中二病を拗らせた結果、天才攻魔師を演じることになりました 作:ねっむ
諸君は魔法がある世界では中二病が発生すると思うだろうか?いくつか条件が付くが、俺の答えはイエスだ。なぜなら、中二病の本質とは承認欲求だからだ。人は誰もが大なり小なり心の隅で特別を追い求めている生き物だ。その欲求が、子供特有の無知と純粋さ、そして想像力によって現出した結果、中二病と呼ばれる症状になる。
さて、なぜこんなことを語っているかと言えばまさに俺が異能がある世界に転生し、バッチリと中二病になったからだ。
今思い出すだけでも黒歴史だが、これを語らずにはいられない。俺が生まれた世界は魔術や異能といった力が当たり前になっている世界だった。しかし、その副作用というべきか魔道災害と呼ばれる災害が多発し、魔物やゴーストが跋扈する物騒な世界だった。世界観は割とポストアポカリプスよりで、魔道災害で滅びかけの国はあるし、魔道犯罪者や魔物に対抗するための攻魔師という仕事まである。
そう、この世界は物騒だ。しかし、世界中が危険というわけではなく攻魔官たちがいるお陰で平和な地域が多く存在する。ありがたいことだ。だが、中二病の絶対条件は平和なのだ。平和故に刺激を求め、危機感がないが故に他人や世界を救う妄想や悪の組織なんて妄想をする。そして、転生したが故に俺の危機感はこの世界の人間よりも緩かった。
これを悟ったときにはもうすべて遅かった。いつの間にか俺は、最高ランクの攻魔官に担ぎ上げられ、その上よくわからない組織の潜入任務なんてものを日本政府にやらされる羽目になった。
ことの発端は、3年前。東京を襲った魔道災害の半年後。復興支援に気まぐれで行っていた俺はそこである女と出会った。
俺は壊れかけたビルの屋上に佇んでいた。当時の俺は13歳。中二病真っ盛りの最高に痛い奴だったので、白いフードを被って片目に眼帯をしていた。俺の足元に広がる海面は月光を反射してまるで夜空のようにも見えた。そして暗く透明な海の底には巨大な廃墟が沈んでいた。俺はその水底の街を独りきりで見つめていたのだ。
「こんなところで何をしている」
二人組の男女が話しかけてきた。凄まじく怪しげな二人だった。女の方はフリルまみれの豪華なドレスを着た小柄な少女だった。人形を思わせる美しい顔立ちに長い黒髪。深夜だというのになぜか日傘をさしていた。若いというよりかは幼いと形容すべき顔立ちだ。男の方は、全身を黒スーツで着飾っていた。この時俺は、二人に同種の気配を感じてしまったのだ。
「少女の悲恋と男の妄執に黙祷しているんだ」
完璧にお仲間さんだと思った俺は、クソ意味の分からないセリフを訳知り顔で吐いた。しかし、その瞬間男の方の顔色が変わった。
「お前………どこまで知っている?」
完全に乗ってきてくれたもんだと思った俺は
「すべて」
と返した。そして続けて
「見たくもないものまで見えるからな」
俺は振り返りもせずにそうつぶやいた。
「そうか………その忌まわしき力はやはり継承されていたのか」
男の後に少女が言葉をつなぐ。
「一つ—————お聞きしても?」
「何だ?」
「この光景を視ておきながらここに来たという認識でよろしいのでしょうか?」
少女が口元に笑みを浮かべる。後に知ったが、自分たちがここに来ることを知っていた、つまり戦闘になる可能性も覚悟していたということだと判断したようだ。
「ご想像に任せる」
「【煉獄の業火よ】」
スーツの男は灼熱の炎を纏った鋼色の剣をいつの間にか手に握っていた。膨大な魔力が大地を揺らし、周囲の海面を激しく波立たせた。俺は思わず感嘆の吐息を漏らす。あまりにも見事な魔力制御だったからだ。それと同時に、違和感を覚えた。興が乗ったにしては、目が本気だったからだ。
結論から言えば男はそのまま俺を攻撃してきた。そして、俺の命を救ったのは、俺が格好をつけるためだけに作った使い勝手の悪い魔術と偶然だった。男の攻撃が俺を襲うその瞬間、俺は反射的に右手を掲げその攻撃を無操作に振り払いのけていた。自らの攻撃と同等の衝撃を浴びて炎をまとった剣が折れる。激突の余波に男が呻いた。
動揺する男を無表情に見返して俺は困惑を隠して、言い放った。
「遊びはこの辺にしよう。ここで争うのはあまりにも不謹慎だ。今のじゃれあいは忘れる。とりあえず、自己紹介でもどうだ?」
マジで危なかった。俺が先輩にせがんでコレをストックしていなかったら死んでいたぞ?ごっこ遊び中の事故で死んだらシャレにならん。
月明かりが眩しいなと思ったら、先ほどの爆風でフードがめくれたせいで俺の素顔が露になっていた。俺はなんだか急に気まずくなり、フードを被りなおして少女を見つめる。
「ッ!」
先ほどまで黒かった少女の髪は、腰まで届く長い金髪に変わっていた。そして、少女の大きな瞳は炎のように赤く輝いていた。ランランと輝くその表情はまるで新しい玩具を見つけた子供だった。
くふっと小さく息を漏らして少女は、幼い子供のように無邪気に笑ってみせる。その後、隣で呆然とショックを受けている男に声をかける。
「貴方がこうも手玉に取られたのは、Aランクになってから初めてですね?」
「……………」
呆然とする男に少女は上品かつ邪悪な笑みをぶつける。いったい何がおかしいのだろうか?
「さて、自己紹介でしたね?私の名前はメリア、彼はスノーデン。貴方のお名前は?」
「詩音だ。逆空詩音」
「では、シオン。我々の仲間になりませんか?」
メリアは柔らかな笑みを浮かべて、俺に手を差し出した。
これが始まり。後に俺はこの場で手を取ったことを後悔することになる。なぜなら、ここでメリアたちと出会ったのは、偶然ではなく先輩の思惑だったからだ。メリアたちは、攻魔師協会の幹部でありもう尋常じゃないくらいに俺のことを買い被っている。もはや信頼という名の脅迫だ。
俺にこの復興支援バイトを紹介した先輩は、凄まじい才能を持っており自分の未来を見ることができるらしい。成績はいつもトップだし、俺に魔術を教えてくれたのも先輩だ。しかし、先輩は超が付くほど気分屋で、面倒くさがりで、猫みたいな人のため、お堅い仕事はしたくないとのこと。いずれ、攻魔協会の幹部にスカウトされる未来を見てしまった先輩は、俺を身代わりにして得ようとしたらしい。
『私は面倒事から逃げられる。君は刺激的な毎日を送れる。ね?利害は一致しているでしょ?あ、ちなみにメリア・クライツの素顔は機密事項だから、やめますって不用意に言うと殺されちゃうかもだから』
『え?』
『大丈夫、君は私に比べるとゴミみたいなレベルの魔術しか使えないけど、相手を誤魔化す演技と意味不明な発想はピカ一だから何とかなるよ!というかこれが最適解だし』
『いや、そういう問題じゃ………せ、先輩?』
『もしもの時はこれ使ってね?天才な私が君のために作ったさいきょーの武器だから。あ、あとわかってると思うけど私のことは言わない様に。大丈夫、5年過ぎれば丸く収まるから』
そう言って、先輩は姿を消した。まあ、ここまでの流れを端的かつ分かりやすく言うのであれば、『中二病を拗らせた結果、天才攻魔師を演じることになりました』かな?すげー、頭の悪いライトノベルみたいだ。