全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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ちょっと女性は閲覧注意な描写ありなのでお気をつけて、、、いや三話の時点で今更かもですけど。


第三十四話 黒く弾ける心

 パシャッ

 

 ジュワァァァァ! 

 

 液体が降りかかったところはドロドロに溶けていく、煙が晴れるがそこには二人の骨すら残っていなかった。

 

「……」

 

 ほんの少しの静寂、言葉を失う一同。だが、その静寂は次の瞬間に破られる。

 

「うぉ! 俺生きてる!??」

 

「なんで!? 私達絶対死んだわよね!?」

 

「そうか、菜々子か!」

 

 菜々子の術式によって虎杖と釘崎は一定のダメージを受けながらも助かり、美々子にロープで引っ張られて戦線から一旦離脱する。

 

「菜々子無茶しすぎだよ!」

 

「ごめーん、てか動けないのはしかたないけどロープで引きずることなくなーい?」

 

「菜々子先輩っ!?」

 

「マジ危なかったし! あんなの食らったら確実にあの世行きだから! 戻ったらなんか奢ってよね」

 

「命に比べたら安いもんよね」

 

 美々子に引きずられながらも三人は命に別状なく、釘崎と虎杖は戦闘に戻ろうとする。

 

「死人は出てない! もう一度隙を作って攻撃するんだ!」

 

「仕方ない、伊野君、着地を任せます」

 

「了解っす! 七海サン!」

 

 七海は武器をしまい拳に呪力を込める。

 

「本来は屋内で効力を発揮する技ですが、直に殴っても効果は期待できる」

 

 七海は飛び上がり比率七対三で呪霊の体に拳を叩き込む。

 

「十劃呪法、瓦落瓦落!」

 

 メゴォォォン!! 

 

 七海が殴った瞬間、呪霊の全身に七海の呪力が地割れのように特有の音を立てて走る。

 

「二番霊亀ッ」

 

 ドプン

 

 伊野は水のクッションを作り空中に身を預けた七海を受け止める。

 

 呪霊は再び態勢を崩して全ての首をだらりと地面に預ける。

 

「チャンスは何度もこない! ここで仕留めろ!」

 

 その場の全員が疲労感により体の動きを鈍らせつつも次々と効果的にダメージを与えていく。

 

「はぁっはぁっ、そろそろ限界だぞ…!」

 

「ゴリラモードももう続かねぇぞ」

 

「お"がが」

 

 努力虚しく再び呪霊は立ち上がるが、明らかにダメージを受けた体だということが、体中から吹きでる血と落ちかけた首から分かる。

 

「傑! まだなのか!?」

 

「あと少し、隙があれば殺れます」

 

「…鵺」

 

 ブオッ、ボトッ

 

「やれ! 釘崎!!」

 

 全身に包帯を巻いた伏黒が遠くで式神、鵺を呼び出して呪霊の落ちて残っている首を拾い、釘崎の方へと投げつける。それをみた呪霊は本能からか釘崎の元へと猛進する。

 

 虎杖は釘崎の前に立ち、東堂との戦闘を振り返り、極限の集中状態を作り出していた。

 

「…邪魔すんじゃっねぇぇぇぇ!!!」

 

 虎杖は釘崎に向かう首の一つを呪力を込めて殴りつける。倒れ伏してしまいそうになるほどの疲労感、菜々子に守られたとはいえ全身が痛む中で仲間を助けるという虎杖の信念、打撃と誤差0.000001の呪力の衝突による空間の歪み、その瞬間に呪力の火花は黒く光る。

 

【黒閃】

 

 虎杖の渾身の黒閃により呪霊の顔面はひしゃげた缶のように歪み、大きくのけ反り、身体にも影響を及ぼす。

 

「ナイスよ虎杖…芻霊呪法、共鳴りぃ!!!!」

 

 ガィン! 

 

 ドクドクドクドクドクドクドクン! 

 

 呪霊の首の部位的希少価値は極めて高い、釘崎の共鳴りは残った七本の首全てに行き渡り、致命的なダメージを与えた。その大きな攻撃のチャンス、呪霊の前に夏油は立つ。

 

「良くやった、流石は悟と私の生徒だな」

 

 ズズズズズズズズズ

 

 夏油は自身の頭上に使役する二級以下の呪霊、百六十三体を纏める。

 

「呪霊操術極の番、うずまき」

 

 超高密度の呪力の塊を呪霊へとぶつけ、前方を大きく直線上に削り飛ばす。呪霊の体は首が五本、胴体も七割ほど消し飛び瀕死の状態になる。

 

 オ"ォ"ォ"…

 

「有り難く、有効活用させてもらうよ」

 

 ズゾズズズズ

 

 コロンッ…ゴクン

 

 夏油は呪霊を黒い塊に変えて飲み込む。

 

「…終わったのか?」

 

 夜蛾が不意に一言呟くと全員その場に無気力に倒れ伏す。

 

「ちょーやばー疲れたー!」

 

「お疲れ様だね、菜々子」

 

「うぉぉー! 七海サン特級倒しましたよ! 特級!」

 

「伊野君、分かりましたから落ち着いて静かにしてください」

 

「命がいくつあっても足りねぇよ…」

 

「よくやった、日下部」

 

「パンダ、お前の上で休ませろ」

 

「俺も疲れてんだけどなぁ」

 

「い"ぐら"」

 

「伏黒が来なかったらやばかったなー」

 

「アンタよくその体で動こうと思ったわね」

 

「悪ぃ、もう動けねえ…」

 

 バタン

 

「ちょっ、伏黒!?」

 

「やっぱ馬鹿ね、男って」

 

 補助監督が治療などで駆け回る中で夜蛾は夏油に問う。

 

「傑、刹那についている呪霊はどうなった?」

 

「……祓われています、何か不足の事態があったのかもしれない」

 

 夏油は飛行する呪霊を呼び出し、刹那の元へと急ごうとするところに、一人の男が走って向かってくる。

 

「たすっ助け、お"え"」

 

「夜蛾学長、何故非術師が?」

 

「分からん、逃げ遅れたのかもしれん。君、落ち着いて、どうしたのかゆっくり話せ」

 

「女のっ子がっ…向こうでっ、血を、流してっ!」

 

 男がそこまで言うと夏油はその先を聞くことなく全速力で呪霊を飛ばした。

 

「……小僧、代われ」

 

「あ? 嫌だよ、今なら皆疲れてるから殺せるとでも思ってんのか?」

 

「こんな時でなくとも殺せる、刹那が瀕死だ、貴様らの状態では向こうにいっても勝てん、だからこそ、この俺が代わってやろうというのだ」

 

「「「!!!」」」

 

「何でお前がそんなこと分かるんだよ!」

 

「そんなことはどうでもいい、それよりいいのか? 夏油とかいう男はもう行ったぞ?」

 

「くっそ、お前とは代わらねぇ、俺が行く!」

 

「あたしも行くわよ」

 

「おれも…」

 

「「お前は寝てろ!」」

 

 ──

 

 タッタッタッ

 

 呪霊を引き付けて市街地へと走る。

 

 ゴウンッ、ドゴォ

 

 呪霊は夏油の使役呪霊を次々と倒していく。

 

(あと一体か)

 

 バゴォン! 

 

 最後の呪霊が倒されると同時に刹那は足を止めて呪霊の前に立つ。盃は腰にぶら下げて金棒を握っている。

 

(呪霊合術によって作り出された呪霊は制御が効かない、たしかあの呪詛師はそう言ってましたね)

 

 オ"ォ"ォ"ォ"オ"ォ"ォ"オ"オ"

 

「合成というよりベースの呪霊に吸収された感じですかね」

 

 刹那は刀に手をかけ、呪霊は金棒をその場で高く振り上げる。

 

 ビュオッ ドゴォォン!! 

 

 金棒を地面に叩きつけた衝撃でコンクリートの地面が割れ地震が発生する。その衝撃で刹那は足元がぐらつき、態勢を崩す。

 

 ドドッ

 

 そこを見逃すことなく呪霊は走り出し、刹那に金棒を振り下ろす。

 

「──虚」

 

 瞬間、刹那は横のブロック塀との距離を無くして回避する。そのまま塀を足場にして呪霊に飛び込む。

 

 ズッパッババ

 

 すれ違うように斬撃を加え、金棒を持った手を斬り落とす。

 

「今日は鬼と戦ってばかりです」

 

 呪霊は金棒を落とすが腕を再生させ、背を向けている刹那に直に殴りかかる。

 

 ギュルルッ

 

 ザンザンザンッ! 

 

 刹那はその場で三回転して呪霊に横切りを連続して三回加える。

 

 グォォッ ドヂュッ

 

 呪霊は体を再生させ、口を開けて鈍く唸り声をあげる、刹那は刀を口に突き立てて内側から喉に貫通させる。そして術式で発生させた大量の黒い靄を直接体の中に充満させていく。

 

 ォボボゥゴグ

 

 ブォンッ! 

 

 呪霊は手を横になぎ払い刹那を自身の体から離す。

 

「…僕の術式は基本この黒い靄で発動します、物理的に相手を攻撃したりすることは出来ず、僕の体から離れると制御を失う。ですが、身体の中に侵入し制御を失った術式は行き場がなくなり、呪力が無くなるまで無差別に内部から食い荒らす」

 

 ヴゥ"ゥ"ォ”ォグォ"ッ"

 

 呪霊は膝をつき、口からは刹那の呪力があぶれている。

 

「まぁ、凄く苦しいだけで絶対に死なないんですけどね、拷問とか動きを封じるのに丁度いい手段です」

 

 刀を抜き、先刻吸収した呪力を込めて斬れ味を上昇させる。

 

「本当は呪具的には沢山斬った方がいいんですが、時間をかけられないのでね、そうですね…花の一刀両断、兜割りといきましょう」

 

 刹那は太刀、童子切を膝をつく呪霊の額に合わせる。

 

 キィンッッ……

 

 クルッ、チャキ…

 

 ズルゥゥ ボトトッ

 

 酷く静かに振り下ろされた一太刀は納刀が終わると同時に呪霊の体を二つに別つ。

 

「ふぅ、流石にこれだけの呪力を使うと…疲れるなぁ…」

 

「やぁ、阿頼耶識刹那」

 

 肩で息をしながら深呼吸をすると突如として刹那の前方に和装の額に縫い目がある男が、気絶したもう一人の男を持ちながら呪霊と共に現れる。

 

「いやぁ、流石は特級、生まれたての特級仮想怨霊じゃ相手になんないね」

 

 男はそう言いながら酒呑童子の盃を回収する。

 

「おい阿弥部、御託はいい、さっさと本題に移らんか」

 

「そう焦るなよ漏瑚、話し合いは大切さ」

 

「…あなたはいつぞやの火山呪霊さんですね」

 

「ワシの名は漏瑚(じょうご)、こいつは阿弥部(あみべ)、早く話せ」

 

 漏瑚が急かすと阿弥部は話し出す。

 

「では早速本題に入ろうか、阿頼耶識刹那、最近君を観察して改めて分かった、君は明らかにこちら側の人間だ、私達と組もう」

 

 阿弥部が手を差し出すが刹那は気に留めず質問を返す。

 

「……あなた、ビデオの人ですよね」

 

「ん? そうだよ、よく分かったね」

 

「そんなことはどうでもいいんです、あなた、ほんとに人間ですか? 感情の色がとぐろを巻くようにぐちゃぐちゃだ、まるで他人の身体の中に別な人間が入っているような感じです」

 

「…ははっ、何でわかるんだよ」

 

 阿弥部は額の縫い目をシュルシュルと外していくと

 

 口がある脳みそを剥き出しにする。

 

「あなたの術式ですか」

 

「まぁね、色々条件があるけど便利だよ、記憶や術式を乗っ取れるんだ」

 

「それで? 僕がそっち側だなんて戯言も甚だしい、折角です、今この場であなた方を祓います」

 

「まぁ、待てよ」

 

 刹那が刀に手をかけると阿弥部はナイフを気絶している男に突きつける。

 

「冷静に話をしよう、でないとこいつを殺しちゃうよ?」

 

「……いいでしょう」

 

 刹那は夏油がつけていた呪霊に通達するよう合図を出すが、呪霊が飛んだ瞬間に空中で焼け落ちる。

 

「フンッ、所詮は人間の考えることだ」

 

「抜け目ないねー、まぁいいか、さてと、君がこちら側だという理由でも話そうか」

 

 額を器用に縫いながら話し始める。

 

「といっても理由は単純さ、君、非術師のこと正直どうでもいいだろ?」

 

「非術師は戦う力がなく、力がある者は弱者を守るためにあるんです」

 

「と、いう大義名分を自分に言い聞かせてるんだろう? 、本当は君の仲間以外はどうでもいい、違うかな?」

 

「…違いますね、早くその人を開放してください」

 

「こいつのことを知っても同じことが言えるのかな?」

 

「もういいです、喋らないでください」

 

 刀に手をかけ、歩を進める刹那の言葉を無視して阿弥部は話し続ける。

 

「こいつはね気の弱そうな女の子を狙っては痴漢を繰り返し、果てには強姦を繰り返した男だよ」

 

 その事実を聞いて刹那の足が止まる。

 

「君に嘘は吐けないことは知っている、事実だよ、君の境遇を考えてみたんだが、君はその憎悪と殺意を呪霊や呪詛師ではなく非術師に向けるべきだ」

 

「的外れことばかり言ってないで、黙ってく」

 

「的外れかな!? 不思議だな? 私の目には君は立ち止まって傍観しているように見えるぞ? 本当はこの男を殺してほしいんじゃないのか!? 目の前で、犯罪者が死ぬ姿を! 自分のトラウマと同じことをする男が誰かに殺されるのを! 君は見たいんじゃないのか!?」

 

 カシャンッ

 

 言葉を遮り声を荒げる阿弥部、それに応えるようにその場で立ち尽くして刀を落とす刹那。

 

(あともう一押しだな…)

 

「さらにだ! 私は君の仲間を殺す気はないよ、君さえこちら側に来るんであれば、絶対の安全を保証しよう」

 

「……皆は殺さない……?」

 

 目の前に垂れ下げられた甘い蜜に吸い寄せられるようにして刹那はフラフラと阿弥部の元に向かう。

 

「さあ、私と一緒に新しい、いや、旧き呪術全盛、平安の世を作ろう!」

 

 阿弥部はふらつく刹那に手を差し伸べて、最後の誘い文句を飾った。




読まなくてもいい今回の分かりづらかった場所!
 菜々子の術式 多分カメラで撮った物を、カメラ機能で分割とか写真を撮る機械とかに閉じ込めたりするもんだと作者は解釈しました。最初のパシャッていう音はシャッター音ですね。
 刹那が今回使ったやつ あれは術式の副次効果みたいなもので、刹那の術式は基本黒い靄を出して触れたものに効果を及ぼすんですね、それは一度出して制御から外れると呪力が無くなるまで色んなものを無くしまくります。
距離とかなくしたりしてんのは描写カットしてるだけで細く靄を伸ばしたりしてますし、自分に触れてる物は靄を出す必要もないです。
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