全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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オリジナル一級呪物"廻城"、指定した範囲を呪力の壁で覆い、数か所の門からのみ出入りを可能にし、門から以外の脱出を不可能にする。範囲の中で放出された呪力量に応じて強度が増していくが、容量を超えると内側に溜め込んだ呪力を無差別に放出する。
五条が高専時代に三つ発見、うち一つは五条と夏油が喧嘩した時に壊れた。


第二十六話 善と偽善

 ウィーンという音を立てながらDVDは再生される。

 

 画面にはどこかの廃墟のような場所で、縁日で売ってるような能面を被った和服の男の姿が映る。

その画面をその場の全員で見つめていると男が喋りだす。

 

 〔あー、あー多分聞こえてるよな? 〕

 

 その声はかなりいじられていて、ヘリウムガスを吸ったように奇妙な高音で話す。

 

 〔悪いね、顔も声も晒すわけにはいかないんだ。ついでに言っておくが、この録画はかなり前のものだから特定しようとしても無駄だよ〕

 

 録画のためそのまま話し続ける。

 

 〔改めて、高専呪術師諸君、御機嫌よう。手早く行こう、今回の呪霊大量の原因は私とその仲間たちだよ。今回はそちらから宿儺の指と九相図、それと呪物をいくつか拝借させてもらった〕

 

 呪詛師の正体を悟らせないためか言葉遣いを変えて話し続ける。

 

 〔今回、この映像を君達に送った理由は、私達とゲームをしないかという提案だ、とは言っても君達に拒否権は無いがね。今現在私達は、"大江山"、"比叡山"の二つを占領している。そこには、件の箱含め多くの呪霊を呼ぶ呪物を設置している、それを君達呪術師が全て回収できれば君達の勝ちだ、だがそこには最低でも準一級の呪霊が数多く闊歩している。その呪霊たちは山の外に向かって行き、なるべく多くの非術師を殺すよう躾けてある。すまないね、増やし過ぎて私も何体か詳しくは覚えてないんだが、退屈はしない量だと思うよ〕

 

 画面の男はクツクツと嗤う。

 

 〔あぁそうだ、五条悟は聞いているかい? これは君に対する対策でもあるが、赫や茈を使うのはあまりオススメしない。どうせ行けば分かるだろけどな、俺は二つの山に一級呪物、"廻城"を使用してる、もしも壊そうものなら君の大切な生徒達はまとめてお陀仏だ〕

 

 手をパンと合わせて壊したらどうなるかを暗喩する。

 

 〔さて、ここまでの視聴、お疲れさん。開戦は十月十日、その間に山を取り返そうものなら呪霊を日本中にばら撒くから、よろしくね〕

 

終わりかと思われ、DVDを停止させようとすると再び男が喋りだす。

 

〔あぁ、ここまで見てくれたんだ、折角だし出血大サービスといこう、私の術式は"呪霊合術"調伏した弱い呪霊や強い呪霊を好き勝手に混ぜ合わせて強化できる…具体的な計算は色々あるがね、では精々頑張りたまえ、偽善者諸君〕

 

 DVDの再生が終わり、暫くの間沈黙が流れる。最初に沈黙を破ったのは五条だった。

 

「…やられた、最後の最後にこの人数相手に術式を明かして術式を強化しやがった」

 

「何がゲームだか、要するにテロするから止めてみろって言いたいんでしょう」

 

「向こうの狙いは五条君かな、君が徹底的に戦い辛い状況を作ってる」

 

「多数の呪物の回収、大技禁止、二箇所同時、一人じゃ抑えられない量の呪霊の討滅…確かにMr.五条の苦手な局面が詰まっているな」

 

 東堂が補足し、それを聞いた夜蛾が状況を整理しようと務める。

 

「約一月後、比叡山と大江山でか…」

 

「何がゲームだよ胸クソ悪い」

 

「なぁ、大江山と比叡山って?」

 

「アンタほんとに何も知らないのね、大江山は酒呑童子の伝説がある山、比叡山は多くの伝承、都市伝説が残る山、どっちも一般的には観光地だけど、呪いに利用されようもんなら最悪の場所よ」

 

「本来ならそういう場所は呪術連盟が抑えてるんだが、今回の騒動に乗じてやられたな」

 

 二人が虎杖に詳細に説明すると五条が全員に向かって問いかける。

 

「今から半月後にテロをしまーす、沢山人が死ぬのが嫌なら頑張って止めてみて下さーい、だってさ、どうする? 死人も出てるしこんな状態だけど交流会続ける?」

 

「当然、続けるに決まっているだろう」

 

「東堂!」

 

 虎杖が叫ぶ。

 

「その心は?」

 

「一つ、故人を偲ぶのは当人と縁のある者たちの特権だ、俺たちが立ち入る問題ではない。二つ、人死にが出たのならば尚更俺たちに求められるのは強くなることだ。後天的強さとは"結果"の積み重ね、敗北を噛み締め勝利を味わう、そうやって俺たちは成長する。"結果"は"結果"としてあることが一番重要なんだ」

 

「東堂先輩って意外としっかりしてるんですね」

 

「しっかりイカれてんのよ」

 

 東堂が持論を発表し、小声で三輪は真依に話す。

 

「三つ、学生時代の不完全燃焼感は死ぬまで尾を引くものだからな」

 

「オマエいくつだよ」

 

 五条の突っ込みが入る。

 

「俺は構わないですよ」

 

「どーせ勝つしね」

 

「屁理屈だが一理ある」

 

「加茂君は休んだら?」

 

「異議なーし」

 

「しゃけ」

 

「個人戦の組合せはくじ引きか?」

 

「え、今年は個人戦やんないよ」

 

 その場の全員が一斉にハテナマークを頭に浮かべる。

 

「僕ルーティンって嫌いなんだよね、毎年この箱に勝負方法入れて当日開けんの」

 

 ポイッと虎杖に箱を投げ、虎杖は紙を引く。

 

「おい五条どういうことだ」

 

「野球って出たけど…」

 

「「や、野球ぅー??」」

 

「どういうことだ夜蛾」

 

「いや私は確かに個人戦と…待て悟!!」

 

「ばーい♪」

 

 五条はいつの間にか入口に立っており、手をヒラヒラ振りながら出ていく。

 

「…相変わらず自由な人ですね」

 

「野球かー、久し振りにやるなぁ、皆はやったことある?」

 

「当たり前よ、野薔薇様の華麗なホームランを目に焼き付けなさい」

 

「ルールくらいは知ってる」

 

「見たこともやったことも無いので、マネージャーでもいいですか?」

 

「人数多いからなぁ、それでいいんなら構わんが、投手は真希か?」

 

「しゃけ」

 

「キャッチャーは悠仁でいいだろ」

 

 東京校の生徒達は乗り気で、京都校は歌姫が率先して動き、学長たちは流れに身を任せる他なかった。

 

 ──ー

 

「プレイボール!!」

 

 五条の合図と共に野球が始まる。正確には二回目のプレイボールなので既に始まっているが。

 

「待て西宮! まだ走るなぁ!」

 

 三輪が犠牲フライを打ち上げるが、ルールを理解していない西宮は二塁を蹴って走り出し、歌姫に怒られアウトになる。

 

「ルール知らないなら先に言っときなさい!」

 

「知ってるよ! 打ったら走るんでしょ!? 犠牲フライ? 何じゃそりゃ! 新しい拷問か!?」

 

「バカ! シンプルにバカ!」

 

 三輪に続き加茂の打順。

 

「…君は、何故呪術師になったんだ?」

 

「あー、きっかけは成り行きっす、寂しがり屋なんでね、死ぬときは大勢の人に看取ってもらいたいんすよ」

 

「…そうか、それは」

 

 バスン! 

 

「良い」

 

 バズン! 

 

「理由だ」

 

 バズン! 

 

「ストラーイク! バッターアウッ! チェンジ!」

 

「加茂ォ! 振んなきゃ当たんねぇぞ!」

 

 歌姫の熱烈な指示とともに攻守が交代する。

 

「任せなさい、東北のマー君たぁ、私のことよ」

 

「東北のマー君はマー君だろ」

 

「マー君投手だぞー!」

 

 釘崎の発言に二人はヤジを飛ばす。

 

 投手、メカ丸(ピッチングマシーン)

 

「ちょっっっと待てぇ!!」

 

「釘崎がキレた! 乱闘だぁ!!」

 

「ちょっ、野薔薇ちゃん!?」

 

 釘崎はバットを放り真依に向かって文句を言いに行く。それを虎杖と刹那で止めにかかる。

 

「どう見てもピッチングマシーンだろうが!」

 

「スペアよスペアメカ丸、ピッチ…ングマシーン? ちょっと良くわからないわ、あなた詳しいのねもしかしてオタク?」

 

「よくもまぁ、曲がりなりにも高専生がよぉ…!」

 

 釘崎はボックスに戻り、全員ベンチへと帰る。

 

 カキーン!! 

 

「やってやんよぉー!!」

 

「お、間に合った」

 

「ヤケクソだな」

 

「ナイスバッティングー」

 

 続く伏黒の打順

 

「伏黒! ホームラン! 見てみたーい!」

 

「うるせぇ」

 

 コンッ

 

 虎杖の期待を裏切り、バントで出塁を試みるがアウトになる。

 

「アウトー!」

 

「ドンマイ! 伏黒」

 

「ドンマイです、恵君」

 

「気にすんな、行ってくるわ」

 

 パンダの打順

 

「パンダ先輩がバッターボックスに立つのはなんか…不思議な光景ですね」

 

「それには激しく同意するわ」

 

 続いて真希の打順、真希は予告ホームランをする。

 

 キーーン!!! 

 

「よし、三点」

 

 カランッとバットを放りホームランを確信する真希、しかし京都校は人数不足のため一人だけ術式の使用が可能になっている。

 

 パスッ

 

「"なっ」

 

 西宮のホームランキャッチにより真希はアウトになる。

 

「うわっ! せこぉ!!」

 

「おかか!」

 

「釘崎戻れー」

 

 二回表

 

「フッ……キャッチャーか、捕球送球、リード、フィルディングetc…虎杖にふさわしい役割と言えよう。だが、俺が望むのは投手虎杖との一騎打ちだ!」

 

「東堂!! …お前が投手やればいいじゃん 」

 

「駄目よ、メカ丸が今投手しかできないんだから」

 

「約束してくれ、今回俺がこの打席でホームランを打ったら、次回お前がピッ」

 

 メキョッ

 

 真希の死球が東堂の顔面に見事命中し虚ろな目をした東堂はその場に倒れ伏す。

 

「と、東堂!! しっかりしろ!!」

 

 だが、それと共に場内に響くナイスピッチコール、それは敵味方関係なくその場にこだまする。

 

「ナイスピッチー」

 

「ナイッピー」

 

「ナイッピ〜」

 

「真希さんナイッピー」

 

「東堂、お前…めちゃくちゃ嫌われてるな…!」

 

 刹那は東堂に近寄り目の前で手を振る。

 

「葵先輩、意識ありますー?」

 

「まだだ…俺には高田ちゃんを幸せにする義務が…!」

 

「駄目だな、頭打って現実と夢の境界が曖昧になってるわ」

 

 虎杖が辛辣にも言い放つと刹那は東堂を引きずってベンチまで連れて行く

 

 ズリズリズリ

 

「じゃあベンチまで運びますねー」

 

 カコーン! 

 

「おおっ、間に合ったっ」

 

「狗巻先輩足速いんだよ」

 

「すじこ」

 

 ピースしながらドヤ顔を決める狗巻。

 

「うっし! 次俺か! 行ってくるわ」

 

「ファイトー」

 

 野球の試合を離れて観戦する夜蛾と楽巌寺、二人の会話は虎杖に関することだった。

 

「まだ…虎杖が嫌いですか」

 

「好き嫌いの話ではない、虎杖は本来呪術規定によれば存在すら許されん、あやつが生きとるのは五条の我儘。個の為に集団の規則を歪めてはならんのだ、何より虎杖が生きていることでその他大勢が死ぬかもしれん」

 

「だが彼のおかげで救われた命も確かにある。現に今回、東堂と協力して特級を退けた…学生に限った話ではありませんが、彼らはこれから多くの後悔を積み重ねる。ああすれば良かった、こうして欲しかった、ああ言えばよかった、こうして欲しかった…情けないことに、私は昔、気付けなかった生徒がいました…彼は親友に救われたお陰で今も呪術師を続けている。虎杖についての判断が正しいかどうか、正直私にも分かりません…ただ、今は見守りませんか」

 

 カキーン!! 

 

「私達の後悔は、その後でいい」

 

 虎杖のホームランにより2ー0の結果で姉妹校交流会は東京校が勝利を収めた。

 

「夜蛾、お前はまず五条をどうにかしろ」

 

 ひとまず現状を飲み込むことにした両学長は五条を見ながら一つため息をついた。




ここから原作と若干の時間のズレが出てきます。
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