魔法先生ツインズ+1   作:スターゲイザー

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第46話 鏡合わせの二人

 

 その日は良く晴れた。雲一つなく、青い色がどこまでも広がる空。

 数ヵ月前の惨劇を感じさせない世界であっても少年達は生きている。

 移り住んだ自然に囲まれた町から少し離れ、入学する予定のメルディアナ魔法学校を一望できる木まで競争することが少年達の日課だった。

 だけど、その日だけは違った。木の傍に見知らぬ男が立っていたのだ。

 

「やあ、初めまして」

 

 無精髭を生やした見知らぬ男は、キョトンとしている少年少女を安心させるように柔らかく笑って言ったのだった。

 そうして、彼らは青空の下で出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 二回戦も終わり、麻帆良武道会も残すは準決勝二試合と決勝を残すのみとなった。否が応でも盛り上がりを高めている会場の中にあって、観客席にいる長谷川千雨は一人だけ焦燥の中にあった。

 

(こ……これはどういうことだ!?)

 

 十数メートルの高さに支えもなく浮いたり、手を翳しただけで頑丈な舞台を何重にも陥没されたりと、摩訶不思議超人活劇を繰り広げた長瀬楓とクウネル・サンダースの試合や、巨大人形を吹き飛ばすアスカの武技。

 もうこの大会はそういうものだと遅まきながらも理解した観客達は無責任に盛り上がり、次の準決勝に向けてテンションを上げていく。

 

(一度は落ち着かせたと思ったネット状況が各所で勢いを盛り返している!? 長瀬の試合で物凄い勢いで魔法否定派…………大会側演出派が盛り返してるのか? くそっ、現実離れしたバカげた話題にどうしてこんなに盛り上がるんだ? 魔法否定派と肯定派共に数十人単位でバイトを雇って操作しているとしか思えん!!)

 

 一度は火消ししたはずなのに各掲示板で復活して、白熱する議論に焦った様子でキーボードを叩くが大火の前にしたバケツ一杯の水をかけるようなものだった。

 今度のは千雨にも止めようにもない規模で膨れ上がっていて、ハッカーとしても優れた技能を持っている自負があるからこそ、展開される論争の異常さを理解できてしまう。

 

(いや、違う。バイトにしては話題操作が巧み過ぎるし、書き込みのさり気なさも驚嘆モノだ。こういう情報操作に長けた個人か少数の集団じゃなけりゃ不可能だ)

 

 こういう一つの答えに向けての情報操作はより少数か個人で行う方が多数を誘導しやすい。現実ではなくネットアイドルとして情報社会に身も心もどっぷりと関わり続けている千雨だからこそ違和感を強く感じる。

 

(なんなんだ、これは? 単純なネット論争なんてもんじゃねぇ。ネットを介した世論操作戦、超々高度な電子戦だ)

 

 大会を運営している超陣営と、武道大会を利用して何者かが故意に魔法の存在を流布していると察知した学園側の熾烈な争いがネットの中で行われていると気づいたのが女子中学生であることは皮肉だと言えよう。

 

(どうする? 事情に関わっていそうなネギ先生を問い質すか…………いいや、それは駄目だ。最初、ネットアイドルを知らなかったことを考えればこっち方面に詳しい保証はない。それにあなたは魔法使いだって言って外れたらどうするんだ)

 

 深刻そうに宮崎のどかと話をしながらこの場を離れたネギ・スプリングフィールドを思い出したが直ぐに却下した。

 人見知りがこういう時に足を引っ張る。下手に頭脳が回るからこそ、成功した時のメリットと失敗した時のデメリットを計りに掛けれてしまう。魔法使いだなんて存在を根本から信じきれない現実主義の千雨では、一か八かの博打を打てる根性は出せなかった。

 

(ちいっ、こんなノートパソコンじゃ対抗できない)

 

 趣味が高じてハイスペックに改造してあるが限界はある。

 スーパーコンピューターには及ぶべくもなく、数十人単位で情報操作を行なっているようにしか思えない現実を前にして、どれだけ性能が高かろうが個人では如何ともし難い違いがあった。

 寮にある自室のパソコンを使えば少しはマシになるだろうが、焼け石に水程度にしかならないことは一目瞭然だった。

 

「千雨さん」

「えっ……」

 

 諦めきれずに方策を考えていた千雨に直ぐ真横から声がかかった。声をかけられるとしてもそっちからだけはないと思っていたので、予想外の人物からの声に千雨の心臓は不自然に高まった。

 ドキドキと驚きで高まる心臓の鼓動を耳にしながらネギ達がいた方とは逆を見る。

 

(絡繰茶々丸…………ロボ娘が私に話しかけてきた?)

 

 千雨達が二年生に上がった時に編入してきた、明らかにロボと分かるギミックがあるにも関わらず気づいているのか気づいていないのか、クラスメイトに受け入れられている少女。

 お祭り好きのクラスメイトの中にあって、千雨と同じように孤独を貫くエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに付き従っている姿をずっと見てきた。エヴァンジェリンから三歩後ろを離れて付き添う姿は主に仕えるメイドのようだと常々思っていた。

 朝や帰りの挨拶ぐらいはした記憶があるが、私的な会話をしたことは千雨の覚えている限りでは一度もないはず。

 最初に見た時から明らかに人間ではないパーツの数々が垣間見えていたので千雨は関わろうとしなかった。向こうもまた積極的にこちらと関わろうとする意志を見せず、二人の関係は同級生以外の何物でもないはずだった。

 

「先程ほどから頑張っているようですが無駄です」

 

 千雨は眉を窄めた。不審からである。

 外で使うために持ち歩いているノートパソコンのモニター部分には、横から覗き込めないようにフィルターを張ってあるので真後ろからでなければ見ることは出来ない。つまり、茶々丸の位置からでは千雨が観客席の欄干に乗せているノートパソコンの画面を見ることは、よほど身を逸らさなければ出来ない。そんな行動を取ればいくら画面に注目していた千雨でも気がつく。

 パソコンを操作しているだけで何をしているのかを察知しているということは、一連の情報操作に茶々丸が何らかの形で関わっているか事情を知っていることを示している。

 

「何が無駄だって言うんだ?」

 

 自然に言葉が尖るのを抑えられない。

 茶々丸が魔法否定派か肯定派のどちらに属しているかは分からない。しかし何らかの事情を知っているのは確実。本性を隠して演技を続けたままでいられるほど能天気ではなかった。

 

「あなたのハッキング技術や現在個人で開発されているプログラムでは無駄だと言っているんです」

「な、何!?」

 

 静かに指摘された事実に千雨は驚きと冷や汗を隠すことが出来ない。

 趣味が高じて身に着けた技術と、誰にも言ったことのないプログラムの存在を看破されて驚かぬはずがない。

 特に現在作っているプログラムは、今までの集大成でかなりの独創性があると自負している。他人どころかパソコンのデータディスク以外は知り得ない事実のはずだ。

 ありうるとしたら、ネットワークを介して千雨のパソコン内にハッキングをかけるか。誰にも言ったことはないので可能性的にそれしかない。

 自分のパソコンがハッキングされて、しかもそれに気づかないなどありえないはずだった。その例外が目の前にいる相手か。

 

「今、ネット上で行われているのは片やあなたのプログラムの何世代も先を行く世論・情報操作プログラム。片や魔法使い達の最新型2003年式電子精霊群…………超科学と最新魔法技術の戦いです」

「な……」

 

 ありえない単語が次々と茶々丸の口からスラスラと出てきて、千雨の脳はもうパンク寸前だった。

 

「残念ですが、あなたがそのノートパソコンで出来ることは何もありません。これは私達と魔法使いの戦いですから」

 

 人形染みた無表情で千雨を見つめて最後通牒を下す茶々丸はまさしく機械人形のよう。

 

「超科学に魔法使いときたか…………へ、なら次は未来人や宇宙人でも出してくれるのか、茶々丸さんよ」

 

 口が悪いのは自覚している。しかし、こうでもしなければ気圧されて話についていけなくなる。今の千雨に必要なのはハリボテでも自分を偽れる見栄だった。

 

(…………糞ったれ)

 

 嫌な汗が頬を伝った。それを拭うことも出来ない。視線を逸らせば、その隙に心臓が刺されるように思えたからだ。錯覚だとしても、けして無視できない予感であった。

 

「当たらずとも遠からず…………いえ、この場合は正解と言うべきできしょうか」

 

 機械のくせに思案するように言葉を選びながら、確信を掴ませないようにはぐらかせた。

 もしかして未来人か宇宙人のどちらかが、或いはその両方が存在している可能性を茶々丸の言葉から感じ取って戦慄を隠せない。未だに魔法使いにも確信を抱けないのに、更に他の余計な者達まで現れては、既に限界のキャパシティを盛大にぶち壊しかねない。

 慌てて話題転換を計ることに決めた。

 

「超科学に最新魔法って言ったな?」

「はい。私達の最新技術と学園側に数十人規模で存在する魔法使い達の戦いです」

 

 色々とツッコミどころが多すぎて処理が追いつかない千雨は、茶々丸の感情を感じさせない文字通りの能面のような顔を前にして、顔を歪めることしか出来ない。

 

「あんたは…………いや、あんた達は何をやろうしてるんだ?」

 

 端的に自分の味方か敵かを計る為に確信を突いていった。

 答えてもらえるとは思っていない。少しでも今までの情報を噛み砕く時間と納得するだけの間が欲しかった。

 

「超の言葉を借りるなら、彼女はこう言っていました」

 

 意に反して茶々丸はアッサリと千雨の疑問に答えてくれるようだった。

 言い方からしてクラスメイトの超鈴音がどちらかの陣営の首謀者なのかと、人生経験が大人に比べて短くともネットアイドルとして多くの大衆と交流を重ねて来た経験から辿り着いていた。

 千雨が答えに辿り着いたことにすら茶々丸が気付いていたとしてもだ。

 

「――――――今から百年以内に滅ぶ世界を救う英雄を生み出す、と」

 

 どこかのインチキな占い師の如く不吉な予言を語る茶々丸の言葉に、確かな実感を持って襲ってきた呪い染みた重みが千雨の全身を奮わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 父の友人であると語った自らをタカミチ・T・高畑と名乗った男にその場でネギは心を許し、アーニャもネカネとスタンに聞いて受け入れた。しかし、アスカだけはどっちつかずの反応だった。それは魔法学校に入学しても変わらなかった。寧ろ悪化すらしていた。

 最初は警戒心の強い動物が未知の相手を観察するように見ているだけだったアスカが、魔法学校に入学後に現れた高畑に喧嘩を仕掛けるようになったのだ。

 

「ねぇ、アスカ君。君はどうして誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けるんだい? ネカネさんも困ってるじゃないか」

「うるせぇ!」

 

 その結末は何時だって同じだ。

 殴りかかったアスカをいなし避けて、ただの一度も攻撃を振るうことなく疲れさせたアスカを高畑が諭すのが彼らの日常だった。

 手負いの獣のようなアスカが変わったのは、何時だっただろうか。

 

「なぁ、タカミチ。アンタはその拳で誰かを助けたことはあるのか?」

「なんだい、藪から棒に」

「いいから答えろよ」

「君はもう少し人に物を頼む言い方を言うものをだね……」

 

 魔法学校に入学して暫くしてから訪れた高畑に、アスカは喧嘩を吹っ掛けることなく訊ねてきたのだった。

 アスカに殊勝な心掛けなど期待もしていなかった高畑は小言を言いかけたが、期待がチラつく瞳を見てその言葉の意味を考えた。

 

「YesかNoというならYesだ」

「そうか……」

「但し、その逆も多い」

「え?」

 

 望む通りの答えだったろう、喜色に満ちかけた変化に水を差すように高畑は重く言った。

 

「拳というのは、そのままでは用途が限られている。君が期待しているのは、力で人を助けられるかどうかだろ? ならば、僕はその問いにはYesでありNoと答える。その意味が分かるかい?」

 

 分からないと首を横に振るアスカに、自分が誰かにこのような話をすると考えたこともなかった高畑は自らの中で整理しつつ口を開く。

 

「力というのは厄介なものでね。人を助けることも出来るが、同時に人を傷つけることも出来てしまう。拳をぶつければ、ぶつけられた相手は痛いと思う。だけど、こうやって拳を握らなければ相手と繋がることだって出来る」

 

 そう言って地面に膝を付いた高畑はアスカの手を取り、反対の手で開かれているその手を握る。

 

「君にはまだ難しいかもしれないけど、よく考えるんだ。誰かを助けるなら守るなら、考えることは無駄にはならない」

 

 手を離して立ち上がった高畑を、アスカは眩しそうに見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『麻帆良武道会も、いよいよ残すところ三試合となりました!! さぁ、注目の準決勝を進めて来た選手は――!?』

 

 マイクを片手に舞台に立つ和美の頭上で空中投影されている特別スクリーンが特定の選手を映す。

 

『既に舞台上がっているのは、学園の不良にその名を知らぬ者なき恐怖の学園広域指導員タカミチ・T・高畑! 二回戦を不戦勝で準決勝にコマを進めた高畑選手は何時ものポケットに両手を入れた独特の戦闘スタイルで準備万端だ!』

 

 舞台中央で相手選手を待ち構えている高畑は瞳を閉じて何も語らず彫像のように動かなかった。普段は不良以外にはフレンドリーな彼にしては珍しく、手を振ったり苦笑いを浮かべたりしないのは少しマイナスポイントか。

 

『そしてお待ちかね! 一回戦では予選会での十八人を倒した実力に偽りなしと見せつけ、二回戦では巨大人形を持ち出した高音・D・グッドマン選手に快勝したアスカ・スプリングフィールド選手の登場です!!』

 

 紹介されたアスカが舞台に向かって一人きりで花道を歩く。

 その歩く様だけで、人の目を惹く。ただ歩いているだけなのに、その姿の違いが目についてしまうのだ。呼吸や重心やごく些細な姿勢の在り方に、当の日本人が忘れてしまった遠い時間の記憶を刺激される。

 

「アスカさん……」

「お姉さま、涎が」

 

 舞台へと脚をかけた後ろ姿に、彼に二回戦で敗れた高音・D・グッドマンが全身にローブを纏った奇異な格好で観衆の中に埋もれながら見惚れていた。そんな彼女の唇の端から透明な雫が流れているのを見て、犬上小太郎に敗れた佐倉愛衣が取り出したハンカチで拭う。

 試合前は憧れだったのに、もはや有名アイドルに心が心酔しきったような先輩の姿に愛衣は苦笑を浮かべざるをえない。この人はこれからどうなるのかと疑問も絶えない。

 

「……?」

 

 悪寒がしたように背筋を震わせたアスカが舞台にかけた足をそのままに、後ろを振り返っても何もなくて首を捻りながら舞台に上って行った。悪意には聡くても情欲には勘が上手く働かなかったらしい。

 

『たった一人で学園内の数多の抗争、馬鹿騒ぎを鎮圧し、ついたあだ名が「死の眼鏡・高畑」!! まさに最強の学園広域指導員!!』

 

 納得がいかないように首を捻りながらも舞台に上がったアスカの顔に俄かに緊張感が増していく。戦いを前にして他の悩み事を持ち込むほどの、中央に進んで相対した高畑は生易しくないことを感じ取ったからだ。

 

『ですが、対するアスカ選手も負けてはおりません! 十八人抜き、巨大人形をを倒したその実力に偽りなし!!』

 

 舞台の上で向き合う二人。

 片や笑みすら浮かべてその時を待ち、もう片方は瞼を閉じて試合のゴングが鳴るまで彫像のように動かなかった。

 

『この二人が戦ったらどうなるのか予想が出来ず、私も興奮を抑えることが出来ません! トトカルチョでは一回戦、二回戦を勝ち上がってきたアスカ選手が人気を伸ばし、拮抗しています!!』

 

 おかしい、と開始戦について高畑を見たアスカは思った。

 あまりにも静かすぎる。まるで彫像と相対しているかのような存在感のなさ。この静けさが不気味過ぎた。

 この距離は既に高畑の射程範囲に入っている。定石通りに致命打を貰わないように距離を取って攻略するべきかな、とアスカは一瞬だけ脳裏に走った考えを飲み込んだ。

 

『解説者席の豪徳寺さん。どのような戦いに見ると予想しますか?』

『高畑選手の戦い方は有名です。昨夜の予選会でも近づく敵を片っ端から倒れていく謎の技を使っていました。この正体不明の技をアスカ選手がどうやって攻略するかが勝負の鍵になってくるでしょう』

 

 解説実況席にいる茶々丸が解説の役割を与えらえた豪徳寺に話を振り、役割の名に恥じない丁寧さで観衆が望む答えを伝えてくれる。

 誰だって順当な結果よりも奇跡的なドラマを見たがる。名が広まり過ぎていた高畑の有名税か。

 

『それでは皆様、お待たせしました!』

 

 強く拳を握り締めるとアスカの耳から音が失くなった。

観客のざわめきも、耳元を過る風さえも遠ざかる。聞こえるのは息遣いと己の胸を打つ命の鼓動のみ―――――向かい合う二人だけでなく、二人を見守る観客もそれは同じ。

 一時の静寂。その天蓋を突き破るように、睨み合う両者の迫力に和美が若干気圧されながらも和美の右手が真っ直ぐに上がり、

 

『それでは準決勝第一試合――』

 

 開始の合図が言い放たれる直前、ここに来て高畑がゆっくりと閉じていた瞼を開いた。

 その瞳に宿る見覚えのある、でも高畑が浮かべているのを一度も見たことがない。

 瞳の中に狂気にも似た感情があるのを見て、解説の豪徳寺が言っていたようなアスカの中から定石通りに距離を開けて突破口を探そうという考えが根こそぎから吹き飛んだ。

 

『――――ファイト!!』

 

 ブンと空気と火蓋が切って落とされた。

 和美の開始の合図が耳に届く前から膝を曲げて腰を落としていたアスカは、「ファイト」のトが会場に広がる前に全力で大地を蹴っていた。

 「ファイト」のトが会場全体に響く頃には既に高畑の近く。自らの間合いの距離にまで踏み込んでいた。その動きは常人の目には止まらぬほど早い。高畑が使う居合い拳を警戒して顔の前で両腕を交差して防御しながらの速攻。

 

「はぁっ!」

 

 アスカの第一撃は蹴りだった。高畑はローキックを予測して膝でガードしようとする。しかし、アスカの蹴りは膝を伸ばす直前にミドルキックに変化し、蛇のように伸びて脇腹にヒットした。

 

「ぬぅっ!?」

 

 高畑にとっては文字通りの目の覚めるような痛烈な一撃だった。衝撃が身体を走り抜け、一瞬、息が詰まる。

 アスカは更に踏み込みながら、烈風のような上段の後ろ回し蹴りを放った。高畑は辛うじてポケットから出した腕で防いだものの、ガードの上からでも浸透する重い打撃に思わず後退する。

 

『おおーっと、これは驚きです。当初の予測を反してアスカ選手が押しています』

 

 司会と同じく予想外の展開に観客の生徒たちがどよめいた。技主体で攻めると思われたアスカが高畑を真っ向から捻じ伏せているからだ。

 更にラッシュを仕掛けようとしたアスカだが、高畑に押し戻されて開始時と同じぐらいの距離を取られた。

 離れた距離で高畑は足を前後に開いて腰を僅かに落とし、ポケットに両手を入れた普通からは変わった変形の構えを取る。対照的にアスカは身体を小刻みに前後に揺すってリズムを取りながら、無言で獲物の隙を窺うように目を細める。

 

「…………参ったな。思ったよりも油断していたようだ」

 

 右手で垂れ下ってきた前髪を掻き上げた高畑は自戒するように述懐する。

 言葉通り油断していたにも関わらず、それでも攻撃を完全に防御したのは流石の一言。

 

「完全に防御しといて良く言う」

「驚いたのは事実だよ。君の実力も肌で感じた。凄く強くなってる。油断したら負けるのは僕だろう。でも――――勝つのは僕だ」

 

 この旧世界においては裏と称される世界の中でも深淵で戦ってきた男が告げる。その全身に魔力が行き渡る。

 高畑の矛でもある魔力の恩恵は、込めた一撃がそれだけで常人には文字通りの必殺の一撃と化す。防御もまた鎧よりも遥かな防御力を宿す。

 

「へっ、やってみせるさ」

 

 最強の矛と絶対の盾を前にして、アスカもまた魔力の出力を上げる。

 

「……っ」

 

 二人の間に緊迫した空気が流れ、先手を取ってアスカが身を低くして飛ぶような勢いで燕のような速さで襲い掛かってきた。高畑は怒涛のように繰り出される突きの連打や蹴りを受け、或いは弾く。

 

『こ、これはぁ!? 目にも止まらぬ素晴らしい攻防!! しかもこれはアスカ選手が……押している!?』

 

 和美の驚きに満ちた実況が会場に響く中、これこそが中国武術だと言わんばかりに、虚実を織り交ぜた見事とも言える攻撃を放ち続ける。

 長身の高畑と成長途上のアスカ。 

 体格差を活かして極限まで体を低くして懐に潜り込んでこの利点を活かし、反撃を封じ込めて一方的に状況を進めているように見える。だが、圧倒的に有利なはずのアスカの方が苦しげな顔で、攻撃を受け続けている高畑の方が平静そのものだった。

 密着に近い間合いでの目まぐるしい攻防は三十秒に及んだ。息切れしたのか、膠着した場を嫌ったのか定かではないがアスカの攻撃が僅かに緩んだ一瞬の隙をついて、高畑はポケットから見えない拳打――――居合い拳を打ち込んだ。

 

「温い。この程度で対抗できると本気で信じているのかい?」

「ぐぅっ!」

 

 胸に攻撃を受けたアスカは突き飛ばされたように後退する。直ぐに気を取り直して再度接近を試みるが、高畑は見えない拳打によって何度も打ち合わない内に簡単にアスカを追い払った。

 

『おっと、これはどうしたことでしょうか!? 序盤の展開が嘘のように高畑選手はアスカ選手を近づかせない!』

『あの見えない攻撃の効果でしょう。このまま無駄に攻めても高畑選手の牙城は崩せませんよ』

 

 司会の解説を聞いて萎縮したのか、アスカは自ら後退して間合いを広げた。難攻不落の要塞を前に攻めあぐねている遊撃隊のように、様子を見ながらゆっくりと周囲を周る。

 と、次の瞬間。

 

「――ッ!」

 

 彼我の距離は五歩以上、まずは万全の安全圏と見なしたその間隙を、アスカは僅か一歩で詰め寄ったのである。何の脚捌きも見せないままに地面を滑走してのけた歩法の名は活歩。まさに八極拳の秘門たる離れ業であった。

 瞬動と合わせ、完璧な入りと抜きによって縮地と呼ばれる段階の神速の踏み込みを見せるアスカ。表情変えた高畑の内懐に、金髪の少年が死神の如く滑り込む。八極拳が最大効果を発揮する至近距離。

 アスカは目前で高畑が拳に魔力を込めているのを見た。だが、その動きはしっかりと見えており、対処できないスピードではない。しかし、高畑の攻撃が早い。攻撃よりも回避を選択。

 

「!」

 

 圧倒的なスピードで放たれた拳を首を傾けて紙一重で避ける。あまりの拳のキレ味に掠った頬が刀を振るわれたかのようにスッパリと切り裂かれ、血が噴き出る前に通過した服によって、擦過した肌が焼かれて傷口が固まる。

 今の一撃は真っ向から顔面に当たれば、潰れた林檎のように破裂していたかのような怖さがあった。

 

「はっ」

 

 頬に走る一瞬の痛みに怯むことなく、寧ろそれでこそとアスカは笑う。

 命を刈り取る死神の鎌を振り払うように踏み込んだ震脚が木製の床を雷鳴のように打ち鳴らし、繰り出された巌の如き縦拳が高畑の胸板を直撃する。

 金剛八式衝捶の一撃。もはや胸元で手榴弾が炸裂したも同然の破壊力だった。吹き飛ばされた高畑の身体は藁屑のように宙を舞い、まるで紙切れか何かのように舞台を囲む木の柵を飛び越えて場外に弾き飛ばされて湖中に沈んだ。

 湖中に沈んだ高畑を見ようと、近くの観客席にいる観衆達が押し合いへし合って見下ろしていた。

 

「…………すっげぇ」

 

 大の大人を子供が冗談みたいな威力で殴り飛ばした光景に、武道大会の会場である龍宮神社が一瞬静寂に静まり、誰かが発した感嘆を込めた声を切っ掛けに声援が復活する。

 もはや騒音とすら言っていいレベルの声が舞台を包み、どれほどの衝撃があれば十メートル近くも人が吹き飛ぶことが出来るのだろうかと格闘マニア達が議論を始めた。

 

『な、ななななんだ今のは――っ!? 凄まじい一撃に高畑選手が吹き飛んだっ!? 今のも中国拳法なのでしょうか!?』

 

 空気が振動しているのが感じられる程の歓声に包まれた会場を、和美が後押しするように叫ぶ。

 

『凄まじい衝捶の一撃です。あの年齢でこれほどの威力と功夫を身に着けているとは、驚愕するしかありません』

 

 解説席でリーゼントの豪徳寺薫が頬に流れる冷や汗を拭うのも忘れて、今のアスカの放った一撃に衝撃を隠せない様子で声を慄き震わせる。

 

『衝捶とは?』

『八極拳の八つの基本技の一つです。八極拳では八つの基本技を纏めた「金剛八式」を学びます。内容は省きますが、衝捶は一番最初の鍛錬技です。この衝捶のみで丸三年を費やすと言われています。基本こそが奥義と言いますが、基本を完璧以上に納めなければあそこまでの威力は出せないでしょう』

 

 茶々丸の問いに対する豪徳寺の解説で今のがただの基本技なら奥義ならどれだけの威力なのだと、無邪気に歓声を上げる観客は別にして、特に格闘に関わる者は背筋をゾッとさせた。

 

「手応えが薄い。まだ来る」

 

 受け身など望むべくもなく、鉄拳のクリーンヒットは一撃で胸郭を破壊し、肺と心臓をもろとも粗挽き肉へと変えている―――――はずだった。

 固めた拳の先には確実な手応えは感じ取れず、アスカはゆっくりと吐気して残心する。周りの歓声が一層大きくなる中で油断など微塵も見せず、構えを解こうともしない。

 

『5……6……7……』

 

 和美がカウントを進めようとも追撃は出来ない。下手な追撃は逆にこちらを追い込む材料になると直感が囁いているからだ。

 奇襲だったとはいえ呆気なく一撃を受けた高畑に対する失望が一瞬だけ脱力感を引き起こし、アスカの注意力を鈍らせる。まさかその隙を狙いすました奇襲があろうとは思いもよらず、次なる驚愕を味わうのが自分の番だとは露とも知らず。

 水が跳ねたように見えた次の瞬間、眉間に突然生じた激痛と衝撃。衝撃によって首が後方に倒れて視界が空へと向く。

 

「――――なっ!?」

 

 なにが起こったのか理解するよりまず、攻撃を認識した両腕が急所をガードする。

 そこへ先程のお返しだと言わんばかりに容赦なく浴びせられる居合い拳の雨。固められた両腕がなんとか弾丸染みた居合い拳を凌いだものの、初撃による脳震盪と、まさか高畑が奇襲をしかけてくることの驚きがアスカを出遅れさせた。

 

「ぐがっ」

 

 口から唾の欠片を吐き出しながら、受け身も取れずに舞台へと叩きつけられる。

 同時に舞台の欄干を水を割って伸びた手が掴み、体を引き上げる。続いて欄干に足を乗せて、9カウントになったところで軽い足取りで舞台の上に降り立ったのは、ダメージの後すら見受けられない高畑その人。

 

『あ! 高畑選手、無事です!! あの打撃を喰らって、まったくの無傷だ――っ!? 逆にアスカ選手が突然舞台に倒れました!!』

 

 湖に沈んで水に濡れたスーツから水滴を無数に滴り落とし、垂れている前髪を両手で掻き上げた顔にはダメージの欠片も見受けれらない。

 

「油断大敵。僕も人のことを言えたわけじゃないが、君にもこの言葉を贈らせてもらおう」

 

 幾つも打たれた腹を押えて立ち上がって、苦痛に顔を歪めたアスカに向けて告げた。

 

「けっ」

 

 口元に付いている唾の欠片を拭い、アスカもまた立ち上がる。

 

「本気で来た方がいい。試合が早く終わったら客も興ざめだろ?」

「舐めるな!」

 

 どこか寂寥とした表情を浮かべた高畑が舞台の端から跳ぶ。迎え撃つようにアスカも跳ぶ。

 空中で二人の肘がぶつかって、結果は分かりきっていたことだけど一方的だった。アスカはまだ先程のダメージから回復しきれていないのだ。

 高畑は障害物など始めからなかったように勢いもそのままに突進し、アスカはトラックに撥ねられたように吹き飛ばされた。

 真正面から突っ込めば確実に当たり負けると覚悟していたが、固めていたにも関わらず感覚を全く失った左腕を抱えて着地して、右腕を舞台に付きながら両足で焦げ跡の轍を作りながらようやく止まる。

 

(距離を開けられたっ!?)

 

 しまった、と思った時には既に遅かった。どんな歩法を使おうともワンクッションは必要な距離を開けられている。同時にそれは高畑が自らの間合いにアスカを引き離したことを意味していた。

 

「ここは僕の距離だ」

「!?」

 

 何かが空気を切り裂いた音が聞こえたのにほぼ同時に、十発の居合い拳が同時にアスカの身体に叩き込まれた。衝撃に意識が飛びかける。

 着地で身体を沈み込ませていたことと、両腕が体の前面にあったのは単純に運が良かったのだろう。なければ意識を失っていたことだろう。顔に二発、両腕に四発、両肩に一発ずつ、右膝と左大腿部にそれぞれ一発ずつ。

 生身で高畑の本気の攻撃を受ければ、攻撃を受けた箇所に穴が開いている。身体強化様様であるが、全身を苛む痛みを前にして素直に喜ぶ気にはなれなかった。気絶することも出来ず、肉が抉られたような痛みに耐えなければならないことを意味していたのだから。

 

「避けないと直ぐに試合が終わるよ」

 

 迫る高畑。凄まじい速さ―――――瞬動術や身体強化の賜物―――――でアスカの周囲を回る。

 舌を噛んで、痛みで飛びかけていた強制的に意識を取り戻して近づく高畑を見る。アスカが拳打を放つにはまだ三歩遠い。

 

「誰が避けるか!」

 

 放たれる居合い拳。アスカの回避は間に合わない。感覚のなかった左腕は攻撃を受けたことで感覚は戻っているが痺れていて上手く動かない。この状態で全ての居合い拳を迎撃できる猶予もない。

 

「成程、そう来るか」

 

 元よりアスカには躱す気がなかった。瞬動を駆使して高畑に追い縋りながら、無詠唱の魔法の射手で迎撃しながら突破する。一発二発は撃ち漏らそうとも、それぐらいならば防御を固めれば耐えられないことはない。

 中国武術の遣い手に懐に潜り込まれたら厄介だと、高畑は距離を開けるために大きく跳ねる。が、間に合わない。体を極限まで沈み込ませて間合いを詰めたアスカの右手が彼の足首をしっかりと握り締めていた。

 

「――ふっ!」

 

 短い呼気と共に、アスカは右手だけではなく痺れの残る左手でも足首を掴み、両腕の筋肉を服の上からでも分かるぐらい隆起させる。

 倍にも膨れ上がったような錯覚を覚えそうな腕を振って、空中に在る高畑の体をハンマーのように地面に叩きつけた。高畑も両手で舞台を叩きつけて受け身を取ったが、そんなもので全体重と重力に遠心力を追加した衝撃を受け流せるものではなかった。

 背中に跳ね返る衝撃が肺の空気を押し出す。叩きつけられた舞台にズシンとした衝撃が放射状に広がった。しかし、高畑の表情に苦悶の色はなかった。顔の両側の地面に手を着くと、後転の要領で足を振り上げ、足の力と遠心力の力を併せてアスカを振り放した。

 

「背中ががら空きだよ」

 

 ブレイクダンスの技のように起き上がった高畑は、宙に放り投げられて背中を見せるアスカに容赦なく居合い拳を叩き込んだ。

 

「がっ!?」

 

 背中に打撃を受けて、曲ってはいけない方向に体が折れる。苦痛の呻きが口の中で消えた。

 背後に何時の間にやら高畑が現れ、身体を掴もうと手を伸ばす。アスカはまだ気づいていない。

 

(まだだ!)

 

 極限の緊張感が再び奇妙な感覚をアスカに与え、世界が拡大する。第三者の視点から自分を見ているような感覚すら覚え、背後の高畑の存在は丸見えだった。

 

「疾っ!」

 

 アスカは僅かに横へ逸れて躱し、高畑の腹部に肘を当てた。伸ばしていた手をスカされた高畑が行き過ぎ、間に挟まれた棒にぶち当たったように肘を起点に身体が曲る。

 

「ぬっ!?」

 

 アスカは肘打ちの反動を利用し、体を横へ回転させると渾身の回し蹴りを放つ。反撃されるとは予想外だったのだろう。高畑が驚いた顔で腕を上げて回し蹴りを防御する。

 攻撃を当てた反発を利用して距離を開ける。追撃の居合い拳が来るが、自分を中心として直径数メートルほどの見えない球状の結界のようなモノが生まれ、その内側に入ったものをは何であろうと正確に認識して対応できる――――そんな奇妙な確信があったアスカは冷静に防御と回避することに成功する。

 

『おおっ……! アスカ選手が高畑選手の見えない攻撃を無造作に受け止めたっ!?』

 

 和美の言ったように、放たれた居合い拳がアスカが無造作に振るった手の中に吸い込まれていくように見えた。高畑には全ての攻撃が事前に読まれているような錯覚さえ覚える。

 

「居合い拳は拳圧に過ぎない。見えなかろうが必ずそこにある」

 

 アスカの優れた目でも居合い拳は見切れない。ならば、感じ取る。肉眼で追わずに感じ取る。見えなくても必ず在る。軌跡を描いて動いている。点を線に、線を面に、面を立体に居合い拳の動きを空間として構成していく。

 もはや、アスカに居合拳は見えない攻撃ではない。

 

「伊達にずっと観察してきたわけじゃない」

 

 言って、アスカも高畑と同じようにポケットに両手を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居合い拳を撃ってみたいって?」

 

 出会いから数年経って、陽気な昼下がりに寛いでいた高畑はアスカの懇願に眉を潜めた。

 

「見えない攻撃って格好いいじゃないか。どうやるのか教えてくれ」

「君はもう少し人に物を頼む態度というものをだね……」

「いいから早く」

 

 高畑自身が望んで目上の者としてではなく対等の言葉遣いを望んだのだが、こうも遠慮がないとつい口を出してしまう。何度目かを数えることも止めて、教えるだけならその分の労力のみを消費すると考え、ポケットに両手を入れた。

 

「居合い拳の原理は簡単だよ。この状態から如何に素早く正しい動きで拳を放つか、その一点に尽きる」

「簡単そうじゃん」

「ところが、これが中々に難しくてね。やってごらん」

 

 拍子抜けしたという様子のアスカを促すと、見様見真似でポケットに手を入れて、高畑が放った居合い拳を脳裏に思い浮かべているのか眉根を寄せてポケットから手を引き抜いて拳を放った。

 が、目視できる程度の速度で動くアスカのでは拳圧は飛ばない。

 

「なんでだ? 同じような動作をしてるのに」

 

 アスカは何度か試してみるも一向に飛ばない拳圧に首を捻っている。

 自分も最初の頃はそうだったなと思い出し、或いは教えてくれたガトウもこのような気持ちだったのかと師の気持ちを理解する。

 

「致命的に遅いんだよ。それじゃ、拳圧は飛ばない。その十倍は速度を上げないとね」

「十倍!?」

「下手したらもっとかもしれないよ。でも、極めればこんなことも出来る」

 

 驚いているアスカに笑みを漏らし、近くの滝に体を向けて居合い拳を連続で放った。

 割れる滝、しかも同じ個所を連続で打ち続けているから水が別れたままだ。

 

「咸卦法を使えば山を割ることも可能だよ」

「凄っげぇ! 見たい!!」

「進んで自然破壊をする気はないよ。怒られちゃうから、またの機会にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台の上では二人が互いに次の一手を仕掛けるタイミングを見計らって睨み合いながら、戦局を推し量る。

 高畑はアスカが自らの真似をするようにポケットに両手を入れた意図を計りかねている。アスカの行動はそれほどに予想外だった。

 

『やはりそうか……』

『何かお気づきに? 豪徳寺さん』

 

 解説席にいた豪徳寺が顔中に冷や汗を滲ませながら呟いたのを、誰もが舞台上に気を取られている中で機械故に正確さで聞き届けた茶々丸が問う。

 

『高畑選手の使う技の正体は、刀の居合い抜きならぬ拳の居合い抜き、『居合い拳』と思われます』

『い、居合い拳ですか?』

 

 そのまんま過ぎる技名に茶々丸がどもるように詰まった。しかし、豪徳寺は気にしたように薀蓄を続ける。

 

『ええ、恐らくポケットを刀の鞘代わりにして、目にも止まらぬ速さでパンチを繰り出しているのです』

 

 居合いとは刀を鞘に納めた状態から、抜刀し、斬りつける動作を一瞬のうちに行う技術のことをいう。居合いは、すでに抜刀している敵や不意打ちで襲ってくる敵に対していかに即応するかという発想を出発点として研究されてきた技術である。

 常識的に考えれば、抜刀している者と、いまだ刀が鞘に収まっている者とが斬り合えば、すでに抜刀している側が圧倒的に有利である。西部劇のガンマンの対決でいえば、相手はすでに銃を抜いているのに、こちらの銃はまだホルスターの中といった状況といえる。

 そういったおよそ逆転不可能と思えるような状況を想定し、それでも間に合わせようと工夫する――――そこに居合いの真髄がある。

 

『そんなことが可能なのでしょうか』

『いや、私も文献で見たことがあるんですが、実際にやってるバカを見たのは初めてです』

 

 隣で聞いていた千雨が常識外過ぎると思うほどに、高畑がやってることはそれほどに異常なのだ。

 

(どうでもいいけど、そんな文献をどこで見たんだ?)

 

 豪徳寺は居合い拳が書かれた文献を見たことがあるようだが、本当にどこで見たのだろうかと聞いていた千雨は思った。

 あのようなリーゼントをした不良ファッションの割りに実は家は古い格闘道場でもやっているのかと疑問が脳裏を過ぎったが、これこそどうでもいいことだと忘却した。

 

『では、アスカ選手が同じことをしているのは何故でしょうか?』

『「は?」』

 

 茶々丸の言葉に舞台上に視線を戻した豪徳寺と千雨の声が奇しくも重なった。

 

 

 

 

 

 高畑はアスカと距離を置くように跳び退った。同時にアスカも後方に跳ぶ。

 そうして二人は同時に着地すると、目にも止まらぬ素早さで移動しながら同じ居合い拳を交し合う。

 二人の間で、規則正しい音と正確なリズムでパン、パン、パンと破裂音が響き渡り、高畑がアスカに向かって飛び出す。だが、まったく同じタイミングで、アスカもまたポケットに手を入れた高畑と一緒の独特のスタイルで前に飛び出していた。

 居合い拳とは豪徳寺が言うように剣術の抜刀術の原理を利用したものだ。生まれつき呪文詠唱が出来ないタカミチ・T・高畑が死ぬ思いで習得した技であった。

 

「良く真似ている」

 

 アスカの天才性は熟知していて、居合い拳に興味を持っていたから何時かは習得するだろうと考えていた。この場で奇策として出すには十分な材料があったと言えよう。

 

「しかし、所詮は猿真似」

 

 高畑が言うように両者の居合い拳と比べると歴然たる差があった。一発の威力、連射力と全ての分野において天と地ほどの差がある。

 居合い拳は魔力によって、達人でも見切れぬ極限の速度まで拳速を加速している。恐ろしいのは撃ち出されるのが「気弾」ではなく、ただの「拳圧」であるという点。察知が非常に困難なのだ。

 恐らくこの麻帆良でも弾道を完全に見切れるのは魔眼を持つ龍宮真名のみ。

 真似て撃つだけでも賞賛の一言と言えよう。でも、熟練した高畑ならいざ知らず、慣れていないアスカが何発も打てるはずがない。こうやって直ぐにメッキが剥がれて無様を晒すことになる。

 

「くっ」

 

 筋肉疲労を覚え始めたアスカは、居合い拳の中に無詠唱の魔法の射手を混ぜることで落ちてきた回転数をカバーしようとした。

 しかし、結局は時間稼ぎにしかならず、慣れない動きを無理して行っていると腕の感覚がなくなりかけてきた。それでも居合い拳を放ち続けようと、腰を捻るなどの動作を入れてもやがて撃てなくなるのは目に見えており、苦しげな声を漏らしてアスカは高畑から距離を離した。

 その瞬間にこれこそが本物だと、居合い拳が雨霰と表現するしかないほどアスカに襲い掛かる。

 

「これは僕が今は亡き師匠に教わった技だ。そんな無様な技じゃあない」

 

 この試合中は常態になったかのように無表情だった高畑が初めて鬼気を覗かせた。居合い拳を真似られたことが、それもようやくというレベルで形にしかなっていないような技を見せられて癪に障ったようだ。

 

「がっ、はっ……づあっ」

 

 どれだけ回避動作をしても無様を晒して全身をこれでもかと殴打され、アスカが舞台に叩きつけられて滑る。それだけでは終わらない。舞台を滑るアスカに追いついた高畑が、これからサッカーボールを蹴るように足を上げて振り下ろされた。

 アスカの腰を掬い上げるように蹴られた体が、骨が歪むような鈍い音を立てて本当のサッカーボールのように吹っ飛ぶ。

 またアスカの体が舞台の上を転がって、勢いを留めることなく欄干に横向きに背中から激突する。ジン、と衝撃に舞台全体が揺れるのを反対方向にいた和美はマイクを持ちながら、ゴクリと飲み下した唾の音と共に感じ取った。

 欄干に背中をぶつけたアスカが苦しげに体を起こす。

 座り込んで欄干に背中を預ける。ようやくカウントを始めた和美の声を聞きながら呼吸を繰り返してダメージの回復に努める。

 

「降参してくれ。これ以上は傷つけたくない」

 

 高畑の降参宣告を耳に入れながら、まだ動けるほどダメージが回復していない体を奮い立たせる。

 

(猿真似にしては上手くいった方だと思ったんだけど)

 

 薄らと記憶に残っていた高畑の技のイメージや、情報から推測して真似をしたけど所詮は猿真似。本家に敵う道理はない。その事実にいまさら気づいたアスカは笑った。

 

「何を笑っているんだ!」

 

 アスカが師や技を哂っているように見えた高畑が激昂する。

 なにもアスカは高畑や技を笑ったわけじゃない。ただ、高畑は凄いなと改めて感じて嬉しくなっただけだ。師のことは高畑の逆鱗に触れることだと、気付くことも無く。

 刹那、アスカは殺気を感じた。相手の表情、雰囲気から解るなんて生易しいものではなく、場が凍り付いたような、肌を突き刺されるような、この場だけ猛烈な寒波が降り立ったと思わせるような冷たい殺気。

 高畑の体から殺気が放たれる。それは彼を中心に吹き上がり、圧力を伴って周囲に拡散していく。高畑の感情がパルスと化して解き放たれた抗しがたい激情がアスカの皮膚の表面を這う。

 死んだと思った。大袈裟な表現ではなく、殺されるでもなく、死んだ―――――そう覚悟した。それ程の殺気だった。今まで感じたことのあるものは所詮は標的から漏れたものでしかなく、自分だけに向けられた殺気は、それだけの硬質化した空気を放っていた。殆ど物理的なまでの、凶暴極まりない敵意。物理的にさえ効果を及ぼしそうなそれが、高畑が本気なのは考えるまでも無いことを悟らせる。

 本能的な恐怖心が働いたのだろう。気圧されるように首が後ろに傾き、後頭部が欄干の上部分にぶつかった。思わず言葉を失う。

 

「っか、は……」

 

 息が出来ない。胃の底が裏返ったみたいに体の芯から停止する。

 

「……は……っ」

 

 全ての力を使って辛うじて呼吸するのが精一杯で、押し潰されそうな意思の圧力の前に微塵も身動きできない。その原因は明らかだ。眼の前に立つ高畑。

 異様なほど鼓動は速まり、走ってもいないのに呼吸が荒くなる。それはもはや暴走に等しく、眩暈すら起こすほどだ。

 肉食獣に前に放り出された鼠の感覚。いっそ早く殺してくれと考えてしまうような、それはまるで死神の誘い。絶望ですらない。最早、そういうレベルの感覚ではない。どうしようもなく甘い誘惑に、身も心も曝される。

 

「ちっ、バカ共め。タカミチもタカミチだ。何を子供にムキになっている」

 

 何時アルビレオが現れてもいいように、選手控え席でも一人で離れた所で見ていたエヴァンジェリンは舌打ちをしながら、静まり返った会場を見渡す。多少離れた場所にいるにも関わらず、高畑から出される研ぎ澄まされた空気に当てられて楓や古菲、刹那ですら冷や汗を掻いていた。

 

「まったく、大人げない。貴様も大人なら子供のやることぐらい受け流せばいいものを」

 

 そう言いながらも、別荘で高畑が咸卦法を習得する為に数年を共に過ごしたからこそ、彼が師にどれだけの想いを抱いているかを知っている。

 素直になるということは、きっととても難しいのだろう。年を経れば経るほど、どんどん難しくなっていく。分厚い仮面の上に、更に仮面をつけるのが多分、大人になるということだ。堂々と素顔を晒すのは、とても怖くて恥ずかしいことなのだ。

 

「お前もただの子供であったなら、きっとこんな苦しみも味わなくても良かったのだろうな。なあ、アスカ」

 

 そしてエヴァンジェリンが見ている先でアスカは這うように体を起こす。服も、全身も、見る影もなく傷だらけだった。それでも戦うことを止めないことを示そうと舞台に上る。

 

「哀れだよ。お前達が戦う姿は哀れみしか浮かばん」

 

 見ていられなくて俯いて少し肺に溜まっていた息を吐き出した。

 

「――――」

 

 高畑の目が――――獲物を補足した狩人のような視線が、アスカの体を貫いていく。

 悠長に考えている時間はなかった。高畑に躊躇いはない。内に秘めた感情を爆発させ、それを拳に宿し、圧倒的なプレッシャーを引き連れて迫る。

 力を込めるでもない。トン、と軽く地面を踏んだだけだ。それだけで、次の瞬間には間合いが詰まっていた。アスカが接近に気付いた時には鞭のように撓った右脚が一直線に米神へと迫っていた。

 半身になって逸らそうとするも間に合わない。両腕を交差させて受けた。爆弾が弾けたような衝撃が腕に伝わった。威力を殺しきれず、横に数メートルも跳ぶが咄嗟に防御に魔力を集中させたからダメージは少ない。

 安堵したのも束の間。尚も痺れる腕から力を抜いて、反射的に閉じていた目を開いた目の前に高畑が立っていた。ぞん、と大砲のような拳が走った。 

 

「っ――!」

 

 吐息さえもが技法に組み込まれ、何万回と繰り返した動作をアスカの体が自然と動く。馴染んだ歩法が紙一重でその拳を回避させ、アスカを前へ進ませる。

 踏み出した足はそのまま攻撃の為のベクトルを形成し、大地からの反発で螺旋状に力が捻じれ上がる。地面からの反動を全身全霊で受け止め、増幅し、発勁の技法を以って足首から膝、膝から股関節、股関節から腰、腰から肩、肩から肘を衝き上がって、肘から拳へと流し込んで繰り出される必倒の拳。

 

(こ、こ――っ!)

 

 勝機はここしかないと、全身全霊を一打に込める。

 崩拳。基本であるからこそ、一撃必殺の念を込めて一切の手加減を込めずに放った。ロケットを思わせる、空を穿つ拳。まさしく大地を揺るがす一撃。防御も回避もならぬそれは、高畑を捉えた。

 ぱんっ、と乾いた音が響いた。

 

「え?」

 

 アスカが目を見開く。全体重を乗せて一般人に向かって撃てば殺すことも出来る一撃が――――最大威力を発揮する前に高畑の掌に受け止められたのだ。

 

「軽い」

 

 その唇が嘲るように冷笑に歪み、高畑が受け止めたままのアスカの拳を強く握る。万力の如き腕力がアスカのバランスを簡単に崩す。高畑の手は、ただ片手でもってアスカの全力を凌駕していた。体重を根こそぎ持っていかれて、アスカの体が綺麗に宙を泳いだ。

 いとも容易げに高畑は片手でアスカを釣り上げる。いかなアスカが軽いといっても、数十キロの肉体を片手で持ち上げるのに、高畑は力みさえしなかった。

 隙だらけになった腹へ、高畑の膝がぶち込まれる。

 

「がっ!」

 

 腹部には大型トラックが猛スピードで突っ込んできたような衝撃だった。成す術もなく体が折れ曲がる。

 高畑の攻撃はまだ終わっていない。アスカは持ち上げられていた手が離されたのを感じて霞む視界を、目の前にいるはずの高畑に向ける。

 

「!」

 

 腰を落としていた高畑は冷たい目でアスカを見た。動かない体の背筋に悪寒が走るのと、高畑が放った拳が防御をしていないアスカの腹に突き刺さったのは同時だった。

 腹部でダイナマイトが爆発したような衝撃に、肺が劈かれる。

 ドン、と大砲でも撃ったような音を轟かせて、血を撒き散らしながら投げた石のように軽々とアスカの身体が吹っ飛んだ。

 視界が空転し、三百六十度ぐるりと回る。嘘みたいな浮遊感の直後、舞台の欄干に激突。容易く木製の欄干を粉砕した。

 あまりにも勢いが強すぎて、二度、三度と水の上を水切りの如くバウンドし、背中から灯篭にぶち当たって、やっと勢いが止まった。灯篭は一瞬だけ持ちこたえ、直ぐに罅が入って折れた。アスカにとっては幸運にも後ろ向きに倒れ、盛大に水飛沫を上げる。

 炸裂した衝撃にアスカの意識は遠退きそうになるが、皮肉にも欄干や灯篭にぶち当たった痛みがそれを繋ぎ止めた。

 

「お、あ……っ、――っが、は!」

 

 破裂しかけた肺が勝手に空気を吐き出す。アスカの肺から空気が絞り出され、肺から空気と一緒に血の臭いが逆流して呼吸が停止した。必死の思いで遠のきかけた意識を繋ぎ止め、気管の動きを再開させるのに何時間もかかったように思えた。

 吐息に血の匂いが混じっていた。今の衝撃で、内臓が傷ついたのかもしれない。呼吸するだけで体の内側がギシギシと軋む。それでも顔を上げ、半身を水に沈めながら霞む視界で敵を見る。

 

「やっぱ強ぇな、タカミチは」

 

 落ち着けと頭の中で繰り返すことで恐怖を追い出そうとした。彼の意志に反して、冷たい脂汗が全身にビッシリと浮いていた。

 アスカはせめて心だけでも負けぬようにと歯を食い縛る。痛みが出るほど強く食い縛ることで自分の意識を保つ。誰に教えられるでもなく、そうすることが正しいのだと知っていた。

 強引に顔を上げて背筋を伸ばして、舞台の端に近寄って来て見下ろす高畑の姿を見上げる。それだけでかなりの意志力を必要としたが、やってやれないことはない。

 意志は重要なファクターだ。それがある限り、気持ちの面では対等か、それ以上になる。だが気持ちだけでは勝てない。そんなことは十分すぎるとアスカも承知している。

 

「本当ならナギさんの息子と、こうして手合わせできる事を光栄に思わないといけないのに、どうしてかそう思えない」

 

 高畑が自嘲するように、顔をくしゃくしゃと歪める。大きな拳が砕けそうに握り締められた。ギチギチと骨までも軋みを立てるのが聞こえそうなぐらいだった。

 己を真っ直ぐに見つめるアスカの眼差しに高畑はある人物を思い出していた。ナギ・スプリングフィールド。彼にとって憧れと呼ぶべき人であった。

 高畑は此処にはいない憧れの人に向けて、あなたの大切な子を傷つけてしまうと心の中で頭を下げる。届くことはないと分かっていても詫びずにはいられなかった。

 

「今の僕は、君を叩きのめしたくて堪らない」

 

 一瞬過った回顧は消え、そこに凄絶なまでの闘争本能が宿っていた。内に秘めた業火が猛り狂い、力の源へと変わっていく。

 どんな相手に対しても一切の過大評価も過小評価もなく、淡々と成すべきをなし、排除すべきを排除する。奇策でもなく、ただ強者として戦いを実行する戦士としての高畑の顔。

 高畑を突き動かしているのは刹那的な感情ではない。心の奥底にまで深々と根を張ったそれは、紅蓮の業火にも似た激情である。

 

「左腕に魔力……右腕に気……」

 

 高畑の両腕に可視化するほどに強力な魔力と気が出現する。あまりにも強大過ぎて、大気が嘶くように鳴いている。

 

「む……アレを出す気か。それだけ本気だということか」

 高畑がこれから何をするのかが解ったエヴァンジェリンが無表情に呟く。

 両腕に宿る二種の異なる力を高畑はゆっくりと近づけ、そして静かに合わせた。これは一回戦第二試合の神楽坂明日菜がやったことの再現。だが、その威力も何もかもがこちらが上回る。

 

「――――合成」

 

 ドン、と爆発にも似た衝撃波が高畑から発せられる。咸卦のオーラの奔流――――明日菜のオーラが暴風ならば、高畑のオーラは竜巻だった。文字通り、桁が違う。

 咸卦法を使う高畑は赤く煮え滾ったマグマを思わせた。数千度という熱を孕んだ溶岩がヒトの形を成したようであった。

 

『こ、この風圧はあっ!?』

 

 突如として高畑を中心して発生した竜巻に、舞台の端にいて十分に距離があったはずの和美すら思わず目を腕で覆い、身を低くして飛ばされないようにしなければならなかった。

 

「咸卦法……」

 

 半壊した灯篭に身を預けていたアスカは戦慄せずにはいられなかった。

 あのタカミチ・T・高畑が咸卦法を使い、全力で向かって来ようとしている。既にズタズタにされているアスカにとって、どれだけの絶望であったか。

 咸卦法は確かに発動しただけで身体強化のみならず、加速、物理防御、魔法防御、鼓舞(精神の高揚)、耐熱、耐冷、耐毒などといった様々な強化・防御効果を発揮する強力な効果の反面、その効果に反して使い手が少ない。究極技法と名がつくほどなのだから、習得難度がべらぼうに高いのだ。

 アスカと高畑の間には、冷たい拮抗線が引かれていた。一転がりで殺し、殺される生命線。

 これまでにないほどアスカのあらゆる感覚が極限まで研ぎ澄まされ、昇華されていく。五感が冴え渡り、世界が広がって一つになっていく感覚。今までよりも更に同調を深めていくと、細胞自体が加熱しているかのように体が熱を帯びる。呼吸が速まり、心臓は早鐘の如く打ち鳴らされていた――――――これだけの感覚があっても、現段階で高畑に勝てる気は分子一つ分にもあるとは思えなかった。

 

「サービスはしない。彼女を泣かせたことを悔やんで沈め」

 

 ポケットに手を突っ込んだまま軽く地を蹴る音がやけに大きく聞こえていた。軽い音とは裏腹に舞台の上からアスカの数メートル上空に一瞬で移動した高畑は、 嘗ての弱い自分を否定するように、師を守れなかった自分を否定するように、明日菜の涙を止めることが出来なかった自分を否定するように拳を振るう。

 

「豪殺・居合い拳」

 

 発射台に乗せられた大砲が撃ち出された。ダメージで灯篭の欠片に寄りかかるだけだったアスカに逃げ場はない。

 豪殺・居合い拳を前にして出来たのは、気休めのように顔の前に両腕を重ねて防御することだけだった。

 閃光に呑み込まれたと同時に、世界最速の新幹線に生身で轢かれたような衝撃が全身をぶっ叩いた。そしてアスカの意識は、たった一瞬で粉々に消し飛んだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「初勝利!」」

 

 奥まった森の中に出来たポッカリと出来た荒れた土地に少年二人の快哉が響く。

 一戦が終わっても元気一杯な少年達が飛び跳ねるのを巨岩にめり込んだ状態で見ながら、高畑は時間の経過を感じていた。

 

「どうだ、タカミチ! 俺のアーティファクトは!」

 

 快哉を上げる少年達の片方であるアスカが少しの間とはいえ、気を失っていた高畑が目を覚ましていたことに気が付いて近くにやってきた。

 

「恐れ入ったよ。完敗だ」

 

 油断はしていたが、その隙をついて一気呵成に攻めて来て負けたことは事実。高畑は大人しく敗北を認めた。

 

「くぅ~! 98敗目にして遂にタカミチに勝ったぞ!」

「やったね!」

 

 初披露されたアーティファクト『絆の銀』をその耳に付けたアスカとネギは、喜びながらハイタッチを繰り返す。

 勝利に嬉しいとはいえ、ここまで喜ばれると高畑としても戦った甲斐があるというもの。当面の問題はダメージで動けない体にあった。

 

「喜んでいるところに水を差して悪いけど誰か呼んできてくれないか? 情けないことに動けそうにないんだ」

「僕が行って来るよ。ネカネお姉ちゃんでもいい?」

「彼女も治癒魔法を使えたね。頼むよ、ネギ君」

 

 任せてと、よほどアーティファクトの効果によるものとはいえ、高畑に勝てたことが嬉しかったのだろう。戦いの最中にどこかに吹っ飛んでいた杖を呼び寄せると、あっという間にメルディアナ魔法学校へと飛んで行った。

 ネギを見送ると、高畑は勝利の喜びが継続中のアスカを見る。

 

「勝利~、初勝利~」

 

 スキップまでして喜びを表現している姿は、まだまだ子供なところに苦笑が浮かぶ。

 

「本当に強くなったね」

 

 誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けていた荒れていた頃と違って、子供の成長の早さに驚きと同時に時の流れを感じる。

 飢狼の如き飢えていた瞳は真っ直ぐ前を向き、やんちゃなところはあるものの魔法学校でも慕われているという話を聞いている。容姿は母親譲りなのに、人垂らしなところやその瞳の輝きはふとした時にナギを思い起こさせた。

 

「次は俺一人で勝ってみせるぜ」 

「まだまだ負けるつもりはないよ」

 

 言いつつも、数年でこれなのだから十年後にはきっと追い抜かれているだろうと、訪れる未来に心の中で嘆息する。

 才能が違うことは、かなり早い段階で分かりきっていたことだが、このような目に見える形で現れるのはもっと先のことだと思っていたので少し気落ちしていた。

 

「実はもう一つ見せたいものがあるんだ」

 

 下がりかけていた視線を上げさせたのは、この戦いが始まる前に言ったのと似たような言葉だった。

 戦いの準備を終えた直後に目の前でアスカとネギが合体し、驚いている間に勢いに押されて負けてしまった高畑は、まだあるのかと目を瞠った。

 

「まだあるのかい?」

「へへっ、きっと驚くぞ」

 

 楽しそうに言って移動したアスカは、高畑がめり込んでいる巨岩とは別の手頃な大きさの岩の前で止まると、軽く腰を落して精神を集中するように息を深く吸った。

 

「フェアリー・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル 魔法の射手! 雷の一矢!」

 

 アスカの構えた右拳に雷系魔法の射手が収束する。その収束の仕方は高畑にはとても覚えがあるものだった。

 

「雷華豪殺拳!!」

 

 紫電を纏わりつかせたまま放たれた拳は、アスカの身長より少し低いぐらいの岩を粉砕する。

 

「どうだ? 凄ぇだろ。まだネギにも見せてないんだからな」

 

 振り向いて自慢げに言うアスカに高畑は空いた口を閉じられなかった。

 

「その技はまさか僕の豪殺・居合い拳を……」

「真似なんかしてねぇからな。偶々似てるだけだ」

「光栄だと言っておいた方がいいのかな」

「だから違うって言ってるだろ」

 

 しらばっくれるアスカだが、技名といい、放つまでの力の収束の仕方といい、どう考えても高畑の豪殺・居合い拳を参考にしていることは明白だ。

 今までも賞賛されたことや喜ばれたことはあったが、ここまで直接的にリスペクトされると、こそばゆい思いが高畑を襲う。同時に無様な様は曝せない衝動が湧き上がって来る。

 

「負けていられないな、僕も」

 

 胸の裡からの衝動に駆られ、ダメージの大きい体を叱咤して立ち上がる。

 世代交代の波が何時かは来るとしても、まだ今ではない。それまでは少年達の壁として在ろうと己が役目を決める。

 

「さあ、もう一戦しようか」

「いいけど、やれるのか?」

「この程度、へっちゃらさ。さあ、一人で僕に勝って見せるんだろ」

「言ったな……!」

 

 やる気になったアスカに、力の入らない拳を握った高畑は楽しくて仕方なかった。

 弟子を持ったことはないが師匠の気持ちとはこのようなものかもしれないと考え、もしもアスカが麻帆良にいる明日菜と会って高畑の跡を継いで彼女を守ってくれるようになる想像は、自分がいなくなった後のことが不安で仕方なかった彼には心地良かった。

 

「行くぜ!」

「来い!」

 

 数分後、ネギに連れられてやってきたネカネが来た時には怪我人が増え、アスカの敗北が99敗を数えることになるのだが、笑顔で戦い始めた二人にはまだ関係のない話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高畑が放った豪殺・居合い拳の閃光と轟音は、稲妻が落ちた瞬間に似ていた。鼓膜が破れそうな衝撃音と、衝撃によって噴出した水柱の水煙で視界が遮られる。

 高畑が空中で何かをしたと同時に、灯篭付近を圧殺した衝撃波が水柱を作り、高さは観客席の屋根を優に超えて三階建てビル相当まで上がった。空中高く巻き上がった水は衝撃となって観客席の屋根を突然の豪雨が降ってきたようにように強く叩く。

 屋根を揺らすドラムの音のような水の音を耳を圧されながら、灯篭近くに観客席にいた者達は水煙で閉ざされた視界の向こうを見ようと固唾を飲んでいた。

 やがて水煙が晴れるとその異様な痕跡に観客は唖然とする。

 

『灯篭が、ありません。欠片も浮かんできません』

 

 惨状を見つめた和美の震える声がマイクを通して会場中に響き渡った。

 二メートルほどの灯篭が和美の言う通り、水煙が晴れた後には存在していない。辺りの水辺にも欠片も浮かんでいない。先の高畑が放った豪殺・居合い拳が欠片も許さないほどに砕いたと考える方が自然か。

 咸卦法の莫大なる力で増加された居合い拳は、豪殺と付けられるだけあって比べ物にならない威力だった。単純な威力だけで言えば、軽く見積もって居合い拳の十倍以上の威力。アスカの身長を優に超える砲撃は、居合い拳というより居合い砲とでも言うべきだろう。

 圧倒的な破壊力を見せつけた豪殺・居合い拳を前に誰もがアスカは死んだと思った。今の無慈悲な一撃には一人の人間の命を奪うだけの破壊力があると直感したのだ。

 灯篭の破片すらも水面に浮かび上がって来ないのだ。直撃したアスカがどうなったか想像することも恐ろしい。もしかしたら湖面が血に染め上げられるかもしれないと、揺れて波が出来ている水面を見つめながら脳裏に思い描いた光景が現実になることを恐れて等しく口を噤んでしまう。

 

(アスカ……)

 

 観客席にいた長谷川千雨は舞台を挟んで向こう側に沈んだアスカを思って、危なげなく舞台に着地した元担任であるタカミチ・T・高畑の背中を無意識に睨み付けていた。

 アスカに殴り飛ばされて一度湖面に落ちて濡れたはずなのに、後ろから見る限りではもう渇いていてしまっているように見えた。いくら温かい季節だとしても濡れてから数分程度しか経っていないのにありえないことだった。

 その疑問を口から出すことはない。今の龍宮神社内は大勢の人がいるとは思えないほど静まり返っていた。

 終盤の高畑の攻撃は試合の域を超えて暴力に達していた。二メートル近い灯篭を粉々に砕いた現実は、生半可な出来事ならスパイスとして盛り上がる麻帆良住人達にとっても異常だった。

 受け止めるだの捌くだのという次元を超えている威力を目の当たりにして、千雨の背筋に冷たい汗が浮かぶ。

 

「ネギ先生!?」

 

 解説席とは反対側から聞こえてきたのどかの声に反応してそちらを向けば、隣にいたネギが顔を真っ青にして膝をついていた。片手にのどかの手を、もう片方の手で欄干を持ちながら両膝をついて血の気の引いた顔で、背中を向ける高畑を焦点の合っていない目で見ていた。

 

「おい、ネギ先生大丈夫……じゃなさそうだな。あんなん見たら無理もないか」

 

 のどかが必死にネギの肩を揺さぶったり声をかけているが届いている様子はない。千雨も肩に手を置いて聞いてみたが反応はない。完全に呆然自失していた。

 高畑と彼がお互いを名前で呼ぶ年の離れた友人関係で、仲の良さは誰もが知っていた。アスカやアーニャにカモや小太郎を別にして、誰に対しても敬語を使うネギが倍以上も年の離れた大人でありながら高畑を信用し信頼していたのは、付き合いのかなり薄い千雨からも簡単に見て取れた。

 ネギとアスカは同じ胎に入っていた文字通りの同胞。血を分けた半身に対する感情は他の誰とも比べようがない。

 そんなアスカが最も仲の良かった高畑に殺されたかもしれない。可能性だけでも呆然自失になっても仕方のないほどの打撃をネギに与えたとしても不思議ではない。

 

「確か救護室があったはずだ。そこに運ぼう」

 

 自分よりももっと動揺してくれる人が身近にいると人は案外冷静になるものである。ネギがこれほど分かりやすい動揺を表に出してくれたので、目の前の現実から逃げるように千雨の方は逆に冷静になっていた。

 

「私が連れて行きます」

「一人じゃ大変だろ。手伝うよ」

「いえ、千雨さんは試合の方を見ていて下さい」

 

 のどか一人では今のネギをこれだけ混雑している中で臨時救護室のある拝殿まで行くのは大変だと考え、手伝うと言った千雨だが断られて目を丸くした。

 別に好きな男を他の女が触れる触れないとかは気にしていないようだが、直ぐには拒否された理由が分からなかった。

 

「後でどうなったか教えてほしいですから」

 

 臨時救護室に入ったら外の状況は容易には分からない。他のクラスメイトの姿は出場者以外には見えないし、茶々丸に聞くという選択肢もあったが彼女は実況解説をしている身。後になって聞くのは少し躊躇われた。

 となれば、誰かが残って試合の経過を見届けるとするなら千雨が残る流れになるのが自然だった。

 

「ああ、分かった。気を付けてな」

 

 そう言われて千雨も察して納得した。道中にこけたりして怪我だけはしないように伝える。

 

「さ、行きましょうネギ先生」

 

 のどかが言ってネギの肩を下から持ち上げたその時だった。周囲どころか龍宮神社全体が揺れたように歓声が上がった。

 歓声に反応した千雨の視界に映ったのは、青い顔をして一身に前だけを見つめる明日菜の姿だった。

 

「あ……」

 

 観客席の欄干の隙間から舞台の方向を見ていたネギが声を上げた。

 

 

 

 

 

 もしかしたら死んだかと思われたアスカは生きていた。無事とは言えない状態だったとしてもだ。

 

「……あ、っはぁ……げ――っあ……」

 

 舞台へ繋ぐ通り道に手をかけて水面から顔を出したアスカは息を乱していた。

 なんとか上って地上に出たが、仰向けになった体を起こせないようだった。

 

『アスカ選手、うっ!?』

 

 司会兼実況で気楽に動けて偶々近くにいた和美が大慌てでアスカに駆け寄って息を呑んだ。

 湖面から現れたので当然の如く全身水浸し。だが、異様はそれ以外にあった。

 背中が接している通路に血が滲んでいる。前面にも切り裂かれたような跡と傷が無数にあることから、恐らくにも灯篭の破片によって出来たと思われる切り傷があるのだろう。出血自体は水で広がっているだけで傷はそこまで深くはないようだ。

 服と一緒に切り裂かれている様は爆発にあったかのよう。水で薄まっていても地上に打ち上げられた影響で染み入るように服を斑に染める。

 横を向いていた顔も選手控え席側にいた和美から良く見えた。

 顔自体の傷はそれほどないように思えたが、頭部を裂いた思われる裂傷が金髪を斑に染め上げていた。天頂部辺りから垂れた血が前頭部を通って、眉間を流れ落ちていく。

 

「づぁ――はあっ……くっ、あ……」

 

 なのに、これだけの傷なのにアスカは、苦しげに立ち上がろうとしている。和美はその姿を呆然と見ていることしか出来なかった。

 

「水がクッションになったことが命を救ったか」

 

 立ち上がって舞台に向かうアスカの後姿を見やったエヴァンジェリンは、あの瞬間から起こった出来事を予測する。

 正しく彼女の言う通りだった。

 豪殺・居合い拳が放たれた瞬間、凭れていた灯篭を離して両腕を前面に掲げて防御したことで、アスカは水中に落ちた。豪殺・居合い拳が着弾したのはその直後。

 灯篭の上部部分が一瞬で粉々に砕け散り、次に水面に着弾した。この時点で豪殺・居合い拳の威力は百分の一程度しか減衰していない。

 豪殺・居合い拳は灯篭を押し潰し、アスカをも巻き込んだ。

 底に叩きつけられ、着弾したことで荒れた水流に巻き込まれて、たった一撃で津波が来たような流れに巻き込まれてどうにも出来ないまま、偶々伸ばした手が通りに手が引っ掛かって今に至る。

 

「…………すまない」

 

 もう十分だろう、と高畑は背中に罪悪感という名の百キロの重石を乗せられたような気分のまま思った。偽善だと分かっていても言わずにはいられなかった。

 自分の醜さも、自分の八つ当たりも、十分に吐き出した。最悪の自己満足で、最悪の自己中心的行為。自分の中に溜まっていた汚泥をぶちまけたかっただけ――――ーなんて最悪で最低な、唾棄すべき行為。

 それでも一抹の解放感はあった。同時にこのまま消えてしまえれば、と強く願った。こんなことを願う自分なんて世界からいなくなってしまえばと、本当に強く願った。

 

「謝って許してもらえることじゃないって分かっている。それでもすまない」

 

 少しだけ寂しい風が胸に吹き抜けた。恨みも、何もかも、今は消えている。

 高畑は、こんな結果が欲しくて戦ってきたわけではなかった。嘗ての少年は二十年の時を経て、取り返しがつかないほど自分が子供を傷つけるどうしようもない大人になっていたことに改めて気づかされて絶望する。だから、泣き喚きたいほど腹の底が苦かった。

 でも、加害者が泣くことは許されなかった。涙を抑えるように右手で目元を押えた。右手に付いていたアスカの血が顔について、余計に泣きそうになった。

 自分に、どうしようもない吐き気がした。

 胸に過るのは、こんな時もアスカではなく明日菜だった。

 脳裏には今も彼女は輝くように笑っている。級友と友人と掛け替えのない親友と、幸せそうに笑っている。明日菜が笑っていられるなら、どんなに人として正しくない行為であろうとも躊躇しなかった。守れるなら他に何もいらなかった。

 なのに、選手控え席にいる明日菜の方を見れない

 

「すまない……」

 

 こうなる可能性はアスカと明日菜が出会った時から予感していた。分かっていたのに何もしなかった。アスカがナギの息子だからこそ、自分には出来ないことを出来るのではないかと思っていたことを認めざるをえない。

 咸卦法の習得のために何年も別荘を使った高畑はもう四十代を間近に控えている。戦士としての絶頂期を終え、後はどれだけ鍛錬しようとも時と共に実力が下がっていく。

 明日菜が背負う宿命は重い。このまま過ごして欲しいとは思っても、叶わないかもしれないから保険が欲しかったのかもしれない。自分の後に明日菜を守ってくれる者――――ナギの息子である二人のどちらかが適任だと身勝手に期待した。

 そんな身勝手な願いの果てがこの結果だとするならば、責を負うのはこの結果を予見していた大人である自分であるべきだった。決して八つ当たりを向けるべきではなかった。

 もう取り戻せない後悔だけが高畑の身を苦しめ続ける。

 

「…………謝る、必要なんて……ない……」

 

 小さな、今にも消えそうな声が聞こえた。聞こえるはずがなかった。信じたくなどなかった。 罪はタカミチ・T・高畑を絶対に許さない。まだまだ現実を見せられる。

 アスカが傷らだけになっている体で舞台に登ろうとしていた。

 

「……まだ、俺は……戦え……る」

 

 自らを取り巻く理不尽へと戦いを挑むように震える手足で舞台に上がって、この期に及んで尚も戦意を失わぬ相手を不思議そうに高畑は見つめた。

 

「なんで、どうしてたかが試合にそこまで必死になれる?」

 

 分からない。何年も関わって来たのに、今の高畑にとってアスカは謎の存在であった。

 高畑の言葉を受けて、アスカは苦笑するように口の端を歪ませた。

 

「…………100敗は、情けないからな」

 

 と、そんなことを口の中で呟いたのを高畑はしっかりと聞いていた。

 同時に思い出した。麻帆良に来てからは試合をすることはなかったが、アスカがウェールズにいた頃はよくしていた。そのアスカの戦績が100戦1勝99敗だった。

 熱した激情に支配された心が、予想もしていない返答によって氷水をぶっかけられたように急速に冷えていく。

 

「そんなことで、意地を貫き通すのか……」

「そんなことじゃない。俺にとっては大事なことだ」

 

 仏頂面のアスカを高畑は羨ましいとは思わないけれども、やはり眩しくは見えた。きっとそれは、自分がこの少年を特別だと思った理由。それは自分とこの少年が、良く似ていていも異なる最大の違いだったのだろうか。不屈であろうとする者と、不屈である者の本質的な違い。

 

「降参、してくれないか? これ以上、手心を加えられそうにない。次も無事でいられるとは保証できないよ」

 

 アスカの在り方は、どうしようもなく高畑の内側を刺し貫く。本人もよく分かっていなかった柔らかなどこかを容赦なく引っ掻いてくる。子猫の爪にやられたような、鈍い痛みがジンジンと離れなかった。

 

「馬鹿を言うなよ、タカミチ」

 

 魔法学校時代と変わらぬ笑みで見せるアスカ。あれだけ高畑に酷い目に遭わされたのに怒りや恨みを抱いているようには見えない。 

 

「俺はアンタを超える。どれだけ力の差があっても、今まで一度だって諦めたことはない」

「超える?」

 

 ふと、その言葉が異様に高畑の耳に響いた。

 高畑はナギを、ガトウを、紅き翼に追いつこうと今まで我武者羅に走り続けて来た。未だに追いつけたとは思えていないし、そんな日が来るのかも分からない。けど、一度でも超えようと思ったことがあったか。

 

「そうか。僕と君の差はそこだったのか……」

 

 憧れているだけでは、何時までも背中を見つめ続けるだけでは、その先へ行くことは出来やしない。

 胸を苛むのは痛みだ。勝利ではなく敗北と弱さ、そこから這い上がってきたはずなのに、引き攣れた傷痕がジクジクと疼く。どうにもならない敗北から自分を始めた男が抱いてしまった遅すぎる理解が傷を抉る。

 

「御託はいい。勝負はまだ終わっちゃあいない」

 

 激痛が腹の底で暴れて、アスカは衆人環視の中で胃の内容物を吐き捨てそうになる。それでも少年はよろめきながら膝を震わせ、足を踏みしめて前に進めれば、それで良いと思った。

 

「俺は強くなる」

 

 始めの一歩を踏み出す。続けて二歩目を、三歩目をと続けていく。歩み出したアスカの右手は、しっかりと拳を握っていた。

 歩くのを止めて横になりたいと、理屈ではない衝動が間断なく襲ってくる。

 

「タカミチよりも、親父よりも、誰よりも」

 

 天下無敵。およそ武術を志す者なら、男なら誰もが目指し、渇望する境地だろう。

 武術に関わらない者でも強い人間には憧れを抱く。いっそ人間なら誰もでも、と断言してもいい。何者にも屈することのない強さを求めるのは人の、特に男の本能のようなものだ。

 だが、ただ強いだけの純粋な力なんてものはない。

 何のために力を求めるのか―――――その目的、強くなる理由が問題だ。

 己の存在を世に知らしめるため。自分に誇りを持つため。自分の可能性を追求するため。不安を克服するため。何かを守るため。他の何のためでもなく、ただ生きる延びるため。

 

『強くなりたいか―――――?』

 

 手段など二の次。とにかく強くなりたい。強くなれさえすれば、なんでも良かった。その理由が何であるにせよ、アスカはそう問われれば頷かずにはいられなかった。

 

「強くなりたい。みんなを、明日菜を、守りたい全てを守れるように」

 

 今までナギを追うことだけを目的に強くなろうとしていたが明日菜が変えた。護られることを受け入れられなくても、明日菜と共にいたいのならばアスカはもっと強くなるしかない。それがアスカの妥協できる最低ラインだった。

 

「来いよ、タカミチ。俺が強くなる為の糧になれ」

 

 未だに頭が痛み、響き、視界は嵐で大荒れの海に出た小舟にでも乗っているみたいに揺れる。真っ直ぐ歩けない。頭がズキズキと痛む。目が霞んでいる。先にいるはずの高畑の姿もはっきりとしない。痛む頭を振って視界をハッキリとさせる。

 前へ、まだ前へ、進み続ける。アスカ・スプリングフィールドはそれしか知らない。誰に馬鹿にされようとも愚直に足を動かし続けることしか出来ない。

 

「君は、どうしてそこまで出来る?」

 

 無意識に足が後退していた高畑が抱える疑念だった。どうしようもない疑念だったからこそ、問いかけずにはいられなかった。

 ここまで痛めつけられて力の差を理解できているはずなのに、それでもなお立ち上がって向かって来ようとするアスカが理解できない。人間はこうなる前に必ず諦めると、アスカよりも多くの闘争を超えてきた高畑だからこそ分かる。

 

「馬鹿な男の話を聞いたからだ」

 

 アスカは喉の奥から湧き上がってきた血の混じった唾を飲み込んだ。膝が震えそうになるのを必死に堪え、奥歯が鳴るのを噛み殺す。一度でも心が屈してしまえば。自分はもう立ち直れないと良く分かっていた。

 

「自分には才能がないなんて言いながら、愚直に諦めることを知らずに遥か先を行く男がいる。その背中が先にあるから、俺は諦めないでいられる」

 

 それが誰のことを指しているかなんて、アスカの目を見れば鈍い高畑にだって分かった。

 

(ああ……)

 

 自分の姿を客観的に見たかのように、高畑の体が震えていた。寒さが原因ではない高畑の胸の隙間に滑り込んだのは、奇妙な喜びだった。

 夏に近いこの季節の太陽は厚い雲の向こうからでも、明るく地上を照らす。

 まだ昼前の太陽が天頂に近い時間だから、アスカと高畑は互いの姿を光の下で直視しなければならない。アスカが満身創痍であっても、闘いを挑む強い眼差しを高畑へと向ける。どこもかしこも傷つけられているからこそ、決して変わらない金剛石のような硬さと輝きが際立つ。たとえ幾度追い込まれても、ついに屈伏せざる者の光。

 強い目の光にナギのそれが重なり、どうしようもなく胸の奥が熱くなった。

 

「一つだけ聞く。君は明日菜君を背負えるか?」

 

 気が付けば、高畑の口からそんな言葉が漏れていた。

 言ってからその意味に気づき、衝撃を受けながらも空いていた穴にピタリと嵌ったような不思議な気持ちだった。

 

「明日菜君の気持ちは試合で聞いた。だが、君の口からは何も聞いていない。どうなんだ? 彼女が背負っているものは重い。君に世界の重みを引き受ける覚悟があるか?」

 

 言葉が次から次へと湧いて出て、強い視線をアスカへと向けた。

 アスカは一瞬怯んだように肩を震わせたが、直ぐに慄然と顔を上げた。

 

「世界なんて分かんねぇ……だけど、明日菜の気持ちに報いたい。俺は、明日菜と一緒にいたい」

「そうか……」

 

 随分と遠回りしたが、その言葉を聞けただけでもこの試合に価値はあったと高畑は閉じた瞼の下で想いを隠し、開かれていた手の平を強く強く握った。

 

「一撃だ」

 

 ここにいるのは魔法世界で憧れられる戦士でも、麻帆良学園都市で慕われる先生でもない。どこにでもいる人間であるタカミチ・T・高畑として告げる。

 

「次の一撃で決着を決める。僕を超えて、その言葉を証明してみせろ」

「ああ!」

「良い返事だ……」

 

 高畑は持つ全てを集める様に、体内に残っていた咸卦のオーラを右拳に集めて圧縮するように高める。答えるようにアスカもまた全精力を振り絞るように魔力を高める。

 噴き出た両者の力は、外界の一切の影響を与えずに収束する。

 見る者が見れば分かるほどに強大な力は、選手控え席にいる一部の選手の危機感を煽った。

 両者の力を比較すれば、勝るのは高畑の咸卦の力だ。その事実に思い至った長瀬楓と古菲が動く。

 

「お前達、手は出すなよ。手を出せば殺されかねんぞ」

 

 もう審判の和美にも止められない。いや、下手に誰かが力尽くで止めようとすれば実力行使も辞さないだろう。向き合う二人はそれだけの気迫を見せていた。だからこそ、エヴァンジェリンは選手控え席から舞台への一本道に向かって走ってきた楓と古菲を引き止めた。

 

「あの力は危険すぎるでござる」

「そうアル。このままじゃアスカが殺されるネ」

 

 その程度の静止で止まれないほど、今の高畑が放つ力は危険すぎた。審判である和美が止められないなら自分達がと、二人は続けて言った。

 

「このままでは危ないのは事実だ。だが、部外者でしかない私達に止める資格もない」

 

 あまりにも戦っている二人の因果が混じり過ぎている。そこに部外者が混じれば事態は余計にややこしくなってしまう。この戦いを止められる当事者はただ一人。

 だが、明日菜は止めるべきではないと態度で示す様に一心に舞台を見つめている。

 

「どのような結果になろうとも見ていろ。それが戦っている二人への礼儀だ」

 

 アスカを試したがっているアルビレオ・イマが易々と殺させるはずがない。エヴァンジェリンは彼がどう動くのかを知りたかった。その為にはアスカも利用しようと考えていた。

 組んだ腕の中で拳を強く握り過ぎて血が流れていることに本人だけが気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 立ち入れない。立ち入ってはいけない空気に圧倒された会場中が静まり返っていた。高畑を止めなくてはいけないと分かっている。でも、誰も足が動かなかった。声が出なかった。

 関係者以外には入り込めない結界でも張られているかのように、舞台の上で絶対なる死の化身となった高畑が動く。

 

「――っ!」

 

 高畑はトン、と床を軽く蹴るような動作で踏み込むと、線を引くように空間に残影を残してアスカへと迫る。

 目の前に死の具現が迫ろうとも不思議とアスカに焦りはなく、終わりに対する恐怖だけが体を震わせる。

 

(届かない)

 

 高畑と比べ、101矢の魔法の射手を収束させた拳に込められた力のなんとか弱いことか。どう足掻いてもアスカに勝機は欠片もなく、この勝負の軍配は放つ前から分かりきっている。

 脳裏を過るのは走馬灯。村で過ごした幸せな幼少期、魔法学校でのやんちゃをした生活、麻帆良に来て波乱万丈な日々。それらが脳裏を一瞬で過っていく。

 幸福な願いを想って死ねるなら本望だった。瞼を閉じた向こうにこそ光が、短くも濃密だった思い出が蘇ってくるようだった。誰もが浸る日常の中こそ、彼が夢見るお伽噺の如く遠い話だ。

 アスカは迫る死の具現を前にして活路を見いだせなかった。

 

「アスカ!」

 

 死に引き込まれるアスカを引き止めたのは、神楽坂明日菜の叫びだった。それだけで十分だった。

 

(明日菜君――)

 

 高畑にも明日菜の声は聞こえていた。

 彼女に視界に入っていたのは二人ではなく、たった一人であることも分かっている。それでも、手心は加えない。愚直に前へと進み続ける。今までそうしていたように、これからもそうするように。

 

「――――ぉぉ」

 

 名を呼ばれたことで引き止められたアスカの全身が躍動する。その脳裏には天恵の如く、一回戦の情景が浮かび上がっていた。

 魔力では届かない。気では届かない。しかし、同時に使うと両者の力は反発する。ならば、明日菜が使ったように、目の前の高畑が使っているように、一つの力に束ねたのならば。二人がやったように魔力と気は体外で合わせる時間も余裕もない。となれば、残るは体内で練り合わせるのみ――――その危険性すら考えずに。

 

「――――ぉぉぉっ」

 

 踏み出しかけていた足で強く床を踏み抜く。

 震脚によってベクトルが足の親指から踵を経由して足首を通り、膝を伝って太腿に流れる。太腿から腰へと螺旋を描き、肩甲骨から肩へと捻じれていく。肩から一気に肘へと雪崩れ込んで、手首へとベクトルが伝わっていく。

 

「豪殺――」

「雷華――」

 

 似通った構え、似通ったエネルギーの収束、左右非対称に己が最強の技を放つ。

 

「――――居合い拳っ!!」

「――――豪殺拳っ!!」

 

 直後、地面に落としたパイナップルが砕けるような嫌な音が響いた。

 

 

 

 

 

 音は無かった。声も無かった。時が止まったように静止し、一つになった影は動かない。

 

「――――」

 

 ゆっくりと影が分離して、二つに分離した内の一つの影が倒れていく。アスカ・スプリングフィールドという名の影が。

 完全に意識を失って倒れたアスカを見下ろす高畑の顔に表情は無い。その唇から一筋の血が流れ落ちた。

 

「血、か」

 

 鉛のように重い手で血を拭って始めて気がついたようだった。

 高畑の声を切っ掛けとして和美が舞台へと上がって来る。

 

『アスカ選手! ここでダウン――っ!! ここで十五分経過によって試合は時間切れです! 勝敗は明らかですね。勝者は――』

「…………朝倉君」

 

 この試合だけで何十年も経ってしまったような嗄れた声で審判の和美に声をかけた。誰よりも最も身近で事態を見ていた和美は、声をかけられて体をビクリと震わせた。

 

「僕の、負けだ」

『高畑選……え?』

「今の一撃、僕は当てていない。負けたのは、僕だ」

 

 超えたのだ。あの一瞬、アスカは言葉通りに高畑を超えてきた。

 高畑の一撃よりも早くアスカの一撃は撃ち込まれ、勝敗は決したのだ。

 

『し、しかしアスカ選手が起き上がれない状況で勝者とみなすのは……』

 

 言われた和美は困惑した。現実として立っているのは高畑であり、伏しているのはアスカだ。誰の目にもどちらが勝者かなんて分かりきっているのに、当の勝者が敗北宣言しては如何に和美といえども裁定を下せない。

 

「なら、僕は棄権する」

 

 試合に負けて、勝負に勝ったことになるのかと思いながら和美にそれだけを告げると、高畑は歩き出した。

 

『た、高畑選手、棄権によりアスカ選手の勝利です!……担架担架! まずは意識不明者の救護を最優先に!!』

 

 高畑の危険宣言を受けて、和美が些か遅い試合終了宣言を行う。

 その宣言を切っ掛けにして、ざわめき始める観客達。試合を終えた二人に浴びせられる喝采はなかった。仕方のないことだった。勝者が棄権するなど前代未聞だ。

 

「………………」

 

 高畑は、担架よりも早くアスカの下へ行こうとして舞台へ繋がる道を走る明日菜と一瞬だけすれ違う。最後まで明日菜は高畑を見ようとしなかった。もしかしたら本当に視界にすら入っていなかったのかもしれない。

 ただ、燃やし尽くした真っ白な気怠さを引き摺って、高畑は荒廃した荒野を進むように孤独に歩く。

 選手控え席の脇を通っても誰も声をかけず、観客席を横切る時には誰もが進んで道を開けた。

 怖がられているな、と唇を歪めながら自嘲する。それだけのことを自分はアスカにしたのだから仕方ないのだと割り切ろうと、歩みを止めなかった。その歩みの先にローブを纏った人物が現れる。

 

「荒れていますね」

 

 アルビレオは戦争の途中の兵士のように荒みきっている高畑を前にしても気にしない茶化した口調を変えなかった。

 

「何の用ですか?」

 

 言葉通りに機嫌が悪いのを滲ませて言葉少なに問う。今は旧友であろうとも何でも許容できる精神状況ではなかった。

 

「彼女は貴方の物ではないのですよ」

 

 グサリ、と高畑にとってどれだけ切れ味を誇る名刀よりも心を抉る一言だけを、何時も通りの胡散臭い笑みと共に呟く。

 分かっていてこの男は人の傷を容赦なく暴く。このような時にこんなことをするのは必要だからと、紅き翼として長い時を過ごした高畑は知っていた。

 

「分かっています。お役御免されたわけですから、騎士の役目は相応しい者に譲りますよ」

「おや、もっと愚図るかと思ったのですが」

「超えられてしまったら、文句なんて言えません」

 

 打たれたダメージが大きく、大きく息を吐きながら言うとアルビレオは彼にしては珍しく重く口を開いた。

 

「では、やはりあれは咸卦法だと?」

「明日菜君にも及びませんが、間違いなく」

「ありえないことです。彼は寸前まで咸卦法を発動させる仕草を見せなかった」

「間違いありませんよ。あの一撃を受けた僕がそう言ってるんです」

 

 咸卦法を発動させるには、両手に魔力と気をそれぞれ発動させてから合成する手順を経なければならない。アスカはその手順を省略して咸卦法を発動させたのだ。

 

「となれば、体内で合成したことになりますが、一歩間違えれば魔力と気が反発して体の内側から破裂してもおかしくないのですよ」

「制御が甘くて半分自爆してましたけど、それでも効きましたよ。体の奥まで、ずっしりと」

 

 撃たれた腹部を擦り、重く沈殿しているダメージに時折意識を飛ばされそうになりながらも高畑は立ち続ける。

 常人では考えられない所業をアスカは成し遂げ、あの一瞬だけだとしても本気の高畑を超えて来たのだ。制御が甘くて自爆して気を失っているアスカに意識はないが、無様な姿を曝すわけにはいかない。

 

「大人になりましたね、タカミチ君も。ガトウも今の君を見たら、きっと喜んでくれますよ」

「そうでしょうか?」

「ええ」

 

 アルビレオは昔と同じ不器用さを発揮する弟分に苦笑を浮かべて、この十年の高畑の成長を噛み締めていた。

 その後、アルビレオは高畑と別れ、担架で運ばれていくアスカを見送ると楽しげに口の端を上げた。

 

「アスカ君は可能性を見せてくれました。高畑君も一皮剥けたようです。此処にあなた達がいたらどうしたでしょうね、ガトウ、ナギ」

 

 二人の姿が見えなくなったアルビレオはそう呟き、考えても栓なき事だと晴れ渡った空を見上げた。

 

「さあ、ナギ。あなたとの約束を果たす時が来ましたよ」

 

 変革の時を前に、ただ空は高く、人間味など拒絶して青く広がっていた。

 




高畑ブチ切れの理由としては


1.明日菜が苦しんでいる時に何も出来ず

2.しずなに迫られる

3.当の明日菜はアスカと試合をしてよりを戻して無力感を味わう

4.騎士の座を取られるかもしれない知れないという恐怖

5.アルビレオからこの十年は無駄だったと言われる

6.超の目的に揺らぐ

7.師の技を真似られる

総評:タイミングが悪かった。

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