全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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領域展開の説明分かりにくいかもです、補足が欲しい場合はの後書きにでも詳細を書くつもりです。
あと、戦闘描写はいつものクオリティーなのでなんとなーくのニュアンスで読んでください。
それではどうぞ〜


第十二話 領域展開

 プルルル、プルルル

 

 山の麓で待機している補助監督の電話が鳴る。相手は別件で遠くで任務中の夏油からだった。

 

「もしもし、夏油さん? いかがしましたか?」

 

「もしもし、すまないが単刀直入にきかせてもらうよ、そっちの任務は仮想怨霊の八尺様であってるかい?」

 

「は、はいおそらくは」

 

「何故、そう判断したんだい?」

 

「村から男性が数人、任務に赴いた術師が、男性は行方不明、女性は死体で発見されたからで」

 

「その男たちはいずれも未成年だったのかい?」

 

「……へ?」

 

「未成年だったかと聞いてるんだ!」

 

「い、いえ! 違います! 全員成人済みです!」

 

「チッ、まずいな、ほんとにまずいぞ」

 

「ど、どうして…?」

 

「いいか、よく聞くんだ。その村の伝承に悪い人間を攫っていく、木の葉天狗の伝承がある。呪霊だが、長年祀られて神格化されている特級クラスだ。何らかの理由でもしも、それが暴走しているんだとしたら…事態は相当に深刻だ、今すぐ術師と逃げろ」

 

 補助監督の顔が青ざめていく。

 

「聞いているのかい?」

 

「生得領域が…呪力が急に膨れ上がって…!」

 

「クソっ、遅かったか! 術師は一級だったね?」

 

「はい、刹那一級術師が任務にあたっています!」

 

「刹那か…彼女は賢い、命を捨てる真似はしないだろう。脱出が確認できたら、必ず私か悟に連絡するんだ、いいね」

 

「分かりましたっ」

 

 プッ

 

 電話が切れる、補助監督は帳を上げるわけにもいかずただ待つことしかできなかった。

 

(この霧…自然に発生したものじゃない、呪力、それもとびきり濃いやつ、となると)

 

「生得領域ですよね」

 

 後ろを振り向き見上げる、その場所に刀で斬撃を繰り出し、霧を一時的に払う。

 

「カッカッカッカッカッ!」

 

 その場所の霧が晴れると、空中にそれは姿を現す。身体が小柄な人間に大きなカラスの翼が生えており、鼻が長く先っぽが尖った赤い顔をした呪霊が錫杖を持って現れる。

 

「良いぞ、先刻の弱者共よりはるかに強い気配を貴様から感じるぞ」

 

「鴉天狗…で、あってます?」

 

「惜しいな小娘。我は木の葉天狗、この山の神にして支配者。貴様らからすれば神隠しをする、呪霊というやつだ」

 

 木の葉天狗と名乗る呪霊は、高下駄を枝に引っ掛けてそこに座り喋りだす。

 

「呪霊にしてはペラペラと流暢に喋るじゃないですか」

 

「カッカッカ!威勢がいいな小娘!我をあのデカブツ女と比べるでないわ」

 

「あなたですか?ここに来た四名の術師をどうこうしたのは」

 

「この山は我の縄張りよ!貴様ら人間とて、我らが人の地へと侵入すれば殺すだろう?」

 

「まぁ、否定はしませんけど」

 

「人間にしては話が分かるではないか」

 

「でも、それ故に分かりませんね。あなたは守り神のような呪霊でしょう?なぜ村人を襲うんです?」

 

「カッカッカッカッ!良いぞ、冥土の土産にきかせてやろう、小娘」

 

「どーぞ、手は出しませんよ」

 

 納刀し、情報を集めるために木の葉天狗に喋らせる。

 

「詳しくは覚えておらぬが半月前、我が山に侵入者が現れた。侵入者のクセしてまだ赤子だったのだがな、暇つぶしに遊んでやったのよ」

 

(二週間前…宿儺の受肉の時期と重なる)

 

 木の葉天狗は得意げな顔をして話し続ける。

 

「そいつの体をバラして遊んでいたら、体の一部からコレが出てきたのよ」

 

 そう言うと木の葉天狗は、指の屍蝋を見せる。

 

(!!なるほど、宿儺の指の呪力に当てられたのか)

 

「これを持ったときの感覚は素晴らしかったぞ!誰にも負けないという絶対的な自信!この領域も、もはやこの山にはとどまらない!」

 

 宿儺の指をしまい翼を広げ、感情の昂りを顕にする。呪力を一気に開放して周りの木々の枝が次々と斬り落とされていく。

 

「話は終わりですか…だったら、始めましょうか」

 

 刹那は刀に手をかけて術式を展開する。

 

「強き呪術師よ!存分に呪いあおうぞ!」

 

「言われずとも」

 

 木の葉天狗が戦闘態勢に入ると、刹那は足を木の葉天狗に向け、瞬間的に術式を足を起点にして発動し、距離を無くす。木の葉天狗の胸を蹴り、後ろに飛びながら抜刀し横に一閃する。

 

 キュオンッ! 

 

 しかし、その斬撃は空を斬り、飛び上がった木の葉天狗は空中で動けない刹那に向かって空中で助走をつけ、突撃する。

 

 刹那は地面に向かって術式を発動し背中から落ちるが受け身を取る。

 

「流石は天狗。速いですね、やっぱり」

 

「良いぞ!まずは準備運動といこう!」

 

 途端に霧が濃くなり木の葉天狗はその霧に隠れて縦横無尽に重力を無視して飛び回る。そのスピードはかなりのもののはずだが霧は一切晴れることなく濃度が増すばかり。もはや刹那の左目の視界は自身の周り1m程度しか見えていなかった。

 

「姑息ですね」

 

「カッカッカッ!何とでも言え!まだまだ楽しもうぞ!」

 

 その声を皮切りに、猛スピードで上下左右から錫杖を刹那めがけて振りながら突撃を繰り返す。

 

 刹那はその全てを刀と体術を織り交ぜていなしていく。

 

 ギィン! キュイッ! シャッ! ドォッ! 

 

「どうした呪術師!防戦一方ではないか!」

 

「傷の一つでもつけてからそういうことは言うものですよ」

 

 攻撃を続ける木の葉天狗と防御を続ける刹那、先に動いたのは──木の葉天狗だった。

 

「ならばこういうのはどうだ?」

 

 同じように突撃し錫杖を縦に振りかぶるが、刹那の右眼には錫杖の先端に渦巻くエネルギーが見えていた。刹那は振りかぶる錫杖を後方にバク転して回避する。

 

 錫杖が地面に叩きつけられると、そこから小規模ながら強力な竜巻が発生する。

 

「…神隠しだけじゃないんですね」

 

「勘がいいな!だが、こんなこともできるぞ?」

 

 錫杖を横に振ると竜巻の中に火種が現れ、その竜巻が炎を纏う。

 

 刹那は刀を二本抜刀し術式を展開し、武器に呪力の靄を纏う。

 

「確か、火は酸素が無いと燃えませんよね…拡張術式、武器纏」

 

 ギュイ、ブオン!!!!

 

 その場の竜巻が一瞬にしてかき消される。刀を振ったとき刹那が術式で無くしたのは酸素ではなく、その場に火種として残留する呪力。竜巻は二刀で一回転して逆回転を作り出して相殺した。

 

「ほう、不可思議な術式だ!今までの呪術師(カスども)とは違うな!」

 

「…一つ、聞きたいんですけど」

 

 霧は以前として晴れないが、話してみろと言わんばかりに攻撃が一時的に止む。

 

「今までの呪術師の方々も…そうやって遊んで殺したんですか?」

 

 刹那の疑問に霧の中から答えが帰ってくる。

 

「何故そんなことをする必要がある?貴様は蚊を潰すのにその刀を振るのか?」

 

 刹那は冷静に努めたが心の中では呪術師のことを虫扱いする木の葉天狗に対して激昂していた。だが、激昂よりも哀れみが大きかったのかもしれない。

 

「…フフッ、そうですね、貴方を潰すのに刀はいりませんね」

 

 木の葉天狗を挑発し、刀を納める。同時に木の葉天狗が怒る。

 

「ほぉ…遊びは終いにしよう、せめてもの手向けだ。貴様は我が最高の術をもってして葬ってくれよう…!」

 

 霧が晴れると地上に降り立つと、両手で三本指を立て、両手の小指と薬指を二本とも交差させて印を象る。

 

「領域展開、颰熾霊峰(はつさかれいほう)」 

 

 周囲が木の葉天狗の生得領域へと塗り替えられていく。今いた森より遥かに多く、巨大な木々が生え、どこからともなく火種がおき、強力な風によってたちまち火災が発生し、濃霧が立ち込める。

 

「術師における最高到達点にして奥義、領域展開」

 

「カッカッカッ!よく知ってるな小娘!この領域において、我の攻撃は回避不可!さらには時間をかけるほどに火は貴様の周りを囲み、不利にしていく!」

 

 ザンッ! 

 

 挨拶代わりというように刹那に風の斬撃が飛ばされ、右腕から血が流れ出る。

 

「我をコケにした罪!万死に値する、楽には死なさんぞ!」

 

 あえて攻撃を受けた刹那は再び木の葉天狗を見据えて言い放つ。

 

「羽虫がぶんぶんと飛びまわって、五月蝿いですね。そんなに自分の弱さをひけらかして楽しいですか?…本物の強さを見せて差し上げましょう」

 

 木の葉天狗を挑発し、刹那は両手の人差し指でバツ印を作り、残りの指でハートの形に印を象る。

 

「領域展開、未了無偏門(みりょうむへんもん)

 

 木の葉天狗の領域が、刹那の領域によってさらに塗り替えられていく。その領域は刹那の後ろの大きな白い門以外は何もない、強いて言うなら"無がある"という異質な空間。足場さえも見えない常闇の中で木の葉天狗と刹那は向かい合う。

 

「っ!?なんだと、我の領域が押し負けた!?」

 

「はぁ、先代に一つだけ文句を言いたいですね。なんでこんなこっ恥ずかしい印にしたんだか」

 

 刹那は腰に手をあてて俯く。

 

「小娘がぁ!」

 

 木の葉天狗が錫杖を振るが、何も起こらない。

 

「何故だ!? 何故、風が出ない!」

 

「この領域内で発動した術式は全てが無に還る。正確に言うと、あなたの術式は発動してますけど、発動した瞬間に全部無かったことにされるんですよ。ついでに言えば、何を無くすかは僕のさじ加減なのでこんなことも出来ますよ」

 

 刹那がクイッと指を横に振ると木の葉天狗の錫杖がボロボロと崩れて無くなる。

 

「私の錫杖が!?」

 

「錫杖の分子同士の結合を無くしてみました、これ使うのは二回目なので色々実験したいんですけど」

 

「このクソガキが!!ぶっ殺してやる畜生が!この我を誰だと思ってやがっ」

 

「うるさい羽虫は叩くに限りますね」

 

 刹那が両手を広げると、白い門が開く。軽くステップを踏むと、扉が完全に開く。

 

「無がそこに出現して通り過ぎる、やっぱりややこしいですね、この術式」

 

 フォンッ! 

 

 木の葉天狗の両足がまるでそこに何かが通ったかのように消え去る。

 

「あぁぁぁっ!!」

 

「別にあなたの領域で戦っても良かったんですがね、あなたみたいなゴミは跡形もなく消すべきでしょう、害にしかなりませんし」

 

 トントンとステップを踏み、術式を容赦なく浴びせ続ける。

 

 時間にして三十秒にも満たない時間だったが、木の葉天狗の体は消え去り、領域を解除したその場には宿儺の指だけが残った。

 

「…えぇー、領域展開使って消せないとか、おかしいんじゃないんですかこの指」

 

 自信の最大の技が通用しない屍蝋を見て、愚痴をこぼしながら霧に包まれた山を下山する。

 

 麓へ行くと顔面蒼白の補助監督が刹那に駆け寄ってくる。

 

「あぁ、良かった! 逃げ切れたんですね! 待っててください今、帳をおろしますから」

 

「む、心外ですね。ちゃんと祓いましたよ」

 

「…へっ!?」

 

 驚く補助監督に追撃を入れる。

 

「情報収集のために軽く泳がせて祓いましたよ、なんでも宿儺の指に当てられたみたいで──」 

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

 

「ん? あぁ、これは報告書に書かなきゃですね」 

 

「そうじゃなくて! 祓ったんですか!? 木の葉天狗を!?」

 

「八尺様倒したら出てきたんですよ、敵意があったので祓いましたけど。あ、簡易的でいいのでこれ封印できますか?」

 

 そういって刹那は宿儺の指を見せる。

 

「へっ!? 指!?」

 

「あれ、これって別に機密事項でもないですよね?」

 

「あ、いや、と、取り敢えず村に戻りましょう」

 

 補助監督は慌てて連絡しながら村へと歩いて戻る。

 

(…攫われた人達のこと、なんて言えばいいんだろう…)

 

 村へ戻ると昨日と変わらない、のどかな風景が待っている、しかしその平和とは別に刹那の心はどんよりと曇っていた。補助監督が電話をしている間に刹那は民宿へと向かい女将へ会いにいく、女将は刹那に気づき声をかけるが、右腕の怪我を心配する。

 

「右腕、怪我をなされたのですか?!」

 

「…そんなことはどうでもいいんです、おばあちゃん」

 

 いざ、目の前にするとやるせない気持ちが溢れて体が重たくなるのを感じ、女将の肩を掴む。

 

「息子さんのことなんですけど…すいません、僕がもっと早くにこの村に来ていれば…!」

 

 女将はそれを聞いて悲しむが同時に優しく微笑む。

 

「…そんな気はしておりました…でもそれは、術師さんの責任では無いと皆、思っております」

 

 ギュッと強く抱きしめられる。

 

「あなたは頑張った…その細い腕で小さな身体で、この村を護ってくれた…ありがとうね」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…!」

 

 刹那は女将に抱きついたまましばらく涙を堪え、やがて決心したかのように立ち上がり別れを告げる。

 

「おばあちゃん、ありがとうございました」

 

「お礼は私のほうが言いたいくらいだよ、術師様」刹那は補助監督の待つ車へと小走りで走っていった。

 

「あ、刹那さん!」

 

「…高専に戻りましょう、なるべく速く」

 

 S時代に経験してこなかった被呪者との接触、二年という時が経ち精神的にも大人になる段階の刹那には心に来るものがあった。少しでも早く友人たちに会いたい思いが強く、補助監督を急かしていた。

 

 朝早くに任務をこなしたこともあり、1時に差し掛かる頃には東京の隣県の埼玉についていた。ラインに反応しない同級生に刹那は任務かと思い伊地知に連絡を入れる。迷惑だと分かっていながらも限界近かった刹那は、その行動を止められなかった。

 

 プルルルプルルル

 

「もしもし」

 

「あ、もしもし、突然すいません、多分任務ですよね? 皆の様子が知りたくて、つい電話しちゃいました」

 

 申し訳無さと、はやく会いたい気持ちが混じり早口気味に伊地知へと話しかけるが、伊地知は少し困ったような、不安な声色で問いかけてくる。

 

「刹那さん、今どちらへいらっしゃいますか?」

 

「埼玉です、あと一時間もすればつきますね」

 

「一年生の皆さんは本日任務なんですが、呪胎が変貌を遂げ、特級クラスとなりました。こちらに到着次第、応援に行ってください」

 

「…場所は?」

 

「少年院です」

 

「了解です、今すぐ向かいます」

 

 少し乱暴に携帯の電源を切る。

 

「すいません、ちょっとどこか人目につかないところで停めてください」

 

「?分かりました」

 

 刹那の指示に補助監督は車を停める。刹那は刀を腰に差し車を降りる。

 

「どうしました? 車酔いですか?」

 

「あぁいえ、ちょっと任務が入りまして」

 

「え、でしたらお送りしますよ」

 

「いや、急ぎなのでここから走っていきます」

 

「だとしたらなおさら車に乗るべきじゃ…」

 

 補助監督の心配をよそに刹那は術式を展開し、自身に対する光の屈折率を無くして姿を消す。途端に砂埃が舞い、気配が消え去る。それをポカンと口を開けてみていた補助監督は呟く。

 

「…一級って化け物なんかな…」




少し遅れましたが、なんとか出せました!
次回はいつかわかりません!これでストックが切れたので、不定期投稿になります!
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