りが静寂に静まり返る・・・そして
ゲートが、開いた
私を含めた各ウマ娘がゲートから勢い良く飛び出し、私も地面を豪快に蹴り走り出す
上手くスタートダッシュを決め先頭を取ろうとするが、それをさせまいと内側のゲートから飛び出したサンバイザーが私よりも前に出て端をきる
更にはそのサンバイザーの背中を追う様にぴたりとリオナタールが位置取り、私は外側を走る形になった
おまけに3人共中々のハイペースで飛ばすもんだから、後続は堪ったもんじゃあない
カーブに差し掛かっていないのに既に後方とのバ身は少しずつ広がり始め、先頭争いは段々と1着争いの形へと変貌していく
しかし中々どうして口だけのウマ娘じゃあねえなサンバイザーの奴め、口だけの奴じゃあ断じてないい~い飛ばしっぷりだ
それに続いて隙を伺うリオナタールもサンバイザーを風除けにしながら脚を溜めていやがるか、上手い事好位置につけやがって
おまけに私をフリーにするのが厄介とお互い思ってるのか、先頭にも内にも行けない様に2人掛かりで牽制してきながらペースを上げていく
前に出ようとすればサンバイザーが、内に入ろうとすればリオナタールがそれぞれ道を塞いできやがる、か
ちいとばかし、やりにくいなぁ・・・
なはは、しかしな
こちとら生憎生真面目なレースを今までしてきた訳じゃあねえんだ
ウマなのに二本足で器用に走る天才も
匂いで場を支配する奴も
バ体がやけに長~い奴も
図体が妙に丸っこいパワフルな奴も
白黒の縞々で馬よか騎手がやべー奴も
首が長くてそれが長所な奴も相手にしてきた
やりにくい何て生易しい言葉じゃ言い表せねぇような相手共とターフで競って争って戦って来たんだ
内側に入れねぇ?先頭にも立たせねぇ?ハッ、上等だ
なら後ろの連中も見る限り聞く限り全くいねぇだろう外も外、『大外』から行かせて貰うぜ!
走りながら段々と右方向に流れ始めた私を横目で見るサンバイザーとリオナタールは何を考えているという感じの目をしていたが、知った事ではない
そのまま右へ右へ移動しつつコーナーに入る
当然外側に来た分私は荒れていないラチ寄りの内側を走る2人より多い距離を走らざるを得ないし、遠心力も余計にかかる
だがリスクは承知でこの位置取りをしたのだ、最後に仕掛ける前準備がこれで出来るしな
先頭を走るサンバイザーとの距離は4から5馬身ぐれぇか・・・ま、十分に追い抜けるな
おっと、私との差が開かないから慌てたか?仕掛けてきたが思ってたよりも少し早いな?
けどこっちも準備完了だ・・・さぁ、勝負と行こうぜお二人さん!
南坂トレーナー視点
あぁ~、と一部のトレーナー達から落胆、或いは失望といった声や溜息が漏れるのが聞こえた
原因はスタートから他のウマ娘の皆さんを一気に置き去りにしたチョクセンバンチョーさん、サンバイザーさん、リオナタールさんの三つ巴にありました
第5レース開始直後、好スタートをきったサンバイザーさんが同じく好スタートを決めたチョクセンバンチョーさんよりも前に出て端を進みます
そのサンバイザーさんの後ろにはぴたりとリオナタールさんが付き風除けにしつつ脚を溜める動きを見せる
更にその2人がチョクセンバンチョーさんを前にも内にも動けぬ様に位置を変えると、それに耐えきれずに外へと逃げるように彼女は動いた
先程のため息や声はその行動に対する物のようですが・・・
「わざと外に移動しましたね、チョクセンバンチョーさん」
「だな、ありゃあ何か企んでるな。或いは自分の末脚には自信あり、って所か」
「だとしても博打が過ぎるわね、あの様子じゃあカーブに入ったらどんどん引き離されていくわよ?」
「それにそこを越えたとしても最終直線にあるのは緩やかとは言え上り坂、何処まで伸びて来るか次第ですね」
決め付けるのはまだ早い、僕だけじゃなく沖野さんも東条先輩も思っている様だ
僕としても彼女のあの外への移動は正直疑問に思うが、恐らく考えあっての事だと思いますし、何より
(・・・外に外にと移動しながら小さく笑っていますね、やはり何かあるんでしょう)
負けるかもしれないこの状況を、間違いなく彼女は楽しんでいる
でなければあの時点で笑み何て浮かべないでしょうからね
さてどんな策で来るんでしょうか?楽しみです
第4コーナーを曲がっていくとやはりと言うか当然ですがチョクセンバンチョーさんがずるずると先頭から後退していきますが・・・
(?・・・差が思ったよりも開かない?)
チョクセンバンチョーさんは数メートル程横に大きくずれた位置を走らされています
1600m想定のレースとは言えカーブ、数十メートル余分に走らされる彼女はその分2人から遅れるのは当然ですがそれにしても出来る差が狭すぎます
この事にサンバイザーさんもリオナタールさんも多少焦ったのでしょうか?コーナーを曲がり切る前から仕掛け始めましたね
流石にスパートをかけられたらより差が広がり始めましたが、チョクセンバンチョーさんもまだ脚を残している筈
勝負は坂と最後の直線に持ち込まれました、でも・・・問題ないでしょう
「あら?南坂君最後まで見ないのかしら?」
「ええ、誰が勝つかもう分かりますし・・・それに、スカウトするならゴール前で待っていないといけませんから」
「・・・一応聞くけど誰をかしら?」
いえ東条先輩、分かってて聞いてませんか?意地悪そうな笑みを浮かべてとぼけないで下さいよ、全く
「勿論、チョクセンバンチョーさんですよ」
あんなに目を輝かせて楽しそうにレースを走れる彼女が、今このレースで負ける訳はないんですから
「貴方は行かなくてもいいの?」
「いや、俺も最初は行こうかと思ったけどさ。チョクセンバンチョーも勧誘した方がいいって言ったの俺でしょ?今更手の平返してスカウトするのもどうかと思ってね」
「ふぅん?」
「ま、それにチーム結成の許可が下りての初めてのスカウトって大事だと思うんだよ。おハナさんの時もそうだったろ?最初に誘ったウマ娘ってのはチームの看板でもある訳だし」
「まぁ・・・そうね」
「だろ?それに・・・彼の作るチーム、その内俺やおハナさんの作ったチームとも戦えるようなチームになるかもしれないと思うと、少し楽しみじゃないか?」
「・・・期待はしているけれど、先ずその為には早くメンバーを集めるべきじゃないの?ゴールドシップだけじゃトゥインクルシリーズ戦えないわよ?」
「はいはい、分かってますって。ホント、手厳しいこって・・・」
「何?文句でもあるのかしら?」
「いや何も言ってないからさぁ、許してくれよおハナさん」
チョクセンバンチョー視点
直線に入る、こいつはまだ緩やかな坂だが走り続けている脚には結構堪えるが、私には関係ない
前を走る2人の背が見える、坂に入って少しペースが落ちた
今だな!
(ブッ、こんでぇ・・・いくぜぇ!)
ズン!と地面をひと際強く踏みしめ、足裏を少しめり込ませながら蹴り放ち加速する
初歩で先程よりも速く
2歩で初歩よりも鋭く
3歩でギアを現状の最速まで上げ切る!
そのまま加速を維持しながら坂に入るが、持ち前のパワーを生かした走法で傾斜を踏みしめ
残していた脚を使いサンバイザーを躱さんとしていたリオナタールを
最後まで先頭を譲るまいと粘り続けたサンバイザーを
登り坂を物ともせずに駆け上り纏めて一気に追い抜く!
登り切った最後の直線もそのままの勢いで走り続け、2人に大きな差をつけてゴールへと駆け抜けた
「はっ、はっ、はっ・・・っしゃあ!」
ウマ娘となって初の本格的レース、模擬とは言え自分が勝てたのは素直に嬉しかった
思わずゴールを抜けてスピードを落としながら右腕を高く掲げガッツポーズをする
ターボやネイチャが喜んでいる様子が遠目でも分かるし、ま当然だよねって顔したテイオーも見える
そんな様子のターボ達の所へ帰ろうと息を整えながら歩いて行く、んだが
1着でゴールしたからか帰る途中で滅茶苦茶トレーナー達に声かけられた、流石にテイオーやマックイーン達程ではないけども
まぁ、アレだ、カーブ手前であんな博打打ったと思われる行動したのがマイナス要因にでもなったかね?
けどやれクラシックだティアラだ栄光だと色々言われるが、私はそういうのじゃなくてレースで他の連中と競い合いたいだけなんだよなぁ
今直ぐは返事出来ねぇからと言ってスカウトしてくるトレーナー達に断りを入れてその場から移動してる途中でまたトレーナーらしき男が近付いて来た
そのトレーナーの話も断ろうかと思ったんだが、この男性トレーナーには見覚えがあるな?えーと・・・あ、そうだ!
「おぉ、アンタはさっき坂の上から熱心に見てたトレーナーさんか?えーと・・・」
「チームカノープスの南坂と言います」
「南坂トレーナー、ね・・・知ってるとは思うが、チョクセンバンチョーだ」
「宜しくお願いします」
「おう、宜しくな。・・・で?こうして来たって事は、アンタもスカウトか?」
「はい、そうです」
「やっぱりか、悪いが」
「その前に言わせてください。僕はチョクセンバンチョーさんにクラシックやティアラ、古馬三冠の事は無理に望みません」
「・・・なぬ?」
「貴女はあのレースの最中、サンバイザーさんやリオナタールさんと走っている間とても嬉しそうな顔で居ましたね?」
「あ?ああ、レースは楽しいからな。それにこのトレセン学園には私と競い合える様な強いウマ娘が大勢居るんだ、そんな連中とレースするなんて燃えない訳がないだろ?」
「それです、僕が貴女をスカウトさせて欲しいのはその熱い勝負がしたいという貴女のサポートをさせて貰いたいからです」
「・・・んん?それで構わないのかアンタ、他のトレーナーさん達みたいに私を鍛えて三冠とかそういう名誉とか栄光とかいらねぇのか?」
「はい。僕は貴女が競いたい、戦いたい相手が居るレースに出れる様に練習や体調管理等をさせて貰えればそれで構いませんから」
「えぇ?よ、欲があるんだか無いんだかよく分かんねぇなアンタ」
つまり何だ?この南坂とかいうトレーナーはチームには所属して欲しいが、出るレースとかは私の意思を尊重するってのか?
んー、栄光だの偉業だのを出してこない辺り他のトレーナー連中よかはマシ、なのかなぁ?
けど、何でそういうのに拘らないんだこの人は?よく分かんねぇなぁ
「・・・南坂トレーナー、アンタにとって担当にしたいウマ娘ってのは何なんだ?栄光とかを取らせたいじゃないなら、アンタは何をもって私等ウマ娘をスカウトするんだ?」
「そう、ですね・・・目標や目的、そして夢を追い掛け続けるその背中を押してあげたい存在、でしょうか?」
「背中?」
「はい、ウマ娘の皆さんはそれぞれ何らかの夢や目的があってこのトレセン学園に来ています。当然チョクセンバンチョーさんもそうですね?」
「ま~、そうだな。それで?」
「僕はトレーナーとしてそういうウマ娘さんの手助けが出来ればいいと思っています。勿論、チョクセンバンチョーさんもそういったものを目指すというなら僕も全力で協力しますし、指導させて貰います・・・だからどうか、僕にチョクセンバンチョーさんの夢のサポートをさせて貰えませんか?」
「ふぅん・・・」
私の背中を押す、ね・・・
「・・・南坂トレーナー、取り合えずアンタの考えは分かった。けどまだ他のチームやトレーナーさんの事もあるし、少し考えさせてくれないか?」
「ええ、勿論構いませんよ?トレーナーとウマ娘の皆さんは二人三脚の様な関係ですから慎重になるのも当然ですし」
「わりぃな」
一応その場で即決めるのは待って貰う事にする、南坂トレーナーよりも指導して貰いたい人物が居るかもしれねぇし・・・
けど、中々変わったトレーナーだな南坂トレーナーは・・・チームカノープス、よぉく覚えておこう
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チョクセンバンチョー
かつてはドリフト斜行しながらトップスピードでブッこんできて1着でゴールしたり、推定2t(或いは4t)はあるであろうデコトラを牽引したまま最後尾からブッこんできて1着をもぎ取っていく脅威のUMAだった前世があるバンチョー(第1回、第3回JWCより)
ウマ娘に転生した後もその持ち前のパワーは継承されており、月日を経る度に上昇中
けれどもそんな彼女も今はジュニアクラス、現在の上がり3ハロンはまだまだスぺちゃんに及ばない
南坂トレーナー
レースに勝つのではなくレースで競い合い熱い勝負がしたい、そんなバンチョーの背を押してあげたいトレーナー
大事なのは勝ち負けじゃなくて指導するウマ娘の子達がターフに後悔を残さない様にするのが僕らの仕事です
え?スカウトは帰る途中のウマ娘さんに麻袋を被せて部室に連行する行為じゃないのか?・・・それって先ず第一に拉致、ではないんですか?
トレーナー陣
バンチョーのスカウトに来たものの栄光や偉業に今一興味が薄いバンチョーに色好い返事は貰えなかった模様
南坂トレーナーと大分話し込んでいたのでスカウトを受けたかとハラハラ
でも様子を伺う限りまだ決まってないと後日またスカウトに行く気満々である
1期軸終了後に多少幕間を挟む予定です、あるとすればどれが見たいですか?
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チームスピカの話
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チームリギルの話
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チームカノープスの話
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チームコールサックの話
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生徒会の話
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親や他のウマ娘との話
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JWCの面々の話