全てを無くした少女に呪いを授ける   作:レガシィ

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定期投稿は難しいですね(^_^;)
一ヶ月三話くらいは投稿したいと思いたい、、、


第四十二話 斬り結ぶ

「…刹那殿、それはあなたが、阿頼耶識家初代の人間、阿頼耶識万代の子孫であり、宿儺様の血が通う人間だからだ」

 

「………は?」

 

「えっ、は? ちょっと待ってください、宿儺が僕のなんですって?」

 

「貴方は宿儺様との血縁関係にあたる人物、正確には輪廻転生と言ったほうがいいかもしれないが」

 

「はぁ!??」

 

 直哉が驚愕の声をあげるが、刹那は驚きのあまり声すら出ない。しかし、それを気に留めずに裏梅は話を続ける。

 

「生前、万代殿は宿儺様と縛りを設けたのだ。自分の魂が巡り合うときにまた会おうと、宿儺様は万代殿の魂に、万代殿は宿儺様の魂に。宿儺様は誓いとしてお互いの姿を映す鏡にあたる自らの眼と、それを繋ぐための血液を差し出した。万代殿は何を差し出したか、私は知らないが…。ともかく、そうして魂は巡り、今この時代に貴方と宿儺様は再会を果たした…私自身、彼女とはよき友でもあったものだ」

 

 裏梅が少し寂しそうな表情で千年前の事情を語る。

 

「…それで、それをはいそーですかって信じろっちゅーのは無理な話やねん、班長はどないすんのん?」

 

「…貴方が嘘をついていないのは分かりました。取り敢えずその話を信じることにします。ですが、今はその話は置いておいて、いまは帳の内に入って問題の早期解決に努めなければ。帳の中に入り改造人間を駆除しながら非術師を保護、特級呪霊や呪詛師は見つけ次第始末して尋問しましょう」

 

「でもあれやろ、特級呪霊は悟君と傑君が全部祓ってるんちゃうん?」

 

「それに関してはあくまでも予測ですが、期待しないほうがいいですね。恐らく二人共何らかの理由で戦えないんじゃないかと」

 

「おいガキ、実際のところどうなんや?」

 

 直哉が裏梅に問いかけるが、裏梅は返事をそっけなく返す。

 

「自分の目で確かめるといい、その方が実感が湧くだろう。では刹那殿、また会えるときを心待ちにしています」

 

 バキバキッッ

 

 氷の道を作り裏梅は二人の前から去っていく。

 

「追わなくていいん?」

 

「いいですよ、多分あの人?の目的は今は直接関係してないでしょうし、帳の内部に急ぎましょう。できれば他の班とも合流したいですし」

 

 二人は帳の内部へ走ってと入る、中には数多の改造人間が非術師を殺して回る光景、内側にさらに帳が降りているのを目にする。

 

「こらまた…地獄絵図やなぁ」

 

「…何が起こってるんですかね、取り敢えず掃討しましょうか」

 

「了解や」

 

 カチャ、ポポポッ

 

 二人が交戦の構えを取ると、虎杖の声が聞こえてくる。

 

「ナ、ナ、ミーーーン!!!! 夏油先生がやられて!! 五条先生が封印されたんだけどぉー!!!」

 

「「!!」」

 

「封印やて…あの悟君が…?てか誰の声やねん」

 

「悠仁君…宿儺の器っていったほうが良いですか?」

 

「アホなん?大声で向こうに情報流しよって」

 

「帳の効果で携帯使えませんからね…。それよりも五条先生が封印された事実が露呈されればこの国は終わりです…どうしましょうか」

 

 刀から手を離し一旦考えるポーズを取る。

 

「作戦を変更しましょう、直哉さんはこのまま改造人間のみに的を絞ってください。あの帳は僕一人なら誤魔化して入れるので中に入って五条先生、あわよくば夏油先生も奪還します」

 

「…帳が上がったら俺も中に入るで、それでもええな?」

 

「止めても来るでしょうに。臨機応変、お好きにしてください」

 

「りょーかいや、ほな行こか」

 

 ヴェンッ

 

 直哉は術式を使いながら非術師の救助に回りだす。

 

(丸くなったなぁ、あの人)

 

 刹那は帳のある方へと道中の改造人間を斬り伏せながら向かっていく。帳の前に立ち、試しに手を軽く触れてみる。

 

 バチッ! 

 

(中からは改造人間や非術師が出てきている、てことは) 

 

「…なるほど、何らかの縛りで術師は入れないのか、面倒ですね」

 

 刹那は刀を構えて術式を展開する。

 

「僕だけ入れれば良い。拡張術式、武器纏」

 

 ビュオッ! 

 

「阿頼耶識刹那だな?」

 

 刀に靄を纏うと後ろから声をかけられ、帳から刀をそらし空を斬る。

 

「…どちら様?」

 

 振り向くと三人の男が指をポキポキと鳴らしながら刹那に予告する。

 

「お前を殺す」

 

「出来るのならどーぞ」

 

 三人の呪詛師は刹那に向かって走り出そうと利き足に力を入れる、そして足が地面から離れた瞬間、左右の男の首が宙を舞い、中央の男の足は足首から切断されて地面に強制的に座らせられる。

 

「……?」

 

 キュインッ、

 

 ドサドサッベチャッ

 

 物が落ちる鈍い音と、粘性のある液体が地面に落ちる音が鳴り、まだ息のある男に刀の血を払いながら刹那は近付いていく。

 

 ビュッ、パタタッ

 

「さて、尋問の時間です。全部吐いて楽に死ぬか、とことん苦しんで全部吐いて死ぬかの二択です」

 

 刀を突き付けられて男は初めて自身の置かれている状況に気が付くと、顔面を真っ青に染め上げて冷や汗をかきながら斬られた足を抑える。

 

「あっあぁぁあ!俺っ、俺の足がぁ!!」

 

「足の二本くらいなんです、五月蠅いですね」

 

 刀を喉元に突き付けると男はゴクリと唾を飲み、生き残る方法を模索する。

 

「わかった!俺が知ってることは全部話す!!」

 

「そうですか、では三つほど聞きましょう。この帳の上げ方と中で起こっていること、そして…あなたがこれまで何人非術師を殺したか、です」

 

 男は少しの沈黙のあとに冷や汗をかきながら言葉を冷静に選び震えた声で答える。

 

「一つ目の質問は…こ、この帳は別の呪詛師が守ってる呪具を壊すと上がる、帳の中では五条悟の封印と夏油傑の無力化があった…あと、俺が殺した人数は…」

 

 男は俯きながら黙ってポタポタと額から汗をこぼす。

 

「何人ですか?」

 

「さ、三…人…」

 

 ボキンッ

 

 刹那は右手の親指を掴むと軽々しく折る。

 

「あぁっ!五人!五人です!!!」

 

「へぇ…何本が良いですか? 0から10までで答えてください」

 

「な、なんぼん…?」

 

「指の本数です、貴方が奪った命達は天寿を全うするため、これからを生きる予定だった人達です。指折り数えて反省してください、罪の意識があれば指の本数もあなたの意思に比例するはずです。勿論0でも10でも構いませんよ、あなたの意識の問題なので」

 

 呪詛師は阿弥部の言っていたことを思い出し、嘘はつけないことを今更ながらに痛感する。そして罪の意識は全く無い為、本当なら0、しかし10と答えれば指は全て折られて殺されると考えた、つまりは。

 

(詰みだ…)

 

 しかし男は最後の希望によりすがり正直に打ち明ける。

 

「…ぜ、0…です」

 

「おや、殊勝な心掛けですね」

 

 刹那はニッコリと微笑み手を握ると、男の指をゆっくりと一本ずつ折っていく。

 

 ボキン、ベキン、ゴキン

 

「俺の指がァァ! なんで!? ゼロってぇ!!??」

 

「残す指の本数が0、ですよね?罪の意識がしっかりあるみたいで良かったです」

 

 刹那は無事な方の手を握ると握手をして指の骨をボロボロに粉砕する。

 

 ゴギベギボリュン

 

「あぁっ!俺のっ、俺の指がぁぁ!」

 

 ブランブラン

 

 男はボロボロ涙を流して自身の指を見つめる。

 

「このっ、クソ尼がぁ…!」

 

 折れかけていた精神を怒りで繋ぎ止め、刹那に向かって攻撃を加えようとすると、その首は即座に胴体から離れ、司令塔を失った体はフラフラ数歩歩くとその場にドサリと音を立てて倒れ伏す。

 

 刹那の瞳には他者の感情が映る、そしてその感覚を無意識に共有するため、呪力を僅かながら供給することができる。混沌と化した渋谷で呪力を温存する為に行った行為であるが…刹那は"壊れている"罪人に対しての罪の意識は無い。

 

「帳…さっきの声からして、恵君達がなんとかしてますかね」

 

 刹那は独り言を呟き、帳が上がるまでの間、付近の改造人間を斬り伏せて回り状況を整理する。

 

(もし五条先生の封印が本当ならパワーバランスが完璧に崩壊の一途を辿る…夏油先生を"無力化"と言うことは理由は不明だけど恐らく死んではいない)

 

 五条悟奪還を最優先、次点で夏油傑の救出、刹那の目標が決まるとバシュンと音を立てて帳が上がる。

 

「お、上がった。流石ですね」

 

 刹那は呪力の濃度が濃い場所へと走り出し、スクランブル交差点に到着するとその光景を目にする。

 

「先…輩…!」

 

 美々子と菜々子の凄惨な姿を目にして二人に近付くが美々子は頭を潰されてその内部を露わにしており、とても生きているとは言えなかった。

 

「美々子先輩!! 菜々子先輩!!」

 

「せ…つっな?」

 

「良かった! 今治しますからね」

 

 ポウッ

 

 反転術式を使い、高速で治療を終える。

 

「今医療テントに連れていきますからね」

 

 刹那が菜々子をおぶろうとすると菜々子はその手を払う。

 

「?…菜々子先輩?」

 

「夏油先生が…下に…美々子が…!」

 

 刹那の右目に映るドス黒い、けれど悲壮に満ちた蒼色が物語る、菜々子の黒幕への憎悪を。

 

「…いるんですね? この下に」

 

 菜々子は強くうなずく。

 

「分かりました、菜々子先輩は医療テントに向かってください。途中の改造人間はできる限り無視したほうが良いです、今の先輩では少ししんどい相手だと思うので」

 

 そこまでいうと菜々子の肩を掴んで刹那はさらに怒りを込めて言う。

 

「僕はクズ野郎をミンチにしてきます」

 

 ──

 

「やたらと粘るね、五条悟」

 

 阿弥部は処理落ちした獄門疆を見張っていた。

 

「夏油君も戦闘不能、刹那は空弥に策を任せているから来ることはない。宿儺の器や他の一級程度じゃ私は倒せないよ」

 

 阿弥部は獄門疆を見つめながらポツポツ独り言のように呟く。

 

「君の処理が終わったら第二段階だ、今から愉しみだね」

 

 あぐらをかいている阿弥部の目の前に突如刀が出現する。

 

 パシッ

 

「刀?投擲され…まずい!」

 

 阿弥部は刀の刀身を掴み止めるが、すぐにその判断が間違いだと気付く。その刀は攻撃の為に投げられたのではなく、囮だったのだ。柄に向かって術式を発動した刹那は瞬時に距離を詰めて柄を握る、そしてそのまま刀を引き、阿弥部の手の平を両断する。

 

 ザシュッ

 

「くっ!」

 

 反転術式で体を治癒しながら距離をとり、戦闘の体制に入る。

 

 ビュッパタッ

 

 刀を払い、刀身に貼り付いた血を拭いながら納刀して獄門疆に目を向ける。

 

「本当に封印されたんですか…五条先生」

 

 獄門疆を回収する為に手に持とうとするが、五条の情報を処理しきれていない為に持つことすらできずに地面にめり込んだまま動かない。

 

「無駄だよ、五条悟という情報を処理できていないんだ、あと数分は動かない」

 

「なるほど…つまり、今から行うのは獄門疆をかけた殺し合いですか」

 

 腰を低く、腰の一振りに手をかける。

 

「呪い合いだろう、呪術師」

 

 腕を呪霊のように変化させて阿弥部も構える。

 

「拡張術式、全自動迎撃(フルオートカウンター)

 

(術式開放、合迎(ごうげい)

 

 刹那は薄く黒い靄を体に纏って抜刀する。

 

 阿弥部は体の一部を呪霊に変化させ、刹那の刀を正面から受け止めようとする。

 

 ギュンッ

 

 シュパァン! 

 

 しかし正面からの居合いのスピードに間に合わず阿弥部の腕が飛ぶ。

 

「残念だったね」

 

 ギュルルルッ! 

 

 しかし飛んだ腕から呪力で形成された触手が飛び出し刹那を攻撃する。

 

 ギュインッ

 

 刹那の身体に触れたはずの触手はまるでダメージを与えることなく無惨に斬られる。

 

 ザジュッザシュッギュィンッ! 

 

 刹那は反転術式で回復する阿弥部の身体をどんどん刻んでいく。

 

「くッ!」

 

 ダッ! タンタンタンッ

 

 阿弥部は廊下を走り、階段を登って上から刹那を見下ろす。

 

「呪霊合術、極の──」

 

 ギュルルッ

 

 ブワァァァァ

 

 呪力が渦巻く瞬間、刹那は大量の靄を階段下から阿弥部にぶつける。

 

(ッ!視界がっ)

 

 身体を変形させて靄を薙ぎ払うが、眼前に刹那の姿はない。

 

「どこに…?」

 

 阿弥部は呪力を探ると、真横で刹那が居合の構えをしているのを見つける。

 

 ビュォッ!!! 

 

 ギィンッ! 

 

 阿弥部は身体を反らして間一髪で斬撃を躱し、再び距離を取るために元の場所へと走る。

 

「いつまでも逃げてばかり、口ばっかりですね」

 

(正面から戦って勝てるとは思ってなかったがこれ程とは…! 元々の戦闘技術に加えて強力な術式!油断することなく小細工も使用してくる、何より五条悟には持ち得ない、圧倒的な謙虚性!!)

 

「私を殺すまで止まる気はないのかい?」

 

 ザギュンッ! 

 

 下から縦に斬り上げ、阿弥部を蹴り飛ばして回答する。

 

 ドゴォッ! 

 

 ドザァァァァァ

 

「無いですね…お終いですか?」

 

 手首を捻り両手で刀の鋒を阿弥部に向けて牙突の構えを取る。本来なら到底無理な姿勢からの牙突、刹那の術式は物理法則をほぼ無視することができる。この世の理から外れた力が、変幻自在の二刀流とその戦法を可能にした。

 

 バゴッ

 

 刹那が一歩を踏むその時、地面が大きく隆起する。

 

「!!」

 

「流石としか言いようがないよ、阿頼耶識刹那。でも私がなんの策もなしに動き回るわけはないだろう」

 

 地面が割れ、その中からは触手が這い出る。阿弥部の身体から生えているそれは刹那に向かって行く。

 

「こんなものっ」

 

 刹那が刀を振るう瞬間、先程まで死角にいて見えなかったボロボロの夏油を発見し、思考が一瞬鈍る。

 

 片腕 負けた? 息はある 救助 

 

「っ、夏油先生!!」

 

 夏油を助けることを選び、無理矢理触手を払って夏油を引きずって離れる。同時に獄門彊の情報処理が終わり、阿弥部はそれを回収する。

 

「間に合ったか。さて、阿頼耶識刹那、名残惜しいがここで一旦お開きだ、君相手だからね、百で足りるかも怪しいよ」

 

 阿弥部はそういって腕を刹那に向けて高密度の呪力を幾つも練りだす。

 

「呪霊合術極の番、ジュカイ」

 

 槍や剣、盾や刀、様々な形に呪霊が形成され刹那に向かって襲いかかる。

 

 ギュイン! ガンガンガン! ドスススッ! 

 

「くっ!」

 

「足手まとい一人連れて頑張りな」

 

 阿弥部はスタスタと歩き、立ったまま気絶した非術師達の中に消えていった。

 

 


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