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東堂達が来た日の夜、刹那はいつものように虎杖のいる地下室へと向かった。
コンコンコン
「はいりますよ、悠仁君」
ノックをし、ドアを開けて中に入るが虎杖の姿はない。
「…いない」
「悠仁なら今は任務に行ってるよー」
後ろから大きく広島と書かれた袋をぶら下げた五条が現れ、刹那の疑問に答える。
「五条先生、任務はどうしたんですか?」
「そんなもん秒殺して新幹線で帰ってきたよ〜。あ、これお土産のもみじ饅頭ね」
そう言って五条は袋を刹那に渡す。
「皆の分だから独り占めしちゃ駄目だよ?」
「しませんよ、悠仁君には誰が付いてるんですか?」
「七海がついてるよ」
「七海さんですか…任務は問題ないと思いますけど、本人はちゃんと休めてるか心配ですね…」
「あ、そうだ刹那、久し振りに稽古つけてあげようか?」
五条が話を急転換させる。
「急ですね五条先生、出張で疲れてるんじゃないんですか?」
「たまには可愛い生徒の成長を見たくてね」
五条は考えを悟らせないように言葉を濁すが、刹那に嘘は通じない。刹那はあえてその提案に乗る。
「…分かりました、じゃあ移動しましょう」
「そうこなくちゃね」
二人は高専内の稽古場へと移動する。
「術式は使用可ですか?」
「それじゃあ殺し合いでしょ。ただの体術だよ」
二人が向かいあい、準備運動がてらに組み合う。
バッ! シュッ! トトッ、クルッ
お互い呼吸を乱さない程度の動きで喋り始める。
「ハハッ! ちょっと見ない間にまた強くなったんじゃない?」
「そんなことより」
五条の拳を避け、腕と腕を重ねて止まる。
「話したいことがあるんじゃないんですか?」
「フフ、じゃあこのまま話そうか」
手合わせをジャブ程度に続けながら話し始める。
「この間話した件なんだけど」
「この間…呪霊の大量発生と箱ですか?」
「そうそう、その件でね、中々まずいことが起こってんだよね」
「珍しいですね、楽観視しがちな五条先生が後ろ向きな発言をするなんてっ」
ヒュウゥッ ヒョイッ
ハイキックを繰り出すが容易く回避される。
「僕も人間だからね、そりゃあちょっとくらい弱音を吐くことだってあるよ」
「ふーん。それで、何がまずいんです?」
「いやー見つけた箱を厳重な管理の元、全部開けてみたんだよね、そしたら数十個に一個くらいの確率で呪いが込められた札が中に貼ってあってさ」
「当たりクジみたいですね、それの何が問題なんですか?」
「非術師が見つけてさ、例のサイトに載っけちゃったんだよね」
「…なんとなく分かりました」
ダンッ!
刹那は飛び退いて距離を取る。
「それ、かなりまずくないですか?」
「そうなんだよ、箱に対する負の感情が本格的に集まってきた、今までは"ただの変な箱"だったのが今は"怪しい箱"になってる、しかも例のサイトに載せられたことによって、更に負の感情が箱に集まってる」
「呪詛師側の思うツボでしょうね」
「その呪詛師を全力で探してるんだけど、隠密に特化したような術師がいるのか、器用に逃げててさ。全然見つからないんだよね」
「夏油先生の呪霊を使うのは?」
「一級以上特級未満、そんな呪霊が増えまくってるせいでどこもいっぱいいっぱい、傑も任務だよ」
「その割には五条先生は暇そうですね」
「これでも毎日県を跨いでお仕事してるよ」
そう言って再び組み合いが始まる。
「冗談ですよ、じゃあ箱は回収よりも破壊の方がいいんですか?」
「それも考えたけど、中に溜まった呪力が霧散すればさらに呪霊が湧く。かなり面倒な呪物だねぇ」
「大元を叩くしかないってことですか」
「ここまで時間をかけて準備してるんだ、そろそろ何かアクションを起こすはず、青春を楽しむのを忘れずに、刹那も頑張って、ねっ!」
ブオッン! クルッ、トンッ
五条に投げられ、空中で回転し受け身を取る。
「あっちゃあ、完璧に入ったと思ったんだけどなぁ」
「か弱い乙女を投げないでくださいよ」
「あっはは、それ、君には似合わない言葉だね」
話が一段落して二人共休むと扉が開き釘崎と伏黒が入ってくる。
「あれ? なんで二人がいんの?」
「恵に野薔薇じゃないか、どうしたんだい二人共」
「伏黒が今日の昼ボコられて、悔しくて鍛煉したいって言うから付き合ってんの」
「ちげぇ、授業中抜けたから遅れを──」
「うっさい、同じよ」
ぐぬぬと唸りながらも反論できない伏黒を五条はニヤニヤしながら見る。
「じゃ、僕達はそこで見てるから二人は好きなようにしちゃってよ」
「言われなくてもしますよ」
伏黒がそういうと二人は組手を始める。
「…五条先生、嬉しそうですね」
「嬉しくないわけないじゃないか、生徒達がこんなにも成長しているのを見られるんだ」
「そういうもんなんですね」
「刹那も大人になれば分かるよ」
そういものかと考え、二人の組手をボーッと眺める。やがて組手は終わり各々自室へと戻って行った。
時間が経ち、交流会の当日早朝、とある部屋にて虎杖生存を知る三人が集まっていた。
「七海ぃ、なんか面白い話ししてぇー」
「……」
五条は椅子にだらしなく腰掛け、新聞を読んでいる七海に無茶振りをするが、完全に無視される。
「よし分かった! じゃあ廃棄のおにぎりでキャッチボールしながら政教分離について語ろうぜー、そんで動画あげて炎上しようぜー!」
「お一人で」
「うっわ七海、つまんな、ユーモアがない大人はモテないよ?刹那もそう思わない?」
「すいません、僕も七海さんと概ね同意見です」
同意を求める五条に苦笑しながら刹那は答え、それならばと突然ゲームを始める。
「五条悟の好きな場所で山手線ゲーム!!」
パンパン!
「全部!!」
「その調子で頼みますよ、今の虎杖君にはそういう馬鹿さが必要ですから」
「…重めの任務ってそういう意味じゃなかったんだけどなー」
アイマスクを整えながら五条は呟く。
「吉野って子の家にあった指について悠仁に──」
「言ってません、彼の場合不要な責任を感じるでしょう」
「お前に任せて良かったよ」
「あ、その指はどうされたんですか?」
「上に提出しましたよ、五条さんに渡すと食べさせるでしょうし」
「チッ!」
「それより、私が遭遇した特級含め、最近呪霊の発生とその強さが格段に上がっています、そのせいで特級の出番が増えてるんじゃないんですか?」
「お前が僕の心配するなんて今日は雨でも降るんじゃない?」
「誰も貴方の心配はしていません、私は刹那さんの心配をしているんです」
「僕ですか?」
「貴方は以前から私に休息も必要と言って任務を代わったりしますが、自身を犠牲にするようなやり方は良くないですよ」
「…術式のおかげで疲れは溜まりませんよ」
「貴方はまだ子供なんです、体の疲れは無くせども心の疲れは確実に出ます。あの五条さんでさえ疲労は溜まるんです、少しは自分の体調も鑑みるべきかと」
「なんか、五条先生に言われるより説得力が凄いです…」
「流石の僕でも傷ついちゃうよ?」
「先生ー!!」
三人が話していると後ろから虎杖が大声をだして五条を呼ぶ。
「あ、刹那とナナミンもいる!」
「おはようございます悠仁君、いよいよ皆と対面ですね」
ワクワクと言う言葉が見えるかのように、わかりやすく笑顔を振りまく虎杖。二人で喜んでいると五条が横入りする。
「悠仁、もしかしてここまで引っ張って普通に登場するつもり?」
「え、違うの!?」
「死んでた仲間が二月後、実は生きてましたなんて術師やっててもそうないよ」
そこまでいって五条はいつものようにニヤリと笑ってみせる。
「やるでしょ、サプライズ!!」
「サプライズ…」
「ま、僕に任せてよ、他の一年は驚きで泣き笑い、二年も京都校ももらい泣き、嗚咽のあまりゲロを吐くものも現れ、最終的に地球温暖化も解決する」
「イイネ!」
「地球温暖化解決…!素晴らしいアイデアですね!」
刹那と虎杖はかなり前向きにサプライズを考えている。
「なにしたらいい!?先生俺何したらいい!?」
「何もするな!!ただ僕の言う通りにしろ!!」
「だから何したらいいいい!?」
「生きてるだけでサプライズでしょうに…」
──
数時間後
大きな箱に虎杖は詰められ、作戦の確認中
「俺はこの箱から飛び出せばいいんだよね?」
「そう!僕が完璧なタイミングで合図を出すから悠仁はそこで飛び出す!そしてその時刹那がクラッカーをパ~ン!…う~ん、我ながら完璧なシナリオだ」
三人は今まさに既に両高校が集まっている所にサプライズで行く所だ。
「皆さん喜んでくれますかね」
「無問題!このGTGが考えたプランに隙はない!」
「すっげぇー!流石最強!」
「よし、そろそろ行くよー!」
三人は目的地へと走る。
「おまたー!!」
勢いよく大きな箱をガラガラと押して乱入し、後ろから刹那も追いつく。
「チッ、五条悟!」
「やあやあ皆さんお揃いで、実は海外出張に行ってましてね」
「なんか語りだしたぞ」
「はい、お土産京都校の皆さんにはとある部族のお守り。あ、歌姫のはないよ」
「いらねぇよ!」
そしてくるりと東京校にの方に振り返る。
刹那はクラッカーを準備する。
「そして東京都の皆さんにはコチラ!!」
「ハイテンションな大人って不気味ね」
釘崎が呟く。瞬間
バゴッ!! パァン! パァン!
鈍い音と同時に刹那がクラッカーを鳴らし、箱の中から虎杖が飛び出る。
「故人の虎杖悠仁君でーす!」
「はい!おっぱっぴー!」
三人のサプライズは実を結ぶことなく、その場の全員が沈黙し、京都校に至ってはお土産に夢中になっている。
「……な、なぁ刹那…」
「…言いたいことは良く分かりますよ…」
二人が落ち込む他所で楽巌寺学長はひときわ驚きの表情をあらわにする。
「宿儺の器!?どういうことだ…」
「楽巌寺学長ー!いやー良かった良かった、びっくりして死んじゃったらどうしようかと思いましたよ」
クックッと嗤う五条に、楽巌寺は悪態をつく。
「糞餓鬼が…!」
ガンッ
釘崎が虎杖が入っている箱を蹴り、虎杖と刹那は姿勢を正す。
「おい、何か言うことあんだろ」
涙を浮かべながらも釘崎の剣幕に押される。
「生きてること黙っててすんませんでした…」
「刹那も!」
「すみませんでした…」
サプライズ演出を含めた挨拶が終わり、両校ミーティングへと移る。
「あのぉー、これは見方によってはとてもハードないじめでは…」
虎杖は罰として額縁を顔に合わせて持たされ正座させられていた。
「うるせぇしばらくそうしてろ」
「恵君…僕のこれは…」
「お前も甘んじて受けとけ、あいつよりマシだろ」
刹那も正座させられ、謝罪が書かれたプレートを首からかけていた。
「まぁまぁ、事情は説明されたろ、許してやれって」
「喋った!」
「しゃけしゃけ」
「なんて?」
二人?の先輩の言葉に虎杖は反応し、伏黒が説明を挟む。
「狗巻先輩は呪言師、言霊の増幅・強制の術式だからな、安全を考慮して語彙絞ってんだよ」
「死ねっつったら相手死ぬってこと?最強じゃん」
「そんな便利なもんじゃないさ」
パンダがさらに補足する。
「実力差によってケースバイケースだがな、強い言葉を使えばデカい反動がくるし、最悪自分に返ってくる。語彙絞るのは棘自身を守るためでもあんのさ」
「ふーん、で、先輩はなんで喋れんの?」
「他人の術式をペラペラと…」
「いいんだよ、棘のはそういう次元じゃねーから、んなことより悠仁、屠坐魔返せよ。悟に借りたろ」
真希に言われ、虎杖は自身で壊したことを思い出してカタコトで嘘をつく。
「…五条先生ガ…持ッテルヨ」
「チッあの馬鹿目隠し」
雑談を終わらせて作戦会議に移る。
「で、どうするよ。団体戦形式はまぁ予想通りとして、メンバーが増えちまった。作戦変更か?時間ねぇぞ」
そこで正座してプレートを掛けたままの刹那が答える。
「あ、それに関しては問題ないですよ」
「その前にまずやめていいぞ、それ」
刹那はプレートを外して足を気持ちよく伸ばす。
「で、何で問題ないんだ?」
「このニヶ月の半分、悠仁君を僕と五条先生でみっちりしごきました。向こうの葵先輩とも手合わせしましたが、確信を持って言えますよ、呪力無しでやり合ったら悠仁君が勝ちます」
「それに関しては俺も同意ですね」
「それは刹那を含めてか?」
「あ~それは絶対無理、俺一ヶ月間で一本も取れてねぇもん」
まぁそれは仕方ないというような表情で全員が頷く。
「じゃあ人数はどうすんだよ? こっち一人多いから抜かなきゃなんねぇぞ」
「あ~、僕、教員の監督側に移ることになったので…」
「えー!? 刹那抜けんの?」
「はい…えっと、色々あって」
しどろもどろになりながら説明しようとすると、五条が現れ代弁する。
「まぁ、説明しにくいのも無理はないけどね。最近異常発生してる呪霊とその他諸々の事情があるから、特級は全員いつでも動けるように可能な限り待機しろって上の奴らが言ってんのよ、ビビリだよねぇ〜」
「そういうことなら仕方ねーな」
「でも心配ないよ、悠仁の強さは僕と刹那の折り紙つきだ」
「悟がそこまで言うんだ、期待するぜ悠仁」
「しゃけ!」
「ヘマしたら承知しねーぞ、悠仁」
「押忍!頑張ります!」
ミーティングが終わり全員が所定につくと、伏黒が虎杖に問いかける。
「虎杖、大丈夫かお前」
「おーっなんか大役っぽいけど大丈夫だべ」
「そうじゃねぇ、お前、何かあったろ」
「あ?何もねーよっ」
一度誤魔化す虎杖だが、伏黒は確信を持って虎杖を見つめ、根負けする。
「……あった。けど大丈夫なのは本当だよ、むしろそのおかげで誰にも負けたくねーんだわ」
「……ならいい。俺も、割と負けたくない」
「何が割とよ、一度ぶっ転がされてんのよ!? 圧勝!! コテンパンにしてやんのよ!! 真希さんのためにも!!」
「……そーいうのやめろ」
「明太子!!」
「そう、真希のためにもな!!」
「へへっ、じゃあ、勝つぞ」
「勝手に仕切んなっ」
でしゃばる虎杖の背に真希は蹴りを入れる。
姉妹校交流会が今、始まる。