全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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辛いよぉ


第四十話 命の天秤

 ──

 

 ダッダッダッダッダ

 

「虎杖君、君もう充分に一級レベルだよ、術式無しでここまでやるのは日下部以来じゃないかな」

 

「いや俺なんて全然っす、真人…ツギハギの呪霊相手ならこうはいかなかった」

 

「姉様からの褒誉です、ありがたく受け取りなさい」

 

「アザッス! 光栄です!!」

 

 三人は多数の改造人間と呪霊を倒し東京に降りている二枚の帳を破壊することに成功し、地下鉄方面に向かって走っていた。

 

 地下鉄のホームに到着するとそこには女性が一人体育座りで恐怖に怯えている。

 

「おいそこの人! 大丈夫か! なにがあったんだ!?」

 

「…皆、化け物に…電車に乗ってって…満員だったがら"私はい"ら"な"いっデ!」

 

 ブシュッ、べヂャァ

 

 顔が変形し、その場で血塗れになりながら嫌な音を立てて崩れ落ちる。

 

「あいつがいたんだ…クソっ!! 、五条先生!!」

 

 ──

 

「ハアッハアッ」

 

 グシャッ、バッ!! 

 

(花御の死を無駄にするな、人混みに紛れて展延によるヒットアンドアウェイを繰り返すのだ!)

 

「ごめん、全員は助けられない…その代わり絶対に祓ってやる」

 

 脹相と漏瑚は大勢の逃げ惑う人込みの中で、ゲリラのようにヒットアンドアウェイを繰り返し五条と戦っていた。人々が五条を避け始め、漏瑚と脹相を捉えることができるようになるその時。

 

 ギィィィイイン!! 

 

「来たか!!」

 

 電車の車輪と鉄の線路が火花と耳障りな音を立てながら電車は停車すると漏瑚は喜々として声を荒げる。

 

「どけや! 俺が乗る!!」

 

 非術師の男が人混みを押し退け、電車の扉に駆け出していく。電車の中には真人によって改造された元人間がぎっしりと詰まっている。扉が開くと共に改造人間達が飛び出し、絶え間ない喘鳴と血が飛び散る地獄へと変化させる。

 

 ギュルルルッドゴッ! 

 

「ハハッ! マジで当たんない!」

 

 改造人間と共に真人が飛び出し五条に攻撃する。

 

 無下限で守る五条に対して物理攻撃は全く意味をなさないが漏瑚も続けざまに攻撃を加える。

 

(五条悟が宿儺の器と違って冷酷さを持っているのは知っている)

 

(だからある程度の犠牲を持ってして俺達を祓いに来ることも!)

 

(だがそのある程度の犠牲はあくまでも呪霊に殺される被害者であって、五条悟に殺される犠牲ではない、この生者と死者が増え続けるこのばでそのある程度の天秤はもう機能していない、! 今お前がすべきことは、領域を展開し非術師共々儂らを皆殺しにすること、だがそれはできまい! 迷え、迷うのだ!!)

 

 漏瑚達の画策通りに五条はその場で立ち尽くす。

 

「…マジか?」

 

 真人が呟くと共に五条は領域展開の印を結ぶ。

 

「…領域展開、無量空処」

 

 五条悟、一か八かの0.2秒の領域展開!! 

 

 ギャリリリリリリリ!!!!!! 

 

 0.2秒は五条が勘で設定した、非術師の動きを止めることができて後遺症が残らない無量空処の滞在時間。言ってしまえばその程度の領域展開、今この瞬間にも特級呪霊は目を覚ますかもしれない、反撃を考慮して標的は改造人間に絞る。

 

 五条悟、領域解除後、299秒で地下に放たれた改造人間、約千体を鏖殺!! 

 

「獄門疆 開門」

 

 阿弥部の一声と共に五条の足元に獄門疆が投げ置かれ、その箱は四方に広がる。中央の剥き出しの瞳が五条を見据える。

 

 五条は六眼で危険を察知して即座にその場から離れようとする。

 

「まぁ待てよ、親友を置いていくのか?」

 

 五条の足元が割れ、ほんの一瞬動きが止まる。声がする方に目を向ける。視線の先にいたのは右腕を失い頭から明らかに致死量の血を流す親友、それを引きずるようにして持っている和服の男、阿弥部だった。

 

「は…?」

 

 人形や呪霊による偽物、幻影、その全ての可能性を六眼が否定し、その瞳に映った瀕死の親友の状態の全てを六眼が肯定する。

 

 ギリィ! 

 

「傑!!!!」

 

 五条の激しい歯ぎしりと共に獄門疆が分散して五条を束縛する。

 

(力が入らない、呪力も練れない…詰みか…)

 

 ──

 

 五条封印が始まる数刻前、夏油と阿弥部の戦いは、静かに火花を散らしていた。

 

 ズルルルル!!! 

 

「どうした、その程度じゃ私をこの場から動かすことも出来ないぞ?」

 

 夏油は呪霊をかわるがわる繰り出して阿弥部に対抗するが、呪霊操術の強みである手数の多さを完璧に対策されてしまい長期戦が予想されていた。

 

「これならどうだい?」

 

 ギュルルルッ

 

 二メートル程のダルマと無数の手と目玉の集合体のような呪霊を呼び出す。

 

「びしゃがつく、達磨さん」

 

 びしゃ、びしゃっびしゃ

 

 だーるまさーんがこーろんだ

 

「後ろを振り向けば強い呪いがかかるびしゃがつく、それに加え見られているときに動くとその部位の自由を奪う達磨さんだ、動きは制限させてもらうよ」

 

「中々どうして面白い、現代の術師にしては考えるじゃないか」

 

 びしゃっびしゃっびしゃびしゃ

 

 ガシッ、バキバキバキバキ

 

 達磨さんが振り向いている間に阿弥部の腕を折り、犬のような呪霊が阿弥部の足に噛みつき、骨を砕く。

 

「くっ」

 

 ゴシャッ! 

 

 阿弥部が足で犬を踏み潰すと、達磨さんの目が光り阿弥部の右足に無数の小さなダルマが出現し自由を奪う。

 

「君、肉弾戦の経験少ないだろ、動きが素人そのものだ」

 

 ガッ、グシャッ! 

 

 後頭部を掴み寄せ、反対の手で顔面を思い切り殴ると夏油の腕はぬかるみにハマったように抜けなくなる。

 

「くっ!?」

 

 夏油は慌てて腕を抜こうとするが、阿弥部が夏油の足を払って体勢を崩す。

 

「くっ!」

 

 ドウッ

 

 腹部に強い衝撃が走り、夏油は蹴り飛ばされる。

 

「今のは中々効いたよ、お陰で何回か死んでしまった」

 

「ゲホッ…全く、決定打がないのが私の術式の辛いところだな」

 

 ダールマさんがーー

 

 バシュン

 

「中々特殊な術式だが、種が分かれば対処は容易い、びしゃがつくに関しては特級といえど呪われる条件が限定的すぎる、問題はないな」 

 

 夏油は自身の右手に気を配るが、感覚が既に無くなっており、治療しない限りは右手は無いものと受け止め、次の一手を考える。

 

 ズルルル

 

「…かごめかごめ」

 

 夏油が立ち上がり呪霊を呼び出すと、阿弥部と夏油の周りを文字通り子供の影が円を描いて歩き回る。

 

「夏油君は昔遊びが好きなんだね」

 

 後ろの正面だーーあれ? 

 

 夏油の後ろで男の子の影が止まる。

 

「高橋賢次君」

 

 せいかーい、かーごーめかーごーめ

 

「??」

 

「この呪霊は、正しく答えられないと罰を受ける、頭、胸、四肢、どこを取られるかは彼ら次第だ」

 

 後ろの正面だーーあれ? 

 

「そんなもの知るわけないだろっ」

 

 グシャッッ!! 

 

「──っ!!」

 

「余所見は禁物だよ」

 

 メキョッッブシュゥゥーー! 

 

 夏油は回答権が阿弥部に回ると共に左手で阿弥部を掴み、顔面に頭突きを繰り出す。

 

 さらに回答出来なかった阿弥部は左腕を一本むしり取られる。

 

 阿弥部は堪らず距離をとり、体を反転術式で回復する。

 

 ドジュンッ

 

 片手間にかごめかごめを祓い夏油へ言い放つ。

 

「…正直侮っていたよ夏油君、でもね、時間切れだ」

 

 阿弥部は手を合わせると大声でその言葉を吐く。

 

 夏油はそれに気付き距離を詰める。

 

「領域展開」

 

「!?」

 

 判断が間違いだと気付いた夏油は呪力を纏って防御の構えを取る。しかし領域が展開されることは無く、夏油の右腕が切り落とされる。

 

 ザンッ…ボトリ

 

「お返しだよ」

 

 グシャッ、ゴロゴロッ

 

 腕を切り落とされて動きが停止したところに顔面へと蹴りが繰り出される。

 

「さて…と」

 

 びしゃびしゃびしゃ

 

「五月蝿い」

 

 ゴシャッ

 

 阿弥部が腕を巨大な鎚に変形させ背後のびしゃがつくを潰す。

 

「よし、これであとは五条悟の封印だけだな」

 

 コッコッコッ

 

 誰もいない交差点、響くのは勝者である阿弥部の足音のみ、遠のく意識の中で夏油は自らに近付く濃厚な死の気配と自身が敗北した結果を噛み締めていた。

 

 コッコッコツン…

 

「…? 、っ!」

 

 ギシィッー! 

 

 阿弥部が一瞬戸惑いの表情を表に出すと、突然に阿弥部の喉に麻縄がかかり阿弥部は吊るし上げられる。

 

「夏油先生!」

 

「美々子…菜々子…?」

 

(身体が…術式封じの縄か)

 

「美々子! そんなに長くは続かない! 早く夏油先生を起こして!」

 

「分かってるよ! 夏油先生、今は逃げよう!」

 

「すまない、もう身体が動かないんだ…君達だけでも逃げに徹すれば可能性はある、帳の外に走りなさい」

 

 依然として身体の自由が効かない夏油を引きずってでも連れていこうとする菜々子に夏油は指示を出すが聞こうとしない。

 

「嫌だ…嫌だ!」

 

「そんなこと言わないでよ! 私達はあの時、先生達に救けてもらって…まだ、まだなんの恩返しも出来てない!!」

 

「君達がここまで育ってくれただけで充分だ…二度はない、逃げなさい!」

 

 ボタボタと涙を流しながら菜々子は阿弥部に向かって携帯を構える。

 

「! やめろ、菜々子!!」

 

「だったら! 今ここでアイツを殺ッ」

 

 ドゴッ、ズチュリッ…ボダダダ

 

 突如菜々子の足元が割れ、そこから虫の口の先端のように尖った触手が飛び出し菜々子の腹部を貫く。

 

「げ…とせん…せ」

 

「「菜々子!!」」

 

 バチュゥン!! 

 

 菜々子の腹部を貫いた触手は一瞬でイガ栗のように広がり菜々子の身体を肉塊へと変える。

 

 ギリィッ!! 

 

「テメェ!!」

 

 ブゥンッ、バゴォ!! 

 

「美々子!!」

 

 美々子が握る縄に力を入れるが単純な力負けによって縄ごと振り回されて地面へと叩きつけられる。

 

「ヴァッ」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で左腕と左足が反対の方向へと曲がり、ピクピクと痙攣させる。

 

「ふう、こんなものかな」

 

 コッコッ

 

「貴様ァァァ!!!」

 

 ブシュッ、ブシッ

 

 夏油が立ち上がろうとすると傷口から血が吹き出し、コンクリートの灰色を血に染め上げていく。

 

「立てるわけないだろう、無駄な努力が好きだね、呪術師達(君達)は」

 

 阿弥部は美々子の頭に足をかける。

 

「やめろ! それ以上やったら絶対に呪い殺してやる!!」

 

「私がやめるかどうかは君達次第だろう、勘違いするな呪術師、私は呪詛師だ、止めるのは君達だろう」

 

 グシャッブチャッ

 

 美々子の頭を夏油の眼前で踏みつぶし、その脳漿を辺り一帯にぶちまける。生々しい音と、むせ返るような鉄の匂い、この世から二人の呪術師が天へと還った。

 

 夏油の脳裏によぎる二人との日々の記憶、頭にこびりついて離れない自身を呼ぶ二人の声、夏油の心は限界だった。

 

 殺してやる…コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!! 

 

 夏油は今ある呪力の限界を振り絞り、身体を起こして特級呪霊を呼び出そうとするが、阿弥部はそれを許さずに夏油の頭を踏みつける。

 

 ダゴォン!! 

 

 地面は深く沈み、夏油は完全に気を失った。

 

「さて、真人達は上手くやってくれたかな」

 

 後ろ首を掴み、引きずりながらヒカリエの地下へと阿弥部は歩いていった。




ついに死者が、、、アババババ。
渋谷事変は命の重さが狂っていくなぁ。
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