「ネギ先生!!」
ビシャン、と大洞窟に響き渡る程の大きな音を立ててネギの頬が張られた音が鳴った。
「ぇ、ぁ……」
「大丈夫ですか、ネギ先生」
ネギの頬を張った張本人――――絡繰茶々丸は反応の鈍いネギを心配するように眉を下げる。
「どうして茶々丸さんがここに? 船に行ったんじゃ……」
彼の中では時間の流れが飛んでいた。ネギからすれば目の前に茶々丸が存在するのは青天の霹靂であった。
「覚えていないのですか?」
「何をですか?」
暴走が収まったことでネギが巻き起こしていた暴風が綺麗さっぱり消えてなくなっている。大洞窟内の荒れ様は酷いものだったがネギの中では異変の範疇に入っていないようだった。
(忘れている、というのですか)
ネギの精神は自分を守る為に幻術で見た世界を忘却していた。大洞窟内での荒れ様に気づいていないのも、侵入時からの記憶を忘却しているからなのか。
「茶番を見せてくれる」
「ゲイル・キングス!」
苛立ちも露わにするゲイルにネギが振り返りながら吠える。
「獅子は己が牙の凶暴性を忘れ、再び眠りについた。そんな茶番が認められるものか」
ゲイルの状態は酷いものだった。
大洞窟の壁や天井の岩石が暴風によって剥がれ、乱れ飛んでいた直撃を幾度も受けたのだろう。ゲイルはその身に少なくない傷を負っていた。ネギの暴走に巻き込まれ、計らずともエミリア・オッケンワインを守らされたことで逃げることも出来ず、暴風の只中に長時間留めておかれた負債は大きい。
「その小僧の狂気も理解した。次はこのようなヘマはしない」
「させません」
再び魔眼を発動させようとしたゲイルに向かって茶々丸が突進する。
ブースターは威力がありすぎるのが。バーニアを全開に吹かしたその速度は高位魔法使いの瞬動に匹敵する。
「その程度で…………ぬっ!?」
愚かにもゲイルと目線を合わせて直進してくる茶々丸を嘲弄しようとしたゲイルに動揺が走る。
「はっ」
「ぐぬぅ!?」
攻撃アクションを起こさなかったのを良いことに、茶々丸の拳が咄嗟に掲げて防御したゲイルの腕に当たる。
ゲイルはその金属的な感触に驚きを覚えつつも、足元から闇の衝撃波を発生させて追撃しようとする茶々丸から逃れる。
「この感触。貴様、人間ではないな!」
「あなたのその紅い眼は魔眼のようですが、私はガイノイドです。魔眼など効きません」
言いつつ茶々丸の左眼が光る。
対象ロックのホーミングレーザーが唸り、一瞬前に飛び退いたゲイルがいた場所を焼き切る。
「ネギ先生、ゲイル・キングスの目は魔眼です。決して見てはいけません」
「あ、はい」
両腕を剣と銃に変換してゲイルに躍りかかった茶々丸の勢いに押され、ネギは言われた通りに目を見ない為に瞼を閉じた。
世界が暗闇に閉ざされるがゲイルの澱んだ魔力の気配は感じぬはずがない。
茶々丸の電子脳とネギの頭脳は同じ答えを導き出す。
「私がネギ先生の目となります。指示した場所に魔法を」
「分かりました!」
茶々丸はネギの頭の良さを知っている。
ネギは茶々丸の電子脳の性能を知っている。
茶々丸ならば後ろを振り返ることなくネギの場所から見たゲイルの位置を移動しながらでも即座に割り出せる。
ネギならば茶々丸の指示に寸分違えることなく魔法を放てる頭脳がある。
「させん!」
「相手は私です」
結果としてネギは動きを封じられるが、茶々丸がゲイルにネギへ攻撃させない。
茶々丸は数合渡り合っただけで確信した。
「理由は分かりませんが近接戦は不得手と見ました。その隙を突かせてもらいます」
典型的な魔法使いタイプであるのか、情報の蓄積が甘い茶々丸には判断がつかない。だが、茶々丸程度の壁を突破できずにいる状態を見れば自ずと予想がつく。
「
「ぬぅおっ」
声に出すことなく指示を出したのは念話であろうか。ネギが放った大気の拳が、ゲイルが展開した闇の障壁にぶち当たって衝撃に揺れる。
「いかん、このままでは……」
全盛期の百分の一近い実力しか発揮できない今のゲイルでは二人に勝てない。いや、それどころか負ける。
《なにをやっているのだフォン! 今すぐに戻って来い!》
最も信頼する腹心にして部下であるフォン・ブラウンを念話で呼びつける。
「隙です」
「ぐっ」
障壁破壊の加護が付けられているのか、瞬動並みのスピードで近づいた茶々丸が振るった剣は闇の障壁を切り裂く。更に斬りつけた勢いを加算して回し蹴りを放ち、ゲイルを蹴り飛ばした。
大洞窟の壁に強かに打ちつけられたゲイルが顔を上げると、そこにはネギが唱えた風精がいた。
「行け!」
ゲイルは絶体絶命の窮地に陥っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナーデレフ・アシュラフとマナ・アルカナの類似点。
一つ、両親の顔を知らぬこと。
二つ、戦地でゲリラに拾われたこと。
三つ、与えられた武器が銃であること。
四つ、四音階の組み鈴に攻撃を仕掛けたこと。
五つ、龍宮コウキに救われたこと。
六つ、同じ男を愛したこと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
戦闘をしていると自然破壊をしている楓とフォンの戦いと異なり、真名とナーデの戦いは静かな戦いだった。
銃弾を発射すれば発射音でかなりの音が出る。
静かなところならば数㎞離れた所からで発射音は聞き取れる。にも関わらず静かなのは、二人がまだ一発も撃っていないからだ。
時間とは違って戦況には何の変化もない。変わったのは二人が流す汗と漏らす息の量。
「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
真名は木の幹に背中を預けて息を乱しながら、中・長距離専用の武器であるスナイパーライフルを抱えてナーデの位置を探る。
顔を濡らす汗を煩わしく思いながら戦闘衣の袖で拭う。
「以前よりも更に強くなっている。相変わらずの化け物め」
「化け物扱いは酷くないかしら」
まるで耳元で囁かれたようにナーデの声が届く。
一瞬ビクリと跳ねた心臓を押さえつけ、真名は冷静さを装うように間を置いて答える。
「…………姿も見せずに声だけを届けるとは、性根は悪くなったようだ」
「これは木霊法っていって遠くにいる人間の耳に直接声を届ける技法なの。日本で仕事をした時に便利だったから習得したのよ」
くつくつ、と笑い声させて耳元で聞かされた真名の機嫌は良くない。
「嫌みを言えるようになったのは成長かしら。あんなに純粋に私達の後ろを付いて回って可愛らしかったのに」
更なる反論をしようと口を開いたところで、機先を制するようにナーデが言った。
口では勝てないと早々に真名は諦める。
小さな頃を知られているだけに、どうしても真名の方が分が悪い。元より弁が立つ方ではない真名では、目上の立場に当たる人間にナーデのような言い方をされると反論はし辛い。
「この二年何をしていたんだ」
「何も。戦って殺して奪って、そんなことばかりしていたわ」
四音階の組み鈴を脱退した後に何をしていたのか、真名には分からない。今語ったのはその一片だろう。
「最低だな」
真名は絶対にナーデの二年間を肯定しない。絶対に肯定してやらない。
二人の道は二年前の時点で別れた。
選んだのはナーデで、別れさせられたのは真名の方だ。自分で選んでその道を進んだナーデを肯定なんてしないし――――同情なんてしてやらない。
「ええ、全く」
ナーデだって同情されても困るから軽い口調で返してきているようだった。
寧ろ喜んでいるのかもしれない。同情されたら折れるから。
「もう止めなさい。マナでは私には勝てない」
姿を見せることも無く明瞭に声だけを届けるナーデ。未だ一発を銃を撃ち交わさないでも疲労を覚えている真名と比べるとその力量の差は歴然。
「この二年、戦い続けた私と普通の世界に身を置いたあなた。二年前の時点でも負けたのに勝てると本気で思っているの?」
力量の差があろうとも真名には負けられない理由がある。
「だからどうした。たかが力量で劣るからといって臆すような女に見えるか」
「出会ったことから生意気だったものね。私のコウキを殺そうとするし」
「それはナーデも同じだろう。聞いているぞ。お前も同じことをしたと」
「…………龍宮夫妻ね。あの二人はお喋りなんだから」
ピリピリとした錆び付くような空気の中で交わされるのは懐かしさすら感じる和やかな空気。
昔話を交えつつ、真名は同じ場所に留まる事をせずに移動する。
「甘い」
「ぐっ」
これはと思える木を見つけて滑り込もうとした刹那、耳元で恋を囁くように甘い声が聞こえてると同時に放たれた銃弾が真名の二の腕を掠めた。
痛みというよりも驚きで声を上げてしまい、持っていたスナイパーライフルを落してしまう。
スナイパーライフルを落すよりも身を隠すことを優先した真名は、脇の下から現れた二挺の拳銃に目を向けず、慣れた動作で空中にある間に掴み取ると同時に撃たれた方向へと発砲した。
拳銃の名はデザートイーグル。世界最強とも謳われる自動式拳銃である。
本来片手では扱いきれないと言われるデザートイーグルを易々と使いこなし、真名は精密な射撃で一切の容赦は無く、正確にナーデの居場所を導き出して連射する。
流石にライフル弾よりは威力が低い。が、真名はそれを物量で補う。反撃を試みるかもしれない相手の行動を弾丸で規制し、銃弾の暴風を吹き荒ばせた。
「残念、外れ」
「なっ!? ぐあっ……!?」
銃弾の嵐を掻い潜るように一発の銃弾が先程二の腕を掠ったのとは反対の腕を浅く傷つけていく。
「舐めるな!」
銃弾を撃っている方向から銃弾がやってくるという矛盾。
真名が狙っている場所に包囲網レベルで銃弾を撃っているのに、その場所から動くことなく逆に当ててくる技量。まるでマジックでもかけられたような気分になって、弾倉を異空から出して装填し直して更なる銃弾を浴びせかける。
「無駄よ。自覚しなさい。マナでは私に勝てない」
「っ!? 私は、龍宮、真名、だ!!」
今度は二発の銃弾が真名の両足を掠る。
四肢を正確に掠める銃弾。狙ってやっているとしか思えない攻撃の仕方に真名は侮られていると感じた。だが、だからといって抗弁できるだけの実力を示せていない。
「あら、下がるの?」
「うるさい」
「生意気だこと」
当初の予定通りに木の幹に全身を隠す。
効果のない弾幕を張ったところで無駄だと自覚して、戦術を練り直す為に間を置く必要があったのだ。
「隠れても無駄。私に死角はない」
真名の耳に奇妙な音が消えた。
弾丸の発射音が聞こえた後にガラス同士が擦れ合うような音が一瞬だけ聞こえた直後、真名の左足に痛みが走った。
痛みに呻いて左足を抑えると血がべっとりと掌に付いていた。
「馬鹿な。正面から弾が来るなど」
「言ったでしょ。私に死角なんてないって。木に隠れた程度で防げるとは思わないで」
幸いというのも変だが弾丸は足の肉の一部を抉っただけだ。治癒符を取り出して傷口に張り付ける。
治癒符の効果は優れた治癒術士に遠く及ばない。ハワイでこのような戦闘をすることなど想定していないので符のランクは低い。精々が痛み止めと少々の止血程度。撃たれた左足はもう不用意に動かすことは出来ないだろう。
「だが、見えたぞ。死角を死角にしない方法」
負傷に似合うだけの成果はあったと真名は痛みで脂汗を流しながら笑う。
「跳弾。それも弾速の遅い弾に当てて角度を変えたな」
ガラス同士が擦れ合うような音がその正体。弾速の違う銃をほぼ同時に撃ち、遅い弾を早い弾が弾くことでありえない角度に撃ち込んでいる。
装甲板や壁・岩などに当たって跳ねさせる普通の跳弾ならば真名にも可能だが、銃弾同士を当てて跳弾を引き起こす技術は真名にはない。自分が撃った弾丸を寸分狂わず、狙った場所に当てる為に角度を調整する技術は神域。二年前よりも遥かに強くなっている。
「正解だけど、分かったところで防ぐ術のないマナには止めようがないでしょ。虚勢を張るのはいいけど、根拠のないものほど無様なものはないわよ」
自分は二年前と比べて変わったのだろうかと真名は胸の裡で反芻する。
ナーデと別れてから肉体は大きく成長した。それに比して心も成長したのかと問われると疑問符が付く。
この二年、日常と非日常の狭間を行ったり来たりをしていた真名にはそこまでの自信を持てなかった。だが、それでもと真名は考える。
「虚勢でもなにもないよりはマシだ」
「あら、素直ね。二年前なら無駄に意地を張っていたのに」
「私も変わったんだ。もう子供じゃない」
意地を張っていることを認める。その上で、二年前と違うことを示す。
「コウキは死に、ナーデもいなくなった。私も変わらざるをえなかった」
二人と離れたことで守られるだけだったマナ・アルカナは変わった。
一人息子を喪った龍宮夫妻に引き取られ、龍宮真名と名前を変えた。名前が変わったところでその者の本質は変わらないのかもしれない。それでも変わる切っ掛けとしては十分だ。
生温い日常の中で真名は弱くなったかもしれない。だが、それでもと真名は吠える。
「二年だ。もう二年も経ったんだ。人が変わるには十分の時間だったんだよ、ナーデ」
「…………かもしれないわね。私は止まり、あなはた進み続けた」
決して取り戻せない時間の流れを感じ取ったのかもしれない。ナーデの言葉にはどこか哀愁にも似たような感情が感じられた。
「私は変わらない。変わるわけにはいかない。二年も経てば人は変わる。変わってしまった世界で蘇ったコウキが一人になってしまう。私にはそれが認められない」
二人の女は同じ男を愛した。なのにこうまで違う道を行く。
マナ・アルカナは弱い自分を受け入れて変わることを選び、龍宮真名となった。
ナーデレフ・アシュラフはコウキに執着して変わることを拒んだ。
未来へと進み続ける者と、過去を追い求める者。
どちらが正しいかなど全てを見通せる神にだって分かるはずがない。分かるとしたら、それはきっと二人が慕った龍宮コウキ以外にはいない。
「勝つ。コウキの願いを果たす為に」
「勝ってみせる。コウキを蘇らせるために」
男の生き様を愛した女と、男の命を愛した女の戦いは、どこか物哀しい。
想いのベクトルが前か後ろかの違いだけで、その本質が同じであるからか。
「そのデザートイーグルの残弾も一発ずつでしょ。動かない足で私に勝てるとでも?」
弾丸が貫通した真名の左足では、無理をしても走るどころか歩くことも出来ない。
両手が使えれば銃が使えるが実力で劣る真名から機動力が無くなれば戦術から多くの選択肢が消される。
「戦い様は幾らだってある」
真名は凭れていた木から離れ、その途上で左手に持っていたデザートイーグルを上空に投げて地にうつ伏せに寝そべるような姿勢に移行する。
右手に残ったデザートイーグルを両手で構え、狙いを見据える。
その銃口はナーデがいると目される場所ではなく、地面を向いていた。
「一体どこを狙って……」
困惑したナーデの言葉は一瞬の後に発射音に掻き消される。
発射音は二度、鳴り響く。
「ぐっ」
続いて漏らされたナーデの声には苦痛の色があった。
真名が狙っていた地面とは全く関係のない方向の木の影から肩を抑えたナーデが現れた。
傷はそれほど深くはない。だが、この戦いにおいて圧倒的な優位を誇ったナーデに傷を与えたことに意味がある。
「器用なことをするわね」
姿を現したナーデはニヤリと笑った真名と対峙する。
「落したスナイパーライフルに当てて空中に撥ね上げ、持ち替えて撃ったもう一発を銃身に当てて跳弾させる。あなたがしたことも大概、人のことを化け物扱い出来ないわよ」
ナーデがチラリと見た視線の先には、真名が落としたスナイパーライフルが落ちており、その銃身は歪んでいた。
最初に撃った一発を銃床に当てて銃身を撥ね上げさせ、宙に投げていたもう一丁のデザートイーグルに持ち替えて、金属部分である銃身に銃弾を当てて跳弾させる。言葉にすれば容易いが十分な神業である。
ニヤリと己が為したことを全て見透かされ、必勝を期したにも関わらず致命傷を与えられなかったことに焦りを覚えながらも真名は笑う。
「あの時と似たような形になったわね」
見下ろすナーデと傷を負って地に伏す真名。奇しくも二年前に別れた時と同じ構図であると語る。
「いいや、二年前は傷一つつけることが出来なかった。これが今の私だ。龍宮真名の力だ」
二年前、マナ・アルカナでは傷をつけることすらも出来ずに敗れた。今回もまた敗れるだろう。それでも二年前とは違うのだと、その身に刻み付けることに成功した。
泣いて縋ることしか出来なかった守られるだけの弱い子供はもういないのだと、その証明が出来た。
「……………」
二年前と同じ構図だからこそ、過去ではなく現在を突きつけられたナーデは苦々しい顔で真名を見下ろした。
その内心でどのような考えや感情が渦巻いているのか、動かすことが出来ない左足を地につけてナーデを見上げる真名には分からない。
「それでも私はコウキを生き返らせたい」
二年前も使っていた愛銃の銃口を真名へと向ける。
逃れようのない時の流れを見せつけられてもナーデは止まることが出来ない。これで止まれるような二年前の時点で止まっている。止まれないからこそ、この二年があるのだから。
「させない。私の命がある限り、止めてみせる」
真名にだって戦う理由がある。
本音を言えばこの島に来るまで、否、この戦いが始まるまでは迷っていた。
真名だってコウキが生き返るのなら嬉しい。ナーデの気持ちが良く解るからこそ、迷っていたのだ。
それでも止めようとするのは。
「『子供達に笑顔を』――――コウキの願いだ。その願いが侵されようとしているのに私が戦わない理由はない」
ナーデがコウキを生き返らせる為に二年間を過ごしたように、真名もまたコウキの願いを果たす為に二年間を過ごした。
「マナ……」
どこも似ていないのにコウキと同じ輝きを宿した瞳に射竦められたナーデの銃口がぶれる。
迷いか、逡巡か、惑いか。
銃口と同じようにぶれるナーデの瞳に真名は希望を見た。
「もう止めよう。私がいる。コウキの代わりにはなれないけど、私がいる」
「駄目よ。コウキを生き返らせようとどれだけの命を奪ったかを知らないからそんなことを言えるのよ。情報を得るためにどんな卑怯なこともしたわ。コウキも知ったら軽蔑するぐらいのことを」
差し伸べられた救済を拒絶するようにナーデは首を横に振った。
「軽蔑なんてしない」
「軽蔑するわ。私は罪を重ねすぎた」
ずっと大人に見えたナーデの子供ような仕草に、真名は己の未熟さを知る。
コウキとナーデとマナ、三人は何時も一緒だった。だけど、マナには分からなかった繋がりが二人にはあった。そのことに嫉妬を覚えもしたし、コウキと仮契約を交わしていたナーデに妬みの感情を向けて、我儘を言って困らせたこともある。
マナ・アルカナは子供だった。ナーデレフ・アシュラフと悲しみを共有できない程に、子供だったのだ。
「ナーデの罪は私の罪だ。私達は同じ人のパートナーじゃないか」
何時も肌身離さず持ち歩いている仮契約カードを取り出す。
主であるコウキが死んでから失効された仮契約カード。ナーデも自分と同じように持っていると真名には不思議な確信があった。
ナーデは血に濡れた手を胸元に当てた。そこに仮契約カードがあるのだろう。
捨てられなかった絆。繋がっている絆。確かに大切な物はそこにある。
「悲しみも罪も一緒に背負わせてくれ。私達は一人じゃない」
手を差し伸べる。
差し伸べられた手を見遣ってはっきりと表情を歪めたナーデを見た真名は、二年前はこんな簡単なことも出来なかったのだと思い知る。泣いて縋るだけで、ナーデのことを思いやることが出来なかった二年前の自分を罵倒したいぐらいだ。
「私は……」
ナーデの手がゆっくりと動く。
世界は残酷だ。この世は楽園ではないからこそ、大切にしていたものを奪われ、喪い、悲嘆にくれる。やり直してなんて出来なくて、重ねた罪は決して消えない。それでもこうやって手を差し伸べられるからこそ世界は地獄ではないと思える。
しかし、地獄ではなくても世界が残酷であることに変わりはない。
「やはり裏切るか」
小さく呟くような男の声が二人の耳朶を震わせた。
「マナ!」
その声を聞いて動いたのはナーデだった。真名は動けなかった。足を負傷していたから。
ドン、と突き飛ばされた真名は見た。
真名を突き飛ばしたその背中に突き刺さるハルバートを。
「ナーデ!?」
強い力で突き飛ばされた真名は地面を何回転も転がってようやく止まり、動かない左足を引き摺りながらうつ伏せに倒れ込んだナーデへと駆け寄ろうとした。
「邪魔をするな」
また同じ男の声が聞こえ、真名は不可思議な力で吹き飛ばされた。
魔力も気も感じられない力で吹き飛ばされた真名は近くの木に背中から叩きつけられ、少量ではあるが血を吐いた。
ザン、と雑草を踏みしめる音が地に落ちた真名の耳に届く。
痛みに呻きながらも音が聞こえた方向に顔を向ける。そこには鎧姿の男が厳しい面持ちで立っていた。
「フォン…………、何故あなたが、ここに」
ハルバート背中を深々と貫かれて口から大量の血を溢れ出しながら、ナーデは視線の先にいる男の名を呼んだ。
「裏切り者の抹殺。それ以外にあるまい」
ガシャガシャ、と鎧を鳴らしながらナーデに歩み寄ったフォンは冷たい声で断じた。
「うっ、ぐぁ……」
ナーデの腰を踏みつけ、痛みに呻く彼女の声を無視して深々と体に食い込んでいるハルバートの柄を握った。
既にナーデは重傷。刃は貫通はしていないが体内の臓器に食い込んでいることだろう。下手に抜けばそれだけで死ぬ。今の状態のまま早急に優れた治癒術士――――近衛木乃香の下へ連れて行けば助かる。
彼女の治癒能力を聞いていた真名が動かない理由はない。
「止めろ!」
「邪魔をするなと言ったはずだ」
新たな得物を呼び出して止めようとした真名を、またしてもフォンは封じる。
手を向けることなく、視線を向けるだけその場に縛り付けるその能力。魔力でもなく気でもないとすれば、真名の知識にあるのは一つだけだった
「サイコキネシス――――っ!?」
念動力に行動を縛り付けられた真名はギリギリと銃を持つ手が捻じられていくのを感じ取った。
「真名……っ」
「まだ他人の心配をする余裕があるのか」
握った柄を押し込み、ナーデの言葉を封じる。
「やはりボスの言った通りだった。お前は必ず裏切ると」
「狙って……いたと…………いうの、この時を?」
「ああ、隙あらば殺せと命を受けていた。思いの外、簡単に隙を見つけることが出来た」
更なる血を口から溢れさせるナーデを酷薄に見下ろしたフォンは冷酷に瞳を輝かせる。
「ボスからの伝言だ。『ナーデ、貴様は本当に良くやってくれた』だ。良かったな、ボスに認められてあの世に行くがいい。運が良ければ想い人に会えるかもしれないぞ。まあ、地獄に堕ちる女に会いに来るような酔狂な男はいないだろうがな」
ナーデ、と呼ぶなと脅した意趣返しを込めて嘲弄したフォンは柄に力を入れようとして、途中でピタリと動きを止めた。
「ボス?」
手を耳に当ててしまうという念話を受けた者が咄嗟にやってしまう行動を取ったフォンの顔には焦りがあった。
「どうされたのですか、ボス! ボス!?」
フォンが「ボス」と呼ぶのはゲイル・キングス以外にいない。
一方的に話して念話は切れたのか、応答を呼びかけても答える声はなかったようだった。
「ちっ」
フォンは一瞬で状況を判断し、乗っていたナーデの腰から足を下ろした。
「死ぬのが伸びたな」
それだけを言い残してハルバートを持って浮かび上がった。当然、ハルバートを抜かれたナーデの背中からは血がどっと溢れる。
魔力や気ではなく念動力を使っての浮遊をしたフォンはナーデを一顧だにすることなく、重力に逆らって空気を全く揺らさずにあっという間にその場からいなくなった。ゲイルの下へ向かったのだろう。
真名を縛り付けていた念動力をフォンが解いたのか、それとも単純に距離が離れたことで効果範囲から離れたか。真名にとってはどうでもいい問題だった。
「ナーデ! ナーデ!」
負傷した足では上手く歩くことが出来ない。左足を引き摺って虫の息のナーデの下へ駆け寄った。
「ナーデ……」
「ふふ、嗤っちゃうでしょ。こんな最後なんて。仮にも仲間だった奴に殺されるなんて当然の報いかしら」
もうどうやっても助からないと悟ってしまった真名と違って、ナーデの言葉は殊更に明るかった。
傷口が背中だから抱え上げることも出来なくて、嗤ったナーデの顔に何度も見て来た死相が浮かんでいることが分かってしまった真名の顔が泣きそうに歪んだ。
「死なせない……! 死なせてたまるものか!!」
手持ちの治癒符を全て取り出し、効果など度外視してナーデの背中に張り付けようとする。だが、その手はナーデ本人によって阻まれた。
「無駄よ。分かるでしょ」
血の気を失い、真っ青になっていた唇を染める鮮血から草が掠れたような、濁ったような声が放たれる。
今にも存在さえ掻き消えそうなほど痛々しいのに、ナーデの存在は真名には余りにも大きく見える。
「でも……!」
「私は死ぬ。それはもう変えられない現実なのよ」
口元も全身も血で染めながらナーデの表情は変に明るい。
ナーデの視線は夢見のように宙を彷徨い、口元に半笑いのような曖昧な笑みを浮かべて喋るたびに口から一滴、一滴と血が落ちて地を紅く染めていく。
「…………ごめんね。あなたに私まで看取らせることになるなんて」
「ナーデ……!」
コウキを看取ったのも真名だった。そしてまた一人、大切な人を看取れと現実は真名に迫る。
傍観することしか出来ない真名は、微々たる物でも血を止めるために傷口を抑えて泣きそうな顔をする。
現実を認めようが認めまいが真名に残る選択肢は少ない。
「まだだ! 近衛の治癒術なら瀕死だろうと助かる。直ぐにホテルに戻れば……」
直ぐにホテルに戻るには転移しかない。だが、高位魔法である転移を銃士である真名が使えるはずがない。となれば残るのは転移魔法符のみ。
しかし、真名は転移魔法符を持っていない。
「直ぐにネギ先生の下へ行けば…………。いや、それよりも刹那が持っている治癒符を使えば治るかも」
二人とも今も戦っている可能性が高い。
転移魔法符を持つネギは敵の首魁と相対しており、真名が持つ物よりも遥かに高等な治癒符を持っていた刹那だって負傷したナル・ディエンバーに使用したはずだろうから治癒符が残っているかどうか。
どの案も即座に実行できない。現実は代えられない。真名を取り囲む世界はこんなにも残酷だ。
「ねぇ、マナ。そこにいる? ゴホッ!! もう目が見えないの」
「…………いる。ここにいるぞ」
言葉の途中でナーデの口を塞ぐように溢れる鮮血。それを気にするでもなくナーデは双眸から一筋の涙を零しながら続ける。
失われた血液と比例するように霞む目は、真名に失われた血の量と反比例して命が減っていくような感覚を与える。
まだ生きているのが不思議なぐらいナーデが流した血は既に致死量を超えている。五感に影響が出たということは最期は近い。
「私はコウキのいるところに行けるかしら」
「きっと行ける。ナーデはずっと頑張って来たんだ。コウキも待っていてくれているさ」
確約なんて出来なくても、真名は断言した。
人が死んだどうなるのか、生きている真名には分からない。それでも全てをかなぐり捨てて愛しい人を追い求めたナーデがコウキと違う場所に行くというのは理不尽に過ぎる。せめて死後ぐらいは安らかに過ごしてさせてあげたい。
ナーデの目が見えないことを良いことに顔をクシャクシャに歪めた真名の言葉にはそんな気持ちが込められていた。
「嘘が下手な子」
ナーデには真名の嘘は簡単に見破られていた。
もし、ナーデがコウキの命ではなく願いを尊重していれば……………こんな事にはならなかっただろう。だが、もはやifはない。
これが結果であり、結末である。必死にやってきたこの結果に後悔していない。寧ろ、最も親しい者の腕の中で死ねるのだ。終わり方としては十分に上等なものだと血を失い過ぎて薄れてきた意識の中でナーデには思える。
「そんなに自分を責めないで」
「だって、こんなこんな結末!」
真名を知るものがこの場にいたら驚愕するだろう。普段は大人びている真名が子供のように駄々を捏ねているのだから。
自分を強く抱きしめる真名の頬にナーデの震える左手が触れる。
「あなたは私のようにはなったら駄目よ」
闇に堕ちた自分とは違う光の道を歩む子に祝福を。
今も考えることは同じ。どうか汚れないでそのままでいて欲しい。貴方には光り輝く道が似合うからとナーデは言葉に込めた。もう思いの丈を全ては話すことも出来なくなっていたから。
「ふふ……幻覚かしら。コウキが…………迎えにくれた……」
ナーデは和やかな表情になった。その表情の変化に真名は吸い込まれるようにナーデの顔に自分を顔を近づけていった。
「……待って、コウキ…………今、…………行く……でも…………マナが」
「ナーデ!」
言葉と共にどんどんナーデの目から光が薄れていき、言葉が途切れ途切れになっていく。
また自分の前から大切な人がいなくなる。その恐怖から引き止めるようと真名が声を掛けるも、ナーデは壊れた笛のような音が空気を揺らして呼吸を繰り返すだけ。
真名の世界は残酷だ。また大切な人を失っていく。
「マナ…………を…………置いて………………な……い」
言葉が聞こえていないかのように言葉を繰り出すナーデを前に、真名は自身が出来る事はもはやなにもなく、最後を看取ることしか出来ないことを悟った。 悟らざるをえなかった。
「大丈夫。私は大丈夫だから――――もういい。ありがとう、ナーデ。コウキと一緒に行け」
悟った現実を前に真名は歯を食い縛った。何故ならナーデに心配をかけたくなかったから、安らかに眠ってほしかったから。虚勢であろうとも通すべきものがある。かなりの血が流れ、体の感覚が薄れてきたナーデの耳に、その秋の落日を思わせるような穏やかな言葉ははっきりと聞こえた。
「そう…………真名……………バイバイ………………」
他の誰にも聴こえない。傍にいた真名の耳にだけ辛うじて聴こえた言葉。本当に安心したように言葉を呟く。
ナーデは薄れてきた意識の中で縛られ続けた思いから解放され、薄く笑みを浮かべて静かに目を細めるようにして頷いた。
それが本当に最期だった。真名の頬に添えられていたナーデの左手が離れて地に落ちる。最後の痙攣を見せて彼女の体中から力が抜けたのが、真名には分かった。
世界の不条理に翻弄され続けたナーデレフ・アシュラフは、真名の腕の中で眠るように息を引き取った。その顔には、苦悶の表情は無く笑みを浮かべ、どこまでも穏やかで幸せそうだった。彼女は報われた、と真名はそう信じる。それでも―――――。
「ぐっ!」
歯をきつく、強く、血が出るまで食いしばった。舌に感じる血の味だけが真名に冷静さを与えてくれる。覚ましてくれる。全てを――――憤りすら。
全ての感情が消えたような気になった。昼なのに、視界から深紅の色は消えはしない。
「あ…………は、あはははははは」
唐突に笑いの衝動が沸きあがって来た。身体のどこから出てきたのか分からない、意思のない笑い声のようなものが響いた瞬間、心が真っ白になった。何かが音を立てて崩れていった。
「―――――は、はははっ、はははははは!」
馬鹿げていた。今更何を恐れることがあるというのか。本当に今更な事を自覚して真名は壊れたように笑う。
忍耐という名の鋼で編まれた檻の中に押さえ込んでいた激情が虚空に消えるシャボン玉の様にあっさりと弾けていく。それは嵐の前の静けさの様な刹那の空白。
ゆっくりと白い思考の中にゆっくりと染み渡る哀惜が、感情を激しく揺さぶりながら真名の胸に溢れ、自責、呵責、喪失感、怒り、やるせなさ、悔恨、その全てが激しく渦巻いていく。
笑っているように自らを罵倒しているような哂い声が、辺りのひっそりとした空気に溶け込むようにして響いていく。 生と死の境界線があやふやになってくる。どこからが死なのか、どこまでが生なのか。首が離れていれば死、肌がまだ黄色ければ生。もう、どうでもよくなってくる。
思い出があった。ちゃんと、今でも生きている温かさがあった。忘れようのない、彼女の体温が直ぐ近くにあってくれた。生気を失い、どんどん冷たくなっていくナーデの体の熱を少しでも留めるように強く強く抱きしめていた。
誰にも奪わせぬように抱きしめながら、こんな結末しか生み出せない自分を呪い続けるように哂い続けた
何時までそうしていただろうか。既に真名が接触していた部分以外、ナーデの体が冷たくなるほどの時間は経過していた。
不意に真名は笑みを止めて、空を見上げた。
「泣けない。こんなにも胸が張り裂けそうなほど哀しいのに泣けないよ」
どうしようもなく悲しい時、人は泣く。泣いて涙と一緒に悲しみを流す。悲しみをそのままにしておくと、心が壊れてしまうから。
悲しいのに、まるで泣き方を忘れてしまったかのように涙が出てこない。苦しい時にも悲しい時にも、涙の代わりに歯を食い縛ってきた。あまりの哀しさに涙を流す器官が壊れてしまったかのように。
「真名……」
「あっ……」
フォンと戦って足止めすら出来なかった全身傷だらけの楓が真名をを包む込むように抱きしめ、母が我が子を子寝かしつける時のように背中を優しく撫でる。
温かい感触に真名は気の抜けたように声を上げて、弱弱しい力で離れようとする。
「すまぬ……。すまぬでござるっ」
楓はより強く抱きしめる腕に力を入れる。
「――ぁ、」
深い悔恨と後悔に苛まれた声に、それ以上の抵抗は出来ず何も言えなかった。決して離さないという意思が込められた行為と自身を労わる言葉に、真名の中に再び衝動が沸き起こる。安心したのか、何なのかは分からない。
今度は自分から抱きしめて、楓の胸の中で泣く変わりに思いのぶちまけるように叫び続ける。
楓も叶うならより違う言葉で慰めてやりたかった。だが、それは出来ずに無言で抱く腕に力を込める。
(拙者に何が言えるでござるか!)
フォンを止めることが出来なかった楓に泣く資格なんてない。
唇を噛み切り、血を流すほどに強い憤りの中で自らを傷つける。ズキリと響いた痛覚は、歯が皮膚を裂いた痛みか、それともなにも出来なかった無力感か、どちらであるにせよ、そんな生温い刺激で何が紛れるわけもない。
何時まで二人はそうしていただろうか。
「―――――もう、大丈夫だ」
やがて真名は楓の腕の中で身じろぎして、立ち上がった。
背中を見せて立ち上がったのでどのような表情をしているのかが分からない。でも、今の真名に戦えるはずがなかった。
「真名」
「行こう。まだみんな戦ってる」
「真名……!」
二度目の諌める言葉は叫びになっていた。
大切な人を目の前の喪ったのだ。それでも戦える者はいるだろうが、楓の見るところでは真名はそうではない。あの涙と叫びはたったあれだけで癒えるような傷ではないのだから止めなければならない。
「ナーデが!…………死んだんだ。せめて、仇を討たせてくれ」
「それは復讐でござるか?」
「そうだ、といったら行かせてくれるか」
「死にに行くわけではないでござるな」
「私は死ねない。大丈夫だと言ってしまったから当分その予定はないぞ」
振り返った真名の顔は逆光になって楓には見えない。
間に合わなかった負い目が、止め切れなかった負い目が、楓の目を曇らせる。
「拙者も一緒に行くでござる」
それでも、と今すぐにでも気絶したい痛みに喘ぎながら言えたのは砂浜で感じた友情からか。
「――――ありがとう」
その時、確かに真名は楓の言葉に安心して笑ったのだと確信できたからまだ戦うことが出来た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
暗い部屋、暗い声、暗い気配。様々な器具や五芒星や六芒星など数多の魔法陣に取り囲まれ、魔導書や禁術書が辺り構わず散乱しており、窓一つないことで陽の光が差し込まない部屋は暗いという以外のイメージを持つことすら出来ない。
「目は開いているが、もう起きているのか?」
暗い部屋にいるのは一人ではないようだ。誰かが部屋にいるもう一人の誰かへと話しかけている。
その光景を覚えている。恨みを憎しみを憎悪を覚えている。でも、口から声が出ることはなかった。口を開くことは出来ても声帯はまだその機能を知らぬかのように声は出ない。代わりに出たのは気泡だった。
「誕生の瞬間から意識はあるはずですが、まだ自意識と呼べるものにまでは覚醒していません。もう暫くの時間が必要となるでしょう」
ゴポリ、と口から気泡を吐き出した検体を白衣を着た初老の男はにこやかに見つめながら告げる。
初老の男と話しているのは烏の面を付けた男であった。まだ若いであろうその男からはこの部屋の暗い雰囲気に似合う独特のオーラを放っていた。
「当初の予定では覚醒を果たしているであろう」
「それは検体№665であります。こちらは検体№666。まあ、こちらも予定よりも遅れておりますが許容範囲内でございます」
№666と呼ばれた検体は口を塞ぐ救命マスクにも似た器具に口元を覆い隠されながら、再びゴポリと小さな気泡を吐き出した。
僅かに開かれた目は何も映し出してはいない。目の前にいる男二人も、男達の瞳の中に映る大型のシリンダーのような入れ物の中で揺蕩っている自分の姿も。
「666…………また随分と増えたものだ」
烏面の男は見ているだけでも不快と、視線を外して検体№666の右横へとずらしていく。
ずらりと並ぶガラスケースの山。大型のシリンダーの中の朽ちるに任せられてる生の宿らない瞳をこちらを見る失敗作達。余人であれば発狂しかねない光景である。
「そちらのは№660から№665でございます。特に№665は成功に近かったのですが、精神の定着が弱かったようです。数日前に覚醒したのですが、そのまま精神崩壊。まこと残念でございますが、この失敗によって№666の完成に役立ちました」
ニヤニヤ、と命を弄ぶ初老の男は自らの作品を誇るように笑みながら語る。人の形をした生命体がその命を生まれたと同時に終えたにも関わらず、にこやかに語るその精神性。尋常な人間であれば傍に近寄っただけで吐き気を催す邪気を、烏面の男は無感動に眺める。
「これほどに必要だったのか? 失敗作の処分だけでも費用は嵩むのだぞ」
「仕方有りませぬ。■■■■■の■■■■の作成など、いくら■■■が付着した剣が残っていたとしても無茶があります。しかも■■の■■も同時に行うとなれば、普通は不可能でありますぞ」
「出来るのは自分だけと言いたいのだろう」
「それはもう」
初老の男の眼に在るのは正気はなく狂気のみ。人の道を外れた外道と成り果てている。自分もまた同類であるので烏面の男は気にしなかった。
「■■■の目を逃れて■■を手に入れるのに随分と苦労したのだ。もう元に場所に戻した以上、二度目はない。やってもらわなければ困るぞ」
「分かっております。ご当主には感謝しかございません」
無茶であると言っているのに聞かぬ烏面の男に初老の男は困ったように髪の毛の薄い頭を掻いた。
「学会を追放され、行き場を失くしていた私に研究の場を与えて下さったこのご恩は決して忘れません」
感謝を示す様に深々と下げられた初老の男の薄い頭を見る烏面の男の目は冷たい。
「世事は良い。嘘を真のように言う輩の戯言を聞く気は無い」
「お見通しでありましたか」
「分からいでか」
無駄話をしている、と烏面の男が思ったのかは定かではない。が、この部屋にいるのは彼にとっても好ましいことはないようだ。顔色が僅かに悪い。
「経緯などどうでもいい」
初老の男の愉悦などどうでもいい烏面の男は切って捨てるが幾分の躊躇いも含めて、完成体と評された№666を見上げる。
「しかし、六百六十六で完成とは」
「新約聖書のヨハネの黙示録に記載されている獣の数字。お気になさりますかな」
「この業界であれば数字は大きな意味を持つ。偶然と切って捨てるには些か嵌り過ぎというものよ」
生者とは思えないガラスのような伽藍同の瞳でこちらを見返す№666の懸念を裡に抱え、しかし烏面の男は止まらない。この程度で止まるようなら彼は此処にはいない。
「我ら時坂は未だ新興の一族に過ぎぬ。先代の為したことを続け、我が代を以て上に立たねばならん。その為には貴様にはしっかりと働いてもらうぞ」
その眼は野心に燃えていた。その全てを検体№666――――半年後から月詠と呼ばれる者は産声を上げる代わりに見ていたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
剣は嘘をつかない。武器に思考はない。そこに善悪の判断はない。善行を為すのも悪行を犯すのも武器を操る使い手自身である。ならば剣とは己自身の善悪を、心の在り方を映す鏡でしかなく、戦闘行為そのものも己の悪徳、または善徳を証明する作業でしかない。
相手を打ち倒すためにどれだけの努力を重ねてきたか。寝食を惜しむように精進し、剣技のことを考えてきたか。生涯がどれだけ多く剣の一振りを研ぎ澄ませるために費やしてきたか。その所差が、結果が、刹那の内に判決されるのが戦闘行為というものである。少なくとも桜崎刹那にとって、戦闘行為というのはそういうものであった。
「ぐはっ」
振るった夕凪を柔らかい歩法で潜り抜け、横を通り過ぎる間際に振るった太刀が刹那を切り裂く。傷自体は浅い。薄皮の奥を僅かに切り裂いただけで戦闘行為に支障はない。
「月詠!」
侮られている、と刹那は感じ取る。感じ取れぬはずがない。
「やっぱ先輩の血はええ味がしますわ」
刹那が振り返った先、少し離れた所で背中を向けたままの月詠は振り返ることすらせずに小刀についた血を舐め取っている。先程からこの連続だ。どれだけ斬りかかろうとも月詠は刹那に僅かな傷を与えて流れる血を舐め取るばかり。
「次は肉の味を確かめてみましょか」
ぐるりと気味悪く首だけを振り返らせた月詠は、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべて体をくるりと回転させた。フリルの付いたスカートが舞い上がり、刹那よりも細い太腿が垣間見える。
一瞬でも見惚れてしまった自分を恥じて、刹那は夕凪を振り上げた。
「斬空閃!」
「斬空閃、二連」
縦一文字に地面を抉りながら進んでいた刹那が放った斬空閃は、月詠が放った十字の斬空閃に切り裂かれる。文字通り切り裂かれるという言葉が適していた。
斬空閃の大きさは刹那の方が大きい。にも拘らず、僅かな拮抗すらなく刹那の斬空閃は内側から食い破られる様に切り裂かれる。
「また……!?」
これで技を破られるのは何度目であろうか。斬空閃とぶつかって多少は威力が速度が弱まっている斬空閃二連を避けた刹那は歯噛みする。
「先輩は放つ技の気の練りが甘いんですわ。人よりも大きなポテンシャルを持ってるのに宝の持ち腐れですえ」
刹那が避ける方向を予測していたのか、先回りしていた月詠は言葉を放ちながら太刀を叩きつける。
「なにを!」
「半妖であろうともその半分は人よりもポテンシャルが高い妖怪のものです。器の大きさは人の比やありません。流石に純正には劣りますがな」
「さっきから何を言っているんだ!」
叩きつけられた太刀を軽々と跳ね返し、やり返すがあっさりと防御される。余裕を見せつけられているようで刹那の頭に血が上る。他人に触られたくないところを無遠慮に手を伸ばされているから特に。
「分からんはずがありませんやろ。この血、この力はとても唯人に出せるもんやあらしまへんで」
今度は太刀を振り上げる。だが、それすらも刹那は容易く受け止める。ギシリと拮抗する両者の得物。下から力を掛ける月詠と抗う刹那の瞳が近距離で火花を散らす。
「見えます。見えますで、うちには。先輩が隠している秘密が」
「私は何も隠してなどいない!」
力で押し返した刹那は夕凪に更なる気を込める。神鳴流奥義の一つ、一振りで岩をも真っ二つに斬る斬岩剣が放たれる。
「――――背中の翼。白くて綺麗やないですか」
最も力が乗る前に夕凪を横から払われ、技は不発となる。
斬岩剣を破った月詠はにこやかな笑みを浮かべて刹那から距離を取る。まるで今の言葉の反応を見るかのように殊更にゆっくりと。
「図星みたいやな。分かりやすい反応ですえ、先輩」
追撃をかけなかったこともそうであるが、それよりも斬岩剣を簡単に払わせるなど動揺が技に現れていた。
「き、さ、まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
未熟だった頃を除いて他人に、敵に隠し通してきた秘密を知られたことはなかった刹那が平静を失うのは早かった。
吠えながら夕凪を振り上げて怒りに任せて突進する姿は、速いが直線的で動きも大振りなので読みやすい。優れた身体能力に任せた攻撃、技量で上回る月詠には避けるのも容易いが敢えてしない。
「これだけでムキになるなんて、先輩は恥ずかしがり屋さんやな」
ギン、ギン、ギン、と技も何もないただ振り回しているだけの攻撃を簡単に捌く。子供が木の棒で遊んでいたように、だが力と速さはその限りではない刹那の大上段からの振り下ろしを簡単に躱した月詠は、斜め前に踏み出しながら避けて後ろ脚を円を描くように体を回転させる。
「ほい」
「がっ、く……」
そのまま横を通り過ぎるかと思われたが置き土産のように太刀の柄を刹那のこめかみに叩き込む。
軽く叩きこまれたようなふざけた声とは裏腹に、こめかみに太刀の柄を食らった刹那は苦痛の呻きを上げて倒れ込んだ。
「でも、猪の如く突進したって勝てやしませんで。勿論、武器の所為にしてもあかんで」
打たれたこめかみから血を流しながら蹲る刹那に対して、まるで師が弟子に教えるように諭す。
対人戦では小回りが利かない野太刀は不利。神鳴流とは人よりも巨大な力を持つ魔を払うための剣技。その為にはより大きな力を発揮できるように武器を大きくする必要があった。その為の野太刀である。
頭を打たれたことで脳震盪を起こしているのだろう。直ぐに立ち上がれない様子の刹那を見下ろした月詠は別種の意味で呻きを漏らした。
「んぅ」
月詠は何かを取り戻す様に自分の額を小太刀の柄でコンコンと叩く。
「全く忌々しい。生まれでいらんものを背負わされると面倒ですわ」
脳震盪で揺れる視界の中で見る月詠の姿は歪んで見える。でも、何故かその時に見えた月詠の表情には共感を覚えた。共感してしまった自分を、刹那は否定する。
「知る、ものか……! さっきから勝手なことをペラペラと」
「まあ、そうですわな。似合わんことをしてる自覚はあります。それも含めてってのは分かってもらえへんと思うけど」
震える膝で立ち上がった刹那の前で、緩やかに瞼を開いた月詠の瞳がはっきりと変わる。スイッチが切り替わるように、血を好み殺戮を楽しむ鬼の如き眼へと。
「講義はここまでや。これからは殺し合いをしましょ。これ以上、過去に追いかけられるのは互いに不快やろ」
月詠の瞳に走った一抹の寂寥感を刹那は見逃さなかった。
見逃さなかったからといって何か変わるわけではない。二人の間にある技量差は覆しようが無く、このまま戦えば刹那の敗北となるだろう。
「負けない、私は」
負けられないと刹那は震える膝を叱咤して月詠を睨み付ける。
月詠の変化、自身の弱さ、秘密、過去、全てを心の奥底に沈めて夕凪を構える。
月詠が両手に太刀と小太刀を携えた構えた。途端に刹那の肌に鳥肌が立つような殺気が発せられた。殺気に抗おうと殆ど裏返らんばかりの声で叫んだ。
「負けられないんだ、私は!」
二人の間合いがじりっと迫る。空気が糸を巻くように引き絞られ、端から耐え切れずに裂けていく。
「行きますえ」
ゆらり、と何気ないしぐさで太刀を振りかぶった直後、いきなり月詠がするすると間合いを踏み込んで詰めてきた。まるで影が滑るような、気配のない動き。その気配同様の空気を掻き乱すような粗暴さとは対極の、洗練された身のこなしだった。細かな駆け引き、フェイント、複雑なテクニック。そんなものとは無縁の直線的な踏み込みから、始動の読みづらい、そして十分に重く速い、つまり申し分なく鋭い右に持つ太刀で神速の唐竹割りの一閃を見舞った。
真っ直ぐ切り下ろすシンプルな太刀筋。ただ、これが速い。とにかく速い。閃光の速さで接近してくる。無音・無風で稲妻のような斬撃が、刹那の右肩に喰いこむ様に放たれた。例えて言うならば、アマチュアボクサーがボクシングの世界ランカーに本気のジャブを打たれたようなものだ。しかも、軽い拳と違って必殺の一刀である。
「?!」
気付いた時には眼前に迫っていたこれを、半ば本能的な反応で体が動いた。速球投手のピンボールを避けるような動作で刹那は大きく横に飛び退いて、どうにか避けることで身を守る。しかし、月詠はぴったりとそれを追いかけてきた。斬り払った太刀を戻さず、そのまま回転力を活かして太刀でまたも横薙ぎに逃げる刹那を追いかけるように繰り出す。
これもギリギリで躱した刹那の背筋を、死の恐怖が駆け上る。斜めの斬撃から切り替えして横薙ぎの斬撃まで、完全な一挙動。刹那の動きを完全に見切った上での連続攻撃だった。
だが、その程度で臆するようならば戦いの場になど出て気はしない。刹那は鋭く、月詠は獰猛に、お互いを睨みつける。
迫る月詠に向けて刹那が切り上げる斬撃を放った直後、鈍く響いた激突音。二つの刃がぶつかり、共に弾かれた。
伸びきった腕と武器を引き戻すと、次の瞬間に二人の神鳴流はどちらからともなく打ち込んだ。熾烈な剣のぶつかり合いが始まった。
「シャァァァァァッッッッ!」
「ハァアアアアアアアアア!」
刃と刃が擦れ、火花を散らす。その火花で互いの動きのほんの一瞬ずつだけだが網膜に残像する。どちらも、一瞬たりとも留まってはいなかった。踏み込み、斬り合い、鍔ぜり合う。刹那は鋼のぶつかる音の隙間で問いかける。
「何故だ! 何故これほどの力が、才能が有りながら魔に堕ちた月詠……!!」
鶴子に聞いた話。実際に戦って見た感触。その全てが月詠の力を物語っていた。故に叫ばずにはいられなかった。
「うちにとって『闘う』ていうんは『生きる』ということと同意義やから」
剣撃の狭間で遠く聞こえる月詠の声からは、あらゆる感情の色が失われていた。怒りも憎しみも悲しみも遠く、ただ恐ろしく静かに刹那を見つめていた。見つめているのは、過去であったか、未来でったか、それとも現在であったか。
「闘っている時だけは、生きていると実感出来るんや。それ以外の間は死んでる。分かるやろう、うちにとって闘いこそが全て」
失われていた感情に熱が籠り始める。
「ああ、闘うのが好きや。殺し合うのがなによりも好きや」
剣もまた変わる。苛烈に、情熱的に、だがどこか冷めた不可思議な感情が込められて刹那を圧倒する。
「それこそがうちに与えられた宿命。『ひな』に見初められてもうた運命や」
「何を!」
「先輩には分かりやしませんやろ。いや、もしかしたら理解は出来るかもしれへんな…………人は生まれを変えられへんのやから」
冷静さをかなぐり捨てて詰問する刹那に、月詠が答える。
片方が剣を打ち込む。もう片方がそれを剣で防ぐ。片方が剣をねじ込む、叩き込む。もう片方がそれを剣で弾く、凌ぐ。剣と剣が幾度となくぶつかり合い、弾け飛び、火花を散らし、優位を競う。それは闘争の原点ともいうべき、原始的なぶつかり合いだった。
「アハハハハハハハッ」
月詠は、声を上げて笑いながら戦っていた。あたかも、彼女にとって戦闘することが悦楽そのものであるかのように。
どちらの剣が力強いか、どちらの剣が速いか、どちらの剣が鋭いか―――――。そうした部分で競う勝負。柔と剛で言えば、分かり易い『剛』の勝負。だが、勿論これだけが剣術ではない。二人は神鳴流剣士。気を振りまいて、風が飛び、雷が振り降り、気の花びらが舞う。
「斬鉄閃!」
「斬鉄閃二連」
螺旋状に気を放つ剣技を放つタイミングさえ同じ。ただし、月詠は横合いに走りながら、刹那はその場に立ったままで。
月詠はここで今まで使わなかった小太刀を振り下ろした。曲線状に放っての斬空閃が刹那に目がけて放たれる。刹那は素早く避け、今まで彼女の立っていた背後の木へと斬空閃がぶつかり、始めからなんの障害もなかったように切り裂いた。
「楽しいですけど、他にも獲物がたんといますさかい、もう終わらせましょ」
回避場所に先回りされていた刹那の目前で光が瞬いた。月詠が振るった二刀がその軌跡を描いた数は十六。
「あ」
血飛沫が上がる。その発生源は切り裂かれた刹那の体である。十六連の斬撃によって四肢と胴体を切り裂かれた刹那の体から力が抜ける。
「先輩は決して勝てやしません。神鳴流を最も知るのはうちなんやから」
膝を付き、その頭を地面に落とした刹那の前で月詠は両刀を振るう。血を払われた二刀の輝きが不思議と倒れた刹那の目を惹く。
「剣に魅入られ、剣に魅せられた我が人生。どんな皮肉か二度目を経験しとりますが、為すことは何も変わりやしません。前のことは記録としてしか覚えとらんけど、うちには剣が全て。闘争こそが我が故郷。切って斬るのみ」
憂いを湛えたその瞳に魅入られる。殺人を楽しむ人格と別の人格、子供のような大人のような、その内面に大きな矛盾を抱えた瞳。壊れてしまって救われなかった心は鏡を見ているようで。
『こんな……こんな白い翼があるから!!』
何時かの自分の言葉を思い出す。何時かの自分の姿を思い出す。何時かの自分に手を差し伸べてくれた人を思い出す。
「お前が…………何を願おうが、私の知ったことじゃない」
地に手を着いて体を起こす。力を入れるだけで血が溢れ出すが胸にある思いが体を留めさせない。
「私はお前が嫌いだ」
立ち上がって夕凪を構える。共感を抱かせることが、その技術に僅かなりとも尊敬を抱いてしまうことが認められなくて反発する。
「先輩のような人は今まで近くにはおらへんかったから、うちは先輩のことけっこう好きやで。それでも殺すんや。殺すことでしかうちは生を実感できひん。生きるためにうちは先輩を殺す。その血の滾りでうちを愛して!」
夕凪を構えた刹那に答えるように月詠もまた二刀を掲げる。次が最後と言葉を交わさなくても互いに理解しあった。
「「神鳴流奥義――――」」
月詠が掲げた二刀に紫電が走る。刹那の夕凪にもまた同じ紫電が光った。
「「――――極大雷鳴剣!!」」
奇しくも互いに放った技のタイミングから、技の末尾まで同じであった。しかし、結果は違った。
同じ技、同じタイミングで放たれた極大雷鳴剣は二人の中心で炸裂した。技の威力、冴え、その全てにおいて月詠の極大雷鳴剣が上回っている。夕凪を弾き飛ばされ、刹那の体に相殺しきれなかった月詠の極大雷鳴剣が当たる。
「ぐぁああああああああ!!」
雷に焼かれる肉体。その痛みに刹那は絶叫する。
「さよなら、先輩」
トドメ、と伸ばされた小太刀の一刀が刹那の喉を突き刺してその命を奪う――――はずであった。
「なっ」
刹那の胸元で突如として光り輝いたペンダントが雷を払い、小太刀を受け止めている。
光に小太刀を押し留められた月詠の驚愕の隙間に、刹那はスカートのポケットに入れていたアーティファクトが熱を持っているのを感じ取って、無意識の内に「アデアット」と唱えていた。
「剣の神・建御雷!!」
「翼ある剣士」と称号が書かれた仮契約カードが今まで以上に輝き、身の丈を超える巨大な石剣が刹那の手に収まっていた。既にエネルギーは臨界に高まっており、今にも爆発しそうに紫電を撒き散らしている。
彼女のアーティファクトはアスカの『絆の銀』のような特殊な能力なんてない、ごく単純なアーティファクトである。ただ、基本の能力が刹那に合致していて、契約者が木乃香であるからこそ敵対する相手に脅威を振り撒く。
「月詠ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
契約者の魔力を充填して雷属性に変化する剣が下から斜め上に振り上げられた。
魔力を充填して放つので気の遣い手である刹那は神鳴流の技を使えない。魔力と気は反発する性質を持っているからだ。ただ、アーティファクトである建御雷の雷に方向性を与えるだけ。雷を得手とする神鳴流の遣い手である刹那自身の特性に合わさって、脅威を感じさせる威力を解き放つ。
「がぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
これしかないというタイミングで放たれた至近距離からの雷撃が今度は月詠の体を焼く。
刹那は巻き込まれない様に後ろに跳び退り、先の極大雷鳴剣と今までの攻撃のダメージが重くて膝を付く。
『せっちゃん。これお守り代わりに付けてって』
ホテルを出る前に木乃香から渡されたペンダントが、刹那の胸元でパキリとその役目を終えて砕け落ちる。
「私一人では勝てなかった。ありがとう、このちゃん」
木乃香から渡されたペンダントに守護の力がなければ、仮契約をしていなければ、負けていたのは刹那の方だった。
どうして木乃香が守護の力を持つペンダントを持っていたのかは分からないが、祖父である学園長が裏の世界に関わった孫娘に用心に持たせたのだろうと考え、後で壊してしまったことを謝らなければと心に決める。
感謝も同時に伝えなければならない。仮契約カードが熱を持っていたのは木乃香がずっと魔力を注ぎ続けてくれていたのだろう。誰かの助けがあったとしても素人よりは大分マシという程度でしかない木乃香にはどれだけの苦労であったか。
「私の、私達の勝ちだ」
この勝利は刹那一人のものではない。木乃香がいて始めて到達した勝利。刹那は誇るように建御雷を握る。
「…………負けましたなぁ」
「なっ」
小さく掠れた声が刹那の耳朶を震わし、慌てて顔を上げた。そして絶句する。
「お、とこ……?」
刹那のアーティファクトである剣の神・建御雷の雷によって焼き尽くされたその全身は酷いものだった。咄嗟に気を全身を覆うように展開したことで即死は免れたかもしれないが、木乃香の魔力が存分に込められた雷によって生きているのが不思議なほどの重度の火傷を負っている。だが、問題はそこではない。服も焼かれ、剥き出しになった上半身にこそ驚きがあった。
「うちは自分が女やなんて一言でも言った覚えはありませんで、先輩」
月詠の年齢は刹那と同じか、一つか二つ下ぐらい。にもかかわらず、その胸は女性的な膨らみをしていなかった。平らな、それどころか男性特有の筋肉が火傷をした肌に浮いていた。
「骨身に染みるほどの良い一撃でしたわ。これほどの痛みは久しぶりですえ。死んだ時以来ですわ」
「死んだ時? 何を言って……」
刹那の中で疑念が膨れ上がる。思えば月詠にはおかしなところが多すぎた。
鶴子に聞いた話では神鳴流の技を見ただけで模倣し、その出自すら怪しい。妖刀ひなを奪ったその目的すらも定かではない。あまりにも謎が多すぎる。
『神鳴流を最も知るのはうちなんやから』
『どんな皮肉か二度目を経験しとりますが、為すことは何も変わりやしません。前のことは薄ぼんやりとしか覚えとらんけど』
『死んだ時以来ですわ』
この戦いで月詠が漏らした数々の言葉を思い出す。
(おかしい。まるで一度死んで生き返ったような言い方だ。それに神鳴流を自分が最も知るというのもおかしい。月詠は神鳴流を見たことしかないはずだ)
ぐるぐると情報が頭の中で錯綜する。
刹那は頭が良いわけではない。勉学の意味ではない。勉学も良くはないがこの場合は頭の回り具合である。刹那ではこの答えを導き出せない。
「―――――――――最初に目が覚めたのは暗い部屋でしたわ」
火傷の苦痛に呻きながら楽しげに月詠は語る。
「頭の中に巡る知らない誰かの生まれてから死ぬまでの記憶。いや、実感がない分だけ記録いうんでしょうな。斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って…………………………そんな記録ばかりがうちの中にあるんですわ」
クツクツ、と何が楽しいのか笑う月詠が今は恐ろしい。
生まれたその瞬間から別人の記憶を、それも斬ってばかりの記録を見せ続けられた人はどうなるのか。その実例が目の前で嗤う。
「お前は…………誰だ?」
人の闇を凝縮したようなその笑みが刹那の中に流れる妖の面を惹きつけて止まぬからこそ、このままでは人間性を剥ぎ取られるような恐怖があった。それでも問わずにはいられなかった。
「青山です。下の名は忘れてしまいましたわ」
青山。神鳴流宗家の名。一度死んで、自らが最も神鳴流を知ると語る者。
「ば、馬鹿な?! 宗家で未成年は素子様のみ。貴様などは」
鶴子の弟子であった刹那が気づかないはずがない。彼女の家族構成は家に招かれたこともあるので良く知っており、月詠のような子供がいるはずがない。
刹那の動揺を、ニタリと火傷で覆われた顔で哂う月詠。存在しないはずの子供、その子供がいるのには理由が必要となる。その秘密を明らかにする。
「クローン計画。神鳴流が管理する妖刀ひなに残された『初代』青山のDNAからクローニングされて生み出された666番目の検体。それがうちです」
妖刀ひな。それは昔、この刀を手にした剣士でもないただの男によって全神鳴流剣士を絶滅の際まで追い詰められた妖刀である。男を止めたのは既に老齢で現役を引退していた初代青山。腹をひなに貫かれながらも男の首を撥ねたのだ。その時に負った傷が元で初代は死亡。
死んで終わったはずの男を現代に蘇らえて続かせたのは二人の男の狂気。
「時坂が何の為に初代青山を蘇らせようとしたのかは分かりません。体だけやなくて記憶も定着させようとして失敗したみたいやけど」
青山鶴子は神鳴流の歴史の中で一、二位を争う実力があると言われている。だが、その論争の中では神鳴流を興した初代青山の名が必ず挙げられる。それほどの剣士だったのだ初代青山は。
月詠に才能があったわけではない。与えられた情報を見れば直ぐに分かる、神鳴流の創始者がその技を使えて当たり前なのだから。
「今より怪異が蔓延っていた昔の方が神鳴流の質も高かった。彼らを滅ぼしかけたひなをうちが振るえばどれだけ殺せるんやろうな。ま、時坂がうちにひなを盗ませたんはその力を制御して関西呪術協会を乗っ取ろうとしたのか、今となっては意味もないことですわな」
自分のことなのに他人事のように語る月詠。刹那にはその神経が理解できない。
「先輩には感謝しとります。先輩のお蔭で時坂が仕込んだ仕掛けが壊れてくれた」
「仕掛け?」
「あいつらもうちのことは信用しとらんかったみたいで、監視みたいなことをしてたらしいですわ。命令にも逆らえへんかったし。でも、それがさっきの雷撃で壊れた。これでうちは自由、感謝しかありませんわ」
全身に大火傷を負って生きているだけでも不思議なぐらいなのに、それを行なった相手に感謝を捧げるその精神性を垣間見て刹那は確信した。
「お前は壊れている……っ!」
「かも、しれませんな」
にへら、と月詠はピエロのような張り付いた笑みを浮かべた。
「父もなく母もなく、試験管の中で生まれたうちは本当に人間て呼べますの? 初代青山の剣を魅せられ続けたうちがまともでいられると思いますの? 妖刀と呼ばれる『ひな』に見初められたうちが正気を保っていられると考えたんですか?」
人間の定義とは何か。はたして人と同じ姿形をしていれば同じ人と言えるのか。剣に魅せられ、剣に魅入られた月詠ははたして人なのか、刹那には分からない。だが、どうしようもなく月詠を恐ろしいと感じた。
木乃香との繋がりである建御雷がとても頼りなく思える。刹那の全身は恐怖で震えていた。
殺されるのではなく月詠の闇に喰われる。刹那の妖としての部分が目の前にいる化生に反応して疼く。それがどうしようもなく怖い。
「おっと」
喰われる、と刹那が感じ取ったところで月詠は眩暈がしたかのように体を揺らした。
「これはヤバいですわ。流石にこのままでは死んでしまいますな」
火傷だらけの全身を見渡し、いっそ無邪気に自分の死を予測した月詠は僅かに考える仕草を浮かべると、なんとか焼け残っていたスカートのポケットから一枚の札を取り出した。それが転移魔法符であることは実物を数日前に見たことのある刹那には分かった。
「ま、待て!」
月詠はこのまま去ってくれるようだった。ならば、大人しく見送るのが正しい選択。月詠に恐怖を抱いた刹那はもう戦えないのだから。
「なんで」
何を問おうとしているのか。刹那にも分からなかった。でも、何かを聞かなければならないはずだった。
「なんで男なのに女装をしていたんだ」
しかし、口から出たのは本心とは全く関係のない質問だった。
「なんでって…………うちは青山やなく月詠ですから」
自分で青山と名乗っておきながら答えになっていない。でも、それが答えのような気がした。
「また会いましょう、先輩。次こそ殺してあげます」
そして月詠はいなくなった。
或いは詠春に出会わなければ、或いは鶴子に見い出されなければ、或いは木乃香に救われなければ、月詠のようになってしまったのではないかと思った刹那の裡に大きく広い疵だけを深々と残して。
「ぐはっ」
ネギの魔法の射手に吹き飛ばされたゲイル・キングスが大洞窟の壁に激突する。
茶々丸の存在を近くに感じながら、何時でも詠唱できるように頭の中で次に放つ魔法をピックアップしながら父から貰った杖を構える。
「このままでは勝てんな」
ガラリ、と苦痛の呻きと共に瓦礫をどける音が響く。
聞こえる苦痛の呻き、油断なく構えているであろう茶々丸が地を踏みしめる音を聞きながらネギは胸に湧いた感覚に戸惑いを覚えた。
ネギの戸惑いをお見通しかのように唇の端から垂れる血を拭いながらゲイルが立ち上がる。
「楽しかろう。上に立っていた者を叩き落とす極上の気分は、どんな美酒で早々は味わえん。と言っても、子供に酒の話など分からぬか」
「ぼ、僕は楽しくなんかない」
「嘘だな」
子供、という単語に自分に言われていると判断したネギは、一瞬でも胸の裡に沸いた感情を言い当てられた動揺した。
「恥じることはない。己の強さに酔い、鍛え上げた力で弱者を甚振って喜びを覚えるのは人の性だ。どんな聖人君子であろうとも人の性は消せん」
「そんなあなたの理屈なんて……!」
「この世に力ほど純粋で単純な法は無い。生物は須らく弱肉強食、万物不変の理だ。その理に反するのは人のみ。知性だ理性だなどと理屈をつけて目を背けたところで現実は代えられん」
目を開けていなくても笑い声が聞こえなくても、ゲイルの声の調子から嗤っていると分かった。
「そこで、だ。提案がある」
一度切って言葉に溜を作るゲイルに攻撃を仕掛けられなかった。
茶々丸がこちらを窺ってくるような気配があるが、何故かこの時のネギはゲイルの提案を聞こうという気になっていた。それこそがネギを動揺させ、話を聞く気にさせたゲイルの話術とも知らずに。
「私の仲間にならないか?」
「え?」
「私に協力すれば死者を蘇らせ、不老不死となれる水を手に入れられるのだ。悪い話ではあるまい」
敵わぬとみての懐柔であろうか。戦おうとする気配も見せず、ゲイルはいっそ不気味なほどに問いかける。
「今、必要にならなくとも不慮の死というのもある。死者を蘇らせることも可能な水を手元に置いておくのは得にはなっても決して損にはなるまい」
魅力的な提案であった。一瞬とはいえ、六年前に村を滅ぼされて人の命は儚いのだと知っているネギの心が揺らぐ程度には。
即座の否定が出来ないネギの代わりと言うわけではないだろうが、茶々丸が一歩前に出る。
「その為にエミリアさんを犠牲にしろと?」
「犠牲にもならん。カネの水を飲ませれば蘇る。村の人間も同様だ。死に意味はなくなる」
本当に死者を蘇らせられるのならエミリアを生贄に捧げようとも、湧き出した水を飲ませれば生き返ることが出来る。犠牲にもならないのだと言うゲイルの言葉は的を射ていた。ゲイルの言うことが真実だとすればだ。
「…………あなたが私達を生かしておくという保証はありません。そもそも信用なりません。今までの自分の行いを振り返りなさい下郎」
一瞬でも揺らいだネギと違って茶々丸は辛辣なほどの言葉を返す。
「所詮は機械。交渉するだけ無駄であったか」
クックックッ、と笑ったゲイルの気配が再び剣呑な物へと変わる。
「ネギ先生、行けますか?」
「大丈夫です。心配をお掛けしてすみません」
「いいえ、奴が言っているように私は機械です。マスターより先生達を守り、敵を撃ち倒せと命令を受けています。私は私に与えられた存在証明を果たすのみです」
マスターであるエヴァンジェリンの命令を順守する。茶々丸の行動は全てそれに直結している。故に彼女は敵から交渉を持ち掛けられようとも揺らぐことなく対処できる。機械であるが故の長所であり―――――短所でもあった。命令に忠実過ぎて柔軟性がない。
裏を読むことがないから、敵の思惑を読み切れない。
「ボス!」
三人以外の声が大洞窟の中に響き渡る。
ネギはその声に目を開けてしまった。
「御無事ですか!」
「ああ、フォン。良くぞ、良くぞ間に合ってくれた」
現れたのはフォン・ブラウン。鎧に血を付着させた彼は魔力も気も感じられない不思議な力でゲイルの近くに降り立つと、彼の無事を確認すると深い安堵の息を吐いた。
「目を閉じて下さい。魔眼に魅入られます」
フォンから自然とゲイルの姿を視界に入れてしまったネギの目を茶々丸が塞ぐ。
効かない茶々丸はともかく、ネギは魔眼対策としてずっと目を閉じていなくてはいけない。だが、僅かとはいえゲイルの姿を見てしまったネギの気持ちは複雑だった。
ゲイルは右腕を失っていた。茶々丸が斬り落したのだろう。他にも決して浅からぬ傷が複数。アスカのように一度敵と決めれば完膚なきまでに倒しきれないネギから戦意が薄れるのは当然と言えた。
「その様子ではナーデレフ・アシュラフは始末しきれなかったか」
「ええ。ですが、あの傷ならば助からないでしょう。雑魚二人を見逃してしまったのは痛いですが」
「構わん。良くやってくれたフォン」
「はっ」
ガチャリ、と大きな音がした。フォンが動いたことで鎧が鳴ったのだ。目を閉じているネギには見えないがフォンはゲイルの前に片膝をついていた。まるでその姿は主に忠誠を誓う騎士の姿のようだと目を開けていれば思ったことだろう。
「このままでは私は殺されていたことだろう。本当に良くやって来てくれた」
「当然のことをしたまでです」
ネギにその気はなくても茶々丸の攻撃全てが致死を狙っていた。時間稼ぎも限界だったところを考えば大袈裟な言葉ではない。それでもフォンは勿体言葉をかけらたように頭を下げ続けていた。
「奴らにこの報いは与えんとな」
「それは俺に任せて下さい。あの二人程度なら大して時間はかかりません」
来るか、とどうやってもフォンに隙を見い出せず、攻撃を仕掛けられなかった茶々丸は身構えた。
膝を上げ、ゲイルを守るように前に立ったフォンはゲイルに向けていたのとは真逆の苛烈な瞳でネギと茶々丸を見る。
「貴様らはただでは殺さん。地獄の苦しみを味わって死んで行け」
勝てないだろう、とネギは静かに予感する。ゲイルには魔眼以外に目立った特徴はなく、その魔眼が効かない茶々丸という天敵がいたからこそ戦況は優位に運べていた。フォンにはそのような弱点はない。少なくともまだ分かっていない。
数の上では二対二だが、フォンの参入でネギ達の不利は決定づけられた。それでもやるのだと心を奮い立たせていたところだった。
「させないよ」
声の直後、ネギの魔力を大きく上回る巨大なパワーが走り、ゲイル達へとぶつかる。轟音が響き渡った。
「何者だ!?」
ネスカの雷の暴風を弾き飛ばしたように謎の力で受けたのだろうフォンの鎧には罅が入っていた。パワーを受け止めきれなかったのだ。
カツカツ、と先の攻撃を放った張本人がゆっくりと現れる。馴染みのある気配にネギは魔眼対策に閉じていた目を思わず開いた。
「正義の味方、かな」
狙ったような憎たらしいほどの絶好のタイミングで現れた男が軽く告げるのを聞いて、ネギは全身の肌が粟立つのを感じ取った。
「――――タカミチ!」
くたびれたスーツを着て咥え煙草を吹かしながらポケットに手を入れている男――――タカミチ・T・高畑の名をネギは喜色を込めて叫んだ。
フォン「戦闘力1500だと? 俺はまだ三割しか力を出していないぞ」と、フォン・ブラウンは申しております。
ナーデは最期に「マナ」ではなく「真名」と呼んでいます。
今話のテーマは以下の二つ。
問1.大切な人を喪った者は、その大切な人を取り戻す為に身内だった者を殺せるか?
問2.無機物に魔眼は効果を発揮するのか?
勝ったのに勝った気がしないせっちゃんの回。改めて言いますが月詠関連はオリジナル設定です。
月詠が刹那の翼を見えるのは、アスカにさよが見えるのと同じ理由です(クローンではありません)