全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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長い(確信)


第三十五話 双山悪童事変 閉幕

 阿弥部はふらつく刹那に手を差し伸べて、最後の誘い文句を飾った。

 

 ドゴォッ

 

「ッガハッ…!?」

 

「…っ!?阿弥部!」

 

「………」

 

 が、しかし、霧に隠れたように曇る意識を、刹那はすんでのところで保ち阿弥部を蹴り飛ばすと、気絶している男を掴んで刀を落とした場所まで飛び退き距離をとる。

 

「…術式による毒、ですね。媚薬のような思考が鈍る程度の効果ですか? 薄いし命の危険性が少ないので油断しました」

 

「阿弥部!?くっ、小娘がぁ!!!!」

 

 漏瑚は手に炎を創り出し殺意を剥き出しにする。

 

 ブワァッ

 

「なっ!?」

 

「呪霊合術、特級の徒党、あなた達は厄介すぎる。ので、この場で…全力で祓います」

 

 刹那は呪力の靄を漏瑚に向けて大量に放出する。完全な奇襲は漏瑚の不意を突いて成功し、感覚を奪われた漏瑚は立ち尽くす。刹那が得物を構え、漏瑚を祓おうとした、その時。

 

 トスッ…ポタタッタッ

 

「もうちょいさ、可能性を広げなよ」

 

 気絶した男のポケットからツギハギの顔の呪霊が現れ、軽い音と共に刹那の腹部はいとも簡単に、豆腐に包丁を入れるかのごとく貫かれた。

 

「…カフッ」

 

 貫かれた場所から制服に血が滲み、ポタポタと垂れ落ち灰色の地面を赤く染めていく。それと同時に刹那の術式もゆっくりと解除されていく。

 

 ガッ

 

 刹那は腹から飛び出た槍を掴む。

 

「あ、返しつけてるから抜けないと思うよ、何もしなくても失血で倒れるかな?」

 

 メキィ! ボコォン!ーー

 

 カシャカシャンッ…ガクッ

 

 真人は自身の体から作った槍を折り、刹那を殴り飛ばす。コンクリートの壁に深くクレーターが出来上がり、そこに刹那は力なく座り込む。彼女の後頭部と腹部からはジワジワと血が広がっていき、その場に血溜まりができる。

 

「良くやった、真人」

 

「うーん、本当に特級なの? なんか味気ないなぁ」

 

「この一ヶ月間、入念に準備して毒まで盛ったんだ。むしろここまでやって不意をつけないなら諦めるしかないよ、そろそろ陀艮が準備を終えた頃だろうし私は漏瑚と先に帰って準備してるから、後で空弥と一緒にその子を連れてきてね」

 

「あれ、今取んないの?」

 

「あくまでも彼女本人が戦わなければ意味がないよ、かなりピーキーな術式だし、彼女のような戦闘センスは私には無いからね。それに、ここまで改造した身体を捨てるのはいささか勿体ない」

 

「ふーん、阿弥部の言う世界で唯一、五条悟に王手をかけれる人間かぁ…」

 

 真人は刹那を見ながら呟く。

 

「ねぇ、持ってくまでこの子好きにしていい?」

 

「良いけど何する気だい?」

 

「虎杖達の前に手足千切って達磨にして見せたらさ、面白いと思わない? 綺麗な顔だけぐちゃぐちゃにしても良いかもね」

 

 真人は玩具を手にした子供のような顔をしながら濁った笑みを浮かべる。

 

「構わないけど殺しはするなよ」

 

「ちゃんと終わったら直すから大丈夫だよ」

 

「阿弥部、行くぞ」

 

「はいはい、じゃ、よろしくね」

 

 阿弥部と漏瑚は闇夜に紛れて消え去る。

 

「さて、と、ごめんねー待たせちゃって、今最高に可愛くしてあげるよ」

 

 刹那に嗤いながら近づいていく。

 

「どうしよっかな、人間みたいにアートにしようか、それとも穴だらけで彼奴等の前に飾ってあげようかな」

 

 無邪気に、まるで今から工作をする子供のように手をこねくり回す。

 

 ドォォンッ……

 

「ありゃ?八岐の大蛇が祓われちゃったか。まぁ、この子を改造するくらいの時間は」

 

 ザンッ ボト

 

「あ…る?」

 

 ほんの一瞬、意識を刹那から離した瞬間、真人の両腕が宙を舞う。

 

「──こいつっ!」

 

 ドゴォッ! 

 

「ゴブォッ」

 

 反応が遅れながらも状況を理解した真人は両腕を治して攻撃しようとする。しかし、瞬間次は体が宙を彷徨う。

 

 刹那はだらりと腕を下げながら刀を掴んで立ち上がり、体からはボタボタと血が流れ落ちる。

 

「プッ」

 

 ビチャッ

 

 口に溜まった血を吐き出し、傷ついた舌を出す。

 

「ははっ!舌を噛んで意識を保ったのか!」

 

(手負いとはいえ特級の相手はうまくない、なによりムカつくけど…目の前のボロボロの女に勝てる気がしない)

 

「かくなる上はっと」

 

 真人は気絶している男の元へと駆け出すが、刹那は術式を発動させて先回りする。

 

「ーッのっ!」

 

 真人が腕を連なる刃物へと変形させて振るが、またしても腕を斬り落とされ、蹴り飛ばされる。

 

 戦闘が再び開始されたその時、男が目を覚ます。

 

「うぅ…!な、なんだあんたら!俺をどうする気だ!?」

 

「…話してる時間はありません、死にたくなければ大江山に走ってください、立ち止まったら…殺します」

 

「ひっ!は、はひぃ!」

 

 余裕のない刹那の冷ややかな目線と重たく鈍い殺気を当てられた男は青冷めた顔をしながら全力で走っていく。

 

「よそ見してていいのー?」

 

 バカラッバカラッ

 

 真人は下半身を馬に変形させて一気に距離を詰めるが、すれ違いざまに四脚を一瞬で刻まれ態勢を崩して転げていく。

 

 ドシャァア

 

(反転術式が機能しない…あいつが刺した槍、なにか細工されてるのか…)

 

「はっは!…呪術師って生き物はさ、皆イカれてんだよね、なかでもとりわけ特級はどこかが《壊れている》。俺の解釈だけど、間違っちゃいなかったか。決めた。シンプルに生首を虎杖達の前に飾ってあげ──」

 

 ザンッザザンッ

 

 真人の言葉を遮り、もう聞く気はないと言わんばかりに口を八方に切り裂く。

 

「少しは話しを──」

 

 ベキィ、キキキンッ! 

 

 顔を蹴り上げ、ひたすらに剣撃を繰り出す。

 

(どんなに俺を斬ろうが、果てにある俺の魂には届かない! 失血で体力が尽きたところを嬲り殺しにしてやる!)

 

 真人は防御の姿勢をとる。真人と刹那の鮮血が鮮やかに舞い、月光の下で照らされる。真人は斬られ殴られ、回復するのをひたすらに続けるしかなかった。

 

 キンッドゴォメキィバキキザンッキキキキンゴッドゴバキメキィキンキンキンキンキンキンザンッメキィゴンッバキッ

 

 刹那は斬撃を主軸とした様々な方法で真人の身体を破壊し続け、真人はただただ防御と再生を繰り返す。

 

(おいおいおい、いつになったら止まるんだよこの女! ゴリ押しに程があるだろうが!)

 

 事前の情報で真人に直接的な攻撃はほぼ無意味と知っていた刹那の狙いは、両刀による呪力の完全吸収、完全な力押しによって真人を祓おうとしていた。

 

「っ! このっクソがぁっ!」

 

「反転、残響」

 

 反撃をしようと捨て身を仕掛ける真人に刹那は術式を使用する。さらに攻撃の密度が増していき、真人は身体の再生に全神経を注ぐことを余儀なくされる。

 

(まずい、まずいまずいまずい! この女、死んでも俺を祓う気だ! このままじゃ祓われる! 領域展開の印を結ぶ隙すらない!)

 

 更にましていく斬撃の密度、ほぼ途切れかけの意識を繋ぐ細い糸の中、何千撃という斬撃を繰り返しその度に研ぎ澄まされる殺意、二年前に指先で触れただけの呪力の核心を、刹那は今この瞬間に摑んだ。 

 

【黒閃】

 

 キンッ…ブシュゥゥゥッ

 

 刹那の渾身の一撃は黒い火花を伴い、酷く静かに、そして計り知れない威力を持って真人の身体を真っ二つに切り裂いた。

 

「オ”ボォ"ォ"ォッ」

 

 しかし、それで止まることなく刹那の剣撃は増していく。

 

 ザンッザシュッズバンッブシュュッズバンッブシュガッドゴォメキィバキキザンッキキキキンゴッドゴバキメキィキンキンキンキンッザンッザシュッズバンッブシュガゴッズドド

 

 真人を祓うまで…永遠に続くとも思えた剣撃、しかし終わりは突然にやって来た。

 

 ビキッ ブシュゥッ

 

 突如、刹那は目と鼻から出血する。六眼ほどではないにしろ右眼から脳に伝達される多大な情報量、それを処理する脳への負担によって脳がレンジで熱されたようにオーバーヒートした。

 

 未然に防げたかもしれない限界を、刹那は知らなかった。

 

 ドサッ……

 

 出血し、脳が焼き切れたことによって身体が悲鳴をあげて膝から崩れ落ちる。

 

 それによって真人への攻撃が止まり、当初の半分以下のサイズになった真人はゆっくりと身体を再生させていく。

 

「はあっ、、、はぁっ…どうやら、先にお前の限界が来たみたいだね」

 

 真人は刹那の首に手を当てて生死を確認する。

 

「まだ生きてるのか…てか殺しちゃまずいんだったっけ、あぁー! でも殺したいなぁ!」

 

「殺したら漏瑚や阿弥部に怒られるよぉ?」

 

「あ、空弥、ちぇっ、お迎えの時間か」

 

 空から空弥と呼ばれる呪霊が降りてくる。

 

「そろそろここに呪術師が来るんじゃないかなぁ?」

 

「特級呪霊と戦って体力残ってるやつっていったらあれか、呪霊操術のやつか」

 

「言っとくけど私はそんなに強くないからねぇ、今の君よりは強いけどぉ」

 

「はいはい、大人しく退散するよ」

 

 真人は刀を刹那の持つ鞘に差しながらぼやき、空弥が二人を掴み、翼を広げる。

 

「朧入道!!」

 

 グバァァァ

 

「あららぁ?」

 

 ズドンッ、バフォッ!

 

 まさに飛び立つ瞬間、雲の巨人が空弥達を包み地面へとはたき落とすが、空弥は翼を広げて風を起こし地面に当たる寸前で止まる。

 

「…予想よりかなり速いねぇ、そんなにこの子が心配なのかなぁ?」

 

「頼むよ空弥ー、お前がいないと逃げ切れない」

 

「お前、件のツギハギ呪霊か?」

 

 夏油が呪霊をしまいながら問いかける。

 

「だとしたら何だい?」

 

「いや、どうやらうちの生徒に随分手を焼いたようだと思ってね。報告では特級とあったんだが、三級程度に見えたからつい確認してしまったよ」

 

 目が笑っていないが笑みを作りながら答える夏油。

 

「言われちゃってるねぇ真人」

 

「構わないさ、それより逃げようよ、今日はもう疲れたしさ…お"え"」

 

 真人はそういうと口から小さな人形のような物を吐き出す。

 

「多重魂、撥体」

 

 ズォォッ! ブワァッ! 

 

 バゴッ、バグンッ!! 

 

 縮めた魂同士の拒絶反応を利用して爆発的な質量を生み、道のほぼ全てを覆うように仕掛けるが、その攻撃は夏油の呪霊によって一瞬で食い尽くされる。瓦礫が舞い、呪力と殺意が渦巻く空間で三者は対面する。

 

「はっは、マジかよ」

 

「これはちょっっとねぇ」

 

「来ないのかい?それならこちらから行くよっ」

 

 ズルリッ、ダッッ! 

 

 バシュゥゥ! 

 

心空(しんくう)

 

 夏油は二人に向かって球体の全面鏡張りのような呪霊を出しながら走り出す。

 

 それを見て空弥は前方に高圧の空気の弾を飛ばすが、その瞬間夏油の姿が消え、空弥の背後に現れる。

 

「なっ!?」

 

 ベキィボキッ! 

 

 夏油は空弥の右腕を掴んで頭を引き寄せて肘で打つと、そのまま右腕を回転させ無理矢理に腕を折る。

 

「空弥!」

 

「お前は取り込んでやる」

 

 呪霊操術は単純な計算で二級以上の差があれば無条件で取り込める。それを利用して衰弱している真人を取り込もうと夏油は左手を真人に向ける。

 

「くっ!」

 

 ボムンッ! 

 

 目の前で改造人間を吐き出して膨らませ、距離を取る。

 

「人間か…一体何人殺した」

 

「さぁ? 興味ないし」

 

 再び改造人間を口から出すが、単体ではなく十を超える数を同時に夏油に襲わせる。

 

(全く何体いるんだ、このままじゃイタチごっこ、あの空を飛ぶ呪霊さえ倒せれば…)

 

「心空」

 

 ボヒュヒュッ

 

 ドチュドュ

 

 アオボォ──

 

 ドゴォッバンッ

 

「何だよお前、全然当たらないじゃん!」

 

「生憎と、これでも特級なものでね」

 

「…仕方ないねぇ真人、少し無理矢理逃げよう、この子を守ってて」

 

 空弥が翼を大きく広げて空に飛び立ち、その場で球体を描くように飛ぶ。

 

「熱っ」

 

「マジであれやんの!? 待て待て空弥、少しは準備させろって!」

 

御神の日照(みかみのひでり)

 

「っ!」

 

 ズルルゥッ

 

 キュォォオンッ……ボォォッッ!! 

 

 夏油が呪霊を出した瞬間、激しい閃光と熱の放出によってコンクリートは溶け、家屋は溶鉱炉のように燃え盛る。太陽が堕ちたと言われても疑わないような超高温に一帯は包まれた。

 

「無事ですかぁ? 真人ぉー?」

 

 ガラララ

 

「無事なわけないじゃん! もー!」

 

 瓦礫と肉塊の中から真人が現れる。

 

「加減はしましたよぉ、その子は生きてますかぁ?」

 

「ちゃーんと守ったよ全く。じゃ、今度こそ逃げようか」

 

「そうですねぇ、では」

 

 ビュビュッ カンッカンッ

 

「また呪術師ですねぇ…」

 

「またぁ? もうお腹いっぱいだって…ば」

 

 二人が振り向くとそこにいたのは臨戦態勢の虎杖と釘崎だった。

 

「いた!ツギハギの呪霊、あいつね!」

 

「あぁ、こんなこと考えるクズはあいつで間違いねぇ」

 

 臨戦態勢に入る二人を見て真人はどす黒い笑みを溢す。

 

「虎杖悠仁!!」

 

「おやぁ、先程の子供たちだねぇ」

 

 真人に無造作に抱えられている刹那を見て怒りを露わにする二人。

 

「てめぇ!刹那をどうするつもりだ!」

 

「別に何でもいいだろ?話す義理はないね。空弥、あいつらは雑魚だお前だけで充分殺せるよ」

 

「邪魔されるのも面倒だしねぇ、宿儺の器以外は殺していいんだよねぇ?」

 

ドズッッ…

 

 空弥が再び臨戦態勢にはいったその時、鈍い音と共に空弥の身体に刃が刺さる。

 

「…あれで何で生きてるんですかねぇ」

 

「特級呪霊八岐の大蛇、有り難く有効活用させてもらったよ」

 

 夏油の手には縮小化された首を二本覗かせる八岐の大蛇が居た。

 

「八本の首はそれぞれがそのまま山川の天災になっている、多少の火傷は負ったが熱はほぼ相殺できた。産まれたてで戦い方を知らなかったのが幸いだったよ、成熟してたら全員ほぼ確実にやられていた」

 

 夏油は説明すると空弥を蹴り飛ばす。

 

「空弥!!」

 

 メギィッ、ボゴォォン! 

 

 真人が飛ばされた空弥に近づいた瞬間、真人は虎杖に殴り飛ばされる。

 

「お前はここで確実に祓う(殺す)

 

(無理だ、今の状態じゃ絶対こいつらに勝てない)

 

「はぁーあ、漏瑚に怒られるなぁ」

 

 真人は刹那を改造人間に乗せて高速で遠くに飛ばし、手持ちの改造人間を全て吐き出す。

 

「「「刹那!!」」」

 

「逃げるよ空弥、ほら急いで」

 

「はいはいぃ、分かったよっとぉ」

 

 三人が目を離した隙に真人と空弥は退散する。

 

「じゃあな虎杖、次会う時はもっと良い嫌がらせを用意しておくよ」

 

 バヒュンッ! 

 

「クソッ、おい虎杖!このゲテモノは任せろ!あんたなら追いつくでしょ!」

 

「頼むよ虎杖君!」

 

「応っ!」

 

 ダッ! バッ

 

 虎杖は屋根を伝って駆け出し、刹那が落下するところを掴んで瓦の家屋の屋根に着地する。

 

 ガシッ、ガララララッ

 

「刹那!おい刹那!生きてるか!?」

 

「喧しいぞ小僧」

 

「宿儺!どうなんだよ、生きてるのか!?」

 

「喧しいと言っているのが聞こえぬのか」

 

「悪ぃ…それで、どうなんだよ」

 

「生きてはいる、が、出血が酷い。腹に刺さっている槍を抜く必要があるな、これでは反転術式が使えん」

 

「どうすればいい?」

 

「ひとまず向こうに合流しろ、あの人間モドキも今なら殺し終わっているだろう」

 

 虎杖は慎重に刹那を二人の元へと運んでいく。

 

「…悠二…君…?」

 

「おっ、起きたのか刹那。ごめんな、今から治療するからもう少し頑張ってくれな」

 

 虎杖は優しく喋りかけて励ますと刹那は血の気が引いた青い顔をしながら弱々しく頷く。

 

「虎杖!刹那は無事!?」

 

「いや、宿儺が言うには結構まずい状態らしい。槍を抜いて治す必要があるんだって」

 

「宿儺、それは本当かい?」

 

「貴様らと違ってくだらん嘘は吐かん。刹那が死ぬのは俺としても避けたいことだ、今だけは協力してやる」

 

「どうすればいいのよ」

 

「小僧、まずは俺と代われ、納得がいかぬなら縛りを設けても構わん」

 

「じゃあ、俺と代わってる間は誰も傷つけるな」

 

「今この時に限り約束しよう」

 

 虎杖の言葉に一言付け足すと両者は納得し、縛りが成立する。虎杖の顔に文様が浮かび上がり纏う雰囲気が一変する。

 

「…手早く済ますぞ」

 

「何をすればいいんだい?」

 

「まずはこの槍を抜く。恐らくは中になにかしらの呪物が埋め込まれているな、反転術式が使えないのはそのせいだ」

 

「抜くって…どうやるのよ」

 

「無理矢理抜き取るほかないだろう、抜いたその瞬間に俺が治す」

 

「それって…!」

 

「死ぬほど痛むだろうな、だがこれ以外に方法はない。放っておけば失血で死ぬぞ、早くしろ、釘の女と呪霊の男」

 

「大…丈夫です…よ」

 

 刹那はヒューヒューと喉を鳴らしながら無理矢理に笑顔を作り、釘崎に手を伸ばす。

 

「刹那…」

 

「私と私の呪霊と釘崎で体を抑えておこう。刹那、死ぬほど痛いと思うが、死なないでくれよ?私が悟に殺されてしまう」

 

「早くしろ、俺の準備はできているぞ」

 

「るっさいわね、あんたも男ならこういう時は手の一つも握るもんよ」

 

「……現代になっても、人間の考えることは分からんな」

 

 夏油が呪霊を呼び出し、釘崎と共に刹那を抑え、宿儺は刹那の手を握る。それに応えるようにして弱々しい力で刹那も握り返す。

 

「宿儺…あなたのことは…ゴホッ…あまり、知りませんが……信頼は…しています」

 

 刹那の言葉に宿儺は唖然とした表情をした後に、不敵に嗤う。

 

「…ケヒッ、見込んだ通り、相当壊れているな、阿頼耶識刹那よ」

 

「声は我慢しなくていい、行くぞ、三、ニ、一!」

 

 グリョッ、ズブブッ

 

「ヴア"ァ"ァ"ァ"ァ"っ!!!!!!」

 

 真人の身体から作られた返しがついた槍、それを人体から抜くという想像を絶するような痛みが伴う行為、槍が体から離れようとすると返しが引っかかり穴が拡張されていく、その断面は擦り潰したトマトのような独特の赤みを帯び、一帯はむせ返るような血の匂いで満たされる。

 

「もう少しの辛抱だ、釘崎、一気に抜くぞ」

 

「了解…刹那、我慢してねっ」

 

 ズブンッ、ドポォッ

 

「ヴヴッ"、ア"ァ"ァ"!!」

 

 ポゥッ

 

 パシッ

 

「なるほど、これか」

 

宿儺は紫色の小さな呪物を掴み一人納得するとそれを握りつぶす。

 

 パキャッ

 

 槍を抜いた瞬間に血が溢れ出すが、死ぬより早くに宿儺が反転術式で治療する。

 

「「「……」」」

 

 水を打ったような静けさがその場を包む。

 

「宿儺…成功したの?」

 

「問題ない、あとは医者にでも診せろ」

 

「気絶しているだけのようだね、戻って硝子に頼もうか」

 

「良かったぁ、ってか宿儺はいつまでいんのよ」

 

「小僧の反応は無い、いい機会だ、もう少しこのままでいるとしよう」

 

「ちょっ…あーでも縛りあるし大丈夫か…?」

 

「七海や学長に説明するのは面倒だけど戻ろうか」

 

 夏油は釘崎の疲れを察して呪霊に乗せて戻る。

 

「宿儺は歩きなよ」

 

「固いことをいうな特級、俺に使われることを栄誉に思え」

 

「なんで上機嫌なのよあんた…」

 

 大江山サイド、任務開始から六時間と三分、多数の負傷者、及び重症者を出したが呪物の回収及び、呪霊の殲滅完了につき任務遂行とみなす。

 

 両山の呪霊の掃討、及び呪物の回収の確認、これにより双山悪童事変、解決とする。

 

 

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