魔法先生ツインズ+1   作:スターゲイザー

34 / 99
読む前に「第31話 転換」の最後辺りをお読みください。
独自設定の嵐です。


纏め一話の文字数が2万に達しないと、短いと思ってしまうのは色々とおかしい。


第34話 止まない雨

 

 四肢の殆どを欠損して尚もヘルマンの口は止まらない。

 

「今こそが君の待ち望んだ復讐の時だ。トドメを刺したまえ。でなければ私は魔界に戻るだけだぞ」

 

 末端から煙となって消えていくヘルマン。体を構成する魔力が霧散し、完全に消えたとき召喚を解かれ魔界に帰るだけとなるはずだった。

 

「さぁ、私を殺したまえ。君にはそうする義務も権利もある」 

 

 どこまで本気なのか、穏やかな微笑からは窺い知ることは出来ない。しかし、声音に込められた、惜しみのない賞賛の意思は確かに感じ取れた。

 

「……………………もう、沢山だ」

 

 一時の激情が抜けたように無表情になったアスカが、荒い息を吐きながら呟いた。

 

「アスカ……」

 

 傍にやってきたネギは見たことのない双子の弟の様子に、差し伸べかけた手を止めた。

 

「俺達は敵だった。だから戦って、勝敗は決した。なら、もういいだろう」

「では、憎き敵である私を見逃すというのかね? はっ、まさか今更に仏心が働いたなどと言わないでくれ」

「違う。そういうことじゃない」

 

 アスカが勝者とは思えぬ弱々しい押し殺すような声で吐き捨てる。

 アスカ達を逃がすために残った叔父夫妻と今も暗い地下室で物言わぬ石像となっている村人達を石化した張本人。ヘルマンは故郷を滅ぼした、憎んでも憎み切れない敵だ。だがそれでも。苦悶するヘルマンを目の当たりにすると、先程までが余計に憎しみに翻弄されていただけに更なる憎しみに身を委ねることはアスカの手に余った。

 自分が自分でなくなっていく恐怖が、目の前のヘルマンを討つことよりも上回ったのだ。

 

「ならば、そっちの二人はどうかね? アスカ君がこう言おうとも君達も当事者だ。私を殺す資格は十分にある」

 

 ヘルマンの矛先はネギとアーニャに向いた。殺害許可書をその当人から与えられた二人は傍目から見ても分かるほど大きく体を震わせた。

 先に躊躇いながらも口を開いたのはアーニャ。

 

「あの場にもいなかったし、戦ってもいない私がアンタをどうこうする気はないわ」

「ほう、それで本当に納得できるのかね? 君の両親を石化した私を生かすことに。今ならば弱い君でも苦も無く殺せることが出来るが」

 

 悪魔の囁きにアーニャは頭を振った。

 

「憎んだこともあるし、殴ってやりたいと思ったことはあるわ。でも、殺したいわけじゃない」

 

 ヘルマンは、話すことで己の中で結論付けた様子のアーニャからネギへと視線を移した。

 

「二人がこう言っている以上、僕もあなたを殺す気はありません。変わりに教えて下さい、村の住人にかけた石化を解く方法を」

 

 消えかけているヘルマンを問い詰める。六年間、ずっと追い求めてきた答えを。

 ヘルマンは聞かれることが分かっていた問いに対して不適な笑みを浮かべた。

 

「残念ながら石化はかけた本人である私の手を持ってしても解けない。だから『永久』石化などと大それたものがついているのだよ」

 

 そこで一端言葉を切り、視線をネギとアスカの二人に固定する。

 

「或いは君達クラスの魔力を持ち、治癒に対して抜群の適性を持つ者が修練して世界屈指の治癒術士になったのなら、今も治療の当てのないまま静かに眠っている村人達を治すことも可能かもしれない」

 

 そのような都合の良い人物がいるとは思えんがね、とヘルマンは愉悦交じりに問いに答えた。

 

「次です」

 

 一瞬、ネギは頭を過ぎった考えを振り払い、ヘルマンが消滅する前に次なる問いを出す。

 

「どうして僕達の村を襲ったですか? 目的は? 首謀者は誰です?」

 

 笑みを浮かべたまま答えずに変化のないヘルマンの表情に、ネギとアスカの脳裏を六年前の事がチラつく。

 

「残念ながら………………契約により答えることは出来ない」

 

 勿体ぶりながらも、返ってきた答えは三人の望むものではなかった。

 

「悪魔にとって召喚者との契約は絶対。それは上位悪魔である私であっても例外ではない。なにより、六年前の件は、召喚時に召喚者と交わしたに契約によって秘匿されている」

「ギアス、ですか」

「そうだ。答えたくても答えようがないのだよ」

 

  自らの血と魔力を用いて術者本人にかけられる|契約≪ギアス≫は、原理上、如何なる手段を用いても解除不可能の効力を持つ。

 最上級のものともなれば決して後戻りが効かない危険な術だ。悪魔と召喚者も同じで、交わされた|契約≪ギアス≫は術者の自由意志の一部を放棄することを既に決定付けられている。

 悪魔とはそういうものだと分かっていても手掛かりを目の前にして手に入れられないことに、ギリッとネギは歯を噛み砕きかねないほど噛み締めた。そして、その想いを振り払うように瞳を閉じて頭を振る。

 

「アーニャ、アスカを」

「アレが出来たの?」

「多分。確認する時間もないから始めよう」

 

 未だ体を起こしていただけのアスカをアーニャに任せたネギは、消えゆくヘルマンに一人で相対する。

 

「なにを……?」

 

 杖を構え、ネギが口の中で小さく呟いたのと同時に、消滅していくヘルマンの真下に血のように紅い魔法陣が浮かんだ。

 ヘルマンは呆気にとられた。始め、自分に何が起こったのか分からなかったのだ。

 

「これは、まさか再召喚か!?」

 

 笑みの形で固定されていたヘルマンの表情が魔法陣を見て驚愕に崩れた。

 さっきまでのヘルマンは肉体を構成する魔力が薄れていき、この世界における肉体の完全な消滅と同時に召喚を解かれて魔界へと帰る。暫しの休憩を経て再び復活するはずだった。

 ネギが展開したのは悪魔の召喚陣。これでは既に召喚されてこの世界にいるヘルマンを再召喚することは出来ない。だが、消滅するだけだったヘルマンをこの世界に留めることが出来る。

 

「まだ消えられると困るんです」

 

 誰に言うでもなく呟かれた言葉を吐いたネギの瞳に一抹の狂気が浮かぶ。

 

「石化を解除できないなら、その魂を使わせてもらいます」

 

 許されざる禁忌の向こう側に、決して届かなかったはずの願望が待ち受けると知ってしまった時、人は人であることを辞める。天意も知らぬ。神仏も知らぬ。道を踏み外した人が何を恐れるか。

 展開した魔法陣は、もしかしたらヘルマンを召喚出来るかもと思って覚えたものに過ぎない。本当に求めたものを得るための手段は手に入れている。

 ネギはポケットから古臭い小瓶を取り出して地面に置いた。

 

「封魔の瓶……」

 

 その小瓶が悪魔を封印するために用いる道具であることをヘルマンは良く知っている。

 

「使うか、アレを」

 

 誰もが何をするのか理解できていない中で、小瓶を見て唯一これから行われることが分かったエヴァンジェリンが呟いた。

 ネギが肉体を構成するだけの魔力を補充し終えたヘルマンへと一歩ずつ近づく。

 少年の眼差しの温度は、どこか手負いの獣染みた妄執の殺意に凍えていた。とてもではないが十歳の少年がしていい眼ではない。目を合わせたその直後に、ヘルマンは歓喜と狂喜、絶望と諦観という矛盾した感情の虜となった。

 

「ああ、残念だ。アスカ君だけではなく、もっと君とも戦ってみたかった」

 

 ネギが後悔を口にするへルマンへと後一歩の地点で止まり、詠唱を開始した。遥か昔に失われた魔法―――――――神聖魔法の詠唱を。

 

「血塗れて磨り減り、朽ち果てた旅路の果て、神々の原罪の果ての地で、世界に刻まれた刻印をここに現す」

 

 すぅ……と祈るように杖を掲げたネギの両腕が、小雨が降る中に不思議なほど響く詠唱と共に夜の薄闇でもはっきりと見える淡い燐光を放つ。

 

「この深き暗き怨讐を裡に希う」

 

 詠唱からネギが何をするか悟ったヘルマンは笑みを浮かべる。

 

「はっはっはっ……………まさかその魔法を習得していたか――――よかろう。君達が勝者だ。この身、この魂、好きにするがいい」

 

 近くにいたヘルマンには感じられた。ネギが詠唱を続けるごとに両手に集まる燐光が魔力や魔法といった全く違った気質の力が宿っていくのを。

 最も近い物を表現するなら浄化の力。だが、その本質は真逆。

 

「言葉は要らず、救いを求めず、許しも請わぬ」

「まさかアレをまた見ることになろうとはな」

 

 珍しく明らかな喜悦も高らかに笑いながら詠唱を続けるネギを凝視するエヴァンジェリン。

 

「マスターはアレを知っているんですか?」

 

 聞いたことのない祈りの文句。何をしているのか、何をしようとしているのか分からない茶々丸は彼女に恐る恐る問いかけた。

 

「遥か昔に失われた神聖魔法だ」

 

 問いかけてきた茶々丸の方を見ず、ネギから目を離さなかった脳裏に在りし日の記憶が蘇ってしまい、喜悦から一転して苦々しい顔をしながら答える。

 

「神聖魔法? ネギ先生が使っているような魔法とは違うのですか?」

 

 魔法の前に『神聖』とついて、知っている魔法使い達が普段使っている魔法との違いに夕映が真っ先に気が付いた。

 

「根本から違う。私達が使うのは謂わば精霊を使役する謂わば精霊魔法だ。神聖魔法はいるかもどうかも分からない神への信仰心の見返りに恩恵として使えるものだ。五百年前の時点で既に遣い手が途絶えていたがな」

 

 昔と違って現代は科学が進んだことで信仰心が薄くなっている。大昔のように一念に神を信ずることが難しくなっているといってもいい。

 エヴァンジェリンがまだ吸血鬼に成り立ての六百年前の時点ですら、使い手は数人程度しか残っていなかった。現代では遣い手が途絶えて久しく、口伝出来るものでもなかったので既に完全に滅んでいたと彼女も思っていた。

 

「だが、あれはその中でも異端中の異端。神への信仰心を必要としない唯一の神聖魔法」

 

 彼女が出くわした奴は「神官」と呼ばれていたが、家族を救うためにエヴァンジェリンに挑んできた。彼女の記憶の中でも最も自身に死の恐怖を与えた相手が使った、悪魔によって呪いに犯された家族を救うためにエヴァンジェリンを生贄にして発動する禁忌の魔法。その神聖魔法の原理を参考にして十年の歳月を費やして完成させたのがエヴァンジェリンの固有技法【闇の魔法】である。

 

「対象となる相手を取り込み、生贄とした魂を代償にあらゆる状態異常を改善する禁術だ。あれならば永久石化であろうとも元に戻る可能性がある」

 

 当時、エヴァンジェリンが標的とされたのには生贄とするには呪いをかけた者と同属の魂が必要になり、比較的存在が近かったからだ。

 六年前にネギ達の村の住人を石化したのは自分だとヘルマン自身が告白している。石化を行なった悪魔自身を組み込んで利用すれば成功の可能性は間違いなく上がる。代償として組み込まれたヘルマンは消滅するが、あの状態では逆らいようもない。 

 

「そんな失われた魔法をネギ先生がなんで?」

 

 500年前に遣い手がいなくなって久しい魔法を何故ネギが使えるのか。のどかが思った疑問を全員が共有していた。

 

「簡単だ。半分は私が教えたようなものだからな」

「半分?」

「そうだ、半分だけだ。なにぶん大昔の既に失われて等しい物だったから完璧な形では残していなかったんだよ」

 

 エヴァンジェリンにとって最も激動の時代だっただけに記憶も完全ではなく、闇の魔法作成のために必要だった部分以外は思い出す努力もしていなかった。長い時の中で頭から完全に抜け落ちていて、別荘の倉庫に術式を書いた書物を埃塗れになって探す羽目になったのは余談である。

 

「それをネギは現実時間で一か月そこらで復元してみせた。これは凄まじいことだぞ」

 

 少女達や小太郎にはピンとこないようだが、五百年以上前に廃れた魔法を半分でも復元できただけでも凄いことなのだ。

 誰も声を出せなかった。眼を逸らすことさえも勇気を必要とした。何も出来ず、ただ圧倒的な光景を眺めるしかなかった。

 

「せめて哀れに思うのなら我が切実なる怒りと憎悪の叫びを聞き届け、我が願いを叶え給え」

 

 ネギは少女達の想いに感じいることなく、詠唱は終わりに近づいていた。

 

「再召喚されたことで少しだけ私を縛っていた枷が緩まった。村を襲わせた者に関して最後に一つだけ伝えておこう」

 

 復讐の牙が喉に食い込み、後少しで噛み切ろうかという絶好のタイミングを狙ったかのようにヘルマンが唐突に口を開いた。

 

「怨念の成就こそが我が救い」

 

 この神聖魔法を使うのは膨大な魔力が必要になる。

 エヴァンジェリンが出くわした「神官」と呼ばれた遣い手が彼女を殺せなかったのは魔力不足が大きな原因だった。神聖魔法と呼ばれる中で唯一、神への信仰が必要としない禁呪はその分だけ生半可な遣い手では発動すら出来ないほどの魔力を必要とする危険な魔法であった。

 殆ど消耗していないネギの莫大な魔力が殆ど持っていかれるほどに。それだけの魔力を使う魔法故に、発動に際して周囲に烈風が渦巻いてヘルマンの声を外部にまで届けさせない。

 

「君達は自分の母親のことを知っているかね?」

「今更なにを……」

 

 ネギの少し後ろでアーニャに肩を借りながらも立つだけで疲労の色が濃いアスカの顔に隠しきれない動揺が走ったのをヘルマンは見逃さない。

 嫌な予感がする。聞いてはいけない気がする。しかし、ヘルマンは続ける。まるで矮小で浅ましい人間の精神を追い詰めることこそが、この世界で最も楽しめる娯楽であるかのように。

 

「彼の者の魂を以って、我が怨念は成就せり」

 

 幾何学模様の魔法陣がヘルマンを中心にして浮かび上がる。ネギの両腕の光とシンクロして光を増し、荘厳でありながら冷たいという矛盾したものだった。

 

「それが全ての答えだ。ふ……………………ふふははははははははは!!」

 

 普通なら死なない悪魔ですら殺す魔法を前にして、ヘルマンは最後の最後まで兄弟の傷を抉るのを忘れず、血泡をまき散らしながら狂ったように笑う。

 ネギの眼に隠し切れない憎しみの炎が浮かんだのが、哄笑を続けるヘルマンの最後の見た光景だった。

 

「――――――主の憐れみを我が手に(キリエ・エレイソン )――――――」

 

 その言葉を受けて、魔法陣の紋様が光を増して回転し、ヘルマンが光に包まれる。

 大きな体が光に包まれ、地面に置かれた小瓶に吸い込まれていく。幻想的でありながら破滅的な光景に誰もが見入る中で、光を全て吸い終えた封魔の瓶は自動的にコルクの蓋を閉めた。

 光が消えた後にヘルマンの姿はもはやどこにもない。

 

「…………………」

 

 何も言う事なくネギは、ヘルマンの魂が封じ込められた小瓶を黙って見下ろす。

 

「終わった、のか……」

 

 動こうとしないネギの背中から、未だ雨が降り続いている空を見上げたアスカは不思議と空虚だった。

 望みを果たしたはずなのに、高揚や喜びが全く湧いて来ない。一時の衝動が消え去った体の中が空っぽになって、何かを考えることも、感じることも出来ない。土砂降りの雨に打たれ、腹の中に抱えていたものを全部に綺麗に弾けて真っ白になったはずなのに、胸の中にあるのは闇のような真っ暗の虚脱感だけ。

 ただ、焦点の合わない眼で天を仰ぎ、不思議な気持ちで雨粒を見上げた。

 

「…………そうか………………そういうことかよ」

 

 ヘルマンの最後の言葉が耳から離れない。

 言った事を信じるならアスカの復讐はまだ終わっていない。そして、村襲撃に関する理由にも想像がついた、ついてしまった。知らなければ良かったなどと思わない。ヘルマンは兄弟に復讐相手はまだ残っていると、最期にどうやっても消えぬ呪いを残したのだ。

 

「どうして――」

 

 アスカは空を見上げ続けている。その頬を流れていく雨が涙のように明日菜には見えた。

 左拳は完全に砕け、皮を破って骨が幾つも見えている。あちこち服は破れ、雨でも流しきれない血を滴らせている顔色は死人のように青白く、血を流す唇は青褪めている。袖口から粘ついた滴が滴り落ちた。地面に、夜の黒とアスカから流れ落ちた血が混ざって奇怪な模様を形作った。

 アーニャに支えられることで立っているのがやっとのようにさえ見える天を仰ぐアスカの姿は、先程までの激闘や憎しみに染まった狂相が抜け落ちて、まるで生まれたばかりで捨てられた子猫のように無防備だった。

 

「明日菜、ちょっ――」

 

 明日菜は周りの静止を振り切って世界樹の枝から更地と化したステージ跡に飛び降りて、アスカの背中に向けて独り言のように呟いた。小太郎達も明日菜を追って次々にステージ跡に降り立つ。自分で降りれない者達は他者の手を借りて。

 

「アスカ!」

「…………明日菜?」

 

 明日菜の声に顔を下ろし、口の端から唾液の混じったドロリとした鮮血を垂らしながら振り返ったアスカの顔からは如何なる感情も窺えない。

 顔は無表情なのに、声は感情を感じさせないのに、聞いている明日菜の胸の奥に寒風を感じさせそうなくらい荒涼としている。まるで壊れた機械を故障に気づかず動かしているように、何かする度に傷を広げているような気がしてならないのだ。

 そして無表情の中にある瞳にも明日菜は深い衝撃を受けた。アスカの目とは思えぬほどの濁った瞳を真正面から見てしまって、思わずギョッとして後ずさる。視線が合うと胃の腑が押し下げられ、その場に座り込んでしまいそうな感覚を味わった。体中の関節から力が抜けるような気がした。

 

「明日菜」

 

 憎むべき敵もいなくなり、憑き物が落ちたようにアスカは無事な明日菜達を見て安心したように笑った。あれだけの激闘の後でヘルマンが末期に残した言葉もある中で、無意識に人の温もりを求めたのか、アスカは我知らずの内に潰れている左手を明日菜に向けて伸ばした。

 所々で骨が飛び出した異形の化け物の手のようになっている手が、明日菜の眼には全身を血に染め生気の失せた幽鬼の如き顔色も相まって人の死を運ぶ死神のようにも見えた。

 先程までの人の者とも思えぬ戦いや在り様、命を簡単に奪う行為への恐怖もあって精神と肉体は意志に反して行動してしまった。

 

「……や……!」

 

 そう叫んだ次の瞬間、人の死を運ぶ死神は消えて目の前には呆然と立ち尽くすアスカがいた。

 

「……ぁ……」

 

 明日菜の明らかな恐怖から来る拒絶に、ビクリとアスカが伸ばしかけていた手を止める。そして、ゆっくりと周りへと眼を向けた。

 周囲は何があったのか分からないぐらい完全に五十ートル単位で更地と化し、さっきまでヘルマンがいたクレーターだけが変化として残っていた。この場所を見て、ここが学祭で使うステージの跡だと思う者はいないだろう。

 明日菜が脅えているものは、他ならぬ自分自身。改めて体を見れば酷い有様だった。伸ばした手も皮から骨が飛び出していて人間の物とは思えない。明日菜の拒絶に納得してしまった。

 

「はは……」

 

 一瞬、本当に一瞬、物凄く辛そうな表情を浮かべ、何かを諦めたような吹っ切れた笑みをする。

 アスカは淡く笑う。そこからは如何なる感情も掴めない。喜ぶようにも嘲るようにも哀れむようにも楽しむようにも見えてしまう。喜怒哀楽の全てが混戦している笑み。

 

「ち、違う! 今のは…………」

 

 我に返った明日菜の頭は怖いくらいに頭がハッキリとした。取り返しのつかないことをしたのだと分かった。血の気が引くということがどういうことなのか、明日菜は生まれて初めて本当の意味で理解をした気がした。

 そんな明日菜の前で、彼はようやく動いた。目を伏せたのだ。まるで、動かない体の変わりに深く頭を下げるように。

 

「行こう、アーニャ」

「でも……」

「いいんだ」

 

 辛くて苦しい気持ちを呑み込むように視線をずらしたアスカは、一人では歩けないからアーニャを促した。

 アーニャは躊躇うように二人の間で視線を彷徨わせ、まるでここに自分のいる場所はなく言、葉を伝えなければならない相手はいないとでも言うように言葉を切ったアスカに従うことにしたようだ。

 ゆっくりと歩き出した二人がネギの前に出ると、ネギもまた後を追って歩き出した。

 去り行くアスカの背中を見て、明日菜は胸元でかけられたタオルをギュッと握った。胸が潰れるような痛みを感じたからだ。痛いのは身体ではなく心だった。肌で感じる物は怒りや憎しみのような単純な感情ではない。激しく、複雑で、矛盾している。明日菜が初めて経験する心の動きだった。その感情に名前を付けるとするなら『切なさ』であろうか。

 

「……あ……」

 

 彼女にしては珍しく言葉に詰まっていた。声を掛けようと思った。が、カラカラに乾いて鑢のようになった舌が上顎を擦るだけだった。

 

「アス――」

「来るな」

「っ!」

 

 凍てついた声が、恐怖を振り払ってようやく上げかけた明日菜の台詞を断ち切った。振り向いた顔に刻まれた無数の傷が、どうしようもなく痛ましい。

 

「怖いんだろ、俺が」

 

 そう言ったアスカの顔は泣きそうに見えた。だけど、頬に流れるのは透明で綺麗な雫じゃない。どこまでも紅い血の涙だった。血の涙が余計に先程の狂い様に似合ってアスカを怪物に見せる。

 

「そ、そんなこと」

 

 何の迷いもなく言い放たれた言葉に、明日菜は愕然とする。それでも止めようとした伸ばされた手の動きが躊躇する。行動こそが何よりもアスカの言葉が真実であると教えているとも気づかずに。

 明日菜は何も言えなかった。俯く明日菜の姿を見るアスカの瞳の奥に悲しい決意の光が宿った。

 

「良く分かっただろう。違うんだ、俺達は」

 

 懺悔であり、独り言であり、八つ当たりであり、負け犬の遠吠えでもあった。自分で自分の感情を把握し切れていない。そんなものに気を回す余裕がないほどに、アスカは追い詰められていた。

 その時、アスカは笑っていたのかもしれない。自分自身へと向けた歪んだ嗤いを。

 

「さようなら」 

 

 再び背中を向けたアスカには近付く事を許さないと言わんばかりに拒絶の意思が感じられ、その逡巡が明日菜の伸ばした腕を止めた刹那、それこそが両者の断絶を示す明確な『亀裂』となった。

 今まで必死に積み上げてきた何かが目の前で音を立てて崩れていった。

 

「アスカ! ごめんなさい、謝るから待って――」

 

 明日菜がアスカの背中に手を伸ばすも既に届かぬ場所まで去っており、手は弱々しく動きを止めた。走って追いかければ直ぐにでも追いつく。なのに、明日菜はそれをしなかった。足は凍りついたように動かない。彼の背中が放つ暗い暗い闇へ引きずり込まれるような錯覚を感じたからだ。

 その背中を目で追うことしか出来なかった明日菜の表情が歪む。もう一度声を掛けなかったことが大きな過ちだったような気がした。

 神楽坂明日菜も、他の誰もが三人の背中が見えなくなるまで動かなかった。

 雨に遮られて暗闇の中に三人の後姿が視界から消えると、張りつめていた糸が切れて倒れかけたのどかを受け止めた夕映の腰が抜けたようにへたり込んだ。

 

「何ですか、…………いったい何なんですか?」

 

 夕映は薄ら寒そうに気を失ったのどかの体を抱きしめながら身を震わせて呟く。その瞳からは雨以外の水が流れ落ちる。

 

「どうしろって言うのよ」

 

 明日菜は思わず泣き出した面々を見ながら思わず、泣き言が漏れた。もう何も言えない。空を見上げると視界一杯の灰色の雲。太陽がどこにあるのかも分からない空。

 彼女の瞼から透明が液体が零れる。頬から滴る涙は、雨と同化して明日菜の顔を濡らす。そんな彼女達をエヴァンジェリンと茶々丸が黙って見ていた。

 

「ああ、もう」

 

 そんな中で千草は肌に張り付く髪の毛を鬱陶しげに払いのけ、泣く少女たちにかける言葉がなくて困ったように深く長い溜息を吐いた。

 

「雨、止まんな」

 

 残された者達に平等に雨が降りしきる。体はすっかり冷え切ってしまっていた。降りしきる雨が彼女達の雨と混ざってどこか物悲しい雰囲気を作り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆の前から姿を消した三人は、まだ野外ステージ跡から百メートルほど離れた場所にいた。降りしきる雨の中、アスカの怪我が重すぎて暗い夜の学園都市を這うような速度でしか進めないのだ。

 

「アスカ、しっかりしなさい!」

 

 アーニャが声をかけるが、二人に肩を借りて歩くアスカにはもう意識があるのかどうかも分からない。

 アスカとヘルマン、二人の激闘によって生まれた嵐による影響か外灯に光が灯されていない。雨雲によって星や月の光が遮られていることもあって彼の道を照らすものは何もない。それがまるで行く末を案じているようでアーニャの気に障る。

 

「か、はっ……!?」

 

 二人に引き摺られるようにして歩いていたアスカが血の塊を吐いた。ビシャッと地面の水溜りに落ちて音を立てる。

 

「まずいわね」

 

 アーニャはここまで弱ったアスカを見たのは初めてだった。

 弱った姿をネカネ以外の前では晒したことのないアスカの様子から、それだけ体力を失っているのだと実感して腹に冷たい戦慄が堕ちる。体力が尽きた時が恐らく最期だという気がした。

 

「ネギの杖に乗せて運ぶのは…………危険か」

「止めといた方がいいと思う。今のアスカじゃ、支えても何かの拍子に落ちかねないし、負担も大きい」

 

 嵐が去り雨の勢いも落としているがこんな日に好き好んで出歩く馬鹿もいない。傷だらけでボロボロのアスカの姿を一般人に見られないのは有り難い。

 

「これ以上、動かすのも危険だし…………僕が先に行って誰か連れて来るよ」

「分かったわ。出来ればネカネ姉さんか、最低でも大人の魔法使いを頼むわね」

 

 アスカを壁に靠れるようにして座らせ、ネギはネカネと和美がいる学園長室へと杖に乗って一目散に飛んで行った。その直後だった。

 

「ぐっ、げほっ、げほっ……」

 

 アスカの呼吸の調子がおかしい。水っぽい、咳き込む音が連続する。しかも、ヒューヒューと風船から空気が抜けていくような呼吸音が出てきた。

 

「ちょ、ちょっとアスカ……!?」

 

 雨に流されて気づかなかったが、アスカの体から流れ出た大量の血がアスファルトに広がっていくのを見たアーニャは、事態がもっと深刻であることに気が付いた。

 

「しっかりしなさいよ。目を開け――」

 

 アーニャが何かを言っているのが、朦朧とするアスカにはその内容は聞き取れない。

 抑えることすら出来ない口から重たい血が吐き出されて濁った水と混じっていく。倒れたアスファルトの上を流れ続ける雨は体液によく似た温度だった。体から流れ出た血がアスファルトに流れていくの見て、自分もそこへ溶けていきそうな気がした。

 

(どうして……)

 

 アスカは、雨に濡れた地面に沈みながら静かに思う。

 雨はまだ止みそうにない。もっとだ。もっと降れ。恨みも憎しみも何かも何もかも洗い流してしまわなければ、頭がどうにかなってしまいそうだった。

 

(どうして、こんなことになってしまったんだ)

 

 心が揺れる。グルグルと回って頭が滅茶苦茶になる。何一つ考えが纏まらない。

 先程までは脳にまで浸透するようだった痛みが飽和状態を超えて、逆に麻痺し始めている。思考の歯車が何個も外れてしまったように、考え事を纏めようとしてもボロボロと意識が零れていく。

 自分の周りの全てがガラガラと音を立てて崩れて何もかもが砕け、壊れて消えていってしまいそうな喪失感に浸されてしまう。

 

「――、――――! ―、―――ッ!!」

 

 調子の外れたマイクのように、誰かの声がグワングワンと頭蓋骨の内側を跳ね回っていた。

 寒かった。もう直ぐ夏だというのに寒くて寒くて、とても耐えられそうになかった。誰でもいいから温めて欲しかった。

 喉も渇いていた。なのに喉の奥から血が湧き上がってきて溺れるように窒息する。アスカは苦しみに喘ぎながら意識もせず水面に顔を出す魚のように空を見ようと、震えながら顔をゆっくりと天に向けた。

 暗い。何度も瞬きして眼を凝らすが天は分厚い灰色の雲に包まれ、空はどこにもなかった。微かに腕が何かを求めるように動く。

 

「………………空が、見えない」

 

 救いを求める意思を潰すように大粒の雨は降り続ける。

 微かに上がった腕が地に落ちてバシャリと小さな水音を鳴らして、アスカはピクリとも動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3-Aの生徒の一人、超鈴音は無数のモニターに囲まれていた。

 彼女がいる部屋は壁という壁がモニターになっていて、普段は麻帆良学園都市内に設置されているカメラの映像を流したり、世界各地のテレビ放送、インターネットのホームページなど、あらゆる映像が切れ目なく映し出されている。だが、いま流されているのは一人の少年の復讐劇の末路。

 

「こうなったカ」

 

 部屋の中央に設置された椅子に彼女は、背筋を伸ばして腰掛けている。全身に心地良い緊張感がある。この部屋で椅子につくと、何時も感じることだ。

 そこには責任がある。おそらく神様が本当にいるならば、世界を創るのに緊張などしないだろう。

 神は責任を持たない。無邪気に遊ぶ子供のように、偶然に任せてサイコロを振るだけだ。だが、彼女は人が触れるべからずの時の流れに干渉する者として責任を感じ、その代価として緊張を感じる。もし、緊張しなくなったら人としての感性が終わってしまったということで死を択ばなければならない。そんな無神経な存在に成り下がったら存在する意味はないと常々思う。

 

「ふぅ……」

 

 静かに息を吐いてから、彼女の視線がゆったりと並んでいる二つのモニターに注がれる。

 一つは野外ステージで雨に濡れながら立ち尽くす少年少女達。もう一つは路地裏で、少女に呼びかけられているが動かない少年。注目しているのは後者。

 やがて空を飛んできたネギともう一人の大人が舞い降りる。

 

「あれは神多羅木先生。成程、風の遣い手が現地に急行し運んだ方が速いカ。学園長の考えかナ」

 

 ピクリとも動かないアスカを抱えた神多羅木があっという間に画面外へと消えて行った。

 杖の乗ったネギとアーニャも後を追うが、その速度は文字通り桁が違う。

 

「さて、こちらは」

 

 呟き、別の画面に目を向けると、麻帆良学園都市を覆う結界に電力を担っている発電室の映像が映し出される。

 

「成程、こうなていたのカ」

 

 超が仕掛けた学園側とは別口のカメラに映るのは、麻帆良女子中の制服を着た褐色がかった肌とグレーの髪を持つ少女の姿。彼女がヘルマンに協力して結界を落としたのだ。

 そして迷うことなくその場を離れ、どこかへと向かって行った。

 

「向かうのは世界樹の根元カ…………彼らとの繋がりを考えれば協力している可能性もあたガ、この時点でこれだけ動いていたとハ」

 

 そう周りに聞こえないように小声で呟く超鈴音の表情は、長年の疑問が解消された哲学者のような笑みが浮かんでいた。

 

「運命は果たしてどのような帰結を求めるのカ。知る時は近イ」

 

 我知らず強く掴んでいたフットレスから苦労して手を離して立ち上がる。

 軽やかな足取りで部屋を出て、直ぐ傍にあったエレベーターに乗ると迷わずにボタンに押す。

 微かな重力が超の体に圧し掛かり、階数が下がっていくのを見る。目的の階に止まって開いたドアの間を通って一本道を歩く。通路は一本道なので迷うことはまずありえない。天井や壁に電灯などなく、通路に血のような赤いライトが廊下を照らしている。

 

「我ながら趣味に走り過ぎたかナ」

 

 苦笑を浮かべる。自分で作っておきながら何時見ても不気味で人を威圧する廊下である。ドアにもこれまた同じように赤いライトが走っているので、世界を間違えたのかと錯覚する。

 通路の先に辿り着くと、ドアが自動的に開いた。重いドアが勝手に開くはずがない。自動認証システムが超の全身をスキャンして開かれたのだ。

 開かれたドアの向こうに、薄明りを放つパソコンの画面の前に座る小柄な人影がいた。

 ドアが開かれた音で誰かが部屋に入ったことは分かったはずなのに、人影は気付いた様子もなく残像が映りそうな速度でキーボードタッチを行なっていた。

 

「葉加瀬」

 

 肩に手を置いて、ようやく人影――――葉加瀬聡美は驚いたように顔を超に向けた。

 

「超さん、何時の間に?」

「今、来たとこヨ。集中するのはいいガ、詰め込み過ぎは体に毒ネ」

 

 言いつつ、観戦に熱中し過ぎて喉の渇きを覚えて、パソコンの横に置かれている葉加瀬専用のマグカップがあったので飲もうと手に取って口に運ぶ。

 淹れてからかなりの時間が経過しているようで冷めているようだが、喉の渇きを癒すには十分。しかし、コーヒーを一口だけ口に含んだ途端に超の顔が厳しい物に変わった。

 

「葉加瀬、コーヒーが胸焼けしそうなぐらい甘いのだガ」

 

 我知らず目付きが悪くなっている超が言うと、葉加瀬は何故かない胸を張っていた。

 

「うっかり徹夜しちゃいまして。頭を使って糖分が不足してるからシロップを一杯入れたんです」

 

 寝ていない者特有のハイテンションの葉加瀬に、超のこめかみに青筋が浮いた。

 

「物には限度て物があるネ。こんな砂糖水みたいなコーヒーが飲めるわけないヨ」

「飲めますよ、ほら」

 

 超が持っているカップを受け取った葉加瀬が一気に甘ったるいコーヒーを呑み込んだ。

 

「くぅ~、この目が覚める甘さが堪りません」

「私が悪かたかラ、元に戻てくレ」

 

 ニッコリと微笑む葉加瀬に超は色々と諦めた。この話を続けるとこちらの頭までおかしくなっていくような気がして話の転換を試みる。

 

「で、進捗状況ハ?」

「ちょっと待って下さいね」

 

 問うと葉加瀬はコーヒーを飲み干したマグカップを持ちながら、片手でありながら両手と遜色ないキーボードタッチを見せる。

 瞬く間にモニターが移り変わり、なんらかのグラフが表示される。

 

「進捗率89%――――誤差±2%以内で、予定通り進行中です」

「その割には浮かない顔をしてるヨ」

「私は科学に魂を売り渡したと自負しています。ですが、人としての尊厳まで捨てたつもりはありません」

 

 モニターを見る葉加瀬の表情は彼女らしくない物だった。

 

「ガングニールの手を借りるのは気が進まないカ? 民間軍事会社であろうとも使える物はなんでも使わないト」

「自分が甘いことは良く解っています、超さんの言ってることも。それでも納得できないものは納得できないです」

「なラ、ここで抜けるカ? 引くのもまた一つの勇気ある選択ヨ」

「いいえ」

 

 首を横に振った葉加瀬は、決然とした表情で超を見る。

 

「私たちが行うことは未来に必要なことなんでしょ? それに一度やると決めたことなんですから、ここまで関わっておいて今更そんなことは言いません」

 

 言い切った葉加瀬に超は内心で苦笑を浮かべた。

 損な性格をしているが、そういう考え方を超は嫌いではないのだ。

 

「可愛いナ、葉加瀬ハ」

「何を言い出すんですか、突然」

「思ったことを口に出したまでだヨ」

 

 分かっていなさそうな葉加瀬に今度こそ超ははっきりと苦笑を浮かべた。だが、直ぐに表情を元の真剣なものに戻し、どこかの誰かを彷彿とさせる挑戦的な眼差しを前方に向ける。

 

「ところで、アレ(・・)の仕上がり具合はどうネ?」

 

 超の向けられた視界の先、分厚い防弾ガラスの向こう側に巨大な影が鎮座し、なんらかの作業を行っているのか所々で火花が散っている。同じ物を見た葉加瀬は影の正体を知っており、窺わしげな視線を超に向けた。

 

「そちらも抜かりなく。寧ろあんな物を本当に使う気ですか? シュミレーションでは通常戦力だけでも麻帆良を制圧出来ると出ています。出す必要はないと思いますけど」

「シュミレーションはあくまで机上の物。いざという時の備えは常に必要ヨ」

「…………私には超さんがその時が来るのを待ち望んでいるように見えます」

「私が?」

「笑っていますから」

 

 言われて超は意表を突かれたような顔をして、手で自分の口元を触って確認した。

 

「かもしれないナ。私は見てみたイ、英雄が生まれる瞬間をこの眼で。その為なら望んで悪と成ろう」

 

 事実を認め、その上で超は高らかに宣言する。

 その宣言の中で、巨大な影は未だ生まれていない英雄と対峙する瞬間を待ちかねているように、暗闇の中で二つの眼を轟々と光らせた。

 




鋼鉄の竜って男のロマンだよね?

次回

「嵐の跡に残るもの」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。