東方淫戯録〜幻想郷イチャイチャ生活〜   作:如月 愁

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今回は最終話の前話です。
それでは、どうぞ。


第86話 記憶の終わり

幻想郷——博麗神社、ある朝。

 

いつもと変わらない朝だった。

 

レミィが隣で眠っている。

フランの声が廊下から聞こえる。

妖夢が台所で動いている音がする。

 

愁はゆっくり目を開けて、天井を見た。

 

愁「(……なんか、今日は変な感じがする)」

 

うまく言葉にできない。

 

ただ——何かが、今日終わる気がした。

 

朝食の途中。

 

愁は箸を止めて、ぼんやりしていた。

 

レミィ「……愁、どうしたの」

 

愁「……ん、なんでもない」

 

レミィ「……本当に?」

 

愁「うん」

 

レミィ「(じっと見て)……嘘ついてる」

 

愁「……」

 

霊夢「(遠くから)あんた、朝からどんよりした顔してるじゃない」

 

愁「そう見える?」

 

霊夢「そう見える」

 

愁「……ちょっと、頭の中が変な感じがして」

 

霊夢「変な感じ?」

 

愁「……うまく言えないんだけど。何か思い出しそうな感じ、かな」

 

霊夢「(箸を止めて)……」

 

レミィ「(静かに愁の手を握る)」

 

食後——縁側にて。

 

愁は一人で外を見ていた。

 

風が吹いて、木の葉が揺れた。

 

そのとき——

 

頭の中に、何かが浮かんだ。

 

映像、というより——感触だった。

 

小さな手。

 

自分より小さい、温かい手。

 

愁「(……誰だ、これ)」

 

その感触はすぐに消えた。

 

でも——何かが引っかかった。

 

愁は立ち上がって、紫のもとへ向かった。

 

────────────────────────────────────────────

 

紫の部屋——

 

愁「紫さん」

 

紫「……来たわね」

 

愁「何か知ってますか。今日、頭の中に——誰かの手の感触が浮かんで」

 

紫「(少し間をおいて)……そう」

 

愁「教えてもらえますか」

 

紫「……愁」

 

愁「はい」

 

紫「今日あなたに話すつもりだったのよ。ずっと——ずっと、話せないままでいたけれど」

 

愁「……」

 

紫「あなたには、妹がいたわ」

 

愁「……え」

 

紫「名前は横川晴。あなたより二つ下だった」

 

愁「……(何も言えない)」

 

紫「小学校の頃、あなたがいじめられていたとき——晴ちゃんが庇おうとして、巻き込まれたの。それで——」

 

紫「……亡くなったわ」

 

しばらく——何も音がなかった。

 

愁「……(静かに)そうか」

 

紫「あなたはそのショックで記憶を失った。晴ちゃんのことも、その頃のことも——全部」

 

愁「……紫さんは、最初から知ってたんですか」

 

紫「……ええ」

 

愁「どうして言わなかったんですか」

 

紫「……言えなかった。あなたが記憶を失ったのは、それほどのことだったから。下手に戻したら——また壊れると思って」

 

愁「……」

 

紫「ごめんなさい、愁」

 

愁は何も言わなかった。

 

少しの間、俯いていた。

 

そして——ゆっくり顔を上げた。

 

愁「……全部、思い出したいです」

 

紫「……本当に?」

 

愁「はい。もう、大丈夫だから」

 

紫「……そう」

 

紫はスキマから、小さな光の欠片を取り出した。

 

紫「これが——封印されていた、あなたの記憶よ」

 

光の欠片が愁の手に触れた瞬間——

 

全部が、戻ってきた。

 

晴の笑顔。

 

「お兄ちゃん、一緒に帰ろ」

 

晴の声。

 

「お兄ちゃんのそばにいる」

 

晴の手。

 

小さくて、温かくて——いつも愁の隣にあった手。

 

そして——

 

あの日のことも。

 

全部。

 

愁「……っ」

 

声が、出なかった。

 

涙が出るより先に、胸が痛かった。

 

紫「愁——」

 

愁「……(首を横に振る)」

 

少しだけ——少しだけ待ってほしかった。

 

どれくらいそうしていたかわからなかった。

 

気づいたら——レミィがそこにいた。

 

いつ来たかはわからない。

 

ただ——レミィは何も言わずに、愁の隣に座っていた。

 

愁「……レミィ」

 

レミィ「……うん」

 

愁「僕、妹がいたんだ」

 

レミィ「……うん」

 

愁「晴って言うんだ。二つ下で——いつも僕のそばにいてくれてた」

 

レミィ「……うん」

 

愁「……死んだんだ。僕のせいで」

 

レミィ「(ぎゅっと愁の手を握る)」

 

愁「……っ」

 

 

愁は、泣いた。

 

声を上げてではなく——ただ静かに、涙が出た。

 

レミィは何も言わなかった。

 

ただ、愁の手を握ったまま、隣にいた。

 

しばらくして——

 

愁「……ありがとう、レミィ」

 

レミィ「……当たり前じゃない」

 

愁「何も言わないでいてくれて、ありがとう」

 

レミィ「……(少し間をおいて)……愁が泣いてるのを見たのは——初めてだったから」

 

愁「……そうか」

 

レミィ「……もう少し、泣いていていいのよ」

 

愁「……(小さく笑って)もう大丈夫だよ」

 

レミィ「……本当に?」

 

愁「本当に。——やっと終わった気がする」

 

────────────────────────────────────────────

 

その夜——幻想郷。

 

天照「愁、来たか」

 

愁「はい、天照さん」

 

天照「……全部、終わったか」

 

愁「はい」

 

天照「妹のことも?」

 

愁「……はい。ちゃんと向き合えました」

 

天照「(少し間をおいて)……そうか。よくやった」

 

愁「……天照さんに一つ、お願いがあります」

 

天照「言ってみなさい」

 

愁「幻想郷に——ずっといることを、認めてもらえますか。現実世界には戻らず、ここで生きていく」

 

天照「……」

 

愁「レミィと、一緒にいたいんです。ずっと」

 

天照「(静かに愁を見て)……」

 

しばらく間があった。

 

天照「……認めよう」

 

愁「……ありがとうございます」

 

天照「ただし——一つだけ条件がある」

 

愁「なんですか」

 

天照「(少し笑って)……レミィを幸せにしなさい。絶対に」

 

愁「……それは約束します」

 

天照「ならよし♪」

 

────────────────────────────────────────────

 

縁側——

 

愁が戻ってきたとき、レミィが待っていた。

 

レミィ「……どうだった?」

 

愁「認めてもらえた」

 

レミィ「……本当に?」

 

愁「本当に。もう、ここを離れない」

 

レミィ「…………(そっと抱きついて)……よかった」

 

愁「(レミィの背中に腕を回して)……ずっといるよ、レミィ」

 

レミィ「……絶対よ?」

 

愁「絶対」

 

レミィ「……(ぎゅっと力を込めて)……やっと、か」

 

愁「うん。やっと」

 

霊夢「(遠くで気配を消したまま)……よかったわ、本当に。」

 

フラン「(霊夢の隣でそっと)……霊夢、目が赤い」

 

霊夢「……砂が入っただけよ」

 

フラン「……(微笑む)」

 

────────────────────────────────────────────

 

その夜——

愁は縁側に座って、星を見ていた。

レミィが肩に頭を乗せている。

 

愁「……晴」

 

静かに、呟いた。

 

愁「……お前のことを、ちゃんと思い出したよ」

 

レミィ「……」

 

愁「ごめんな。長い間、忘れてて」

 

風が吹いた。

 

どこかで、木の葉が揺れた。

 

愁「……でも——ちゃんと生きるから」

 

愁「……ここで、ちゃんと生きるから」

 

レミィ「(ゆっくり愁の手を握る)」

 

幻想郷の夜は、静かだった。

星が多かった。

 

いつもより、少しだけ明るく見えた。

 

 

 




どうでしたか。
今回は残っていた話を一話にまとめました。

次回はいよいよ最終話です。

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