全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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心が痛ぇ


第三十三話 特級呪霊、ニ酒に酔う

「「夏油先生!」」

 

「皆怪我はない?」

 

「無事に帰ってきた?」

 

 美々子と菜々子が夏油に近寄り、四人の体の心配をする。

 

「問題ないよ、それよりも皆聞いてくれ、話がある」

 

 夏油は簡易拠点の前まで小走りで向かい現状を伝える。

 

「どうした傑」

 

「大江山にて二体の特級呪霊を確認、一体は市街地、つまり非術師の避難している方向に向かって直進中、もう一体は山頂から低速ながら同じように進行中、恐らくだが向こうの切り札だ」

 

「は? おいおいおい、その特級をどうしろってんだよ、二体同時にここの全員で相手しろってのか?」

 

 日下部がテントから出てきて夏油に言うが無慈悲な返答が返ってくる。

 

「いや、私達が戦うのは山頂にいる奴だけだ、向こうは見る限り手数が多い、こっちも出来うる限り大人数で挑んだほうが良い」

 

「もう一体はどうすんだよ?」

 

「もう一体は人型の呪霊だ、一対一対(タイマン)において右に出るものはいない呪術師が一人いるだろう?」

 

 夏油は刹那の方に目をやり、笑って見せる。

 

「おい傑、いくらなんでも一人は危ないんじゃないか? 三人、最低でも二人は共に行動するべきだ」

 

「その意見には私らも賛成だ、大事な後輩一人で特級の相手させろってのか?」

 

「しゃけ、昆布!」

 

「我々大人には子供を守る義務があります、一人にさせるのは私も賛同できません」

 

 全員が口を揃えて反対するが、夏油は指示を変える気はない。

 

「皆の意見も最もだ、しかし私は術式上、この場において相手の呪霊たちの特性を一番理解している、その上でもう一度言おう、刹那には一人で片方の呪霊の相手をしてもらう」

 

「先輩、先生方、悪いけど俺らは夏油先生に賛成っす」

 

「私達は刹那の実力を信用してるし、夏油先生がここまで言うのはきっと何か理由があるんだと思うもの」

 

 二人は夏油に賛同する。

 

「……傑、お前の一級呪霊を一、いや二体同行させろ、それで手を打つ」

 

「学長!」

 

 七海が声を荒げるが夜蛾は冷静に判断を下す。

 

「言いたいことは分かっている、だが、もとより刹那は特級、そもそも負けるとは考えにくい、ここは一つ、信用してみるとしよう」

 

「っ! 分かりました、あなたは聡明な人だ、今回は信じます」

 

「私達は納得してねーけどな」

 

「真希、心配なのは分かるけどよ、ここは大人しく全体の指示に従おうぜ」

 

「しゃけー…」

 

「夜蛾学長、承認感謝します」

 

「それは今はいい、それより呪霊はあとどのくらいだ?」

 

「人型は二合目、山頂のやつは七合目辺りですね」

 

 夏油が呪霊を介して現状を把握する。

 

「刹那、大役だな、気張れよ!」

 

「絶っっ対勝ちなさいよ、まだあなたに化粧教えてないんだから」

 

「死ぬなよ、死んでも泣いてやらねーからな」

 

「真希なりの心配なんだ、許してやってくれ」

 

「高菜! ツナツナ!」

 

「刹那さん、くれぐれも気をつけて、駄目だと判断したら夏油さんの呪霊を盾にして逃げてください」

 

「オレはなんも分かんないけど、頑張ってな!」

 

「はい、すぐに祓って加勢しますよ」

 

 全員から激励をもらい、刹那は笑ってそう言ってみせる。

 

「刹那、そろそろくるよ、上手く分断するから街中で戦闘するんだ、いいね?」

 

「了解、いつでも良いですよ」

 

「よし、総員離れるんだ! なるべく呪霊同士の距離を離すために市街地へ誘導する!」

 

 夏油の指示が行き渡り術師と補助監督はその場を離れて隠れる。

 

 ……ドドドドドドドド

 

 ドグゥオオオン! 

 

 轟音と共に門が全開し、それは姿を現した。

 

 五メートルはある巨体に二本の角、手には盃、腰には瓢箪、見据える目は鮮血の如く紅く光る呪霊の姿

 

「さてと、鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

 

 刹那が合図を出すと夏油の使役する低級の呪霊が鬼型呪霊の周りを飛び回り市街地の方へと誘導する。刹那に付く一級呪霊は空を飛んで刹那についていく。

 

 ォォオオオ!!!! 

 

 ドドドドドドド……

 

「誘導は成功したな、元より非術師の方へ行くみたいだから念の為だが、これでこっちに集中できる」

 

 誘導を終え、全員で山の方を見据える。

 

「傑、具体的な作戦はあるのか?」

 

「やつは恐らく八岐の大蛇の類かと思われます、八つの首と八つの尾を持つ伝承から生まれた特級仮想怨霊、同様にさっきの鬼は酒呑童子の仮想怨霊ですね」

 

「とすると、特級呪物を使われた可能性が高いな」

 

「多分ね、その伝承と縁のある呪物を使うことによって仮想怨霊を強制的に生みだすことができる、今回は呪術連盟が管理していた酒呑童子の盃と八塩折の酒、この二つによるものだろう」

 

「特級とは何なのか疑いたくなるような量だ…」

 

「あぁ本当にな、だが向こうもそんなにほいほい手に入れられるわけじゃない、きっとこれで打ち止めだろう」

 

 ズズズ

 

 夏油はそういって手持ちの一級呪霊を数体呼び出す。

 

「八岐の大蛇は簡単に言えば八体の呪霊がくっついて行動してると思ってくれて構わない、やつの血は伝承通りであれば猛毒、血には触れないように短期決戦だ、最終的には私が取り込もう」

 

「了解、皆に伝えよう」

 

 夜蛾が動き、それぞれはその時まで麓で休んでいる。

 

「なー釘崎、伏黒は参加できない感じ?」

 

「見てきたけどボロボロだったわ、あれじゃ無理ね」

 

「七海サン、特級ってマジすか…」

 

「言いたいことは分かりますが私達が止めなければ甚大な被害が出ます、気張っていきましょう」

 

「パンダ、お前毒効かねぇんだから直に殴りまくれよ」

 

「呪骸に人権はないんですかー?」

 

「人じゃねぇしな」

 

「明太子ぉー」

 

「美々子と菜々子は直接戦闘できないからね、離れて援護を頼むよ」

 

「「りょーかーい!」」

 

「特級術師様がいるんなら問題ないな、皆疲労が溜まってる、時間はかけらんねぇ」

 

 ……ドズンドズン

 

「来たな…全員構えろ」

 

 夜蛾の合図でそれぞれが得物を構える。

 

 門の奥で渦巻く呪力の波と足音はどんどん大きくなりその場に緊張が走る。

 

 ズズズン…ギィィィ

 

 山と言われても疑わないような風貌をした大きな呪霊がその姿をのそりと現す。

 

「攻撃開始ィ!!」

 

 夜蛾の合図と共に一斉に呪霊にむかい攻撃を開始するが、呪霊は八本の首をそれぞれに伸ばし応戦を開始する。

 

 グルォォォォ!!!! 

 

「十劃呪法」

 

「来訪瑞獣、一番獬豸!」

 

 ゴッ! 、ドスス

 

「手応えが鈍い、呪力量が桁違いすぎる」

 

「うわっ、二番!」

 

 ボヨォン

 

 伊野が水のクッションを作り弾かれた七海と共に着水する。

 

 ブオンッ! 

 

「シン・陰流簡易領域、夕月」

 

 ガギィイン

 

「は!? 固ってぇ!!」

 

 日下部は居合で首を斬ろうとするが、途中で刃が止まり振り払われ受け身を取りながら距離をとる。

 

「釘崎!!」

 

「わからいでか!」

 

 カインッ!! 

 

「ざっけんなこらぁ!」

 

 虎杖は釘崎を横抱きにして首を横跳びで回避し、同時に釘崎は釘を飛ばして応戦するが刺さることなく弾かれる。

 

「止 ま れ!!」

 

 ビタッ

 

激震掌(ドラミングビート)!」

 

「オラァ!」

 

 ゴウン! バキキ! 

 

 狗巻の呪言で動きを止め二人で攻撃するが、真希のトンファーは折れ、パンダのパンチは手応えを感じず鈍い音が響く。

 

「うわっ固っ」

 

 ゴウッッ!! ガブガブ!! 

 

 夏油の使役する呪霊が首を焼きながら噛みつき、夏油はその間に呪霊で空に飛び、様子を見る。

 

 ズズズンッンンンン

 

 グルォォォ

 

「首固すぎ!」

 

「あれ殴んのはきっついな」

 

 ドゴン! ドゴトゴドゴ!! 

 

 八つの首と八つの尾でやたらめたらにに暴れ回り、

 

 その衝撃で血は飛び散り着弾したところが溶けていく、さらに首の叩きつけによって地形が変動を繰り返す。

 

「くっ!」

 

「オラッ! ドォッラ!」

 

 バゴォン! バゴッ

 

 ガインッギンギン! 

 

 全員回避や瓦礫を叩き落とすなどで対策するが、地形の変化によって不利な状況、怪我は避けられない。

 

「防戦一方になる! 一本でいい、落とすぞ!」

 

「棘! 頼んだ!」

 

 真希の合図で狗巻は深く息を吸う。

 

「し ず め!!!」

 

 ズゥゥゥゥン!! 

 

 狗巻は膝をつくが、首だけではなく呪霊全体に向けた呪言の効力により呪霊は地面へと叩きつけられるようにして沈む。

 

「今だ! 畳み掛けろ!」

 

「狙う首を一本に絞りましょう、頭数を減らさなければ」

 

 夏油と七海の合図で一本の首に集中して攻撃する。

 

 ギィンギン! ドゴォ、メシャア! 、グリリリ! 

 

 ズバンッ

 

 猛攻によって首を一本切り離すことに成功するが、同時に呪霊の拘束が解ける。全員その場から離れるが地形が変動した影響で釘崎の回避が遅れる。呪霊はそれを見逃すことなく残った七本の首の口に火をつけて燃やしながら噛み付いてくる

 

「ヤバっ」

 

「釘崎!!」

 

 ガヂンガヂンガヂンガヂンガヂンドォゥ! 

 

 虎杖が釘崎を引っ張り上げて間一髪で回避するが虎杖は左腕を噛まれ、その箇所を高温によって焼かれる。

 

「こんのっ、オラァッ!」

 

 ゴスッ

 

 右腕で肘打ちを目にいれて離脱に成功するが、虎杖は落下していく。

 

 呪霊は七本の首を揃えて喉をゴロゴロと鳴らし、虎杖と釘崎に向けて何かを吐こうとする。

 

 ジュヴヴ

 

「ゔぁ"ぐっ!!」

 

「まずい、呪霊を止めろ!」

 

「悠二離れろ! 来るぞ!」

 

「に げっゴホッ」

 

 夏油は虎杖に呪霊を飛ばすがどう頑張っても間に合う距離ではなく虎杖達に緑色の液体が降りかかる。

 

「虎杖君!!」

 

「悠二!!」

 

「虎杖…あんたはやっぱり馬鹿ねぇ」

 

「ははっ、今それ言うのかよ?」

 

 パシャッ

 

 ジュワァァァァ! 

 

 液体が降りかかったところはドロドロに溶けていく、煙が晴れるがそこには二人の骨すら残っていなかった。

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