黒い蜃気楼を追って   作:光りし者

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匙は投げられた

「どうすりゃいいんだコイツ…」

 

 

 ここはとあるゲーム会社の一室。

 アプリゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の開発チームのオフィスである。

 

 そして現在、そこに在席するスタッフが一様に頭を抱えて項垂れていた。

 

 

 彼らの悩みのタネとなっているのは一枚のイラスト。

 

 主戦騎手と父の勝負服を踏襲しつつ、その戦績と血筋から武将の羽織の意匠を盛り込んだ赤い装束を身に纏う黒鹿毛の美少女。

 

 開発コード:ブロッサムミート(花見→Blossom((桜の)花)_meet(会う))、通称カイザー。「破壊の暴君」と呼ばれた馬の擬人化キャラクターである。

 

 時に新規キャラクター、時に季節ものの衣装といった形でコンテンツを維持し、水面下でカイザー達05世代の実装に向けて開発を進めていたのだが、大方の予想通りカイザーの開発進行は実に難航した。

 

 史実戦績をベースにする関係上、まず性能という問題が立ちはだかった。

 

 完璧なスタートと最終直線での驚異的な勝負根性(末脚)を持ち、数々の名馬の中でも屈指の戦績を誇るカイザーは控えめに性能を見積もってもバケモノにしかならず、初期案の試算では修正前の神威継承ゴルシがホームグラウンドである長距離で1度も詰まらず好位置から攻めてようやく太刀打ち出来るというどうしようもない代物で、彼らはそれはもう盛大に頭を抱えた。

 

 しかも"史実のレコードタイムを越えない"というアプリウマ娘の仕様上、極々一部の最強クラスのライバルを除いて専ら「レコードとレースした馬」と言われたカイザーでは"らしさ"を損なうのではという懸念のおまけ付きであり、最終的に「上振れと呼ばれるステータスであればレコードタイムぴったりでゴール出来る」性能に落着した。

 

 結果、チャンピオンズミーティング等の順位を競う対人コンテンツでは出禁となった。当然である。

 尚、懸念されたユーザーからの反応だが、後にこの告知を知った競馬、ならびにウマ娘ファンからは「【悲報】カイザー陛下【とうとう出禁】」「素行不良で叱られたか…」「20年遅いわw」と軽いお祭り騒ぎになるなど専ら好評な反応で杞憂に終わっている。

 

 

 こうして紆余曲折の末に性能まで進行した開発チームだが、ここで最大の壁が待っていた。

 目を逸らし続けてきたツケが回ってきたとも言う。

 

 ストーリー。もっと言うなら生活習慣が表れる日常パート部分である。

 

 何故こうも頭を悩ませているのかは実に単純な理由にある。

 ウマ娘化させるにあたって目新しい魅力が見出だせないのだ。

 

 ウマ娘は歴代の名馬達の擬人化。

 擬人化ということは人間に連なる姿形を持ち、茶碗と箸を手に持って食事をし、社会に溶け込み、ベッドに潜って眠る。

 即ちヒトに程近い文明的な生活を送るということである。

 

 

 では件の馬はどうだろうか。

 

 

 哺乳瓶(マイボトル)を愛用し、クッションを敷いてテレビを眺め、時折ビールを盗んで歯で器用にプルタブを曲げて飲みながら花見に興じる。

 更には数多のテレビ番組でスタジオに生出演し、年末特番では座布団を強奪したり大物司会者の変装と笑い声の真似をして尻を叩いたりと各局で八面六臂の大活躍。

 

 お分かりいただけるだろう。既に馬の時点で下手な人間より上等で文明的な生活を謳歌しているのだ。

 今更ヒトの形にして何が変わるのだろうか。下手しなくてもウ○ポやダ○スタ等のリアル系で奇行してた方がよっぽど面白いと言われかねない。

 そして現行で奇行を重ねてくるせいで時間が経てば経つほど擬人化の魅力が相対的に薄れていくという悪循環に陥っていた。

 

 しかし今更実装しないという手は無い。

 人気も然る事ながら企画開始PVでは義妹とアイススケートを、アニメ本編でも名前テロップこそ一度として出してはいないもののゲスト出演させてしまっているし、スペちゃんの食事シーンのオグリの如く、調子に乗って2人揃って随所で小ネタのように登場させ過ぎたので今更モブですとも言えない。自業自得である。

 

 

 最早このUMAの扱いについて何度進展しない臨時会議を開いたのかもう数えるのも忘れた。

 

 皮肉なことに、出産して早々に逝去した母や、こんな面白くて優秀なお手本(義兄)がいたことでアゼリアの方はあっさりストーリーの組み立ても終わり、実装の準備が出来てしまった。

 

 何か方向性について助言を貰えないかという思惑で、とりあえず暫定的に仕上がったストーリー(タマモとオペラオーのミックス)をオーナーの十文字氏に見せたところ、「全部お任せします」という聞きしに勝る男らしいお言葉を賜ってしまい、尊敬と崇拝とほんの少しの恨みを抱きつつ1から書き直す羽目に遭うトラブルもあった。

 

 「もうコイツだけ擬人化せずにウマ娘に出演させた方が美味しくね?」という、1人が溢したアイデンティティの放棄も同然の発言に、誰一人として即座に否定の言葉が出て来ず、むしろ一瞬真剣に検討してしまった程に彼らは追い詰められていた。

 

 

 

 

 天井のスピーカーから聞き慣れた音楽が。昼休憩の合図だ。

 昼食を摂りに支度をし、立ち上がる各々。

 

 「は、嘘だろ?」

 

 機密保持でカメラの塞がった端末を取り出した男が、気分転換にニュースを見ようとして思わず発した一言。

 彼らは当然競馬関連の情報を中心に検索するため、必然的に紹介されるニュースもそっち方面が優先してハイライトされている。

 

 何だ、お前何を見やがったこんな時に。

 あの喜色の無い声色からして良いニュースではないだろう。だが怪我や安楽死といった悲劇的なニュースという雰囲気でもない。

 

 駄目だ、見たら多分後悔する。

 おそらく、いや間違いなく我々にとってホラーよりもおぞましいものが載っている。

 そう分かっていても、男の口から衝動的に声を出させるほどの内容への興味に抗うことは出来ず、皆ぞろぞろと手元の画面に集まった。

 

 

 そこには嫌に見覚えのある額にナ○キのロゴを携えた黒い馬が、これまたやたらと見覚えのあるダンボールを口にくわえて先頭を走り、真っ先にゴール板を抜けて2着になる姿が。

 

 「…アイツJWCに名前そのまんまで出演しやがった!」

 

 おお十文字氏と三女神よ、更に試練を課すというのか。

 

 そんな彼らのオフィスには初期生産で背中にチャックのない、黒い人形が白い歯を見せて笑っていた。

 

 

 

 

 

 「お前らがアホみたいに頑丈なのはわかってるけど最悪蹄腐るからやめろ!」

 

 一方その頃、同じニュースを知ったとある牧場のとある馬が立ち上がって横歩きを練習していた。




黒い人形
・口と背中にチャックが付いている
・背中のチャックは動かないイミテーション
・口のチャックを開くことで歯の模様が入った白い布が張られる


JWC
陛下出場回はピンクフェロモンの体格が何故か大きい。
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