魔法先生ツインズ+1   作:スターゲイザー

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ちょっとおかしくなったので前二話を構成し直し、6000字近く追加。



――――過去を知り、現在に至り、君は何を望む?



第91話 過去の先へ

 

 

 

 

 

 そしてまた場面が変わる。

 荒れ果てた山野で二人の男が戦っていた。

 一人は傷だらけの赤髪の男、もう一人はボロボロのローブを纏う小柄な少年だ。

 彼我の実力差は殆どない。肉体の成長もあって大戦期よりも強くなったナギと、紅き翼の一員であるゼクトの肉体を奪って使用している造物主。

 

『まだ諦めぬかっ……! 滅びを先延ばしにしようとも何も変わらぬというのに!』

『諦められるわけねぇだろうが!』

 

 周辺の地形を物理的に変えながらも戦う二人は叫び合う。

 

『ここでテメェを斃せば問題に一応のケリはつく!』

『魔法世界の滅びはなんの解決もしていない!』

『だとしても、俺の子供(ガキ)達が戦いに巻き込まれる可能性は低くなる』

『それだけの理由で!』

『何と言われようともそれだけで十分だっ!』

 

 世界よりも私情を優先することに苦渋の感情を滲ませながらもナギは一度決めたことをやり通そうとしている。

 

『貴様も所詮は俗物かっ!』

 

 両者の狭間には破滅的な力が渦を巻き、真っ向から互いを相克せんと鬩ぎ合っている。

 やがて決着はつく。ナギの拳が造物主の腹を貫いた。

 どう見ても致命傷の一撃。しかし、苦し気な顔をしていたのはナギの方だった。

 

『すまねぇ、お師匠……』

『………構わん。だが、これでは』

『分かってるさ』

 

 腹を貫かれた体に謝ったナギに意識が表に出て来たゼクトが許すも、これから起こる現象を止めることは出来ない。既に因果は成立しており、造物主の固有能力が発動している。

 そこへ一度は退けられたフェイトが傷だらけの体を押して現れた。 

 

『何故だ、何故だナギ! 君には答えがあったんじゃないのかっ!』

 

 ゼクトの体から抜け出した魂が自らを殺害した者の精神を乗っ取ろうと離れた。

 

『答えなんてねぇよ。でもさ、俺の後に続く者が現れて答えを出してくれるかもしれねぇじゃあねぇか。その為に未来を守るんだ!』

『今を守ったところで何も変わらない! 君がしているのは現状維持だ。それでは魔法世界は救われない!』

 

 体の内側、精神に異物が潜り込む違和感に吐き気を覚えながらナギは完全に乗っ取られるのを少しでも遅らせる為に必死に耐える。

 

『そうかもしれねぇ。だけどよ、今が無理だからって明日が出来ねぇとは限らねぇだろ?』

『可能性では誰も救われない! 』

『救われるさ。少なくとも俺のガキ達が大きくなるまでの時間は稼げる』

『っ!? やはり君も他の俗物達と何も変わらなかったのか!』

 

 造物主と同じことを言うフェイトに苦笑が浮かぶのを止められず、そうしている間に準備を終えたアリカが術式を展開する。

 

『子供の未来を守るのは親の役目であるぞ』

『アリカ王女!?』

『すまねぇな、アリカ。お前まで』

 

 造物主の固有能力――――報復型精神憑依を防ぐことは今のナギ達には出来なかった。

 造物主が肉体を奪うためには、クリアしなくてはならない条件があった。

 ポテンシャルや能力が劣る肉体であれば何の問題もなく奪えるのだが、一定以上のレベルの相手には、激しく消耗させるか致命傷を負わせるかして、相手を極限状態にまで追い詰めなければならない。

 ゼクトの肉体を奪った造物主の戦闘力は二十年前を越える。メンバーが欠けている紅き翼では対応できないかもしれない。だからこそ、消極的策として封印を選んだ。

 

『これで良い。一時だとしてもあの子らが危険から遠ざかるのならば』

『認めない…………僕はこんな結末を認めないぞ!』

 

 これで良い、とナギとアリカは生まれたばかりの子供を残して戦いに望んだのだから。

 封印は結実し、場面は強制的に終わった。

 暫くは闇の光景が続く。正確には視界が利かず、所謂精神の世界だけが広がっていた。

 

『――――』

『――、――!』

『――っ!』

『――――! ――――』

『――――――――』

『――――っ』

『――!』

 

 封印されても閉じた世界での精神活動は続いている。

 その中ではナギが望んだように造物主との対話が行われていたが結果は芳しくない。二千八百年もの長い年月の間に凝り固まった思想が、対話を繰り返しても数年程度で翻るとはとても思っていない。

 封印は特定の条件が揃わなければ解けない。後の人生を引き換えにしてでも、何年かかっても説得するつもりだったナギの精神世界が突如として揺らいだ。

 

『――、――!』

『――――』

『――!』

『――っ!』

『――――! ――――』

 

 造物主ではなく仮契約のパスを通じて外の世界にいる誰かと話をしたナギは決意したような意志を発する。

 

『―――――――』

『――――、―――――――――』

 

 この精神世界を支えているアリカもナギに同意する。

 二対一でも徐々に浸食されているというのに、ここでナギが動けば僅かな拮抗すら崩れることを意味する。それでもナギは動くことを決意してアリカも賛成した。

 そしてまた場面が切り替わる。

 精神を繋げたアリカに造物主の精神を引き受けてもらうことで、一時的に仮初の自由を手にしたナギが転移してから目を開けると、そこには地獄が広がっていた。

 

『これは……っ!?』

 

 出現した場所は万が一を考えて転移術式を仕込んでいた村外れの山の頂上。ナギの主観では数日前までアリカの出産の為に滞在していた故郷の村が焼かれていた。

 記憶の中では変化らしい変化もなくて、退屈を嫌って魔法学校を中退してまで飛び出した村が夜の闇を染め上げんばかりに燃え上がり、闊歩する大量の悪魔達の姿もあって地獄としか言いようのない光景が広がっていた。

 

『っ!? あれは――!』

 

 村の中で極大の魔力が突如として湧き上がる。知らないようで知っている、どこか馴染みのある魔力の持ち主に思い至ったナギは飛んだ。

 一飛っびすれば村の直上に到達したナギは直ぐに魔力の持ち主を視認する。

 ナギは目撃する。地に伏した金髪の少年と守るように立つ赤髪の少年に向けて、ナギでも油断ならない一撃を放とうとしている上位悪魔を。

 

『させねぇっ!』

 

 虚空瞬動と浮遊術の併用で振り下ろされる死神の鎌に割り込む。

 上位悪魔の拳を受けた衝撃と上空から下りて来た勢いもあって地面に足がめり込むが、目の前に立つ悪魔が背後にいる少年達――――覚えのある魔力と容姿から彼らが自分の息子達と察した――――を躊躇なく殺そうとしたことにブッツンしていた。

 

『テメェ……』

 

 高まり続ける魔力に拳を受け止めた障壁がバシッバシッとスパークし、新たな演者が登場したことでまだ終わらない状況に悪魔が哂う。その笑みがまたナギの怒りを誘った。

 

『人の息子達に何やってんだオラァアアアアアアアアッッッ!!!! 来たれ、虚空の雷、薙ぎ払え!―――――雷の斧!! ぶっ飛びやがれ!!!!』

『ぬおっ!?』

 

 頭の中が激発しようとも英雄とまで呼ばれた男の戦闘術理が狂うことはない。無詠唱で発動した魔法の射手で悪魔の拳を弾くと、雷の斧の詠唱をして得意のコンビネーションへと繋げる。

 英雄の怒りの一撃を諸に受けた悪魔は真っ二つにされ、存在の核を失ってこの世界での現界を保てずに消滅していく。

 悪魔の完全消滅を確認して子供達に振りむこうとしたナギは敵の増援を察知する。

 瓦礫を踏みしめる音が連鎖し、現れたのは恐らく僅かに召喚されたであろう爵位級の上位悪魔の一体。その後に続くのは、村を襲った大小、形も様々な異形の者達。

 辺りには悪魔が集結している。背後にいる二人から絶望の気配を感じ取ったナギは自信満々に『大丈夫だ』と言い切った。

 

『お前らに指一本触れさせやしねぇ。安心して待ってな』

『あ……』

 

 ナギに救援は恐らく来ない。多勢に無勢、しかもこちらには時間制限付き。

 それでもナギは笑う。

 英雄としてではなく、魔法使いとしてではなく、ただの父親として戦えるこんな状況がナギに力を与えてくれた。

 爵位級の上位悪魔が片手を上げる。上位悪魔の合図に呼応するように、視界に映る殆どの悪魔が男性に向かって一斉に襲い掛かる。その数、十'82笂\'82ナはきかない。百や二百、もしかしたら千に達しているかもしれない。

 

『あっ、危な――』

 

 後ろの少年達の存在がナギに無限の力をくれた。

 

『オラァァァアアアアアア!! 俺の息子達に手は出させねぇぞ!』

 

 その雄叫びの直後、意識が断絶する。

 気が付いた時には悪魔を撃ち滅ぼし、屍の山の上で上位悪魔を縊り殺していた。

 記憶はある。自分が何をしていたかを覚えている。なのに、していたことに実感がない。まるで誰かが自分の体を使っていたかのような。

 

『これが共鳴りか……』

 

 徐々に自分が自分で無くなっていく感覚。造物主の固有能力を甘く見ていたつもりはないが、もう残り時間はそれほど残されていないのだと自覚する。

 

『何故じゃ、何故今更になって現れた!? 答えろ――』

 

 声が聞こえてそちらを見ると見覚えのある老人と記憶よりも成長した少女がいた。主観では数日も経っていないはずなのに咄嗟に名前が出てこなかった。それほどに浸食が進んでいるのだと気づいた。

 

『答えろ、ナギ!!』

 

 残された時間は長くない。まだ周りは燃えており、この場で話すのは危険だったから村から連れ出した。

 連れ出した場所はナギが転移して来た村外れの山の山頂。村を一望できる場所だから焼け野原となった村を見るのは苦しかった

 

『すまない、来るのが遅すぎた……』

『帰ってきたのは良い。この子達を助けたのはお前だ。だが、タイミングが良すぎる。ナギ、お前は何を知った? いや、それはいい。今まで何をやっていた』

『…………すまねぇ、スタンのおっさん。詳しくは言えねぇんだ。ただ、俺は――』

 

 真実を告げるわけにはいかない。大戦の裏側も魔法世界の秘密も何一つ伝えることを許されない不実にナギは頭を下げるしかなかった。

 

『――――勝てなかった。失敗したんだ』

 

 端から勝機があって決戦を挑んだわけではなかった。未来に希望を託す為に、せめて子供達が大人になるまでの時間を稼ぐ為のものだった。

 なのにこの有様はなんだ、とナギは自身を罵倒する。

 あれだけの悪魔を召喚するともなれば、かなりの組織力が必要となる。となれば、一番に怪しいのはアリカを謀殺しようとした元老院だが、少なくともナギが覚えている限りでは、これほどの無謀な行動に出るような議員はいなかったはずである。

 未来に託そうとした自分の決断は誤りだったのだろうかと、自信が服を着ているとまで言われた男の口から弱音が零れた。

 

『お父さん、なの?』

『…………お前。そうか、お前がネギか』

 

 そんな中で近寄って来た子供が赤髪をしていたから直ぐにネギであることに気付いた。

 記憶の中で赤ん坊だった子が大きくなった姿に感慨を覚えながら刺激しないように一歩ずつ距離を縮め、ぎゅっと目を瞑ったネギに恐る恐る頭に触れる。

 

『怪我、ないか?』

『う、うん』

『そうか。すまねぇな、来るのが遅れちまって。あっちの金髪はアスカか。今、三歳ぐらいか。二人とも大きくなったな……』

 

 ネギの髪の毛の質はナギに良く似ていた。意識のないアスカの方にも触ってみたかったが、流石にこれは我儘すぎるだろうと自重する。

 もう二度と会うどころか、触ることすら出来ないと思っていたので子供の頭に触れただけなのに大の大人が泣きそうになる。

 

『悪いな、怖い目に合わせちまって』

 

 赤ん坊の頃しか知らないから力加減が分からない。悪魔を倒すことは簡単でも子供を撫でることの方がナギにとっては百倍も難しい。

 

『何も残せなかった俺達を許してくれとは言わねぇ。憎んで、嫌って当然だ。俺達は親としての務めを果たせなかったんだからな』

 

 これは遺言になるか、と思いもしたが、もうこのような非常手段を取ることは出来ないのだから言いたいことを言うことにした。

 

『お前達にこの杖と、このペンダントを形見として渡す。これでも魔法発動媒体としては最高級品だ。本当ならもっとマシな物が何かあったら良かったんだがな。こんなものしかなくて勘弁してくれよ』

『あうっ』

『ははは、少し大きすぎたか…………くっ、もう時間がない』

『え』

『この馬鹿者が! またこの子らを置いていく気か!?』

『悪い、スタンのおっさん。ここに来るのにもアイツらにかなりの無理をさしてんだ。俺にはどうしようも出来ねぇ』

 

 封印を維持しているアルビレオと負担を肩代わりしてくれているアリカがもう限界だった。ようやく名前を思い出せたスタンが駆け寄ろうとするが、また意識が途絶するようなことがあればネギ達が危ない。もう時間はない。

 

『この子達のことを、頼む』

『っ、……大人になっても馬鹿なところは変わっておらんのか。ああ、任せておけ! お前とは違ってまともな大人にしてみせるわい!』

『なら、安心だ』

 

 意識が断絶と接続を繰り返す。一瞬でも気を抜けば持って行かれてしまいそうな浸食に抗いながら為すべきこと為す。

 

『まったく、無茶しやがって。もう危ないことはすんじゃねぇぞ、アスカ。ネカネも迷惑じゃなければ二人の面倒を見てやってくれ。アイツの面影があるアスカにはネギよりも多くの苦労があるかもしれねぇが』

『は、はい。でも……』

『すまねぇが、何も教えてやれねぇんだ。悪いな』

 

 ネカネの傍に歩み寄り、アスカの顔を良く見ると男女の差異はあれど懸念は当たってしまったのだろう。無茶をするのは自分似だなと思いながら意識を失って瞼を閉じているアスカの口から垂れる血を拭い取って、首にペンダントをかける。

 名残惜しげに立ち上がったナギは浮かび上がりながら、ネギとアスカを同時に視界に収めて名残惜しそうに目を細めた。

 

『大きくなれよ。俺よりも、アイツよりも。ずっとずっと大きな男に』

『お父さん?』

『こんな事言えた義理じゃねぇが、二人で喧嘩せずに元気に育て。幸せにな!』

『お父さぁ――っん!!』

 

 そんなことしか言えない自分に嫌気が差しながらも、追いかけて来てくれるネギにそう言うことしか出来なかった。耳に残るネギの叫び声が何時までも残響していた。

 そしてここへ辿り着いた。まるで、何もかもが悠久の時間に押し流された果ての光景のように、真っ白に塗りつぶされてなにもない空間に。

 

「―――――来たか」

 

 直に聞こえる野太い声が薄れかけた意識を揺り動かす。

 

「アスカ……」

 

 次いで突如かけられた女性の声がアスカの名を呼ぶ。

 

「ぁ……」

 

 何を不思議に思えばいいのだろう。その声は誰なのだろう。分からない。思いつきもしない。その声を聞いても誰の顔をも浮かばず、何も感じない。本当にそうか、と耳を塞ごうとする自分に問いかける。

 少なくとも、ただ一つ言えるのは声を聞くだけで何も考えられなくなっていることだった。ゆっくりと振り返る自分を第三者の視点で俯瞰するアスカがいた。

 声に導かれるようにゆっくりと振り返った先には二人の男女がいた。

 二人の事を知っている。この心が、魂が、体に流れる血潮の一滴まで知っている。

 ローブを纏った一人の男がいた。燃えるような赤毛、強い意思を感じる瞳。その容貌はどこか野性的で、それでいて粗野では無い荒々しさを備えていた。

 ふわりと風に靡くような裾の長い服を着た一人の女がいた。太陽のような金髪。誰かに似ている青空の瞳。どこかアスカに似た容貌を優しい穏やかな笑顔で染めていた。

 総督府で開かれた舞踏会を中座して特別室で、幻想空間を利用した映写装置でクルト・ゲーデルに見せられた「父と母の物語」の主役とヒロイン。男は千の呪文の男(サウザンド・マスター)ナギ・スプリングフィールド。女は災厄の女王アリカ・アナルキア・エンテオフュシア。分かり易く言うと、アスカの両親である。

 

「不思議に思うか? こんな形で出会うのを」

 

 奇跡のように現れた身内の顔を前に、ナギは微笑していた。

 

「封印を解かれた場合のことは当然考えてあったんだ。最初に身体に接触した相手の精神に干渉する術式が組み込んであった」

 

 反対にアスカはなにも言わず、警戒と戸惑いが入り混じる生硬い瞳を向け続けた。自分を凝視している目、鋭利なくせに、どこか湿って見える瞳が、アスカをその場に縫い付けて離さずにいるのだった。

 

「まさか息子が最初の接触者だとは思ってもみなかったがな」

 

 ゆっくりとだが激しい言葉を紡ぐ声には確かな感慨と、こうなってしまった結果に対する皮肉がふんだんに込められていることだけは伝わってきた。

 

「…………ここに辿り着いたお前には期待している」

 

 一度閉じられた瞼が開いた後、ナギの瞳がじっとこちらを凝視している。その表情はひどく落ち着き、豪放磊落な雰囲気は微塵も無い。

 目を逸らすことなく目を背けることなく、真正面から真正直に。

 

「期待?」

「我らには出来なかったことを成し遂げてくれるのでないかとな」

 

 本当は自分達で成す筈だったのに我が子に託さなければならなかったことが悔しかったから、少しだけ言葉を継いだアリカの表情に苦いものが混じった。

 

「ふざけるな!」

 

 何故かその叫びは縋りつくような態度に思えた。小さな子供が泣きじゃくっているようだと自分でも思った。

 期待を押し付けるだけの勝手な言い草に激昂して、アスカが強く握り過ぎた手から血を滴らせる。血がポタポタと感情と共に身体が出て行く。痛みも血も精神世界にいる以上、現実ではそうなるだろうという思い込みの産物に過ぎない。

 どうして自分はこんなにも怯えてしまうのだろう、と思いながら虚勢を張らずにはいられなかった。

 

「なんだよ、何年もいないと思ったら急に現れて…………謝罪の一言も無しに期待してるだって? 調子が良すぎる」

 

 これまで零れないよう懸命に保ってきたコップの喫水線が、遂に超えられてしまった気分だった。だから、今ここで素直に黙っていたら今まで積み上げてきた全てが崩れるとも思った。

 乾ききり、罅割れた少年が抱えてきた恨みへの残酷な解答が目の前にある。アスカが怒りを杖にし、恨みの元凶に罵声を浴びせたとしても何の文句があろう。

 

「調子が良いことは分かっておる」

「だけどな、アスカ。お前はここにいる。他の誰でもなく、アスカ・スプリングフィールドがここにいるんだ。ここに来たのなら責任を果たせ」

 

 本物の親の愛情を間近で感じたことのない子供の当然の憤懣を受けて、アリカは理解を示しながらも自分が手前勝手なことを言っている自覚があったから陳謝するように瞼を伏せる。反対にナギは柔らかい口調で諭すように言いながらも強い目がアスカを射抜く。

 

「責任ってなんだよ。俺は親父達のことを知る為に魔法世界に来ただけで、英雄だなんて呼ばれたのも偶々だ。こんなところに辿り着いてしまったのも偶然でしかない。仮に英雄だなんて呼ばれるのも英雄の親父達がいるからだ」

 

 憤怒の炎は我が身を焦がしそうなほど猛り狂っていた。ナギに対してだけではない。もっと漠然とした。この不条理で理不尽な世界そのものに対する憎悪や憤りが、言葉という形で一気に噴出していく。

 望みの為には世界を背負うしかなくて、割に合わないことこの上ない。

 今まで無意識に心の奥底に押し込めていた不満が甘えられる捌け口に向かって一気に噴き出した。

 アスカにとっては二人が世界を救ったという事実は遠い世界の出来事であり、言うなれば両親である二人は物語の中の人物でしかなかった。彼は偉大だ、とナギの偉業を知る者達は口を揃えて言う。知っている、とその度にアスカは思っていた。

 世界を救ったことは知っている。理解もしているし、凄いとも感じている。でも、アスカはずっと思っていた。

 

「俺は英雄の親なんて欲しくなかった。俺が欲しかったのは――――俺が、欲しいのは――――」

 

 喉が痞えて言葉にならない。堪えくれなくなってきつく目を閉じる。閉じた目の奥が熱い。

 アスカは思わず拳を握り締めた。

 腹が立って、腹が立って、なのに、自分がどうしてこんなにも怒っているのか分からない気持ちをずっと抱えて来た。

 

「英雄じゃなくて当たり前の親でいてほしかったんだ」

 

 なんてことはない。英雄も女王も結構だ。肉親が偉ければ誇りに思わないことも無い。だけど、それよりも近くにいてほしいと思っていたのだ。

 

「すまねぇとは、思ってるよ」

 

 ナギは光だ。そこに存在するだけで太陽のように世界を照らす存在なのだと、彼を目の前にして思った。

 影の内側、闇に属して、そうした感情を抱いた、或いは抱かざるを得なかった人間をこそ、さっと照らし出す。闇が深ければ深いだけ、思いがけないほど激しく、強い陽射しとなって残酷なほどに罪を浮き彫りにする。

 

「でも、それとこれは無関係だ」

 

 理解を示した上でナギは無関係と言い切った。

 

「アスカ、お前はお前の中にある目的の為に世界を巻き込んだんだろ。他人を巻き込んでおいて責任転嫁するな」

 

 英雄と呼ばれる苦しさをアスカよりも知るからこそナギの声音はこれまでにない烈しさで燃えていた。

 この精神世界の繋がりでアスカは造物主の始まりとこれまで、そしてナギの記憶を垣間見た。それは同時にアスカの記憶もまたナギ達は見たのだろう。

 

「甘えるな」

 

 アスカが戦うことを選んだ個人的な理由を知った上で、ナギはハッキリと言い切った。

 

「俺は、そんなことは……」

 

 心臓にちくりと痛みが走る。負傷の痛みではない。拳で胸を押さえ、アスカは呟いた。

 

「勘違いするな。英雄だなんだなんてこの場には関係ない。アスカに資格があるとか、判断に特別なものがあるわけでもない。俺のこともアリカのことも関係なく、この場所にいる以上はお前がやらなければならないことがある」

 

 親子だの血筋だの、所詮は生物学上の定義だと思っていた。僅かな時間で父を父と認め、遺された言葉に縛られもする。理屈ではないし、感情的な問題でもない。親子という面倒で強靭な血の力。

 この場所に立っていることに関して、ナギは血は全く関係ないのだと言い切る。

 

「恨むだろうな、アスナは。お前も俺達を恨むだろう。なにもしてやれずに、こんな重荷まで背負わせてしまう。だが、今はこうなった運命を呑み込むしかない」

 

 殴られたから殴り返し、殺されたから殺す。際限のないループを終わらせようとしている造物主は正しいのかもしれない。結局、ナギ達では戦いの連鎖を終わらせることが出来なかった。臨むことは皆、同じはずなのに。平和を、幸福を求めて、何故人は丸きり逆の方向へ走り出してしまうのだろう…………。

 人々が真に求めるものがそれだとしたら、造物主が求める世界は最上の選択なのかもしれない。

 

『―――――……なんで戦うの?』

 

 まだアスナが明日菜となる前、ナギは彼女に戦う理由を聞かれたことがあった。

 その時は造物主を倒し、遥かな過去からアスナと魔法世界を雁字搦めに縛っている「世界の秘密」をぶっ壊すことで彼女を助けると答えた。

 だが、自身はぶっ壊すことかけて超一流でも、世の中にはそれだけでは収まりがつかないことがある。終わらなかったどうするのかと問うてきたガトウに答えた言葉を、ナギは今でも覚えている。

 

『後の誰かがどうにかすんだろ』

 

 自分がやったようにきっと同じ事をする人間が現われる。当時は根拠も無くそう思っていた。

 

(それがまさか自分の息子になるとは思わなかったけどな)

 

 現実時間で十年前の完全なる世界との決戦で、造物主との戦いは決着は痛み分けに近い敗北だった。二十年前よりも強かった造物主相手にこの結果は上々であっただろう。ただ、生まれたばかりの息子達を残してしまったことだけは心残りだった。

 だから、六年前に封印場所がバレる危険を冒してまで襲われている村に助けに向かった。

 護った希望の種子は育ち、ナギの足跡を辿ってここまで来た。

 

「明日菜を救うためにここまで来て、そしてその先へと進む。その気持ちに偽りはないか?」

 

 再び確かめる目が注がれる。アスカは、心臓が一つ大きな脈を打つ音を聞いた。

 動悸が早まり、脇の下に汗が噴き出す。直ぐには声も出せず、戸惑う目を向けるしかないアスカを正面に見据え、「もう一度だけ聞く」とナギは静かに呟いた。

 

「明日菜が背負っているものは重いぞ。真実を知った上で、それでも明日菜を救うことを望むか?」

 

 ナギの警告は痛みを和らげてはくれなかったものの、胸の重さだけは取り除いた。同時に胸の中で凍り付いてた感情が溶け、熱を放ちながら喉元に突き上げてくる。

 

「前にも同じことを言われたよ、タカミチに」

 

 麻帆良祭の武道会での高畑と試合でアスカは『君は明日菜君を背負えるか』と問われた。それだけではない。明日菜が背負っているものは重く、世界の重みを引き受ける覚悟があるかと聞かれている。

 

「俺はその時、背負えるかどうかは答えなかった」

 

 その時のアスカは拳を握っただけだ。覚悟を、問いに対する返答が出来なかった。

 世界なんてものを実感できなかったし、実感できないものに対する覚悟なんて持てなかったからこそ、ただ思ったことを口にした。

 だけど、その時に握った拳に嘘はない。そして世界を背負う重みを知り、言える言葉は一つだけ。

 

「世界程度の重みがなんだ。俺は、明日菜と一緒にいたい」

 

 虚栄だろうが胸を張って拳を突き出して宣言する。

 

「そうか……」

 

 その時、ナギが浮かべた笑みは苦笑でも嘲笑でもない、誇らしさに少しの哀しさが入り混じった満足げな笑み。

 

「英雄だとか何だとか、偉そうな名前ばかり付けられて、でも結局俺達には出来なかったことを頼む」

 

 ナギは己の舌でも噛み切るような口調で、そう言った。

 

「託すことしか出来ない俺達を許してくれとは言わねぇ」

 

 正直に言えば息子が自分達の跡を継いでくれることが嬉しくて悔しい。自分の想いを継いでくれるのが我が子で嬉しい。こんな苦しいことを我が子に継がせなければならないことが悔しい。二重の想いがナギを支配していた。

 

「世界を、明日菜を頼む」

 

 実の息子に、その言葉を告げねばならないことを、死ぬほど後悔するような表情で。

 他に選択肢はない。アスカはここに辿り着き、過去を知って、ナギの前を進んでいく。

 

「勝手すぎる」

 

 元より、もうアスカに選択肢はない。

 仮に明日菜と魔法世界を見捨てて稼働中のゲートを使って逃げても一生悔いが残り続ける。第一、ここで逃げたら、それはもうアスカ・スプリングフィールドではない。

 

「今更、勝手すぎる。今まで何もしてくれなかったあんた達が、一番傍にいて欲しい時にいてくれなかったあんた達に俺の何が分かるって言うんだ……」

 

 それでもまだ一度激発した感情が完全に収まったわけではない。吹き荒れる感情の嵐に心を乱され、アスカは突き放そうとした。

 

「ああ、そうだ。叶うならずっと傍にいたかった」

 

 ゆったりと微笑み、ナギは右手でアスカの左頬に触れ、反対からアリカが左手でアスカの右頬に触れる。その感触は優しく、温もりを伝えきろうとする指先は、無二の肌合いをもってアスカの熱を共振させた。

 

「願うならば、この場所に立つのは他の誰かでほしかった。こんな苦しい選択を思いをお前にさせてたくはなかった」

 

 込み上げる感情が言葉を作り、アスカは口を開きかけたが二人の頬を撫でる手が震えているのに気付いて言葉が封じられた。

 

「俺達は魔法世界よりもお前達の未来を守ることを優先した。こうなってしまったけど、世界を質にしたって釣り合うものじゃねぇ。この世でたった一つの宝石」

 

 どんな傑物であっても、脆さを持った人であることに変わりはない。失う痛み、背負うことの重み、同じ人間として、男として、少しは現実を学んだ今なら、その不完全さをも含めて同じ目線に立って彼らの苦悩を肯定できる。

 

「こんな苦しい立場を子供に背負わせたいなんて親なら思わねぇ。俺達だってそうだ。せめて、二人が大人になるまでは戦いに巻き込まれないように願ったのに」

 

 ナギは父として毅然とした目で、アリカは母として慈愛に満ちた目で微笑んだ。優しく暖かい瞳が、じっとアスカを見つめている。

 

「許されるならずっと傍にいたかった」

 

 母は泣いていた。アリカの目から、大粒の涙が零れ落ちている。

 一度は生を諦めようとした己の内から生まれ落ちた子が何よりも大事だった。その為に傍から離れてでも戦うことを選んだのは決してアスカを自分達と同じ修羅の道を辿らせる為ではない。

 

「大きくなって成長していくのを傍で見ていたかった」

 

 そう言って何かを堪えながら包み込むようにアスカを抱き締めたアリカの声音は、暖かく優しい。抱きしめてくるアリカの手は、思っていたよりずっと細かった。寄せられた体は想像以上に小さく、そして心地良く、温かい。 

 

「母、さん……」

 

 その感触は優しく、温もりを伝えようとする指先は無二の肌合いをもってアスカの中の熱を共振させた。一瞬でも触れた感触から安心できてしまう。映像の記憶に残っていなくとも懐かしいと肉体と魂の記憶が感じてしまう。

 ネカネやその母とも違う。母親。子の全てを受け止めて、子にあらゆる愛を無償に注ぐ絶対の存在。

 

「大きくなってくれて嬉しい。その言葉に偽りはない。それでも」

 

 囁くようなアリカの声が心に響き、やがてその声は、春の日差しが名残雪を溶かしてゆくように、アスカの心の中にあった塊を溶かしていった。押し固めていた感情の塊が腹の底で溶け、視界がじんわりと滲んだ。

 

「一緒に色んなものを見て、色んなことを感じて、嬉しいことも、悲しいことも、家族で分け合っていきたかった」

 

 ゆっくりとアスカはアリカの体に手を回し、か細い背中を抱きしめてしまう。

 

「それでもお前達に俺達の負債を押し付けたくなかった。戦いなんてない、穏やかな日常を過ごして欲しいと願ったのだ」

 

 生まれた時から英雄と災厄の女王の因果を引き継いでしまった子供達。

 過去から続く呪いの連鎖を自分達で断ち切るのだと決めて、生まれたばかりの二人を置いて戦いへと赴いた。

 負ける可能性も十分に考えた。それでも戦ったのは、例え家族が一緒にいられなくても我が子達を守りたかったから。叶わぬ願いと分かっていても決して諦めたくはなかったから。

 二人が戦ったのは世界でもなんでもない。

 例え世界中の人間を巻き込んでも、例え自分の子供達が成長していくのを見ることが出来なくても、例え家族が揃って笑い合う事が出来なくても、望んだのは生まれたばかりの子供達が幸福に暮らせる世界だったのだから。

 これだけ多くの人を巻き込んでしたことが何てことのない私情だった。 

 

「ありがとう。生まれてくれて、今まで生きてくれて…………ありがとう…………」

 

 子供に嫌われようと誰に疎まれようとも構わない。親とは、ただ子供の未来を作り出す。世界はそうやって受け継がれてきた。

 アリカの言葉に、心にあった大きな何かが消えたような気がする。ずっとアスカの心を縛り付けていた、目には見えない鎖が、今、断ち切られた。

 

「我らの我侭を、身勝手を許して欲しいとは言わない。それでも――――明日菜を、世界を頼む」

 

 アリカが縋るようにアスカを見つめた。それは心から我が子を案じる親の姿だった。

 蟠っていた不安や怒りが溶け消えてゆく。

 

「……………」

 

 込み上げる感情が一つの言葉を形作り、アスカは口を開きかけた。頬を撫でた指先がそれをやんわりと封じると、ゆっくりと二人の姿が薄れていく。

 ゆっくりと二人が薄れていく。行ってしまう。もっと聞きたいこと、話したいことが沢山あるのに、行ってしまう。麻帆良祭の時と同じように。

 

「任せろ」

 

 世界を託されるなど、とてもではないが重すぎる。本来なら動転して取り乱すべきところだが、今のアスカは少し違った。

 普通の人なら生涯に一度あるかないかという非常事態。悪夢のような状況に対しても何度も経験したことで耐性が出来たのか、もう恐れはなかった。奈落に突き落とされるような不快な感覚に慣れる事はないが。

 

「世界中の誰もが許さなくても俺が許す! 頼まれなくたってやってやるさ。これはもう、あんた達だけの戦いじゃない。俺の戦いでもあるんだから」

 

 薄れゆく二人が驚いたようにアスカを見た。

 

「もっと頼れよ。アンタ達の…………親父と母さんの息子はそんなに柔じゃない」

 

 獰猛で、野蛮で、荒々しく、上品さの欠片もない自信過剰で、何時だってみんなの先頭を走り続けたナギそっくりの笑みを浮かべて宣言する。

 

「宿命だか運命だか知らないけど、踊らされてやる」

 

 まるで他愛無い親子喧嘩の後、両親と仲直りをすることを込めた子供のように無邪気に笑って宣言する。

 

「アンタ達がやり残した事を継いでいく」

 

 アスカは自分の手の平を見下ろした。

 薄い皮が張り付いているだけの鍛錬で硬くなった手の平。こんな手で世界の重みを引き受けられるとは思えない。でも、明日菜に触れることも、細い体を引き寄せて互いの体温を伝えあうことは出来る。

 

「俺もまた道半ばで倒れるかもしれない。でも、その時は俺の想いを継いで誰かが立ち上がってくれる。今ならそう信じられる。次へと続けていく為に」

 

 アスカの内側から溢れ出ようとする感情と、幾万もの言葉とが絡み合い、熱をも帯びて彼の心身を焼き尽くそうとする。だが、アスカは畏れなかった。

 

「俺が、アンタらのやり残したことを終わらせてみせる!」

 

 英雄と災厄の女王の血を継いだ者の因果と言われればそうかもしれない。でも、アスカはしがらみや義務に駆られてここに辿り着いたわけじゃない。もっと単純で力強い原始的な衝動に駆られて行動したに過ぎない。

 ずっと堰き止められていた水が流れ出した。

 

「「――――、」」

 

 二人の口から言葉も出ない。視覚がないといえど、幾度呼ばれることを夢見たことか。

 父母と呼ばれたのは、それが初めてだった。当惑と、ふつふつと沸いてくる喜びのあまり、ナギは思わず口をへの字にした。

 そんな父の仕草にアスカが本当の意味で初めて笑った。

 

「後を、頼む。我らも共に……」

 

 重すぎる肩の荷が下りたという表情を浮かべて、もう一度微笑むと消え入るようなか細い声で二人は告げて消えていく。

 呪いは引き継がれた。祈りもまた引き継がれた。

 

「感じる……」

 

 瞳を閉じると、召喚魔の高い戦闘能力と奔放で無秩序な戦いぶりに、魔法世界人達は劣勢が強いられているのを感じた。誰も彼もが追い詰められていた。

 脳を騒めかせる戦場の感覚。夢ではない。これは現実だ。刻々と霞が晴れてゆく頭の中に確認しながら覚悟を決める。

 

「多くの命が消えていく」

 

 状況は絶望的だった。だが、アスカは諦めない。戦う人がいる限り、アスカを希望して信じてくれる人がいる限り、どうしてアスカの膝が砕けることがあるだろう。

 孤狼の叫びのような小太郎の叫びが、創造主からの操り糸から脱して魂を輝かせるフェイトの意思が、多くの意志の断片が雪のように染み渡っていくのを知覚した。

 命の温かさが切れていく感触。それらが降りしきる雨の粒の鋭さと同じに突き刺さってきてもアスカに迷いはなかった。アスカを傷つけるものから守ろうとしてくれるものがいたからだ。

 強張った手の平に視線を落とす。失われてはいない。腕も、痺れる骨身も、間違いなくこの意識と共に在る。握り締めた手の平の感触を確かめる一方で、確かな両親の愛がアスカを守っていた。

 

「やってやる。やってやるさ」

 

 アスカの眼差しから希望は消えない。

 

「見守っていてくれ…………親父、母さん」

 

 指先が掌に食い込むほどに強く拳を握って、小さな、しかしハッキリした声で言った。

 

「次へと繋ぐために、今度は俺が希望を示す番だ」

 

 心が絶望に蝕まれないように、憎しみに引き摺られて為すべきことを見失ってしまわないように。目を開けて前に視線を移したアスカは、細く鋭く息を吸って駆け出した。過去の先へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その理不尽は唐突に現れた。

 突如として湧き上がった閃光がエヴァンジェリンを拘束していた造物主にぶち当たり、その隙にネギが助け出して距離を取った。

 戦いの場に割り込んできた閃光を放った主を見て一瞬、誰もが呆けたように動きを止める。

 この場において、無敵を誇った造物主に隙を生み出すほどの力を誇る者は誰だろうか。そんな奴はいない。いるはずがない。いてはならない。しかし、それなら、何故と疑問だけが積み重なる。

 疑問がやがて苛立ちとなり、それが混乱にまで育つおりも僅かに早く、答えは出た。

 木乃香の視線の先に、一人の男が立ち上がっている。

 

「アス、カ君………?」

 

 木乃香が呆然とした声で呟く。目の前で起きたことが信じられないという顔だった。

 まさかと思う。あまりにも出来過ぎのタイミング。素晴らしい登場。だけど、それがひどく彼には似合っている。何時だってそうだった。まるで整えられた舞台の出来事のように彼はそこに立つ。その奇跡を前にして涙で視界が霞んできた。

 

「あははははは………………」

 

 木乃香は目元に涙を浮かべて無意識に頬を抓っていた。都合のいい夢だったら今度こそ絶望だが、幸いにも頬は痛かった。

 同時に全身に残る傷の痛みも思い出す。治癒魔法をかけてもらったが内側に痛みが残っている。今更思い出したように痛みがサイレンを鳴らしていた。動けない。どれだけ痛みを堪えようとも痺れてしまった手足はまるで動かない。立ち上がれない。もうこれ以上は何も出来ない。

 だから、目の前で信じられない光景が広がっているのを、ただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 ここだけが世界から切り離されているようにも思えた。彼の立つ場所こそが、奇跡の一幕のようだった。

 しっかりと自分の目で見据え、目の前の光景を現実のものとして受け止めようとしていたのだが、何もかもぼやけてしまっている。涙腺が壊れてしまったのか、涙が次から次へと溢れ出てきた。

 木乃香はそれを拭うことすら出来なかった。いや、拭うことすら忘れていた。

 これまでのもとは明らかに涙の意味が違った。こんなにも流したい涙があったのかと、驚いてしまうほどだった。彼女は自分の中から込み上げるものに逆らわず、大粒の涙を零しながら、ただ目の前の奇跡を見つめながら口を開く。

 

「奇跡や……」

「それは違う」

 

 間違いなくアスカだと分かる声が鼓膜を震わせて即座に否定する。

 アスカは知っている。絶望的な戦力差だった。それでも誰もが闘った。戦って戦って戦い抜いて、今、この瞬間まで耐え続けてきたのだ。巨大で理不尽な相手を前に一歩も退かずに。 

 誰もが彼から目を離せなかった。

 誰もが彼の事を忘れられなかった。

 

「みんなが戦ってくれた。絶望的な戦力差だった。全てを諦め、投げ捨てたとしても誰にも責めることは出来なかっただろう。だがみんなが戦ってくれた。戦って戦って戦って…………今の今まで耐え続けてくれた。だから……」

 

 光の中から彼は木乃香へと顔を向け、物語の中の勇者のように、神話に語られる英雄のように鮮烈に君臨して更に告げる。

 

「だから、俺は帰ってこれた。これは奇跡なんかじゃない。確実にみんなが齎した、当然の結果だ」 

 

 金髪に青い目を輝かせ、アスカ・スプリングフィールドは力強く頷いてみせる。今まで以上の覇気と力を漲らせる姿に、木乃香の内部から感情が溢れ出してきた。

 

「アスカ……」

 

 エヴァンジェリンを救出したネギがアスカの姿に瞬きも忘れて瞳に映していた。ひどく久しぶりに見るような気がした。今のアスカは、どうしようもない運命のレールとやらを軽々と飛び越える象徴のように見えたのだ。

 これがアスカ・スプリングフィールド。これが英雄。何か特別なことをする訳ではない。ただそこにいるだけで、ただそこに立っているだけで、悲劇を回避し誰かを救おうという願いが形になったような存在。

 ネギ・スプリングフィールドが憧れ、求め、嫉妬した弟。ああ、この場にアーニャがいればどれだけ心強いだろうか。

 

「遅いよ」

「悪い、寝坊しちまった」

 

 今、ネギはその弟と共に立つ。

 長い道のりを歩み、己の力を究極にまで高めた二人が並び立ち、今は敵となった父の肉体に巣食う造物主を睨み付ける。

 

「決して勝てぬと知りながら尚も抗うか、我が末裔よ」

 

 複数の世界最強クラスの戦士達を同時に相手しても圧倒的な強さを見せつけた造物主は、抗うことを止めぬ自らの末裔二人を視界に収めて重い口を開いた。

 

「約束しちまったからな。勝つぜ」

 

 言いながらアスカが一歩前へと進む。

 

「力の差ぐらいがなんですか。今まで戦ってきた中では僕達より弱い人の方が少なかったぐらいですよ」

 

 続いてネギも大きく足を前に出してアスカに並ぶ。

 誰にも二人の背中を止められない。その背中に追いつけない。距離が離れているわけではないのに、しかし感覚において永遠だった。強いのではない。恐いのではない。鋭いのではない。重いのでもなく速いのでもなく凍るでもなく熱いでもない。

 遮るもののない強い魔風に曝され、二人のスプリングフィールドは勇猛に、ただ神のみと相対するかのように前へ進む。

 

「アデアット!」

 

 アスカが取り出した仮契約カードから呼び出されたアーティファクト『絆の銀』の片方を取り外しネギに渡して、二人は互いの左と右の耳に一対のアーティファクトを装着する。

 

「「合体!!」」

 

 瞬間、まるで磁石に引かれた砂鉄のように二人の体が引き寄せられ、接触すると辺りを圧するほどの光が迸った。

 光が晴れた時、地上に太陽が現れたかのように熱が迸る。

 太陽かと思える熱の発信源は一人の男。ネギとアスカの両方の髪型や髪の色、雰囲気が混じり合って一つになって生まれたネスカは、知性と野生という矛盾した要素が同居した静かな瞳で造物主を見ている。

 

「また古臭い道具を引っ張り出したものだ」

 

 荒れ狂う風を鬱陶し気に見つめながら、純白のオーラを放つネスカを見据えた造物主は視線を返す。

 ネスカは何もしていない。ただ立っているだけで全身から引っ切り無しに大量の力が漏れている。

 あまりにも膨大な力は純白のオーラのような形となって視認できるレベルにまでなっている。空気にまで感染した力は、空気中で弾けて火花が散っている。何もしていないのに彼の周囲の地面が崩れ、石は勝手に砕け散っていく。

 傍から見る木乃香にすれば桁外れの、まさに人外レベルの力の保有量だ。絶大なる力を具現しながらもどこか温かい波動を放つその姿を目にして、神様が現れたような錯覚を覚える。強く在ることは、それだけで美しいのだと、その時初めて実感した。

 かくして幾つもの諦めと絶望に満たされた空気を切り裂いて、ネスカが拳を握って造物主の元へと歩いていく。よくある勧善懲悪の、予定調和の英雄譚のように。幾つもの神話で描かれる超常的な神や天使による救済のように。

 

「父母と同じように我に挑んでくるか」

 

 眉間に深い皺を刻んだ造物主がナギとは似ても似つかない暗い瞳で二人を見据える。

 どん欲なまでの大量のマナを飲み込んでゆく。風が渦を巻くように、太陽道を使うネスカへと集中してゆく。

 ネスカは黒の存在を真正面から睨みつけていた。一切の揺るぎ、一切の怖気、一切の迷いを断った強力な眼光を、ただただ真直ぐに差し向けていた。

 

「さあな、ここまで来たら答えなんてわかってるだろ」

 

 声とさえ呼べぬ聲が、殺意が、空間を這い回る。何というおぞましさ、何という妖しさ、何という恐ろしさか。

 揺らがぬ不動の瞳は、もはや同じ人間のものと捉えるのも難しい。降り積もった時間そのものが喋っているような、この世の外から聞こえてくるような声音を耳にしながら、造物主の問いに小揺るぎともせずに答えるネスカの顔から、能面のように表情が消えた。

 全身の筋肉は適度に緩み、余計な力が籠もった場所はどこにもない。その一方で精神は凍えた湖水の如き静謐の鏡となって、周囲一体の全景を映し出している。聴覚より鋭く、視覚より明確に、一切の死角なく、どんな些細な動きがあろうと即座に見抜く短針に自らを変える。

 

「何時の世も、人の歴史は戦乱と共にある。人が争うのは、もはや覆しがたい宿命なのだ。愚挙の極みといえる戦争。人は愚かさ故に自ら破滅の道を歩み、互いを傷つけ、殺し合う。この救い難い者たちのために、何故貴様は戦う?」

 

 造物主は、自問自答でもするように問いかけながらも、その言葉一つ一つに最上の憎悪を込められていた。

 

「人間が人間である以上は、決して平穏など訪れぬ。完全なる平安はあり得ぬのだ」

 

 人は安楽な方へ流れる。自分の力で運命を切り拓き、幸福を掴むことは実に難しい。もしそれが、誰かの言いなりになって叶うというなら、自分の頭で考えることも、判断して放棄してしまうものだ。

 

「だから全てをゼロに戻して作り直すと?」

「そうだ。それ以外に道はない」

 

 二人の間の空気が、ビリビリと帯電しているようだった。見守ることしか出来ない木乃香達でさえ、凄まじい内圧に身体の震えを押さえるのが精一杯だった。

 

「未来がどうなるかなんて誰にも判りはしない。大切なのは守るべきものを守りたいという自分の気持ちだ。俺はこの気持ちに添って命をかけることに、なんら迷いはない」

 

 例え造物主にどんな事情や思惑があろうとも、ネスカは怯むわけにはいかない。

 自分が敗れれば、全ては終わり、魔法世界は完全なる世界と置き換わる。そんなことをさせはしない。自分で決めたことを貫くために、挫けることは許されない。

 争い続けることが、ヒトの宿命なのか。これが種としての限界なのか。

 違う、とネスカの心が叫びを上げる。

 ネスカは信じる。ヒトは断じてそんな存在ではないと。例えこれまで人の世に争いが絶えた試しがなかろうと、この戦いは定められた運命なんかではないと、自分達の拳には自身の戦いの結末を変える力があると、ネスカは信じている。

 毅然と造物主を見据え、想いの丈を述べる。

 

「俺は信じているんだよ。変えられると」

 

 ネスカが告げると、造物主は口を横に広げ、その端を吊り上がらせた。笑ったようにしか見えないが、どこか笑みとは違うその笑みで、否定の声を上げる。

 

「お前は全てを守れるほど強くはない………いや、そんな強者はそもそもいない。そのような思い込みこそが絶望の種子を育てる。誰も避けられない」

 

 見えない手が頭の中を触って来る感覚。だが、これはフェイトとは違う。デュナミスに似た―――――いや、こちらこそが根元である、もっと一方的で異質な存在感。実態がないくせに威圧的な、存在を丸ごと鷲掴みにしようと圧迫を感じる。

 

「俺が全てを守るんじゃない。俺はそんな上等な奴じゃないし、ちっぽけで哀れなただの人間だ」

 

 敵を前にしてもネスカの中にアスカやネギの時に感じた最初のような動揺はなかった。言葉により否定されても、また心は動じない。相手の全ての動きを予測し、それを全てたった一手で打ち破る最良の技を夢想する。

 

「アンタの理想はここで潰える。俺に負けるんだ」

「世迷言を。根拠なき希望はより大きな絶望を育む。生半可な絶望よりも害悪だ」

 

 造物主はネスカの宣言を鷹揚に無視する。

 

「心の平安なくば、生きていても仕方あるまい。眠るような生を、精神の安定を人は望む」

「さっきからごたごたと、阿呆か」

 

 ネスカは、それだけ吐き捨てると造物主が眉を上げた。

 

「…………私の言うことは間違っているか?」

「いいや、概ね正しいのだろうよ。だから阿呆だって言ってるんだ」

 

 訳が分からないといった眼差しでこちらを見る造物主にネスカは笑みを浮かべる。

 

「俺は今まで苦しくても、辛くても、悲しくても……………それらが無駄じゃなくて結構楽しかったと思っている」

 

 過去を振り返るように目を細め、口元に薄く笑みを浮かべる。

 

「今まで色んな人達と会ってきた」

 

 万感の想いと共に口にする。

 

「千差万別。生き方も在り方も誰一人として同じ人はいなかった」

 

 魔法世界に来てから出会った一人ずつの顔を思い浮かべる。

 出会ってきた人々、通り過ぎていった人々、関わりのあった人から関係のなかった人まで全てが脳裏に流れる。

 父が切り開き、母が繋ぎ、多くの人に導かれてネスカはこの道の上にいる。

 自分もまた覚悟を決めねばならない、とネスカは気持ちを新たにした。足元にあるこの道は、幻想でも希望でもない。数々の光に照らされた道を歩いている。

 可能性という道は、一人では到底切り開かれるものではなかった。前に、隣に、後ろに、必ず誰かがいたのだ。多くの人が望み願い求めた想いがあればこそ、ネスカはこうして歩いて行ける。

 

「でも、たった一つだけ共通しているところがあった。みんな一生懸命に生きていたってことだ」

 

 大きく息を吸って、自信を持って続けた。

 

「だから断言できる。彼らの存在が、誰にも、神様にだって間違いだって言わせない」

「……………」

 

 迷いなく言い切ったネスカの表情に、この身体の持ち主であり自分に立ち向かってきた男の姿を重ねて造物主は瞳を閉じた。

 

『―――――ようするにお前は、この世界のこと、どう思ってんだ!! 運命だかなんだか知らんがよ、魔法世界を変える理由を背負ってるってな、判った! けど、お前自身、本当にそれ、やりてえのか? おめえはこの世界が、好きじゃねえのか!?』

 

 造物主の双眸がゆるりと開き、ぞっとするほどに澄んだ赤の瞳が覗く。

 

(あの夕暮れのような赤い髪を持つ、風のような魔法使いは本当に不思議な男だった)

 

 感慨を造物主の胸を満たそうとも何も変わりはしない。

 造物主は失ってきた。二千八百年もの永き時の鑢で、あらゆるものを誰よりも失い続けてきた。

 この世界において神ともいえる自分を怖れず、何人にも支配されず、何人をも支配しようとせず。ただあるがまま、自由に動き、自由に生きる。気の遠くなるほど悠久の時を魔法世界で生きてきたが、あんな人間と出会ったのは、初めてのことだ。

 

「ならば、父と同じく私に挑み、証明して見せよ」

「やってやる」

 

 二人の体から同時に白と黒の真反対の光が吼えた。

 ネスカは逸る気持ちを抑えて息を整え、拳を握り締めた。

 大仰とも思える構えを、彼は取った。腰を落とし、足を前後に開き、右肩を引く。一本の線をイメージする。自らと、相手を結ぶ一線。それは足元から始まり、腰を、肩を通り、拳の先端から敵の身体の中心へと貫いていく。在るべき力の通り道だった。

 全身全てを凶刃と化す。いずれに触れても敵を貫く、どこまでも細く鋭い刃となる。溢れ出す程のパワーは、アスカがフェイトと闘った時の比ではない。

 

「武の英雄には何も変えられんと教えよう」

 

 造物主もまたエヴァンジェリン達と戦っていた時には放出していなかったエネルギーを周囲に撒き散らしていた。ナギという最高のポテンシャルを有する肉体を手に入れたことで、二十年前や十年前のパワーを遥かに凌駕している。

 ネスカから発散される戦意の戦慄と同時に造物主の、ローブの内側の息遣いの質も変わり、限りなく無音に近くなる。戦士が息の音を消すのは、彼らが戦いの場にある時だ。達人相手の戦闘では、呼気と吸気のの間を悟られれば相手に動きを読まれ、死を意味する。

 巨大な光は衝撃波となって墓守り人の宮殿を叩いた。瞬時にして二人が立つ大地に縦横無尽の亀裂が生じ、アスカとフェイトの戦いによって損傷を負っていた建物が全て押し潰されたように崩れた。

 地鳴りがして、風が唸る。

 髪が激しく波打ち、服の裾が跳ね上がった。二人の全身から噴き出す凄まじい闘気が、大きな津波が迫ってくるような闘気に慄くように墓守り人の宮殿を震わせていた。

 嵐の中の船のような揺れに、木乃香達は懸命にバランスを取った。倒れこそしなかったものの、動くことが出来なかった。

 一帯の空間に歪みを生じさせるほどの、息をするのも憚れる緊迫感。直に接している地面は次々と新たな地割れを刻み込んでいく。

 ネスカも造物主も、睨み合ったまま互いに微動だにしていなかったが、あと何か一つ、ほんの小さな切欠が加わるだけで戦闘が始まる。

 そしてその結果、確実に一方が命を落とす。もしくは最悪、両名と共に。二人の殺気は明白だった。

 もう互いに語る必要はない。

 ネスカの敵は絶望の塊だ。造物主自身も絶望している。対峙する相手にまで絶望を振りまいている。そして恐らく、その強さは史上最強…………誰にも届かない領域にいる相手だ。

 二人の男の眼光が、正面から激突した。

 それが合図。

 純白と漆黒。二つの力が、激しくぶつかりあった。

 古今東西あらゆる歴史においても頂点に位置する英雄と怪物の戦いが、ここに幕を開ける。いまここに、最後の対決は音もなく幕を切って落とした。

 今度こそ小手調べではない。世界の今後を決める本当の激突が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 儀式発動まで残り一時間。

 

 

 

 

 





造物主=ナギに攻撃を受けた際、事前に仕込まれていた術式によって完全なる世界に送られたと思われていたナギとアリカの魂と精神世界で出会うアスカ。
最初が造物主が神だった頃からの記憶。
如何にして魔法世界を造り、人を作り、見守って来て、そして絶望したか。
次がナギの記憶。
ネギとアスカの出産と命名。
造物主=ゼクトとの戦い。
六年前の村襲撃事件(村に危機が迫ったら危険を知らせる術式を仕込んでいた)
ナギだけではなくアリカも封印されていたのは、造物主の浸食を抑える為で、六年前にナギが救援に向かったことでバランスが崩れ、この六年の間にほぼ乗っ取られている。
デュナミスによって封印から解放された瞬間に、造物主は二人の魂を完全なる世界に送る術式を発動している。それを察知していたので敵意を持った第一接触者の精神に干渉できる術式に魂を移していたので、造物主は二人を完全なる世界に送ったものと勘違いした。但し数日もすればバレていた。


アスカの復活から、ネギとの合体してネスカになってからの造物主との戦いを加筆。この話に入れないと次が読み難いので変更しました。


次回『第92話 比翼の英雄』



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