それでは、どうぞ。
幻想郷——博麗神社、ある朝。
いつもと変わらない朝だった。
レミィが隣で眠っている。
フランの声が廊下から聞こえる。
妖夢が台所で動いている音がする。
愁はゆっくり目を開けて、天井を見た。
愁「(……なんか、今日は変な感じがする)」
うまく言葉にできない。
ただ——何かが、今日終わる気がした。
朝食の途中。
愁は箸を止めて、ぼんやりしていた。
レミィ「……愁、どうしたの」
愁「……ん、なんでもない」
レミィ「……本当に?」
愁「うん」
レミィ「(じっと見て)……嘘ついてる」
愁「……」
霊夢「(遠くから)あんた、朝からどんよりした顔してるじゃない」
愁「そう見える?」
霊夢「そう見える」
愁「……ちょっと、頭の中が変な感じがして」
霊夢「変な感じ?」
愁「……うまく言えないんだけど。何か思い出しそうな感じ、かな」
霊夢「(箸を止めて)……」
レミィ「(静かに愁の手を握る)」
食後——縁側にて。
愁は一人で外を見ていた。
風が吹いて、木の葉が揺れた。
そのとき——
頭の中に、何かが浮かんだ。
映像、というより——感触だった。
小さな手。
自分より小さい、温かい手。
愁「(……誰だ、これ)」
その感触はすぐに消えた。
でも——何かが引っかかった。
愁は立ち上がって、紫のもとへ向かった。
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紫の部屋——
愁「紫さん」
紫「……来たわね」
愁「何か知ってますか。今日、頭の中に——誰かの手の感触が浮かんで」
紫「(少し間をおいて)……そう」
愁「教えてもらえますか」
紫「……愁」
愁「はい」
紫「今日あなたに話すつもりだったのよ。ずっと——ずっと、話せないままでいたけれど」
愁「……」
紫「あなたには、妹がいたわ」
愁「……え」
紫「名前は横川晴。あなたより二つ下だった」
愁「……(何も言えない)」
紫「小学校の頃、あなたがいじめられていたとき——晴ちゃんが庇おうとして、巻き込まれたの。それで——」
紫「……亡くなったわ」
しばらく——何も音がなかった。
愁「……(静かに)そうか」
紫「あなたはそのショックで記憶を失った。晴ちゃんのことも、その頃のことも——全部」
愁「……紫さんは、最初から知ってたんですか」
紫「……ええ」
愁「どうして言わなかったんですか」
紫「……言えなかった。あなたが記憶を失ったのは、それほどのことだったから。下手に戻したら——また壊れると思って」
愁「……」
紫「ごめんなさい、愁」
愁は何も言わなかった。
少しの間、俯いていた。
そして——ゆっくり顔を上げた。
愁「……全部、思い出したいです」
紫「……本当に?」
愁「はい。もう、大丈夫だから」
紫「……そう」
紫はスキマから、小さな光の欠片を取り出した。
紫「これが——封印されていた、あなたの記憶よ」
光の欠片が愁の手に触れた瞬間——
全部が、戻ってきた。
晴の笑顔。
「お兄ちゃん、一緒に帰ろ」
晴の声。
「お兄ちゃんのそばにいる」
晴の手。
小さくて、温かくて——いつも愁の隣にあった手。
そして——
あの日のことも。
全部。
愁「……っ」
声が、出なかった。
涙が出るより先に、胸が痛かった。
紫「愁——」
愁「……(首を横に振る)」
少しだけ——少しだけ待ってほしかった。
どれくらいそうしていたかわからなかった。
気づいたら——レミィがそこにいた。
いつ来たかはわからない。
ただ——レミィは何も言わずに、愁の隣に座っていた。
愁「……レミィ」
レミィ「……うん」
愁「僕、妹がいたんだ」
レミィ「……うん」
愁「晴って言うんだ。二つ下で——いつも僕のそばにいてくれてた」
レミィ「……うん」
愁「……死んだんだ。僕のせいで」
レミィ「(ぎゅっと愁の手を握る)」
愁「……っ」
愁は、泣いた。
声を上げてではなく——ただ静かに、涙が出た。
レミィは何も言わなかった。
ただ、愁の手を握ったまま、隣にいた。
しばらくして——
愁「……ありがとう、レミィ」
レミィ「……当たり前じゃない」
愁「何も言わないでいてくれて、ありがとう」
レミィ「……(少し間をおいて)……愁が泣いてるのを見たのは——初めてだったから」
愁「……そうか」
レミィ「……もう少し、泣いていていいのよ」
愁「……(小さく笑って)もう大丈夫だよ」
レミィ「……本当に?」
愁「本当に。——やっと終わった気がする」
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その夜——幻想郷。
天照「愁、来たか」
愁「はい、天照さん」
天照「……全部、終わったか」
愁「はい」
天照「妹のことも?」
愁「……はい。ちゃんと向き合えました」
天照「(少し間をおいて)……そうか。よくやった」
愁「……天照さんに一つ、お願いがあります」
天照「言ってみなさい」
愁「幻想郷に——ずっといることを、認めてもらえますか。現実世界には戻らず、ここで生きていく」
天照「……」
愁「レミィと、一緒にいたいんです。ずっと」
天照「(静かに愁を見て)……」
しばらく間があった。
天照「……認めよう」
愁「……ありがとうございます」
天照「ただし——一つだけ条件がある」
愁「なんですか」
天照「(少し笑って)……レミィを幸せにしなさい。絶対に」
愁「……それは約束します」
天照「ならよし♪」
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縁側——
愁が戻ってきたとき、レミィが待っていた。
レミィ「……どうだった?」
愁「認めてもらえた」
レミィ「……本当に?」
愁「本当に。もう、ここを離れない」
レミィ「…………(そっと抱きついて)……よかった」
愁「(レミィの背中に腕を回して)……ずっといるよ、レミィ」
レミィ「……絶対よ?」
愁「絶対」
レミィ「……(ぎゅっと力を込めて)……やっと、か」
愁「うん。やっと」
霊夢「(遠くで気配を消したまま)……よかったわ、本当に。」
フラン「(霊夢の隣でそっと)……霊夢、目が赤い」
霊夢「……砂が入っただけよ」
フラン「……(微笑む)」
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その夜——
愁は縁側に座って、星を見ていた。
レミィが肩に頭を乗せている。
愁「……晴」
静かに、呟いた。
愁「……お前のことを、ちゃんと思い出したよ」
レミィ「……」
愁「ごめんな。長い間、忘れてて」
風が吹いた。
どこかで、木の葉が揺れた。
愁「……でも——ちゃんと生きるから」
愁「……ここで、ちゃんと生きるから」
レミィ「(ゆっくり愁の手を握る)」
幻想郷の夜は、静かだった。
星が多かった。
いつもより、少しだけ明るく見えた。
どうでしたか。
今回は残っていた話を一話にまとめました。
次回はいよいよ最終話です。
誤字があれば教えてください。
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