中二病を拗らせた結果、天才攻魔師を演じることになりました   作:ねっむ

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忘れたころにやってくる。需要があるかは不明ですが、プロット自体はあるので、気力があれば続きを書きます。


プロローグ2

月曜日。少し憂鬱な一週間の始まり。この世界の月曜日でも、多くの人間が頭を抱えため息を吐く。そして俺が吐いたため息は、ここ一か月の中で一番深いと思うほどだ。時刻は、8時10分。

 

通常であれば高校の通学路を歩いている時間だが、乗車している窓から見える街並みは全く見慣れないものだ。。それもそのはずだ。今、俺が座っているのは攻魔師協会の人間が運転する車の助手席だからだ。景色が違うのも当然だった。昨日の夜、学校から帰ると担当者から電話があって、「メリア様からの緊急の招集なので、朝を迎えに行きます」という話になった。

 

瞳に不満を溜め込んで、後部座席を振り返る。そこにいたのは、俺を呼び出した直属の上司メリアその人だった。

 

「何で俺を呼び出しておいて本人が車に乗ってるんだ?」

 

「貴方を驚かせたかったから、では駄目でしょうか?」

 

「ダメだな」

 

「気になるのであれば、視ればいいのではないのですか?」

 

「………何でもかんでも視れると思うな」

 

両目に映る街並みは見慣れた光景へ変わっていく。正面に見えてきたのは、攻魔師協会、日本支部の本拠地だ。

 

「では朝食を食べたら、会議室に集合してくださいね」

 

メリアはそう言い残し去っていった。俺はため息を吐いて、攻魔師協会の食堂に顔を出した。

 

朝の時間だけあって人は、片手で収まる人数しかいない。だからだろう。その見覚えのある後姿が目にとまったのは。

 

若草色の髪をしている少女はほとんどいない。それは所属が違うのになんだかんだで長い付き合いの後輩だと推測できた。

 

「座っていいか?夏音」

 

四人がけのテーブルを一人で使っている少女に正面から近づいて声をかけた。うどんを口に入れたまま夏音は顔を上げた。そして、じゅるりと吸い込んでもぐもぐ口を動かしていた。最後にゴックンと飲み込むと

 

「嫌ですけど」

 

っとわざとらしい口調で唇を尖らせる。

 

「まあ、何と言われても座るんだけどな」

 

俺はその返答を真に受けず正面に座った。夏音とはメリアと同じくらい付き合いがあるため、その性格は理解している。気を使っていたら、こっちが持たないのだ。

 

「先輩みたいなサボり魔が協会に顔を出すのは珍しいですねー?でもでもこの時間に来たのは納得です。一緒に来る相手がいないんですもんねー?相変わらずのぼっちですかぁ?」

 

「見ての通り、可愛げのない後輩と二人だ」

 

あいさつ代わりの皮肉を打ち返して、あらかじめコンビニで買っておいたサンドイッチを広げて口に運ぶ。

 

コンビニでサンドイッチを買っておいたのに食堂に足を運んだのは、ここに来れば暖かいお茶をサーバーから自由に飲めるからである。夏音とのエンカウントは予測外だったけど。

 

「可愛げのない後輩も今日は一人か?」

 

顔を合わせた回数は数えるほどしかないが、彼女の周りには同僚もしくは補佐官がいつも一緒にいたはずである。

 

「はぁ?私ほど可愛い後輩なんてこの世に存在しないと思うんですけど!???」

 

「容姿だけならな」

 

ただ、メリアや先輩を知っていると少し霞んでしまうだろう。若草色の長髪に創作物じみた完璧に近い容姿。その宝石のような瞳は桜色に煌めき、艶やかな唇には無意識のうちに視線を持っていかれるほどだ。

 

しかし、メリアや先輩のような人外じみた魅力はない。

 

それに、なにより性格がよろしくない。

 

「可愛げがないんだよな」

 

「先輩に可愛げとか言われたくないです」

 

拗ねたようにそっぽを向く夏音。しかし、一瞬でその表情を変えて笑う。

 

「ああ、今日は一人なのかでしたっけ?見ての通り尊敬できない先輩と二人でーす」

 

うわー、その返答はうざい。夏音は悪戯っぽい笑みを浮かべて、使った食器を返却口へ返しに行く。

 

さて、そろそろ俺も行くかな。

 

 

 

 

「そろそろ時間なのに、全然いないじゃない」

 

攻魔師協会の会議室。その一室に円卓を囲み、3人の少女が座っている。ニコニコと笑みを浮かべているメリアは、少女という年齢ではないが。

 

「来ていないのは、シオンと今日紹介する予定の新人、ココアさんですね」

 

「はぁ?新人のくせに時間ギリギリにしか来ないってどういうわけッ」

 

「フフ、どういうことなんでしょうね?」

 

「何で楽しそうなのよッ!」

 

不機嫌さを孕んだ声が響く。声の主である猫耳フードの少女がメリアに視線を向ける。寝不足なのか、目元にできた隈が彼女の体調を明確に示していた。メリアは、別段臆することなく少女の怒気をスルーして話を進める。

 

「シオンはもうすぐ来るでしょう。七瀬、ココアさんはどこにいるかわかりますか?」

 

メリアの視線が、黒い髪にバラ色のリボンをした少女に注がれる。少女は、スーツを着こなし凛とした雰囲気を漂わせており、できる女という感じだ。

 

「はい、竜胆はすでにこちらに向かっているようです。逆空さんに関しては、感知できません」

 

七瀬は事前に新人の情報を得ていたのか、メリアの注文通りに建物内の魔力を感知する。

 

「フンッ!時間ギリギリにしか来ないなんて、話にならないわね。特にあの男!自分以外には興味ありません見たいな顔して、イライラするのよね!この間なんて、わざとアタシに自分の獲物を仕留めさせて手柄を譲ってくるなんて何様のつもりよッ!」

 

猫耳フードの少女こと、茉莉の暴言に七瀬が顔をしかめた。

 

「寝不足なら寝ていなさい。それと、逆空さんへの侮辱は許しません」

 

「あら?アタシは一度だって男のことを逆空だとは言ってないわよ」

 

空気が淀んでいく。通常の人間であれば、帰りたくなっているところだがこの場にいる傍観者メリアは愉快そうに二人を眺めている。

 

「成人した女が未成年の男に執着してるのってどうなのかしら?ショタコンってやつぅ?」

 

茉莉の発言に笑みが引きつっていく七瀬を見ながら、メリアは自分の周囲に魔力でできた障壁を展開した。

 

茉莉は七瀬の引きつった笑みを見て満足げに腕を組んだが、次の瞬間に強烈なカウンターを喰らうことになる。

 

「茉莉さんこそ、まだお子様とは言え15歳の高校生が猫耳パーカーだなんて痛くて笑えないですね。あ、ごめんなさいね。歳は15歳でも嗜好はお子様でしたね?部屋のぬいぐるみの数は増えましたか?服は未だにドレスばっかり?メリアさんのように似合うのならいいのですが、目つき悪めのショートサイズヤンキー女には着こなせるものじゃないのにね」

 

普段の茉莉ならその場で言い返したであろう。この程度で手が出るほど子供ではなかった。だが、寝不足で極限まで思考が鈍った彼女の沸点はかつてないほど低かった。

 

「………コロス」

 

暴風と共に深紅色のケルベロスが召喚される。スナイパーである彼女が中距離戦で愛用する従魔を見て、メリアは少し困った顔で眉を下げる。

 

「この部屋…壊れてしまいそうですね」

 

「こんな閉鎖空間で従魔を出すなんて!いくら何でもやり過ぎよッ!」

 

「うっさい!おとなしくやられるのね!」

 

メリアのつぶやきを両者の怒号がかき消す。ケルベロスが主の怒りに呼応し、七瀬への攻撃を始めようと爪を振り上げた。だが、その前に七瀬の口からは厳かな祝詞が漏れ出していた。

 

「【偉大なる我が神に境界の巫女たる我が願い奉る。刃を以て汚れを防ぎ給え!】」

 

もはや美しいと表現できるほどの淡い光をまとった魔術式が刀身を包む。

 

それはあらゆる不浄を切り裂き無効化する浄化の光。その光を見た茉莉は不愉快そうに舌打ちをして、命令を下す。

 

「あの女をぶっ飛ばしてッ」

 

茉莉の瞳の輝きが増し、濃密の魔力の奔流が大気にあふれた。

 

同時に刀身から漏れ出した光が不可視の壁を生成する。不可視の壁と赤黒い魔力と衝突し、大気を揺らす。

 

「グッ!」

 

七瀬が苦しげに息を吐いた。不可視の障壁は、会議室に衝撃が行かない様に四方を覆う形で展開されていた。

 

自分の負担を度外視して、会議室とメリアを守ろうとした七瀬の行動に拍手を送ったメリアは感嘆するように息を吐いた。

 

そして彼女は畳んだ日傘の先端を無雑作に七瀬と茉莉に向けた。

 

「そこまでですよ」

 

空間が歪む。虚空から吐き出された黒色の巨大な腕が二人の全身をつかんで拘束した。メリアが冷え冷えとした視線を茉莉と七瀬に向けた。二人は体をよじるが、メリアが召喚した黒い腕は振りほどけない。

 

「お二人ともはしゃぎ過ぎです。減俸されたいのですか?それとも、また私が可愛がってあげましょうか?」

 

その言葉に二人は固まり大人しくなる。そのタイミングで扉が開いた。

 

 

 

 

 

歓声が嫌いだ。それは自分に最強を強いるものであり、嘘をつくことを日常にさせたものだから。

 

虚像が自分を殺し成り代わっている。そんな現状をどうして好きになれるのだろうか。

 

 

 

俺が最強の攻魔師として名を上げるきっかけとなったのは3年前。メリアと出会って5日後の話だ。

 

前提として、俺には魔術の才能があまりない。人並くらいにしか使えないのである。それでも、戦いは魔術の才能だけでは決まらない。だからやり様はあった。しかし、中二病全盛期の俺は、格好良さと圧倒的な才能に由来した魔術の強さに憧れてしまったのである。

 

結果、俺は非効率的かつ狂気的な一つの魔術を作り上げた。

 

『5つの憧憬』と呼ばれるこの魔術は、魔力に由来する事象を固定し一時的に所有できるというものである。わかりやすく言えば、魔術をストックできるということだ。自分では使用できない魔術をストックし、任意のタイミングで開放できる。5つストックできる。代わりに俺は、無属性の魔術以外を扱えなくなった。これが、5つの憧憬のデメリットだ。

 

つまるところ、俺は意味深な発言をしつつ自分では扱えないぶっ壊れ性能の魔術を行使して遊んでいたのである。

 

話を戻そう。3年前、俺はこの魔術と先輩の計画によって地形を変えるほどの魔道災害を鎮圧してしまったのだ。

 

俺の力じゃない、そう言いたかったが気が付けば神輿に担ぎ上げられ後には引けない状況になっていた。俺が強くないと知れたら、恨まれている連中に殺されてしまう可能性もあったが故に余計に引けなかった。

 

ただ、問題はここからだった。5つの憧憬はストックを補充しない限り五回しか使えない。しかし、攻魔官としての仕事は年に5回どころではない。先輩を含めた事情を知る協力者に会えるのは年に数回、魔術の補充はその時だけ。解決策として、先輩は俺にとある従魔を貸し与えた。

 

日本に三体しかいない神獣、『八咫烏』。神獣とは従魔の中でも最強の魔獣であり、かつて魔道災害であったそれを鎮め封印していた巫女から譲り受けたらしい。

 

神獣は魔道災害の一種である魔獣に分類される怪物だ。通常は魔獣は殺すものだ。しかし、一部の魔獣を有用かつ利用可能だと判断し生け捕りにすることは稀にある。そういう魔獣を自分の使い魔として使役する攻魔師を召喚術師と呼び、彼らが20年間屈服させられなかった魔獣を神獣と呼ぶ。

 

表向きは、契約者である俺は凄まじい腕の召喚術の使い手だと評価されているというわけだ。

 

そんな八咫烏君だが、俺の言うことは一切聞かないのである。先輩の指示通り、俺を守るだけで、敵さんは放置。気まぐれで反撃してくれるが、タイミングと威力はその時次第である。

 

さて、長々語ってしまった。結論を言おう。

 

俺は、攻魔師としての仕事が嫌いだ。


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