魔法先生ツインズ+1   作:スターゲイザー

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副題:ラブストーリーは突然に


第6話 いざ、京都へ

 春休みに突入して数日。ネギ達の姿は大宮駅にあった。

 大宮駅構内は、早朝ということもあって家から遠い会社に向かう勤労サラリーマンといった例外を除いて人影はそう多くない。その中にネギはアスカ達と共に午前7時という早い時間に麻帆良学園都市から離れた大宮駅にやってきていた。

 

「じゃ、全員いるしホームに行きましょうか」

 

 アーニャはネギとアスカ、明日菜・刹那・木乃香とこの旅行に参加している面々の顔を確かめて促したが一歩も動こうとしない。

 

「どうしたん?」

「私に日本の交通事情が分かるわけじゃない。アンタ達が先導してよ」

 

 木乃香が聞けばアーニャは恥ずかしさから僅かに朱に染めた顔を逸らす。

 

「それで良く麻帆良まで来れたわね」

 

 他力本願なアーニャを笑わなかった明日菜はよく子供だけで世界で最も複雑と言われる関東の電車を乗り継いで来られたものだと感心した。

 

「色んな人に聞いてやっとです。苦労しました」

「何度か迷ったけどな」

「いいから、さっさと行くわよ。さぁ、明日菜」

「はいはい」

 

 当時の苦労を思い出して強く頷くネギ、今となっては良い笑い話だと言わんばかりに気にしないアスカ。

 自分ばかりが恥ずかしがって話を進めたがっているアーニャに可愛いさを感じつつ、明日菜が先導してホームを目指す。

 

『JR新幹線、あさま506号。まもなく発車致します』

 

 駅構内にアナウンスが鳴り響く。明日菜達は無事に新幹線に乗り込んで、時間になり新幹線は大宮駅を出発した。途中、東京駅でひかり213号に乗り換えた後は目的地の京都駅につくまで悠々自適。それぞれが旅行の醍醐味の一つの移動時間を満喫中である。

 

「そういえば、なんで木乃香の実家に行くの?」

 

 三人掛けの席を反転させて、ウェールズ組と麻帆良組で別れて座っていた窓際の席で明日菜が目の前のアーニャからトランプの札を一枚抜き取りながら言った。ババ抜きをしているのだが引いた札では合わなかったらしく、一瞬眉を顰める。

 

「うちが魔法を知ったことを報告に行くんや。明日菜に言わんかったけ?」

 

 順番が回って来た木乃香が明日菜から札を抜き取ると、手持ちの札と合ったらしく抜き出した札と手持ちの札を抜き出して膝の上に置く。真ん中に捨て場など作れないので、札が合ったら各人の膝の上に置く決まりになっているのだ。

 

「聞いてないわよ。木乃香の実家に行くって聞いただけで、アンタがいなくなっちゃうとご飯がないから無理やりにでも付いてきたんじゃないの」

「そこは自分で作りなさいよ」

「木乃香のごはんが美味しいのが悪いのよ。学食じゃ、肥えちゃった舌が満足できないの」

 

 今度は通路側にいる刹那が木乃香の札を取り、こちらも手持ちの札と合ったらしい。膝の上に合った二枚を置いて、前の席にいるアスカへと手札を差し出す。

 

「確かに木乃香の飯は上手い。直にネカネ姉さんが来るのに満足できるのかって不安が出来るぐらいには上手い」

「お姉ちゃんって料理は得意じゃないからね」

 

 遊びであろうと勝負は勝負。勝つために刹那の表情を見ながらカードを選びながら言うアスカにネギも同意する。

 彼らの従兄であるネカネ・スプリングフィールドは良妻賢母の見本のような人物だが、ただ一点料理だけは得意ではないのだ。得意ではないだけで苦手ではないのだが、料理上手な木乃香と比べると流石に一段も二段も味は劣る。

 数日中に日本へやってくるネカネの下へ引っ越しが決まっているアスカ達にとって、食生活のレベルが落ちるのは成長期で良く食べるだけに死活問題だった。

 

「アンタ達がそんなことを言ってたってお姉ちゃんに言うわよ」

 

 ポーカーフェイスが苦手な刹那から見事に当たりを引いたアスカが悠々と膝に札を置いて、手札をアーニャに向けた瞬間に固まった。

 

「「ごめんなさい。後生だから言わないで下さい」」

「分かればよろし」

 

 二人で頭を下げた瞬間にアスカの手札を盗み見たアーニャは見事に掠め取る。合ったカードを捨てつつ、今度はネギの方を向いた。

 

「アンタ達のお姉さんって怖い人なの?」

 

 怯えている二人の様子から明日菜の脳裏では夜叉のような女の人が連想されていた。

 

「や、止めてお姉ちゃん。そんなところに太い棒は入らないよぉ。出すところで入れる所じゃないからぁ」

「爪の間にそんな器具は入らないってぇっ」

 

 ガクガクブルブル、と蹲って怯えている二人を見て、怖いお姉さんなんやなぁと呑気に言える木乃香が凄いと思った刹那だった。

 

「普段はおっとりした優しい人よ。でも、怒る時は本当に怖い」

 

 アーニャですら怯える人に明日菜の中では夜叉よりも恐ろしい人物像が膨らんでいく。本人が知れば本当に怒りそうなレベルであるとだけは記しておこう。

 

「ま、お姉ちゃんが来る前にこっちの用事を終わらせられそうなのは正直助かるわ。私の不注意で魔法がバレたなんて知られたらどんな折檻が待っているか」

 

 折檻を想像したのか、ブルリと全身を震わせたアーニャは窓の外に流れて行く景色をチラリと見た。

 

「怖いっていえば新田先生も怖かったわねぇ」

「俺は鬼の新田の真価を始めて知った」

 

 堪えていなさそうな木乃香は別にして、新田の説教を一身に受けた明日菜とアスカが煤けていた。

 

「補習と無料奉仕ですんで良かったじゃないか」

「この旅行以外は春休みが殆ど完全に潰れてるのによくそんなことが言えるな」

「自業自得よ」

 

 ネギとアスカの間で睨み合いが生まれかけたが、アーニャがバッサリと切って捨てたことでネギの勝利が認められた。

 

「ですが、今回の一件では学園長も関わっていたということで大事にならずにすんで良かったではありませんか」

 

 順番が回って来たので悔しがるアスカにババを引かせようと小狡いことを考えた刹那が伸びてきた手に、ピコンと出した該当のカードを近づける。しかし、アスカは刹那の策などに引っかからず、該当のカードの横のを取った。

 

「今回の一件で図書館島の警備や鍵のチェック管理体制も強化されることになったみたいやけどな」

「私としては木乃香に土下座までして必死に事情を説明する学園長の姿の方が印象に残ってるけどね」

 

 安易に魔法関係に近づかない為に試したという学園長の言い分を、深夜に寮を抜け出して進入禁止の区画へと入り込んだ負い目があった木乃香は受け入れた。本当なら学園長の方が立場は上のはずなのに、木乃香の方が上に立っているように見えたアーニャの目は決して節穴ではない。

 

「お、俺一番上がり」

 

 刹那の手札から一枚抜き取ったアスカがぶっちぎりの勝ち名乗りを上げる。

 

「もう、ですか。早いですね」

「アスカはこういうゲームでは無類の強さを誇りますから。負けたの見たことあったけ?」

「ないわね。無駄に強いんだから」

「なんとでも言え。最下位には驕ってもらうから頑張れ」

 

 ぬぬぬ、と悔しがる年少組はやる気を漲らせた。

 アスカが一抜けしたので次のアーニャは手札が減らず、ネギのを抜き取らなければならなかった。ネギの残りカードは五枚。全員が残りそれぐらいなので、アスカだけが早く上がり過ぎなのだ。ババ抜きのような一種勘も働かせるゲームでは無駄に鋭すぎる。今までのこういうゲームで一度もアスカに勝てた試しがないネギとアーニャだった。

 

「ほら、さっさと引いて」

 

 ああでもない、こうでもないと手を左右に彷徨わせていたアーニャを揺さぶるようにネギは真ん中の一枚を飛び出さしながら言った。これは罠か、とアーニャは心理作戦に出ているネギのやり口に厭らしさを感じつつ、選ぶべきか選ばざるかで迷う。

 

「ええい、ままよ」

 

 乗ってやろうじゃない、と真ん中の飛び出している一枚に飛びついたのだった。抜き取っていくと手札で口元を隠していたネギが笑みを浮かんでいるのが見えた。しまったと思った瞬間にはもうカードを抜き取ってしまっていた。

 ゆっくりと手を引きながら抜き取ったカードを見たアーニャの顔を引き攣った。

 

「ぐっ」

 

 ババだった。アーニャはネギの手の平で踊らされたのだ。

 

「アーニャは懲りないよね、昔っから。考えすぎて失敗する」

「うっさい」

 

 何時も何時も三人でゲームをすると、最下位になるのは大抵がアーニャだった。

 アスカはぶっちぎりのトップで、何時も二人は最下位争いをするがこういうゲームではネギの方が一枚上手である。ネカネが参加した時はアーニャを気遣ってくれるがそれも屈辱だったりする。

 怒りと屈辱に打ち震えるアーニャを置いてゲームは続いていく。

 

「あ、うちも上がりや」

「僕も」

 

 三順ほどして木乃香が上がり、次いでネギも上がった。

 

「残るは三人」

 

 ババを手放したアーニャは残る面子を見る。手札の枚数はアーニャと刹那が二枚ずつ、明日菜が三枚と明らかにババを持っているのが誰か分かる枚数であった。

 

「次は刹那さんの番ね」

 

 ババを持っていると思われる明日菜が刹那に手札を差し出す。

 刹那は迷いながらも右端のを取った。その顔が引き攣る。

 

「よし、ババは刹那さんに行ったわ」

「明日菜、そういうのを言うのは禁止やで」

 

 笑顔満面の明日菜が言うのをやんわりと木乃香が苦言を呈する。

 懲りた様子のない明日菜は適当の頷きつつ、ババをアーニャに押し付けようとしている刹那の拙い手口を見遣った。

 一巡後、勝敗は決した。

 

「え―――お弁当」

「お姉さん! こっちに駅弁よろしく」

 

 アスカが喜び勇んで後ろの車両からやってきたカートを押す売り子に早速注文する。

 

「あまり高くないので」

「ん~、この幕の内弁当で」

 

 やってきたカートから喜び勇んだアスカは何種類かある弁当を悩ましげに見て、懐事情が決して裕福なわけではない刹那の無言の懇願を無視し、よりにもよって一番高いのを選んだ。

 

「朝ごはんしっかり食べたのに、まだ食べんの?」

「頭使って腹減ったんだよ。これも勝者の特権」

 

 今にも涎を垂らさんばかりのアスカの健啖振りを知っていても体重が気になるお年頃の明日菜が言うも、当の本人は今が成長期だと言わんばかりに気にしなかった。

 

「千円なります」

「よろしく」

 

 得意満面の笑みで支払いを求めて来るアスカに悔しさを感じつつ、これも最下位になった者の宿命と諦めた刹那は財布を取り出して千円札を差し出した。

 

「毎度ぉ、おおきに」

 

 刹那が差し出した札を受け取った販売員は変わったイントネーションで言いながらカートを押して前の車両へと言った。

 

「あのお姉さん同郷なんやろうか」

「分かりません」

 

 明日菜のような例外を除いてバイトが出来ない女子中学生の一人である刹那に千円の出費は痛い。

 販売員の話し方のイントネーションから京都出身であることを訝しんだ木乃香に、刹那は実際には体感で殆ど分からないぐらいしか減っていない財布に頼りなさを失くしていたので返答は素っ気なかった。

 刹那の様子を見た木乃香は、幕の内弁当の封を開けているアスカがこちらを見ていないのを確認して財布を取り出して千円札を取り出して刹那に渡す。

 

「お嬢様」

「ええから受け取って。お爺ちゃんからお小遣いって大目に貰ってんねん」

 

 渡された千円札に目を丸くした刹那に木乃香は笑いかける。そのまま刹那の肩に頭を乗せた木乃香が嬉しそうに目を閉じるのを見たアーニャは真正面にいる明日菜と目を合わせた。

 

(木乃香って百合の気があるの?)

(ないはずだけど、刹那さん限定で今までのこともあってその反動が来てるみたい)

 

 アイコンタクトで会話をしている念話いらずの二人のずらした視線の先では桃色の空間を撒き散らす木乃香と刹那の二人。二人に百合の疑惑が立った瞬間だった。

 

「うわっ」

 

 ネギの驚いたような声に桃色空間の二人とアーニャ達が視線の下を辿った。

 視線の下であるアスカが今開けた弁当の箱の中身。本来ならば幕ノ内弁当の鮮やか具材とご飯が乗っているべき場所には別の存在が鎮座していた。

 緑色で妙な滑りを持った皮膚、愛らしくピョンピョコ跳ねる仕草だが一部女性に嫌われるカエルが「ゲコゲコ」と鳴いているのが見えた。

 

「カ、カエル~~~~~!?」

 

 がさつに見えても実は女の子らしく両生類が苦手な明日菜が思わず叫んだ瞬間、グシャと何かが潰れる音が車両に響いた。発生源は力一杯の拳を握り締めたアスカが拳を叩き下ろしてカエルを叩き潰した音であった。

 

「この恨み……」

 

 弁当箱ごと圧殺されたカエルが刹那以外では読めない文字が刻まれた紙へと変化する。

 先のカエルが陰陽道の一つである式神だと看破した刹那だが、怒りに打ち震えるアスカを目の前にして真実を告げる勇気はなかった。

 

「晴らさでおくべきか!」

 

 怒りで逆立っている髪の先で紫電をバチバチとさせながらアスカは宣言した。

 

「やっすい恨みね」

「たかがゲームで勝利して人のお金で買った景品を駄目にされたぐらいで大袈裟な」

 

 実にしょうもない理由で怒りに打ち震えるアスカを酷評したアーニャとネギに同意する明日菜であった。

 

「あ、お姉さん弁当大至急でよろしゅう」

 

 丁度通りかかった別の販売員に弁当を木乃香が注文することで、あっさりと怒りを収めた安い男であるアスカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍事はあったもののその後は何事もなく京都駅に辿り着いた新幹線から降りた一行は一路観光と洒落込んでいた。これは京都の文化に興味あったネギの発案で、昼過ぎに関西呪術協会の総本山へ着けばいいのに朝早くから新幹線に乗ったのもこれが理由である。

 まず向かったのは京都駅からほど近く、京都を代表する歴史的建造物として選ばれたのは清水寺であった。

 今や国内外を問わず名が知れ渡ったユネスコ世界遺産にも登録されている寺院なので、毎年多くの学生達が修学旅行で訪れる場所であり、現代において修学旅行先にこの場所を選ぶのはもはや定番となりつつある。なので「京都」の代名詞として生徒に触れさせるにはもってこいの古刹であった。もっとも秋には紅葉の名所として知られる場所であったが、三月という春休みのシーズンだけあって人の気配は多い。

 本堂に差し掛かる頃にはネギの興奮は最高潮に到達していた。

 

「素晴らしい! これが京都!」

 

 快晴の青空の下で本堂から見える見晴らしの良い景色に、ネギの絶叫が京都の街へと響く。

 

「これが夢にまで見た彼の有名な清水の舞台!!」

 

 天気は良く、新緑に彩られた山には、命の躍動する生き生きとした魅力がある。風がそよぐと辺りの木々の枝がサワサワと音を奏で歩くものたちの心を和ませるのだが、完全に御上りさんよろしくとなったネギのはしゃぐ声が色々と台無しにしていた。

 

「なにネギのあのテンション」

「ネギは歴史マニアだからこういう年月を感じさせるのが大好きなのよ。定年退職した恩田先生から京都に行くなら清水寺は欠かせないって聞いた時から張り切ってたから」

 

 緩い喋り方で昼寝製造機と渾名された学期末で定年退職した恩田先生がこういうのが好きだったことを思い出した明日菜は、件の教諭から妙にシンパシー染みた物を感じ取っていたアスカへと視線を移した。

 

「なぁなぁ、本当にここから飛び降りても死なないのか」

「らしいけど、試しちゃ駄目よ。面倒事は引き起こさないで」

 

 身長の関係で欄干にぶら下がりながら首を出して真下を眺めるアスカの襟元をアーニャが掴んでいなければ本当に試していたことだろう。アーニャちゃんナイス、と明日菜は思った。

 

「ずっと山奥で暮らしてたから地元やのに来たことなかったわ」

「そうですね。でも、今私達は一緒に来られました」

「うん、こんなに嬉しいことはないで」

 

 寄り添いながら感慨深げに語り合う木乃香と刹那の様子に、既に熟年夫婦の空気が混ざっていることを感じ取った明日菜は唇の端を引き攣らせた。突っ込みが足りない、と京都の街並を見下ろしながら思った明日菜であった。

 高所故に眺めは絶景であったりする。清水寺の周囲に生い茂っている緑の数々の向こう側に、京都の街並みが全て見渡せる。その向こうには同じく緑に包まれた山々も連なり、抜けるような青空と囀る鳥の声、サワサワと風が木を揺らす音が、より一層の趣を添えていた。

 

「そうや、確かここから先に進むと、恋占いで女性に大人気の地主神社があるはずやで。明日菜もやってみたら?」

 

 木乃香しては何とはなしに口にしただけだったのだが、恋占いというフレーズが、明日菜に衝撃を走らせた。

 

「そ、そこまで言うなら仕方ないわね。行ってあげようじゃないの」

「誰もそこまで言ってないわよ」

 

 いきなりそわそわとし出した明日菜の妄言をアーニャが切って捨てたが当の本人には聞こえていないようだった。

 

「ちなみにな、そこの石段を下ると有名な『音羽の滝』もあるで。あの三筋水は飲むと、それぞれ健康・学業・縁結びが成就するとか」

「縁結び!? さあ、行くわよみんな――!」

 

 続いた下に縁結びの神社があるという木乃香の言葉に、明日菜は外聞も気にせずに一行を先導し出した。まだ神社仏閣に未練たらたらのネギをアスカが引き摺りつつ、音羽の滝に向かって歩く。

 

「木で作った古い建物ってのが凄くイイ」

「ネギって結構ジジイ趣味よね」

「今に始まったことじゃないだろ」

 

 魔法具のアンティーク物の収集癖といい、アスカに襟首を掴まれて引きずられながら恍惚とした声で呟くネギにアーニャは呆れていた。

 ゆっくりと石畳を進みながら、風情ある鳥居を通って石畳を上がって縁結びの神で有名な地主神社に着く。

 

「目を瞑ってこの意志からあの石まで辿り着ければ恋が成就するらしいわ」

「ちょっと十メートルくらいはない!?」

「簡単に出来たら意味はないってことやで」

 

 注連縄を張られた岩が十メートル程の間隔を開けて置かれた『恋占いの石』があった。木乃香の言うことは尤もだと感じ取った明日菜が意気込む。

 

「行くわ」

「頑張って下さい」

 

 色気よりも食い気の方が先行している子供三人組が食い物屋に突撃して行ったのを尻目に、刹那の応援を背に受けた明日菜が目を閉じて歩き出した。

 目を閉じてしまうと世界は真っ暗に閉ざされてしまう。日の光が瞼を通して感じられるが自分から視界を閉じたので一寸先も見えやしない。もしかしたら見当違いの方向を歩いていて、壁にぶつかるかもしれないと思って自然と両手が前方を探るように伸びる。

 一歩、二歩と足を進めながら明日菜は真っ直ぐ歩けているかどうか不安で仕方なかった。

 

「明日菜、右に曲がっとるで」

「左に方向修正して下さい」

 

 このままでは辿り着けないと思った木乃香達のアドバイスに従って軌道を修正する。今の明日菜にとっては木乃香達の声が頼りだった。

 

「ちゃうちゃう、左に行き過ぎや」

「そうです。直りました。そのまま真っ直ぐ」

 

 恋占いの石に辿り着くために人にアドバイスを受けた時には人の助けを借りて恋が成就すると言われている。元より明日菜の味方である木乃香は常日頃からアドバイスをしているし、これからは刹那もその仲間入りを果たすだろう。

 二人のアドバイスに従って明日菜の足はようやく岩と岩の中間にまで辿り着いた。そこで異変が起こった。

 

「!? きゃあっ!?」

 

 踏み出した足が地面を踏み抜いて体を傾いていくのを感じた明日菜は悲鳴を上げた。

 咄嗟に目を開けた明日菜の目に見えたのは、地面に開いた穴とその底にいる新幹線にいたのと同じ両生類の大軍。完全にバランスを崩して如何な明日菜といえど、穴に落ちるのは避けられないタイミング。

 待ち受けるゲコゲコと鳴き喚くカエルの集団に、明日菜は一度は開いた瞼をまた強く閉じた。

 

(高畑先生!)

 

 助けを求めたのは愛しい人の姿だった。だが、高畑はこの場にいない。海外に出張すると前日に出発を見送ったばかりである。早めに海外から戻って来たとしても京都の観光地にいるはずがなかった。刹那が飛び出したが間に合わない。

 チャレンジを微笑ましく見守っていた観光客は驚く間もなく、明日菜が穴に落ちて行く見ているしかなかった。しかし、その運命は覆される。

 

「?」

 

 衝撃は訪れなかった。カエルの滑った肌が体に触れることもない明日菜は片手が引っ張られている感触に訝しがりながら、目を開けると穴の底で両生類達がゲコゲコと鳴いている。彼我の距離はまだいくらかあった。

 誰かが手を引っ張ってくれたお蔭で明日菜は穴の底に落ちずにすんだようだった。

 

「大丈夫か、明日菜」

 

 声の主を明日菜は知っていた。良く知っていた。一ヶ月以上共に住んでいる者の声を明日菜が聞き間違えるわけがない。落ちないように引っ張ってくれている手は明日菜より小さくても力強かった。

 

「アスカ、いいから持ち上げて!」

 

 目前にカエルがいる状況は精神的によろしくない。明日菜はアスカに引っ張り上げてもらうように頼んだ。

 

「へいへい」

「きゃっ」

 

 掴んでいる手は片手だった。何時ものように緩んだ声で簡単に引っ張り上げられた手の思わぬ力強さに、あっという間に穴から引き揚げられた明日菜はカエルの恐怖と穴に落ちたショックで腰砕けになって、そのまま引っ張られるままに倒れ込む。

 

「なにやってんだよ、ったく」

 

 倒れ込むかと思われた体を支えたのは、またアスカだった。

 掴んだままの手を持ちながら、明日菜の背をもう反対の方の手で支える。明日菜の体は地面から少し離れた所で支えられ、背というよりは腰辺りに手を回されていることで、まるでダンスの一シーンのような格好になってしまった。

 身長差の所為で近くなった互いの距離に、明日菜は間近に見るアスカの顔にポッと顔を赤らめた。

 

『お~』

 

 危機に陥った少女を救った素早さと鮮やかな手並み、そして刺激的な体勢へと移行するのを見た観客達が揃って歓声を上げて拍手する。三十㎝以上ある身長差の所為で姉弟にしか見えないはずなのに、ドラマの一シーンのような光景に誰もが二人は恋人であると錯覚した。

 これで最後に二人がキスでもすれば万々歳で終わるが生憎と明日菜の好きな人はアスカではなく、アスカにそのような空気を感じ取れとは無理がある。

 

「ほれ、起きれるか」

「え、あ、うん、大丈夫」

 

 あっさりと顔を離して明日菜を立たせたアスカの空気ブレイカー振りに、期待していた場の空気が霧散した。顔を真っ赤にして未だ忘我の境地のまま頷いた明日菜に、場は完全に流れて行ってしまった。

 ラブストーリーが始まる気配がないことを確認した観客達は散って行く。

 

「しかし、危ないな。誰だこんなところに穴を掘ったのは」

「そ、そうよね。誰がやったのかしら」

 

 まだ心臓がドキドキバクバクと鳴り響いているのを感じながら明日菜の視線はアスカの柔らかそうな唇に釘付けであった。その様子を後ろから見ていた木乃香がニヤリと笑ったのを隣にいた刹那は見逃さなかった。

 

「明日菜ぁ、顔真っ赤やで」

「うるさい」

 

 明日菜はもう一度儀式にチャレンジはしなかった。それが全てだった。ちょっと惜しかったなとか、ドキッとなんかしてないとか、あの唇を味わってみたかったわけじゃない、とか心中で言い聞かせながら明日菜は真っ赤になった顔をそれ以上見られないように彼方を見た。

 ニシシ、と面白い物を見たとばかりに笑って明日菜をからかう木乃香には同調できなかった刹那だったが、先のアスカの動きには驚嘆していた。間違いなくアスカは刹那よりも遠くにいた。にも関わらず、早く反応して明日菜の下へ辿り着いた素早さに驚く。

 穴の縁から底を見下ろし、拾った石を投げて式のカエルにぶつけて紙に戻しているアスカを見る。年下と思って侮っていた面もあるが、能力は未だに未知数であると認めざるをえなかった。急務として刹那には別で考えることがあった。

 

(この式、やはり関西呪術協会の手の者か)

 

 新幹線のみならず、この場所でも手を出してきたことを考えれば確定で間違いない。やっていることが悪戯レベルなのはこちらをイラつかせるのが目的なのか、それとも別の目的があるのか。一兵卒が精々な刹那には読み切れなかった。

 騒ぎを聞きつけて戻って来たネギとアーニャを見ながら、どうすべきかを考える刹那だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線に続いて二度目の悪戯が関西呪術協会の息がかかった手の者の仕業であるとの刹那の意見に、ネギ達は観光を切り上げて先に木乃香の家がある総本山へと向かうことにした。

 関西呪術協会の本山は、嵐山は桜や紅葉の名所である嵐山より少し離れた地点にあって清水寺から歩いていくにはかなり遠い。タクシーで行くには途中で襲われる危険性を考えると避けたい。最も人の目に付く交通手段はバスか電車。バスの交通網はそんなに大きくは無い。消去法で電車を選んで目的地を目指すことにした。

 昼時だったので途中で昼食を取り、昼も少し過ぎたぐらいの時間になった。道中予想された妨害もなく一行は無事に関西呪術協会の本山の入り口に辿り着いた。

 

「ここが関西呪術協会の本山か、でっけぇ」

「伏見神社に似てるかも」

 

 鳥居が何個も連なっている長い階段の下で、アスカとガイドブックを手にしたネギはその階段を見上げ、それぞれ感想を漏らす。

 関西呪術協会の本山の入り口は、如何にもといった様子だった。短い石段の先には大きな門が立っており、門の脇にある石碑に刻まれた名は『炫毘古社』と書かれている。

 小高い山が丸々敷地らしく、鳥居の後ろには鬱葱と生い茂った森を横断するように石畳の階段が伸びており、まるで人目から隠されているかの様になだらかな石畳の階段が終わるとひたすら奥へと道が続いている。その道を跨ぐように竹薮に囲まれた無数の朱色の鳥居で形作られたトンネルは、思わず吸い込まれてしまいそうに深く、長く、どこか別の世界へと繋がっているかと錯覚してしまうほどだ。辺りに人気は無く、風が吹く度にごおごおと不気味な音が辺りに響き渡る。

 興味本位で入ることが憚れるほどに、目の前の土地は異様な雰囲気を醸し出していた。一般人を寄せ付けないように人払いの結界が張られているためだ。それだけでなく妖怪悪霊の類を侵入させないための結界も張られている。

 

「うわー、何か出そうね」

「そんなことないで。十何年も暮らしててうちは全然魔法に気づかんかったし」

 

 おどろおどろしい光景に、ちょっと怯えていた明日菜。生まれ故郷故に悪く思われたくない木乃香が反論するも、現実は彼女をそういう異常や異形を彼女の父親である近衛詠春が近づかせないようにしていたと知っている刹那は苦笑した。

 

「行こうぜ」

 

 関西呪術協会も組織である以上は一枚岩ではない。新幹線や恋占いの石で妨害してきた術者もここに属する陰陽師と考えていている刹那が注意の一言も発する前にアスカが足を踏み出した。

 

「ちょっと待って下さい。途中で妨害もあったのですから、もう少し周囲を警戒しながらですね」

 

 足を踏み出したアスカを追いかけて刹那が走る。今の日本はアメリカの文化だけに留まらず、多種多様な文化が流れ込んでいる。裏の世界では魔法使いが分かりやすい凡例だった。

 西の関西と東の関東を二分した互いの組織の仲は決して良くない。

 古きを尊ぶ日本の文化を継承しようとする一派が関西呪術協会にもいて『東の魔法使い』を嫌っている。最近は和平の風潮が広まっているが、和平を求めている現在の長に対する対抗勢力は必然的に『東の魔法使い』を嫌っている。

 魔法使いであるアスカ達が木乃香を連れて訪問することは関西呪術協会内にも広まっていることが推測される。先の妨害の事を考えれば警戒して進んだ方が良いと刹那は言いたかった。

 

「この中なら周りの一般人の目はありません。襲撃に絶好の場所です。注意してしすぎることはありません」

 

 一般人に対してその存在を隠匿している関西呪術協会としては、白昼堂々と襲撃して、その姿を衆目に晒すと言うのはあまり褒められた事ではない。しかし、ここならば総本山の人払いの結界があるため、一般人の目を気にする事なく襲撃を仕掛ける事ができる。

 

「分かってるって」

 

 そう思ってアスカを注意するが当の本人の足は止まらない。本当に分かっているのかと言いたくなる衝動を抑えた刹那が静止するもアスカはどんどんと先へ進んでいく。

 

「なら、もっとゆっくり」

「大丈夫だって。襲撃があっても俺がぶっ倒すから」

 

 と、言いながらも自信満々な笑みを浮かべるアスカの足はさっさと進み続ける。

 吊られて動き出した一行の中でネギが刹那に顔を向けた。

 

「無駄ですって。アスカは襲撃があることを望んでるんですから逆効果ですよ」

 

 きちんと掃き清められた鳥居のある入り口を見つめるネギは神妙に頷くと、慎重な足取りで竹林の石段を進んでいくが台詞には半ば諦めが籠っていた。

 

「普段ならもう少し警戒ぐらいはするのに、私達がちょっと離れていた間になんか怒ってない?」

「うん、怒ってるかは微妙だけど行き場のない感情をぶつける相手を探しているみたいな感じがする」

 

 アーニャと首を捻り合っているネギの台詞に、刹那の目は自然と恋占いの石でトラップに嵌った明日菜を見た。二人の会話が聞こえてなかったらしい明日菜は刹那に見られて、何で自分に視線を向けられたのか分かっていない様子だったっが木乃香はバッチリと聞いていたようだ。

 

「愛されてるなぁ、明日菜」

「なんのことよ」

 

 少し猫なで声になっている木乃香を気持ち悪がった明日菜は更に首を捻っていた。

 

「二人とも互いに脈ありそうや」

「変にかき回さないで下さいよ、お嬢様」

「は~い」

 

 ズンズンと先を進むアスカに遅れないように足を進めながら、親友の恋模様に新たな波乱が訪れていることを喜ぶ木乃香を見て溜息を漏らした刹那だった。

 

 

 

 

 

 十分ぐらい緩やかな石段を登って幾つもの鳥居を潜り抜けたところで、黙って歩いていることに飽きた明日菜は思いついたように口を開いた。

 

「そういえば、木乃香の親ってどんな人なの?」

「なんやの、突然急に」

 

 その話は家族のいない孤児らしい明日菜のことを慮った木乃香が口に出すこともなかった話題で、明日菜も特段聞くこともなかったことだった。

 

「襲撃もないし、暇だなって」

 

 緊張感がないなと二人の会話を最後尾で聞いていて思った刹那だったが、予想された襲撃がないことに肩透かしを感を食らっているのは同じだった。

 

「んとな、お母様はうちを生んだ時に産後の肥立ちが悪かったらしくて死んでしもっとたらしいねん」

「…………ごめん、聞いちゃいけない事だった」

「ええよ。赤ん坊ことだったからよう知らんし、元々体の弱い人やったから覚悟してうちを生んだって話やから。この写真があればどれだけ愛してくれたか十分に分かる」

 

 項垂れた明日菜の頭を良い子良い子とばかりに頭を撫でた木乃香は、持っている鞄から一枚の写真を取り出した。

 明日菜に差し出された写真には、黒髪の女性が腕の中に赤ん坊を抱いて慈愛の瞳を向けている。その女性と赤ん坊を眼鏡を付けた優男風の男性が見つめていた。

 

「木乃香に似てる」

「うちが、お母様に似てんねん」

 

 クスッと、笑った木乃香につられる様に明日菜もまた笑みを浮かべた。そしてふと明日菜は、先頭を歩くアスカとその後ろを歩くネギが父親を探しているのだと以前に聞いたことを思い出し、二人の母親はどんな人なのだろうと疑問に思った。

 聞いてみようかと明日菜が口を開いたところで、アスカが前振りも無く突然立ち止まった。

 

「おかしい」

 

 習って足を止めた残りの五人の内、半分はアスカの言いたいことに気が付いたようだ。

 立ち止まって辺りを探っているアスカに変わってネギが刹那を見た。

 

「刹那さん、入り口から本山まではこんなにも歩くんですか?」

「本山までは結構な距離を歩かないといけないのですが、流石にこれはおかしいです。もっと変化があるはずです」

 

 行けども行けども本山にたどり着く様子が無く、延々と竹林に挟まれた石畳の通路が続いているのだ。どれだけ抜けている人間でも可笑しいと思う。

 子供の足といっても、十分近く歩いて目的地が欠片も見えないのはおかしい。襲撃者がいないか気を取られていたが、普通に考えてそんな不便すぎる土地に関西の魔法関係の総本山があるとは考えられない。

 

「景色が代わり映えしなさすぎるのよね。同じ場所を歩かされてるんじゃないかしら」

「そうなの? 全然気づかなかった」

「うちも」

 

 どっぷりとそちら関係に身を浸しているネギ達の間では違和感が強かったが、最近知ったばかりの二人にはそうでもないらしい。

 ネギ達はこの状況に一種の推測を立てた。推測を証明する手段をどうするか考えていたところで、アスカが一人で足を進めて行った。

 

「ちょっと待っててくれ。先を見てくる。三人は辺りの警戒と二人の護衛を」

「なら、私が」

「待ちなさい、刹那。これは流石におかしいわ。何かの罠かもしれない。そんな状況で護衛のあなたが木乃香から離れてどうするの」

 

 己の職分を全うしろとアーニャが諌めるが、もしかしたら内輪の問題かもしれないのに魔法使いである三人を巻き込むことは刹那には出来なかった。元より一人で抱え込む気質のある刹那は誰かに任せるよりも自分で行動した方が楽なのだ。

 

「ですが、私の方がここの土地勘があります。偵察なら私の方が適任のはずです」

「確かにそうね。でも、私達はあなたの力を知らない。反対にアスカのことは良く知っているわ。その上で言うわ。アスカに任せない」

 

 譲れない思いで睨み合う二人の後ろから、おずおずとネギが首を出した。

 

「あの、二人とも。アスカ行っちゃたけど」

「「え」」

 

 ネギが言う通り、睨み合っていた二人が視線を前に向けると鳥居の奥に進んでいるアスカの背中が随分と遠くなっていた。

 

「二人とも喧嘩はメっやで」

 

 木乃香の締めの言葉が場の空気を緩くした事実は否めないと苦笑を浮かべる明日菜。

 

「木乃香、二人は別に喧嘩してたわけじゃ」

「喧嘩してたのか?」

「きゃっ」

 

 木乃香に話しかけた明日菜は突如として後ろから湧いて出てきたように現れたアスカの声に飛び上がった。以外に女の子らしい可愛い悲鳴だった。

 

「あ、あれ!? 何でアスカが後ろから!?」

 

 心臓を飛び上がれながら振り返った先には前に向かって歩いていったはずのアスカの姿。

 前に向かって歩いて行ったはずのアスカが何故か真後ろにいるこの不思議と、触れるか触れないかぐらいの急接近に明日菜はパニックに陥った。

 

「前に来てたアスカが後ろに現れた。ネギ、上と後ろと横を試してみて」

 

 明日菜と違ってアスカの背後からの登場に驚くどころか半ば予想していたアーニャは腕を組んで何かを考えているネギを見る。

 視線を向けられたネギは頷き、杖に巻いていた包帯を解いて構えた。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風精召喚!!」

「本当の魔法やぁ」

「うわぁ」

 

 ネギが呪文を唱え切ると、周囲にネギの姿を取った風の中位精霊が四体現れた。身近な魔法使い達は三人とも碌に魔法を見せてくないので、間近で始めて見るファンタジーに木乃香だけではなく明日菜も目を輝かせた。

 

「行け!」

 

 ネギの命令に従い、集団を中心に散り散りになって四方へ飛び去る風精達。

 行く末を眺めているネギ達の視線の先で一定の距離で風精達が消え、向きを真反対に変えて出現する。風精は自分達が元来た道を逆走していることに気づいたかのように急ブレーキをかけた。

 

「やっぱり、一定空間内でループしてる」

 

 此処に至ってネギは自分達が罠に嵌ったことに気づいて役割を終えた風精を解いた。役目を終えて解かれた風精が風と成って消えていくのを木乃香が名残惜しげに見つめていた。

 

「無限回廊の魔法の類じゃないかしら」

「恐らく無間方処の咒法と呼ばれる種類の呪術です。私達がいるのは大体半径五百メートル程の半球状のループ型結界の内部。つまり、この千本鳥居に閉じ込められてしまっています」

 

 似たような魔法を知識として知っていたアーニャに、該当する呪術を知っていた刹那が訂正・補足する。

 説明する刹那の声音に、一段と重い響きが含まれる。無限回廊、即ち永久ループの呪法はどれだけ進もうとも永遠に同じ場所を回り続けるという破る術がなければ出られない質の悪いものだ。

 

「前に進むのも駄目、後ろに戻るのも駄目、横に行くのも駄目、上も駄目だとすると完全に手詰まりか」

 

 辺りを見渡したアスカが事態ほどには困ったように見えない軽い声が呟いた。その声に呼応するかのように、周囲の竹が風に撫でられ不気味に騒めいた。そんな一行を高みから見下ろす影が二つ。

 

「へへへっ、あっさり罠にかかったわ」

 

 竹林の影に隠れて一行を監視していた学ラン姿の少年は笑った。

 少年は笑いを収め、少し不満げに隣にいる着物を着崩した女を見た。

 

「罠にかけんのはええけど、なんでわざわざこんな面倒くさいことしなあかんねん」

「これも奴ら魔法使いへの嫌がらせや。小太郎は黙って従い」

 

 悪戯で満足している隣の女性の懐の狭さに、これでも恩人で家族になってくれた人なので協力せざるをえない世知辛さを感じつつ少年――――犬上小太郎は本音を喋ることを厭わない。小太郎は退かず媚びず省みない性格だった。

 

「正面からガツンといけばええやん。新幹線の時や神社でのことといい、千草姉ちゃんは一々やることがまどろっこしいわ」

「アホやな。表だって問題起こすのはマズいやないか。うちにも立場っちゅうもんがあんねん」

「十分、問題起こしてると思うけどな俺は」

「うっさい」

 

 ボカリ、と千草と呼ばれた女性に脳天に拳骨を落されて痛みに震えた小太郎は理不尽さに世を呪った。

 

「気を込めて殴るんは止めてぇな。頭が割れるわ」

「あんさんの石頭が悪いねん。気を込めんかったらこっちの拳が壊れるわ」

「俺の頭が割れるのはええんかい」

「か弱い乙女の拳で割れるわけないやん」

 

 理不尽な理由で殴ったことを反省もしていない千草を見た小太郎は、「俺は大人や。こんなことで怒らへん」と心の中で何度も自分に言い聞かせることで込み上げた怒りを抑える。昨今の女性上位が世論に押される男の気持ちが良く解った小太郎だったが、牙を剥いても勝てるビジョンが浮かばない相手には挑まない主義だった。

 千草の料理は上手く、野良犬生活には二度と戻れそうにない小太郎には言うことを聞くしか道は残されていなかった。それが胃袋を掴まれたている養われ人の辛いところである。

 

「うちはアリバイ作りするから、アンタは適当な時間で術を解きや。くれぐれもうちがアリバイを作れるまで待ってからやで」

「はいはい」

「はい、は一回」

「は~い」

 

 呼び出した蜘蛛の式神に乗って離れて行く女性を見送った小太郎は、まだ痛む脳天を擦りながら罠に嵌められた一行を見下ろした。

 その時、一行の中でこちらを見上げている一人と目が合った。

 

「強そうな奴がおるやんけ。思ったより遊べそうやんか」

 

 どこかの誰かと似ている精神構造をしている少年の頭からは、先の女性からの言いつけがあっさりと抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場に何時までも留まっている訳にはいかず、少し進むと鳥居の脇に時代劇に出てくるような和風作りの茶屋と自動販売機があった。明らかに怪しく罠かもしれないが、気を張りながら歩いて疲れている木乃香のことを慮って一行は一休みすることにした。

 

「ふぅー、一息ついた」

 

 縁台に座って自動販売機で買ったジュースに口をつけながら明日菜もようやく一息つけた。

 

「これはちょっとマズイわね」

「とにかく、まずは現状を把握してなんとか打破する方法を考えませんと」

「これって脱出するには結界の基点を破壊するしかないのかな」

 

 自販機があったので椅子に腰掛け、飲み物を買って飲みながら作戦会議を始めるネギとアーニャと刹那。西洋魔法、陰陽術の違いはあれど、結界を作る際には基点となる場所がある事に変わりはない。まずはその場所を探す事から始めようと考える。

 こういう場合、関わったばかりの明日菜と木乃香は話に加われない。黙って話の推移を見守るしかなかった。そこでふと明日菜は三人の話に加わっていないアスカが竹林の方を見ていることに気が付いた。

 

「でも、何処に基点があるんだろう……」

 

 ネギが言ったように問題はそこだった。半径五百メートル程ということは直径一kmになる。鳥居や柱、竹といった雑多にある中から基点を的確に探し出すのは不可能に近い。

 

「やっぱり、一番怪しい鳥居に基点があるんじゃないの」

「他にもないと壊すしかないのかな。壊したこと、後で謝ったら許してくれるといいけど」

「流石に長もそこまで非情な方ではありません。非常手段として認めて頂けるように私も掛け合いますので大丈夫です」

 

 周囲を見渡しながらアーニャが一番高そうな可能性を指摘すると、他に思いつかないネギが刹那の言葉に安心して鳥居を探ろうと足を運ぶ。

 

「おっと、そこまでにしといてもらうで」

 

 鳥居を探るというネギの行動を遮るように、その少年は唐突に現れた。年の頃はネギ達より少し上か、同じくらいといったところであろうか。頭にはニット帽を被って納まりきらずに溢れた髪を後ろで結んでおり、前を開いた学生服に身を包み、学ランの下には白いTシャツを着ている。

 

「生憎やけど此処から直ぐに出られるのは困るんや。つう事でちょっと遊んでやるわ」

 

 そう言って茶屋の屋根の上から飛び降りた少年は、鳥居がある通路に着地して拳を胸元に翳した。

 

「ようやく出て来たと思ったらやる気満々じゃねぇの、おい。罠仕掛けて高みの見物をしてた奴が偉そうだぞ」

 

 足を踏み出しネギを追い抜かして、好戦的に歪む唇をしたアスカは少年の存在に気づいていたのだと明日菜は分かった。恐らく、アスカのさっきの視線の先にはこの少年がいたのだ。

 

「はん、強い奴がいたら戦わないとあかんやろ、西洋魔術師。それに偉そうなのはお前の方や」

 

 二人は互いだけを見ていた。互いだけにしか眼中がなかった。同時に歩き、一足の間合いにまで距離を詰めたところで立ち止まる。

 

「おい、テメェの名前は」

「そっちはどうやねん」

 

 譲らない。どっちも譲らなかった。動作・口調共に相手への挑発を止めない。不倶戴天の敵であり、勝たなければならないライバルであると認識しているかのようだった。

 二人を見たネギが危機感を露わにした。

 

「ここは危ないです。下がりましょう」

「そうよ、珍しくアスカがマジだわ。巻き込まれた洒落にならない被害が出るわよ」

 

 鳥居の方に向いていた足を茶屋に戻したに言われるがままに明日菜達は下がらざるをえなかった。

 刹那としては関西呪術協会からの刺客と思しき少年の相手をアスカ一人に任せるのには気が引けたが、アーニャに強引に引っ張られてしまう。

 五人が下がった直後に、ピンと張りつめられていた糸が限界を迎えた。

 

「アスカ・スプリングフィールド」

「犬上小太郎」

 

 二人は同時に自身の名前を言い合い、膝を軽く曲げて腰を落した。

 

「「テメェを倒す敵の名前だ。憶えておきやがれ!!」」

 

 開戦の号砲を高らかに鳴らして、後に終生のライバルとなるアスカ・スプリングフィールドと犬上小太郎の戦いの幕が切って落とされた。

 飛び出したのは二人同時である。地面を勢いよく蹴りつけて、真っ直ぐに相手へと向かう。

 

「!?」

「へっ」

 

 初撃は、魔法使いであるはずなのに全く同時に飛び出したことに意表をつかれた小太郎の頬に拳をヒットさせたアスカに上がった。魔法使いは後衛でちまちまと攻撃するだけしか能がない臆病者だと思っていた小太郎に絶大な隙が生じたのだ。アスカはその隙を突いた。

 

「これで!」

 

 始まったばかりの戦いに早くも決着をつけんと、魔法を知っているだけで一般人と何も変わらない明日菜と木乃香の目にも分かるほどの強力な魔力の輝きが、振り上げたアスカの拳に灯る。

 可視化されるほどの強力な魔力に、頬を殴られて体勢を崩している小太郎はこのままでは自分が敗北すると予感した。

 回避は不可能。生半可な防御では持ちこたえられず、体勢を立て直す暇もない。

 小太郎は早くも切り札を切るべく、学生服のポケットに入っている数枚の呪符に気を通した。同時に、鉄腕の如き固められたアスカの拳打が放たれる。

 

「ハッ! 効かんわ、そんなん!」

 

 凄まじい突風がぶつかってニット帽を弾き飛ばしたが小太郎は無事だった。

 

「ちっ、障壁かなんかか」

「護りの呪符や。西洋魔術師と一緒にすんなや」

 

 衝撃で互いの距離を開けながら小太郎は体勢を立て直す。アスカも直ぐに追撃はしてこなかった。

 懐の感触から護りの呪符が全ておしゃかになったことを自覚しながら、殴られてジンジンと痛む頬に手を添えた。先の一撃で口を切ったのか、口の中が不快な錆びた匂いと味で一杯になり、ペッと口内に溜まった不快なモノを唾と一緒に血を吐き棄てる。

 僅かな粘性のある真っ赤な血が小さな音を立てて地面を跳ねた。吐き出す際に口元に流れた血を拭った小太郎が笑う。

 

「見立ては間違ってやなかった。お前は強い。やけどな」

 

 油断は確かにあった。だが、それよりも目の前の西洋魔術師が強いことを小太郎は認めざるをえなかった。 

 

「俺の方がもっと強い!」

 

 先に倍する速さで接近する小太郎にアスカの反応が遅れる。

 

「もらったぁっ!」

「ぐぅ!」

 

 アスカが咄嗟に反応して上げた防御の腕を掻い潜って左頬を強く打ち抜く。衝撃が貫いて、アスカが咄嗟に張った障壁も突破されて視界が急転し、石畳に勢いよくバウンドして右半身を強かにぶつける。

 

「へへっ、どや障壁抜いたで。今のは効いたやろ」

 

 歯を食いしばって立ち上がるアスカに小太郎は嘲笑を向けた。

 小太郎が千草の誘いに乗ったのは、西洋魔法使い相手に思う存分暴れたいという願いがあったからだ。いけ好かない西洋魔法使いを倒す事もそうだが、闘いを、特に強敵との闘いを渇望してやまない小太郎に願ってもないことだ。

 

「ハハハ、やっぱ西洋魔術師はアカンな、弱弱やチビ助」

「言ってくれるじゃねぇか、チビ犬が」

 

 その言葉が耳に届くと同時に、口元の血を拭っていたアスカは眉を吊り上げて怒りも露わに小太郎を見る。

 

「テメェ程度に負けるほど、俺は弱かねぇぞ!」

「弱い奴は俺に負けろやぁ!」

 

 共に入れた攻撃は一撃ずつ。相手を打ち負かす為にまた同時に二人は踏み込んだ。

 

「驚いた」

 

 目の前でバトル漫画のような展開が光景されている中で、ネギがぽつりと漏らした一言に明日菜も同意した。

 魔法使いは信じられない力を持っていると、初日にのどかを助けた手並みから予測していたが目の前で繰り広げられる戦いはそれ以上の衝撃を明日菜に与えていた。

 動体視力にはかなりの自信があった明日菜の目でも半分も攻防を捉えきれない。運動は苦手ではないが明日菜ほどに人間離れしていない木乃香などは、戦う二人の残影しか捉えきれていないようだった。

 

「まさか同年代でアスカとここまで互角に戦える奴がいるなんて初めて見たわ」

「そこっ!? 違うでしょ! ここは人間の動きを超えた戦いをしている二人に驚くところでしょ!」

 

 アーニャがしみじみと呟いた言葉に明日菜は突っ込まずにはいられなかった。

 

「なにを驚いているのよ」

「え!? ここで呆れられるのは私っておかしくない!?」

 

 分かっていないとばかりに呆れられて明日菜はもう一杯一杯だった。

 

「明日菜さん明日菜さん。僕達って魔法使いですよ? 普通の人間を超える力ぐらいは持ってますよ。ま、あの二人は異常ですけど」

 

 ネギは二人の戦いを意地でも見過ごさないとばかりに、目を皿のようにして明日菜を見ずに言った。

 移動しながらの乱打戦を行っている戦いは、ほぼ互角だった。魔法使いであるネギの目を以てしても全てを捉えることが出来ない。前衛系ではないので得意ではないと言ってしまえばそれまでだが、ネギが求めている境地を思えばそうも言ってられない。目の前の戦いから何かを得ようと必死だった。

 

「魔法使いってネギ君みたいに杖持って魔法で戦うもんなんちゃうの? 思いっ切り肉弾戦してるように見えるんけど、魔法使いってみんなあんなんなん?」

「あれは魔法剣士っていう分類のタイプです。普通の魔法使いは遠・中距離タイプですよ」

 

 大体戦闘スタイルは二つに分かれる。「相手が近寄れないようにして、遠・中距離の魔法で弾幕を張って撃墜」か、「自分自身の体に魔力等を付加して、身体を強化しての肉弾戦」だ。

 そしてネギのスタイルは前者の「魔法使い」で「魔法」を使用しての遠距離攻撃が基本だ。これは、呪文を詠唱する為にある程度の距離を稼がなくてはならないが故の「魔法使い」の戦い方として半ば必然的なものだ。詰まるところ。言い換えれば遠距離攻撃を凌がれ、呪文を唱える間もなく距離を詰められ、近距離攻撃を仕掛けられた場合、成す術が無くなってしまうのが「魔法使い」の弱点。その為に、前衛として「従者」の助けが必要不可欠になる。

 逆にアスカと小太郎のスタイルは見ての通り後者の「魔法剣士」タイプで近距離攻撃が基本だ。「魔法剣士」は近づいてなんぼのスタイルなので、ファンタジーに夢を持っているらしい木乃香の希望に添えるはずがない。

 

「狗神!」

 

 小太郎が叫ぶと足下から無数に狗を象った影が出現してアスカへと向かって駆ける。

 

「この程度でやれると思ったか!」

 

 左右から迫りくる狗神の群れを、アスカは足を止めて両手の裏拳で一体ずつ叩き潰し、前方への鋭い前蹴りで更に一体蹴り飛ばす。続いて背後に回りこんだ一体を見もせずに殴り飛ばして、時間差攻撃を仕掛けようとした残りの三体を力を溜めた拳の一撃で纏めて粉砕する。

 追撃を仕掛けようとした小太郎の出鼻を挫く瞬く間の出来事だった。

 

「強い強いでアスカ!」

「お前もな小太郎!」

 

 犬歯を剥き出しにして歓喜の声を上げる小太郎に、アスカもまた面白そうに笑いながらも止めていた足を進めて小太郎へと真っ直ぐに突っ込んで行く。二人の口角は吊り上がっている。闘いを愉しんでいるのだ。

 

「凄い……」

 

 本来なら止めるべき立場であるはずの刹那は目の前で繰り広げられる戦いに魅せられていた。

 正直に言えば二人の実力は刹那にまだまだ及ばない。

 二人とも我流の気が強すぎて、動きに粗が多すぎる。だが、目の前の二人は戦っている間にどんどんレベルを上げている。戦闘スタイルが近く、実力が近い者の同士との戦いで引き上げられているのだ。

 小太郎の、あの犬耳や狗神を使ったことから狗族とのハーフであることは察しがつく。妖怪やその類は総じて人間よりも基本能力が高い。犬上小太郎の能力の高さは半妖故との推察はついても、現在進行形で渡り合っているアスカの理由にはならない。

 

「がっ」

「ぐっ」

 

 互いの拳が顎に入って顔が跳ね上がる。

 しかし、次の瞬間にはそれすらも攻撃の予備動作であったかのように全力で相手に頭突きを叩きつけた。全く同時の頭突きに、見ているこちらが痛くなりそうな音が響いて、流石に効いたようでフラフラと二人の距離が開いた。

 

「痛ぇな!」

「こっちこそ痛いわ!」

 

 目の端に涙を浮かべながらも二人は戦いを止めようとしない。

 戦いを見ていて、刹那には一つだけ腑に落ちないことがあった。

 

「アスカさんは魔法を使わないのですか?」

 

 小太郎が狗神を使っているのに対して、アスカはさっきから距離が離れても一度も遠・中距離の魔法を一度も使っていない。離れてもその場合は必ず距離を詰めて、肉弾での攻撃を行っている。世間一般のスタイルとして認知されている魔法使いのスタイルとしては異例ではあるが、そもそも身体強化以外の魔法を使わないことの方が異様だった。

 

「使わないんじゃなくて使えないのよ」

「は?」

「アスカって遠・中距離の魔法が苦手で、発動までに時間がかかるんです。多分、小太郎君相手には致命的な遅れになるから敢えて使わないんだと思います」

「ようは使えないってことじゃない」

「言葉の意味が違うよ」

「日本語って難しいわ」

 

 アーニャの発言に目を丸くした刹那に補足するように、ネギが詳しい理由を説明する。近距離でしか攻撃オプションがないアスカと、たった今棒手裏剣を取り出して放ったように小太郎とでは手段に差がある。

 

「それじゃ、このままだと負けるんじゃ」

「助けに入った方がええんとちゃうの?」

「いえ、それはありえませんし必要ありません」

 

 不吉な予感に身を震わせた明日菜と木乃香の発言を、ネギは揺るがない自信を持って否定した。

 

「よく僕は天才だなんて言われますけど、本当の天才はあそこにいるアスカの方です」

「少なくとも私はアスカが同年代に負けるビジョンは思い描けそうにないわ」

 

 五人の視線の先では、足払いをかけた小太郎の一撃を自分から飛んで躱したアスカが手近にあった鳥居を蹴って防御の上から殴り飛ばしたところだった。

 

「ぬうっ」

 

 殴り飛ばした勢いもそのままに、アスカが猛攻を仕掛けんと迫る。迎え撃たんと小太郎が狗神を放つが、地面と平行になるほど身を沈めたアスカに躱された。

 このままでは小太郎の足に激突するかと思われたアスカが石畳に両手を突き、急ブレーキがかかった反動で足裏が跳ね上がった。足裏が向かう先は小太郎の顔である。大したダメージはないが顔を襲った衝撃によって小太郎の視界が一瞬だけ塞がれた。

 

「く……」

 

 視界を塞がれようとも気配でアスカの居場所を察知した小太郎は、倒立から腕だけでジャンプして落ちて来た踵落しを躱した。だが、次いで腹筋だけで体を折って放たれた拳までは避けることは出来なかった。

 首が横に捻られ、ようやく開いた視界にアスカの姿はない。やられる、と小太郎が思った瞬間に衝撃が走った。開いている小太郎の胴体に深々とアスカのボディーブローが突き刺さった。

 

「がっ、あ……かは……!」

 

 気を集中してある程度のダメージは緩和できたが、衝撃までは殺しきれずに小太郎の横隔膜に激しい衝撃が走って肺から根こそぎ空気が抜ける。

 アスカが先の一撃で身体が浮いた小太郎に向けて、空中にいるままギシギシと鳴らせた拳を間髪入れずに振り下ろした。容赦無く降り注いだアスカの拳により、小太郎はその身体を石畳を砕きながら沈み込ませた。

 

「…………俺、大勝利」

 

 砕かれた石畳に沈み込んだ小太郎を見下ろして、割とズタボロなアスカが手を上げて勝利宣言を上げる。

 

「ほらね」

 

 ネギが明日菜らを見るが、特に明日菜などは血を流して顔を腫らしたアスカを見て涙ぐんでいた。

 勝利に酔うように息を吐いてネギ達の下へ向かうアスカと、アスカの下へ涙ぐみながら向かう明日菜。アスカの前にやってきた明日菜は迸る感情を叩きつけた。

 

「この馬鹿っ! 勝つんならもっと早く勝ちなさいよ」

「小太郎は結構強いんだぞ。無茶言うなって」

「無茶も言うわよ。もう、ボロボロじゃないの」

 

 歩み寄って来るアスカに誰よりも早く駆け寄った明日菜は、流れている血を取り出したハンカチで拭う。

 

「痛ぇって。これぐらい舐めてれば治る。ネギ、いいから治癒魔法かけてくれよ」

「舐めてれば治るんでしょ。僕、いらないよね」

「お、おいって。じゃ、アーニャ」

「私ってば京都まで長旅で、ちょっと疲れちゃったみたい。今魔法は使えそうにないわ」

「なんだってんだよ、二人とも」

「こら、こっち向きなさい」

「へいへい。分かったから泣くなって。俺は大丈夫だからさ」

 

 ネギとアーニャにそっぽ向かれたアスカは、明日菜に言われて仕方なく血に塗れた顔を向けて拭かれるままに任せた。

 

「泣いてなんかないわよ!」

「イデェッ! もっと優しくしてくれ」

「あ、ごめん」

 

 ポロリと流れた涙に対する気恥ずかしさから手の動きが荒れ、痛がったアスカの言うことを素直に聞いた明日菜は赤ん坊を触るように優しく血が流れる傷を拭いていく。

 愛情すら感じさせる優しい手際を見た木乃香は深く頷いた。

 

「ん~、本当に脈ありそうやな。これは少し意外や」

「ですね。どこで意識したんでしょ」

「さっきの恋占いの石の時かな? にしては意識が早いし、土壌事態は前からあったんかもしれん」

 

 明日菜の変貌に驚きつつも、二人は事態を温かく見守ることにした。

 

「ま……待てやぁッ!!」

 

 突如として響き渡った怒声に、全員が振り返る。石畳に埋もれてもう動けないはずの小太郎がよろよろとしながらも懸命に立ち上がろうとしていた。

 戦意が消えていない小太郎の目に、勝利が確定したと思っていたネギとアーニャは眼を見張った。

 

「た……ただの人間にここまでやられたのは初めてや…………さっきのは……取り消すで…………アスカ……スプリングフィールド。だが……まだや! まだ俺は終わらへんで!!」

 

 小太郎が一言喋るたびに回りの空気が渦巻き、それに伴うかのように小太郎の姿がどんどん変わっていく。

 脱ぎ捨てられた学生服が舞い、シャツは小太郎自身の手で引き裂かれる。その下から現れたのは白銀の体毛で覆われた細く引き締まった獣の如き肉体。爪は伸び、黒髪は伸びて体毛同様白銀に染まり、髪に隠れていた獣耳は鋭角的な成長を遂げた。腕が太く、長くなっていき、足の形も獣の脚へと変化し、臀部からは犬や狐のような尻尾が垂れ下がる。その様は正に童話に聞く狼男と呼ぶべき姿で、放たれる力も先程よりも増していた。

 

「獣化!! 変身した?」

「がぁあああっ!!」

 

 驚く周りを余所に変化を終えると、雄たけびと共に獣人と化した小太郎はアスカに向けて拳を振るった。アスカは慌てて明日菜を突き飛ばすことは出来たが、格段にスピードを増していた一撃を避けることは出来なかった。

 

「がぁっ」

 

 アスカが殴り飛ばされ、何かの石碑にぶち当たってその身体が見えなくなった。突き飛ばされて距離が開いたはずの余波だけで明日菜の体が軽く宙に浮いていた。これほどの一撃を体に受けたアスカのことを思った明日菜の背に戦慄が奔った。

 だが、その戦慄を押し潰すほどの怒りが明日菜を支配した。相手が子供であるとか、自分を容易く殺せる相手だとかは関係ない。

 

「この……!」

 

 目の前の相手をぶん殴らなくては気が済まないこの激情の正体を、明日菜はまだ知らない。

 

「止めろ!」  

「…………っ!?」

 

 拳を振り上げた明日菜を静止する声。明日菜の眼前には小太郎の拳が止まっていた。声に止まったのか、それとも自分で止めたのか。もし、明日菜が振り上げた拳を止めなければ、後少し声が放たれるのが遅ければ、明日菜の顔は潰れていてもおかしくなかった。

 

「こっからが本番だろ。部外者に手を出してんじゃねぇよ」

 

 瓦礫を押し退けたアスカが体を起こした。その身体は傷ついているが、立ち上がった体にはまだ戦闘能力が残っている。へん、と笑った小太郎は明日菜を見て頭を下げた。

 

「悪ぃ姉ちゃん。つい、反応してもうた」

「下がっててくれ。ここは俺達の戦いの場所だ」

「あ……」

 

 痛む体を引き摺って小太郎の前に立ったアスカにかけられる言葉はなかった。明日菜は部外者だった。手を出す理由も、口を挟む理由も存在しないと思い知らされる。足が下がる。部外者と思い知らされた足は明日菜の意志に反して動いていた。

 

「明日菜さん」

「大丈夫、アンタ?」

 

 ふらふらと足が下がった明日菜を受け止めたのはネギとアーニャだった。

 

「下がるわよ。この戦いに私達が出来ることは何もないわ」

「アーニャちゃん」

「悔しくても我慢しなさい。我慢してるのがアンタだけなんて思わないで」

 

 アーニャの唇から血が流れていた。戦いの余波に巻き込まれたわけではない。自身で唇を噛み切った証だった。

 アーニャの視線の先で、戦っている二人は違う世界を作り上げていた。

 

「格好いいじゃねぇか、おい。それがお前のもう一つの姿か」

「はん、今まで誰にも見せたことのない奥の手や。存分に味わえ」

 

 遠かった。さっきまであんなに近くにいたアスカの姿が随分と遠くに見えた。自分はどうしてこんな遠い所にいるのだろう、と明日菜は思った。

 

「あれって狼男やんな。あれが小太郎君の本当の姿なんか」

「あれは彼が持つ狗族としての側面を表に出しただけでしょう。妖怪としての側面を面に出すことは消耗が激しいなどのリスクを背負う代わりに莫大な力を得ます。今までの彼と同じと思わない方がいいです」

 

 私のように、とは刹那は口には出さなかった。刹那は小太郎が羨ましかった。妖怪としての側面の姿を見たアスカは動揺の欠片も見せていない。それどころか格好良いと賞賛すらしてくれる。そんな相手に出会える幸運が刹那には羨ましくて仕方がなかった。

 

「やっぱお前は最高や、アスカ! だからこそ俺はお前に勝ちたい!」

 

 さっきは僅かな僅差でアスカが勝利したが、二人の力はほぼ拮抗していた。そこへ小太郎が獣人としての側面を面に出して能力を倍加させた相手に対して、アスカが勝てる道理はない。

 

「オラ、オラッ! 反撃してみんかい!!」

「ぐっ!」

 

 見えて反応出来ていても小太郎の動きに対応できず、展開している魔法障壁が衝撃を緩和してダメージを抑えているものの、拳のラッシュから逃げることができない。

 

「これはちょっとまずいかな」

 

 さして焦っていなさそうなネギに怒りをぶつけかけた明日菜だったが、目の前の戦いから視線を逸らすことは出来ない。

 風切り音が唸るように周囲に響き、幾つもの打撃音が明日菜の耳に入ってくる。アスカを殴り飛ばして岩に叩きつけると小太郎は彼の服を乱暴に引っつかみ、容赦ない拳打の嵐を見舞う。

 拳がアスカを捉える度に血が撒き散り、石畳を赤く染め上げていく。気によって強化された膂力が生み出す一撃一撃の破壊力は、容易く岩壁をも砕く程だ。それは魔力と変わらない。そして獣人になった小太郎の攻撃力は先の比ではない。 

 

「オラァァアアアア!!」

 

 小太郎は、攻撃の反動で背中を浮かせたアスカを鋭い回し蹴りで岩に貼り付ける。その衝撃にアスカの肺から強制的に空気を排出させ、もはや彼には意味の無い呻き声を出すしか出来ないでいた。もはやサンドバック状態だ。

 

「あ……う……」

 

 無数の打撃から蹴りへと繋がり、岩に背中をぶつけて意識を朦朧とさせるアスカを眼前に捉え、ここで決めるためにトドメの一撃を食らわせるべく小太郎は右腕を振りかぶる。

 

「勝ったで!! とどめぇ!!」

「アスカ!!」

 

 明日菜の悲鳴が響く中で、小太郎の大地を揺るがす力強い踏み込みで振るわれたトドメの一撃がアスカの顔面に肉薄する。意識が途切れかけたアスカは明日菜の声に反応したように自分から体を倒すことで、なんとかこの一撃を間一髪で躱した。

 

「っつは……」

 

 背後で岩を砕いた衝撃が背中を殴打しながらも、衝撃を利用して距離を取る。

 距離を取ったが立っていられなくて片膝をついた。小太郎は追撃に移らず、悠然とアスカを見下ろした。

 

「俺の勝ちや」

 

 高らかに小太郎が言い放つ。それは奇しくも先のアスカの勝利宣言の焼き写しのようである。ただし、違いを一つ上げるのならば見下ろされる者と見下ろす者が逆転していた。アスカもそれを理解しているので、悔しげに声を漏らす。

 

「…………やべぇ。このままじゃ、勝てる気がしねぇ」

「なんやと?」

 

 まるでまだ奥の手を隠しているようなアスカの発言に小太郎は訝しんだ。

 瞬間、ネギが持っている杖の先を揺らした。

 

「ネギ、頼む」

「分かった」

「なんや、今更加勢か」

 

 アスカが視線を向けたのはネギだった。

 ネギが歩み寄って来るのを見た小太郎は失望も露わにする。ここまで一対一の勝負であったのに負けそうになったら加勢を擁するなど、男と思えない所業に怒りすら込み上げていた。

 

「勘違いすんなって。戦うのは俺だけだ」

 

 小太郎の気持ちをこの場の誰よりも理解しているのはアスカだ。

 否定しながら近づいてくるネギを見て、痛む体を押して立ち上がり服の袖を捲り上げた。捲り上げられた右手の二の腕には、黒い線がぐるりと巻き付くように描かれている。刺青やその類の物ではない。これは制約。アスカにかけられたとある制約を課す為に縛られた鎖だった。

 

「底を見せていないのがそっちだけなんて思わない方がいいわよ」

 

 ネギが杖の先をアスカの二の腕に近づけていくのを見ながら、アーニャは高らかに言った。

 少年少女の余裕の証を今こそ解き放つ。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 制約の黒い糸よ ネギ・スプリングフィールドの名において汝が鎖を解き放つ」

「開」

 

 ネギが魔法を唱え、アスカが開錠の合言葉を口にすると変化が訪れた。アスカの両手と両足の間を繋ぐ鎖のような可視化され、一瞬の後に破壊された。

 

「うおっ!?」

 

 小太郎は思わず驚いた顔を上げた。鎖が破壊されたアスカの全身からバチバチと電気が放出され、この事態を予測していたネギは障壁を張りながら距離を取ったが小太郎はそうはいかなかった。

 小太郎の全身を静電気が弾けたような衝撃が襲い、直ぐにそれを発した原因であるアスカを見た。

 

「成程、それがお前の本気ってわけかい」

 

 アスカから発せられる魔力が倍化したことに、獰猛に笑った小太郎は目の前の男が生涯のライバルになることを予感した。

 

「俺って魔力制御が下手でよ。普段からネギに封じて貰ってんだ」

 

 バチバチと全身から紫電を撒き散らせるアスカは、調子を確かめるように拳を握ったり開いたりを繰り返す。

 

「これがネギ君達に余裕があったわけなんや」

「ええ、あの制約によってアスカの魔力は半分に抑えられ、同時に負荷もかけていたんです。一種の魔力養成ギブスみたいなもんです。あれを解いたアスカは強いですよ、今までとは桁違いに」

「ハンデをつけて戦っていたというのですか、アレで」

 

 刹那は今度こそ本当に戦慄を隠せなかった。今のアスカが放つ魔力は十全にして完璧。放たれる圧力は先の比ではない。先程の動きにこれだけの圧力が加われば、間違いなく数倍の戦闘力を発揮するだろう。まだ自分には及ばないなど、とんでもない。年下の子供に既に超えられているかもしれなかった。

 

「奥の手が使えるなら事前に使えばいいじゃない」

「そういうわけにもいかないのよ。さっき言ってたでしょ。アスカは魔力制御が下手なの。自分で自分の全開を抑えきれないからネギが封印しているのよ。下手な相手に全力でやったら殺しかねないわ。あの状態じゃ、手加減なんて出来ないのよアイツ」

 

 不満そうな明日菜にアーニャは仕方ないのだと鼻から息を吐いた。その目は決着をつけようとしている二人へと向けられていた。

 

「次で決着をつけようぜ」

「お互いに限界のようやしな、ええで」

 

 双方共にダメージが深く、互いに放てるのは後一撃のみ。単純なダメージならアスカの方が大きく、火事場の根性で無理に変身した小太郎にも無理が祟っていた。相手の状態を理解しているからこそ、二人は後一歩の距離まで歩み寄った。

 

「手加減なしの一撃や」

「恨みっこなしの一撃だ」

 

 同時に腰を落し、必殺のフィニッシュブローを放たんと拳に力を集める。

 

「雷華――」

 

 アスカは戦闘の中で攻撃魔法を放てない魔法使いとしては見習い以下の未熟者だ。未熟者だからこそ、自分に出来ることと出来ないことを弁えている。

 戦いに関することは別にして、アスカは魔法使いにも関わらず魔法が得意ではない。魔法学校で教わる唯一の攻撃魔法である魔法の射手すら思うように十全に扱うことが出来ない未熟者だ。誘導や追尾は下手だし、発動して一定時間待機させておくことも出来ない。発射の遅さも致命的で、まともにに出来たのは打撃に乗せて放つことだけだ。だからこそ、たった一つ出来たたことを極めた。

 魔法の射手・雷の一矢を拳に乗せることだけ。何度も何度も繰り返し、本来ならば乗せる本数を増やすことで威力を上げるという不文律を覆して、至高の一を作り上げた。己の愚直さを貫き通し、遂には師の背中に追いついた男の技。普段はテレて口が裂けても絶対に言わない男への憧れが、この技には込められていた。

 

「狗音――」

 

 小太郎の狗神は物心ついた時から共に在った盟友であり半身である。

 物心ついた時、小太郎には親がいなかった。捨てられたのか、それとも放逐されたのか。少なくとも数年前にとある人に出会うまでは、小太郎の世界は自分と狗神達かそれ以外で二分されていた。

 自分と共にあるのは狗神達だけ。幼き頃に魂の奥底まで刻み込まれた認識は、大切と思える家族が出来ても変わっていないのかもしれない。狗神達と共にある自分に敗北はない。究極の多の前に、他の全ては雑多な小へと成り下がる。

 

「――――豪殺拳!!」

「――――爆砕拳!!」

 

 雷華豪殺拳(至高の一)狗音爆砕拳(究極の多)がぶつかり合って全てを呑み込んだ。

 二人の激突地点を中心として数メートルが閃光に包まれ 衝撃が吹き荒れてネギ達がいる場所にも瞬く間に到達する。

 

「ネギ!」

「任せて!」

「私も!」

 

 ネギ・アーニャ・刹那が一般人と大差ない二人の前に出て障壁や護符を張った。打撃技とは思えない衝撃がぶち当たった三人が張った防御が軋ませる。

 

「きゃあっ」

 

 耳を劈くような金属音のような嫌な音が辺りに反響して響き渡り、粉塵が舞い上がって辺りを覆い尽くす。明日菜と木乃香は耳障りな音に慌てて耳を押さえて咄嗟の反応で目を閉じた。

 

「ふぅ」

 

 数秒後、ネギが安心したように息を漏らしたのが合図だった。

 三人が同時に防御を解き、「風よ」と辺りを覆い尽くしている粉塵をネギが吹き払った。

 

「へへ……」

 

 風が吹いて木の葉が舞った後に立っていたのは、たった一人だった。

 二人が最後の一撃を放った辺り数メートルが石畳を破壊しつくして素の地面を抉ってクレーターを作っている。そのクレーターの底で一人は倒れ、一人は立っていた。

 

「やっぱ俺の勝ちってな」

「…………今回は、負けを認めたる」

 

 ズタズタのボロボロだったが、地に伏している小太郎と違ってアスカは立っていた。

 

「また()ろうぜ、小太郎」

「言うたな。その言葉、覚えとれよ。次は負けへん」

「はっ、次も勝つのは俺だ」

 

 勝者は敗者に手を貸さない。

 敗者も勝者に手を求めない。

 対等である為に、対等であるからこそ、手を伸ばすなんてありえない。

 

「ぁ……」

 

 見ているだけしか出来なかった神楽坂明日菜は、幼くとも誰よりも誇り高い二人の姿に体に震えが走るのを抑えきれなかった。その身体を、その心を、視線に先にいる少年が掴んで離さない。

 あそこへ行きたい、あそこへ追いつきたい、あそこへ並びたい。自分を見てほしい。自分を知ってほしい。自分に触れてほしい。でも、明日菜にはあそこへ行ける手段が、まだ(・・)なかった。

 




始動キーのまともな案が出ないとか、どれだけアスカは脳筋なんだ。

小太郎、特に千草は性格は変わっていませんが色々と弄りまくっています。原作通りと思わない方がいいかと。


ぶっちゃけエヴァンジェリンは闇の魔法無くても強いよね?
ありでナギやラカンと同クラスだとしたらそれはそれで矛盾が。なしでも同クラスならぶっちぎりの最強キャラになる。


未だに始動キーが決まりません。案を一杯頂いたのですが、どうにもしっくっりとこなくて、まだ決まらない。どうしよう……

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