魔法先生ツインズ+1   作:スターゲイザー

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第37話 世界樹の下で

 

 イギリスのウェールズにある自然に囲まれた町から少し離れ、メルディアナ魔法学校を一望できる一際木に一人の老人――――スタンがやってきた。

 

「ここまで来るだけでも一苦労じゃの。年は取りたくないものじゃ」

 

 荒れた息と負担が大きい足に苦笑して木の根に座り込んで幹に体を預ける。

 上げた視線の先は雄大な自然には向けられていない。

 なにも自然を見るのに飽きたというわけではなかった。スタンにとっても、この清々しい空気の中で過ごすことは愛し子達がこの地を離れてからの数少ない楽しみであったが、今は単純に自然の中で過ごすよりも優先することがあったためである。

 優先事項は懐より取り出した一通の手紙――――――――久しぶりに届いたアンナ・ユーリエウナ・ココロウァからのエアメールにあった。

 

『スタンお爺ちゃん、お久しぶりです。ごめんね、前回から間が空いてしまって』

 

 この手紙は、魔法によって形成された一種のビデオレターのようなものだ。

 専用の道具にビデオを取るように自らの姿を映して録画すると、紙がビデオデッキのような役割を果たしてくれる魔法使いの世界では普通に普及している道具であった。

 魔力が無くても使えて便利ではあるが、最近では科学技術が発達して何時かは無用の長物になるのではないかと製造元は怯えているという噂もある。

 

『ちょっと面倒事があって………………なにから話せばいいかな』

 

 浮かび上がったアーニャの幻影は困ったように微笑んでいる。

 双子と違って然したる才もなく、コンプレックスを抱えていた優しい子が話すのを見つめる。

 

『最近は色々あったから、ちょっと余裕がなくて手紙を送れなくてごめんね』

 

 手紙からホログラムのように映し出されているアーニャが困ったように苦笑いし、また頭を下げて謝る。

 

「なになに、手紙どころか連絡一つ寄越さん双子に比べれば雲泥の差じゃよ」

 

 人に迷惑をかけても殆ど気にしないスプリングフィールド兄弟に比べれば、遅れようとも定期的に手紙を送ってくれるアーニャの方が百倍マシなのだ。

 スタンにとってみれば子供達は本当の孫のように大切に思っている。こうやって直接会えなくても連絡が取れるだけでも自然と笑みがこぼれるのは当然だろう。

 新しい環境に慣れるのは大変そうだが楽しそうな生活を送っているようで安心していた――――はずだったのに。

 

『五月の中旬ぐらいにアスカが悪魔と戦って大怪我をしました。学園側の治癒術士さんのお蔭で一週間で退院しちゃったけど』

「アスカめ、また無理しおったな。しかも、アーニャの言い方からして周りに心配をかけまいとして勝手に退院しおったか」

 

 シーンが変わり、ジャングルで黒髪の少年と闘っているアスカの姿に深い深い溜息を吐く。

 怪我人の自覚が足りないのではなく、心配性で過保護なところがあるネカネを心配させないためだろう。怪我したこと自体を聞いていないスタンとしては、こうやって秘密にされている方が心配するのだと分からないのだ。

 アスカは何時だって心配される方の人間だ。知らないところで大変な目にあって、怪我をして、それでも大丈夫だと笑っている。身内としては何時なにがあるのか分からないので心労を重ねるしかない。

 

『それで、なんだけど。アスカが戦った悪魔っていうのが六年前にみんなを石化した奴だったんだ。勿論、アスカが勝ったよ』

「なに?」

 

 奥歯に物が挟まったようにアーニャが言った言葉を一瞬理解できなくて固まった。

 そして理解できた瞬間、文字通り心臓が跳ねた。

 暴れ狂う心臓に手を当てたスタンは、自分が何に対して動揺しているのか分からなかった。

 アスカが戦った悪魔が六年前に両親を村の住人を石化した張本人であることか。それともその悪魔にアスカが勝利したことか。

 

『石化を解くための鍵は手に入れました。錠は探し出すか、それとも自分で作り出すしかない。時間がかかるかもしれないけど、必ずみんなを助けだして見せるよ』

 

 村の者達を救えるかもしれないと分かってもスタンに喜びはなかった。

 手に持つ封魔の瓶を見下ろして強く握っているアーニャがこちらを見て笑ったことがとても悲しく思えた。

 スタンも石化を解除する方法はないかと自分で調べている。

 村の住人を石像と化しているのは永久石化と呼ばれる現象である。石化は半永久的なもので、神格の力を以ってしなければ解除できない。鍵だけとはいえ、それだけの偉業を成し遂げるのにいったいどれだけのものを子供達は犠牲にしたのか。

 

『次に手紙を出すときは朗報を伝えられるように頑張ります。じゃあ、体に気をつけて』

 

 その言葉で手紙の再生は終わった。

 

「アーニャ…………無理をしてまで歩みを進めても、己が心を傷つけるだけなのじゃぞ」

 

 持っていた手紙を大事に便箋に仕舞ったスタンは、遠い異国の地にいる同じ空の下にいる子供達を想った。心からの願いを込めたその言葉は青く高く澄み渡る空へと吸い込まれていくのであった。

 そろそろ戻ろうと考えて立ち上がった途端、胸の奥に強烈な痛みが走った。

 

「ぐっ!?」

 

 息が出来ずに痛みが全身を支配しかけるが、魔力を通すことに無理矢理に活性化させて抑え込む。

 

「…………本当に、寄る年波には勝てんのぅ」

 

 長い長い息を吐いて終わりが見えてきた老人の言葉に、宙を舞う鳥が哀しげに鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭前日の夕方、学園長に呼ばれたネギ・スプリングフィールドは首を捻りながら歩いていた。呼ばれた場所が学園長室ではなく、何故か世界樹前広場が待ち合わせ場所だからである。

 歩くネギの前後左右を様々な仮装をした生徒達が通り抜ける。

 和装洋装から始まり、鎧武者や着ぐるみ、妖怪や怪獣果てはロボットまで、統一性など欠片もなくどこの異世界に迷い込んだのかという様相を醸し出していた。

 

「う~ん、学園祭が明日になるとこの風景にも慣れてきたね」

「だよな。最初は変なのがゴロゴロしてたって慌ててたのに毎日見てたら感覚が麻痺したんじゃねぇか」

 

 しみじみと呟いたネギの言葉に肩に乗っているカモが感心やら呆れやらを滲ませる。

 ああいう仮装をしてるのは殆どが大学部の学生らしいが、何事にも一切手を抜かない麻帆良の人々はお祭騒ぎを行うに際して全力である。何のイベントをするのかと突っ込みたくなる仮装もあるが。

 どれだけ奇異な光景も毎日続けばそれが自然になる。限定的な光景と思えば奇異も受け入れられるというもの。これが邪神召喚の儀式の為だとかになれば話は変わるが、規模が桁違いでもお祭りであれば人は受け入れる。

 

「こら、ネギ――ッ!」

 

 待ち合わせの時間にまだ時間があるので、新田と「超包子」に行ってから肩の力を抜くようになったネギがのんびりと歩いていると誰かが声をかけてきた。

 ちょっと怒っている叫びにネギは身を縮めながら、かけられた声の方向が後ろからなので、歩く足を止めて振り返った。

 

「な、なにさ、アーニャ」

 

 ヘルマン戦以後、二週間ほどエヴァンジェリンの別荘に詰めていたが、ケロッとした表情で教職に復帰しているアーニャが胸の前で腕を組んで立っていた。

 その後ろでは苦笑している天ヶ崎千草とネカネ・スプリングフィールドの姿もある。

 

「なにさじゃないわよ。全員で呼ばれたのに一人で行くってどういうつもり?」

「そうだっけ?」

「…………まったく、このボケネギは」

 

 ネギに封魔の瓶を渡して石化の解除を頼んできた時のしおらしさは欠片もない。

 どうせなら普段もあんな感じなら良いのにと、懐かしい呼ばれ方をして思ったネギである。

 

「三人も学園長先生に?」

「アンタ、馬鹿ぁ? ネギだけが呼ばれるはずがないじゃない」

 

 馬鹿にされているが、それもそうだと変に納得してしまった。

 ネギ個人に用事がある場合よりも、同じ立場であるアーニャも共に呼ばれている場合の方が圧倒的に多い。

 その場合、ネカネと千草も呼ばれるとすれば3-A関連だが、それこそ学園長室でない理由が分からずに二人を見たネギの視線から察した千草が口を開く。

 

「クラスのことやないやろ。世界樹広場前いうんなら学園祭関連とちゃうか」

 

 どういうことですか、とネギが問うよりも早く 直ぐ近くでどよめきが聞こえて四人は騒がれている元を探して首を巡らす。

 どよめきの元は直ぐに見つかった。そこには飛行船を利用して建物の五階ぐらいの高さからブランコからブランコへと飛び移る空中ブランコを行う一人の少女の姿があった。

 

『麻帆良曲芸部「ナイトメアサーカス」開催は全日程全日午後六時半より!! チケットは大人千五百円! 学生割引千円です! よろしくお願いします!』

 

 飛行船からアナウンスの声が聞こえてくる。これも麻帆良曲芸部が行うイベントの一つのようだ。

 それがただのお遊びではなくプロ顔負けの本格的な物であると言う事は、目の前で行われている空中ブランコを見れば否が応にも理解出来る。歓声の多さから考えても曲芸部を見に行こうと考えた人は多いだろう。

 

「あれは……」

 

 遠目だが空中ブランコを行う少女の全身と顔が見れない程ではない。

 道化師のような帽子を頭に被り、露出度の高い水着のような衣装を身に着けている。褐色の肌にエキゾチックな雰囲気の少女。普段からしている目元の特徴的なメイクもそのままな少女に見覚えがる。

 

「あら、ザジちゃんね」

 

 普段は物静かを通り越して無口な少女の変わった登場の仕方に、意外そうな声を出したのはネカネである。

 ネカネの声が聞こえたのか、空中ブランコをしていた出席番号31番ザジ・レイニーデイがネギ達の存在に気づいたようだ。

 ブランコから飛び立ち、空中で何回も回転して観客をあっと言わせて軽やかにネギ達の目の前に着地する。みんなが思わず瞠目するほどの身の軽さだ。流石は曲芸部。

 

「ネギ先生もよろしければ、我がサーカスへどうぞ」

「あ、これはどうも」

 

 芝居がかった仕草で一礼して招待チケットを差し出しながら営業スマイルで笑うザジに、ネギは受け取りつつ反射的に頭を下げながら初めて喋ったりしたことや笑顔を見たことを驚いていた。

 

「先生方にも」

 

 ネギが驚いている間にザジはアーニャ達にもチケットを配ると、余計なことを喋ることなく驚異的な身体能力を見せて空中の梯子に飛び移った。

 やはり無口だ。必要な事以外喋らないのだろうか。再び『ナイトメアサーカス』の宣伝に戻って行った。

 

「本格的やな。どんな学園やねん、ここは」

 

 ザジを見送ってしばらく歩いて、巨大な門を見た千草がしみじみと呟く。その声の中に驚きだけでなく呆れの色も混じっていたのは気のせいではないだろう。

 

「日本のお祭りってこんなのじゃないの?」

「違うわ。ここが特別やねん」

「普通は学生がこんなに作らないと思うわよ、アーニャ」

「そういうことや」

 

 ネギも少しアーニャと似たような考えだったが、よくよく考えれば目の前にあるような『学祭門』を作るような学園祭は麻帆良だけだと気づいた。

 麻帆良大学土木建築研が主導になり、多くの有志の手伝いもあって造り上げられた学祭門。木製だがフランスの凱旋門をモチーフにして作られた技術は既に玄人に域に達している。こんな物を作れる学生が普通だったら世界がもっとアーティスティックになっている。

 

「噂には聞いとったけど、こんなん学生が作る規模やないで、ほんまに。どう考えても学園祭の規模を軽く超えてるやろ」

 

 見上げる学祭門は、一週間前にはなかったのだから麻帆良学園生のバイタリティを象徴しているモニュメントである。

 祭りというものにあまり縁のなかったウェールズ組に比べて、生粋の日本生まれの日本育ちである千草は目の前のモニュメントに開いた口が塞がらない気分だった。

 

「噂ってなんですか?」

 

 千草の呟きを聞いたネギは思わず問いかけていた。

 

「この麻帆良際は都市を上げての一大イベントや。日本には三大祭りっちゅうのがあってな。それに加えても良いんちゃうかって話や」

 

 広大な敷地に多数存在する学び舎の総力を挙げ、加えて有力財閥の協賛を得ているだけあって、最早一大テーマパークの様相を呈する程に大規模なものとなっていて、下手をすれば世界中のどの祭りよりも規模に限定すれば大きいのではないかと続く千草の台詞に、三人は感心すれば良いのか驚けば良いのか微妙な表情になる。

 

「まぁ、うちも一度ぐらいは参加したいと……」

 

 自分で作ってしまった微妙になった空気を変えようとした千草の顔から不意に感情が消えた。

 

「どうかしました?」

 

 周辺を警戒するように辺りを見渡した千草の豹変に、何事かと身を固くしたネカネが尋ねる。

 

「この辺だけ随分と静かやな。人っ子一人おらへん」

「そういえば………………この辺は誰もいないわね」

 

 辺りを見渡したアーニャが同意する。

 四人が今いるのは大通りから少し離れた世界樹広場前に繋がっている細道だが、夕方とはいえ学祭前日に見渡す限り誰もいない明らかに不自然だ。

 アーニャの同意にネギも遅まきながら気がついた。恐らく千草が言わなければもっと気づくのが遅かっただろう。

 

「これは人払いの結界だな。どうやら学園長はうちらに普通の奴らには聞かれたくない話をするらしいぜ」

 

 ネギの肩で前脚で立ち、なにかを感じるように鼻をヒクつかせたカモが断言する。

 ネギもその通りだろうと思ったので否定しなかった。

 大通りから一本道を隔てただけの細い通りは、表の往来が嘘のように鼠一匹の姿も見当たらなかった。目的地たる世界樹広場へ近づくほどに、その静けさは拍車が掛かる。

 ネギ達が世界樹前広場に着くにはそう時間はかからなかった。

 

「あれは?」

 

 世界樹の巨大な偉容をバックに、電灯が一定の間隔で立ち並んで幅広の階段とそれぞれを広大なフロアで区切っている。階段を登ったフロアの一つに複数の人影があった。

 夕焼けの逆光で影を落とした人影の一つが四人を見る。

 

「お、ようやく来おったか。頭を長くして待っとったぞ」

 

 ぬらりひょんのような異様な頭をして髭を揺らし、これで杖でも持って雲に乗っていれば仙人の出来上がりと噂される麻帆良学園理事長、近衛近右衛門が二人を待ち受けていた。

 更に同じ女子中等部の教師の瀬流彦、他にも多くの教師達やそれぞれの制服を着た生徒がいる。なにやらシスター服を着た一人はやけにネギ達の視界から隠れようとしているが。

 集団の前に進み出ながらネギとアーニャは、この状況の意味が分からず困惑する。反対に千草とネカネは何かを察したように肩から力を抜いた。

 

「あの、この方達は?」

 

 学園長がいて、呼ばれたのは自分達。更に人払いの結界が張られているとなれば、ここにいるのは魔法使いかそれに準ずる者であると推測できる。が、あくまでそれはネギの推測に過ぎないので説明される前に先に尋ねた。

 

「ここに集まっとる者達は、学園都市の各地に散らばる小・中・高・大学に常勤する魔法先生、及び魔法生徒じゃ。全員ではないがの」

 

 髭を撫でつつ、珍しく片目を開けつつ説明する。

 その中に知り合いがいないことに気づいて、ネギは首を捻った。

 

「あの、タカミチ…………高畑先生は?」

「サボりじゃ」

「ええっ!?」

「冗談じゃて。今は使い物にならないから呼んでないだけじゃよ」

 

 学園長のブラックなジョークに騙されたネギだったが、使い物にならないとはどういうことかと問いかけようとして、人の中から高畑より少し年上のベストを着た黒髪黒目で眼鏡をかけた男性が近くにやってきた。 

 

「君がネギ君か。娘の祐奈から話はよく聞いているよ。よろしく」

「祐奈…………って明石さんのお父さん!? えっ、ということは、もしかしてゆーなさんって魔法使いだったんですか!?」

 

 出された手を反射的に握り返しながら、目の前にいるのが副担任を務める明石祐奈の父であると知って驚愕した。

 父親が魔法使いであるならば、あのクラスの先導役の一人である明石祐奈が魔法使いである可能性が高いと、ネギの明晰な頭脳は瞬く間に解答を導き出した。

 

「はは、娘は魔法のことは知らないよ。くれぐれも秘密に頼む」

 

 柔和に笑って頭を下げながらも握られた手に痛いほどの力を込められての説得に、ネギの顔が引き攣る。

 これだけの愛情を幼少の頃から娘に注いでいたのならファザコンにもなろう、とネギは少し無理矢理に離してもらった手を後ろに回しながら思った。

 隣のアーニャは、娘の祐菜に魔法のことを黙っている教授に良い思いを抱いていないらしく、目つきを尖らせていた。

 

「理由は分かりませんが分かりました」

 

 アーニャが何かを言う前にネギは話を終わらせた、

 記録を思い出してみれば、確か明石家には母親がいない。正確には何年も前に亡くなっているはずだった。

 父が魔法使いであるならば娘もそうであると考えるのがネギの中では常識だったが、生徒とはいえ他人の間柄では家族の問題に口を挟む権利など持ち得ているはずがない。

 亡くなった母親との関連性があるとは思えないが父が子に魔法を教えないこともあるかと思い、下手な詮索をしないことが大人の対応と頷いておいた。

 ネギが先に答えてしまった為、アーニャは鬱憤が溜まるだろうが彼女とて何も知らぬ子供ではない。詮索しない分別を持っていた。

 

「さて、学園祭を前日に控えた忙しい時期じゃ。本題に入ろう」

 

 明石教授が下がったところで学園長が一歩前に進み出た。

 

「君達はこの世界樹がどういうものか知っておるか?」

 

 聞かれたネギとアーニャは顔を見合わせる。

 先のこともあってアーニャが答えることで意志が一致する。

 

「ギネス世界一の大きさを誇る大樹であり、強力な魔力を秘めた木であるとは聞いています」

「左様。もう少し説明しておこうか。諸君らも復習がてらに聞いておくように」

 

 学園長が提示したのは背後の世界樹。太く逞しい幹はごつごつした指のような根で土に食らいつき、重力に従って空を目指す緑の樹冠が風で揺すられて、生きているぞと訴えるように鳴いて太陽の欠片を地面に振り撒いていた。

 

「生徒達に世界樹と呼ばれとるこの樹じゃがな 正式名称は『神木・蟠桃』といって強力な魔力をその内に秘めておる。つまり『魔法の樹』じゃな。22年に一度の周期でその魔力は極大に達し樹の外へと溢れ、世界樹を中心とした六ヶ所の地点に魔力溜りを形成する。この広場もその一つじゃ」

 

 長くなったので一つ呼吸を挟み、皆に言葉が染み渡るのを待つ。

 

「この魔力は膨大じゃ。悪用されればどのような事態になるか予想も出来ん。本当は来年のはずだったんじゃが、異常気象の影響か一年早まってしまったのじゃよ。マジでマズイのは学祭最終日じゃが、今の段階から魔力溜りの警備を頼みたい」

 

 蟠桃といえば、中国で16世紀の明の時代に大成した伝奇小説『西遊記』に登場する、西王母の住む崑崙山にある桃の名称。三千年に一度だけ実を結ぶとされ、食すと不老長生が得られるという。『西遊記』は孫悟空を主役とする戯曲、小説本、民間伝承を繋ぎ合せて誕生した、謂わば孫悟空伝説の集大成。蟠桃を食べるのも孫悟空である。素材となった伝承には神話・民話であった物語も多い。

 

「今回僕達を呼んだのは警備に組み込むためですか?」

「そこまで人手は不足しとらんよ」

 

 学園長の話から呼び出した理由を推測したネギは直球で問いかけたが予想は外れた。深読みしすぎだと学園長は苦笑いを浮かべる。

 

「今回は注意喚起に過ぎん。知っているのと知らないのとでは大分違う。それに君達はまだ子供じゃ。最初の学園祭を存分に楽しむといい」

「私達が子供だから頼りにならないと、そう仰られるんですか」

「違うぞい。どんな魔法先生・魔法生徒でも初年度は学園祭を楽しむために警備から外し取る。なにも君達だけが例外ではないぞ。疑うなら後ろの彼らに聞いてみても構わん」

 

 アーニャの率直さを若さとして受け取った学園長は、微笑ましさを押し隠して説明する。

 

「…………言いすぎました。申し訳ありません」

 

 確認するように学園長の後ろにいる面々に顔向けて頷きが返って来たので、アーニャも恥ずかしげに一歩下がる。

 

「ネギ君も構わんかね?」

「はい」

 

 続けられた問いにネギは頷きを返した。

 その横からネカネが一歩前に出た。

 

「私達も同じと考えてよろしいんでしょうか?」

「勿論、存分に楽しんでもらって構わんよ」

「ありがとうございます」

 

 一礼するネカネの後ろで少し嬉しげな千草がいたが、どうやら彼女は殊の外学祭を楽しみにしていた様子であるし触れぬが華であった。

 アーニャがその姿を見て笑いかけようとしているのを止めるためにネギが行動しようとした正にその時。

 

「誰かに見られています」

 

 何故か箒を持った麻帆良学園本校女子中等学校の制服を着た少女が中空を見上げて言った。

 ネギには見覚えのないので体格から考えて二年生であろう。世界樹広場向かい側に立ち並ぶ建築群の更に上方を仰望している。

 そしてネギから見て一番右端にいたサングラスをかけて煙草を吸って髭面の男性教師――――アスカを病院に運んでくれた神多羅木先生――――が虚空へと腕を伸ばし、フィンガースナップ――――――属に言う指パッチン――――をすると、斜線上から無形の風の刃が放たれた。

 空気中を飛び散る乾いた音。一陣の刃が大気を斬り裂く。

 

「おお!?」

 

 ネギとカモが特定の動作に合わせて発動する無詠唱呪文の巧みさに驚愕する暇もあればこそ、不可視の風の刃は斬撃となって宙を飛んでいた機械を真っ二つに両断した。

 

「魔法の力は感じなかった。機械だな」

「生徒か、やるなー。人払いの魔法を抜いてくるとはウチの生徒達はあなどれないですからね」

「追います」

「深追いはせんでいいよ。こんなことが出来る生徒は限られとる」

 

 なにやらネギ達には預かり知らぬところでの了解が交わされており、状況を把握できぬまま物事は進んでいく。

 聖ウルスラ女子高等学校の制服を着た少女から女性に成りつつある金髪と、先の箒を持った女子中等部の子、更にたらこ唇と角刈りが特徴の眼鏡をかけた黒人男性が飛び立って行った。恐らく偵察者を捕縛しに行ったのだろう。

 

「さて…………予め配布しておいたシフト通りにパトロールに当たってくれ。魔法の使用に当たってはくれぐれも慎重に! よろしく頼むぞ!! 以上、解散!!」

 

 学園長は一度、偵察者追って行った三人の方角を見つめ、ネギ達や残りの魔法先生・魔法生徒を見渡して最後の訓示を述べた。

 そして集会はそのまま解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上のテラスを利用して作られているオープンカフェに一人の客がいた。

 客はともかく、店員の一人も姿がないので屋上にいるのは男一人だけであった。

 中点をとうに過ぎても燦々と照り付ける太陽の光が降り注ぐカフェには男の他には誰もいない。疲れて一休みするにしても屋上のオープンカフェは利便が悪いのだろうか。

 このカフェがある屋上に上がるには室内を通過する必要があり、オーダーは事前に済ませて受け取るのでウェイターなどはいないのだ。

 誰もいないので気兼ねせず紫煙を曇らせる男――――タカミチ・T・高畑はとっくの昔に冷めたコーヒーに一口も口をつけることなく、難しい表情で虚空を見つめていた。その背後から忍び寄る人影があった。

 

「高畑先生」

 

 優しげなソプラノの声が耳に響いて高畑は驚きながら振り返ると、そこには二十代後半の眼鏡をかけた女性が立っていた。

 その女性のことを高畑は良く知っていた。

 

「しずな先生? どうしてここに」

「下から姿が見えたものですから、ご一緒しようと思って」

 

 言いつつ、しずなが静々とした動作でコーヒーを乗せたトレイを机に置いて斜め前の席に座った。

 斜め前に座っているので彼我の距離は近いが不思議なほど忌避感は湧かない。同期の教師で付き合いは長く、私的な繋がりもあったからこの距離感の方が逆に心地良い。

 

「また煙草を」

 

 しずなの視線が煙草に向いているのに気付き、不味い現場を見られた犯人のように高畑は顔を固まらせた。

 

「前から言ってますけど駄目です。体に悪いですよ」

「いや、これは」

 

 以前からしずなは高畑が煙草を吸っていると苦言を呈してくる。昨今の煙草の忌避ではなく純粋に吸っている高畑の体を思ってのことなので拒絶しづらい。

 

「駄目です。高畑先生がしていることは体が資本なんですからなにかある前に煙草は控えて下さい」

 

 体一つ分だけ開いた距離は手を伸ばせば届く。高畑は諌めるしずなの手を中途半端に上げた手で払いのけることも出来ず、煙草を取り上げられて灰皿に押し付けられる。

 何度も繰り返されている行為だからしずなの動作には慣れがあった。

 

「本数は減らしているんですが」

 

 煙草の火が完全に消えたことを確認したしずなが咎めるように高畑を見てきたので、咄嗟に言い訳のような言葉を口走ってしまった。

 

「減らすだけで止める気はないんでしょ?」

「これだけは死んでも止められそうにありません」

 

 言いながらも背広に入っている携帯を入れているのとは別の胸ポケットから煙草とライターを取り出しかけて止める。

 この一連の動作は既に癖として無意識レベルで行うようになってしまっているので、意識的に止めなければまた煙草を吸っていただろう。高畑がこの癖を止めるのは吸ってはいけない環境にいる時かしずなの前だけである。

 手持無沙汰な手がコーヒーカップを掴む。

 

「明日菜ちゃんの為にですか?」

 

 煙草を吸い出した理由が理由であるだけに、真相を知らないはずのしずなが言い当てたことに高畑の手が動揺を示すように揺らいだ。

 掴んだコーヒーカップが動揺度を表すようにソーサーに当たって甲高い音が鳴った。

 

「…………煙草が好きなだけです。もう立派なニコチン中毒者ですから」

「嘘が下手な人」

 

 笑おうとしたが笑えなかった。喉はヒクリとなるだけで言葉が出て来ず、笑みを浮かべようとした顔はピエロのような奇妙な表情になってしまう。

 コーヒーに口をつけるしずなを見て、即座に仮面を被り直す。

 

「そんなにも下手ですか? 自慢にもなりませんが、これでも職業柄で上手い方だと思っていたんですけど」

 

 本当に自慢にもならない、と高畑は仮面ではなく自身の顔で苦笑した。

 ハッタリも含めて多くの人間と渡り合ってきた中で嘘も方便として使ってきた。力だけではどうにもならない分野の修羅場も潜り抜けてきた高畑は自分の嘘が下手なわけがないと自負している。誇れることではないが必要以上の卑下は命に関わる。

 

「何年貴方だけを見続けていると思っているのですか。私を舐めないで下さい」

「ぐっ……」

 

 見方を変えれば告白そのものの発言をする真剣な表情のしずなに、高畑は顔を僅かに赤くして喉の奥で唸った。

 高畑とて何年も戦場で戦ってきた生粋の戦士である。ラブロマンスの一つや二つは経験してきている。一夏の恋ならぬ一夜のアバンチュールもあった。

 好意を向けられることに慣れていないわけではないが相手が悪い。

 

「愛しています。誰よりもずっと」

 

 真っ直ぐに真剣な眼差しで告げられるのはこれで何度目であったか、高畑はもう数えることを止めていた。

 

「何度も言いますが錯覚です。それに」

 

 僕に人に愛される資格はない、とは続けなかった。

 最初に言った時に返された言葉の怒涛は高畑を以てしても耐えられるものではなかった。今の精神状況でやられたら屈伏してしまう。なんとしても避けねばならなかった。

 

「私がサキュバスの先祖返りだからですか? だけど、違います。この気持ちは錯覚ではありません」

 

 キッパリと言い切るしずなに高畑は首を横に振った。

 

「先祖返りの能力は制御できていると聞いています。錯覚だというのは別のことです」

 

 高畑は教師になって直ぐのことを思い出した。

 

「しずな先生を助けたのは確かに僕なのかもしれません。ですが、偶々僕がそこにいただけで他の誰かでも出来ました」 

「仮定に意味はありません。現実として救ってくれたのは貴方です」

 

 しずなは麻帆良外の人間で、教師として赴任してきた外来者であった。だが、赴任当初から男の精が欲しくなるという異変を抱えていた。

 後に分かったことだが世界樹の魔力の影響で、父方の祖父の先祖にサキュバスがいて先祖返りを引き起こしていたのだ。先祖には今まで男しか生まれてこなかったらしく影響が出たのはしずなが初めてらしい。

 同期で同じ麻帆良女子中等部にいて親しくしていた高畑が異変に気づき対処した。内容に関しては二人とも誰にも話さなかったが、しずなは先祖返りの能力を完全に制御していて一般人として生きることを望んだので、魔法のことを知りながらも普通の生活をしている。

 

「救ったのが僕だからってだけで勘違いしているんです。刷り込みみたいなものですよ。それが錯覚だと言わずになんといえばいいのか」

 

 強い口調で否定した高畑の目の前でしずなは首を横に振る。

 

「ずっと高畑先生を見てきました。教師として高畑先生、魔法使いとしての高畑さん、男としてのタカミチさんを」

 

 膝の上に置いた手がしっかりと握られ、震えているのが高畑の目からは見えていたが何も言えなかった。言えるはずがなかった。

 大人であっても容易く本心を伝えられるはずがない。否、大人であるからこそ色んな柵が囲んでいて本当の気持ちを伝えることに臆病になっていく。

 だから、高畑は仮面を被ることにした。

 教師としての仮面、魔法使いとしての仮面、男としての仮面を。仮面を被る方が楽だったから。

 

「生徒と笑い合っている時も、悪いことをした子達を怒っている時も、一人で煙草を曇らせている時も、ずっと見てきました」

 

 嘘は社会で生きていく為の処世術である。高畑もまた大人になるに連れて身につけた。望むと望まぬに関わらず。

 社会の歯車として生きることを選んだのだ。大切な人を、喪った人との約束を守る為に。

 

「子供っぽい一面も、大人としての一面も、ずっとずっと見て来たんです」

 

 タカミチ・T・高畑は英雄にはなれなかった。憧れた人達には届かなかった。見たくない事実であり、避けようのない現実であった。

 歯車になることが悪い事だとは思わなかった。力が足りないから他所から持ってくればいい。個人でやれることには限界がある。言い訳かもしれなくても高畑は自分の出来るだけのことをやってきた。

 

「私もこの気持ちを疑いました。刷り込みじゃないかって、勘違いじゃないかって。でも、違ったんです」

「僕は貴女に愛されるような上等な人間じゃない。そんな資格が、ない」

 

 九年前から高畑の生き方は決まってしまってる。

 師を守れず、アスナを絶望させた罪は重い。

 一生涯かけて明日菜を守る。その誓いの為に犯した罪は数知れず、殺した人数は数知れず、狂わせた人生は数えきれない。

 高畑は大人になったのだ。大人にならざるをえなかったのだ。

 

「忘れて下さい。僕のことなんか忘れて、もっと良い人を探して下さい。きっとしずな先生なら見つかります」

 

 チクリ、と自分で言った言葉に高畑はナイフが刺さったような痛みを胸に覚えた。

 想われて嬉しくないわけじゃない。どれだけしずなの笑顔に助けられてきたか、どれだけしずなの存在が助けになってきたか、言えるはずがない。

 言ってしまったら高畑は折れてしまう。だから、言えない。

 

「私は助けてくれたのが高畑先生で良かったと今では思っています。この人で良かった。この人だから良かったって。高畑さんじゃないと駄目なんです。高畑さんじゃないと嫌なんです」

 

 熱を込められた真摯な言葉は高畑を内奥を揺らす。

 嘗てこれだけ高畑に恋情をぶつけてきた者はいなかった。しずなに対して少なからず恋情を抱いているからこそ反骨心は湧いてこない。

 受け入れてしまえと心の中で悪魔が囁く。

 

『タカミチ、後は頼んだぜ』

 

 傾きかけた心の天秤を、今際の際に託されたガトウの言葉が引き止める。

 

「駄目、なんです。僕は師匠と、ガトウさんと約束したんです」

「明日菜さんを守る、とですか」

「っ、……ええ。ですから」

 

 気持ちを受け入れることは出来ないと高畑は視線を下げて、しずなを直視できないまま告げた。

 

「それは男としてですか? 父としてですか?」

「……………」

 

 明日菜をどう思っているかなど今まで深く考えたことはなかった高畑は問いに対して即応できず、沈黙を選んだ。

 守り、危険から遠ざけることを重要として、自身の裡から溢れ出る気持ちを認識することはなかった。

 改めて高畑は自分が明日菜をどう思っているかを探る。

 

「この間まで、彼女はまだまだ子供だと思っていました。気が付いた時にはすっかり女の子になっていました。本当に気が付かない間に」

 

 明日菜が中学生になって寮に入るまでは一緒に暮らしていた小学生の頃の印象が強い。

 記憶が無くなって生まれたはずの感情を失ったが、雪広あやかを始めとして多くの人と交流を重ねていくことで今の人格を作り上げていった。

 良く笑い、良く怒り、良く泣き、良く悲しむ。

 煙草を吸ってほしいとガトウを求める言葉にどれほど高畑が泣きそうになったことか、きっと明日菜は知らない。

 ガトウの願い通りに幸せに生きている明日菜を見ているだけで高畑は幸せだった。

 罪悪感があったのかもしれない。約束があったのかもしれない。それでも高畑は幸福の只中にいた。この幸福を護る為ならどれだけ罪に穢れても構わなかった。

 

「好意を向けてくれていたことは嬉しく思っていました。ですが、異性としてそのような対象で見たことはありません。例えるならそう、騎士になりたかったのかもしれません、僕は。明日菜君の騎士に」

 

 年齢差もあって恋愛対象として見ることは出来なかった。明日菜の父親というならば師のガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグその人であろう。

 男としてではない。父親としてでもない。世界の悪意を押し付けられたアリカを救ったナギのように、高畑は明日菜を護る騎士になりたかったのかもしれない。

 曲りなりにも明日菜を護って来たと思っている。その挟持はあった。

 だが、何時かは明日菜を護れなくなる日が来る。それが恐ろしかった。

 時間は過ぎていく。どんな時も変わらず、淡々と、粛々と、残酷なほど等質に流れていく。

 咸卦法習得のために別荘を長期間使ったので戸籍年齢よりも何年も年を取っている。肉体の絶頂期はとうに超えて、今はいかに維持するかを気にしなければならない。

 明日菜はこれからも生きていく。だけど、高畑は何時までも明日菜の騎士ではいられない。これから咲き誇る花の傍に朽ちていくだけの木がいることはありえない。

 代わりが必要だった。高畑の代わりに明日菜を護る騎士が。

 

「もうお役御免かもしれませんが」

 

 望んだ相手ではあるはずだった。だけど、その時になって自分が選ばれないかもしれない可能性に高畑は絶望している。

 

「女の子は男の人の理解を超えてあっという間に大人になっていきます」

 

 しずなは高畑から自然をずらして屋上のテラスから階下の表通りを見下ろした。

 そこにいたのは明日菜だった。

 最近は何時も一緒にいる刹那と木乃香と何故か仮装して、途中で合流したらしいクラスメイト数名と楽しそうに談笑しながら歩いている。

 

「泣いたまま蹲っているほど彼女も子供じゃないんです」

 

 アスカと明日菜を引き合わせれば、何時かはこうなるかもしれないと予想していていたのに、なにもしなかった。

 保護者を気取っていても、少女の苦境をどうにも出来ない自身こそを高畑は疎んでいる。けれどあんなにも苦しんでいる明日菜を救ってやれるのはアスカだけなのだ。それがどうしようもなく悔しい。

 

「何時までも子供は子供のままではありません。明日菜ちゃんは傍にいる人を自分で選べるようになってきているんです。彼女の成長を喜ぶべきことではないですか?」

 

 言葉を受けて高畑も眼下を見下ろした。

 明日菜は笑っている。皆に囲まれて笑っている。高畑が知る感情が欠落した表情でも、ガトウの死に泣きはらした顔でもない。

 選ばれるのではない。高畑が選ぶ時が来たのだ。

 過去と約束にみっともなくしがみ付く亡霊となるか、それ以外になるのか。

 

「僕は……」

 

 高畑は選択を迫られていたが答えは出せなかった。

 人生の支柱となっていた命題を簡単に変えられるほど、容易い選択ではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園祭の開始を後半日後に控え、麻帆良学園都市は朝から活気づいて、夕方になっても通りの慌ただしさは減るこなくどんどん増えていた。

 通りには大小様々なテントが張られ、その中で、外で生徒達が忙しそうに最後に準備と仕上げに追われていた。予行練習なのか、焼きそばやたこ焼きの匂いが周囲に漂っている。ペンキの匂いもする。未だ未完成の看板が道の端に置かれ、その周りで生徒がしゃがみ込んで完成を急いでいた。

 あちこちのスピーカーからは大音量のBGMが流れ、乱立する出店では呼び子の黄色い声がお客を誘っている。

 

「く~、前夜祭行きたいな~」

「でも、私達もどっかで寝ないとヤバイよね」

 

 出店で食べ物を食べたり、叫び声をあげて射撃に興奮していたりと盛り上がっている周りを寝ぼけ眼で見やって、疲れた顔に笑みを浮かべているのは明石裕奈だ。普段は立ち振る舞いの全てから「元気」という文字が零れてくるような少女であったが今は減じている。

 

「確かにもうフラフラや」

 

 熱気が湯気になりそうなほどの人混みの中で祐奈の意見に同意したのは同じように寝ぼけ眼を擦っている和泉亜子。イントネーションが標準語と少し違って喋り方も関西弁で、他人より少し色が薄い髪と目の少女。

 

「前夜祭か睡眠のどっちにするか迷いどころだ」

 

 準備で前日から殆ど徹夜していて、二時間ほど気絶するように仮眠をとったのだが、頭にはいまだに眠気が靄となって燻っていた。けれど、その気怠さも前夜祭を前にして揺らいでしまう。

 

「寝ないと倒れるって」

 

 顎に手を当てながら真剣に悩む祐奈に、亜子は若干の呆れを滲ませて苦言を呈しながらも気持ちが分からないでもなかった。

 

「お風呂も入りたいね」

 

 横に並んで歩く二人の後ろで女子中学生の平均的な亜子の身長よりも頭一つ分高い大河内アキラが薄く微笑みながら見守っている。話に加わらないのは寡黙な性格がだからであるが、人の世話を焼くのが好きな優しい性格の持ち主。

 作業の最終的な追い上げを熱中してやったため、前夜祭と睡眠、どちらを選ぶにしても一度サッパリしたいというのが彼女の気持ちだった。

 

「え~、折角の前夜祭なのに」

「本番は明日なんだから無理しない」

「せやで。倒れたら元も子もないし」

 

 愚図る祐奈を説得するアキラに追従した亜子だったが、彼女だって前夜祭を楽しみたいという気持ちはある。

 辺りを見渡してみれば、準備で大慌ての学園内は派手派手しく飾り立てられた一種の異空間としか表現できない空間と化していた。

 日常と比べると正しく異界と称せるような状態で、思春期の少年少女の創造性と若者特有のバイタリティをあらん限りに無駄遣いして、壁という壁に宣伝ポスターを貼ってオブジェを設え奇妙な仮装で歩き回る。

 衣装や仮装も所々が補修されているのが手作り感を演出していて、出来そこないの異世界というか、なんとも形容しがたい奇妙な景色を形成していた。

 

「お? そこのイケメンな少年達! 前夜祭チケットが後僅かだよ! 買って行かないか!」

 

 聞こえて来たその内容に吊られて亜子は声の主を追った。

 三月に卒業した先輩に告白して振られてからは傷心で、努めて異性に興味を持たない様にしていたが亜子も年頃の少女である。顔が全てとは言わないが、美形がいるとすれば見てみたい衝動に駆られる。

 少しドキドキとしながら見ると、声の主はチケット販売を行っている売り子で、どこかの商魂逞しい学生だろう。話しかけているのは、前を通りかかっている二人の人物。

 

「わわ? カッコイイ――ッ」

「う……本当だ」

 

 亜子の視線を追った祐奈とアキラの言葉が、少年達のことを物語っていた。

 

「スポーツ系とちょいワル系か」

 

 ファザコンで有名な祐奈が感心したような声で批評しているが、的を射ていると亜子は少年達に見惚れながら思った。

 見惚れている間に、少年達は一つの屋台の前で足を止めた。

 その屋台ではカラフルな看板の下にヘラや菜箸を使って器用に食べ物を作っている、頭に鉢巻を巻いた男子生徒数人の姿があった。

 

「さぁさぁ、たこ焼き、お好み焼き、焼きそば、なんでもあるから買って行ってよ!」

 

 じゅうじゅうと焼ける良い音と、焦げたような焼けたような香ばしい匂い、そして陽気な呼びかけの声が響き渡る中で、祐奈がちょいワル系と称した黒髪の少年が隣にいる全身からダルそうな空気を漂わせているもう一人に話しかけている。

 なんらかの決着がついたのか、黒髪の少年が屋台の前に進み出た。

 

「焼きそば、二つ頼むわ」

 

 黒髪の少年が注文している。

 声変わりの途中なのか、まだ成人男性のような低さはなく子供と大人の微妙な時期であることが分かる。

 

「同い年か、少し下ぐらいかな」

 

 出来上がった焼きそばを受け取って、通行の邪魔にならないように通りの隅によって待っていた金髪の少年の下へと向かう黒髪の少年を視線で追っているとアキラが何ともなしに呟いた。

 二人の少年の身長は亜子より高く、アキラと比べると低く、祐奈と同じか少し上ぐらい。黒髪の少年の声の具合と身長から自分達よりも年上である可能性は低いだろう。

 

「ん? あれあれ、どうしたのかな亜子さん。目がハートになってますよ」

「へ?」

 

 祐奈に言われて思わず目に手をやるが、当たり前だが見えるはずがない。それどころか目がハートになるはずがない。

 

「亜子って面食いだったんだ」

「まぁ、分からないでもないよ。ほら、周りの女子連中みんな見てるもん」

「ち、違うて?! 変なこと言わんといてぇな!」

「で、亜子さん的にはどっちが好みなのかニャー」

「だから違うってば!」

 

 祐奈は絶好のからかいのネタを手に入れたとばかりにニタニタと笑っていて、亜子は以外に図星だったのか少年達をチラチラと見ながらも抗弁するも力が弱い。

 アキラはエキサイトする二人を困りつつ、あっという間に焼きそばを食べて去って行く少年達の背中を見送りながら首を捻った。

 

「でもあの二人、どこかで見たことがあるような……」

 

 

 

 

 

「なぁ、いい加減に機嫌直せや。焼きそば、奢ったったやないか」

「別に食いたかったわけじゃねぇし」

 

 と言いつつも、爪楊枝を咥えながら歩く金髪の少年の顔は腹が膨れて満足そうであった。

 食べておいて感謝の一つもない相手に黒髪の少年は眉を顰めた。

 

「じゃあ、焼きそば代返せや」

「金持ってねぇよ、小太郎。残念だったな」

「くっ、後で請求したるからな、アスカ」

 

 せせら笑う金髪の少年――――アスカ・スプリングフィールドに、黒髪の少年――――犬上小太郎はしっかりと心のメモ帳にさっきの焼きそばの代金を請求することを誓う。

 

「小さい奴め。それぐらい奢れ」

 

 喜怒哀楽の昂ぶりを感じさせる心地よい空気があった。あくまで楽しく、みんなで仲良く盛り上がれる祭りが。その中でアスカだけが不満そうな表情を浮かべている。そのことが小太郎には許せないようだ。

 

「始めから奢りやと言うとるやろが。そう言うんならその不満そうな面を止めればええねん」

「俺を別荘から連れ出したのはお前だろ」

「お前だけ残るのは許せん。それに吸血鬼もいい加減に出てけって言うとったやないか」

 

 ここに来るまでの経緯を思い出して、不満そうな面から仏頂面に代わったアスカは鼻を鳴らした。

 

「たかだか二年ぐらい別荘を使っただけで」

「そうは言うけど、こっちでは一ヶ月しか経ってないんやで。このペースやとあっという間に年食ってしまうわ」

「強くなれるなんら俺は構わねぇ」

 

 花畑のようにあちこちに並んだ出店、企画の舞台、大声で呼びかけ合い、準備をしている大勢の生徒達。みんなで精一杯に準備して、たった数日で終わってしまう夢の時間を演出する。その無駄で、馬鹿らしくて、けれど素敵な刹那。多くの人達が待ち望んでいた乱痴騒ぎを目前に控えて猛っていた。

 だけど、騒がしくも楽しそうな人達の中でアスカだけが別世界の人間のように馴染めない。

 

「だから吸血鬼に叩き出されんねん」

 

 なにかに追い立てられるように修行に没頭して、周りと隔絶した時間の流れを生きようとするアスカを懸念したエヴァンジェリンの行動を小太郎は理解していた。

 そんなアスカに付き合っている小太郎も同罪かもしれないが。

 

『麻帆良祭当日まで、後16時間です。各イベントサークルの責任者は本日19時に学祭実行委員会本部へ……………』

 

 アナウンスが流れる中を二人は無人の野を行くかの如く進む。

 目的地はない。

 別荘を追い出され、当てもなく歩き続けるアスカに付き合って小太郎も彷徨う。

 別荘でこの二年を共に過ごしながらも、体だけが強くなって心は少しも進展していないアスカに付き合うのも、親友の自分の役目であるかのように。

 

「ん?」

 

 なにかが落ちてくるような音が耳に入ってきて、二人は揃って顔を上げた。

 上げた視界を何かがよぎって落ちてきた。

 

「おっと!?」

 

 落ちてきたのが人だということに気づき、咄嗟な反応としてアスカの腕がその人を受け止める。

 かなりの高所、それも隣接している建物の上から落ちてきたような圧力を、受け止めた瞬間に膝を曲げて感じながら肉体が反応して無意識の内に魔力強化を施す。素の身体能力では五階の建物から落ちた人を体重+重力込みで受け止めることは無理だと感じての反応であった。

 魔力強化を施された身体能力ならば、それほどの重さであっても受け止めるのに支障はない。羽毛の如く受け止めた相手が誰なのかと見下ろして驚愕した。

 

「おや、誰かと思ったらアスカさんではないか。丁度良かった、助けてくれないか。私、怪しい奴らに追われてるネ」

 

 アスカの腕の中にいたのは出席番号19番超鈴音。

 言葉通り誰かから逃げてきたのを示すように僅かに息を荒げている。顔には汗が滲んでおり、元級友として、文武両道であることを知っているのでこれだけ疲れた姿を見るのはアスカにとっても意外であった。

 彼女とさして交流がない小太郎は、超がこの二年で二人の身長は二十㎝以上伸びている今のアスカを分かったことに驚いた。

 人相は変わっていないだろうが、成長して子供っぽさが抜けてきているはずなのに少しの迷いもなく当てて見せた彼女に問い質すよりも、言ったその内容に気を取られる。

 

「追われている?」

 

 この麻帆良で怪しい奴らに追われているという超の言葉が俄かには信じ難く、アスカと小太郎は周囲を見渡して気配を探る。

 

「なんか来るで。数は十ってところやろう」

 

 すると、超が落ちたらしい建物の上からこの場所に近づいて来る複数の気配を感じ取った。幾つかの魔力反応から、魔法使いかそれに準ずる者に追われていると推測する。

 

「やるか?」

「いや、ここは逃げた方がいいだろ」

「よし、先行するわ」

 

 状況は分からないが超の言葉に嘘はないと判断した。全てを話しているとは思えないけど、状況を把握するためにも人がいない場所に移動した方がいい。

 アスカの考えに同調した小太郎が、走り出して道を掻き分けていく。

 

「行くぞ、捕まっていろ!」

 

 アスカは超に言いながらお姫様抱っこのまま、後を追って走り出す。

 先行する小太郎が脇道を通り抜けて、近くの路地裏の入る。

 路地裏を通り抜けることなく待っていた小太郎の下に辿り着いたアスカは、人の眼に入っていないことを確認してから認識阻害の魔法で自分達を覆う。

 直後、小太郎が飛び上がって狭い路地の壁を蹴り上げる。

 爪先が壁に着地した瞬間、逆の足で更に壁を蹴り、また跳躍する。

その動作を何度も続けて繰り返すことで、重力に従って落ちることなく登りきる。十数メートルはある建物の天辺にまで駆け上った。普通の人には出来ない跳躍力と俊敏さだ。

 最後に強く壁を蹴って反対側の建物の屋根に上がる。身体強化をして登っているといっても中国雑技団もビックリな芸当であった。

 

「うぉ~、凄いネ!」

「俺達も行くから手を離すなよ」

 

 感心している超に言って、アスカも同じようにして小太郎の後を追う。

 辺りを警戒しながら待っている小太郎の下に辿り着くと、なんともなしに腕の中の超を見下ろした。

 

「?」

 

 普通の人間にはとても出来ない動きに振り回されているのにも関わらず、見られることが理解できていないように逆に見返された。

 この異常事態にも関わらず、動揺した様子が欠片も見当たらない。そこが逆に不自然過ぎた。

 

「来るネ!」

 

 超の声によって、ゆっくりと思索に耽る暇は与えられなかった。

 

「ちっ」

 

 覆面の黒装束の姿をした集団が近づいて来るのを見て、舌打ちをして背中を向けて屋根の上を走り出した。

 

「なんやねん、アレは!?」

「超を追ってるんだろう」

「そういうことやなくてな!」

 

 軽々と建物の間の境目を飛び越え、別の建物の屋根に降り立った小太郎が振り返りながら問いかけるが、超を抱えたアスカだって分かるはずもない。

 

「実は私、悪い魔法使いに追われてるネ。助けてほしいヨ」

「悪い魔法使いやて?」

「向こうが使ってるのは西洋魔術だけどな……」

 

 窮地の姫よろしく涙目で縋る超に二人の少年は懐疑的だった。

 数多の魔法使いがいる麻帆良学園都市に悪の魔法使いが入り込み、魔法使いではない超を追いかけ回す理由に見当がつかなかったからだ。

 

『どうする?』

 

 と、二人はアイコンタクトを交わすが、情報が一方的で少なすぎて答えは出ない。

 

「取り合えず、逃げとこか」

「だな」

 

 面倒事は御免で、超は知らない仲でもないから後でどうとでもなると考えた二人は逃げるスピードを上げた。

 風に揺られてアスカの胸の前で魔法発動媒体である水晶のアクセサリーが揺れる。

 自分の目の前で揺れる水晶のアクセサリーに、超は瞳をどこか嬉しげに細めた。その手は自らの胸元に添えられていた。

 

「屋根から出てきたおった!?」

 

 飛んだ進行方向にある屋根から壁を透過するように現れた覆面の黒装束軍団に驚く小太郎の後ろで、アスカは少しずつ追っ手の正体に気づき始めていた。伊達に二年の間にエヴァンジェリンから無理やりに薫陶を受けてはいない。

 あれは西洋魔術の中であまりポピュラーな系統ではない影の使い魔の一種。

 

「ひゃー」

 

 追われているというのに緊張感のない超を斜め上に放り投げて、超を狙って手を伸ばす覆面の黒装束四体をすれ違いざまにそれぞれ一撃の下に叩きのめす。

 

「俺の方が斃した数は多いで」

 

 六体を斃した小太郎が自慢げにしているが、アスカは自分が斃した屋根に落ちた覆面の黒装束四体が滲みだすようにして消えていくのを見ていたので聞いていなかった。

 黒装束が跡形もなく消えて、自らの推測の正しさを確信していく。

 

「大丈夫か?」

「アイ、サンキュネ」

 

 相手の正体と修学旅行での超の魔法関係への関わりよう、推測を重ねた上で結論を出す。

 

「小太郎、一端撒くぞ」

「ええけど、アイツらどうすんねん」

「会ってみるさ」

 

 放り投げた超を危なげなくキャッチしてまた走り出す。今度は身体強化をバリバリに施して、覆面の黒装束もついて来れない速度で。

 

「飛ばすからしっかりと捕まってろよ!」

「おー」

 

 超の安全を慮って言ったのだが当の本人は人の腕の中で借りてきた猫のように寛いでいて、思わず力が抜けて屋根から足を踏み外しそうになったアスカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通りから離れて人のいない広場に立つアスカの前に、たらこ唇と角刈りが特徴の眼鏡をかけた黒人男性と聖ウルスラ女子高等学校の制服を着た金髪女性、そして箒を持った女子中等部の子がやってきた。

 小太郎と超の姿はない。いるのはアスカ一人だけ。

 

「誰かと思えば君か、アスカ君」

 

 向かい合うアスカの前に誰もいないことを確認した黒人男性は眉を顰めた。

 

「よく俺だって分かったな、ガンドルフィーニ先生。結構、変わったと思うんだが」

「正直、当てずっぽうだったが、大きくなろうとも魔力の気配は変わらんよ」

 

 ガンドルフィーニは眼鏡の位置を整えて、改めてアスカを見る。

 互いを見知っているように話している二人には既に面識があった。

 ガンドルフィーニは麻帆良女子中等部の教師ではない。なのに、なぜ面識があるかといえば、新田がいる飲み会に何度もアスカは潜り込んでいる。その才に彼は周りにアスカを紹介する。その時にガンドルフィーニと簡単な挨拶程度だが会話を交わしている。

 ガンドルフィーニにとってみればアスカは印象深いので忘れようがない。アスカからしたらその他大勢で印象が薄いかもしれないが記憶に残っていた。

 

「随分と大きくなっていることを聞きたいが、その前に………………どういうつもりかね。何故君が問題児で要注意生徒の超鈴音を庇っているんだ?」

 

 アスカが成長していることに対しての困惑が大きいようだが、自分の仕事を優先することにしたようだ。

 

「同級生が襲われていたら助けるのは当然のことじゃないか」

「何!? 超鈴音が同級生? 君が?」

 

 ガンドルフィーニは超を危険人物と言いながらも、どこのクラスにいて同級生が誰かまでは認識していなかったらしい。

 

「そうか、どこぞのゴロツキの魔法使いが学園内に侵入したかと肝を冷やしたぞ」

 

 手を顎に当てて、ガンドルフィーニは言葉通り安心したように深く息を吐いた。

 

「彼女達は?」

 

 ガンドルフィーニには面識があるが、彼の後ろに控えている二人の少女については会ったことがないので訊ねた。

 

「私が担当する魔法生徒、っと言って分かるかな?」

「なんとなく」

「説明が早くて助かる。これもなにかの縁だ。彼女達を紹介しておこう」

 

 学園都市の各地に散らばる小・中・高・大学に常時勤務する魔法先生の、ガンドルフィーニはその一人である。

 「魔法オヤジ」「魔法少女」が都市伝説化していることは、ガンドルフィーニなどの真面目と呼ばれる者達には頭の痛いことではあったが、アスカが手持ちの情報から推察してくれているので少し安心していた。実際には、字面から判断したに過ぎないのだが。

 これで都市伝説から予測されていたら情けなさすぎて泣けてくる。

 そんな内心を押し隠して、ガンドルフィーニは箒を持った女子中等部の少女に目で促した。

 促された少女が一歩前に出る。

 

「初めましてっていうのも変ですけど、麻帆良学園女子中等学校2-Dの佐倉愛衣です。実は何度か廊下ですれ違ったことがあるんですよ」

 

 ペコリと一礼する愛衣に失礼だったが彼女のことをアスカは覚えていなかった。

 在籍している3-Aと同じ校舎内で見かけることはあったとしても、すれ違ったぐらいの人間を全て覚えているほどアスカは酔狂ではなかった。

 

「悪い、覚えてない」

 

 アスカが唯一の男子生徒として目立っていて愛衣が知っていても、反対の立場からすれば無理もない。しかし、愛衣がアスカを知っているのはそういう理由ではなかった。

 

「昔、魔法学校対抗戦でも顔を合わせたんですけど、覚えていませんか?」

「魔法学校対抗戦?」

 

 記憶野が刺激される。決してアスカは記憶力が低いわけではない。寧ろ、一度覚えたことは忘れないタイプだ。

 改めて愛衣のことを見る。

 2-Dという話だから、彼女が魔法学校対抗戦に出たのは二年以上の前の話のはず。

 その時のことを思い出したアスカは、目の前の少女に似た相手が対戦校の中にいたことを思い出した。

 

「もしかして、ジョンソン魔法学校のファイアーダンサーか?」

「そうですけど、その呼び名は止めて下さい」

 

 自分のことを覚えていてくれたので嬉しさにハニカミながら笑う愛衣を前にして、アスカの目が意表を突かれたように丸くなった。

 

「おや、もしかして二人は知り合いだったのかい」

 

 楽しそうな愛衣と何故か苦み走ったような表情になったアスカが旧知らしいことに気づいたガンドルフィーニが口を挟んできた。

 

「知り合いというか、火炙りにされた仲というか」

「変なことを言わないで下さい。三人がかりで攻撃してきたのはそっちじゃないですか」

「トラップを仕掛けて人を火達磨にしといて良く言うな。同じ魔法属性のアーニャが気づいてネギが助けてくれなかった死んでたぞ、俺」

 

 両手で箒を持って喋り方などから、大人しく控え目そうな性格が簡単に想像できる愛衣が事前に作っていた罠に嵌って死にそうな目にあったアスカは、当時のことを思い出してこっそりと距離を取る。

 

「優勝したのはメルディアナだからいいじゃないですか」

 

 愛衣はまだ話したい言い足りない様子だったが、アスカの方にトラウマがあるのかジリジリと開いていく距離にガンドルフィーニは紹介を続けることにした。

 

「次に彼女は……」

「高音・D・グッドマンです」

 

 紹介しようとしたガンドルフィーニの機先を制して、自らの名を名乗った聖ウルスラ女子高等学校の制服を着た高音・D・グッドマンは大股で一歩で二歩分だけ前に進んだ。

 そのまま歩を止めることなくアスカの前に進み出ると手を伸ばした。

 

「あなたのお噂はかねがね窺っていました。お会いできて嬉しいです」

「は、はぁ……」

 

 高音の動作が握手を求めていると思って、自らも手を伸ばすと両手で握られて困惑したのも束の間、高々会ったぐらいでこの喜びよう。アスカは困惑するばかりである。

 

「私達、人間世界に生きる魔法使いの使命は世の為・人の為にその力を使うこと。その実現の為に無私の心で打ちこまねばなりません」

 

 なにやら内心を熱心に語り出した高音に差し出した手を握られたまま、唐突な展開にアスカの困惑は深まるばかりである。

 

「力ある者は力なき者の為にその力を使わねばならない。我々はそのことを充分に心に留めておかねばなりません。あなたほど私の理想を体現している人はいません!」

 

 本人も気づいていないのだろう、熱を込めて力説しだしてから高音の手に力が入り始めた。手を両手で包まれているので地味に痛い。しかも言葉を重ねるごとに増していく熱に比例するように手に込められる力が増していく。

 

「これさえなければ良い子なんだが」

「お姉さまったら」

 

 頭が痛いとばかりに手を額に当てるガンドルフィーニと恥ずかしがって身を縮める愛衣。

 魔法使いとして、無私の心で世のため人のために魔法を使う理想に燃えているのだが正義感が非常に強い反面、思い込みが激しいのが高音・D・グッドマンという少女の特徴であった。

 止められる人達がそんな状態だったので、高音の暴走は尚も続く。

 

「弱きを守り強気を挫くあなたの行動によって、治安が良くなったとも聞きます。私もあなたを見習って修行を全うし、いずれはあのサウザンドマスターのような『偉大な魔法使い』となるのです!!」

 

 止められる二人が役に立たないので、危険度に突入し始めた痛みに。如何にして傷つけずに手を離してもらおうかと僅かに焦りを滲ませて模索していたアスカ。

 熱弁を振るっている高音は自己に埋没し過ぎて気づかない。

 

「つい先日も侵入した爵位持ちの上位悪魔を一人で倒したと……」

「手、痛いんだけど」

「あ、申し訳ありませんっ!」

 

 言ってはいけない単語を口にしたと知らぬ高音だったが、アスカの静かに、だが威圧のある声によって一瞬にして正気に戻った。

 正気に戻って、自分が相手のことを考えずに熱くなって自論を語って周りを置き去りにし、あまつさえアスカの手を強く握り過ぎていたことに気がついた。

 慌てて握り締めていた両手を離せば、下にあるアスカの手は全体的に赤くなっていた。

 

「申し訳ありません! ああ、こんなに手が赤く…………。愛衣! 治癒魔法をっ」

「あっ、はい」

「これぐらいでいらないって」

 

 自分が仕出かしたことに申し訳なさを感じて、目の端に涙を浮かべた高音の懇願に反応して下がっていた愛衣が近づこうとするのを、治癒魔法は必要ないと断る。

 

「あの、本当に大丈夫なのですか?」

 

 高音には自らの過ちによって害を与えた事実を開き直ろうとする厚顔無恥さは持ち合わせていなかった。

 少年に下手に出ることも苦ではないようだった。本当に申し訳なさそうに気にしてくる高音に、アスカの方が逆に困ってしまう。

 

「平気だって、ちょっと痛かっただけだから。もう痛みも引いた」

「すみません」

 

 握られていた手を振っておどける仕草を見せる。

 何度も頭を下げる高音に言ったように、もう強く握られていた手の赤みは引いて痛みもない。

 

「さて、そろそろ話を戻してもいいかな」

「も、申し訳ありませんでした?!」

 

 アスカの赦しに頬を緩めかけた高音は続いたガンドルフィーニの言葉に、自分が散々に場を引っ掻き回したことを自覚させられた。緩めかけた頬を盛大に引きつらせて、茹蛸よりも真っ赤にして耳まで赤くなってしまった。

 慌てて足を縺れさせながら下がり、アスカの視界から消えようとガンドルフィーニの影に隠れようとしていた。

 

「確か君は修学旅行の時に超鈴音のことを聞いていたね」

 

 ガンドルフィーニは高音の奇行を見ないことにして話を強引に元に戻した。このままでは一向に話が進まないと考えたためだろう。

 アスカとしてもガンドルフィーニの強引さを気にすることはなかった。

 

「ああ、色々と助けてもらったから」

 

 結果的にせよ、超の行動によって明日菜が島にやってきてアスカと小太郎が合体したアスタロウは命を繋いだのは事実。エヴァンジェリンの早めの登場も超の手引きだという話。

 協力してくれた茶々丸の武装も超が持ち込んだということで、借りはあっても貸しはない。

 ガイノイドタイプのロボットである絡繰茶々丸は魔法と科学の融合体である。

 その茶々丸を作り上げたのは他でもない、超鈴音ともう一人、葉加瀬聡美の二人。そして絡繰茶々丸の製作を通じてエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルとも協力関係にあることは学園関係者なら直ぐに調べれば分かる。

 学園長より超に対する情報を開示されており、彼女がエヴァンジェリン関係で多少の情報のリークを許されていることを聞いていた。

 

「超がなにかしたと?」

「彼女が通常では侵入不可能な会合の場を科学技術を使って覗き見していた。私達はそれを追ってきたんだ」

「場所は?」

「世界樹広場前だ」

 

 む、とガンドルフィーニの回答を聞いたアスカは少し考え込むように眉間に皺を寄せた。

 

「超鈴音が警告を無視したのはこれで三度目だ。警告を三度も無視したからには、見つかれば罰を受けるのは覚悟していたということだ」

 

 校則を破れば普通の生徒も罰則は受ける。これは法律に置き換えてもよい。ルールを破れば罰せられるというのは万国共通の原理である。魔法使いが現代社会と平和裡に共存するために、その存在を公には秘密にしている。一般人に多くを知られるべきではない。

 

「超に対する罰則は?」

「魔法使いに関する記憶を消去することが妥当だろう」

 

 ガンドルフィーニが言っていることは正論だ。どこにも穴はない。そこに余計な感情を挟むことなく彼は自らの職務に従って仕事をしているに過ぎない。が、正論と正しさだけで世の中は回らない。

 アスカは社会のルールよりも己が信条を優先させる。 

 論理の正しさだけでガンドルフィーニの味方をしていては借りは返せない。

 

「少し強引じゃねぇか」

 

 だからこそ、アスカはガンドルフィーニの眼を見据えて話す。

 

「超君は危険人物だよ。あの凶悪犯エヴァンジェリンにも力を貸しているんだ。油断は出来ない」

「それが強引だと言ってんだ。その論理で言えば、修学旅行で超の力を間接的にとはいえ借りた俺も同じだ」

「む、今のは失言であった事は認めよう。だが、君の言っていることは詭弁だよ」

 

 ガンドルフィーニが言ったように、アスカも自分が言ったことが詭弁だとは自覚している。そしてガンドルフィーニの気持ちもよく分かる。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという名は、それだけ魔法使いの間で大きすぎるものだった。魔法界において恐怖の対象となっており、600万ドルの賞金首となっていた。また、寝ない子を大人が「『闇の福音』が攫いに来るぞ」と脅かすなど、「なまはげのような扱い」を受けている

 普通の神経を持つ者ならば疑わぬわけがない。一度疑心暗鬼に陥れば、疑うところなどそれこそ無限に存在する。どんなに綺麗な姿を見せたとしても、それさえブラフなのではないかと疑うようになればどうしようもない。

 これが彼女のクラスメイトならば、吸血鬼の真祖というイメージよりも前者が先に来る。これは明日菜などがその典型だ。

 ガンドルフィーニは一般人の妻と今年小学校に上がる娘を家族に持つ。近くに時効になったとはいえ、凶悪犯がいると思えば安心できない。例え押し隠そうとも、ふとした時に言葉の端々に本音が滲み出てしまう。

 本来はガンドルフィーニの考えが普通なのだ。アスカのは長い時間を共に過ごし、交流を交わしたことで心の一部を許せるようになった結果に過ぎないのだから。

 

「だとしてもだ。それに先の追跡時、超は五階の屋上から落ちた。俺が受け止めなければ地面に叩きつけられ、大怪我をしただろう。目的は置いておいて、やり方に問題があったんじゃないか?」

「彼女が逃げたことにも要因があることを忘れないでほしい。そうすればこんなことにはならなかった」

「それでも一般人が巻き込まれて怪我をした可能性はあった」

 

 これは粗探しだ。隙を探して突き、こちらを有利にしようとする行為。

 

「更に問題の会合の場は、世界樹前広場は公共施設のはずだ。本当に聞かれたくない話をするのならば、どこかの部屋で行うべきだろう。今回のような場では覗き見たとしても罪に問うのは行き過ぎだ」

 

 論理に穴はある。が、それ以上にこちらに不利な材料が多すぎた。アスカは自分の不利を悟る。他に方法はないかと頭を回す。本人からしても不思議なほど回し続ける。

 

「確かにそうだ。が、裏のことであっても学園長が正式に開いた会合だ。場所は関係ない」

 

 不思議な執着を感じるほど熱意を見せるアスカに、ガンドルフィーニの眉が初めて顰められた。

 

「君はなぜここまで超君を庇おうとするだね。彼女が間違ったことをしているのは君も分かっているだろ?」

 

 ガンドルフィーニは遥か年下の若者相手であっても下に見ることなく冷静に答え続ける。

 逆にアスカは自分がなぜここまで食い下がるのかが不思議であった。同級生を守るにしても、超が犯した罪は変わらない。彼女には警告がされており、それを分かった上で行っているのだ。弁明の余地はない。

 

「修学旅行の時に力も借りた恩がある。一度ぐらいは味方するの当然だろう」

 

 きっぱりと言い切ったアスカに気圧されるように、口を挟みかけた高音と愛衣がたじろぐ。

 嘘だ、と自分で言っていてアスカは思った。

 本心はそこにはない。建前を並べ立てる不思議。分かってはいる。分かってはいるがアスカはそれでも超の弁明を止めようとはしなかった。アスカ自身にも理由は分からなかった。

 不思議な直感が超を守れとアスカを追い立てる。

 

「…………ふむ」

 

 ガンドルフィーニは意地でもどく気はないと立つアスカを見て、考えるように手を顎に当てる。直ぐに手を離した。考えは纏まったようだ。

 

「分かった。学園長も深追いは良いと言っていた。無理に捕まえる必要もない。今日の所は君に任せよう」

「ありがとう」

 

 ガンドルフィーニの采配に、アスカは軽く頭を下げて感謝を示した。

 

「だが、学園長が君の意見を認めなかった場合は分かるね」

 

 ガンドルフィーニの確認に頷きを返す。

 麻帆良学園都市の表と裏のトップである学園長の意見は、時に他の意見を凌駕する。その学園長がアスカの意見を否と言えば従わざるをえない。分からないアスカではない。

 

「それと気をつけたまえ。君が思っている以上に責任は重い。そして次がないことも」

「承知している」

「ならいい。では、後は任せたよ。そこで隠れている超鈴音にも言い聞かせておいてくれ」

 

 念を押すことだけは忘れず、ガンドルフィーニは二人を連れて戻って行った。

 三人を見送ってアスカは深い深い溜息を吐いた。自分でも強引だったと思っていて、半ばガンドルフィーニの好意に見逃してもらった形だった。

 直後、アスカがいる後ろの茂みから小太郎と超が出てくる。

 

「全部お見通しやったってことやな。やるな、あのおっさん」

「だな」

 

 軽く掻いたアスカは、小太郎に頷きを返して超を見る。

 

「いやー、ホントに助かったヨ。二人に助けられ、アスカさんには命まで救ってもらったネ」

「礼はいいからおかしな行動は取るなよ。なにかしたら俺の責任になるんだから」

 

 どうも深刻さが足りない超にお礼を言われても本当に感謝されている気がしない。それどころかおちょくられているような気さえして、普段は使わない頭を酷使したのでアスカの言葉は投げやりになっていた。

 

「分かったネ。あ、これは命の恩人に対する細やかなお礼ヨ♪ では、再見♪」

 

 迷惑をかけた自覚があるのかないのか、超は投げやりな言葉を気にした風もない。

 もう6月だから熱いだろうフード付きのコートのポケットからなにかを取り出し、アスカに強引に渡してさっさとスキップでもするようにして去って行く。

 

「俺にはないんかい」

 

 アスカにだけお礼を渡して去って行く超を不満そうに見送った小太郎は、困ったように立ち尽くすアスカの傍に寄る。

 

「懐中時計か」

「んなもん、貰ってもな。いるか?」

「俺かていらんわ」

 

 超から渡されたのは首から下げられるように鎖の付いた変なデザインの懐中時計だった。アスカの手の平に誂えたようにピッタリと収まる不思議さ。

 それはともかく、時計を持ち歩く習慣もないアスカと小太郎には貰っても嬉しい物でもなかった。押し付けようとしたアスカから小太郎も逃げる。

 実際には人から貰った物を渡すほどアスカも行儀悪くない。

 なんとなく手の中の懐中時計を弄び、どうしてあそこまで超に執着したのか、その正体を探ろうした。

 

「懐かしい?」

 

 もっとも近い感情を上げれば「懐かしい」だった。どうして超に懐かしいと感じるか分からない。そっと懐中憧憬を持っていない手を胸に当てて、その懐かしいような感覚の正体を模索する。だけど、アスカには答えが分からなかった。

 心が超になにかを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が半分以上沈んで夜が近づいていた。

 僅かな魔力を漏らして光り出した世界樹、先走るように打ち上げられた花火が空を照らす。麻帆良祭の前夜祭が始まったのだ。

 夜も寝ずに騒ぐつもりなのか、煌びやかな電灯と花火を背景に生徒達は大いに盛り上がっている。そんな麻帆良学園の上空を、「麻帆良祭実行委員会」とプリントされた飛行船が花火と同じ高さを飛んでいる。飛行船の上には、超、葉加瀬、茶々丸がそれぞれ同じフード付きのコートを着て佇んでいた。

 超は近くにいる葉加瀬や茶々丸の存在も忘れたように、眼下を眺めやったまま呟いた。

 

「これからだナ、本当に大変なのハ」

 

 明日から始まる闘争に向けての言葉であったはずだが、それを口にした彼女の顔には、言葉には不似合いな微笑がほんの一瞬だけ漂った。

 

「どうでしたか、彼は?」

 

 6月でも空の上は寒い。肌寒い空気を防ぐために着ているコートが風で靡く。ポケットに手を入れながら葉加瀬が超に尋ねた。

 

「あれが私の敵ネ。ふふ、これ以上はないヨ」

 

 問われた超は呟くともなしに、口からその感慨を漏らしていた。

 率直な意見だった。しかし敵という言葉に、憎しみはおろか、敵意も含まれていない。それどころか友愛に似た感情が含まれていた。ただ敵と呼ぶ者とは違う別な意味が含まれていた。

 

「ようやくここから始まるネ。私は必ず叶えて見せるヨ。世界を救う為にも…………」

「超さん、あなたが本当に望むのは―――――」

 

 だから、葉加瀬の小さな声で呟かれた言葉もまた、風の音に巻かれて誰にも届くことはなかった。

 戦いが始まる。一人の少女の願いと、一人の少年の未来を決める闘いが。戦いの果てに少女は何を見るのか、少年は何を見つめるのか。この時はまだ誰も分からない。

 強く願い求める二人の道が遂に交錯する。

 




オリジナル設定。ザ・大人の付き合いです。

次より第四章「希望」です。

次回

「舞台開幕」
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