ルビ使ってみました。
前回から見てくださる方、お楽しみください!
「バン」
突然背後に出現した気配に、伏黒は驚いて猫のように跳ね上がる。手印を結びながら咄嗟に振り向くと、後ろには件の女性がいた。
「さっきから僕のこと尾けてるのってあなた達…ですよね?」
「いつのまに?!」
「ふーん、僕の後ろ取るなんてやるねぇ、忍者かなにかかな?」
「そんなこと言ってる場合ですか?」
「まぁまぁ、安心しなよ恵。向こうさんが襲う気ならとっくに襲ってるって。それにこの僕が横にいるんだよ?
「…あのー、こんなところで騒ぐのもあれですし、どこか話せるところに行きませんか?」
「イイね、んじゃ折角だしあそこ行こっか」
三人が騒いでると女性が気を遣って行動を起こす。五条はそれを軽く受け止め、せっかくだからと先程女性が見ていたスタダへと入っていく。
人数分の飲み物と、五条専用のドーナツやらケーキやらを購入し、奥の席に四人で座る。席は五条と歌姫が隣合わせ、その向かい側に伏黒と件の女性が座る。
女性の容姿は驚くほど整っていて、セーラー服を着た彼女の髪は背中までかかるほど長い黒髪、右目には怪我をしたのか眼帯、両手には黒い手袋をつけていて、少し独特な容姿をしている。
「あんた胃もたれとかしないの?」
「大丈夫。僕、最強だもん」
「理由になってないですね」
しかし、呪術界に身を置く二人はもちろん、伏黒も五条を筆頭に普段からもっと独特な容姿を目にする機会が多いため驚くことはない。
三人の会話を見ていた女性が口を開く。
「あの…自己紹介とかをしたほうが、いいですか?」
「あ、ごめんね、私は
「
「
「
「あらやしき?随分と仰々しい名前だねぇ」
「伏黒君と同い年なのね」
四人は簡潔な自己紹介を終わらせ、同時に刹那が口を開く。
「あ、お二人は教師ですよね?東京と京都の」
「うんまー、そーだけど、なんで知ってるの?僕はともかく歌姫は弱っちいしあんま有名じゃないと思うんだけど」
「うっさいわ」
「あ、もしかしてフリーの呪術師?もしそうだったら話が早いね。君、高校はうちに来てもらうよ。ラッキーじゃん、受験勉強しなくてすむよ」
呪力操作と二人の存在を知る彼女を呪術師と確信した五条は人差し指を天井に向け両手を上げ、直接的に彼女の未来を決めて話す。
「それは…強制的なものですか?」
しかし、その五条の発言に彼女は少しの戸惑いを見せる。
「基本的には一般のスカウトは本人の意思を尊重するんだけれど、今回はちょっと難しいかもね」
戸惑いを察してか、説明の足りない五条の発言に歌姫が付け加える。
「どういうことですか?」
「君さぁ、ハッキリ言うとかなり強いんだよねぇ。最強の僕が太鼓判を押してあげるくらいには」
スルリと黒い目隠しを外し、透き通るような碧眼をあらわにする。それを見て終始冷静だった彼女は、初めて感情を出し驚いた表情をする。それもそのはず、五条は女性どころか、男でさえも魅了するような、容姿の整ったイケメンなのだ。
「なんというか、その、顔が良いですね…?」
「あはは。ありがと、よく言われる♡」
「チッ!」
「はぁ…」
伏黒と歌姫がわざとらしくため息と舌打ちをする。それを見た刹那は苦笑するが、慣れているのか五条はそれをスルーして話を続ける。
「まぁそれはいいとしてさ、理由はいくつかあるけど君の呪力量がまず普通じゃない。見た所かなり呪力操作に長けてるみたいだし、その年でその呪力の量だと放っといても二年もすれば特級クラスじゃない?」
五条のおふざけが終わり、先程の話に戻る。
「凄いわね…でもそれだけであんたがかなり強いなんて評価はしないわよね。てことは、術式の方?」
「大正解!良くできました」
歌姫はいつものように自分を見下す五条へ、今にも殴り掛かりそうな怒りの気持ちを抑えながら心を落ち着けるため一口コーヒーを啜る。
「で、その術式さぁ、僕の記憶の限りでは歴史に残ってないし、効果もちっとも分からないんだよねー。さっきの隠密といい、なにそれ?」
「?その程度のことでかなり強い?」
術式とはいわばその人の才能。生まれついてあるもので、その形は千差万別。三人は呪術師の家系のため相伝といわれる術式を持っているが、非術師から産まれた人間の術式から新しい術式が発見されることは珍しいといえば珍しいが驚く程ではない。
「甘いよ恵ぃ。六眼は相手の術式を丸裸にできる。その特性上、強力な術式を発見した場合は、確実に文献として残して、出来る限り秘密裏に保護するんだよ。あ、これ僕んちの秘密だから皆には内緒ね」
サラッと家の秘密を暴露する現五条家当主に伏黒と歌姫は呆れる。
「でも、そんなの単純に今まで発見されてこなかったってだけじゃないの?」
「もちろんその可能性も否定できないんだけどね、問題は文献には残ってないって部分じゃなくて、僕が分からないって部分」
「…なんとなくは分かりました」
「ほぉーら歌姫、恵は分かったみたいだよー? 学生に負けてやんのー」
「伏黒君、教えてくれる?」
「ついに無視されちゃいましたね、五条さん」
その場の空気に慣れたのか、口元に手を当ててクスリと笑う刹那にもツッコまれてしまう
「いいもん、僕最強だもん」
小声で呟きながらいじける成人男性を尻目に話を続ける。
「五条さんの六眼で術式が分からないってことは…それほどに難解な構造、下手をすれば御三家とかと並ぶような希少な術式ってことですか?」
「うんまぁ大体そんなとこかな」
「事情はわかったわ、思ったよりかなり大変なことに首突っ込んでるみたいね、私達」
「僕の術式ってそんなに警戒されるものなんですか?」
「まぁね、効果とか明かしてくれたら楽だけど。多分君さ、無意識に僕のことを危険なものとして認識してしてるんじゃない?それで術式がオートで発動してるってとこかな。あっ、そんなに気にしなくていいよ、術者にとって身を守るのは当たり前だし、詳しくは聞かないけど君の右目も多分怪我とかじゃなくて僕と似たようなもんでしょ?」
一息に五条が言い切り、歌姫が口を開く。
「手遅れ気味な感じもするけど今ここで詳しい話をするより、どこかで時間をまた取りましょ。私達一応徹夜明けで疲れてるし、とりあえずあなたが呪詛師じゃないって分かっただけで充分だわ」
「フリーってことは依頼を受けてるんでしょ?なんて名前ー?」
そろそろお開きの雰囲気になりかけているところに爆弾が投下される。
「ネット掲示板で、匿名に近いですけどSという名前で活動していました」
「オーケーSね…ん?はぁ?」
「あっはっは!笑える冗談だねぇ…マジで?君が?」
「そんなに有名なんですか? そのSって」
驚く二人の大人を見て無知の伏黒は疑問符を浮かべる。
「いやいやいや。Sっていったら特級の案件を引き受ける上、完全に正体不明の術師のことよ」
「いやー、うちでも夜蛾学長がお世話になってるねぇ。怪物とか呼ばれてたのがこんな少女とは」
「…そんな呼ばれ方してるんですね」
五条の著しくデリカシーを欠いた発言に、刹那は少し俯いて呟く。
「これー…上層部のおじいちゃんにバレたらマズイよなぁ」
五条は背もたれにその長身を預け、手を後ろに組みながら呟く。
「特級案件じゃないの。五条、今から補助監督に連絡取る?」
「なぁ、阿頼耶識」
「長いので名前だけで構いませんよ?」
「あぁ、じゃあ刹那」
弾む話を止めるように伏黒が刹那に問いかける。
「"活動してました"って言ったよな? それって、今は活動してないってことか?」
核心をつくような一言がその場に放たれるが、意外にも答えはあっさりと返ってきた。
「…はい、つい先程辞めました。掲示板も消したのでSはもうこの世にはいません」
「え、それってどういうこと?」
質問する歌姫の横ではズズズと音を立てて五条がフラッペを飲んでいる。
「目標が…あったんです。達成したら終わりにしようって、決めてて、それがこの間の依頼で達成できたんですけど…」
そこまで言うと口を閉じてしまうが、代わりといわんばかりに通帳を机の上に置いた。
開くと、不定期的に大金が振り込まれているが一昨日、全額おろされている。
「どゆこと?」
五条が首をかしげる。特級の任務にしては少ない金額に上層部に不快感を抱きながら、数字上の異変に対して疑問をつぶやく五条に答えるように刹那はポツポツと語りだす。
「僕の両親は物心つく頃に交通事故にあい、身内がいない僕は叔父の家に押し付けられるように預けられたそうです…」
少しの沈黙の後、再び語りだす
「叔父はその、言いにくいんですが」
「クズでしょ多分、そういう勘は僕鋭いよ。最強だし」
背もたれに身体を預けながら根拠の無い理由を口にし、五条が代弁する。刹那は深く頷き話を続ける。
「両親の遺産で遊び回ってて、家賃や授業代、水道代は最初の頃は払ってくれてたんですけど、段々払わなくなっていって…小学四年生の頃には全く払ってくれませんでした」
「その頃には術式はもう使えたのか?」
伏黒の問いに刹那が冷静に努めて答える。
「その年になるまでに、大体は使えるようになってました。友達もいなくてやることもなかったので、誰かの助けにと思って一人で呪霊を祓って回ってました。今思うと遊びの感覚で馬鹿なことをしてましたね」
「それから、生きるためにネットの掲示板を使って霊媒師みたいなことしてたんです。弱い呪霊を祓ってお金をもらって、その繰り返し」
「それで呪術界を知って本格的に活動し始めた感じかな?」
「はい…僕の術式なら確実に見つからずに祓うことができますし、バイトもできない僕にとっては最善の策だったんです」
「うーん、その頃に術式は扱えてたんだよね? オススメするわけじゃないけど、叔父を殺っちゃおうとか思わなかったの?」
五条の問いかけに刹那は首を横に振る。
「叔父が引き取ってくれなかったら僕は死んでたかもしれないですし、命の恩人であることに変わりはありませんから」
「でもそれなら尚更、呪術師の職には就かないの?」
「高校は行かずに、就職しようと思ってるんです。一人暮らしのためにお金を溜めて、両親の住んでいたところも見てみたくて、やりたいことがいっぱいあって、そのためにお金を貯めててやっと溜まったんです! でも、でも…」
「結果はこれか」
伏黒が言うと同時に刹那がどこか諦めたように笑みをもらし、自分に言い訳をするかのように喋りだす。
「…仕方ないですよ、叔父もきっと中学生がこんなにお金を持ってちゃ駄目だって僕を思ってのことなんです…きっと! それに、もしかしたら生活の為に使ってくれるかもしれないですし! だから、だからっ…!」
仕方ないんです。そう俯いて言う彼女の瞳から、大粒の水の雫が膝に落ちていく。その姿を見せまいと刹那が顔を両手で覆うが、その姿がさらに見る者の胸を締め付ける。
三人はそれをみて沈黙するしかなかった、隣りにいる伏黒が行き場のないような、怒り、もしくは無力感に拳を震わせるが、何もできない故に、せめてもと背中を優しくさする。刹那はビクリと肩を震わせ嗚咽を漏らす、そんな時間が数分流れた。
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「あの…色々と、ありがとうございました」
目の周りを真っ赤に腫らした少女はペコリと頭を下げる。
「一時間くらい話してたからお腹すいたんじゃない? このバカがなんでも奢ってくれるわよ?」
「この
「いえ、ほんとに大丈夫なんです。遅くなると叔父が帰ってきてたら心配しますし、また機会があればその時は…もう少し、お話ししてくれますか?」
「ん、全然構わないよ、高専の件は心変わりしたらいつでも言ってくれていいからね、待ってるよ」
五条が刹那の肩を軽く叩くと、肩を跳ねさせ、強く目を瞑る。
「…気をつけて帰れよ」
「はい…ありがとうございます。それでは」
刹那は帰路へとつき、やがて背中が見えなくなると最初に歌姫が口を開いた。
「良かったの? 五条」
「んー? 正直ちっとも良くないよね」
「五条さん、あれやっぱり」
「まぁ十中八九DVの類いだろうね、泣いてるときに恵が背中を叩いたとき、そして僕が肩を叩いたとき、反応が拒絶のそれだったし」
「っ! ならなんで!」
「分かってるだろ? 恵」
いつになく真剣な表情でアイマスク越しに伏黒を見据える。
「…助けられる準備が出来てるやつじゃなきゃ、救えないんだよ」
最強の言葉が伏黒に重くのしかかった。
少し手直ししました。
PS、指摘を頂いたのでまたも少し手直ししました。
違和感あるかもかなぁ